● 少女は、そのふわりとウェーブの掛かった亜麻色の髪をたなびかせて歩く。 「こんにちは、おばあちゃん。今日はお腰の調子はどうですか?」 少女はその顔に花のような笑みを浮かべて、行き交う人々に声を掛ける。 「こんにちは、魚屋さんのおじさん。今日は活きがいいのが揃ってますね。ええ、また後で寄らせてもらいますね」 その笑みが、その存在が、ただそこにいるだけで人々を明るくさせた。 「こんにちは、ケン君。またメグちゃんをいじめてたの? たまには優しくしてあげないと、いつか本当に嫌われちゃうよ?」 多くの人々は知らない。その笑顔がかつて一度だけ失われかけたことを。 「こんにちは、メグちゃん。さっきケン君に会ったけど、すごく反省してたから許してあげてね? 多分、明日には謝りにくると思うけど……ふふ。少しだけ、お返ししてあげましょう? えっとね……」 少女の胸に残る、かすかな痛み。 「こんにちは、………あら、これは」 それは、いつもちょっとした神秘とともに蘇る。 「まぁまぁまぁ」 それは胸の痛みに惹かれるように訪れる。 「こんにちは、迷子の迷子の子羊さん?」 そう、例えば今回のように―― ● 「……と、いうわけで。これが今回の依頼主」 そう言って、真白イヴが紹介するのは一人の少女―― 「アザーバイドのふわもこ氏」 の、胸に抱かれている謎のもこもこした生命体。 「……ぇっ」 「ちなみに今回の依頼内容だけど、」 「え、えっ、ちょ、ちょっと待って、それただのぬいぐるみじゃなかったのっ!?」 「……ただのぬいぐるみがこんな風に自律的に動けると思う?」 少女の手に優しく撫でられ、もふーと気持ちよさげに鳴き声をあげるアザーバイド(?)。 アークの本拠地、それもリベリスタ達の前にアザーバイドを連れ出すとはどういう了見か。 ――それも、こんな少女まで引き連れて。 怪訝な表情を浮かべつつ、リベリスタ達はもこもこした生命体を抱きかかえる少女を見遣る。 「あ、ちなみに私は夢見る羊さんって呼んでますよ?」 「いや、そういう問題じゃなくて!」 「……?」 撫でる手はそのままに小首を傾げられてしまった。 「……あぁ。その辺の事情まで話すと長くなるんだけど、この子は以前アーティファクトに引き寄せられた曰くの持ち主でね。その時はなんとか事なきを得たんだけど、以来アーティファクトに好かれる性質なのか、それとも神秘を見た者は神秘に曳かれ易くなる……というか」 ――もしかしたら覚醒が近いのかもしれない、と。誰にともなくイヴが呟き、ともあれと続ける。 「最初の事件の時に渡された連絡先を頼りに、少し前から集めた物をここに持ってきてもらってるの」 「今回もその用事でこちらまで足を運ぶ途中に……ふと、この子の声が聞こえてきまして」 少女の話を詳しく聞いてみると、どうやら声が聞こえた理由は今回見つけたアーティファクトの能力らしい。 「未知の言語であっても、断片的に聞き取ることができる力」 あくまでも断片的にであり、それ以外の効果も副作用もないため、比較的安全なアーティファクトであると言える。 「要はタワー・オブ・バベルの劣化版ね。で、ここから先が今回の本題なんだけど……今回は、このアザーバイドの婚活に付き合ってもらいたいの」 「……は?」 「このアザーバイドの結婚のための三つの試練に付き合ってもらいたいの」 「さっきと言ってることが微妙に違う……!」 「細かいことは気にしたらダメ」 「ちなみに三つの試練の内容はですね、まず第一に異界の協力者の力を借りること。第二に時間内に花嫁さんの元までたどり着くこと、第三に花嫁の手を取って勝ち鬨をあげることです。ちなみに、イヴさんの協力もあって花嫁さんの居場所も大まかにはわかっています」 「……あれ、意外と簡単じゃ?」 提示された試練内容に拍子抜けしたリベリスタ達に、イヴがわかってないなとばかりに首を振る。 「花嫁の大まかな場所自体は、本当にあっさり見つけることができたの。