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若返りの魔女


 燭台の灯り一つだけを持ってドアを開ける。闇とひやりとした風が這いあがってくるのを燭台を掲げて払う。
 私が持っている仄かな炎以外は何も明りの無い部屋の中に転がっている少年のそばにゆっくりと近寄る。
「ん゛ー!」
 私が近づいたのを察したのか口に詰めた布越しにくぐもった声が聞こえる。何を言っているのか興味はあるが、前に一度他の子の口を解放してみた時は何十分も喚かれて大変だったのでもうやらない。
 柔らかく手触りの良い髪の毛をくしゃりと撫でながら猫なで声で囁きかける。
「どうしたの、坊や。お家に帰りたいの?」
 涙を瞳いっぱいに溜めて、首を必死に上下に動かすのを見てなんだか愛おしさが湧いてくるけど、希望の通りに帰すわけにはいかない。
「ごめんね、坊や」
 若くハリのある肌に爪をそっと差す。皮膚の微かな抵抗をぷつんと突き抜けて少年の体内に私の爪が侵入する。
 驚愕に目を見開く少年、くぐもった声がさらに一段と大きく部屋の中に響く。
「頂きます」
 次の瞬間、たった一秒前まで若々しい生命の輝きに溢れていた少年の体がみるみる干からびて行く。まるで一瞬で年を取ってしまったようだ。
 パサパサになって軽くなった少年の躰を手放す。そのまま自らの手を頬にやれば少し前までそこにあったはずの皺が消えている。まるで時を数年逆行したような変化が私に現れていた。
「ありがとう、坊や。坊やの若さはおいしかったわぁ」
 頬に手を当てたまま切なげに吐息を漏らして余韻に浸る。今ので大分若返ったけれどそれでもまだ私が私を最も美しいと思っていた全盛期には少し遠い。あと1人か、2人。
 そう考えて私は暗い部屋を後にする。新しい若さを捕まえに行く為に。


「ここ最近、小学生位の児童が連続で誘拐されている事件が発生しています。これはとあるフィクサードによるものです」
 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)がリベリスタ達告げる。
「彼女は年老いてから革醒しました。そして置いた姿のまま不老となり生きていくことに耐えることができなかった彼女は『人の若さを吸い取る』アーティファクトを手に入れました。
 それを使って他人の若さを吸い取ることで、自らの肉体を無理矢理若返らせています」
 和泉がモニターに示した女性の姿はどう見ても30歳ほどのそれにしか見えない。
「この女性が?」
 問うリベリスタ達に肯定の返事を返す和泉。
「彼女が革醒したのは齢80を超えてからです」
 つまりこの写真はそれだけ多くの若さ、未来を奪い取ってきた証だ。
 このアーティファクトを使われた者は木乃伊の様な骸を晒し、あとに残るのは数歳分若返ったフィクサードだけだと言う。
「しかもこのアーティファクト、途轍もなく燃費が悪いというか、リターンが小さいんです」
 それはそうだろう、寿命に換算すれば少なくともあと60年は生きるであろう子供の命を使ってやっと5歳若返るかどうかなのだから。
「予知に検知された彼女は自らが住んでいる屋敷の中で小さな兄妹を手にかける寸前でした」
 まだ若返り足りないのだろうか。しかし、それを許容出来る者はこの場には誰ひとりとしていなかった。
 モニターにはフィクサードが現在根城にしている館が示される。
「郊外に1つだけ立つ屋敷です。この屋敷に存在する地下室に彼女はいます」
 屋敷自体の見取り図があるので探索に手間を取られることはなく、周りに人通りも少ないため侵入は比較的簡単だろうと和泉は言う。
「彼女は戦闘にはいった場合、後衛に位置して攻撃してきます。さらに、その場に転がる子供達の骸のうちいくつかが起き上がりアンデットとなって襲いかかってくるので来るので注意が必要です」
 利用するだけした子供をさらに使うという事実により嫌悪を露にするリベリスタ達。
「このまま指をくわえて犠牲者を増やすわけにはいきません。彼女を討伐してください」
 お願いします、と和泉は頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:日暮ひかり  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月21日(月)22:24
こんにちは、吉都です。
今回の敵は自らの為なら子供の命などどうでもいいという外道です。
思いっきりやってしまってください。

