●とある町の法律事務所にて。 窓の外が騒がしかった。 それに対して、部屋の中は静かだった。 窓の外から、「危ないからやめなさい」であるとか、「降りなさい」であるとか何か、それらしき言葉が聞こえている気がするけれど、拡声器のせいで声がひび割れていたりして、詳細のところは判然としない。 事の始まりにいち早く気付いたのは、そこに居る女子社員の人達で、窓の外を見ながら、えーなになにーとか何か、外で騒ぎ起きてますよ、的なアピールをしたかと思うと、ってことで仕事抜けてもいーですよね、みたいに、居なくなった。 それを皮切りに、何か、え、なになに仕事抜けていーの、見に行っていーの、むしろ見に行かないと駄目なんじゃないのー、くらいの集団心理が渦巻き、どんどん人がいなくなり、気付いたらもー、誰もいなかった。 とか、客人としてそこを訪れていた芝池は、完全に出遅れてしまったので、何かもー全然どうしたらいいか分からなくなり、方向性を見失ってしまった感じで、そのまま出されたお茶と共にぼーっと座っていた。 そしたら何か、 「って、外であんなけ騒ぎが起きてるのに、取り残されてる背中が凄い残念なんだけど」 とか、突然聞き覚えのある男の声が、言った。 振り返ってみたら、三高平で会うならまだしも、外とかでは絶対会いたくない感じの、アーク本部所属フォーチュナ仲島が、いつものあんまり覇気なーい感じで突っ立っている。 「はー残念です。何か、気付いた時には人が居なくなってたので、完全に波に乗り遅れてしまった感じでした」 「誰か、飛び降りようとしてるらしいよ」 「大変ですね。っていうか仲島さん、何でこんな所に居るんですか」 「んー、それはね」 とちょっと勿体付けて、「芝池君が居るからだよ」とか何か、続ける。 とか完全に無駄で、むしろ意味不明だったので、「あーそれは大変ですね」とか何か、いい加減な返事を返す。 「っていうかあれでしょ、芝池君、外の騒ぎとか本当は全然興味ないんでしょ」 「そんなことは、ないですよ」 「って思いっきり顔が嘘だよね」 「はー思いっきり顔が嘘っていう表現も何か良く分からないですけど、とりあえず、外ではいろいろ事件とか起きて大変だなあ、くらいは思ってますよ、本当に」 とか何か言ったら、実は全然聞いてませんでしたー、みたいに完全に流す感じで、仲島が、ぼーとか、見つめて来た。 それで暫くして、「ねえねえ、誰もいないオフィスに二人きりってさ、ちょっとどきどきするよね」とか同じ表情のまま、俄然意味不明な事を言う。 とりあえずもうどうしていいか全然分からなかったので、芝池は、その無駄に美形の顔を、ぼーとか眺めた。 「んーあのー仲島さん」 「うん何だろう、芝池君」 「とりあえず、全くどきどきしないんで、帰って貰っていいですか」 「じゃあ帰るの嫌だから、仕事の話とか、していい?」 「マイルドに仕事の話、なんて言い方してくれましたけど、貴方の仕事と総務の僕の仕事、ほぼ関係ないですしね」 「俺の資料を作るのは、君の仕事でしょ」 「あれどうしよう、何か勝手に仕事の内容増やされてる、どうしよう」 「今回はね。アザーバイド送還と、Eゴーレムの討伐をお願いしたいんだけどね」 「あ、戸惑ってても、勝手に話は進むんですね」 「廃線になった鉄道路線上にある、Bという駅の待合室に、アザーバイドが出現しちゃうみたいでね。これを捕縛、送還して欲しいのと、それから、そのアザーバイド出現の影響で、A駅からB駅の区間に、電車と芋虫を足して2で割ったようなEゴーレムが発生しちゃうんで、これを討伐して欲しいっていう依頼ね。アザーバイドは、別に何の特徴もない、見た感じ、この世界の一般人とも同じような外見の青年が一人。D・ホールは、同じく待合室内に貼られた、ポスターの中のどれかに出現することが分かってる」 「どれかってことは、幾つかあるんですよね。