下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






鬼、再び相対す

●再会
 何でもない日常に、ある日突然『非日常』が訪れた。
 それは自分が大好きな物語に似ていた。
 鬼と言う悪者が居て、正義の味方が現れる。護るべき者が護られて、平和になって、めでたし、めでたし。
 ―――そのはずだった。
 けれど現実はそうはならなかった。
 自分は物語の一端も齧れず、気が付けば物語は結末がひっくり返っていた。
 鬼が勝って、護るべき者は失われてしまった。
「………」
 如何したら良いか解らなかった。
 あの時、如何したら良かったのかも、答えが出ない。
 竹刀を手にした青年は、明暗する街灯が照らす公園の中で悩み続けていた。

 しかしさても運命は悪戯なもので、その青年は再び『鬼』に出会ってしまう。
 顔を上げれば憎く、憎くてたまらない、鬼の集団が走っていた。それらは明らかに何かから逃げていたがしかし、それを黙って見送れる程、青年は心中穏やかにはなれなかった。
 憎々しげに叫べば鬼が気付く。鬼が嗤う。
 ―――今度こそ逃がすものかと、人が言う。
 ―――その怒気を叩き潰したくて、鬼が足を止めた。

●始動
「鬼道との決戦、お疲れ様」
 集まったリベリスタ達に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げたのは、まずその一言だった。変わらない表情ながら曖昧な沈黙を持つイヴを前に、リベリスタ達は次の言葉を待つ。
「お陰で鬼ノ城は崩壊した。けど、一部生き残りが城から逃走してる。それを討って欲しい。今回の追撃してもらう鬼は二種類居て、少し大きい一本角の鬼と、それに率いられている小鬼が五体。数は居るけど、小さいのは大した事ないわ。ただ、逃げやすいから注意して」
 と、言うと? と続きを促すと、イヴは呆れたように肩を竦めた。
 なんでも一本角は逃走を図りながら尚、小鬼へと威張り散らしているらしい。鬼は鬼らしく残虐で、人を見つけては腹いせに襲い掛かりもする。それを小鬼にも強要する。けれど、小鬼はと言えば我が身可愛さが勝っている為、隙があれば一本角からも逃げようとするだろうとの事。
 ―――何とも統率の取れていない。いや、だからこそ敗残兵なのか。リベリスタ達もつられて肩を竦める。
 ただ、と、不意にイヴが声をかけた。その声は少し暗く淀んでいる。
「その場にリベリスタ……いいえ、フィクサードが一人居る。今回、彼をどうこうする必要ないけど、この場に居る限り味方にもなるし、弊害にもなる。心に留めておいて。彼は――決して鬼の前から引かないから」
 イヴはそこまで言うと息を吐いた。配られた資料を見れば、リベリスタ達はその意味を理解する。
 そのフィクサードは以前、鬼達が温羅を復活させようとして陽動をし、街を襲っていた時の被害者。その生き残りであった。
 だから鬼が憎い。そして大切な者を奪われ、自分一人生き残っている意味を見失っている。だから引かない。決して引かない。せめてもの意地に似て。
 アークのリベリスタ達が来る事を予感していても、気持ちの整理のついていないままの彼の事だ。邪魔するなら刃すら向けてくるかもしれないだろうと想像がつく。
「元々はリベリスタの資質があったけど……フィクサードに転向してしまっている。今の彼はもう、純粋に、人を護ろうと思っていないから。――ただ彼の処遇は今、必要ない。優先するのは鬼の殲滅。それを忘れないで」
 鬼さえ殲滅すれば、彼もそれ以上はその力を振るい人を、アークのリベリスタ達を襲ったりはしないだろう。あくまで今は、――かもしれないが。イヴは瞳を伏せた。
 その青年。
 正確に言えば、彼の祖父や飼い犬達が力及ばず鬼の手に掛かってしまった。
 その祖父と、祖父からもらった名前と、祖父から語り聞いた物語をとても好いていた彼。
 物語とは、それは今回の事件に似た鬼退治のお伽噺――『桃太郎』。
 しかし現実は力及ばず物語の結末は真反対になってしまい、鬼が勝ち、大切な者は死んでしまった。
 だから道に迷ってしまった。何をすれば良かったのか。如何すれば良かったのか。何が正しいのか、何をもって生きていけば良いのかすら。

