●ちゃぶ台返しともいう 「もういいんだよ、俺は一生無職なんだよ。働くことが出来ない人間なんだよ。 彼女なんていらねーよ、無理だよ。一生(ノイズ)なんだよ。 頑張りたくねぇ。頑張る精神力が備わってねーんだよ、俺……。 っていうか友達? そんなの絶対できねーだろ、ぼっちでいいよ……」 ごろんごろんばったんばったん、と駄々をこねるような動きを繰り返すそれは、半透明の成人男性だった。 ぼさぼさの髪や着古したジャージから、まっとうな生活を送っている人間とはとても想えない。明らかに駄目な方の人だ。 恐らくは、そういう境遇に置かれた人々の雑念の集合体であるのだろう。それにしたって――余りに、駄目な相手だった。 こんなふうに全部諦めて生きていけたら楽なのかなぁ、などと思わなくもないのだが。 社会人は、想ってはいけないことだった。 ●字面的には正しい 「E・フォース、識別名称『フォーティ』。人生におけるあらゆることに諦めた人間の思念の集合体かと思われます。 基本的に、周囲にそのような感情を吐き散らすことで無力感を増幅させ、徐々に衰弱させて人を死に追いやるであろうということは想像できます。まだ、フェーズ1なのでせいぜいちょっと気怠くなるだけですが」 至極真面目な口調で説明する『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)をよそに、周囲の雰囲気の冷ややかさは半端なものではなかった。 働けよ。 恋人くらいつくれよ。むしろとっかえひっかえでもしとけよ。 努力くらいしろよ。 コミュ障乙。 そんなリベリスタ達の冷静過ぎるツッコミが入りそうなエリューションである。まったく残念この上ない。 そもそもネーミングだよ。ダブルミーニングか。 「名前考えたの、僕じゃないんですけどねぇ」 どうでもよかった。 「あ、因みに。基本的に、彼の存在する周囲二十メートル半径には微弱な力場が発生するようで、踏み込んだ段階で二ターンに一度、各種弱体化に相当する不利益を被るかと思われます。無効系スキルが有効なので、そのあたりが在れば優位に進むでしょう。彼自身の攻撃にも若干の状態異常攻撃があるようなので、注意が必要ですが……そう気負わず、説教する勢いで倒してきて頂ければ」 面倒とかそれ以前に、どうしてそうなった……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月02日(水)00:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●働かないという選択肢 働きたくない、故に働かない。 それが出来るのは本当に一握り、不労所得でも無い限りは不可能な所業である。 いやまあ、昨今は「ニートアイドル」なる働いてないのか歌ってるのかちょっと理解できない人種も居るらしいが、それはさておき。 実際のところ、働かなくていいならどれだけいいことか、とか思うのは恐らく八割くらいの人間の意思ではなかろうか。 かくいう自分も2バイト文字の羅列に何度心が折れそうになったか検討もつかない。 だが、逆に考えると働いてない状態はそれはそれで苦痛の筈だ。流れぬ水は腐るし滞った栄養は毒になる。 ……まあ、腐ったから革醒とかそういうオチなんだろ。そうだといってくれ。 「働きたくないとか何? 頑張りたくないとか何? いい大人がそんなんじゃダメじゃない!!」 ここまで「お前が言うな」と言いかけてすんでで飲み込んでしまう相手は『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)以外そうそう居ないかも知れない。だが待って欲しい。彼女は自堕落であることをパーソナリティとしつつ、経験した戦場の数はアークの中でも相応に多い方だ。 そもそも、本当に自堕落なら教師という職の選択肢すらない。むしろ職がない。おいこの人本当はすげぇ努力家なんじゃねえか。 「愛別離苦を乗り越えたあたしにかかれば、四諦モドキなんざ、そっこー調伏ッス♪」 四諦の何たるかを断片的にせよ理解した『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)にとって、目の前に現れたそれは一笑に付すしかできないシロモノだった。