●お茶会 蝋燭の明かりに照らされた、だだっ広い部屋のだだっ広いテーブル。豪奢な燭台には、大きな蝋燭。頭上のシャンデリアに明りは灯っていない。電気が通っていないのだろう。機械のたてる駆動音の一切は聞こえてこない。 そんな蝋燭の僅かな明りに照らし出されたのは、人形のような顔をした一人の少女だった。 否、人形のような顔ではない。人形そのものだ。その証拠に、首や手首は球体関節で、肌に血の気は通っていない。流れるような銀髪と、紅いガラスの瞳。細い指でティーカップを摘まみ、白木の唇に紅茶を流し込む。 彼女の名前は(メリー・ドール)と言う。数時間前に、この洋館に迷い込んだアザ―バイドだ。ゴシックロリータに身を包み、住む人の居なくなった洋館にディメンションホールを潜り抜けやって来た。ほんのわずかな好奇心に惹かれたのだ。他の世界がどうなっているのか知りたかった。 「ついてないわァ」 間延びした声で、そう言って、小さくため息を吐いた。 「こっちに来て早々、おばけに追いかけられるなんて……」 そう言って、壊れて閉まらなくなった扉に目を向ける。扉の向こうに、人の形をした影のような物が蠢いている。何かしらの強い想いが集まってエリューション化したものだろう。扉からこちらに入ってこないのは、メリーの張った結界の為だ。 それが彼女の能力。メリーが決めた範囲に誰も入れないようにする結界。 「この部屋に逃げて来たのは正解だったわァ。キッチンのすぐ傍だし、紅茶もあったし、お湯は暖炉で沸かせたし……。お茶菓子が切れていたのが残念ねぇ。ここの主はどこに行ったのかしら? 客人を放っておくなんて、なってないわ。帰ってきたらお説教してあげないと」 なんて、一人呟く。独り言が多いのだ。 「さて、誰かお客さんが来ないかしら? 話し相手がほしいわァ」 そう言ってメリーは、部屋の片隅に目を向ける。そこは屋敷の外に通じる非常口。そこだけは、結界を張っていないのだ。 「元の世界に帰りたいものだわ。この世界は危ないのだわ。でも、お茶会もしたいし……。話し相手も欲しいし……。一人きりは心細いのだわ。それに、屋敷中黒い霧で覆われているし、ディメンションホールがどこにあるか分からなくなっちゃったし……。誰か私を助けてくれないかしら? そして、話し相手になってくれないかしら?」 本当、困ったことになったわ。 そう呟いて、少女人形は紅茶を飲んだ。 球体関節をキシっと軋ませ、テーブルの上に頬杖を付く。 ●屋敷へ。 「今回の任務は、迷い込んだアザ―バイドを元の世界に返すこと」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。見ようによっては、モニターに映るアザ―バイド(メリー・ドール)に似ているような気もする。 もちろん、両者になんの接点もないわけだが。 「彼女の持つ(結界)のスキルは強力。彼女が解除しない限り、結界内には誰も入れない。逆に言うと、彼女の許可が無ければE・フォースの討伐にも、ディメンションホールの捜索にも行くことは出来ない」 まずは、メリーの信用を勝ち取るところから始める必要がある、とイヴは言う。 「メリーの結界があれば、屋敷内を安全に進むことも可能。ただし、メリーはかなりのビビり。一度怖い思いをしたから、安全になるまでこの部屋から出たがらない」 その辺りは、交渉次第。判断は任せる。そう言ってイヴは画面を切り替えた。 「メリーは話し相手を欲している。それに、自分の身の安全も。彼女を安全に送り届けてあげて」 自分の似た容姿のメリーの事を心配をしているのだろうか。 切り替えられた画面に映ったのは、廊下へ出るための扉だった。 「外にいるのはE・フォース。恐怖の念が固まったもの。数は8体。フェーズは1.廊下に漂っている黒い霧は、不意打ちの無効化と、飛行不能の効果を持っている。E・フォースの生み出した物。視界が悪く、数メートル先までしか見えない」 E・フォースの討伐と、アザ―バイドを元の世界に送り返すこと。 それが、今回の目的。 「ちなみに、メリーは人形だから割と軽い。それから、歩くのが遅いみたい」 さぁ、行ってきて。 と、イヴは手を叩いて皆を急かすのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月28日(土)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●人形の待つ屋敷 風が吹いていた。 