■成功条件
フィクサードの討伐及びアーティファクトの回収

■敵情報
・フィクサード
付け爪型のアーティファクトを装備したフィクサード。
マグメイガス相当のスキルを使用します。
長い時間を生きた彼女のスキル練度は相当なものです。

・アンデット
アーティファクトの能力で骸になってしまった子供のなれの果て。
フィクサードの命令に忠実に動きます。
デュランダル初級スキルを使う物が2体、ナイトクリークの初級スキルを使う物が2体。
見た目での判別は出来ません

■戦闘場所
町の郊外に立つ大きな屋敷の地下室。
階段を下りたドアの先です。高さ、広さはともに十分。
灯りがない為何らかの対策が取られなかった場合には命中や回避等にマイナス補正が入ります。

■戦闘詳細
リベリスタの皆さんが侵入に手間取ったりせずに無駄なく地下室に突入した場合、
フィクサードが子供達に手をかける寸前に突入することができます。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
スターサジタリー
リーゼロット・グランシール(BNE001266)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
ダークナイト
アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)
ダークナイト
神埼・礼子(BNE003458)


 街はずれにぽつりと建つその屋敷の庭は、久しく手入れする者も居ないのかひどく荒れていた。
 西洋風の洒落たデザインの門も、今やすっかり古びて鍵も役に立っていないよう。手をかければ、それはきぃきぃと軋みながらあっけなく開く。
「若さのためってなんかしっくり来ないねー。この界隈はロリババアとか年齢3桁とか普通にいるからねー」
 結界を張りながら『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が素直な感想を述べた。
 掌についた赤錆を払う、ほんの一秒すらも惜しい。リベリスタ達は一目散に魔女の館になだれ込む。
 館の入口はさすがに施錠されていた。『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)が迷うことなく『Garmfang』の銃口を向け、散弾で鍵を吹き飛ばしにかかる。
 時間が無い。『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)も扉を蹴破ろうと動いた。仲間もそれに続き、程なくして守りは崩れる。さほどのロスでは無い。
 館の内部は取り立てて不気味なところもなく、ただ裕福な家のそれに見えた。20代半ばほどの、美しい女性が佇む白黒写真が壁に掛けられている。それは、かの魔女が取り戻したいと切望する、かつての姿であるのかもしれない。
 もっとも目を向けた者は居ない。うさぎを先頭に、配下アンデッドをブロックする役を担う岬、『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)、『不屈』神谷 要(BNE002861)ら4人。その後ろに抑え役のアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)、人質救出役の『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)と『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)。最後に後衛のリーゼロットが順に並び、皆一直線に階段へと向かう。
 儀式の場へと連なる闇。下に行く毎に視界を閉ざす黒と、その中に潜む死の気配が濃密に辺りを覆った。今更怯んでいる余裕も、理由もない。照明や暗視の準備があった者は、移動しながらそれを装着した。これ以上の犠牲は増やさない、唯その為に。
 駆ける。


 ――誰?