何しろただの小汚いオッサン風情の思念体だ。自らがその魂を賭けた辛苦の一分にも値しない。 まあ、アレだ。フリーターがどうとかっつってもほら一応頑張ってるし。髪の毛焦げるくらいは頑張ってるよ。 「ふふふ……最初からやる気のない香夏子には怠惰感など意味を成しません!」 それはちょっと自慢しちゃ駄目だと思うんだ。『第21話:偽者現る!!』宮部・香夏子(BNE003035)はどうやらサブタイトル変更を怠ける程度にはやる気が無い。いや、実際本気らしきものを出しているのは何度か目撃されては居るものの、この少女にやる気は似合わない気がしないでもない。エリューションと波長合うって本当にどうかと思うけど、相手を油断させる程度の働きはあるんじゃないかな。あると思う。 「今回も香夏子少しだけ本気を出すしかない様ですね……あれ? 出したら負けですか?」 いや、判定勝ち。 ところで。 『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)、この手の依頼に関してのモチベーションがリベリスタでも五指に入るとか入らないとかそういう噂をよく聞く彼女が現状どんな感じかというと、 「この肩甲骨の間が凝るのよねぇ……」 早速ですが和んでました。しかもただ和んでいるならまだしも、自分の翼ではなく計都の施した仮初の翼に頼り切りで、しかも屋上の鉄柵に背中を押し付けて簡易マッサージをおっぱじめる始末。 まあ、何でこうなったかって真面目にも「四諦」について調べてさっぱりよくわかんなくて「あ゛ー」ってなったかららしい。多分。 「マナサイクル……とかはメンドくさぁい♪」 えっとこれ、相手への迎合からのだまし討ちとかそういう意図があってやってるんですよね? そうなんですよね? 「私達リベリスタが命を懸けて守っている世界の住民がこの状態って……ちょっと腹立たしいかも」 片や、『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)にとってこの状況は怒り心頭とまではいかないまでも、思うところ多かったことは間違いない。 自分たちが命をかけてきた足跡にこのような存在が居ること、この原動力になる怠惰があることは果たして、許すべきかどうか。悩ましいにも程がある。 だが、返す返すにそのような思念があるのなら、それを解消しようという思念があるのも事実といえば事実。何とかしたくなければ、きっとこんなことにはならない。 「……そう思わせて……」 すげぇ不幸を見た。 (きつい時は、おいしいものを食べて休みます。そうすれば動きたい気分になるとまおは思います) 『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)にとって、動けないことはあろうが、動きたくない、何時までも働かない……そんな言葉や選択肢はもとより無いものとして考えている。 其れ以外にも色々と諦めている相手を前にして、まおは何をすべきなのかを一生懸命考えた。小学五年生クラスの知恵である。ある程度の類推はできても極端な結論になることはあるだろう。 で、その結論が 「具体的には……えーっと、うーんと……こうですか。にゃー」 ネコミミ幼女だった。にゃーとか。にゃーとか。字面的にそろそろ俺がめっされそうです。 屋上の影から、その声につられたかふらりと影が舞い降りる。というより、転がってきたのか。 ――四諦をどう誤ったのかわからない謎の存在が、降臨する。 ●ふぉーてぃーふぉーちゅーん(棒 「ふぉーてぃーさんや。本当に諦めた人は恋人いらねーだとかぼっちでいいーとかなんてのたまわないものだよ?」 このエリューションに対し「遊びに来た」と豪語する『灰色の荒野を駆け抜ける風』霧里 びゃくや(BNE003667)は、心底楽しそうに一撃目を放つと、振り向き様にそんなことを宣った。 何故かクェーサー的に倒すと口にしては居るが、そんなアッパーユアハート(言語)やめたげてよぉ! 「如何に怒られないよう手を抜けるか日々研究!! 頑張ってる!! ちなみに彼氏募集中!! 手足となって動く下僕も募集中!!」 