● 「?」 野良フィクサードを指差して。少年が立っているのを女性のフィクサードは確認した。 なんだ、エリューションか。まためんどくさいものに会ったなあ。 それを言おうとして女性は口を開こうとした。 けれど、開いたのは紛れも無く己の首であり……そこから血が噴き出す。 「殺す殺す殺すしね氏ね死ね全部全部ぼぼぼぼボクのボクの? ボクの!! あああれ、これボボくの腕だっけまあいいや殺すふしゅううううるるるるるるる食べる食べるたねるううう」 少年は拳を振り上げ、それを女性へと食い込ませる。そして切り刻み、叩きこみ、縛り上げ、また切り刻む。 少年の背中から生える触手は、先が剣と槍と銃の形をしていた。そして、生きているかの様に動いていた。 「だだだだだって殺さないとままままま、ままに怒られりゅんだもももううううくしゅしゅうふふううううふふふ」 最後の触手から出てきたのは、掃除機の先端のような大きな口。それが二つに分裂したフィクサードを飲み込んで、辺りの血でさえ吸い込んで。 それこそ、少年以外そこには何もなくなってしまった。いや、もう少年と呼ぶのはよしておこう。あれはエリューションだ。 存在をひとつ飲み込んで、またひとつ歳を重ね、エリューションは血の涙を流す。 「出してぇ、ここからだしてええだしてええだしてえええええ」 ……それを遠目で見る、丸眼鏡の姿。 「んー、並大抵の革醒者じゃ駄目こりゃいけない駄目だめ。アークとかが良い。 あ、学校があるんだ。 じゃあちょっと少々迅速にそこ行ってとりあえず適当に確実に丁寧に殺そうか、人でもなんでも。 それで食事もさせて、ある程度成長したら戻ってこさせよう。 データも取れるし。あ、ひらめきこれすごい万々歳。それがいい最高最悪最強くふふ」 彼の目線の先には、校庭で体育の授業中の学校が見える。 おや、一人の女の子が転んで怪我をしたようだ。 ――その少年だったエリューションの数日前の出来事。 「みなさんこんにちは皆々様こんちゃっす皆様こんこん! 奇堂みめめ奇堂みめめ奇堂みめめ。 皆さんの母親母さんママになる女で少女で高校生です、よろしくっす宜しく宜しくしろ下さいませませマセ、お願いしますお願いしましたお願いされたのはアナタ」 此処はとある実験室――その準備段階。 白の髪を左右でおさげにし、かなり典型的な丸眼鏡をかけた、自称美少女高校生のフィクサード。 華奢な体に似合わないぶかぶかの白衣を来た……男が居た。 奇藤みめめ。 六道の研究員にして、男にして、女装好き。見た目は確かに女だから仕方ない。 それはさておき、彼が覗き込む大きな真空管の中には、今しがた捕らえてきたばかりのリベリスタがその中で必死に真空管を叩いていた。 彼の言葉を使うならば、それは捕らえてきたのでは無く、救っただとか。 一人寂しく生きていた野良リベリスタだもの。フィクサードが有効利用してあげる。そっちの方がきっと良い。何がいいのかわからないけど、良いだとか。彼に理由と根拠があって行動するならば、それは気分以外の何者でも無い。 「出して出して此処から出して、怖いよ怖いよーデスですDEATH? 大丈夫、もうしばらく少しちょっとお待ちなさい。すぐにこう……ね?」 真空管の中から音は聞こえない。 その光景を見ながら想像したか、はたまた違う何かかは解らないが、みめめはそれを楽しげに見ていた。 「おっと、いけないだめだね、もうそろそろ間近というか時間接近ていうか、時間だ」 そう言いながら、みめめは――。 「でーきたできた、はい完成。みめめ天才秀才爆才。 できたものは試したい。さあ、おいき、完全へと目指して。 母をたくさん楽しませるのよん? 名前は、えーと……六人目の息子……ロクでいっか。 …………ハッピーバースデイ♪」 ● 「前見た……エリューションは」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は特に反応を求める訳でも無く呟く。 