●何とはなしに他愛もない 「蝮原様ってナメクジは苦手ですか?」 「……は? 何だ行き成り」 「いや、『三竦み』ってあるじゃないですか」 蛇は蛙を一飲みに。 蛇に負ける蛙は蛞蝓を一飲みに。 蛙に負ける蛞蝓は粘液で蛇を溶かす。 その蛇は蛞蝓を食う蛙を食う訳で……。 「……あのな名古屋。確かに俺は『蛇混じり』だが……」 呆れた様な吐息、それと一緒に葉巻の煙。ここ禁煙ですよ、の一言に「そいつぁどうも」と素っ気ない。 「そもそも、蛞蝓の粘液で蛇が溶けたなんざ実際に聞いた事ねぇよ。昔話の迷信だろう?」 「や、それが溶けるんですよねぇ」 「……寝言は寝て言うから『寝言』って言うんだぜ」 「そっそんな可哀想なモノを見る目はお止め下さいな……まぁまぁ、聞いて下さい。今、お暇でしょ?」 「……」 沈黙が返事。故に機械男は肩に浮かぶアンテナを緩やかに回しながら言葉を続けた。 「巨大なナメクジのE・ビーストの出現を視たんですよね。 で、件のナメクジの粘液はエリューションにとっても危険なモノでして……溶けちゃうんですよね、ドロッと。毒で」 で、本題なんですが。 「リベリスタの皆々様とまたご一緒される心積もりは? や、前回もなかなか良かったみたいじゃあないですか。貴方を慕ってらっしゃる方も多いですし」 それに、『今お暇』でしたよね? 「……お前な……」 変な所で強かなのな。 「戦闘用フォーチュナですので」 あ、これは冗談ですぞ。 ●蛇って虫じゃないのに虫偏なのは何故かしら 「サテ、そういう訳でして」 と、言葉を放つのはいつもの事務椅子に座した『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)――そして、やや離れた位置にて集まったリベリスタを見遣っているのは『相模の蝮』蝮原 咬兵(nBNE000020)だった。目が合った。会釈すると、片手をひらりと応えてくれた。 「巨大なナメクジ型のE・ビーストの出現を察知致しましたぞ」 モニターに映し出されたのは言葉通り、三体の蛞蝓。毒々しい皮膚からヘドロの様な粘液を出し、通った後は地面が焼け焦げている。中々にグロテスクな外見だ……。 「『毒蛞蝓』――フェーズは2、数は3。その名と毒々しい見た目の通り、毒による攻撃を得意と致します。それに毒系統の状態異常にはかかりませんぞ。 動きこそ鈍いですがその分タフ、ヘドロが気化したものを吸い込むと猛毒状態になる場合もございますぞ。まき散らされたヘドロを踏んだら動きが鈍くなっちゃいますし。 ただ、知性は無いに等しいので連携とかの心配はないかと」 兎も角お気を付け下さいねと言う。 次いでモニターに映されたのは深い藪に包まれた広い空き地であった。 成人男性の腰ほどまで草葉が茂っている。ちょっと動き難いかもしれない。 「さて現場についてですが、ご覧の通り草むらってますぞ。ちょいっとばかし動き難くって――速さと回避に僅かながら支障がでるかと。 それから時間帯が夜で暗いんで、そこの所も要注意ですぞ!」 説明はこんなものだと締め括り――サテ。 「お察しの通り、今回の任務では『相模の蝮』ことヘビスハクリスタの蝮原様がご一緒して下さいますぞ」 「……よう。宜しく頼むぜ」 「それでは皆々様、蝮原様、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月29日(日)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●むしへん? 夜風が吹いて、湿った藪がザザァと鳴る。 「蛇は鱗虫だからだって話だが、実は人間は裸虫だって言うのな。昔の学者さんの考えることは判らんねぇ」 なんでも、古代中国では動物の総称は虫らしく――それの名残なのだとか、と『足らずの』晦 烏(BNE002858)は天を仰いで誰とは無しに呟いた。暗視ゴーグルを取り付け、口元を布で覆い隠し、最後に愛銃:二四式・改を構える。