 ただならぬ気配を察知した魔女が顔を上げ、振り向いた。
 彼女の肩越しに、怯えきって身を寄せ合う幼い兄妹の姿がある。千里眼で見透かした扉の向こうに、疾風はそれを見た。まだ間に合う。例え舞台の外でも、ヒーローが子供を助けないわけにはいかない。
 暗視ゴーグルと扉、二重の壁を隔て、魔女と視線が交わる。
 次の瞬間にうさぎが体当たりで扉をぶち破って部屋に突入したのと、部屋の床から『なにか』がぬらりと立ち上がったのはほぼ同時。
 灰色で干からびた小柄ななにかがぐるりと侵入者達に向き直り、空ろに視線を彷徨わせる。それが、本当は何であるかは言うまでもない。
 すまぬの、助けられなくて――礼子が悔しげに、どこか寂しそうに呟いた。
「ヒャッハー! くたばれババアー!」
 岬が奇声を発しながら、禍々しい武器を振り回す。それは半壊した扉に命中し、扉は哀れにも部屋の隅までふっ飛んでいった。
「あらあら、元気の良いお嬢さん。来てくれてうれしいわあ。でも、こっちのお食事が終わるまで少し待ってくださる?」
 魔女ははんなりと口元に手を当て、上品に、そして妖艶にほほ笑んで見せた。
 他の前衛がアンデッドをブロックし、その合間をすり抜けてアルトリアが魔女を抑える。その隙をついて、疾風と礼子が兄妹を救出する算段だ。
「変身!」
 アルトリアが魔女の動きを見極めんと待機する傍ら、疾風が幻想纏いを起動し、駆け出す。うさぎもほぼ同時に動いた。
 子供達を保護する、その第一目的を悟られてはならない。うさぎは常の無表情でアンデッドの元へと向かい、死の刻印を刻みつける。どちらの能力を持つにしろ厄介な相手。見た目で分からないならばと、わずかに早く反応を見せた敵をうさぎは反射的に攻撃した。アンデッドはうさぎを強引に吹き飛ばそうと、そのまま腕をぐおんと旋回させ、振りぬく。
 一方、一直線に子供に向かう疾風を見て、魔女もリベリスタ達の狙いに気づいたようだった。
「私の、かわいい坊やたち。あの男を止めるのよ」
 また別のアンデッドが放った気糸の追撃から間一髪逃れ、子供たちと魔女を引き離すべく立ち塞がる疾風に、魔の大鎌を振り下ろさんと魔女が狙いを定める。
「そこまでよ! 暗黒魔法少女ブラック☆レイン、参上!」
「邪魔をしないで頂けるかしら?」
 追随した礼子が間に割って入った。苛立った声と共に空気が揺れ、礼子の肩口が深々と切り裂かれる。暗闇の中に鮮やかな赤が散る。それはとめどなく流れ、煤けた絨毯の敷かれた床にじわりと染みてゆく。
「怖かったね。でも、私達が来たからにはもう大丈夫だ」
 疾風が口の中に詰められていた布を取ってやると、幼い兄妹はべそをかきながらもこくこくと頷き、すがるように疾風と礼子を見つめる。魔女が、苛立ちを隠さず顔をしかめた。
 魔女の力は強大だ。タイミングと打ち所が悪ければ、抑え役のアルトリアが即倒れる危険性すらある。ただ、速度では自分が優っているとアルトリアは見た。さすれば――勝機は見える。
 残りのアンデッドをブロックするため、要も動いた。眼前のそれは変わり果てた姿とはいえ、もとは罪の無い子供だ。剣を向けるのは心が痛む。
 ……外道。
 魔女を一瞬だけ睨みつけ、要は力をこめて空中に聖なる十字を切る。
「クロスジハードをかけます! この様な者の為に、これ以上の犠牲が出る事を看過は出来ません」
 魔女の攻撃に備え、味方の神秘に抗う力を高めておく。これで多少戦いが楽になるだろう。
 その隙を狙い、アンデットが容赦なく腕を叩きつけてきた。それをシールドで受け流しながら、要は悲しげに赤い瞳を細めた。
「僅かながら気持ちは解りますが、運が無かったと諦めておけば良いものを」
 後方で銃を構えるリーゼロットの声に、僅かに怒りが滲む。しかし彼女の牙は鈍ることなく獲物に追いすがる。ライフルより放たれた杭の散弾は、主人に従う忠実な猟犬さながらに敵全体を捉え、蹂躙する。
 魔女が小さく声を上げた。杭を額に受けたアンデッドの一体が、その動きを止めたのだ。
「貴方を救える時に来れなかった事を許してください……」
 ゆっくりと後ろに倒れゆくそれに、要が呟く。答えはもう返ってはこない。
 けれど、こんな場所で、こんな姿で、これ以上望まぬ生を歩むよりは、きっといい。

