●よるのくまさん 「このぬいぐるみ、要らないわよね」 気が付いたら汚い所にいた。 「いい加減汚くなってきたし、赤ちゃんにも悪そうよ」 あ、ここはゴミ捨て場だってすぐにわかったよ。 「陽子が帰ってくるとうるさいから、今捨てちゃいましょ」 いらないものを置いていく場所でしょう?僕、いらなくなったのかなぁ。 「明、お姉ちゃんのお部屋片付けて頂戴。そう、一階の玄関脇の――」 そうなら悲しいけど、でも、でもね、それならね、これだけね。 『いいいいいたたたたいいい』 『いい、いたた、いい』 『い、いた、い』 一生懸命話しても、上手なおしゃべりにならないのは、猫にひっかかれて真っ赤なフェルトで出来た口が取れかけているから。 あの子のところへ帰りたいのに、おうちへの道がわからないのは、烏に突かれてボタンで作ってもらった目が片方外れて落ちて、もう片方も罅割れてしまったから。 走って戻ってあの子の腕に抱かれたいのに、上手く歩けもしないのは、ゴミ捨て場で水を吸って体が重たいから。 だけど僕がんばって、君のところまで戻って来たよ。 僕が一緒じゃなきゃ眠れないって、君はよく泣いたよね。 大丈夫だよ。 君は良い子だねって僕に言ってくれたから、僕ちゃんとわかっているよ。 ただ、ただ、僕は。 『いいいいいたたたいいいい。いいたい。いいいたたいい』 それだけだったのに。 ねぇ、『これ』なら僕の声、聞こえるでしょう?上手におしゃべりできてるでしょう? ねぇ、大好きだよって言ったのに、悲鳴を上げて僕を投げるのは、僕が可愛くなくなったから? ねぇ、こっちに来ないでって喚くのは、僕が古くて汚れてるから? ねぇ、化け物って叫ぶのは、僕が、僕が、僕が。 ねぇ、ねぇ、くちがいたいよ。めがいたいよ。うでがいたいよ。あしがいたいよ。むねがいたいよ。 きみがにくいよ。 あぁ、あぁ、ほんとは。 ――いいたい。 ねぇ、どうして、きみは動かないの?だっこしてほしいなぁ。ぎゅってしてほしいなぁ。 でもねむたいのかな?だったら一緒に寝てあげる。 あのね、僕、これだけどうしても……ようこちゃん、―― くまのぬいぐるみの取れかけた目から、じわりと水滴がにじんで流れた。 ●フォーチュナのいうことにゃ 「くまが、女の人を襲う。それを阻止してほしい」 あどけない少女の口からそう告げられると、まるで童謡か絵本の話かという気分になる。 しかし、少々メルヘンチックな台詞を口にした『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情は、至って真面目だった。 「くまと言っても、本物の熊じゃない、ぬいぐるみ。 相手はエリューションゴーレム1体。フェーズは1。 捨てられた古いぬいぐるみが、エリューション化して元の持ち主を襲うわ」 フォーチュナーが視たのは、数時間後の夜の住宅街。 ぽてぽてと暗い道を歩いていたのは、ゴミ捨て場から自力で脱出した、くたびれたぬいぐるみだ。 あちこち謎の染みをくっつけて、目も口も取れ綿のはみ出した姿は、お世辞にも可愛らしいとは称せない。 はっきり言って、何処かを目指して歩き続けるぬいぐるみは、不気味以外の何物でもなかった。 「ぬいぐるみが目指しているのは、持ち主だった女の人、神崎陽子(かんざき・ようこ)の家」 彼女は出産を間近に控えた妊婦で、今は里帰りの真っ最中だという。 「ぬいぐるみは、最初何もしないで寝ている彼女の布団に潜り込んで一緒に眠るの」 寄り添って眠る、ぬいぐるみと女性。 一見和やかにも見える夜の光景だ。 しかし、放っておくと、陽子に朝は来ない。永遠に。 「神崎陽子は違和感に目覚めて、捨てられたはずのぬいぐるみがある事に動転して、ぬいぐるみを壁に投げつける」 ぬいぐるみは立ち上がって布団に戻ろうとする。陽子は余計に恐怖し混乱する。わけもわからず罵倒する。拒絶する。 見慣れた自分の玩具であろうとも、夜中に動く無機物を見れば、それは正しい一般人の反応だろう。 ただし、ぬいるぐみ的には非常によろしくなかったらしい。 「大好きな持ち主に怒鳴られて、ぬいぐるみは一変する。 体の中身に詰められた綿を操って、彼女を絞め殺してしまう」 真綿で首を絞めるの言葉の通り、ゆっくりと、じわじわと、眠るようにゆるゆると、女性を殺めて、目覚めない彼女の横で一緒に眠るぬいぐるみをフォーチュナは視た。 「今から向かえば、神崎陽子の家の前の公園で会えるはず。 彼女が永遠に眠らされる前に、助けてあげて」 地図で敵の居場所を指示しながら、イヴは言う。 その幼い彼女の横顔に、少しだけ物寂しげな影を見つけて、リベリスタは疑問の声を掛けた。 「……ぬいぐるみが、何かを言っているんだけど、何を言っているのか聞こえないの。 ずっと繰り返し言ってるから、多分ぬいぐるみにとって大事な事。 何が言いたいか上手く聞き出せれば、もしかして戦わなくても済む…かも」 聞き出すと言っても、情報を聞く限りではE・ゴーレムはまともにしゃべれない。 どう話を聞いてやれば良いのか。 「E・ゴーレムは、ある程度近寄ると、ハイテレパスを使う。 テレパス状態になれば、少しはまともに話が出来るはず。 ……ただし、このある程度の距離は、そのまま相手の攻撃範囲だから、ダメージを受ける危険もあるけど」 エリューション化で強化はされていても所詮攻撃手段は綿だから、ダメージと言っても大した痛手にはならない。 しかし、てっとり早くぬいぐるみを壊して仕事を終えるか、はたまたぐずる子どもを宥めすかして機嫌を取るかはリベリスタの自由だと、 うさぎのポーチを弄りながら、ぬいぐるみのよく似合いそうなフォーチュナは告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:十色 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月27日(金)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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