どんなポスターがあるんですか」 「んーどんなポスターがあるんだろうね」 「いやこっちが聞いてるんですけどね」 「でね。E・ゴーレムは、3匹出現する」 「あれ、質問には答えて貰えない感じですか」 「あとで詳しく説明するけど、とりあえず芋虫苦手な人には、あんまり嬉しくない外見かも知れない。あと、外殻は、硬い」 「電車と芋虫足して2で割ってるんですもんね」 「それから、時間帯は夜で、今回は光源がないからね。それは用意して貰わないといけないかな。林の中を通る路線だったから、足場は、あんまり良くないかも知れない上に、A駅からB駅の途中には、谷の上にかかる陸橋もある」 「はー陸橋」 「わりと高くて、下に流れる川も勢いが凄いから、戦う場所は考えた方がいいかもね。まー、リベリスタの人達なら、落ちても大怪我したりしないけど、戻ってくるのがちょっと大変そうだし。落下に注意、ってことで」 「ってそう言ってる今まさに、外に落下しそうな人が居るとか、ちょっと面白いですよね」 「うん面白いって言っちゃうのもどうかと思うんだけどね」 「ですよね、面白くないですよね」 「あとやっぱり、二人きりのオフィスってどきどきするよね」 「するよねってしないですしね。しかもこれ言うの、二回目ですしね」 「どうせなら折角だし、ちょっと触れ合ったりしてみようかと思うんだけど、どうだろう」 「いえ、何か今まさに、資料作れとか、無駄な仕事押しつけられて頭が忙しいんで、遠慮します」 「あら残念」 「はい、残念です」 「って思いっきり顔が嘘だよね」 「って、思いっきり顔が嘘っていう表現は相変わらず全然分からないですけどね」 そしてこの法律事務所の人はいつ帰ってくるのか、むしろ戻って来ないんじゃないかしら、と、段々心配になり、芝池は、思わず窓から外を覗き込む。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月29日(日)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「この辺りで待ち伏せしない?」 と、セレア・アレイン(BNE003170)が仲間達を振り返った。 確かにその場所だけ、林の木々がまだらに途切れ、ぽっかりと開けた空間になっていて、他の場所より若干見通しが良さそうに、思えた。 前方には陸橋が見えている。今は見えないけれど、背後にはB駅があるはずで、リベリスタ達は今、その二つの間に立っていた。 「そうですね」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が、辺りの状況を見渡しながら、頷く。 「陸橋の上での戦いは避けたいですし。E・ゴーレムが何処から出現してくるかはまだ分からないですけど、陸橋の方角から現れたら仕掛けて、B駅の方角から出現した場合は、一旦陸橋を通り過ぎるまで距離を取って見てもいいかも知れないですしね」 「だね。とりあえずわざわざ陸橋で戦う理由はないし、移動しながらの戦闘で気がついたら陸橋、っていうのも嫌だしね」 そしたらそこで、にこにこと、むしろふにゃんとした癒し系笑みを浮かべながら二人のやりとりを聞いていた小鳥遊・茉莉(BNE002647)が、 「はい。ここなら陸橋の上でもないし、見通しもいいんで、良いと思いますぅ」 とか何か、16歳ですぅ、女子高生ですぅ感満開で同意とかした。 そしたら何か、ブロンドの髪の襟足とか撫でながら、 「まあ最悪、陸橋の上で戦闘となってしまっても、この神城は僅かな足場でもあれば超絶なバランス感覚でどうにかするがね?」 とか何か、『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)が芝居がかった口調で話に割り込んできて、ついでにぱちん、と茉莉にウィンク。 