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<六道>奪うこと、炎の如く

●『セリエバの枝』と坂木一族
 願望器。
 願いを叶えてくれるアーティファクトは、その代償としてとんでもない不幸を与えてくれるものが多い。
『セリエバの枝』もその例に漏れないアーティファクトである。神に近い能力を与え、死者復活すら叶う……というものだが、実際のところは力を求めるものの運命を食らってノーフェイスにしたり、死者をEアンデッドにしたりと迷惑千万なことこの上ないアーティファクトである。
 そんな危険なものは破壊すればいい、という意見もあったが壊せばどうなるかがわからない以上は迂闊に壊せない。最終的に坂木と呼ばれるリベリスタの家系が封印し、厳重に取り扱っていた。
 そんなリベリスタの家に、炎が上がる。全てを壊す破壊の炎が。
「何者だ!」
 消火に勤しむ坂木一族。誰かが炎の中に人影がいるのを見つける。
「ケタケタケタ! ワタシが何者ってーよりモ、何しにきたかって方が大事ダロ? ああ、そいつは推測がついてるノカ。そりゃソーダヨな!」
 炎の中、一人の少女が笑いながらやってくる。チャイナ服を着た少女は周囲を燃やす赤い炎を指差して哂う。
「ここまでやっといてオ友達になろう、ってワケもいかねぇヨナ。コリャ失敬! マー、そんなわけダ。『枝』ヨコシナ」
「黙れ賊! ここまでされて大人しく渡すと思うのか!?
 我等坂木一族総勢十四名! これだけの数を相手に勝てると思うなよ!」
「アーア、渡せば痛い目見ずにすんだのにナ。拷問させてもらうゼ!
 痛いのは最初だけダゼ? ケタケタケタ!」
 ナイフを構える少女。そして炎の中から現れる獣。たとえるなら炎の鬣を持つ黒い馬。炎の蹄で地面を蹴りながら、走ってくる。らんらんと赤く光る瞳は、宝石のよう。生物とは思えないほど無機質だった。
「『焔環陣』展開! 全て炎に包まれナ!」
『チャプスィ』は懐から大きさ5センチほどの何かを取り出す。炎の走りが加速した。人の手では抑えられないほどに炎が燃え上がる。

●アーク
「任務はフィクサードの撃破。あるいはアーティファクトの保護」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。
「加勢は間に合わない」
『万華鏡』が補足した未来を逆算した結論。どれだけ早く行っても、坂木一族とフィクサードの戦いに加勢することは叶わない。
「急いでいけば、生き残りにアーティファクトの場所を聞き出そうとしているところに間に合う」
 その『聞き出し方』も死人に鞭打つような酷いものらしい。詳しくは教えてくれなかったが。
「フィクサードは『チャプスィ』と呼ばれる六道所属のナイトクリーク。護衛に炎のEビーストがいる」
 能力は炎の息を吐いたり、炎の蹄鉄で蹴ってきたりする。多少傷ついているけど、それでも強敵。それが二体」
 七派フィクサード組織のフィクサードに強力なEビースト。
「戦う場所もまだ火事の最中だから危険。長居はできないと思って」
 おまけに制限時間まである。
「……最悪、フィクサードにアーティファクトの情報を与えさせなければいい」
「それは……」
 イヴは首を振り、それ以上の発言を遮った。
 アーティファクトの情報を知るのはリベリスタの一族。その一族の口を封じれば、最悪の事態は防げる。
 イヴがそれを提案したのは、つまりそこまでしなければならないほどの相手だということだろう。
「作戦はみんなに任せる。ただし危なくなったら逃げて」
 オッドアイがアークのリベリスタを見る。その目に映るのはリベリスタに対する信頼と、危険な目にあわせることに対する不安。彼女を見慣れてなければ気付かないかすかな表情の揺れ。
 その瞳を受けて、リベリスタ達はブリーフィングルームを出た。 


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月04日(金)23:49
 どくどくです。
 炎で崩れ落ちる戦場の中、あなた達は何を守れますか?