理由は簡単。『同じ波長タイプを持つアザーバイドが一カ所に数百、数千体規模で出現したから』」 「……え?」 「花嫁の周りには、このふわもこ生物と全く同じ見た目をした子達が群がってもこもこしてる」 「えぇー」 ちなみに、残り時間は現地へ着いてから6時間ちょっと。 「見た目はまったく同じなんですけど、花嫁さんだけちょっとだけ違った特徴を持っているみたいなので根気さえあれば見つけることは可能だと思いますよ」 軽く絶望しかけたリベリスタ達に、少女が助け船を出す。 「それはぱっと見でわかるようなものなんだろうなっ!?」 ついつい口調が荒くなってしまうリベリスタに少女ははい、と笑顔で応えつつ、 「この赤くてくりっとまん丸いつぶらな瞳が、花嫁さんだけ紅くなっているそうです」 ね、簡単でしょう? と、至極非道なことを言ってのけた。 「まぁ、見つけられなければ見つけられないであまり問題はないわ。このアザーバイド達は時間……Dホールが閉じる直前になれば勝手に戻っていくし、この子は追試として別の世界で同じことを繰り返すだけだし」 「追試があるのかよっ!?」 「試練に受かるまで何回でも受けられるそうよ。……ただ、追試を受ければ受けるほど花嫁さんに頭が上がらなくなるみたいだけど」 「まるでままごとみたいな遊びだな……」 リベリスタの誰かが呟けば、イヴは「そう、これは彼らの遊びよ」と肯定する。 「彼らに戦闘能力は皆無。……だけど彼らは、こうして好き合う二人が生まれる度に、ずっとこの試練を繰り返してきた。ここよりもずっと危険な世界を渡り歩きながら、試練を繰り返してこれた。何故だかわかる?」 それはね…… 「このアザーバイドは死なないことに特化した生命体だから。……少なくとも、太陽に突っ込ませてもすぐに適応して何事もなかったかのようにこの『ままごと』を続けてしまう程度には、死なないわ」 だからこそ他の世界の住人も渋々この試練に付き合ってきたか、時間切れで帰っていくのを大人しく待っていたらしい。 「どうせ戦っても勝ちも負けもない勝負をするくらいなら、いっそままごとに付き合って遊んだ方が建設的でしょう?」 鬼道との壮絶な決戦を終えた直後である今は特に。 「もふもふに囲まれて癒されるのも、たまには大事」 少女からふわもこを受け取り、一度だけぎゅーっとふわもこ感を堪能してから、イヴはふわもこをリベリスタへと手渡す。 「きゅぴーっ!」 何故か力強く、きりっとした表情をしつつ気の抜けた鳴き声をあげるふわもこが印象的だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月02日(水)23:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●本日はふわもこ日和 ――春は恋の季節 花咲き芽吹き 風花揺れて心も揺れる 甘い甘い揺り籠の中 触れる唇密の味――♪ イヴに指定された山の中。鳥達の歌声の中にそっと加わる、やさしいやさしい恋の歌。 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)がそんな歌を口ずさみながら、これから花婿になろうとするふわもこに目を向ける。 「きゅっ、きゅっ、きゅっ」 『アリアドネの銀弾』不動峰・杏樹(BNE000062)に抱きかかえられ、杏樹の歩くリズムに合わせて鳴くふわもこ。 その表情はきりりと勇ましく、…………少なくとも当人的には最大級に勇ましい表情で前を見据えている。 「どこの世界でも婚活って大変なのですね」 ともすればどや顔のようにも見えるふわもこの表情を見て何を感じたか、『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003203)はしみじみと頷く。 「……うん。婚活は、大変。だけど、それと決めたなら。