思い出すのは、人の形を持ちながらも異形の姿のエリューション。正体不明として見ていたが、キマイラとして名を付けたのだ。 杏里は集まったリベリスタ達の方向を向いた。そして今回の依頼の資料を配り始める。 「相手は、未だによくわかりませんが……おそらく、人の介入があるエリューション。えっと、キマイラと呼びましょう。 以前、何処かで戦った人もいるかもしれません。けれど、今はそれよりも強化されたものがあちらこちらに出没するのです」 その一つを今回倒すのが依頼だ。 授業中のとある学校で『母』は『少年』を放つ。 そこで無差別に、そして静かに惨劇が起こるという。それはまるで、見えている餌のようにも聞こえて。 「そうです。私達、アークが来るのを待っています。 それは承知しています。けれど、罪無き一般人が殺されるのは、見逃せないのです」 杏里は頭を下げる。危険に向かわすのは、いつものことだが……。 「キマイラは一体。ロクと呼ばれたキマイラです」 それは普段は少年の姿をしているらしい。だが戦闘モードになると、背中から多くの触手が生え、武器を持つ。 少年の意志とは別に触手は動くらしい。だが、少年の思考に沿って動くのは確かだ。命令等ではなく、同じロクとしての暗黙。 「特に掃除機の形をした触手には気をつけてください。 あそこから何かを吸うと、吸ったものによって少年が成長するのです。もちろん、飛躍的に能力も上がります」 吸うものは血であれ、肉体であれ、なんであれ。特に革醒者だと美味しいというから困ったものだ。 ロクは学校の校舎内のどこかにる。比較的、大事にはしたくないようで、人の少ない場所から狙っていくという。 「例え死体が発生しても、掃除機が速やかに飲み込んで、血さえ残さないほどに綺麗に処理します。 一般人でも食べれば成長するようです、できるかぎり、早急に見つけて処理してください。それと……」 今回『も』。 六道のフィクサードがエリューションを監視しているらしい。だが、万華鏡であってもその厳密な位置を掴めなかったと言う。 「けして、遠くでは無いのですが。 奇道みめめというフィクサードが来ています。 ですが、リベリスタには何もしてきません。此方も特に触れることはしない事をおすすめします」 そこまで言うと、杏里は静かに頭を下げた。 地面を見つめたフォーチュナを残し、リベリスタは戦地へと向かう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月22日(火)23:28 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●*に続く 「うんうん、ロクは良い子だ。頑張ってくれたね誉めてあげよう誉めるの終わり」 奇道みめめ。 丸眼鏡をくいっと鼻の定位置に戻しながら、うんうんと頷いていた。 ここは元の研究室。 「なかなか面白いデータが取れたよ満足十分最高だね。 今回赴いたリベリスタも含め、戦闘データは全て、私の頭の中を満たしてくれた結構結構コケッコッコーちゅんちゅんわんわんがうがう」 どこにでもある大学ノートに、頭の中であふれるインスピレーションを書き綴って興奮を抑え込みながら、みめめはふと思い返していた。 「よしよし良い子、良い子は好きすき大好きあいらびゅー」 ●とってくわれて 「いやーリベリスタって来るもんなんだね凄い凄い感動驚き阿鼻叫喚ですDEATH!」 みめめの目線の先には、八人のリベリスタが居た。 狙いは今、学校の中へと消えて行ったロク目当てであって。 「愉快爽快絶頂間近。こんなに楽しいことは無い無い無いねー。 踊らされちゃってもーまぁ、なんて可愛い子達でしょうか笑っちゃう笑っちゃえ」 データは全て、書式で綴るものでは無い。 記憶をデータとして、一秒たりとも見逃さぬ。 「はい。はい見えたー。もうバッチリ保健室だねぇー」 赤色に光る、遠くを見つめる二つの目。