煙草は吸えないわ強盗みたいな見た目になったわで何だかアレだが、まぁ、致し方ない。 「蜘蛛に続いて次はナメクジ……まぁナメクジはそんなに大嫌いってほどでもないわ」 普通のナメクジならね、と付け加えて『蜂蜜色の満月』日野原 M 祥子(BNE003389)はマスクの奥で溜息を吐いた。どうしてこうもゲテモノ続きなのか、等思いつつ仲間へ治癒力の加護を、序でに安全靴を履いた脚で草を踏み倒し足場を確保してゆく。暗くてちょいと見え難いが、灯りを持った仲間は視認出来るので回復には問題ないだろう。 「あの蝮原と同じ戦場に立てるなンてな。それに同業者も多いから楽しみだぜェ」 シュコー、とガスマスクの奥。『ステガノグラフィ』腕押 暖簾(BNE003400)は前衛に立つ仲間達へオートキュアーを施しつつへらりと笑った。同業者。その一人たる咬兵へ、持続治癒の術を施しつつ。 「よろしくなァ」 「おう」 「蝮原のおっちゃんは何気にお初ですかね。イーちゃんはおっちゃんが来るまでぐーたらしてた分、詳しいことは知らねーですが。まぁ、宜しくですよ?」 と、横合いからガスマスク顔をひょいと覗かせたのは『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)、夜の闇と帽子の影を落とした無頼の武骨な顔をまじまじ見上げて挨拶を。 「三竦みがどーたらは知らねーですが、名誉の為にも負けられねーですね蝮原……あぁ、うむ。まむっさんでイーですかね?」 「……好きに呼べ」 夜風に帽子の鍔を抑え息を吐く様に。そちらへ顔を向け、先ずは目礼をしてから『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は口を開いた。 「蝮原と肩を並べる事が叶い真喜ばしい。夏の腕試し以来、我も少しは力をつけた。此の戦いで無頼の成長の一端を見せたく思う」 「ほう。そいつぁ楽しみにしてるぜ?」 がっかりさせるなよと目で語る蝮へ源一郎は勿論だと力強く頷いた。表情を引き締める。功名心とは別にエリューション退治も確りとこなさねばならない、馴染の予言師に申し訳が立たなくなる。しかし無頼の装備は常通り、少し都合がある故に。 「さて……そろそろか」 仲間の光源補助の意味合いも兼ねて『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は懐中電灯のオンにした。照らされる一筋、ズルリと這い寄って来る剣呑な気配、そして悪臭。剣を抜き放つと同時に戦気を漲らせる。 「……ナメクジ如き、ひとのみさ。なぁ蝮原、はっはっは」 彼の背中をポンと叩いた。その笑みの真意は神のみぞ知る。咬兵も何かを言いかけたが――結局口から漏れ出たのは諦めた様な吐息。彼が何を言わんとしていたのかも神のみぞ知る。黙したまま年季の入った自動拳銃をその手に持った。 「まむっさんは可能なら一体足止めしといて欲しいです。コッチ撃破したら直ぐに行くですから」 「分かった、そっちは頼む」 手筈通り、咬兵は不気味に寄って来る毒々しい蛞蝓の内一体を見澄ました。 その広い肩を高い位置からポンと叩いたのは自慢の翼を広げて宙を飛ぶ『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)である。 「『相模の蝮』の力、ぜひともお見せくださいませ! こんなナメクジ一匹くらい余裕余裕、まさか泣く子も黙る『相模の蝮』がナメクジ苦手なんていわないわよね……?」 「そんな訳ないだろう。お嬢ちゃんこそゲテモノは大丈夫なのか?」 「当たり前じゃないの。溶けたりしないでよね蝮原さん――あ、そうだ、懐中電灯渡しておくわね。アタシ2つ持ってきたから! じゃあ、がんばって!」 懐中電灯を渡して超期待を込めた眼差し、そしてサムズアップ。 因みに久嶺が咬兵だけ『蝮原“さん”』とさん付けをするのは、彼が強いから。