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<三尋木>最果てに続く、紅にて


 ――誤って放たれた毒矢が当たり。祈りに祈って、天へと昇る。
 見下ろす地へ手を伸ばしても、虚しいほどに届かない。
 引かれた弓は、何を狙うか。


 深夜。
 茶髪に顔の綺麗な男が、紅い燕尾服の男の目の前にやってきては突如倒れた。満身創痍、という言葉が似合うだろうか。忠誠を誓いし主により、身体に着けられたハイヒールの跡がやたらと目立つ。
「あはははははははは、染色さん超ウケますね! 店の再起不能はそんなに響きました?」
「上司に恵まれてえ」
 この時『歩く染色機』と呼ばれる茶髪の男は、永遠に実行されない闇討ちを決意。
 そんな上司のような先輩のような『Crimson Magician』クリム・メイディルはお腹を抱えながら子供の様に指をさして笑っている。
「なんでお前には折檻が無いんだ」
「だって、俺の店じゃないし、俺は休憩がてら遊びに行ったら色々巻き込まれちゃっただけですし」
 この狐が。
 言葉遊びの様に理由を並べるクリムに、染色機は大きくため息を吐いた。
「とまあ、戯れは此処まで。一緒にお仕事です」
「結局尻拭いされてんじゃねえか」
 あははと頭を掻くクリムが、ゆるゆると視線を動かす。
 鎖やらワイヤーやら縄で自由を奪われた少女達が、脅えた瞳で此方を見ていた。中には泣き続ける子や、震えの止まらない子も居る。
 その一人が拘束を抜け出したか、走り出し、出口へと向かった。だが出口へとたどり着く前に、彼女を幾多の数のナイフがその身体を貫いては命を落としていった。
「おや、大事な商品。壊しては困りますよ染色さん」
「悪いな、つい」
「ではお得意の染色で、彼女達を手駒にしちゃってください」
「へえへえ」
 壊された店の再建は、時間もお金も長く掛かりそうだ。

「で、あれはなんだ」
 染色機が指を向ける。その先にあるのは不気味に輝くアーティファクト。
「ああ、射手座の聖杯。
 何処かで天秤座の聖杯っていうのもあるみたいなんだけど、まあその似た様なものっていうか、そんな感じ。
 で、その効力がちょっと面白いからね。持っとくと便利かなって。
 これがあればほら、リベリスタとかにもきっと負けない! みたいな」
 と言いながらも緩く笑うクリム。その手前で顔が引きつる染色機。所謂リベリスタと一戦交えるかもという直感からの保険。彼等も仕事を邪魔される訳にはいかない。
「まじかよ」
「まじだよ。本気と書いてまじと」
「お前もうしゃべんな」
 しばらく微妙な空気が続いた。


「皆さんこんにちは。三尋木のフィクサードを万華鏡が捉えました。
 そうやら以前アークが潰したお店を再建しようとしているそうなので、それを阻止してください」
 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は忙しく手元の情報を整理していた。
 見えますか? とモニターを指さして杏里は口を開く。
「あれは聖杯型のアーティファクト。射手座の聖杯です。
 情報によると、一定の人の命、またはフェイトの消失によって効果が発動されるものなのです」
 杏里は資料とにらめっこしながらも、どうにか伝えようと苦戦する。
「仕事道具として一般人の少女達を誘拐したのですが、リベリスタが止めに来る対策として聖杯を置いている様です。
 あちらもこれ以上邪魔されるのは嫌な様でして……。
 見えている罠に突っ込むのはとても危険ですが、一般人が関わっている以上、放置することはできません」
 捕らえられた一般人の数は十五。それは聖杯を満たす水にもなる。
 アーティファクト発動の贄は人の命か、リベリスタの命。捧げる命で効果さえ違えど、危険であることには代わりは無い。

「場所は古い廃屋です。此処に誘拐した一般人を集めて染色機の力により、一斉に支配しようとしている模様です。
 今から行けば、その寸前で着くことができます」
 モニターを見る限り、少女達は一箇所に固められている訳ではなく、疎らに放置されている。だが拘束されていて身動きは取れていないようだ。