どうしようこの常勤教師。さっきちょっと感動したと思ったら、魔力の循環を交えつつ微妙なことを精一杯口にしてもうなんて言うかこの努力である。悪いとは言わないが、悪いとは言えないのだが、この研究を努力と言っていいのか。いいよな? 「いやもうバブルの頃とは違って、世の中不景気だから思うように結果が出なくて大変だよね」 何かを理解して受け入れようとするキリエの表情は、色々と悟った慈母がごときそれだった。この子にこんな顔させるとかとんでもないえりゅーしょんだなあ(棒)。 「それに彼女が欲しいならそれこそ働かなきゃ、服や車や、お金かかるらしいよ?」 いや……でもほら、服とかセンス(笑)に左右されて楽しめないし車なんてあったって困るし…… そんな声が聞こえたのか、びしりとキリエの額に青筋が走ったような気がするが気にしてはならない。気糸を繰る手が強ばっていた気がしてならない。まあほら、そこは彼女の事情っつーか、気にしてはならないことだと思う。 「出来る限り早く楽にしてあげた方がフォーティー様や大人の皆様の為になるとまおは思いました。にゃー」 気糸を引き絞り、とりたてて表情に抑揚があるわけでもなく、「まおは~しました」の語調に取ってつけたようににゃーとか加えるまおの姿は、こう、なんて言うか可愛すぎていろいろな意味で危険なのでええとその、もっとやれ。 心なしか勢いがあるのはもどかしい声に何がしかの感傷があったとかそういうものなのではないかと思う。大丈夫だろうか。 「ここは貶すよりも褒めて伸ばす事にしたよ」 どうしよう。『最弱者』七院 凍(BNE003030)の斜め上に突き抜けた発想に驚愕する。普通は出来な……ああ、うんまあ革醒者の皆さんを普通呼ばわりも失礼だけど。 「スッゲーね、流石人生の先輩と言ったところ! ボクもいつかアナタ達みたいな道を辿るドリーマーになるんだ! 先輩って呼んでいいッスか? 先輩マジリスペクトっしょ!」 いきなりのリスペクト攻勢だった。まあ、確かに凍の言いたいこともやりたいこともその他云々も痛いくらいよく分かる。痛々しいからもうやめるんだ。あれはドリーマーじゃないぞ。相手戸惑ってるじゃねえか。エリューションなのに。 「先輩胸を借りるッス! 時には攻撃させてもらうッス!」 敬意を表しつつオーラごと鎌を叩きつけるその様が、果たして敬意なのか何なのか、ちょっとわからなくなってくる。でも彼、目がすっごいこうキラキラしてるんだよ。凄いいい顔で『カルビナ』と名付けた鎌を振り回してるんだよ。 「働くことが出来ぬと煩悶する……なんと愚かなことか!」 ここで常識人枠っぽい計都さんきた。これは勝てる。働けないことを両断するくらいだからなんとかしてくr 「働かなくても、いいじゃないか、働きたくないんだものっ! 鋼の決意、鉄の心で、迷いを捨てるッス!」 鉄の心っていうかそれ、世捨て人の発言だよね。絶対間違ってるよね。間違いなく間違ってるってアレだよね。おかしいよね絶対。ちげーだろ落ち着けよ。俺が落ち着きてえよ。 「ゴチャゴチャうるちゃい☆ この、ブタ野郎っ――――!!」 楽をしたいので頑張るという、ある意味日本人的な発想に至ったのは、とら。まあ色々間違ってる気がするけど間違ってないっていう謎の境地に至っていると思う。だからトラップネストで縛り上げて、ここで彼女が本気だったらハイキックが飛んでいるらしい。どこのご褒美だよ……。 縛り上げられてるからもうフルボッコでいいんじゃねっていう意見があるんですが、ごろごろすることを苦しまないフォーティさんがそんなちょっとご褒美プレイされただけで敗北の悦びに目覚めるとかむしろ俺の寝覚めが悪くなるので、多分に有り得ない展開ではある。何はなくともエリューションがそうもあっさり死んでしまうわけもなし。 「頑張りたくないとか働きたくないとか。やっぱりあれよね。頑張ってる人、働いてる人のセリフよね」 今回のシナリオに於ける真理を頂きました。こういう時にきっちり決めるソラ先生はやっぱり教師であった。思念体を前にしてその元となる相手の説得ができないか、までを考えるあたりはやはり眩いばかりに彼女は教師なのだ。マジックミサイルの鋭さが半端じゃないが。 「お前に残された選択肢は三つ。