 生き残りとなり鬼を憎む青年が居合わせるこの戦い。
 その物語をどう紡ぐかは、リベリスタ達に委ねられた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:琉木  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月05日(土)22:33
●成功条件
 逃走を図る鬼の撃破。フィクサードの逃亡・生存等は成功・失敗に一切関与しません。

●『鬼』と『フィクサード』
・一本角の鬼
爪を叩き付ける…物近単・威力高め・出血
地を踏み鳴らす…物近範・隙
風を起こす…神遠貫・ノックB

・配下の小鬼×五体(体力、耐久力共に低いです。ただし、一本角が倒れる、もしくは小鬼の数が二体以下になると逃走を図ろうとし始めます)
弓を射る…物遠単
ゲタゲタ嗤う…神遠単・ダメージ0・混乱
手を叩く…神遠単・味方回復・BS回復20

 一本角と、左右に小鬼を一体ずつ前衛に、中列を開ける形でスペースを開け、その後ろに残りの三体が横一列後衛に位置しています。

・フィクサード『吉備・桃田』
ジーニアスのデュランダル、初級スキルを持ちます。趣味の剣道は二段、竹刀を持ちます。
一本角の正面に立ち、決して下がろうとしません。鬼への行く手を塞がれるとリベリスタ達に攻撃を加える可能性は高いです。
戦いが終わり、生存していれば去ろうとするでしょう。長居はしません。

●場所&時間
 岡山県、先の鬼の戦いの被害が無い穏やかな街の公園内。
 それなりの広さがあり戦いには支障は出ません。ただし、一本角ら前衛が立つ位置の左右に遊具があり、後列へ回ろうとするならば、通り抜けは左右一人ずつのスペースしかありません。抜けてしまえばスペースの問題はありません。また、左右の小鬼を倒せば、その分の幅は確保できます。
 時間帯は夜。街灯が照っているので、視界に困る事は無いでしょう。

●補足
 フィクサードはシナリオ『<鬼道驀進>桃太郎爺さんのきび団子』に登場した生き残りです。
 アークの報告書に残っているので、経歴を詳しく知っていても構いません。
 特にシナリオを読まなくても問題ありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
ソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
デュランダル
日月・蒼龍(BNE003339)
ダークナイト
蓬莱 惟(BNE003468)
ダークナイト
アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)
マグメイガス
リリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(BNE003631)

●再闘
 誰が悪かった訳ではない。解っている。
 自らの力が足りなかったと自惚れるのも、誰かの力が足りなかったと責めるのも筋違いだと、自分で解っていた。
 しかし誰に問えるでもなく彷徨い込んだ青年は、その迷宮の中で延々と自問自答を続けるばかり。
 それでも、鬼は。
 目の前に居る『鬼』だけは、青年にとって、許されざる『悪』に違いなかった。