とかもーえーこれどーしていーか全然分かりません、みたいに茉莉がとりあえずにこにこしたまま、スルーしている。 とかまだまだ全然気づいてない涼は、更に反対側の隣に居た、『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)に、「ほら所謂ハイバランサーってヤツだよ」と、また芝居がかった口調で言って、しかも何故か無駄にくるん、と一回転。 とかいうのをじーっと、無表情に眺めた悠子は、「そうですね」と暫くして、ポツン、と言った。 「戦闘場所が陸橋になってしまった場合は、いっそうまく立ち回って下に落とすことも狙ってみましょう」 って涼をガン見した。 「つまり、川底へ叩き落とす、ということですが」 って、更に何か物凄い威圧的ではあるけれど、あれ? それ、要りますか? みたいな説明を付け加えた。 涼は、やばい、やられる、っていうか、え、それ確実俺落とす気ですよね、みたいな、殺気のような物を感じ、でもそこは、「え、俺落とす気ですよね」って言って、「うん」って言われたらどうしようっていうか、確実に普通に頷いてきそうな気配があったし、そんな現実は見たくなかったので、とりあえず聞かなかったことにして、あーそーですかーみたいな、「うんうんそういう戦法もありだよねー」とか何かへらへら言いながら、そーっと距離を置く事で、やり過ごした。 「それにしても電車と芋虫。どちらともいえるようなエリューションを討伐するんですよね」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が、困りましたわ、みたいに困惑したように頬に手とか当てながら、呟いた。 「ワタシは昆虫はあまり好きではないんですよね……もちろん、お仕事ですので、一生懸命頑張ろうとは思っているのですけど……」 「電車のゴーレム……まぁ芋虫とはいっても電車が混じってますし、そう嫌悪感は感じないと思うんですけどね」 悠子が、口調こそ冷たい感じだったけれど、励ましているに違いないような事を、言う。 そしたらまた何か、ここぞ、とばかりに涼が「大丈夫だよ、もしも、敵の醜悪な外見にどうしようもなくなった時は、リサリサは俺の後ろに隠れていればいいんだよ。そう、このハイバランサー涼の後ろに隠れていたまえ!」 って何かもう言ってる内に一人でテンション上がっちゃいました、みたいに両手を広げた涼の後ろですかさず、 「……けれどあんまり暴れられれば迷惑、さっさと退場願いましょう」 とか、つめたーい切れ長の瞳を更に細めた悠子が、言った。 ビクッ、と殺気を感じた猫、みたいに身を縮めて、ハッと振り返った涼と目が合うと、彼女は 「ええ、もちろん、敵の話ですが」 ってもーその説明が、既に、臭い。 「うんそうだね」 そしたらセレアが、凄い軽く同意して、 「芋虫とか、全然好きじゃないから容赦なく叩き潰しちゃえ☆」 って、凄いライトーな感じだけど、良く考えたら、わりと物騒な事を口にする。 「あ、そう。うん芋虫が、苦手なんだね」 そうそうわかるよわかるよーとか何か言いながら、やっぱり涼は、女子達と、そっと、距離を置く。 「んー、まあ、苦手とかじゃないんだけど。ほら、嫌いだから。嫌いな物なら、容赦なく叩き潰せるかなって」 そして、セレアは、てへ☆ みたいにまた凄い可愛く肩とか竦めてみせた。 けど、最早全然、可愛くない。 そしたら何か、ふわーんって微笑んでいた茉莉までもが、 「ええ、ええ、分かります分かりますぅ、嫌いな物なら容赦しなくていいですよね」 とか何か同意してきて、涼は何だか凄い、裏切られた気分になった。 