「毎度、アークです。お客様に討伐という名のスイーツを配達しに参りました」
 達也の口からアークの名を聞いた魔女が目を見開く。
「アーク、ですって……でもね、この爪は渡しはしないし、私も坊やたちに負けはしないわ」
 達也が愛用のショルキーで天使の歌を奏でれば、仲間の傷が癒えた。恐る恐る礼子を見ていた子供達が泣き止んだのを見、達也は微かに表情を緩める。
 ――回復役の子を攻撃なさい。
 魔女が冷ややかに言い放つと、達也の対峙していた個体から致命傷をもたらす闇が生じた。頭からの衝撃に達也が蹲る。だが怯むわけにはいかない。
 最後のアンデッドを抑えるのは岬の役目だ。
「どうであろうと殺ることは1つ! 外道をぶっ殺すだけだよねー、アンタレス!」
 無邪気な少女には到底似合わぬ凶悪なハルバードが岬の相棒だ。岬が力任せに長い柄を振れば、アンタレスと名づけられたそれは呼応し、生じた真空刃は透明な炎の如き苛烈さでアンデッドの身体を引き裂く。準備は整った。アルトリアが魔女の前に踊り出で、高らかに宣言する。
「貴様の相手はこの私だ。闇夜の騎士、アルトリア・ロード・バルトロメイ。いざ、尋常に!」
 欲望に躍らされ、幼い命をその手にかけた魔女。騎士の誇りが許す筈も無い。果敢に言い放つ彼女が体に纏う黒のオーラは、闇を惑わせ食い滅ぼすための正しき漆黒。続いて放たれた黒の霧が魔女を包み込み、行動を制限する。
「この枷を受けよ。貴様の自由は私が決める!」
「この小娘……ッ!!」
 魔女に隙が生じた。子供達を逃がすなら、今だ。
「こっちに逃げるよ!」
「大丈夫、レインに任せて。正義と愛は必ず勝つ☆」
 子供の足の速さでは心許ない。疾風が兄、礼子が妹を背負って部屋の出口へと向かう。幼い兄妹はヒーローとヒロインにしっかりとしがみつき、暖かい、頼もしいその背に強く顔を埋めた。


 子供の救助隊が一時戦線を離脱しても、戦いはリベリスタ達の優位に進んだ。
 能力を高めたアルトリアが誰よりも先手を取ったこと。そして、敵は攻撃偏重の構成でスケフィントンの娘に対抗しうる手段がほぼなかった。それが決定的だったと言っていいだろう。
 己にも負担となる技を使い続けるアルトリア、そして回復を一手に引き受ける達也はけして楽では無かった。だが、要が強靭な守備で二人を庇いたて、致命傷を与えることを許さない。やがて疾風と礼子が再合流すると、戦況は一気にリベリスタ達へ傾く。
 疾風が連接棍型に変形したモーニングスターを自在に振るえば、稲光が疾走し闇が揺れた。岬や疾風の絶大な火力に圧され、アンデッドが3体倒れれば攻撃の勢いもだいぶ緩んだ。
「12年前の僕とは違う……! 何も守れなかった、あの時とはな!」
 犠牲になる子供達を守らねばならない。それはリベリスタとして、一人の親としての切実な想いだ。決死の覚悟で歌を紡ぎ続ける達也の意志を背中に感じながら、アルトリアも最後の力を振り絞る。
 ――仲間を信じているからこそ、この身は剣ではなく立ち塞がる壁となれよう。
「さあ、次の目標はあなたです。――人々を助け、アークの敵を撃ち抜き、アークに利益を」
 静かな怒りを孕んだリーゼロットの声が闇に響いた。清廉たるアークの狙撃手の弾丸は最後に残ったアンデッドを音も無く撃ち抜き、そして彼女は、ゆっくりと銃口を魔女に向ける。
「バルトロメイさん、加勢します」
 うさぎと要がアルトリアの補助につき、三方を囲まれた魔女にもはや逃げ場はない。
「傘寿も越えて何してるんですか。年寄りの冷や水にも程があります」
 注意を引くため、うさぎがわざと憮然とした声で魔女を罵る。追い討ちをかけるように、要が裁きの十字を放った。
「例えどんなに外見が若返ろうとも……この様な事の出来る貴方の心は腐り果てていますね」
「……何よ……貴女たちみたいな若造に私の気持ちが分かって!?」
 ペースも心も乱され、追い詰められた魔女は要に向けてがむしゃらに爪を振るった。攻撃は要の頬をかすめ、少女の白い肌に赤い雫がぷつりと浮き出る。
「無駄無駄、見目だけ若返っても染み出る加齢臭は消えやしません」