途切れることなく、しかし弱い風が……。 庭に蔓延った雑草を揺らし、錆の浮いた門を軋ませる。時折、近くの林から鳥の鳴き声が聞こえてきていた。 大きな、けれど荒廃した屋敷である。正面玄関に近寄ろうとしたところ、なにか不可視の壁のような物に遮られ、それは叶わなかった。 屋敷の庭に立つ8人の男女は、不可視の壁の存在に慌てることなく、裏へ回る。 8人は、アーク所属のリベリスタであった。 不可視の壁は、現在この屋敷内に立て篭もっているアザ―バイド(メリー・ドール)の能力によるものだろうことも、彼らは知っている。 しかし、知るだけでは意味がない。 知って行動せねばならない。 だから彼らは、この屋敷を訪れた。 屋敷に巣食うエリューションを排除し、少女人形を元の世界へ返す為に。 「一応ノックしとかないとね」 と『薄明』東雲 未明(BNE000340)が、扉を叩く。中から「誰……?」と、小さな声が返って来た。 建て付けの悪くなった非常口の扉を開ける……。 ●引きこもりの人形姫 「何者なの? ここになにか御用なのかしら? もし肝試し感覚で訪れたのであれば、早急にお帰りすることをお勧めするのだわ。ここは危険な場所なのだわ」 開口一番、銀髪赤目の少女人形は早口にそう捲し立てた。 「否、肝試しではない。私達は客としてここを訪れた」 そう言ったのは『Weiße Löwen』エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(BNE003729)だ。持参したティーセットと菓子類を掲げて、メリーに見せる。 「客人? でも、ここの主は不在なのだわ。今いるのは、わたしと廊下にいるお化けくらいのものなのだわ。悪い事は言わないから、立ち去るといいのだわ。でも、お菓子だけは置いて行ってくれるとうれしいのだわ」 「そうは言っても君、一人ぼっちじゃ味気ないだろ? 序でに幽霊退治に参りましたよ……何てね」 実はお菓子の方が目的だったり? と冗談めかして『名無し』氏名・姓(BNE002967)がお菓子の入った籠を手に、メリーに近づいて行く。 他の面々もそれに続いた。メリーは、一瞬ビクりと身を竦ませたが、すぐに姿勢を正して8人を見返してくる。 「むぅ……。幽霊退治……。別に頼んでいないのだわ。でも、お菓子はいただくのだわ」 「困っている女性がいるのならお助けするのが紳士の役目!」 ポン、と小さな音をたてて手の平からバラの花を一輪出して見せたのは『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)であった。そんな鈴木を、メリーは胡散臭そうな目で見つめている。ちょっと身体が後ろに下がっているのは、もしかしたら仮面をつけた鈴木が怖いからかもしれない。 『―とりあえず、お茶でもいかがです?』 ハイテレパスで、頭の中に直接声を響かせるのは『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)だ。早速テーブルの上におかもちを置いて、中から焼き菓子を取り出す。 メリーは、少々胡散臭そうな目でリベリスタ達を見ているものの、お菓子に連られ同席を許可したのだった。 「そう、やはりここはわたしの知らない世界なのね。あのお化けは、身間違いではないのね」 「おっお~♪ だから、あちき達が退治しにきたんだお。いつもやってる事だから、できれば任せて欲しいんだお」 スコーンにジャムを塗りながら『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)が、メリーに自分達の暮らしや仕事について語る。 「好奇心に負けて、すぐに元の世界に戻らなかったのがわたしのミスなのだわ。結界を張って立て篭もったまではいいけど、帰れないと困るのだわ。わたしは元の世界に帰りたいのだわ」 ガラスの瞳に涙を溜めて、メリーはスコーンを齧る。 手が汚れるから、という理由でメリーの分のスコーンにジャムを縫っているのは『八咫烏』宇賀神・遥紀(BNE003750)だ。子供を見るような笑顔でメリーの我儘に付き合っている。 「君が居た世界にも興味あるな……。