● ねっとりとした怖気が、少年の意識をぼんやりと呼び覚ました。 深夜―― 少年は一人、古めかしい板張り床の隅で、毛布にくるまっていた。 彼の生まれた村には、数えで十二歳になる男子が、端午の節句に神社で一夜を過ごす風習があった。 山村の粗末な社である。そこで、彼はうつらうつらと眠りに付いていたはずだった。 ぞろりと、再び少年の背筋を悪寒が這う。 臓腑を少しずつ少しずつ舐め取られるような、血肉がゆるゆると腐敗してゆくような不快感。 もし、老いが生命を蝕まんでゆく感覚を一夜に凝縮して味わうのなら、このように感じられるのかもしれない。 脂汗を浮かべる少年が、うっすらと目を開いた。 (鎧……武者……?) 曖昧なままの意識は、その現実をぼんやりとした夢のように受け止めたようだ。 身の丈は2mをゆうに超えるであろう巨大な鎧武者が、少年の身体に覆い被さっている。 腐葉土のような臭いが鼻に絡みつく。 拵えのほとんどは朽ち果て、墓穴から這い出てきたかのような異形の武者だ。 目を凝らせば、甲冑の隙間を百足が這い回っている。 がらんどうの面頬の内部に灯った燐光が、禍々しい邪眼のように少年の瞳を見下ろした。 「ひぃっ!」 短い悲鳴とともに、少年の意識は再び暗転した。 ● 「急ぎの仕事。説明を聞いたら、すぐに現地に飛んで欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前に切り出した。 ある山村の神社、そこにエリューションが現れるというのだ。 「鎧武者の死体が覚醒したEアンデッド。人間の生気を吸い取る能力がある。 元は、この地方一帯を治める領主だったけど、ずいぶん悪逆非道を働いたみたい。伝承では、最期は討伐されて、その神社の塚に埋められたことになってる」 「急ぎ……というのは?」 「間の悪いことに、その神社に一般人が居合わせてしまったの。 男の子が一人だけど、みんなが駆け付ける時には、既にエリューションに襲われている」 イヴの言葉に、リベリスタたちの表情がこわばった。 「だけどまだ、間に合うの。 生前からのサディストだったのか、久しぶりの獲物だからなのか、そいつは、ゆっくり味わうように男の子の生気を吸い取ってる。 だから、急いで駆け付ければ、その子を助けられる」 気の早いリベリスタの中には、既に立ち上がりかけていた者もいる。 「ごめん。急かしてしまったけど、落ち着いて、最後までちゃんと聞いて。 鎧武者は、2体のEフォースを配下に従えている。赤い炎と、青い炎の鬼火。 それぞれ、物理攻撃と神秘攻撃に耐性を持っていて、同じ加護を鎧武者にも与えているの」 「つまり、配下の2体がいる状態では、鎧武者には傷一つ付けられない、わけか」 厄介そうに眉をひそめるリベリスタの一人に、イヴは答える。 「そういうこと。大変だけど……、お願い。あの子を助けてあげて」 少年の安否を気遣う少女に、リベリスタたちは力強く頷き返した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:七草 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月04日(金)23:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鬱蒼と茂る木々に囲まれた、神社の境内である。 月明かりすら差し込まない真夜中。一寸先すら見通せない闇が辺りを包み隠していた。 その闇の中、か細い光が社に近づいてゆく。 ぼんやりとした灯りに映し出された姿は、一人の少女であった。 ミニスカートからすらりと伸びる素足の白さが闇に映える。 手にしたランプが、少女の歩調に合わせてゆらりゆらりと揺れ、周囲を朧に照らしていた。 少女の向かう社では、村の少年がひとり一夜を過ごしているはずだった。 