 桃田は一人、その許さざる鬼に竹刀を叩き付ける。しかし一本角の大鬼は怯まない。そればかりかその足掻く様を嘲笑い、囃し立てる小鬼が耳障りに喧しい。
 鬼が再び腕を振り上げた、その時――
「桃田ァ!!」
「!?」
 意味を忘れた名前を呼ばれた。それは確か、薄らと記憶にある声だったと振り返ろうとしたその刹那、視界を過ぎったのはカウボーイハットと、それを被った男、『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(ID:BNE003319)。
 そのまま桃田の隣で足を止め、構えるナイフが参戦の意図を示した。
「…………」
「私たちはアークのリベリスタ。吉備さん、何故私たちが現れて、鬼退治に協力するか、理解してくれるでしょう?」
 黙ったままの桃田に『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(ID:BNE002654)の声が掛かる。僅かに瞳を伏せた仕草で、リベリスタ達は桃田が理解したと知る。
「桃田……ごめん」
 その背にかかるのは幼い少女の声。
「どんな事を言っても、どんな行動をしてももう手遅れだって分かってる。だから俺は謝ることしかできない」
 けど、と、声の主『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(ID:BNE002787)はただ暗く心を沈ませない。以前守れなかった桃田の事を知るからこそ、マジックガントレットを強く握りしめて決意を固める。
 ラヴィアンが憧れたのは、必ず悪に勝利する正義のリベリスタ。だからこそ、今度こそ、絶対に負けられなかった。桃田以上に、きっと鬼達を見据えて、睨む。
「覚悟を持って戦っているのならば、止めはしない」
 ふわと夜風と共に隣に並んだのは中華服に身を包んだ青の青年、『狭き世界の龍』日月・蒼龍(ID:BNE003339)。ゆるりと構えながら、静かに告げる。
「生きようとする意思が生を拾い志を育てる。そして志なき刃は何も斬れないのだ」
 一本角の鬼は首を傾げる。
 わらわらと小煩く現れたのはその4人に留まらず、8人のリベリスタ達。小鬼がその数を見て、我が身可愛さに逃げ出そうとするが、一本角が大きく吼えてそれを許さない。小鬼達はしぶしぶ再び戦いの構えへ戻っていく。
 それを見た『九番目は風の客人』クルト・ノイン(ID:BNE003299)と『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(ID:BNE003468)は互いに顔を見合わせ頷き、それを合図として駆けた。狙うは後列、三体の小鬼の挟み撃ち。
 常に逃走を図ろうとする小鬼達を逃さない、後方の担い手。
 対する、桃田側の後ろを担うのは、ラヴィアンに並んだリリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(ID:BNE003631)と『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(ID: BNE003569)。
「鬼の生き残りとはね。一匹残らずしとめて見せるわ」
 リリィが言う。
 夜更けの騒ぎの万が一に備え、結界を展開したアルトゥルは祈るような手を解いた。
「物語の終わりがすべて、ハッピーエンドだなんて限らない。けど、すこしでもすこしでも、ハッピーエンドにするのが、アルたちです」
 ぴくりと桃田の手が止まる。アルトゥルは意思を込めて宣言した。
「だから、アルは、アルトゥルは。ハッピーエンドにかえますかえてみせます。ぜったい!」