って、それどころではないか」 メリーは宇賀神の話も聞かず、気付けば『寂しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)の兎耳に手を伸ばしていた。 「こっちの世界には面白い人がいるのだわ。兎の耳が付いているのだわ」 「兎は寂しいと死んじゃうんだっけ? 寂しがり屋な所はメリー嬢と似てるかも、なんてね」 「……宇賀神さん、なんていうか流石だよね。そ、それに兎は結構強いんだよ」 照れたような表情で、神薙が顔を背ける。永い兎の耳が揺れ、メリーが目を輝かせてそれに手を伸ばす。 「おお、動いているのだわ。動いているのだわ」 「そんなに兎耳がお気に召したのなら、どうぞ?」 鈴木が、兎の付け耳をどこからともなく取り出した。これも彼お得意のマジックだろう。メリーはそれを受け取って頭に付けた。 「ふむ……。なるほど、なのだわ。これはなかなか……」 メリーが嬉しそうな笑顔を浮かべた、その時。 ドン、という何かを叩きつけるような音が屋敷中に響く。メリーが顔を真っ青にして汐崎の胸に飛び込んだ。音に驚いたのだろう。 「あら? この服はみたことないのだわ」 どうやら着物に興味を持ったらしい。 「ところで、メリー嬢。ここに来るまでに階段は降りた? 降りたなら、一回? 二回?」 氏名が、メリーに問いかける。メリーは質問の意図が分からない、という顔をしながらも「二回」と答えた。 「あのお化け、迷惑しているなら専門家の私達が退治できるわ」 東雲がそう続ける。 「本当なのだわ? それなら、是非お願いしたいのだわ」 「だったら、強力して貰えると助かるのだが……」 エインシャントが、予め計画してきた作戦の概要をメリーに伝える……。 「それでは、気をつけて行ってくるのだわ」 小さく手を振って、メリーが皆を見送る。片方の手で、宇賀神の服の裾を握っていた。 「神薙、あんまり無茶をしないんだよ。おとーさん心配だから」 くしゃりと神薙の髪を撫でて、宇賀神が言う。 「行ってくるね。宇賀神さんも、あんまり無茶をしないでよね……心配だしさ」 集音装置を手に、神薙が廊下に出る。それに続いて広間に残る宇賀神以外のメンバーは外に出て行く。メリーに頼んで結界の一部を開けてもらったのだ。 「気をつけるんだお。階段の所に敵がいるんだお」 千里眼で得た情報をガッツリが皆に伝える。彼女の役目は千里眼とマスターテレパスによる後方支援だ。 一歩一歩、慎重に前へ進む。湿った空気と黒い霧。視界はすこぶる悪く、埃とカビの匂いが鼻を刺激する。この広い屋敷の中に、敵は全部で8体。 7人は階段に差しかかる。敵の姿は確認できない。霧が濃すぎるのだ。 「氏名さん、前だお!」 「え……。おぉっ!?」 ガッツリが叫んだのと同時に、前を歩いていた氏名が吹き飛ばされる。階段の上から降って来た花瓶が当ったのだ。それがE・フォース(恐怖)によるポルターガイストだと気付き、警戒態勢を強める。 倒れた氏名に汐崎が駆けよって助け起こした。 花瓶が飛んできた方向に東雲が駆ける。 怪談を駆け上がり、踊り場にいた恐怖を発見。すぐ近くにいたもう一体もろとも残像が浮かぶほどの速度で振られた剣で切り裂いた。 手前にいた恐怖は、霞んで消える。もう一体はダメージが薄いのか、階段の上へ上って逃げて行った。 追い打ちをかけようとした東雲の足が止まる。気付けば足から順に石化が始まっていたのだ。 「今助けますので、少々お待ちを」 ワンドを手に鈴木が階段を上ってくる。 「あまりバラけないようにね」 鈴木を守るように、神薙が並走。後方にいる味方のガードはエインシャントが行っている。 『神薙さん、石化、来ますよ?』 神薙の頭の中に、汐崎の声が響く。ハイテレパスによる交信だ。 神薙が、鈴木を庇って前に出る。武器を振るうが、恐怖には当たらない。距離が遠いのだ。 その隙に、鈴木が東雲の治療を行う。 「もう一体来たお!」 ガッツリの叫び声。牽制するように後方からの援護射撃。スローインダガ―が霧をかき消す。 ガッツリに向かって飛んできたガラスや皿を、エインシャントが剣と盾で防ぐ。 「視界が悪いな。どこから来るか、分からない」 完全に防ぎきることは出来なかったのだろう。エインシャントの頬から血が流れる。 「敵の場所、分かるかい?」 氏名が汐崎に問いかける。汐崎が頷き、敵のいる方向に指を向けた。 