ちょっとした悪戯、孤独に耐えているであろう少年を驚かす心算だったのだろうか。 少女は、こくりと何かに合図するように頷くと、勢いよく社の扉を開け放つ。 その瞬間、視界に入ってきた光景は悪夢そのものであった。 薄暗い社の中、禍々しい燐光に包まれたかのように浮かび上がるのは、異形の鎧武者。 ぴちゃり、ぴちゃり。おぞましい粘液質の音が、かすかに聞こえてくる。 床に這うような姿勢で入り口に背を向けていた鎧武者が、ゆっくりと振り返り、虚ろな双眸を少女に向け、立ち上がる。 唇も舌も既に腐り果てたか、漏らした声はただ、ふしゅるぅ、と空気が吐き出されるだけの音となった。 だが、その意味するものは、直接その場にいたものには明白であった。 歓喜。新たな獲物を見つけた獣が舌なめずりをするような欲望。 武者の面頬の奥は炯々と輝き、餌食を求め社の外へと歩を進める。 「く、くるな……、くるなぁ!」 足腰の力がまったく抜けたかのように、その場にへたり込んでしまった少女は、喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げる。 必死に逃げようと足掻くが、這いずるように社から離れていくのがせいぜいだ。 その間にも、社から境内に踏み出した武者は、一歩ずつ少女に近づいてゆく。少女の悲鳴を味わうがごとく、ゆっくりと。 ついに、鎧武者の巨体が少女の傍らに迫る。 少女の表情は、絶望と恐怖に歪み―― いや、少女と見紛った少年、雪白 桐(BNE000185)の薄い唇には、会心の笑みが浮かんでいた。 ● 「悪逆なる御領主殿……、今一度、御首貰い受ける……!」 鎧武者の背後の闇から、鋼の如き精悍な影が猛然と飛び出した。 社から武者が離れるこの機を、息を潜めて狙いすましていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)である。 渾身の力を込めた刃の一閃は、完全に武者の不意を突き、その巨躯を社の傍から弾き飛ばす。 一般人を装った囮で誘き寄せ、鎧武者を社の中――そこにいるはずの少年から遠ざけるという、リベリスタたちの作戦は完璧に功を奏したようだ。 この隙を逃すまいと、『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)が、茫洋とした雰囲気とは裏腹の俊敏さで社へと駆け込む。 彼の役目は、少年の無事を確保すること。それは、この場に集まったリベリスタたちほとんどの、そして弐升自身の切なる願いでもあった。 残るリベリスタたちは、それぞれの武器を構え鎧武者を取り囲む。 唐突に現れた闖入者への驚愕は一瞬のこと、数百年ぶりに味わっていた快楽の饗宴を邪魔された怒りが、武者の歪な魂を焦がす。 ごうっ! 声ならぬ雄叫びで中空に吼えると、武者の傍らにかしずくように、赤と青、二つの鬼火が燃え上がった。 その様は、さながら戦のかがり火。 境内の空気が、完全に戦場のそれへと変わったことを、リベリスタたちは肌で感じていた。 幾度となく死線を越えてきたからこそ、本能がそう告げているのだ。 ひりつくような一瞬の静寂の中、口火を切ったのは『√3』一条・玄弥(BNE003422)だった。 闇よりもなお黒い漆黒を纏う男が放つ、光を切り裂く暗黒の閃光。青い鬼火――禍魂の炎を抉るように貫く。 「なんぞ巻き込まれてるパンピーがいるようやけど、あっしには何ぞ関係ありやせん」 いつも通り仕事させてもらいやす、と飄々とした態度のまま嘯くが、今この場で意見をする余裕のある者など居りはしない。 「あれま、ツレないこってやすな」 くけけっ、と独特の奇っ怪な含み笑いを漏らし、着流しの男は底意地の悪そうな三白眼を禍魂に向ける。 一方の赤い鬼火――荒魂に全力で立ち向かったのは、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)だ。 