● 燭台の灯り一つだけを持ってドアを開ける。闇とひやりとした風が這いあがってくるのを燭台を掲げて払う。 私が持っている仄かな炎以外は何も明りの無い部屋の中に転がっている少年のそばにゆっくりと近寄る。 「ん゛ー!」 私が近づいたのを察したのか口に詰めた布越しにくぐもった声が聞こえる。何を言っているのか興味はあるが、前に一度他の子の口を解放してみた時は何十分も喚かれて大変だったのでもうやらない。 柔らかく手触りの良い髪の毛をくしゃりと撫でながら猫なで声で囁きかける。 「どうしたの、坊や。お家に帰りたいの?」 涙を瞳いっぱいに溜めて、首を必死に上下に動かすのを見てなんだか愛おしさが湧いてくるけど、希望の通りに帰すわけにはいかない。 「ごめんね、坊や」 若くハリのある肌に爪をそっと差す。皮膚の微かな抵抗をぷつんと突き抜けて少年の体内に私の爪が侵入する。 驚愕に目を見開く少年、くぐもった声がさらに一段と大きく部屋の中に響く。 「頂きます」 次の瞬間、たった一秒前まで若々しい生命の輝きに溢れていた少年の体がみるみる干からびて行く。まるで一瞬で年を取ってしまったようだ。 パサパサになって軽くなった少年の躰を手放す。そのまま自らの手を頬にやれば少し前までそこにあったはずの皺が消えている。まるで時を数年逆行したような変化が私に現れていた。 「ありがとう、坊や。坊やの若さはおいしかったわぁ」 頬に手を当てたまま切なげに吐息を漏らして余韻に浸る。今ので大分若返ったけれどそれでもまだ私が私を最も美しいと思っていた全盛期には少し遠い。あと1人か、2人。 そう考えて私は暗い部屋を後にする。新しい若さを捕まえに行く為に。 ● 「ここ最近、小学生位の児童が連続で誘拐されている事件が発生しています。これはとあるフィクサードによるものです」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)がリベリスタ達告げる。 「彼女は年老いてから革醒しました。そして置いた姿のまま不老となり生きていくことに耐えることができなかった彼女は『人の若さを吸い取る』アーティファクトを手に入れました。 それを使って他人の若さを吸い取ることで、自らの肉体を無理矢理若返らせています」 和泉がモニターに示した女性の姿はどう見ても30歳ほどのそれにしか見えない。 「この女性が?」 問うリベリスタ達に肯定の返事を返す和泉。 「彼女が革醒したのは齢80を超えてからです」 つまりこの写真はそれだけ多くの若さ、未来を奪い取ってきた証だ。 このアーティファクトを使われた者は木乃伊の様な骸を晒し、あとに残るのは数歳分若返ったフィクサードだけだと言う。 「しかもこのアーティファクト、途轍もなく燃費が悪いというか、リターンが小さいんです」 それはそうだろう、寿命に換算すれば少なくともあと60年は生きるであろう子供の命を使ってやっと5歳若返るかどうかなのだから。 「予知に検知された彼女は自らが住んでいる屋敷の中で小さな兄妹を手にかける寸前でした」 まだ若返り足りないのだろうか。しかし、それを許容出来る者はこの場には誰ひとりとしていなかった。 モニターにはフィクサードが現在根城にしている館が示される。 「郊外に1つだけ立つ屋敷です。この屋敷に存在する地下室に彼女はいます」 屋敷自体の見取り図があるので探索に手間を取られることはなく、周りに人通りも少ないため侵入は比較的簡単だろうと和泉は言う。 「彼女は戦闘にはいった場合、後衛に位置して攻撃してきます。さらに、その場に転がる子供達の骸のうちいくつかが起き上がりアンデットとなって襲いかかってくるので来るので注意が必要です」 利用するだけした子供をさらに使うという事実により嫌悪を露にするリベリスタ達。 「このまま指をくわえて犠牲者を増やすわけにはいきません。彼女を討伐してください」 お願いします、と和泉は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:日暮ひかり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月21日(月)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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