 敵は、顔を合わせた者も少なくは無いだろう。圧倒的な攻撃力を持ったクリム・メイディルとその部下、染色機が相手だ。
 だが、敵はあくまで三尋木フィクサードで、穏健派と称される彼等だ。もしかすれば交渉は可能なのかもしれない。
「店の再建を阻止し、これ以上一般人に被害が出ないように。お願いします」
 できるだけ平静を装いながら、杏里は下唇を噛み締めた。それから深く、頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月13日(日)22:22
 夕影です 以下詳細です

●成功条件:一般人の半分以上の奪取か、敵の撃退

●「Crimson magician」クリム・メイディル
・穏健派『三尋木』のフィクサード
・ヴァンパイア×デュランダル
 紅神の爪と呼ばれる細く長い刃が着いた大鎌
・RANK2までのスキルを使用
 面接着/マスターテレパス
・左腕が義手型アーティファクト
(P:物神攻強化、攻撃時反動30)

●「歩く染色機」
・茶髪
・穏健派『三尋木』のフィクサード
・ジーニアス×クリミナルスタア
 RANK2のスキルまで使用
・EX磔刑の審判
 魔力で構成された千本ナイフが複数の敵を襲います
 影潜み/ペルソナ
・義眼型アーティファクト
 対抗判定:E能力の無い異性を、強力な暗示で操る
 E能力者には神近単BS魅了

●一般人:少女×15
・拘束されており、身動きが取れません
 部屋に疎らに置かれているので、範囲攻撃には数人しか当たりません

●アーティファクト:射手座の聖杯
・遠距離範囲内の一般人三人死亡した瞬間に発動
 (所有者味方全大回復。敵ランダム一人能力強化)
 遠距離範囲内のフェイト8消費した瞬間に発動
 (敵全大回復。所有者味方ランダム一人能力強化)
・強化はブレイク無効です
・能力強化の持ち時間は3ターンです

●場所
・廃屋
 柱と階段があるだけの殺風景です
 強い負荷がかかると倒壊します

●その他
・真夜中ですが、月明かりがあるので、明かりは気にしなくて大丈夫です
 広さ、足場に問題はありません
 事前に自付はできますが、付与ターンにペナルティが発生します

それでは、よろしくお願いします!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
インヤンマスター
華娑原 甚之助(BNE003734)
■サポート参加者 2人■
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
マグメイガス
小鳥遊・茉莉(BNE002647)

●始めよう、つまらない宴を
 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)が建物の入り口を勢いよく蹴り上げると、扉はいとも簡単に、招き入れる様に開いた。その瞬間、十人の戦士が入り乱れて入ってくる。
 暗く、寂しく、虚しいこの中。天秤がひとつ。
 天秤は、天秤らしく振舞うことはできないのだ。測れるのは命の重さという謀りの秤。それが大きくとも小さくとも、同じ命は同じだけ積み重なっていく。
「ジース君。でしたっけ?」
 顔を斜めに、思い出すように。確か、そんな名前だったようなと。
「今度は、間違えるなよ」
 ジースの背中を言葉で押したのは『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)だった。
 今までのジースなら咄嗟にクリムへぶつかっていただろう。けれど、それは以前の経験から踏みとどまった。
 個人的な、彼女のための、杏里のためだけの行動はしてはいけない。今やるべきなのは――目の前の命を救う事。
 一人、脇に抱える。もう一人を目に映す。黙々と作業に勤しむ彼を見て、龍治は前を見る。

 始めるとしようか。
 大切な命を救う為に、この命を賭けて。

 手に馴染む火縄銃は、轟音を立てて弾丸を吐き出す。
 世話好きな彼だからこそ、目の前の命のために戦うか。理由が何であろうと、彼の鋭い眼光が捕らえる獲物は逃れる事は無いのだろう。
 弾丸は一直線に染色機へと迸った。
「おやおや、お久しぶり」
 獣の反射神経が、何かを呼びかけたか。ハッと龍治は横を向いた。そこに見えたのは巨大な大鎌を横に振りかぶったクリムが突っ込んできていた。
 しかし、クリムの思うようにはいかない。
「少々、お付き合い願おうか?」
 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が勢いよく前に出たクリムの胴へと飛び込み、抱きしめるように、そして足は地着けて踏みとどまる。後ろへは行かせる訳にはいかないのだ。
「あはは、告白されて、抱きつかれて、もうこのままで居たいなあ」
 言葉はこう言いつつも、彼のデッドオアアライブはユーヌへと直撃した。