男の子が、いつまでも女の子を待たせるもんじゃない」 待たせっぱなしの私が言えたことじゃないけど、と苦笑しながら、お日様の匂いをふんだんに含んだ毛に顔を埋める杏樹。 「もきゅ?」 杏樹の声がきちんと聞こえたのか聞こえなかったのか、首を傾げるように杏樹を見上げるふわもこ。それを一撫でしてやってから、『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)へとふわもこを手渡しでバトンタッチ。 「花嫁さん探しに、探される花嫁さん……いいなぁ」 杏樹から発せられる何となく甘く切ないっぽいオーラが伝染したわけではないだろうが、文もふわもこの感触に頬をゆるめながらほわわんと夢想する。 「ねぇ、ねぇ、ふわもこさん。もし良ければ花嫁さんとのなれ初めとか、訊いちゃったりしてもいいかな……?」 掲げるように持ち上げて尋ねれば、ふわもこは「きゅきゅっ!」と力強く頷き、熱く語り始める。 文の首元に光るペンダントがそれを翻訳し、文はやや赤面しながらもふわもこの話を真剣に聞く。 「ふむふむ、最初の出会いは巨人さんにぺちゃんこに潰されちゃった花婿さんを、偶然通りかかった花嫁さんが見つけて……ぺろぺろと毛繕いしてもらって、元に戻してもらったのが始まりで……」 その語りを、タワー・オブ・バベルのスキルを介しながら聞いていた『雪暮れ兎』卜部・冬路(BNE000992)が出だしからのあんまりなエピソードに目をむく。 「流石、死なない事に特化したアザーバイドじゃな。ぺしゃんこの状態から、毛繕いだけで元通りとは……」 ふわもこが無害で、「ままごと」を楽しむ種族で良かったと、心底胸をなで下ろす冬路。その隣で、語りは佳境を迎え、最後に総括として一言。 「こ、ここ恋人を見つける秘訣は、ちょっとしたきっかけと偶然……それとほんの一歩、踏み出す勇気……かぁ………」 呟き、想いを馳せるように目を瞑る文。 そのままふらふらと、吸い寄せられるように木へと近づいていき―― 「……あ、文さんそのまま進むと木にぶつかりま――」 「きゅっ!」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の制止もむなしく激突する寸前、文の手の中にいたふわもこが飛び跳ね、自身を文と木との間に挟みクッション代わりとする。 「わぷっ」 一瞬ふわもこの毛に溺れかけた文だが、激突の衝撃は完全に毛が受けきったらしく、ふわもこが満足そうに「きゅふー」と鳴く。 「おー。えらいですね、ふわもこ」 そんなふわもこをエーデルワイスがよしよしと撫でてやり、その光景に場がいっそう和む。 「今回はなかなか根気が必要そうな依頼だと思っていたが……」 それを補って余りある愛嬌がありそうだなと『夜彷徨う百物語。』紅・闇月(BNE003546)が苦笑する。 『――あ。皆さん、どうやら着いたみたいですよ』 声帯を震わせた発音を厭い、ハイテレパスによる伝達を好む『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)がそう伝えながら前方を指さす。 皆でその指さされた先へと視線を向ければ、 ――そこには予想を上回るふわもこ天国が広がっていた。 ●ふわもこパラダイスへようこそ! 「皆、すごく楽しそう」 杏樹の言うとおり、そこには思い思いの体勢でくつろぐふわもこの集団があった。 あるふわもこ達は組体操のように折り重なりピラミッド状になっていたり。 またあるふわもこはそのまるっとした体型を生かしてころころと転がっていたり。 またまたあるふわもこはその転がっているふわもこを玉転がしのように押して遊んでいたり。 まるでここが自分達の故郷(ホーム)であるかのように、ふわもこ達は全力で今を謳歌していた。 「ふむ……もこもこや、花嫁の特徴は紅の瞳以外に何かないかの?」 ふわもこバトンは繋がれて、今度は冬路の腕の中。ぎゅむっと胸に押しつけるようにもこもこを堪能しつつダメ元で聞いてみる。 