誰かを護るために戦う人が好きだから。尊敬しているから。 (アタシも蝮原さんみたいにもっと強くなりたいわ……大事なお姉さまを護るために) 表情を凛と引き締め、光源を取り付けたライフルを静かに構えた。 「……、」 さて咬兵は毒蛞蝓へ向かおうとして――視線に振り返る。『三つ目のピクシー』赤翅 明(BNE003483)が鉄球にちょこんと座ってじっと見つめている。しゅこーとガスマスク。 (溶けるの?) 「……どうした?俺の顔に何か付いてるのか」 「んーん! なんでもないっ、がんばろー!」 誤魔化す様に笑って、フードを深く被ってみる。 「フード被ったらカエルっぽかったりしない? これで三竦み完成! ……とかはちょっと無理があるかな、うん」 「はは、蛙か。頼りにしてるぜ」 「えへへ、ありがとっ」 ニッコリ笑い、そして明は徐にビールを取り出した。飲む為ではない。未成年だし、それ以前に不味い。 「だってこれ苦いもん。蛞蝓ってなんでこんなのに寄ってくるんだろ?」 言いながら、頭からドバァ。ガスマスクが酒気避け。 さぁ往かん。 4人の無頼が見得を切る。 「無頼が一人、古賀源一郎。今宵の我道は正面突破也! いざ行かん!」 「無頼が一人、機械鹿。俺は俺の義を往くぜェ!」 「無頼が一人、姓は晦、名は烏。稼業、昨今の役戯れ者で御座いってな」 「無頼が一人、相模の蝮。……仁義上等、ってな」 ●ヤブヘヴィ うぞうぞと蠢いている。滑り流れる粘液が草を溶かし、焼き、毒を大気中に撒き散らす。見ていて心地よいとは言えない光景。気味が悪い、と思うのが正常なのだろう。 「さて、草刈りと蛞蝓狩りといこうかね……!」 先陣を切ったのは零二、葉擦れの音を響かせて蛞蝓達へと迫る。残像。同時に大きく振るった幻影の刃は蛞蝓達だけでなく周りの草も切り払った。足場と視界確保。切られた葉が宙に散る。それがグズリと蕩けたのは、蛞蝓が毒の霧を噴射したからだ。咄嗟に飛び退き回避したが――肺に疼痛、焼ける咽、思わず咳き込んだ。風上から攻めているとは言え悪臭もある、飛び散った粘液に頬も焼かれた、患部を拭い、苦笑じみた笑みを浮かべた。 「こいつらの毒は……吸い込まずとも、こちらを蝕んでくるようだ……厄介な事だ」 まぁ、四の五の言ってられない状況なのだけれども。この剣を存分に振るう所存。 「おっきな生き物は微笑ましいけど、成長し過ぎだよ!」 ぴょんと飛び出す明は一体の毒蛞蝓の目の前、ブロックする為に。触れるモノを赦さぬ拒絶の闇を纏う。踏み付ける粘液に彼女の脚が囚われる事は無い。ビールの酒気のお陰か蛞蝓が明確に明へと向いた。もぞり、蠢き、次の瞬間に吐き出されるのは如何にも毒々しい見た目をしたグロテスクなヘドロの球。咄嗟に鉄球を構えた。飛び散る毒が少女を焼く。が、彼女は臆す事無く肩から提げていた大きな水筒を手に取った。 「この海の水は駄目よ!」 蛞蝓の進行方向へ食塩水爆弾投下!なんか風の谷の伝説の蒼き衣のアレな気分だ! 「E・ビーストになってもこの弱点、克服出来たかどーか試してやるです」 「覚醒しても相手はアレだろ――喰らえスーパーで買って来た塩! 唸れ浸透圧! 塩結界!」 唯々に続いて暖簾も塩をぶちまけた。祥子からも託された文も含めて。暖簾は前・後衛への道を阻む防衛線。唯々は蛞蝓へ直接。でかくて毒を吐くとはいえ蛞蝓。きっと塩に弱いはず。どうなる事やら。ちょいと楽しみ。見遣るその先で蛞蝓が怯んだ。ダメージは入っていないようだが、それでも流石に不快らしい。不愉快そうに身を捩らせるや毒の霧をその身から放った。粘液を放った。 「あー、神秘! 忌々しいぜェ!」 ガスマスクをしているとは言え神秘性の毒、風上という地形と相俟ってほんの僅かだけマシになっている気がしない事も無いとは言え肺を焼く激痛。口の中に広がる鉄の味、口端から垂れる赤。 「回復支援なら任せてくれ、符ならたんまりあるからな」 傷癒の札を手に暖簾は前衛陣へ向かった。戦線維持の為。