●鬼が嗤う
「ゲギャギャ!」
 前衛に立つ二体の小鬼が揃ってけたたましく笑いたてた。耳朶を打たれたのは、それらを抑える吹雪、蒼龍。
 苦痛は無いものの思考が乱される。癒し手が真琴しか居ない面々に一瞬緊張が走るも、そう上手くは鬼の思う通りになりはしない。
 反撃のように双方、攻撃を繰り出すも、その威力はやや弱められていた。それは作戦。
 逃げ出しかねない小鬼を牽制する小技でもって抑え付け留めておく。本命は、その後ろ――じわじわとラヴィアンの手の中に血の鎖が滲み生まれていた。
「以前の俺と同じだと思うなよ」
 にんまりと不敵な笑みを浮かべれば、高速に編み上げた術が一息で完成する。
「喰らえ! 俺の必殺、葬操曲!」
 濁流のように渦を巻き、右から左から多くの鬼を巻き込んでは襲い掛かる。小鬼の二匹三匹がその鎖に絡み取られたのを見て、ラヴィアンは手応えに指を鳴らした。
 まだ自由の効く後衛の小鬼の一体が反撃と弓を引き絞る。タタンと降りしきる矢をその腕に受けながら、クルトは緩く苦笑した。
 視界の端、一本角の鬼に隠れている桃田の表情は見えないけれど。
 ―――起きてしまった過去は変えられない。割り切れる人ばかりじゃない。
「1人で悩んだ挙句にフィクサードか。ままならないものだね――壱式迅雷!」
「ゲ――!」
 駆け抜ける雷に貫かれ、憎々しげに唸る小鬼。その不甲斐なさをに苛立つように一本角が身動ぎした。
 瞬間、響く地響き。
 地を踏み鳴らした一撃は蒼龍を掠め、桃田と吹雪に襲い掛かった。吹雪も同じく一本角から離れる意思はあったが、小鬼から桃田を庇う様動くならば自然地響きの範囲に入ってしまう。
「ぐっ……へ、平気か、桃田!」
 ぐらつく足を踏ん張って声をかける。桃田は――ちらりと吹雪を、蒼龍を見た。今は、それだけ。
「―――!」
 掛け声も無く一本角にひた殴りかかる。憎い。憎い。憎いとまるでいう様なその一撃は、身を削る重さを持っていた。
「来たれ、大気に満ちるマナよ。――」
 リリィがマナを練りながら、その自らを省みない一撃に眉を寄せる。
「下がれとは言わないけれど、少しは自分の身も案じなさい」
 ここにも、貴方を気にかけている人が居るのだから、と、その言葉は語る。
「…………わかって、る」
 桃田の小さな呟きは果たして誰かに届いたのか、如何か。しかし葛藤する桃田ごとを包み込むのは真琴の加護。戦いへの意志を高めるその光に、桃田は再び前を向く。
 その葛藤は、紛れも無く人間らしいもの。
 雷で焼かれた小鬼を更に瘴気で包み込みながら、惟は考える。
 騎士の務めを果たせなかった汚名を雪ぐにもすべき事――しかし、心の痛みを如何すべきかは、惟には解らなかった。だから、声がかけられない。難しい。
 だからこそせめて、死と再生を祈る片手剣の切っ先は、迷わない。
 その意思を同じくするように放たれたアルトゥルの魔弾は小鬼の一体を的確に打ち貫き、致命傷に至らせた。
「わかってる。……貴方達が、そういう人たちだって事くらい……」
 桃田の迷いは、強い。