 加齢臭――。

 背後より不躾に投げられたその一言は、魔女にとってはハンマーで頭を殴られるのに匹敵する衝撃だったのだろう。反射的に口を押さえ、息を吐いて臭いを確かめてしまう。駄目だ。自分ではわからない。首を振り肩を震わせ、ばっと振り返れば、男か女かも分からない痩せた褐色の子供が、虚ろな目で自分を見ている。
「な、な、な……」
「すいません息臭いんで喋るの止めて口閉じててくれます? これだから年寄りは……」
 これ見よがしに鼻と口を押さえ、その前で手をぱたぱたと煽ってみせるうさぎ。
 こんな最中に何を考えているの、この子は――!!
 というか、それって本当なの? だとしたら私は……!
 それは怒りを通り越して相当なショックを与えたようで、魔女は口をぱくぱくとさせながら虚脱状態に陥ってしまった。
 老いは、人生の積み重ねの現われ。
 そう言った大叔父をうさぎは思い起こす。
 だから自分の老いを疎む奴は、要するに自分の人生が不満なのだ――と。
(……気持ちはちょっと分かるんですけどね)
 人道に反しても若さを欲した女が歩んできた過去に思いを馳せても、己の理解の及ぶものではないだろう。積み重ねてきた人生の厚みが違う。うさぎは、魔女が思うよりもずっと自分の若さを理解していた。けれど欲望や願望は、自分にだって勿論ある。魔女の全てを否定することはうさぎには出来ない。
(でもやっぱ、不毛ですよ)
 他人を傷つける形で欲求を埋めようとしても、其処にはまた新たな穴が開くばかりだ。それを埋めるため、また次の犠牲が生まれるかもしれない。人の得るべきものは、其処には無い。
 うさぎの右手に握られた11人の鬼が、悪しき連鎖を引き裂き、喰らう。刻印が与える痛みに、魔女が正気を取り戻し吼える。
「五月蝿い……五月蝿いのよ、小娘ども……!!」
「若いと意外と無理は効くもんなんだけどなー、ババアは無理しないほうがいいぜー。口調からしてババアー」
 範囲攻撃の及ばぬ場所に回りこみ、岬が真空刃を放つ。熾烈な打撃攻撃の数々に耐えうる体力の無い魔女に、残された挽回のチャンスはもはや無い。勝敗は決したも同然だった。

 ――私は、此処で終わるのね。

 ならばせめて、美しい姿で果てたい。
 全身を引き裂かれ、血塗れとなった魔女が、近づいてきた礼子に赤く染まった腕を伸ばす。
「礼子さん……?」
 疾風がはっとして呟く。礼子は逃げなかった。
 マニキュアを塗ったように真紅に染まった爪が、ぷつりと肌を刺しても彼女はそこに立っている。
「何をしているんですか! さっき、子供たちにも約束したじゃないですか。魔女を倒して帰ってくるって!」
 その時、魔女が何かに気づいたようにはっと顔を上げた。礼子がにやりと笑み、地に伏した魔女を見下ろす。
「無駄、無駄じゃよ。お主と同じ歳じゃからの」
「何、ですって……」
「わしが憎いか? なぜ同じように覚醒したのに、こうも違うのか理不尽だと思うかの?」
 信じられない。
 絶望と、羨望と、嫉妬と、怒りと。さまざまな感情が混ざり合い、魔女の瞳が震えていた。
 それを真っ直ぐに見つめながら、礼子は静かに、だが強く思いの丈をぶつける。
 ――わしはこの老体で残された時間、子供達に夢と希望を与えること誓ったのじゃ。
 そのために、運命の神様は魔法少女が似合うように、この体をくれたと思っておる。
「だがお主はどうじゃ。その力で子供の未来を断ち切っておる。そんな私利私欲で動くような奴に運命は微笑まないのじゃ。わしら老人の役目は、子供達の未来を護ることではないかの?」