「きゅっきゅ、きゅーきゅきゅ、きゅっぴ!」 ふわもこ曰く、他のふわもこよりも毛並みが良い、器量が良い、毛がふわふわしている、やや天然気味でとっても優しい、エトセトラ。 「ふむふむ、そうかそうか」 段々と惚気に近くなっていくふわもこの話に真剣な体で頷きつつも、半分くらい聞き流している冬路。 だってこうして抱えられるだけで割と幸せだしっ! 「さて、それじゃあ音でも鳴らしてふわもこ達の注意を集めてみよう」 そう言ってギターを構える闇月。 「ん。手伝う」 そしてそれに合わせるように手にハンドベルを持ち、杏樹がしゃんしゃんとリズムを取りはじめる。 「「「もきゅ?」」」 二人の即興の曲に反応したのは全体の3割程度か。さらにその半数ほどが音に興味を示し近づいてくる。 『これは何かな、何かな』 『わからないけど、楽しそうだよ』 『楽しそうなら、楽しもうよ』 『リズムに合わせて歌って、踊って、遊ぼうよ』 純粋な、くりくりとまん丸い瞳を輝かせて、リベリスタ達を囲うように踊り始めるふわもこ達。 「か、かわいい……!」 あるものはくるくると回り、またあるものは別のもの達の上をぽんぽんと飛び跳ね――体型のせいで決してダンスとは呼びがたい光景。 だが突然の闖入者たるリベリスタ達に害意を見せることなく、そんなまっすぐな好意のみを表すふわもこの姿に、まず文がノックダウンする。 「うーん、皆もこもこだよ……!」 翻訳機から伝わるダイレクトな「遊ぼう?」という感情に流されるようにふわもこ達に近づき、まずは手始めにぎゅーっと一抱き。 「もきゅー♪」 「……はっ!? 違くて違くて、ふわもこさん、おめめを見せてねー」 目を見れば見つめ返してくれる素直さにまた魅了されかけ、 「こ、この翻訳機は罠だね……! ルカルカさん、パス!」 首をぶんぶんと振りながら翻訳機ペンダントを外してルカルカへとパス。 「任されたのよ」 ぱしっといういい音をたてつつキャッチし首へかけ、ルカルカもふわもこ達へとコンタクトを開始。 まずは二匹ずつふわもこを並べてみてから、 「こんにちは、羊さん」 話しかける。 「少しだけお話しましょ」 だってルカも羊だもの、と。 仲間、仲間ー。と嬉しそうにはしゃぐふわもこにつられてわずかに微笑みながら、二匹の目に違いがないのを確認して口紅を塗ってあげる。 「これはね、恋のおまじない。これできっとあなたたちにも素敵な恋が訪れるのよ」 念のためにとつま先にも塗ってあげ、最後に二匹同時にもふっと抱き上げて別の場所へと移動させてあげる。 「はいはーい、お化粧してもらったふわもこ達はこっちじゃよー。和菓子とかもあるから皆で仲良く食べるのじゃ」 まだ惚気を続ける花婿を抱いたまま、冬路が確認の終わったふわもこを一カ所に集めて遊ばせる。 花婿は万が一にもはぐれてしまわないよう、杏樹から渡された識別用のリボンをつけているので安心だ。 「もっとも、しばらくはこのもこもこを手放す気はないがの」 ややうっとりとした表情で抱きしめる腕に力を込めれば、程良い弾力が返ってきてジャストフィットする形で腕に収まるふわもこ。幸せすぎるのじゃ……! と密かにガッツポーズの冬路。 「カリスマ美容師、まおの手によっておめかしなのですよー」 くしで簡単に毛を整えてやりつつ、まおもふわもこ達を順調におめかし……もとい、チェックしていく。 「今日はいい天気ですが、ふわもこ様にもいい天気となってるでしょうか?」 もふー。 「試練する側も大変ですねー」 もふもふー。 言っていることはわからないが、なんとなくのニュアンスは通じ合っている気がする。そんな手応え。 「……ふぅ。どうやら曲につられてきた中にはいないみたいだな」 時々誘惑に負けつつもなんとか集まってきた分のふわもこを全員で検分し終えて、闇月が一息つく。 だがここに集まってきたふわもこはほんの一握り。