◆成功条件
 フィクサードにアーティファクトを奪わせない。
『フィクサードがアーティファクトの情報を得た状態で』『戦場から離脱する』と失敗です。
 逆に言えば、それ以外の結末なら成功です。

◆敵情報
 フィクサード『チャプスィ』
 ビーストハーフ(コウモリ)×ナイトクリーク。
 本名不明のフィクサードです。ただその二つ名で知れ渡っています。非戦闘アビリティを駆使し隠密や情報収集を得意とするフィクサードです。10代前半のチャイナっ娘の姿をしています。
 必要があればリベリスタと戦闘を行いますが、アーティファクト情報を得るか、状況が不利になれば撤退します。CT値高め。
 初期配置は後衛。坂木家の一人を踏み、痛めつけています。なお『拷問する』ことは行動です。つまり『拷問』している間は『チャプスィ』はリベリスタに攻撃できません。

 活性化スキル(わかってる範囲)
「ダンシングリッパー」
「テラーオブシャドウ」
「ルージュエノアール」
 EX 奇門遁甲(P 何人にブロックされてようとも、囲みから逃げ出すことができます)

アーティファクト『焔環陣』
 周囲の炎をコントロールします。戦場内にある『火炎』『業炎』『獄炎』のWP判定&スキルによる回復値を-20。ダメージを2倍にします。
『チャプスィ』が撤退すれば、効果はなくなります。

 炎の馬(×2)
 Eビースト。フェーズ2。
 炎の鬣をもつ馬です。炎の蹄鉄は地面に燃える足跡を残し、その吐息は熱気となって肌を焼きます。
『チャプスィ』の命令に忠実に動きます。初期配置は前衛。

 炎の蹄鉄 物近単 炎の蹄鉄で蹴り飛ばします。獄炎、ノックバック。
 炎の嘶き 神遠範 嘶く声が炎となって辺りを燃やします。火炎。
 炎の疾走 物近貫 炎の残像を真っ直ぐ走らせ、一直線に燃やし尽くします。業炎、致命。
 炎の抱擁 P   復活の炎が体を癒します。リジェネレート60。
 火炎無効 P   同名のスキル参照。

 坂木一族。
 炎の中で倒れています。戦場に残っているのは三人。そのうちの一人が『チャプスィ』に捕まり、拷問されています。
 三回『拷問』されれば、アーティファクト情報を教えます。拷問に耐える娘に耐え切れず、入り口に倒れている親が喋ってしまう形で。
 誰かが殺すつもりで攻撃すれば、フェイトの残存数関係なく死亡します。

◆場所情報
 坂木家。かなり大きな洋館のエントランス。リベリスタ到着時は燃え盛っています。野次馬などがいますが、戦場までの案内や潜入などはアークが行ないますのでご心配なく。
 光源や足場、広さなどは問題ありませんが、熱気が渦巻いています。『チャプスィ』に捕われていない坂木家の人は既に逃げたか、あるいは入り口に転がっています。
 15ターン後に館は崩壊し、戦闘は強制的に集結します。このとき『チャプスィ』がアーティファクト情報を持っていた場合、『セリエバの枝』は奪われてしまいます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
プロアデプト
鬼ヶ島 正道(BNE000681)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
ソードミラージュ
★MVP
リンシード・フラックス(BNE002684)