●道行
「おらおら、俺のターンはまだまだ続いてるぜぇ!」
 調子づいたラヴィアンの鎖は止まらない。時に一本角の鬼までも封じるその代償は、自らの身。
 しかし一本角の攻撃はラヴィアンまで届かず、統率の取れない小鬼の弓も未だ来ない。好機だった。
 だがしかし、自ら一本角の前に立ち続けていた桃田はそうもいかない。
「……!」
「危な……ぐあ!」
「蒼龍! 桃田!」
 鬼が巻き起こした暴風が見えた瞬間、蒼龍はその身を呈して桃田を庇いに出た。風に飛ばされて桃田に叩き付けられ、二人ごと地を転がる。
「! ど、どけ! どいてくれ、鬼が――あいつを、倒す、倒さないと……!」
 妄執のように続ける桃田は、庇って傷を負った蒼龍すら突き飛ばしかねない勢いを見せる。責任の一端を感じ、視線を逸らしかけてしまう惟は、それでも見る。見続ける。
「桃田殿、……これは一時退避を進言したい」
 アルトゥルの魔弾が功を成し、減った小鬼ごと前衛の一本角にまで暗黒の瘴気を発しながら、惟は言う。
「余計な世話かもしれないが、未だに桃田殿も騎士が守るべき人の中に入っているのだ」
 桃田は首を振る。
「でも、――僕だって護りたかった。無力だって、知っていても」
 惟と小鬼を挟み込んでいたクルトが後ろに残った一匹に凍てついた拳を殴りつけ、その言葉を聞く。
「――あの時、君が護れた人もいたはずだよ」
「そうだ、桃田は生き残っててくれたんだろう。他には――」
 吹雪は言いかけて、口を閉ざす。生き残っていてくれた、だからこそ駆けつけたリベリスタも居る。だからこそつい口をついて出た言葉が、桃田を更に傷付けやしないかと苦く噛み締めた、その時。
「……民家の、あの親子は、……無事です。鬼の手には掛かっていません……」
 桃田が小さく口にした。救いが無かっただけでは無い、リベリスタの功績を。
 直後、轟音。
 リリィが召還した魔の炎が一本角もろとも小鬼を焼いていく。小鬼の残りは、二体。蒼龍によって傷付けられていた小鬼が適わぬと見て背を向ける。
 その背に撃たれるのは真琴の十字の光。――殺す力があれば確実に屠っていただろう威力を持ちながらしかし、逃がさない事へは成功する。小鬼がギィと怒りに振り向いた。
「皆さん、遺恨もあるでしょう。遺憾もあったでしょう。でも、今は――鬼を撃つべき時です。小鬼の数が少ない、一気に行きますよ!」
「うん、飲み込め、暗黒――!」
 アルトゥルの巻き起こした暗黒がかろうじて振り向いた小鬼を飲み込み、その命を消していく。
「……あの時みたいな思いはもうしたくねぇから、な!」
 残った小鬼は吹雪の前。今までの制御した攻撃では無い、連続した斬撃が均等に傷を負わされた最後の小鬼をも打ち倒す。残りは、一本角。
 立ち塞がる鬼に対し、抑えに回っていた吹雪も、桃田と蒼龍も満身創痍を晒していた。それでも、蒼龍も引かない。迷う桃田を前に立ち上がり、肉体の制御を外す蒼龍に桃田は「何故」と声をかける。
「庇った事か? 敵を同じくするなら、罪では無かろう」
「そうじゃなくて! 何で、貴方達までそんな――」
 恨みばかりでは無く敵を穿つ。いっそ我が身すら顧みず、立ち向かう。無謀な己すら庇ってと桃田は問う。
 蒼龍は不敵に言い放つ。
「俺が倒れても仲間が居る、それは無駄にはならない。――人は、無力ではない!」
「そうだぜ! 今度こそ! 今度こそ俺達は勝ァつ!」
 ラヴィアンの鎖の軌道は変化する。鬼が慣れて避ける事も出来ず、幾度ともなく絡んでは弾かれ、弾かれては絡みつく。
 その隙にクルトは一本角の傍に走り寄った。一本角の、というよりは、桃田へ、前衛の二人の近くへ。
 彼らはもう一撃でも受ければ倒れよう――ならば、まだ余力のある自分が庇い、最後まで速攻を掛けようと。
 ―――鬼が吼える。
 手下の小鬼も無く、暴虐も行えぬ苛立ちのまま、愚かしく――浅ましく、醜悪に。
 ラヴィアンの呪いに絡め取られた鬼へ更に叩き付けられたのは最後の一撃、惟の告死の剣。
「蓬莱、やっちまえぇ!」
「騎士の務め、――今こそ果たさせてもらう!」
 どうっと斃れる鬼は二度と動かない。
 大切な者達の仇と憎んでいた鬼の前、立ち上がる事も最早できなかった桃田の前で、鬼の残党狩りが終わりを告げた。