その先には廊下から一直線に少女の血を辿るロクと、部屋の中で手当てを受けている少女。 「だろ? 俺の睨んだ通りだな!」 赤い髪を真っ青な空に揺らす。 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)と、『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)は学校の中に侵入しており、葬識は壁ごしにそちらを見つめる。 時は一刻を争う状態。何せ、キマイラは動いているのだから。 見つけたのであれば、すぐさま行動だ。向かうは真っ直ぐに保健室へと。 「あはは、授業中の学校に侵入とかどきどきしますね!」 山田 茅根(BNE002977)。おじいちゃんは童心に返って、目をキラキラさせながら廊下を歩く。そんな頃。 「あれ?」 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)が首を傾げた。 「一人、足りなくないかい?」 リベリスタの数は七人だった。 子供を狙うだなんて、なんて卑劣な。 「悪いが校庭での授業は中止だ、教室に戻ってくれ」 リオン・リーベン(BNE003779)が校庭にて体育の授業中の教師と子供達に呼びかけた。 リオンから発せられる威風が教師を有無とも言わさず、更に子供達は脅えきって大混乱。 「凶悪な殺人犯がこの校庭に向かっていると聞いた。死にたくなければ早く逃げろ!」 それは確かにマズイ。 教師がばたばたと動き出しては子供達に指示をしつつ。それでも子供は大混乱で。 そのまま教師が校内へと入っていった。 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が気休めながらも、結界を発動させた。 「ちょっと、騒がしい気もしますが……」 辺りは避難の嵐。その学校は変質者が出たらどう避難するのかはリベリスタ達の知るところでは無いが、恐らく子供達の教室待機と、教員の校内巡回。ついでに警備巡回。 結界がその効力を全うするかは別として、少々教師の目に触れるのはいただけない。 一般人のことは心の隅っこに放っておいて、保健室の扉を開く。 と、同時に飛び込んで行った『悪食』マク・アヌ(BNE003173)が牙を剥きながらロクに迫った。 もう、お腹がすいた。我慢できない。 理性で生きる彼女の本能は、キマイラを餌として見ている。 「がうがぁああ゛!!」 噛み付く牙が、ロクの横腹から血を流させる。その血をマクは飲み込んで、食欲を抑えようとするが……水で腹が膨れるか。 けれどその攻撃はすぐに固い防御と回復でカバーされてしまう。 そのロクの足元には腰が抜けたように動けない少女と、非現実に部屋の端で頭を抱える保険医が居た。 「アークだ、お望み通りやって来たよ。おいで、私達が相手だ」 「え? アークあーく? えー? あーく悪。 うふふふふ聞いたことあるううううふううしゅううぅううう、痛い噛まないで」 マクがロクの腹の肉と一緒に離れていくのを見計らって、キリエが弾丸のようにナイフをロクへと放つ。 「アークはね、一番に食べろってね!! ママはね、言ってたんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」 ――その一歩手前で、ロクの背中から蠢く触手は動き出していた。 ダァン! と耳を痺らせる轟音。茅根の腹部に弾丸が貫通する。 「え? あれ?」 茅根の放つピンポイントはロクの触手を大きく逸れていく。それは敵へと向かう精密さに欠けた、というよりも。 混乱によって殺意のある意志ある弾丸。 「痛いですね……動かないといけないとか嫌過ぎます」 ニート予備軍。 ピンポイントが『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)の頬を掠めて飛んでいった。