あんまし無頼らしくねェかもしんねェが、こういうのの方が性に合うな。 「さて、あたしはあたしに出来る事をがんばるわ。いつも通りにね」 祥子が放つ破魔の光が仲間達を柔らかく包んだ。その身を冒す毒を拭い去る。最中にも草を踏み倒して固めて足場を確かにしてゆく。大分と動きやすくなる筈だ――飛んで来たヘドロを霜月ノ盾で容易く受け止めて防ぎきった。 一度戦場に赴けば、後は拳と体にて語るのみ。前進。足元や気化粘液が何だ、この程度で敗れる源一郎の道ではない。思わず笑む。無頼たる者時に危険を冒そうとも真っ直ぐに往くもの。 「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、善き言葉よ」 振り上げる拳は蒼穹、遥かな天すら轟かせる豪撃。叩き付ける。拳が毒に焼け爛れるけれど、もう一度。 「如何なる相手であろうとも己を貫く。今宵は真っ向より勝負と決めた」 その分皆が自由に動ける様に成れば良い、己一人で立ち回れる事に限りあることは良く学んだ。なればこそ仲間の危機に手を貸す事を忘れずに在りたい――気を向けるのは咬兵へ。重厚感のある銃声。横目に一瞬視線があった。 「余所見してんじゃねぇよ」 「うむ、相分かった」 視線を戻した。 異形へ跳びかかるのは唯々。仲間が灯りを持つとはいえ矢張り暗い、その上に移動に重点を置いた攻撃では流石に当たらないか。鈍いとは言え少なくとも普通の蛞蝓スピードでは無い。 「イーちゃん刻むのは好きですが、テメー等みてーなのを刻むのは正直勘弁願いてーですね」 溜息。零二が切り開いた場所にて殺意のオーラを振り抜いた。飛び下がった。ぐちゃりと脚裏に嫌な感触を感じる。粘液が。 「イーちゃんの動きが封じられた、だと? だからネバネバしたのはアレほど!」 特に誰も何も言ってないのだけれども。 一方で、藪の中。 「確かに回避の妨げにもなるが、そこは使いようってやつだねぇ」 風上。暗闇と草葉に身を隠した烏が密やかに二四式・改で蛞蝓を狙う。機会を窺う。その視線の先で、零二の残像が草葉と共に蛞蝓を鮮やかに切り裂いた。視界が両行になった上に、蛞蝓に出来た隙。逃さない、そう思った瞬間には引き金を引いた。神速の早撃ちが無防備な異形の横っ腹に次々と突き刺さる。弱っている方から狙うが常道、相手の数を減らして手数を減らせばこっちがぐっと有利になるだろうからな。 烏の弾丸に怯んだそこへ、更に後方からその頭部を寸分違わず執拗にブチ抜いたのは久嶺が放った殺意の弾丸であった。砕かれた中身を撒き散らし、ぐずぐず蕩けたそれへ渾身のドヤ顔を浮かべる。 「ふふん、地べたを這いずり回る生物の攻撃が、可憐で天使なアタシに当たるわけないじゃない!」 ドヤァ……べしゃ。 べしゃ? 「ア、」 なんという生命力。未だ死んでいなかった蛞蝓が瀕死状態で放ったヘドロが久嶺の腕を掠めた。袖がジュワァと溶けてしまった。わなわな、肩が震える。腕が焼けて痛い所為じゃない。 「アタシのお気に入りの服がぁ……! もう許さない! アタシの服を汚した罪は重いわよ!」 若干逆恨み交じり。絶対断罪の魔弾を渾身の怒りを込めて放った。ぶち当てた。粉砕した。己が傷付くのも厭わず、敵が欠片一つも残らなくなるまで。 「ぐるぐるまきっ!」 片方のブロックに当たっていた明の呪印が蛞蝓を雁字搦めに縛り上げた。肩で息をし、しかし傷付いた皮膚は祥子の光が、暖簾の符が治してゆく。戦闘前に授けられた癒しの力も直ちに体から痛みを消し去ってくれていた。さて、無限機関より生み出されるエネルギーを黒の瘴気へと変えてゆく。自らも蝕む真っ黒く染まった鉄球を振り上げ、叩き付けた。 「オレのターゲットになった不運を呪え」 縛られ動けぬ蛞蝓へ零二は切っ先を突き付ける。 さて咬兵の戦況は如何なものか。 「蝮さん、うっかり溶けちゃったら困るわね。服が溶けるくらいならまだいいけど、体が溶ける可能性もあるのかしら……」 「しかしま、サービス担当ってのも大変だわなぁ。