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<恐山>傭兵のリトライ

●汚名返上
 銀縁眼鏡の理知的な顔立ちをした青年が、書類をテーブルに下ろす。
「報告書は読ませていただきました」
 一言、それだけを告げれば、両手の指を絡ませ、両肘を突く。
 反射して見えぬレンズの向こう、どんな表情を浮かべているか、向かいに座った男には分からない。
「ご期待に沿えず、申し訳ございませんでした……」
 そこにいたのは、以前BDUに身を包み、現場に立ち会っていた兵士である。
 今日はスーツ姿でしっかりと正装していた。
「しかし……強襲された割には、被害は少なかったと考えるべきでしょう」
 怪我をさせられた構成員は一人、PMC側の被害は大きかったが、クライアントの安全は可能な限り確保した結果だろう。
 怒鳴り散らすこともなく、極めて冷静に現状を把握する青年の言葉に、男は深々と頭を下げた。
「さて、前回の被害分、仕事を安く引き受けていただけるとの約束でしたね? 今日はそのお話もあります」
 青年は茶色いマニラ封筒を取り出し、男へ差し出す。
 中から出てきたのは何かの報告書らしきものだ。
「以前、アークから勝ち取ったアーティファクトの移送を行おうかと。 あぁ、そっちのはついでです」
 書類はそれに関する報告書だろう。
 男は書類へすばやく目を通し、大体の事情を把握する。
「少々取り扱いの難しいモノでしてね、失わない為にもそちらで厳重に警護を行ってもらいたいのです」
 男は書類を封筒に戻すと、まっすぐな視線を青年に向けた。
「必ずやご期待に応えたいと思います」
 
●再戦
「以前、恐山と奪い合いになったアーティファクトがあるんだけど……どうやらそれの移送が始まるみたいなの」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、コンソールを叩き、スクリーンへ問題のアーティファクトを投射した。
 Grumpy(グランピー)と名付けられたそれは、只の箱のようにも見える。
「中には超破壊力ともいえる革醒したニトロが詰まっているわ、だけどとても不安定で、何時爆発してもおかしくない代物よ」
 和英すれば気難しいであったり、苛々している様を示す言葉だ。
 納得したようにうなづくリベリスタ達だが、同時にどれだけ危険な物体か理解し、肝を冷やす。
「他にも色々移送するみたいだけどね? 他のものは気にしなくて良いわ」
 続けて映し出されたのは戦場となる場所だ。
 郊外にポツンとある小さな飛行場、自家用機の発着によく使われる場所らしい。
「ここで陸路から空路を通って、別のところへ移送させるみたい。 だけど、ここを抜けられたら追いかけるのも大変だし、悪用されたら対応するのに時間が掛かるわ」
 道中を狙うにしても一般人を盾に移動するのは目に見えた事、つまり後にも先にもここがチャンスということだ。
「それと気をつけてね? 恐山に雇われた兵士達も参加して防衛するみたいだから」
 精鋭揃いの金で働くフィクサード達は、集まったリベリスタ達に劣らぬ性能を誇る。
 以前の戦闘データも投射すると、重傷者を出ていたようだ。それでも生きて帰ってこれたのはリベリスタ達の実力あってこそのことではあるが……。
「発着場は既に別のリベリスタに制圧をお願いしたわ。 あとはそこで待ち伏せて、どうにか目的の品物を奪還して」
 だが、彼らの使う車両も少々特殊なようで、その説明もスクリーンに映っていた。
「敵は昼間に移送する予定まで分かっているわ。 それに間に合う様、頼むわね? あと、PMCの施設へ偵察に出てもらったリベリスタからこんなものも受け取ったの」
 コンソールに指を走らせ、画面にはSound Onlyのメッセージが浮かぶ。
 流れたのは他愛もない会話の記録のようだ。
「5台の車両で搬送するみたいだけど、どの車両に積んでるかは分からないの。 これが参考になればいいけど……あと、作戦資料ね」
 渡された書類には今回のミッションに必要な情報が無数に並んでいる。
 流れる音声ファイルと共にリベリスタ達は作戦立案へと思考を巡らせていくのだった。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常陸岐路  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月26日(木)23:52
【ご挨拶】
 始めましての方はお初にお目にかかります、再びの方にはご愛好有難う御座います。
 ストーリーテラーの常陸岐路(ひたちキロ)で御座います。
 今回は以前綴らせていただいた『PMCフィクサード』の続編となっています、といっても、前回の話を存じてなくともまったく問題ないのであまり御気にせず。