「とっとと喋レバ、楽にイカせてやるゼ」
 坂木家の一人を拷問するフィクサード。十歳前半だろうその容姿は、見た目とは裏腹にその行為は残忍であった。もはや指先一つ動かすことすら困難な女性を踏みつけ、痛覚を刺激することで苦しめている。痛覚は肉体を苦しめ、同時に精神を苦しめる。その悲鳴により苦しめられる親たち。
 そこに、
「そこまでだチャプスィ! その首もらいうける!」
『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が横なぎに愛剣『デュランダル』を振るう。紅に光る大振りの攻撃は、紅の面を生む。それに巻き込まれぬよう、『チャプスィ』は身をかわした。避け切れなかったのか、チャイナ服を裂いて赤い血が流れる。
「ナッ、アークかヨ」
 回避の為に体を動かせば、重心が変わる。重心が変われば、自然と足の位置が変わる。
 坂木の娘を痛めつけていた足は一瞬宙に浮き、
「好き勝手してくれちゃってますね」
 その隙をつく形で『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が痛めつけられていた坂木の娘を回収する。抱えるように無理矢理引っ張った。
「力が在るから力任せに事をなす」
 大きな散弾銃『スーサイダルエコー』を構えて、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が五月を攻撃できないように『チャプスィ』の足に向けて散弾銃そのものを振るう。目的は当てることではない。防御させ、救出を邪魔させないことだ。
「何て、面白くない奴」
 それは挑発。そして喜平の本音。故に叩き潰す。それが可能か否かではない。その気概で挑むのだ。
「ケケッ! そいつは力がナイ奴の、遠吠えダゼ。力で蹂躙するのは楽しいカラナ。ヤラレリャたちかに面白くないだろうヨ。悔しかったらオマエも力をつけナ」
「一貫した外道ですねチャプスィさん」
 哂う『チャプスィ』の真横に現れる『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。虚ろな瞳で『チャプスィ』を見つめ、破界器を構える。『11人の鬼』と呼ばれた涙滴状の破界器が横なぎに払われる。
 ちらりと入り口で倒れている坂木一族の二人を見る。アーク職員に二人の救出を頼んだのだが、革醒者同士の勝負に巻き込まれれば命がないことと、野次馬などの事態収拾に人手を取られている為不可能であった。ダメならダメで仕方ない。思考を展開し、次善の策を考える。
「向こうは撤退するときにでいいでしょう。今はチャプスィを押さえ込みましょう」
『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)は機械化した右手を振り上げて『チャプスィ』に迫る。坂木の一族に関しては、口封じの手段もあった。大切なのはこのフィクサードにアーティファクト情報を与えないことだ。だが、リベリスタたちはそれを選択しなかった。
(口封じを示唆してもハッキリとやれ、とは言わないのは、まあ。上としても他にて望みのある結末があると踏んではいるのでしょうな)
 正道の推察が正しいかはわからない。とにかく今はその結末を導けるように努力するのみだ。
「チッ! オメーら、何してるんダ!」
『チャプスィ』がEビーストを叱咤する。こういうヤツラを止めるように命令していたのだが。
「あなたの相手はワタシ。楽しみましょう」
「Eビーストは……押さえます……」
 既にEビーストは『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)と『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が押さえ込んでいた。敏捷性の高い二人はEビーストの攻撃を避けながら、それぞれの破界器を叩き込む。
「炎の周りが早い。手早く決着をつけないとね」
『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は入り口の近くで待機して、戦況を把握する。『Eビースト』『坂木一族』『炎』……そして『チャプスィ』。障害に対するプランを並べ、それらを並行的に解決すべく論理を展開する。
「わざわざ炎の中に飛び込んでくるナンテ、おまえ達かなりキテるナ。
 焼き加減はレアからウェルダンまで様々ダゼ!」
 炎の中に響く『チャプスィ』の声。それはリベリスタの鼓膜に響いた。