「あぁ、そこか」 呟いて、腕を振る。宙を走ったのは氏名の伸ばした気糸。霧の中を突き進み、隠れていた恐怖を縛り上げる。 「そいつで最後ね?」 階段から剣を振りかざし飛び降りて来たのは東雲だ。上の敵は既に片づけたのだろう。着地と同時に氏名が縛り上げて動きを止めていた恐怖を切り捨てた。 「これは……何気に苦戦しそうな気がするんだお。あちき頑張るお」 ガッツリが冷や汗を流しながらそう呟いた。 視界を遮る霧と、どこに潜み、現れるか分からないE・フォース。 「やっぱりこの霧が邪魔ですね」 鈴木の呟きが、霧に紛れて消える……。 屋敷内に再び静寂が戻った。 ●人形姫の決断 皆が出て行ってから、どれくらい時間が経っただろう……。 そう思い、宇賀神が携帯電話で時間を確認する。まだ、一時間も経っていない。しかし、仲間の身を案じながら待つ時間は、通常より長く感じられた。 定期的にAFで安否を確認しているが、それでも心配なことに変わりない。 「それは何? 面白いものなの?」 興味を持ったのか、メリーが携帯電話に手を伸ばす。携帯を手渡しながら、宇賀神はメリーに語りかける。メリーの居た世界についてのことだ。 「わたしが居た世界? それはもう、素敵な所なのだわ。お人形の国なのだわ。お菓子もお茶も沢山あって、怖い事はなにもないのだわ」 「そっか。早く帰れるといいね。今、俺の仲間が頑張ってくれているから、少し待ってて」 「期待しているのだわ。強力できなかった事が申しわけないのだけど、でも怖いものは怖いのだわ」 「そうか。まぁ、それでいいと思う。いつか、克服できると更にいいけど」 「……頑張ってみるのだわ」 メリーが目を伏せた。 その時、宇賀神のAFに連絡が入った。 「お帰り。どうだった?」 神薙の頭に手を置いて、宇賀神が訊ねる。答えたのはエインシャントだった。 「3階まで行って来た。ディメンションホールも見つけた。ただ、恐怖があと2体ほど現れない。どうする?」 このまま、3階までメリーを送り届けるか、それとももう一度敵を探しに出るか、という問い。 汚れた服や、小さな傷から黒い霧の中での戦闘が、それなりに過酷だった事が窺える。 「強いわけじゃないんだけど……」 と、東雲が浮かべた困り顔。視界の悪さが、戦闘を邪魔するのだ。 「あいつらは、わたしを狙っているの?」 そう訊いたのは、メリーだった。 「かも知れないですね。あなたをここに追い込んだのは奴らだそうですし。まだ狙っているのかも」 と、鈴木が答える。 「…………わたしの身の安全は、保障されるのかしら?」 「心配ご無用! 悪しき亡霊たちを打倒し、必ずや貴女をお守りしましょう。それが我らリベリスタの使命なので」 そう言って氏名が胸を叩く。アクセサリーがチャリンと軽い音をたてた。 暫く、メリーは黙ってテーブルに目を落としていた。テーブルには、お茶にお菓子、花瓶に飾られた花や、汐崎の描いたメリーの絵などが広がっていた。 やがて、メリーは顔をあげる。 「いいのだわ。結界を解いて、おびき出すのだわ」 震えながら、瞳に涙を溜めながら、それでもメリーはそう言った。 「それじゃあ、結界を解くんだお」 「ドール卿の身は私達が守ろう」 メリーを守る形で、ガッツリとエインシャントが立つ。メリーが頷いて、手を上に向けた。 「頼むのだわ。では、結界を解くのだわ」 パチン、と小さな音。メリーが指を鳴らした音だ。結界が消えて、広間に黒い霧が侵入してくる。 『今のところ、敵の気配はありませんね』 汐崎の声が頭の中に直接響く。 「いや、来たみたいだよ?」 集音装置に耳を傾けていた神薙が言う。一同の間に緊張が走った。メリーの身を守るように、宇賀神が前に出る。片手にクロスを握りしめ、廊下側に視線を向ける。 最前列で武器を構える神薙と東雲。 その後ろには、鈴木と汐崎が待機する。 「中々、入ってこないな」 氏名が呟いた。 彼の言う通り、敵はこちらを警戒しているのか廊下から広間の入ってこない。 チラと、霧の中に人影が見えた。それを見て氏名が廊下に飛び出していった。 「入ってきてもらわないと、せっかくのメリー嬢の勇気が無駄になっちゃうんでね」 廊下から、広間の様子を窺っていた2体の恐怖。その内、近くに居た方に氏名が気糸を伸ばす。攻撃を受けた恐怖は、激昂して氏名に近寄っていく。 恐怖の周りに木材が浮いていた。ポルターガイスト。