ざっと見渡せばまだまだ未チェックのふわもこがたくさんいて、 「……とりあえず、気の遠くなる作業だな」 一瞬だけ目眩がした。 「きゅ?」 そんな闇月を気遣うようにやってくる一匹のふわもこ。 どうやらまだ未チェックらしいそのふわもこを抱きかかえ、不思議そうに鳴くままに近くのふわもこのところまで歩く。 「特に違いは見受けられない、か」 「きゅっ!?」 二匹を見比べ、瞳の色に違いがないのを確認する闇月に、一匹のふわもこが抗議するように鳴く。 そして自分の方がよりもこもこしているんだとアピールするように体を振って自己アピール。 「すまないな。私達には、君達の見分けがつかないのだ……」 そう伝えて撫でてやるついでに口紅でちょこんとマークをつけ、片方を慰めるように頭の上に、もう片方を抱きかかえて交通整備の様相を呈してきた冬路の元へと送り届ける。 『――見つけました、あー見間違いでした、ごめんなさい』 自身の直感を信じてひたすらに遠目からふわもこ達全体を見回すのは沙希だ。 でもなかなかスキルが応えてくれません、と苦笑しつつふわもこ達を見続ける。 あの子がラム1号、その隣の子がラム2号、ラム3号……可愛くて美味しそうとかある意味最強ですね、じゅるり。 はっ、いけないいけない。可愛い隣人達を脅えさせたら可哀想です。 沙希が首を振って必死に誘惑に耐えているところにやってくるのは一匹のふわもこ。 「きゅきゅー?」 その顔が、沙希には何故だかこう言っているように見えた。 ――さぁ、僕の顔をお食べ。 『――では、いただきます』 ぱく。 「きゅー♪」 『――この吸いつくようなもちもちの弾力、流石ですね。惜しむらくは噛みちぎれないという点だけでしょうか』 噛めばそれが程良い触感として伝わるのに噛んでも噛んでも噛みちぎれる気がしない不思議。 くすぐったそうに鳴くふわもこから口を離し、噛んでしまったところを撫でてやりながらマークをつけて冬路の元へと送り届ける。 見れば新しい遊びを発見したかのようにふわもこ達が冬路に群がってる。あ、押しつぶされた。でも案外幸せそうだからこのままでいっか。 「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃいっと。ふわもこ達、何かリクエストがあるなら絵具でお好みのマークを描いてあげちゃいますよ。何がいいですか」 「きゅーっ!」 エーデルワイスがふわもこ達に声をかければ、ふわもこ達が集まりくるくると数匹ごとに星マークや音符マークを形作っていく。 「お前達は星、そっちは音符ですねー」 エーデルワイスが最初の数匹に描いてやったマークを全身を使ってわかりやすく表現してくれるふわもこ達の頭を撫でてやりながら、エーデルワイスは思う。 「頭いいですね、お前達」 これもいくつもの世界を渡り歩くうちに身につけた意志疎通の手段なのだろうか。 「きゅっ?」 「はいはい、今描きますよー」 向こうではおもちゃにされていた冬路がついに反撃に出たようだが、着実に数を増やすおめかしふわもこになす術もなく再び埋もれていく。 そろそろ助け船を出した方がいいだろうか。あ、でもまだ幸せそうだしもう少しだけこのままでもいっか。 「見つけた……!」 そして日がわずかに傾きはじめ、8割方のふわもこを確認し終えた頃。 ロープで作った縄跳びを回してふわもこを遊ばせていた杏樹がついに花嫁を発見する。 他のふわもこ達数匹と見比べてもわずかに深い紅帯びた瞳。間違いない。 ちらりとチェック済みのふわもこ達を纏めている冬路達――余談だが全体の半分を超えた辺りから流石にヘルプがかかり、30分交代でフォローが一人ずつ入っている。――の方を見て、花婿がまだこちらに気づいていないのを確認して、ルカルカを呼ぶ。 「あなたなのね。こんにちは、お姫様」 ルカルカが文と交互に使っていた翻訳機を受け取りながら花嫁に話しかける。 「ルカあなたのキューピッドになってあげるのよ」 まおからくしを借りて丁寧に毛を梳いてあげる。 