つつつつーって更に女子達と距離を置き、少し離れた場所に立ってぼーとかしていた『チェインドカラー』ユート・ノーマン(BNE000829)の方へと歩み寄って行く。 そして、「今日の女子達はあれだね。若干、物騒系かね」とか、合コンで女性を値踏みするかのようにひそひそと言ってみた。 そしたら、振り返ったユートが、 「なあなあ、そういえば俺、思ってたんだけどさ」 と、すっかり話に乗ってくれそうな気配だったので、おお、同士よ、何を思ってたんだ、とか何か、すっかり同士気分で、言葉を待った。 「線路に芋虫って何かこう、スチームパンクっぽい雰囲気、じゃねえ?」 って、突然全然関係ない事を、若干テンション上がってます、みたいに言ってくれたユートの顔を、ちょっと何か、眺めた。 「うんユートあの……」 「おう」 「いや……スチームパンク的な映画とか、好きなんだ?」 「まあ、ちょっとな」 って痩せぎすの野良犬ちゃんみたいに、瞳を若干爛々させたユートは、ちょっと恥ずかしそうだ。 とか、そんなピーターパンみたいな君に、女子とか合コンとか、まだ言ってないけど言おうとしてごめんね、と涼は、何かちょっと申し訳なくなった。 「とにかく。芋虫みたい、とはいえ、E・ゴーレムである以上、元は電車なのでしょうし、突進は危険そうです。気をつけないと」 佳恋がすっかり真面目な口調で言い、場の空気を引き締める。 「気を抜かずにいきましょう。E・ゴーレム自体がこの世に崩界をもたらす物、ですから」 「まあまあそう気負わずにね」 例え物騒系だろうと何だろうと、やっぱり女子が好き、なので、涼はここぞとばかりやっぱり口を挟み、 「いえ、気負っているつもりはないですが、少し真面目すぎる、とはよく言われます。とはいえ、やはり気を抜くわけにはいかないと思いますので」 とかやっぱり、物凄い真面目に返されて、「あ、うん」ってもー何か、一番、負けた気がした。 「光で寄ってくるかも知れないわね」 セレアが言って、懐中電灯の明かりをゆらゆら、と揺らす。「私達はここに居るわよー、さー、襲ってきなさい!」 「これが俺の初依頼か……ワクワクしてきたぜ!」 鉄 勇人(BNE003744)が、緊張した面持ちで、茉莉から貸して貰った懐中電灯の明かりを、同じように、揺らした。 ● ギギギギギギギギ。 そうして暫くした頃、そんな、鳴き声とも鉄の軋む音ともつかないような音が、遠く、リベリスタ達の耳を突いた。 きゅ、と皆の顔が引き締まる。 「来たんじゃねえか」 ユートが、Shield of Dreamを手に、敵へと向かい歩み出た。「打撃力は兎も角受け止める方はまァ得意な方だ。来るなら来いよ」 ガガガガガガガ。と、線路が振動し始める。 ガシャガシャガシャガシャと、多くの何かが、恐らくそれは足だったのだろうけれど、線路の上を騒がしく蠢く音が、聞こえた。 音は近づいてきて、どんどんと近づいて来て。 それはとうとう、姿を現す。 「……でけェイモムシ以外の何者でもねェ」 ユートが、思わず、みたいに呟いた。 「んー、確かにあの眺め、生理的な嫌悪感を感じるけれども、まあ、そうも言ってられないしな」 唇を歪めながら呟いた涼が、トップスピードを発動する。瞬間、身体の中のギアが、頂点を指した。突進してくるE・ゴーレムの脇を、風のように駆け抜けていく。木々がざわざわと揺れる。戦場と化した林が激しく慟哭する。 その間にも、マナサイクルで自らの魔力を活性化させたリサリサが、突進してくるE・ゴーレムに向け、表面に星型の意匠が刻まれた、大型の丸盾を構えるユートへと浄化の鎧を発動した。輝く光のオーラが、鎧のように、その痩身の体を包む。 ユートは、魔落の鉄槌を発動した。大きく盾を振りかぶる。最早、攻撃なのか防御なのか、あるいはその両方であったのか、何だかよく分からない衝撃を、どーーーーーーん! と、芋虫電車に向け、放った。 