神社……。今はもう懐かしい光景が、ななせの脳裏に浮かぶが、一瞬でそれを振り払う。 今は思い出に捕らわれるときでは無い。触覚のようにぴょこんと伸びる二本の髪を揺らしながら、少女は戦場を駆ける。 全力全開。荒魂に振り下ろすは、「鋼の軍曹」と名付けられた巨大な鉄槌。 如月 凛音(BNE003722)もまた、長い黒髪をなびかせながら荒魂に向かう。 幼少より慣れ親しんだ得物である薙刀を握りしめ、身の毛もよだつおぞましい敵への恐怖心を押さえ込む。 (伝承では、悪逆非道を働いた領主さんで、最後は討伐された、という事ですが。 伝承というものは、書く人によって大きく印象が変わってくるもの、です……) 真実はどうなのか、その問いに答えられる者は、もはや存在しないだろう。 だが、確かな事実が一つ。 眼前に立つ鎧武者が、生きとし生ける者全ての敵であるということ。 そして、この悪鬼を滅することが出来るのは、凛音たちだけなのだ。 囮を務めていた桐も、アクセスファンタズムから装備をダウンロードし、荒魂に向け重火器を構えた。 その名の通り、荒ぶる怨霊たる荒魂は、憤怒を顕わに魔炎を燃やし、リベリスタたちに真っ向から襲いかかる。 荒魂の炎が一段と赫く燃え上がった刹那、鬼火は渦巻くように膨れあがり、そして爆ぜた。 爆裂の衝撃に激しく打ち据えられた桐とななせ、凛音の身体が、呪いの業火に包まれる。 地面に倒れ込んで転がるも、一向に勢いを落とすことの無い炎は、まさに荒魂の果てなき怒りの体現であった。 苦悶とともに吸い込んだ焦熱の空気が肺を焼き、さらなる苦痛を生む。 仲間の窮地に、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は、即座に聖なる詠唱を開始した。 「すぐに治すから……。頑張りましょう……!」 願いを込めた少女の祈りは、高位次元の力を癒やしの息吹として具現化させる。 清らかな風が優しくリベリスタたちを包み込む。 憤怒をなだめるかのように炎はおさまり、火傷で焼けただれた肌にも新たな皮膚が再生される。 立ち上がったリベリスタたちは、再び荒魂に立ち向かう。 「待っててね……、すぐに終わらせるから」 荒れ狂う戦線を必死で支えながら、あひるはまだ見ぬ少年の無事を祈り呟く。 (少年の健やかな成長を願う儀式なのに、一人で頑張ってるのに) 理不尽な運命に翻弄される少年を思い、手に持つグリモアールにぎゅっと力を込める。 一方、社に向かった弐升は、奥の床に倒れていた少年を抱き起こしていた。 そっと生身の左手で触れてみるが、命に別状は無さそうだ。まだ意識は無いが、呼吸も安定している。 命を啜られる苦痛から解放されたからか、表情もどこか穏やかだ。 無理に目覚めさせるより、このまま眠っていてもらう方が、少年にとっても良いだろう。 ひとまずは少年の無事に安堵するも、弐升は即座に、開け放たれたままの扉から外の戦況を分析する。 幸いにして、鎧武者たちの戦意は完全にリベリスタたちへと向けられている。 今や、炎と刃が荒れ狂い、異能の力を持つものたちの戦場と化した境内に少年を連れ出すより、社の中に匿う方が安全であろう。 瞬時に判断した弐升は、少年を優しく床に横たえて立ち上がる。 「少年、キッチリ守りますので動かないように。……ま、正義の味方にお任せあれって事で」 そう少年の寝顔に告げ、弐升は社の入り口に立ち塞がる。 (しかし、正義の味方っぽいことをやるとはね。柄じゃないんですが) 苦笑しつつ振りかぶったチェーンソーから、真空の刃を荒魂に撃ち放つ。 ● 鎧武者を抑え続ける零二は苦戦を強いられていた。 防戦に徹し、直撃を紙一重で避けてきたものの、徐々に体力は削られていく。 あひると共に戦線を支え続ける、来栖 奏音(BNE002598)の回復支援が無ければ、既に膝を屈していたかもしれない。 