 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が、得意の速さで前方へと突き進む。その体からジャミングの波動を撒き散らしながら。
 向かうは染色機――だが少し時間は前戻って。

「ルーメリアさん、上!!!」
 浅倉 貴志(BNE002656)は熱感知を発動していた。
 今や、視界が温度の色で構成された彼の前で、影潜みは影潜みとして役に立たない。
 今まさに、天井の薄暗い影から上半身を出し、下半身を出し、そして全身を出して攻撃にかかった染色機を貴志は見抜いたのだ。
 不意討ちを免れた『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は頭を抱えて染色機から遠退く。
 ありがとうなの、と。貴志に一度だけルーメリアは頭を下げた。手を振ってそれに応える貴志はそのまま感情探査を発動させる。
「……ぐッ!?」
 一気に彼に流れ込んだ感情は、少女達の恐怖。探査し、それを感知した瞬間に貴志の体に電撃が走ったように硬直した。大丈夫なのかと近くにいたジースが彼を気遣った。そしてすぐに元の顔色に戻す。
 手を振った優しい手が次に触ったのは少女の拘束器具だった。
 
 ――そんなこんなで、居場所がばれた染色機。彼を攻撃せんと、終が走る。だが視界はクリムを追っていた。
(聞いたことあるよ、クリム・メイディル。杏里ちゃんをいじめたやつだよね!)
 染色機を見ていなかったからか。意識が向いていたのが、違う男だったからか。
「あ、り!?」
 終の短剣は大きく染色機を空振っては、その勢いのままに染色機を超えて転んでいく。
 その一部始終を『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)は目にしながら。
「おい!? 大丈夫かよ!?」
「あはは、失敗失敗★」
 そう笑いながら後頭部を掻く彼は平常運転だ。

 ルーメリアが歌を奏でようとも癒えぬ傷を抱えるユーヌが続く。クリムは素早い。それは解っていた。その速さから最大威力の攻撃が二度飛んで来た今、ユーヌの視界はぼやけて霞む。だが、倒れない。
 低空飛行し、揺るがない直線をまるでエスカレーターに乗っているかのように滑っていく彼女の体はクリムを押さえ続ける。ユーヌの呪縛が彼を襲う。
「楽しいな、アーク。待ってたよ、来ると思ってた。いや? 会えると思ってた」
「こちらとしては、会いたくも無かったがな?」
 つり上がったクリムの口端は、楽しく笑っていた。それを視界にいれたジースは少女を掴む力が一瞬だけ強まった。だが、痛いと叫ぶ少女に我に返って作業を続ける。

 パッと懐中電灯の光が、一瞬だけクリムの視界を眩しさに眩ました。ルーメリアがその光の主だ。
「またまた会ったね……もういい加減、こんなことやめないかな?」
「小さなリベリスタ。貴方とは縁ができたようですね? その質問、答えるとしたらNOです。俺も悪党なんです」
 ルーメリアは紅い瞳と目があって、一度だけため息を漏らす。
「ルメ、今日はお話に来たの」
「……聞きましょう」

●終わらせよう、しょうもない命を
 木蓮が両脇に少女を抱えて走り出す。それを見ていた染色機が攻撃しつつも不満を吐いた。
「商売邪魔すんなって」
 やけに甘い、苛立った声。
 染色機はとても真面目だ。真面目過ぎて仕事道具は命であろうと道具としか見ていない。
 足元で寝転がる少女の頭を、靴の裏で圧力をかけていく。
「染色さん。だから、商品ですけど、それ、傷つけたくないんですけど」
 痛みに叫び声をあげる少女の声。それに舌打ちする染色機に、クリムの言葉が間に入った。
 小鳥遊・茉莉(BNE002647)が少女を運ぶ、その後ろで別の少女は痛みに悶える。
 少女達は着々と外のトラックへと積まれていた。だが、同時にフィクサードを押さえているリベリスタの体力は大幅に削れて行く。特に、クリムの相手をし続けるユーヌは治らない傷から、フェイトさえ捧げている。
「だから。持ってかれたら困るんだっつーの」
 更に少女を押さえる足に力を込めた染色機。それから紡いだ、神秘のナイフ達。
 終の麻痺さえすり抜けて、ナイフは飛ばされたのだ。幾千のナイフが空中に出現した瞬間、それは直線上の敵を切り裂いていく。持っていかれる商品(しょうじょ)は、もはや彼にとっては廃品同然。いらないものは殺せ。
 貴志がそのナイフから少女を守る。
 背中には数々のナイフが終わり知らずと刺さっていった。
 痛みに意識が揺らぐこともあったが、目の前の少女の震える手を思えば、こんなもの。
 特にナイフが集中したのは彼。奥には俺が行くと、敵のど真ん中へ『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)は歩を進めていたのだ。
「く!」
 抱えた少女は二人。けれど、向かってくるナイフから守れるのは、一つの身で一人まで。
 腕の中で、脅えながら元気よく暴れた方の少女を投げ捨てるように放る。すまないと、心の中で一瞬の謝罪をし、目を逸らした。
 耳のすぐそばで叫び声が響く。甲高く、幼い、少女の断末魔。
 ナイフは自身でさえ傷つけた。華やかに彩る金髪を血に染めながらも、抱きしめた少女だけは離さない。