 さて『チャプスィ』と言うフィクサードだが。
 六道所属の隠密と捜索を主とするフィクサードである。だからと言って戦闘が苦手かと言われるとそうでもない。坂木一族の館に攻め込んだのも、ここは力押しの方がいいと判断したからだ。14名の革醒者を圧倒するほどの実力はある。
 しかしいかに『チャプスィ』が強いと言っても、あくまで革醒者の範疇だ。ジャック・ザ・リッパーのような魔人の如く実力を持つわけでもなく、また温羅のように人のカテゴリーを越えているわけでもない。
 つまり何が言いたいかというと。
「うっとうしいゾ、おまえラ!」
 複数の革醒者に破界器を向けられれば、さすがに拷問どころではない。拷問をする対象は五月に奪われていた。追いかけることは可能だが、今囲んでいる彼らは当然『チャプスィ』を追うだろう。ならば彼女の矛先は自然とアークのリベリスタに向く。
「アッハッハ……御免チャプチャプさん、手が滑ったよ」
 喜平は着ているコートを使って『チャプスィ』の視覚を奪い、破界器に光を纏わせて幻惑しながら散弾銃を撃つ。大仰な動きで相手の動きを誘導しながら、調度物を落とすことでその動きを制限していく。
 まるで詰め将棋のように。追い詰め、追い込み、そして一撃を食らわせる。トリッキーな動きは相手にこちらの攻撃に慣らさせないための工夫。速度で圧倒し、手数で攻める。『やれるからやる』……革醒した意味、武器を持つ意味、ここにいる意味。その現実に目を向け、喜平は戦う。
「ケケッ! こっちも滑ったゼ!」
『チャプスィ』が持っているナイフを踊るように振るった。
「ダンシングリッパー? 後、私も使うから知ってます。それ、当たり難いから御し易い」
 うさぎが『チャプスィ』の隣から迫る。その破界器で刻む死の刻印。同じナイトクリークだからわかるナイトクリークの技の欠点。事実、『チャプスィ』のナイフはうさぎの肌を浅く凪いだだけに留まった。しかし、
「そーだな。それでも当たるもんダゼ」
 相手の攻撃を避けることが得意ではない正道と風斗はナイフの軌跡のままに傷つき、血が流れ出す。持ち前の防御力もあり今すぐ倒れるほどではないが、それでも実力差を見せ付けられる形となった。
 それでも。
「守ってみせる。情報も、人の命も、全部!」
 剣を手に全身の力を込める風斗。裂帛の気合と共にオーラが爆ぜる。紅色のオーラが、『チャプスィ』の注意を引く。こいつはヤバイ、と反射的にナイフを防御的に構える。
「くらえ!」
 大上段に振り上げ、真っ直ぐに下ろす。生と死を問う一撃はフィクサードに深い手傷を負わせるには至らなかったが、それでも冷や汗をかかせるには充分な一撃だった。
「ハっ! 素振りなら家でやりナ!」
「そうですな。手早く終わらせて家に帰りたいものです。お覚悟を」
 正道の機械となった右腕が動く。事故で失った腕は、革醒した時に機械となって蘇った。この機械の腕でアークの為に。アークははっきりと『口封じ』を告げなかった。その期待に応えるべく、機械の腕は振るわれる。
 振るわれた腕の動きは虚をつく動き。それはトリッキーに見えてキチンと計画された動き。放たれた一撃は『チャプスィ』の動きを封じ、制限する。一撃を受けてよろけた所に、
「どのような形であれ、『願いを叶える』と言うのはそれだけで人の心を惹き付ける」
 卯月が一点に絞った一撃を『チャプスィ』に放った。リベリスタを支えながら、同時に攻撃も行なう。火力としては弱い方だが、それでも積み重ねることが重要だ。何よりも『チャプスィ』を倒す必要はない。
「しかし、それを得るためにここまで酷い事が出来るなんてね」
「酷イ? コレでも交渉はしたゼ。
 ああ、すまネェ。降伏勧告カ。犬になって『枝』持ってきて這い蹲レバ、ここまではしなかったろうナ! ケタケタケタ!」
 始めから話で収めるつもりのない『チャプスィ』の言葉に、ため息をつく卯月。所詮フィクサードか。ならば作戦通り戦うまで。
「あっ……ぶないわねぇ。乙女はやさしく扱ってほしいわん」
 おろちがエリューションに蹴られ、距離を離される。バランスを取って着地すると、炎が纏わりついている蹄鉄の跡を手で払った。それだけで彼女を侵食しようとしていた炎が消え去る。
「ふふふ、チャプチャン待っていてね」
 おろちはEビーストと相対しながら、その視線は『チャプスィ』の方を向いていた。レズビアンでサディスト。『チャプスィ』の外道な顔が壊れる様を思い浮かべ、舌なめずりをする。その動きに集中しながら、Eビーストの攻撃に耐える。
「こんにちわ、お姉さん……ですよね?」
 リンシードはEビーストを押さえながら、『チャプスィ』に話しかける。見た目からではリンシードと『チャプスィ』のどちらが年上かは判断がつかない。最も革醒者を見た目で判断すると痛い目を見るのだが。
「こんな代償やばそうな……アーティファクト、手に入れてどうするんですか……何か叶えたい夢でも?」
 剣から光を放ち、エリューションを幻惑しながらリンシードが問いかける。何とか情報を得ようとたどたどしい口調で質問を重ねた。彼女は持ち前の回避性能の高さでエリューションの攻撃を凌いでいるが、それでも時折強烈な一撃を受けて炎で体力を奪われていた。『焔環陣』の影響もあり、疲労の色が濃い。
「そうですね、すごく気になります。それって貴女にとって生命を張る程の物なんですか?」
 うさぎもそれに便乗する形で問いかける。うさぎの場合は、撤退を促す意図も含んでいるのだが。
「『枝』で何をスルかは、上の考えることネ。アタシは命令を聞いて動くだけダ。
 ま、しくじったら評価が下がるんでナ。命を落とさない程度ニ、やらせてもらうゼ」
 唇を笑みの形に変える『チャプスィ』。その視線の先にいるのは、五月。
「来ますか。この娘は奪わせませんよ」
 坂木の娘を抱える五月。『チャプスィ』の方を見て構える。
(坂木の娘さんの安全は確保した。後は)
 五月は助け出した坂木の娘を抱えて、『チャプスィ』から離れる。あとは機を見て脱出するのみだ。撤退が始まるまでこの娘を守り――
(あれ、撤退のタイミングは? どのタイミングで撤退するの?)
 足が止まる。今ここで逃げるべきか、それとも余裕ができたら撤退すべきか。そもそも何をもって『余裕ができた』と定義する? 撤退のタイミングに関して、皆がいつ行なうかを決めてなかったのだ。
 迷う五月。わずかな逡巡と空白の時間。
「……程度が知れるよ、俺一人満足に倒せないんだからな」
「まだ倒れるわけには行きませんな」
『チャプスィ』のナイフで切り刻まれ、運命を使い立ち上がる喜平と正道。フィクサードは倒れぬリベリスタを舌打ちしながら、五月の背後を指差す。――Eビーストの方を。
「後ろダ。気をつけナ」
 熱波が走る。馬の姿をした炎の残像が、五月を襲った。
『チャプスィ』がEビーストに五月を攻撃するよう命じたのだ。炎の疾走が何度も五月を襲い、その意識を奪った。カウンターでEビーストにダメージを与えるが、それ以上の炎で焼かれてしまう。
「――なっ!?」
 五月は運命を使い起き上がるが、集中砲火されれば長く持たないのは確実だ。ましてや娘を庇う以上、回避もできない。
「しっかりその娘を庇えヨ。でないと死んじゃうゼ」