「……皆にもお願いがあるの。ルカのお願い、聞いてくれる?」 周囲で遊んでいたふわもこ達も巻き込んで、物語のフィナーレに相応しい結末を準備しよう。 「素敵な恋物語に、しましょうね」 ●物語はかくありき 「よし、皆のもの、整列なのじゃ!」 「「「きゅぴー!」」」 約半日にも及ぶ激闘の末、ふわもこ達の頂点に立った冬路の号令で一斉に列に並ぶふわもこ。 その視線の先に立つのは、目を瞑って並ぶ10匹のふわもこと、その前に立つ花婿。 「さ、王子様。あなたが、恋の相手に選ぶのはだぁれ? 愛したいのはだぁれ?」 これは王子様とお姫様が結ばれるための大事な大事な恋の試練。 だから最後はやっぱり王子様がびしっと決めないと。 ――ルカルカが提案して、満場一致で可決された試練。 その内容は、リベリスタ達の手を借りて自由に着飾った子、マッサージを受けて肌つやを良くした子、自慢の毛並みを梳いて綺麗に整えた子……。リベリスタ達が自信を持ってお嫁に送り出せるとびっきりの花嫁候補の中から、紅い瞳以外の特徴で本物の花嫁を選ぶこと。 「きゅっきゅきゅ!」 それを聞かされ、花婿が意気揚々と冬路の腕から飛び出したのがつい先ほど。 「……だ、大丈夫かなぁ」 その様子をどきどきと心配しながら見守る文。 「当てられないようなバカなら、もう一度試練をしなおせばいいのよ」 意外と辛辣に言い放ちながらも目を離さないルカルカ。 「まぁでも、大丈夫じゃろ」 冬路が楽観的に予想を立てれば、 「どうしてそんなに言い切れるです?」 まおが尋ねれば、だって……と冬路が口角をわずかにつり上げる。 「私が抱いていた間中、ずっと惚気ていたほどのラブラブっぷりじゃったからの」 ――なぁ、ふわもこよ? 「きゅぴーっ!」 冬路の呟きに応えるように、花婿が一直線に駆け出す。 『さぁ、僕だけのお姫様』 その速度はリベリスタ達からみれば決して速いとは言えないけれど。 『その閉ざされた瞳を開いておくれ』 何者にも負けない力強さを秘めていて。 『その瞳の世界に僕だけを映しておくれ』 それは恋する羊、甘い、恋の時間の黄昏。 『大好きだよ』 ――とっておきの、恋物語。 花婿がその短い手をそっと差しだし、きゅっと鳴く。 その声に促されて、閉ざした瞳をゆっくりと開く花嫁候補。その瞳の色は――紅。 「ご結婚、おめでとうございます!」 ぱぁん、ぱぁんと祝砲をあげるエーデルワイス。 「どうかお幸せにー!」 そしてリベリスタ達からあがる拍手。 「これにてめでたしめでたし、だな」 ふぅ、と息をつく闇月。 慣れないことをしたせいで少し頭が疲れたが、このエンディングを見られたのなら……悪くはないのかもしれない。 「では、これより祝宴を始めるのじゃ!」 日が沈み、ふわもこ達が元の世界へと帰るまでにはまだ幾ばくかの時間がある。 それまでに、皆が持ってきたお菓子や食べ物を使ってふわもこ達とお花見と洒落込もう。 「時間いっぱいまで、モフりつつお花見を堪能しよう」 その手いっぱいに既に二匹のふわもこを抱えて桜の下に移動する杏樹。口元をふわもこの毛で隠してはいるが、わずかに頬が緩むのは抑えきれない。 ……否。きっと、今この場。この祝宴の場では抑えなくてもいいのだろう。 だって目の前には、あんなに幸せそうに寄り添う一組のカップルがいるのだから。 『――お酒を嗜まなくても、これだけで酔うことができそうですね』 夕日に染まる桜と、風の音とふわもこ達のはしゃぐ声。 『――そんな時間に静かに酔うのも、それも又良し』 綺麗に咲き誇る桜。 風に揺られ、二匹を祝福するように舞う桜吹雪。 「花婿さんと、花嫁さん、お幸せに……」 文の呟きが、風にとけて消えていった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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