何の話かはおじさん良く判りませんが!」 詠唱の合間に息を吐く祥子とからから笑う烏、 「……壮年の男性の衣類が溶けると、ナニカあるのかね?」 「え、ナニかなんのか怖ェ」 「うむナニもないことを祈ろう」 グッドラック蝮原。なんて暖簾と零二。 そんな様子に久嶺は思う。結構苦戦してる?なら応援ぐらいはしてあげよう、協力シテ戦ウッテ素晴ラシイワネ! 「蝮原さん『窮鼠猫を噛む』よ! 時として、天敵を打ち倒すことだってあるんだから! 貴方ならやれ――」 「俺は鼠じゃない上に……なんだ。アレだ。お前等なァ……」 やれ服が溶けるだのナニがナンだだの。大きな溜息の直後に響いた銃声が蛞蝓を捉えた。見遣った先に呆れ顔の咬兵、その肩越しに弾丸の餌食と成った過去形の蛞蝓が転がっている。 となれば残りは一体、大詰めである。 「一気に押し切る!」 ただ全力で剣を振るっても勝機は見出せない。久嶺と烏の弾丸と並走する様に零二は前へ出た。オーラを剣に、唯々とは反対方向から攻撃を繰り出した。 「お前の頭は何処にある……いや、違うか」 ブラックマリアの銃口が真っ黒く獲物を見澄ましていた。横目に見遣った蛇の無頼、彼ほど強くは無いけれど。 「負けねェよ、無頼のドラマ舐めんなよ!」 放つ弾丸は蛞蝓の頭部を執拗に狙い撃つ。穿ち抜く。刹那に視界を白く染めたのは祥子のブレイクフィアー、忌まわしい毒を焼き払った。 「チャンスだよーー!」 明の呪印が毒を拭きだそうとした異形ごと強固に縛り上げる。それへ踏み出しつつ――決戦の後と言えども気を抜いて良い道理など無い。歴戦の着流しを悠然と靡かせて、源一郎は咬兵へと紅瞳を向けた。 「蝮原、共にやるか」 「ヘマすんじゃねぇぞ?」 「当然也――己に立てた誓いを胸に、通す仁義は拳で貫く。之即ち無頼が拳也!」 「……俺ァ嫌いじゃねぇぜ、そういうの」 息を合わせて踏み込んだ。振りかぶるのはその意志を映すかの様に堅い拳。 拳で語る。実に善き哉。 ●でっぺら 「それにしてもカタツムリならちょっとかわいいって思うのに、殻がないだけのナメクジがかわいくないのはなんでかな」 かわいいのは殻って事……!?衝撃の事実(?)に気付いてしまった祥子、痛いの飛ンでけーと仲間へ治療符を張る暖簾、一方の明はガスマスクを脱ぐなり顔を顰めた。 「うっ、ビール臭い……」 「ふう……やっと、深呼吸できるね……」 喉でも潤したいねと零二は苦笑する。喫茶店で休憩でもとっていきたいものだ。 「勝利の祝杯とでもいきたいね」 「……この時間帯じゃ何処の店も眠りこけてると思うぜ」 「あ」 「まぁいい、暇な時にでも誘ってくれ」 くつくつと咽で笑う咬兵へ次は暖簾が声をかける。 「ありがとな蝮原、いい勉強になったぜェ。俺もまだまだだな、頑張ンねェとなァ……」 「おう、ぼちぼちやりな」 しかし一息吐いてみたら蛞蝓の毒やらなんやらでリベリスタ達は結構酷い有様だったり。 それを眺め渡し源一郎は一つ提案を。 「我は風呂にでも入り心身清めるとする。皆も、そして蝮原も如何か」 「……是非とも」 咬兵がはーっと息を吐く。呼吸不要の技能で今まで息を止めていたのだろう、遠巻きから銃を撃っていたとはいえ異形の悪臭は誰にでも平等だったらしい。 こんな事もあろうかと烏は何処からか着替えの上着を取り出した。それは自分用ではなく女性の為に。 「関令尹喜曰く、螂蛆食蛇、蛇食蛙、蛙食螂蛆、互相食也ってあるわけだけれどなぁ」 螂蛆ってのは蛞蝓じゃなくて百足の事を指してるんだよなぁ。 どこで蛞蝓に変わっていったのかってのは気になる話ではあるが――まぁ、今回のオチという事で御一つ。 肩を竦めて、閉幕御免。 御後が宜しい様で。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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