 さて『チャプスィ』と言うフィクサードだが。
 このフィクサードと相対する際において、何を警戒すべきだろうか?
 鉄壁を無にするナイトクリークの必殺の一撃だろうか?
 奇門遁甲におけるブロック無効の動きだろうか?
 否。確かにそれらは警戒すべきことだが、真に警戒しなければならないことは。
「ケケッ! おまえ達が坂木のリベリスタを守ろうとしているのは見え見えだからナ! そいつを最大限に利用させてもらうゼ!」
 その性格の悪さだ。奸智、といってもいい。
「情報源が死にますけど良いのですか?」
「おまえ達はイイ子チャンだからナ。動けない子は必死に庇うだろうヨ。
 それに情報源ならまだ二人、あそこ転がってるゼ」
 うさぎが攻撃を止めるように強気で言葉を発するが、『チャプスィ』は入り口にいる坂木の二人を指差して哂う。その坂木の二人は顔を蒼くして娘とそれを庇うリベリスタを見ていた。
「そんなことはさせないよ」
 卯月が親は狙わせないと親を庇いに入り……コレも彼女の策なのだと気付く。
 リベリスタは開幕直後、Eビーストの押さえを最小限にして坂木の娘を奪いに行った。この動きでリベリスタ達の第一目標は容易に推測できる。『チャプスィ』はそれを利用し、作戦の隙を突いたのだ。坂木一族を狙うと宣言するだけで、庇わざるをえない。例えハッタリとわかっていても、戦力を割かざるをえないのだ。
 情報源である坂木の一族を上手く戦闘圏外に運べていたら。Eビーストを一匹でも倒せていれば。何より坂木親娘救出の策を『チャプスィ』に悟られなければ。
 侮ったつもりはなかった。むしろ磐石を引いた作戦ゆえに、意図を読まれたのだ。
「……母、様……」
 炎の熱気で五月が倒れる。最後まで娘を庇い続けたのは賞賛に値するだろう。
「さて、ドースル? その娘、見捨てるカ?」
「くっ!」
 正道が坂木の娘のところに移動する。庇わなければ娘を攻撃する。『チャプスィ』の表情からそうするだろうことを直感で感じとった。ならば庇わざるをえまい。
「……っ! ……まだ……やれます」
 リンシードが業火の中、力尽きる。運命を削り剣を杖にして立ち上がるが、フェーズ2のエリューション相手に長くはもちそうにない。危険と判断した喜平がEビーストのフォローに入った。
「さて、コレはいよいよやばいか……!」
 喜平は散弾銃を構え、勝機が離れていくのを感じていた。
『チャプスィ』の手にした符が舞い飛ぶ。『チャプスィ』自身さえ誰にあたるか分からない当てずっぽうな一撃。しかしその札の一撃が、うさぎに放たれる。ふら、と崩れ落ちそうになるのを運命を燃やして耐え抜いた。
「ここまできたら根競べです。もう嫌だと言うまで、貴女の身に私を刻み付けて上げます」
「そうだ。俺たちは諦めない!」
 肉体制限を外し、その動きで自分を傷つけながら風斗が『チャプスィ』への一撃を放つ。手のひらに伝わる確かな手ごたえ。最高の一撃を当てられて、よろめくフィクサード。しかし、
「チッ、しつこいネ……!」
 倒すには至らない。喜平、正道、うさぎ、風斗、卯月の猛攻は確かに『チャプスィ』を疲弊させていた。坂木一族を見捨てて、攻撃を続けていれば確実に押し返していただろう。
 炎の馬がいななく。正道を爆ぜる赤が襲い、その巨体が地に伏した。
 リベリスタが力尽き、アーティファクト情報が奪われる。その未来が色濃くなってきたとき、水色の髪が翻った。
 剣を構えて鏡操り人形が疾駆する。庇う者のいない坂木の娘に向かって。