霧のせいで、近くに来るまで気付けなかった。木材に叩かれ、氏名が床を転がる。 直ぐに起きあがって、もう一体の恐怖へ気糸を飛ばした。 「さぁ、鬼ごっこだ!」 当たったかどうか確認している暇はない。追撃を避けるように、広間に戻る。滑るようにして後ろへ下がった。 肩から血が流れている。それを見て汐崎が一瞬怪しい笑みを浮かべる。なにかよからぬことでも想像したのかもしれない。 『下らない妄想はここまで。速やかに癒しましょう』 と、頭を振って雑念を振り払い氏名に駆け寄っていく。 部屋に入って来た恐怖目がけ、鈴木の矢とガッツリのダガ―が襲いかかる。しかし、ポルターガイストに阻まれた。その隙に2体の恐怖へと接近していた神薙と東雲が剣を構え、振りまわす。 残像が、2体の恐怖を切り裂いた。 2体の姿が薄くなる。そのまま消えるかと思われた恐怖だったが、辛うじて形を留め、廊下へ向かって逃走を始めた。 しかし……。 「そうはさせないのだわ」 2体の恐怖は、見えない壁のような物に阻まれ、廊下に出ることはできなかった。 逃げられないと分かると、恐怖はメリーに向かって霧の塊を打ち出してくる。結界を張っている彼女を石化させ、逃げるつもりなのだ。 恐怖の攻撃からメリーを守るように、宇賀神とエインシャントが前に出る。 宇賀神はクロスを掲げる。 エインシャントは、盾を構えた。 霧の塊は、メリーに届くことなく消えた。 「チャンスだお!」 ガッツリの声と共に、恐怖目がけて斬りかかった神薙。素早い動きで繰り出される斬撃が恐怖の身体を切り裂いた。 「終り、ね」 振り下ろされた東雲の剣。恐怖を切り裂き、掻き消した。剣の先が床に当たり、その部分が爆ぜる。 衝撃で、立ちこめていた霧が吹き飛ばされる。 「これで、帰り道の安全は確保できましたかね?」 広間を見渡し、鈴木は満足そうに頷くのだった。 ●元の世界へ帰る時 「それじゃあ、元気で」 「もうあんまり無茶はしないようにね、お転婆さん」 メリーの頭を撫でる宇賀神と、彼の後ろで少し寂しげな表情を浮かべている神薙。メリーの視線は相変わらず神薙の兎耳に釘付けのようだ。それを見て汐崎が苦笑する。 「お茶会、楽しかったわ」 そう言いながら、東雲はバスケットに入れたお菓子と花をメリーに手渡す。 「これも、どうぞ」 メリーの髪に赤い花を飾っているのは鈴木だ。メリーはくすぐったそうに片目を閉じた。 「お菓子、入れといたから。元の世界に帰ったら食べて」 なんて言いながら氏名が小さく手を振る。 「茶飲み友達の絆に……。元の世界に戻られて寂しくなられたら、我々の事を思い出せばと思う。Sehen wir uns wieder」 エインシャントが、床に片膝を付き、メリーの手の甲にキスをする。 「おっお~♪ 元気でね」 ガッツリはメリーに抱きついて、その髪にリボンを結んだ。 ガッツリが離れると、メリーは深々と頭を下げた。 「今回はお世話になったのだわ。本当に、感謝しているのだわ。あなたたちと会えなくなるのは寂しいけれど、わたしは元の世界に帰るのだわ。あなた達もお元気で。幸あらんことを祈っているのだわ」 そう言い残し、メリーはディメンションホールを潜って、元の世界へ帰っていった。 それを見送り、ディメンションホールを破壊する。 「良い夢は見られただろうか」 そう呟いたのは、エインシャントだった。 彼の声は、誰の耳に届くこともなく住人の居なくなった屋敷の壁に吸い込まれて消えた。 任務はこれで終わり。リベリスタ達は屋敷を後にする。 さっきまでディメンションホールのあった床。 戦闘の傷痕を残す屋敷の壁。 メリーの座っていた椅子と、使っていたティーセット。 そういった物を眺めながら、汐崎は思う。 今日、共に戦った味方はいずれ大物になるかも……。 今日、出会った隣人は今後良き隣人になるかも……。 そんな事を想いながら、彼女は屋敷の扉を潜るのだった。 これは、主のいない屋敷で起こった出来事。 人形の姫は元の世界へ。 染み付いた恐怖は消え去った。 屋敷の残されたのは、汐崎の描いた一枚の絵だけ。 それは、楽しそうに笑う銀髪の人形の絵だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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