私を愛でるか、私に萌えるか、私を愛でるか、だ」 びゃくやさんは何ていうか自由だなあ。自由って何さ。躊躇わないことさ。 ●はた(ら)きたくないでござる 影を従え、マスクで口元を覆ったまおの服装・存在感は暗殺者のそれを彷彿とさせる。だが、その頭部のネコミミが全部台無しにする。だがそれがいい。 「何がしたくてわからない時がイライラするんだってまおはちょっと学校で覚えましたから。にゃー」 フォーティを縛るブラックコードを引き、踏み込みながら返す腕でブラックジャックを打ち付ける。だが、打ち付けた手を開き、フォーティの頭に載せたその瞳には多少なりの慈愛が見て取れる。彼女なりの、思いやりの類なのだろう。 掴みかかられても嫌な顔ひとつしないとは、出来る。 「カッケ―――! 皆が頑張ってる中一人だけ頑張らないなんてカッコよすぎる!! 先輩ならそれくらいのハンデあったくらいが丁度良いんじゃないッスか? 先輩今ハンディキャップ抱えてますか?」 凍、ちょっとそのへんにしといたげて。ハンディキャップって下手すると怖い大人ホイホイな単語だから。控えて控えて。っていうかノリノリだなお前。 「恋人? そんなの、都市伝説に決まってるじゃないッスか。フィクション以外で、そんなの見たことあるッスか? ギャルゲのやりすぎで、現実と空想の区別がつかなくなってるッスよ」 そうそう、恋人なんてマジ都市伝説だよ。アイツだけの○○○とかエンj いやなんでもない。 見間違いだと計都が断言する限りは見間違い以外の選択肢がどこにあるというのか。 「いいじゃない、かわいい笑顔を見られれば、疲れも吹き飛ぶよ。……だから働け、バカアニキ☆」 キリエ、良い感じでトラウマ的な何かを抉られた模様。実在する如何なる人物とも、彼女の発言は関係ないと思うのです。……ないと、思うのです。 「あふ……めんどくさいから、まとめて」 何しろとらのフリーダムっぷりは半端無かった。面倒だからっていうか効率の問題じゃないですか! やめようよそういう発言は!(真摯 「元々あんまり動かない敵さんでしょうか……?」 ソンナコトナイヨ? スゴクウゴイテルヨ? 皆の気糸が濃密過ぎるだけだと思うん。 「私の宇」 はいカット。びゃくやさんのこう、色々背徳的っぽいソニックエッジがあれこれしました。以上。 「むしろ相談で女子力とかせくしーなら効くかもって言われた時はまおはどうすればよいかわからなかったのです。にゃー」 がりがりどかん、べきばきぃっ。 荒れ狂う波の如くにまおの手が次々とオーラを生み出しては叩きつけられていく。圧倒的な、なんて言うか負の感情の奔流だ。……あれ? 「どうすればよいかわからなかった」? 「これがやけくそって事だと、まおは覚えました。にゃー」 ああ、何だ。フォーティを諭してるようで自分自身に向かって言ってたんですねこの子。全部やけくそプレイだったんですね。最後までフォーティさん見向きもされてなかったよ、やったね! 「先輩胸貸してください! 先輩の胸もってってもいいッスか?」 胸を貸す意味が明らかに違う。そんな突っ込みすらも聞こえづらい声に混じって消えていく。凍の放った爆弾が、そんな反論を許さず爆風の中に飲み込ませ、そして、消えていく。 「どうやら香夏子達のやる気の無さの方が上でしたね……!」 まあ、やる気がなかったら負けてると思うんだけどなあ。関係のなさに気付いたら明らかにショックを受けてしまうので「そういうこと」でお茶を濁すのが健全って偉い人がいってた。 「ねーねー! 屋台のラーメン食べに行こうよぉ♪ 労働後のラーメン最高だよ☆ 牛丼でもいいよ?」 「ビールが飲めるなら付き合ってもいいわ……」 帰って一杯煽りたいと思っていたソラにとっては、それがどこであってもさしたる問題ではないのかもしれない。キリエも、とらの保護者的観点から止める気配もないようだ。 ……ところで。この状況、凍が一番得してる気がするのは気のせいなんだろうか。役得っぽいあれ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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