だが、零二は立ち続けている。 それは、決して偶然では無いし、仲間の助けが潤沢だったというだけではない。 彼の強固なる意志のなせる業だ。 若かりし日、戦争に踏み荒らされる弱者の命を救ってみせると大望を掲げ、紛争地帯に身を投じた。 その夢は破れた。しかし、志は何一つ変わってはいない。 いま、少年の命を救えるのは、零二たちだけなのだ。 「業が、深い……な」 唇の端に浮かべたシニカルな笑いは、誰に向けたものであろうか。 鎧武者の振るう大太刀の一撃を、零二は盾で受け流す。 幸い、と言っていいだろうか。無防備な横面を殴りつけられた恨みからか、武者の攻撃は零二に集中している。 大人の身の丈ほどもあろうかという巨大な太刀を、武者は木切れのように易々と振り回していた。 鉄塊の如き刃の吹き荒れる嵐の最中にいるようなものだ。 逆袈裟に切り上げられた太刀の切っ先を、間一髪上体を反らして避ける。 だが、次の瞬間に二度目の剣戟が来ることまでは、予想外だった。 鎧武者の神速の踏み込み。そして、切り上げられた刃が、するりと反転し、零二の頸をめがけて撃ち下ろされる。 ぞくりと総毛立つような感触。生死を分かつ刹那。 颶風の如き一撃に、零二は咄嗟に身をひねって急所を庇った。 ぐしゃりと、肉と骨が潰れる音が、戦場に響き渡る。 肩口から胸の半ばまでを抉られ、打ち捨てるように無造作に振るわれた太刀から零二の身体が放り出される。 ほぼ両断されかけた肺からこみ上げる鮮血が、零二の口からぶちまけられた。 生命すら危ぶまれる状態の彼を、なお立ち上がらせたのは、己が運命を灼き尽くす覚悟。 「業が、深いのさ」 吹き飛ばされた零二に代わり、危機を察した弐升が鎧武者の前に立ちはだかる。 「ちょっとピンチのようなので交代します。アレは俺に任せて、少年の護衛を」 「頼む」 短く応え、社の入り口に向かう零二。 (結局、俺は前に出て殴り倒すのが一番性に合ってます故) 弐升の口元に、にぃと凶暴な笑みがかすかに浮かぶ。 荒魂の周囲では、焦熱地獄のごとく炎が荒れ狂っていた。 その最中に凛音たちは、必死に切り込んでゆく。 全身に闘気をみなぎらせた凛音は、その破壊的なエネルギーをインパクトの瞬間、その一点に集中。 薙刀の長さを強みに、遠心力で荒魂の巻き起こす炎をなぎ払う。 今はまだ経験に劣る彼女だが、豪放ともいえる技の流れからは、将来の力の片鱗がうかがい知れよう。 だが、凛音の闘気すら、荒魂の魔炎は焼き尽くさん勢いだ。 襲い来る炎に、凛音はついに膝をつく。だが、彼女は運命を糧に立ち上がる。 その様は、さながら炎よりよみがえる不死鳥の如く。 「負けません……。怖いけど……っ!」 再び凛音が炎をなぎ払った瞬間に、巨大な鉄槌が撃ち下ろされる。 ななせの持つ、「鋼の軍曹」だ。 彼女自身の身の丈すら超えようかという長大な得物を手に、ななせは荒魂に立ち向かう。 目の前の敵は確かに強敵である。 だが、彼女もまた少年の無事を願ってやまない一人だ。 ここを一歩も引くわけにはいかない。 全力を尽くしたならば、己の持つ可能性に賭けるだけ。 いつだって、彼女はそうしてきたのだ。 「少年がおいしい柏餅を食べられるように、倒させていただきます」 鉄槌のフルスイング。勢いのついた鉄塊が、荒魂を地面に叩き付ける。 かすかな熾火のような残滓を残し、荒魂は消滅した。 玄弥は、禍魂を相手に猛攻を続けていた。 「あたりやせんぜぇ、手抜きでっかぁ?」 小馬鹿にするような態度で攻撃を引きつけているが、とどめを刺しきれないことに軽い苛立ちも覚える。 荒魂が怒りの炎ならば、禍魂は暗く燃える恨みの火であった。 ただひたすらに猛威を振るうだけの荒魂とは違う。己が敵を如何に苦しめるかを考える邪な知性があったのだ。 禍魂が、何かの合図のように、ゆらりと蒼炎を揺らすと、それを目にした鎧武者は鷹揚に首肯する。 武者が両手を天にかざすと、周囲の闇が凝縮されるが如く無数の槍の形を象ってゆく。 