【戦場情報】制圧済みの発着場
発着場全体:開けた平地に作られた小さな発着場です。50㎡のエリアを鉄条網が覆い、上には鼠返しの様に有刺鉄線が張り巡らされています。尚、このエリアに対して、エリア内は非戦闘スキルが一切使用できなくなるのでご注意ください。出入り口のゲートは北東と北西に一つずつあります。格納庫はこのエリアの北寄りにあります。道になっている部分以外にはコンテナがいくつか乱雑に置かれています。
格納庫:中に小型飛行機あり、その周辺に仰々しいコンテナや機材が乱立しています。北に大扉、北東に普通の扉が一つ、2階キャットウォークがあり、ぐるりと格納庫内を回る形で出来ています。キャットウォークには格納庫内の南西にある螺旋階段か、外にある南側の螺旋階段から上がれます。

【敵情報】
PMCフィクサード×11
・ステータスは参加されている方々の平均と同レベルぐらいになります。
・デュランダル、ソードミラージュ、ナイトクリーク、スターサジタリー、ホーリーメイガス、プロアデプト、クリミナルスタアのどれかのジョブを持った敵となります。
・既に発着場を占拠されていることは知りません、予定としては、そこにいる恐山フィクサードと合流し、受け渡し。何名かが同乗して護衛に付く事となっています。念入りに準備を行っているので、色々とご注意を。
・リベリスタと交戦となった場合、必要最低限の交戦を行いつつ、グランピーを支部へ持ち帰ろうとします。

【車両について】
 5台の車両で移送に当たっていますが、グランピーはその中のどれかにあります。また、車両自体が対リベリスタ・フィクサードとして頑丈に作られており、破壊するのは難しいです。勿論、間違ってグランピーが搭載された車両を破壊しようものなら、どうなるかはお分かりいただけるかと思います。タイヤ部分はリベリスタの強い攻撃を2度当てれば破壊可能ですが、それとは別にスパイクストリップというタイヤを破壊する器具を2つ準備してあります。設置し、無線リモコンのスイッチを押す起動し、タイヤを破裂させて破壊しますが、一度タイヤを破壊するとこれも同時に壊れるので足止めできる車両に限りがあります。因みに先頭から順に1号車、2号車、3号車、4号車、5号車となります。

【入手した音声ファイル】
 File1
『今度の移送作戦、お前はどうするんだ、ブリット?』
『俺は4番車だ、ギルは?』
『2号車だ、あの部隊長の熱い言葉を聴けなくて残念だぜ』
『バカ二人が羨ましいってか?』
『それに比べてリチャードの羨ましいこと、代わってもらいたいぜ』
『レディ・ファースト……いや、ファースト・レディってか?』
『つまんねぇジョークだ』

 File2
『どうした、しかめっ面して』
『君に言っても意味がない』
『そう言うなって相棒、明日は車両違うんだからさ。 何かあってもカバーしづらいし』
『……あいつと同じ車両に当てられた』
『あー……嫌ってたもんね、お前さん』
『だから意味がないっていった』
『わーるかったって、明日は隣にレジーナがいるからさ、おわびにお前のことどう思ってるか聞いといてやるよ』
『いらぬお節介だ』
 
 File3
『ブリットとは仲良かったんだっけか、お前は』
『それなりにな、あの4人とは付き合いが長い』
『しかしまぁ……随分バラけさせられたな?』
『個々の実力を信じてもらっていると思えば悪くない、ブリットは中々腕が立つ、一緒に乗れたのは運がいいぞ?』
『ブラッドがそう言うなら信じておく。 しかし爆発されたら最悪だな、俺たちなんか直ぐ傍だからな。 それに比べてそっちはいいな、危なくないものだし』
『ぼやくな、どっちにしろ大切な仕事だ』

File4
『だー、暑苦しいぜあのおっさん。 俺達ゃ雇われの身なんだから適当に流しときゃいいのによ』
『まぁまぁ。 でも前後には慣れ親しんだ友がいるんだろ?いいことじゃないか』
『ブランは違うし、あいつは俺もめんどくさい。 クラムも違うが、まぁ…ブラッド程堅苦しくないからいい。 トムは……まぁ、あのしっかりものとケツにいるのがお似合いだ』
『手厳しいね、ん?あぁあいつは先頭車両か。 相方のブランとしては残念かな』
『お前、俺と同じ車両のクセによく平然としてられんな、寒がりか?』
『慣れただけだよ』

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
ダークナイト
シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)
インヤンマスター
華娑原 甚之助(BNE003734)