 その瞬間に、天秤は潤った。

 フィクサード達に白い光が溢れるのと、ほぼ同時だった。
「クク……ははっ! こりゃすげえ!!」
 『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)が黒い光を浴びているのだった。その光は体のリミッターを外し、更にはそれを強化する光。
 集中していた甚之助の攻撃は今や、恐るべき威力を秘めているのだろう。
「覚悟しなァ!! 壊滅に追い込んで、滅ぼす!!」
「うわー、マジかよ……」
 俊足で染色機の背後をとった甚之助が光の飛沫と一緒に武器を振り落とした。
 魅了を司る義眼を持つ己が、魅了に侵されるとはなんとも言えない笑い話。
 甚之助のその攻撃が染色機を貫き、貫通し、脆いビルにヒビさえ叩き込んでいった。
 それはスタンガンで大人しくなった少女を荷台へとあげていた貴志の耳を轟音に麻痺らせたほどだった。

 クリムが大鎌を振りかぶってにこっと笑っていた。寸前、間に合ったユーヌが冷気を纏った拳で貫く。だが、その拳が捕らえたのが。
「だから商品だって……大事だと思わない? こんな可愛い女の子、血に染めてさ」
「それが、どうした?」
 彼女が貫いたのは、そう、少女だった。
 虚ろな少女の黒目が、ぐるんと瞼の上へと上り、そのまま膝から地面へと倒れる。傷口には、今もなお、氷の結晶だけがついていて。義眼の魔力に魅入られたまま、少女は命を落とした。そしてひとつ、贄として。
「小を見捨てて、大を救うっていうお得意のあれ?」
「与えられた任務の条件は、半分だからな」
 けして混じらない目線をぶつけながら、クリムは大きく鎌を振り切った。
 飛んでいく、真空波は紛れも無くトラックへと向かった。
「させるかよ!!」
 咄嗟に。
 飛び出した宗一が風の刃と、トラックとの間に身を置いた。切り裂かれる我が身に歯を食いしばりながら、背中にある少女達とトラックを守った。残り少ないフェイトは容赦も慈悲も無く消えていく。でも、こんな所で死んではいけない。
「いけ!! 早く!!!」
 宗一は咆哮した。言葉に押されて、温まったエンジンを動かすジースは少女を乗せて戦線から、遠くへと消えた。
 そこへ龍治の火縄銃が轟音を響かせた。
 初っ端より飛ばして、狙い続けるのは染色機の義眼。その魅了の義眼は前回からも、面白くは無い。
「こ、のやろっ!!」
 強化された甚之助がどうにもこうにも退けられなくて。
 魅了に頭をかかえる染色機であれ、己の『眼』を射抜かれる感覚はある。
「あと何発持つか楽しみだ」
「てめえ!!」
 冷静沈着な龍治とは逆に、染色機の苛立ちは重なる。更に。
「この先、通行止め! けれど、帰ってくれるなら、女の子置いていってくれるなら見逃せるよ♪」
 終が染色機の行く手を阻んだ。
 後衛、ましてや他の女の子の下へは行かせない。リベリスタ三人のしつこいまでの妨害は染色機を黙らせていた。しかし、そこにクリムが。
 ユーヌは壁の少女を拳で貫いていた。洗脳された少女がユーヌをブロックし、行く手を阻む。
「染色さん、何遊んでるんですか?」
 振るう大鎌は終と甚之介の体をとらえて、強力な威力と共に、そのまま後方へと戻したのだった。