 ぐるりと暗い部屋を見渡せば、其処には屍が数多に横たわっている。
 己の欲望の犠牲となり、未来を閉ざされた子供たち。その虚ろな眼窩が恨めしげに魔女を見つめている。かぶりを振り、魔女は言った。
「……駄目よ。私は、あなたみたいに真っ直ぐには生きれなかったから。美しくなければ誰も振り向いてはくれないの。それなのに……時も運命も残酷ね。やっと惨めな日々が終わると思ったら、今度は不当に生かされて。その気持ち、わかる?」
 ――あぁ。せめて、こんなものさえなければ、罪を重ねずに済んだのかもしれないのにね。
 アーティファクトを投げ捨て、諦めたかのように魔女は言う。
 殺して。
 全盛期には届かなかったけれど、醜いままで死ぬよりはずっとましよ。

「貴方は、先ほどから聞いていれば自分勝手に……!」
「望みどおりにしてくれる。今まで積み上げてきた所業、死して後に詫びるがいい」
 要とアルトリアが憤り、武器を手に距離をつめる。だが、礼子が二人を制した。
「まだじゃよ。子供達から奪った未来、その身で償うのじゃ」
 魔女を殺すつもりでこの場に来た者たちは、顔を見合わせ考えこむ。
 死すべきが償いか、生きるべきが償いか。
 多分どちらも間違っていないし、だからこそ決めることは難しいけれど。
 「少なくとも、若造の分際で一方的に見下す権利何てありませんよ」
 うさぎがぽつりと呟いた。
 外見が若返っても、歩んできた時間はけして消えることはない。
「花は枯れるからこそ美しい。命も同じであって、次の世代に何を残せるかが我々大人の務めだと思う」
 達也も静かに頷いた。枯れるにはまだ早いだろうと。何もなかったとしても、これからまだ創ることができる。
「こんな物があるから心を歪ませるのか」
 疾風はアーティファクトを広い上げ、戦闘服のポケットにしまい込んだ。憎むべきは人ではない。ただ抗う力を持たない者を護る為、自分はここにいる。
「自分は反対ですよ。こんなろくでも無いフィクサードを生かしておくなんて……けれど、その運命をアークに託すというのでしたら或いは」
 僅かながら気持ちは解りますからと、リーゼロットはすこし不機嫌そうに、インカム型の幻想纏いを起動する。

 ――こちらリーゼロットです。フィクサード一名と、拉致された子供二名を確保。なおフィクサードは心神喪失状態にあり、これ以上の抵抗はないと見られ――。

「あーっ! 何やってんだー、ガキどもー」
 その時、岬が素っ頓狂な声を上げて入口の方へと走っていった。知らぬ間に戻ってきてしまったらしい子供たちが、恐る恐る中を覗いていたのだ。
「おねえちゃんたち、本当に悪い魔女の人をやっつけたんだ!」
「すげー! なあなあ、さっきのいつテレビになるの? おれ、ぜったい見る!」
 その無邪気さに達也が苦笑しつつ、菓子を渡す。
 大喜びで菓子をむさぼる幼子たち。その素直な笑顔に、永らく忘れていた本当の愛おしさがこみ上げてくる。
「もう一度、お主が覚醒した理由を考えるのじゃ。時間はたっぷりあるからの、焦るでない」
 諭すような礼子の言葉に、魔女が涙する。

 ――ごめんね、坊や。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
代筆を担当させて頂きました日暮ひかりです。

回復手段の乏しい中、的確な役割分担と戦略・連携
なにより参加者の皆様間での気遣いが光るプレイングが多い印象でした。
ほとんど被害もなく戦闘を終えることが出来ただけでなく、
魔女にも更正の道が見えたのは素晴らしいことです。

今回は皆様にMVPを差し上げたい気持ちで、大成功とさせていただきます。
お疲れさまでした。