強い衝撃に、辺りの空気が振動する。線路も、揺れた。 それを受け芋虫電車達は、連結を離し、三体の物体となる。 その瞬間を待ってました、とばかりに、木々を足場に上空から飛び込んで来た涼の奇襲が、炸裂する。 狙いを定め、ライトの部分を斬魔刀・紅魔の刃で突き刺すと、天井からそれを軸にして、ふわ、と回転するように地面へ降り立った。細身の体をしならせ刃を抜くと、これで終わりとは言わないよね、とばかりに不敵な笑みを浮かべ、すぐさまソニックエッジを発動する。 「一撃はそんな重くないかもしれないが、連続で入れることが出来ればそれなりのダメージにはなるだろう?」 あえてその硬い場所へと挑むように、斬魔刀・紅魔の刃をぶつけて行く。少しずつ硬い外殻が崩れていく感覚。その細腕が、痺れるような快感に震える。 けれどその猛攻を止めるかのように、背後から別の芋虫電車が、ライトをピカッ! と。 「おっと、それはさせねえって」 ズサッと前へと歩み出たユートが、大きな盾で眩いばかりのライトの光をキッチリガード。「……まァ何の為の盾だっつゥ話だな。おらよ、反撃だ!」 そしてそのまま、逆に、とばかりに、大きな盾を構え、突進していく。 ガッツーン、と、相手にも打撃は当たったはずだけれど、自分にも反動が来て、おわ、と思わず跳ね返る。 その前へと歩み出たのはリサリサで。 「私にできるのは癒すこと、そして護る事……後で悔いることの無いように自分にできる精一杯を……!」 L・J・Mロッドからマジックアローを放ち、敵の気を一旦逸らすと、体制を崩したユートの腕を引っ張った。 「あなたはワタシが護ります……さぁ、頑張って参りましょう……!」 「引き継ぐわ、こっちは任せて!」 セレアの声と共に、チェインライトニングの、激しく荒れ狂う雷が敵を襲った。凄まじい雷撃に貫かれ、芋虫電車はびりびりと感電し動きを止める。 「ガンガンいくわよ、特に手加減する理由もないし!」 そこへ、佳恋と勇人が飛び込んでくる。 「……行きます」 佳恋がメガクラッシュを放った。全身のエネルギーがグレートソードへと集中する。激しい熱を持った刃が、目玉だかライトだか良く分からない部分を、的確に、突き刺した。 とか、それを見ていたセレアは、あの部分は柔らかそーよねーとか何かふと思い、そういえば、芋虫って食べる地域もあるんだっけ? とかちょっと思って、あまり気が進まないけど、とりあえず話半分にどんな味なのか吸血してみよう。うん。とか何か、一人で驚異の思考の三段跳びを見せ、どやーと飛び込んだ。 「さぁ~て、ちょっと血ぃ吸ってみようかしら」 って軽く言ってるわりに、むしろ思いっきりやる気で、ガブぅぅぅッと噛みつく。 ヒット&アウェイ。 口元を拭う。 「ん、意外といける味?」 「そんな馬鹿な!」 爆砕戦気で高まっていた闘気の勢いで、若干壊れ気味のヴァンパイアに思いきった否定の指摘をしておいて、勇人はメガクラッシュを発動する。 バスタードソードを振りかぶり、弱り切った芋虫電車へトドメの一撃! とかいう彼らから少し離れた場所では。 茉莉が、その頭上に出現させた、黒く巨大な大鎌で芋虫電車を斬り付けているところだった。その硬い外殻にぶつかる度、鎌に刻まれた収穫の呪いが、闇の中に淡く輝く。 けれど敵も、ぶわああ、と炎を吐き茉莉への反撃を試みた。避けられると今度は、ぐっと赤い瞳で茉莉を見定め。 くる。 その瞬間を狙い、悠子が躍り出た。 突進してくる物体を見定め、紅死連を構える。 「正義のヒーロー、悠子っ」 って凄い小さな声で、実はこっそり大好きなヒーローを気取り、呟いてみた。 クールで知的な雰囲気を装っているけれど、本当の所は正反対の熱血馬鹿な彼女の戦法は、まさしくその熱血感が溢れた、男気あるもので。 まずは突進してきた敵を、ソードエアリアルでびっくりするような跳躍と共にぶわあと回避! 