それに大きくため息をした小路は、どこからへし折ってきたのか、交通標識を床に立てて仲間の防御を固くしたのだった。 「奇怪なキマイラだ。醜悪だしな。本能しかないのか」 生える掃除機は常に飛び出す瞬間を狙っている。リオンはため息と共にそう口から漏らした。 小路が、保険医を見て逃がそうって逃げろって言――その時。 掃除機が機械的な音を発し、容赦無く動き出すのだった。 「お腹すいおなか、おなかうおなかしゅいたうはああああああああああ」 「き、き、ぎゃああああああああああああああああ」 狙ったのは保険医だった。 見ては駄目だって、京一が少女の顔を抱きしめて。 抵抗する間も無く吸い込まれて。 「ああぁ、アッ?! ぎ、ぎゃぎ、ギッぅぶッ……――」 ベキベキとか、ぱちゅんとか、狭い掃除機の口に吸い込まれる人は、柔らかすぎて。最後に吸い込まれた腕が、助けてって叫んでいた。けれどそれを掴むぬくもりさえ無くて。血さえ残さず消えていった。 「マズウウイ!!! あはっういいひいいおなかすい、た、まだまだ足りないあははは」 京一の服を掴んで。少女は震えて放心していた。自身の足で動けるかって言ったら動けない。 飛んできた弾丸は、混乱の呪い。 マクに当たれば、マクの食欲はリベリスタへと向く。 「マク!? しっかりしろ!」 「ううがあああああ!!」 噛み付かれたジースが受け止めながら、もはや野生放し飼いのマクへと訴える。 そこへは更に槍が吹き飛んできた。二人を巻き込んで槍は横へと飛んでいく。すぐさま京一が少女の傍らで光を放つ。それでマクが正気に戻れば良い。 「鬼ごっこの始まりだ。殺されたほうがまーけ!」 葬識が跳躍し、赤色の武器を掃除機の根元へと突き刺していく。 かなり一方的に開催されたリアル鬼ごっこ。死ぬ気でやらないと殺されかねない。 「ねえ、お母さんのことは大好き?」 「ま、ママ、しゅ、ひぃいぎいいああああああああ」 母というのは葬識にとっても特別な単語であって。 しかし、ロクの返答はよくわからなかったけど。 「うんうん、そっかそっかぁ~!」 視てるよね、奇堂みめめ。突如発動する千里眼がロクの背後、更にその奥を見つめて―― 「――うぎゃあ!?」 千里眼同士がぶつかって、みめめは目線を切った。 え? 見られた? と思いながら挙動不審に後退するみめめ。 「おきたきゅん! きゅんきゅん! 目があっちゃったみめめ!」 未だに体力は健在なロク。 確かに致命はあるものの、強靭な防御から体力を削るには時間が必要そうだ。 「これで、大丈夫だ」 リオンがインスタントチャージを放つ。注がれた精神力を武器に茅根が幾度目かの気糸を放つ。 精密に、狙う掃除機の触手。少年に生えているだなんて、生命として色々おかしくなっているのに複雑さを感じながら、迷い無く撃つ。 「どうなっているんですか、貴方の身体!」 それはただ、一途な興味。この手で触れて、確かめたい。けれどそれをするには元気でいてもらうと困るのもあって。 「すっごくめんどうになってきました」 撃ち出したピンポイントと一緒に、小路の真空刃が一緒に飛んでいく。 面倒だって。もう寝ちゃいたいって。身体中、ふしぶしが痛いって! そう思ったら、なんだかイライラしてきたか、勢いだけに任せて小路は再び動き出した。 「あんたは大事な選択を間違えた!!」 あたしの仕事を増やしたことだ――ッ!! 二つの真空刃はロクの触手を掠めて飛んでいく。 その時、掃除機の触手が動き出した。茅根が狙いか、掃除機の穴は彼へと向く。 強すぎる風に誘われて、茅根の身体は簡単に浮いては引き寄せられていった。 「ん、うま、うんっまああああああああいい!!」 ● 「お、おまえら、なにやってうわああああ!?」 嗚呼、一般人来てしまった。 防音だが、騒ぎを知らせてしまったのが裏目か。教師らしい人が保健室の扉を開いて彼等を目にしてしまう。 逃げろと、本能が疼くので走り去ろうとした教師。