そして、禍魂からは幾万の亡者がささやき続けるような呪が響く。 拙い――。玄弥が直感するのと、それは同時であった。 天から降り注ぐ槍と、おぞましき祟りの影は、同時にあひると奏音、二人の回復手を襲ったのだ。 戦線を支える二人が無防備すぎたことと、範囲攻撃への備えを怠ったことに、玄弥は舌打ちする。 いま、二人を失うことは、すなわち全滅すら意味しかねないからだ。 薄ら寒い思いで玄弥が振り返ると、あひると奏音は運命を削り立ち上がっていた。 最悪の事態は免れた。だが、もう後はない。 「お待たせしました」 そこに、荒魂を倒した桐たちが加勢にやってくる。 運命の天秤は、かろうじてリベリスタの側に傾いたのだ。少なくとも、今この瞬間は。 「やれやれ、これも仕事でさぁな」 玄弥は皮肉げに笑うと、ありったけの暗黒の衝動を禍魂に叩き込む。 「どっちがより黒いか勝負でさなぁ」 祟りの化身たる禍魂ですら、この男には勝負事の相手に過ぎないのか。 泥仕合の軍配は、玄弥にあがった。禍魂は最後に恨み言を呟いたが、それを聞き取れたのは玄弥だけだ。 玄弥はただ、くけけっと笑うのみだ。 ● 憤怒と祟り、二つの加護を失った鎧武者は、もはや手の届かぬ敵では無くなった。 リベリスタたちの反攻がここから開始されたのだ。 桐、零二、ななせ、そして凛音。四人のデュランダルが繰り広げる破壊の渦が、武者を飲み込んでゆく。 玄弥は告死の呪いを込めた爪で、武者を引き裂いた。 嵐の如き猛攻にたたらを踏む武者の動きを、独自の決闘論理で完璧に予測した弐升が、わずかな鎧の隙間をチェーンソーで抉りとる。 だが、この期に及んでも、鎧武者の狂気は健在であった。 群がるリベリスタたちを、己が獲物と認識する浅ましき貪欲。 社で少年が体験した怖気など比にはならない。命の源に直接牙が食い込み、囓り喰われるような苦痛。 くしゅるふるぅ。 鎧武者は愉悦の声を漏らす。人の命を喰らうことに勝る快楽があろうか、と。 ななせと凛音はついに倒れ、耐え抜いた者も、あまりの苦悶に指を動かすことすら出来ない。 「悪いことばっかりして、困らせて……、今度は子供にもヒドイことする……! もう二度と悪さできないように、懲らしめてあげるんだから!」 気合いを込めて、あひるの放った聖なる息吹と、奏音の邪気払いが、仲間を忌まわしき呪縛から解き放つ。 意趣返しとばかりに放たれた槍に、奏音が膝をつくも、鎧武者の反撃はそこまでだった。 「……怨念の螺旋、ここで断ち切る。成仏し、輪廻に戻れ……!」 極限まで練り上げられた気合を込め、零二の刃が鎧武者に叩き込まれる。 爆裂する闘気は武者の全身を破壊的に駆け巡り、邪悪な魂と共に鎧を砕き飛ばした。 ● 「ガキには興味はありやせん。あっしにとっては銭が全てでさなぁ」 つい先ほど死闘を終えたとも思えぬ態度で、早速鎧の残骸を漁り始める玄弥。 だが、もともとが名も無い田舎領主の甲冑である。民俗学的な資料価値ならともかく、金銭的価値はさほど無かろう。 最も、こうまで木っ端微塵に叩き壊されていては、資料的価値すら怪しいものだ。 あひるは、少年の怪我を心配していたが、外傷は見当たらない。 リベリスタたちの対応が迅速であったため、数日は体調を崩すかもしれないが、すぐに回復するだろう。 零二は穏やかな表情で、少年の頭をなでる。 「……大きくなれよ、少年」 怖い思いをした分、一層強く健やかに成長して欲しい。零二はそう願ってやまない。 「この夢から覚めたら、きっと大きな病気もなく、健康に過ごせるわ。きっとそう……!」 そんな零二の気持ちを見透かしたかのように、あひるは微笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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