●引きちぎって狂って
「クリムさんの幸せって何?」
「難しい質問だ」
 会話だけなら平和な二人。見せた、ぎこちない苦笑いをルーメリアに見せて。クリムは知らないよと呟いた。
「どうしたら、こんなことしないように済むのかな?
 ルメ、その為だったらなんでもするよ、覚悟はしてる。今回は嘘じゃない。
 だからお願い、見逃して……あの子達から、理不尽に幸せを奪わないで!」
 ルーメリアは交渉へと。いつもながらに、こちらの出せるカードは己のみ。のた打ち回る少女達をこれ以上見ていられなかった。理不尽に巻き込まれ、理不尽に死なせたくなかった。
「純粋な君のお願い。聞いてあげられるものなら、それも良いかもしれないね」
 けれど、敵は容赦しなかった。できなかった。積み上げた失敗の数は、彼の背後の存在が面白くない。
 美しい曲線を描いた大鎌は、ルミエールの体へと突き刺さる。胴を貫き、鮮血が彼女を染めていく。
「ク……リム、さん……!」
「ごめんね。でも、俺は今とても楽しい」
 引き裂いた、柔らかい肉の感触はいつぶりか。
 思い出す。殺しは飽きたと止めたのは何時ごろだったか、フォーチュナの少女を甚振る楽しさを覚えたのは何時ごろだったか。

「あはっ……くっ、ぶっははっ、あははははアハハハハハハハ!!」

 絶叫に似た笑いが辺りに響いた。
「お、おいおい、なんだ?」
 傍に居た染色機でさえ、気味の悪さに一歩引いた。クリム以外、静まるその場で――瞬間的に、天秤が潤った。
 革醒者の、フェイトが全部で八つ。正確には八つと余り一で九つだったが。
 天秤にフェイトが捧げられたのだった。
 ただでさえ強化されている己の肉体に、更に神秘の恩恵が乗った。
 少女を殺したくは無い。それは仕事道具として。けれど、目の前のリベリスタなら――。
 ぎちぎちと笑い出すクリムが、天秤の恩恵で回復したルーメリアを狙った。
 轟音に、耳の鼓膜が破れるかと。ルーメリアの胴に大鎌が入った。骨が擦れ、ヒビが入り、更にはボギッと音を立てた。
 更には力任せに振るった大鎌から再び真空波が飛び出す。今回は紛れも無く狙った、その的――龍治。
 それとぶつかった瞬間に体力は大幅に削られた。ぎりぎりで残った体力はフェイトを消費するのを寸前で止めたのだ。
 龍治の狙いはあくまで――。
「な!? ぎ、この!?」
 精密かつ、確実な火縄銃は染色機の義眼を打ち抜くのだ。これにはクリムも呆気に取られた。つい、頭を抱えて本来の目的を思い出すとため息だけが出る。

 崩れ落ちたルーメリア、僅かに残った体力が彼女の意識を繋ぎ止めていた。
 自らの回復で、持ち直さなければ。
 ホーリーメイガスの意地。なんとしてでも、自身の態勢を整え、仲間を守るために歌を紡がなければいけなかった。
 けれど、それは儚く。
 歌い始めて、傷が癒える、その前に。
「回復師ってのは、なんて邪魔なもんなんだ」
 ルーメリアの眼前。迫り、暴れ狂う染色機、もとい大蛇に飲まれて意識を手放した。
 大蛇は範囲の少女を巻き込んだ。フィクサード二人の体力が振り出しに戻ると同時に天秤は光を放つ。