 リンシードの刃が振り下ろされた。
 その一閃で、坂木と言うリベリスタの一人が力尽きる。

「リンシード!?」
「……ここでアーティファクトを……渡すわけには……」
 恨まれてもいい。斬られててもいい。こうしなければアーティファクトを奪われていたのだから。そう言い聞かせて剣を引き抜いた。血溜まりの中、虚ろな瞳で奪った命を見る。
 ……大丈夫、自分は人形だから。呪文のように心で繰り返す。
「ケッ! 追い詰めすぎたカ」
『チャプスィ』がうさぎと風斗の囲いを抜けて後ろに下がった。リベリスタが『坂木の一族を殺しかねない』と判断すれば、無茶はできない。正攻法で突破するには、今の状態では生死に関わるだろう。そう判断して『チャプスィ』は撤退した。
「オメーラ、派手に暴れてロ!」
 去り際にEビーストに殿を命じて『チャプスィ』は姿を消した。その命令に従い、炎の馬は咆哮を上げる。
 リベリスタ達は『チャプスィ』を追わない。もとより追う予定はなかったし、その余裕もない。
 炎獣を相手にリベリスタ達は破界器を構え直し――


 Eビースト討伐にはあまり時間はかからなかった。後顧の憂いがなければ、全力で武器を振るえる。坂木の一族が加えていたダメージ蓄積もあり、館が燃え尽きる前に決着がついた。
 その後、リベリスタ達は傷だらけの体をおして燃え続ける館から脱出する。気を失っている五月と坂木親子三人を抱えて。
 娘を殺された親は、恨み言を吐こうと口を開き……顔を背けた。理性では仕方ないと納得しながら、感情では許せない。そんな葛藤。今のうちに去れ。怒りに震える体が、そう語っていた。
 その意図を察し、リベリスタ達は館を離れる。
 フィクサードの手に願望器が渡り、悲劇が生み出される未来はもうない。それは喜ぶべきことだ。
 だがその表情は渋い。満足いかない結末だったこともあるが、仕方なかったとはいえフィクサードを逃してしまったこともある。あの性格の悪いフィクサードを野放しにすれば、また何か事件を起こすだろう。
(また会いましょう姐姐)
 うさぎは再会を願って心の中で呟く。次は負けない。心の中で誓い、アークの車に乗り込んだ。


「回収失敗。アークがくるなんて予想外ネ。
 アン、キマイラの方はどうスルッテ? 知るカヨ。不完全でもやるしかネーダロ」 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
『チャプスィ』のイラストはたぢまよしかづVCに書いていただきました。
 この場を借りて、感謝の言葉を。
 いやん、かわいい。踏んでっ!

 結果は上記の通りです。少なくとも最悪の結果は防ぎました。それ以上は語りません。
 MVPは最後の保険をかけてくれたフラックス様に。

 お疲れさまでした。まずは体を癒してください。

 それではまた、三高平市で。