闘牛の牛の如く、思いっきりスルーされた敵がえー! ってなった瞬間、背後からギャロッププレイを繰りだし、気糸で敵を締め付けてぇー。 「かーらーのー、ブラックジャーック!」 どやー! みたいに、三メートル程も伸びる破滅的な黒いオーラが、芋虫電車の目の玉目掛けて、放たれる。 ブササアアアッ、とその一撃は致命的で、芋虫電車は痙攣し、息絶えた。 と。 それを見届けました、みたいに、スタッと、黒い髪を靡かせながら、地面へ降り立つ悠子。 その顔は、相変わらず、クール。 でもその内心は。 こ、こわかったぁ~……。って思ってるけど、それは、仲間達には、内緒なのだった。 ● B駅に居たアザーバイドは、佳恋が「貴方は次元の穴を通ってこちらに来てしまった存在です。可能であれば、元の世界に帰っていただけないでしょうか」と状況を説明し、茉莉が説得をしたら、はーじゃあ帰りますね、みたいに、わりとさくっと素直に、帰って行った。 っていうか、そのアザーバイドとのコンタクトの最中に、 「私でよければ話くらいなら、お聞きしますよ。何か思い残した事や、不安があるなら、話して下さい。これでも、伊達に81年生きてるわけではありませんし」 って唐突に明かされた茉莉の衝撃の事実の方がインパクトで、 「えっ、80歳なんですか」 「え、80なんすか」 って悠子と涼は思わず食いついたし、今もってその衝撃の事実冷めやらぬ感じだったのだけれど、 「いえ、81歳ですぅ」 とか一人のんびりと訂正をした茉莉が、とにかくそんな歳の甲でアザーバイドを説得し、それがだいぶ有効だったのは確かで、暫く二人で何事かもそもそと話しこんでいたら、じゃー帰りますね、みたいにアザーバイドはポスターからさっさと帰って行き、佳恋とリサリサのブレイクゲートでD・ホールを破壊して無事に終了。 したはいいけど、やっぱり、どう見ても16歳にしか見えない茉莉が81歳とか、信じられない。っていうかもー何も信じられない。って涼は駅の片隅で、茫然としている。 「まあ、強引な手を使う必要がなくて良かったですね」 悠子が、何だったら私、やる気でしたけどね、くらいの調子で、言う。 「でもあのアザーバイドの青年、わりと好みだったんだけど。ちょっと名残惜しかったわね」 ポスターを眺めながら、セレアが答えた。 「でも、アザーバイドだしよ。恋愛とかは、ほら」 勇人は、そんな彼女を、ちょっとだけ励ます気分で、言ってみる。 けれどすかさず、 「いや、恋愛の話なんてしてないって。味見したかったな、って思っただけよ」 とか、やっぱりちょっと破天荒な匂いのする言葉を言われ、何かもう、負けた。だいたい、味見って何だ、味見って。とは、怖くて、絶対、言えない。 「しかし、何で駅なのかね……」 そこでふと、そういえばみたいに、ユートが言った。「E・ゴーレムにしても、何で、電車で線路なんだろーな。ま、理由なんてないのかも知んねえけどさ」 「もしかしたら……もしかしたらですが……」 リサリサが、呟くように、それに答えた。 「この廃線になった線路も……まだ使ってほしい、と思っていたのかも知れないな、なんて……ちょっと思ったんですよね。また人を乗せて走らせたい、という気持ちのような念が、アザーバイドを呼び寄せたり、あの電車になって現れたりしてしまったのかも、って。時代の移り変わりが生んでしまったものではないでしょうか」 そして仲間達の視線に気づき、ハッと顔を上げ。 「……と、ワタシは思ったわけです……」 恥ずかしげにはにかみながら、小首を傾げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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