瞬時、巻き起こる掃除機の音。 鳴り響きながら、逃げようとした教師を吸い込んでは体力回復へと勤めていく。 「ま。ず。い。 痛い、いたいいたいたいいいいうあああああああもううううう!!」 小路とは逆の。リオンが仲間へと攻撃の加護を行いつつ、すぐさま体勢を立て直したジースが突っ込んでいく。 「ロク!」 大声で放った声がロクをびくりと震わせた。そして噛み付くマクを槍で薙ぎ払いながら、声のする方向を見た。 「本当は、嫌なんだろ?! 人を傷つけることが!!!」 「あははははあヒヒ日言いいい言いいい言いいいイ!?」 会話できなくたって、関係無い。言葉として返ってこなくたって良い。 それでもジースは訴え続けた。 エリューションキマイラのロクでは無く、リベリスタであった少年に。 振り落とした攻撃に、掃除機の触手は掠っていく。まだ、届かない。 「うるさああああああああああああい」 「ぐ、ぶっ!?」 ロクが手のひらをジースの腹部へと当てる。その瞬間にジースの背中側の服が打ち込まれた衝撃に弾けて飛んだ。 打ち込んだのは紛れも無く、土砕掌。 刹那、銃声が響く。 「あ、れぇ?」 貫通していたのは葬識だ。 若干ながら、茅根を吸い込んで威力の上がったそれに、フェイトが吹き飛んでいくのを感じていた。それだけで手は止まらずに。 「葬識も、しっかりしてくれよ!!?」 赤い、赤い武器が、ただ一直線にジースへと刺さった瞬間。彼の身体はフェイトを消費しながら崩れて倒れた。 「ジースさん!!?」 響いた京一の回復。だが、傷を埋めるには庇うに費やした時間が足を引く。 触手は未だ四つ。 槍がマクを薙ぎ払うその後で、剣が少女へと吹き飛んだ。 マクこそ、超回復でその攻撃を無かったものにできるものの。少女は違う。 部屋から出ようと歩き出していた、そこを狙って剣は血を求めた。 彼女の命が何より大事って。そう思って翼の加護さえ放てないまま、京一は少女の命を抱きしめた。 彼が少女を庇って、その京一を小路が小さな体で護り抜く。 回復役が落ちたら駄目だって、自身の体力でさえ、そう多くは無いと言うのに。流れ続ける血が、小路の視界に星をちらつかせる。 嗚呼、これだからずっと寝ていたいのに。 同時に掃除機がキュイーンって音を出しながら、遠くの小路を引き寄せた。 血が、髪が、服が破けては真っ黒な掃除機の内部へと吸い込まれていく。そうすれば今までの傷さえ治るはずだが、葬識が与えた致命がそれを阻む。 「あっはぁあ! やったヤッタYATTA! またまた吸った吸った!! これで強くなるかな。まだいける、まだいけるいっちゃえやっちゃえ!」 遠くで。みめめが楽しそうに跳ねていた。 小路に気を取られていたロクへ、後ろから葬識が赤く染まったハサミを掃除機へ。 吸い込み終わって、床へ落ち、フェイトが飛んだ小路を目の端に置いて。 そっちじゃなくてぇ……。 「おにーさんと遊んでほしいなっ★」 熾喜多スマイル0円。精密さに申し分無い一撃が掃除機の枝に直撃していく。 「え? いや、いやっっだああああああああああああ!?」 刈り取られるって悟ったロクが叫びながら、剣を葬識の腹部へと穴をあける。刺さった場所から血が噴出し、葬識は力無く床に転がっていく。 「こんなのは、本意ではないでしょう?」 葬識の行動は無駄にできないって、キリエが続いて攻撃を仕掛ける。 「よく思い出してご覧。君の本当のママは、君にこんな酷い事をさせる人だったかい?」 呼びかけてみる。ロクに、ロクの中の人である部分に。 気づいて、一瞬でも元に戻ってくれればどんなにいいことか。 「まま、ままま、ママがみて、うう、みてるうううううううう」 頭を抱えながら、ロクは叫び出す。 説得はやはり、失敗。というよりは無駄か。キリエは複数の気糸を射出していく。 光の奇跡を描いて飛んでいくそれは、全ての触手を貫通して行った。そして。 「君のママは、君の敵だよ」 「いっ!? ひぃひいぎいいいいいいい!!?」 