●歩む道、足先は
 傷の深い者も多かった。ぜえぜえと息を整える事、暫く。
 それでも、誰一人欠ける事無く、リベリスタ達は鬼を屠った。
「…………」
「あ、ねえ、ね! 桃田さん、まってまって!」
 ふいっと言葉を紡げず背を向けようとした桃田に、アルトゥルが誰より先に駆け寄った。
「……僕は、」
 戸惑い、目線すら合わせない桃田の傷だらけの手の中に添えられたのは、絆創膏と可愛らしい飴玉。
「過ぎたことは変わらない。でもこれからのことは違う、そうでしょう?」
 アルトゥルは引き留めなかった。大切な人を失った気持ちを知らないから、その術が無いように思えて、だから。
「って、ちょっと待ってよ。もう少し休んでいかないかい?」
「そうだ。これからどうするつもりなのか……聞いてもいいか?」
 飴玉を握って、離して、握る桃田を見てクルトが、吹雪が声をかける。鬼に激高した姿は何処にもなく、ただまだ当ての無い空虚さを持っていたが、ただ――わからない、と言う。
「怒りに任せるだけか」と惟も問うた。桃田は――それは多分、ない、と言う。
 ただ目の前に鬼が居たから、怒りに駆られただけ。ただ虚しくあったようだと惟へ答える桃田もまた、考えあぐねているよう。
 その様子を視界に収めながら、吹雪は動く。心の内にある燻り、桃田の祖父と話をした、吹雪だからこそ。
「なぁ、桃田。ほんの少ししか話せなかったけど、あの爺さんが孫がフィクサードになることを喜ぶなんて思えねぇんだよ、俺は」
 かの老人が付けた名前も、意味も見失っている桃田へ、クルトも告げる。
「自分の名前を、忘れたわけではないだろう?」
 そして、問うた。君の名は? と。―――桃田は答えない。まだ、答えられなくて、リリィがすっと歩み出た。
「なんだったらアークに来ない? 私が推薦するわよ」
「そうだぜ。なあ、……一緒に来ないか?」
 続いてラヴィアンも少し控えめに勧誘の言葉を告げる。一人では勝てない、一人で迷宮に迷い込むよりも仲間が居る、この輪に入らないかと言う。迷う瞳が蒼龍を見れば、強すぎる瞳はその迷いを跳ね返す。
「進む道を問うのか? その瞳は。――俺が知るか、自分で探せ。それがしていくのが人だ」
 突き放すような言葉に見えるそれは、道筋を己自身で決めろと言う強き言葉。
 そうですね、と、頷くような声で真琴も添える。何故アークに属するか、その確固たる理由を持つのは真琴も同じ。
「アークのリベリスタは、――私は、守るべきもののために戦っています。皆、それぞれの理由のために」
 桃田さん、と、アルトゥルは見る。
 桃田は―――少し、ほんの少しだけ、笑って見せた気がした。苦笑に似た、不完全なものだったけれど。
「アークの皆さん……ごめんなさい。僕は、まだ行けない」
 桃田は竹刀を握ったまま一歩下がり、頭を下げた。
 吹雪、ラヴィアン、惟には改めて。真琴、クルト、蒼龍、アルトゥル、リリィには新たな感謝の意をもって。
「一人で見つけられる、なんて、自惚れだとは思うけど――僕はもう少し向き合ってみます。この岡山で、この地で――祖父が、爺さんが愛したこの海の街で」
 そっか、と、ラヴィアンとクルトは行く道を引き留めず、空け放った。
「疲れるまで叫んで怒って泣いたなら、きっときっと笑えるよ。だからだから、またね。また会おうね!」
 手を振るアルトゥルの隣で、吹雪は思い出したように声を張り上げた。
「なあ、爺さんが願いを込めてつけたお前の名前――」
 言われれば、桃田は振り返った。そして、言った。
「桃田です。僕の名前は――桃田です」
 少し照れくさそうに告げたその言葉に、リベリスタ達はその背を見送った。
 かける言葉は確かな雫となって人の中に落ちていくもの。
 いつか、いつかまた交わる事があるのなら、この日の事も重ねて人は歩む。
 背を向けて歩き出したリベリスタ達の足は重くない。迷いなく進んでいくものだった――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ご参加有難う御座いました。
 今回は鬼の残党狩りにリベンジを兼ねつつ、あれやこれやにならないようと鬼退治をメインに押したつもりでした。
 が、皆様の気遣が優しく、厳しく、桃田の中に思った以上に響いていきました。
 アークへ赴く決断には至れませんでしたが、またのご縁がありましたら、お会いできます事を。
 皆さまの心に救いを残して行けますように。
 お疲れ様でした。