「遊んでる余裕はあったのか?」

 クリムを守る、最後の一人の少女が華々しくユーヌに貫かれたとき、周辺に神秘以外の存在は息をしなくなった。
 天秤から放たれた神秘の恩恵は、赤子の手を捻るよりも簡単に少女の命を奪うのだ。数数の少女の返り血で真っ赤に染まったユーヌは、冷気の拳を少女から抜き取る。
 生きていないものの、びくんと震えた肉塊を下に。彼女の黒目はやけに栄えた。
「数は、揃った。こちらの勝ちだ。あとは好きにするがいい」
 そう言ったユーヌの背後で、貴志が八人目の少女をトラックに乗せ、こちらを睨んでいた。そのままユーヌは大蛇の毒が体に回って意識を手放し、その場に倒れこんだ。
「これで、最後です。目的の数ですが……」
 貴志のその言葉に、ユーヌは後方へと引きながら、トラックの運転席に身を置いた。
 それを狙うフィクサードだが。
「ハッ、これで店もできねーってな」
 宗一が全て受け止めるのだ。トラックは攻撃できない。
 朽ちない刃、折れない意思で。幾重のナイフをその身で受けようとも立っていた。
「……なんでこうなるかねぇ」
 染色機のため息がその場に残る。
「超ドンマイ?★」
「うるせえ」
 終のフォロー虚しく、フィクサードの地道な作業は妨害されたのだ。
 これで依頼は終わ……りじゃないみたいだ。


 少女達を取られ、殺され、店が再建できないほどまでにフィクサードは追い込まれていた。
 また集めれば良いとか思うが、肝心の義眼が大破している。
「けどよ、もう一つ、条件もあってよ」
 甚之介がにやりと笑いながらも、言った。もう一つの条件は、敵の撃退だと。
「それは……面白いですね?」
「これだからアークは」
 少女達はいないものの、クリムと染色機は未だに息一つ切らしていなかった。
 甚之介は殺意を込めて、染色機へと襲い掛かる。
 速度は確実に甚之介のが早かった。これではとても愛称が良い、良すぎた。
「おめえにも、もう会いたくねーわ」
 キエェェエ! と、やけに高い声が戦場には響く。
 染色機はそれだけ言うと、甚之介の餌食になった。

 その横では龍治の下でクリムの大鎌が煌く。
 近距離だからといって龍治の精密が消える訳ではないが、クリムの圧倒的な攻撃力の前では麻痺する体が自由を無くす。
「ふ、んっ、狙うなら眼にして欲しいものだな」
「おや、ではそちらにします?」
 龍治の体は地面に、その体を片足で踏むクリムが大鎌を振り上げて龍治の片目を奪おうと振り落とす。目には目を、腕には目を?
 爆砕戦気でGazaniaが燃える。
 地べたは赤色の絨毯が敷き詰められていて、ぴちゃぴちゃと足音を立ててジースはクリムへと突っ込んだ。
「クリム!!! 今度こそ、覚悟しやがれ!!!」
「やだなぁ、楽しみは後に取っときたいよ」
 龍治の血がこびり付いた、その大鎌。その赤と同じ色をした髪が勢いに激しく揺れながら振るう。
「俺も付き合う」
 叫び。繋いだ。言葉と共に。
 神秘のナイフが刺さったままの宗一が剣を握り、ジースに続いては誇りをクリムの胴へと叩き込んだ。
「命は重いんだ、なんだと思ってやがる!!」
 目の前で受け止めたクリムを見ながらジースは吼えた。
 そのハルバートとバスターソードの刃を掴み、細身に似合わない剛力で引っ張られる二人。クリムがジースの顔すれすれまでに顔を近づけた。
「有象無象。子供が蟻を踏み潰す感覚。落ちてきた蝿の羽をペンで千切る感覚」
 やり返しといわんばかりの烈風が吹き荒れた。
 そして飛び込んだ、ビルを支える柱の下、それを力任せに破壊した。
「――また会おう。今度は殺し合いができそうだ」
 宗一の目には崩れるビルの破片と背中を向けたクリムが見えた。
 いつにも増して容赦の無いクリムを感じていたのは、宗一だけだっただろう。
 回を増すごとに強くなるリベリスタ。ここで殺すにはもったいない。その意図を天秤だけが、知っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
長らくお待たせ致しました!

依頼お疲れ様でした!
結果は上記のとおりになりましたがいかがでしたでしょうか?
選んだ選択肢が救出でなければ、危なかった部分もちょくちょく
彼等の災難は続くなーと思いながら、また来ます!
今回のご参加、本当にありがとうございました!

なお、天秤の案はらるとSTから頂きました!
夕影は黒くなれなかったです……!