身体が千切れる感覚。確かにキリエの攻撃はロクの掃除機を貫いては、吹き飛ばしていった。 身体が消えた。その怒り任せにロクは弾丸を発砲した。 それが当たったのが、運が悪かったか、京一だった。腕の中の少女を護るためだったその身を挺して庇う行為も。 「え? おじさ、や……きゃぁあああ!?」 漆黒の鴉が、朝飯前と言うようにして少女の心臓を嘴で抉った。血に染まった鴉が空中でシミとなって消えていく。 「な、っくそ!?」 誰が悪い? 命が消えた。行き場のない怒りに震えたジースが身体中を血に染めながらも爆砕戦気を放った。己の身体も限界が近い。 ほら、目の前から氷の拳が飛んできた。 ええええー!? と叫んだその声はリベリスタの届かない場所。 みめめは両の目を丸くしながら、地団駄。 「え!? あれそんな簡単に千切れちゃうのかぁーやだやだこれは誤算。 これじゃあ、食事できない。もう、いいから、強化できないなら帰っておいで。 それがいいそうしようそれしかない」 本来リベリスタの食事が大前提。それができなくなったなら仕方ない。 撤退。 ●知らない人にはついていかない 「ママが、帰れって言うんだ」 理性が戻ったかのように。切り替えスイッチでも入っているかのように。 今までの表情を無表情に戻して、ロクはそう言った。 「還らなきゃ、帰らなきゃ、孵らなきゃ」 ぶつぶつ、ぶつぶつ、延々とその言葉を繰り返す。 背中の触手を揺らしながら、ロクが目指すのは外だった。来た道を戻るように、辿るように。母が手招きする方向へと歩き出―― 「まだ」 葬識が床に這い蹲りながら、腕でロクの足を掴んだ。 「まだ、俺様ちゃん生きてる」 だから、負けてない。 「行かせねえから、なぁあ!」 ジースも気力だけで立ち上がる。両手を開いて、身体を大きく見せながら進行方向を塞いだ。 「今、そこから出してやる!!!」 「早々、逃がす訳にもいかないんですよね」 更に、茅根が扉の前に立って塞いだ。 立ち止まったロクが、機嫌悪そうに眉間を歪めて。 「邪魔」 ロクの笑った顔は、葬識には見えなかった。 感じたのは、飛んできた弾丸が己に貫通した感覚。そこからの記憶はブラックアウト。逸脱者のススメを握り締め、立ち上がったまでは覚えている。 最後に見えたのは、ジースの腹部に槍と剣が貫通し、そのまま足が宙に浮いた状態で動かなくなっていた事。 勿論、残る茅根という壁に攻撃が集中したのは言うまでも無い。そうすれば、リベリスタはもう誰も追いかけてこない。 茅根に迫る影は泣いていて、ごめんなさいって泣いていて。 「還らなきゃ、帰らなきゃ、孵らなきゃ」 ロクの、氷を纏った拳が―― 「リベリスタ、ぼくを殺して――ッ」 その言葉は、茅根だけに聞こえていた。 ●* 「――アハハハハハハハハッ!!!! ハハッ!! ぶっ……みめめの腹筋ブロークン!!!! アハハハハハハハハハ!!!!」 いつ思い返しても、己の自信作が敵に勝つのは楽しくて。 「はは、フーッ、ふー、ひっひっふー、あはっ楽しいたのちい、やめられないもう止まれない全力全身全速力で」 「……」 母は子の頭を撫でた。 「そうだろう? ロク。だからそんなに泣かないで啼かないで鳴かないで」 涙だけは、真実を語るって。でも、それは今日で最期となった。 「ナナ」 「ふぁい」 「餌だよ」 「わぁい」 新しい息子。 差し出されたロクは、顎に千切られ噛み千切られ。 「ま、マッンマ、痛ッ、いだ、いああ、いだああい」 バリッバリッ、ガリリッ 「じーしゅきゅん、きりえきゅん、ちねきゅん、まっきゅん、きょういちきゅん、おききゃきゅん、こみちきゅん、りおんきゅん」 「マ、マァ、マ、アアッ、ママ、ンマッ!?」 ガリッ、バギッ、ゴリリリ 「マ――」 「殺す」 ガッリッ、ゴリリ ごくん。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|