●スマート・オペレーション
「燃料に砂糖でもぶち込んでおくか」
 格納庫の中で、少々古めかしい提案を『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)が呟く。
 某戦後漫画の悪戯じみた内容に、来栖・小夜香(BNE000038)がクスッと笑う。
 彼女も飛行機の中で計器類を破壊している最中だ。
「これだけ壊しておけばロクに運転できないわね、あとここも……っと」
 絶対切っては不味そうな配線も容赦なく切断、パネルの裏にはまっていたチップを引っ張り出して叩き潰しと念入りに破壊すると、目に付くところは全て元道理に戻しておく。
 見た目に何も問題なさそうだが、中は酷い有様だ。
 恐山の会計係が見れば、今にも血の涙が零れそうである。
「ついでにそれも入れちまえ」
 甚之助がが悪戯っぽく笑いながら、飛行機から降りた彼女の手を指差す。
 握られていたのは配線を切るのに使用したカッターナイフだ。
「そうね」
 遠慮なく給油口に押し込まれるカッターナイフ。
 飛行機をポンコツにすると、続けて入り口の封鎖だ。
 まずは鍵を閉めるのだが、既に外側の鍵穴は同じ様な鍵を差し込んでへし折ってあるため、穴が埋まり開けるのも大変だろう。
 念には念をとバリケードを気づきたいところだが……幸い、傍にはお誂えなコンテナが沢山ある。
「せ~のっ……!」
 二人掛りで押せば、ザリザリと響かせながら金属の箱が滑り始めた。
 コンテナを押しやり、壁に押し付け、引き戸のレールにもコンテナを押し込み、完全封鎖だ。
 易々侵入できない様にした上で、通用口もしっかりと戸締り、完璧である。

 日中、開けた発着場に徐々に近づく騒音。
 双眼鏡を覗き込む小夜香の目には、5つの車両が映っていた。
 一気に奇襲を仕掛け、奪い取り、逃げ去る。
 言うは易く行なうは難しとは言ったものだ、単純が故に誤魔化しは効かない。
『車両が来たわ、北西からね』
 北西に待機した甚之助のリモコンの握る手に力がこもる。
 北東で待機する『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)はバイクを準備済み、これでいつでも駆けつけられるだろう。
 中央の周辺では5人が息を潜め、時を待つ。
 スパイクストリップで4号車のタイヤを破壊するが、そのバックアップに劉・星龍(BNE002481)と、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)、更に『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が当たる。
 そして、第二候補となる3号車の足止めには『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)と『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が仕掛ける算段だ。
『ゲートを潜るわよ……今よ、押して!』
 小夜香の合図と同時に、甚之助がスイッチを押す。
 けたたましい破裂音が、全員へ成功の知らせとなり届く。
 だが、安心する暇などない。敵はこの破裂が敵襲とすばやく判断するや否や、フルアクセルでこの場を離れ様と加速し始める。
「逃がさん」
「手遅れだ」
 オーラの糸が槍の様に収縮し、ホイールの比較的脆い部分を貫く。
 更に追い撃ちとして龍治の弾丸が途中で分裂すると、流星群の如くタイヤへ迫る。
 結果として全てのタイヤは機能を失い、コンクリートとホイールの間に激しい火花が散り、フィクサードは全力のブレーキでどうにか機動制御の後に停止。
 1,2号車も耳を劈く摩擦音と共に急ブレーキをかけ、1号車は敷地外でストップ。
 だが、この行動でリベリスタ達はターゲットの所在を理解する結果となった。3号車にターゲットがあるからこそ、残りの2台はとまったのだ。
 
●執念を打ち砕け
 その間、北西の甚之助はゲートの門を引っ張り、出入り口を閉じると閂状の簡易鍵を掛け、片方を封鎖する。
『4号車、3号車共に停止。 華娑原さんがゲートを閉じたわ』
 ゲートを閉じた、その報告を耳にした糾華は周囲を見渡し、同じゲートを見つけると同じく封鎖。
 これにより2台は短い時間だが分断される事となる。3号車からはライフルを持った男と盾を持った男が2人、計3人が降りると防御陣形を保ちながら辺りを探る。
 3人の方へ急停止した2号車が猛スピードで迫っていた。
(「グランピーを持っている様子はないな、それなら車内か。 そして……2号車で運び出すつもりだな」)
 全体を見渡すオーウェンは敵の動向を理解すると、AFを経由して仲間に知らせる。
『誰か、車両にグランピーが入っているのが見えるか?』
『あっ、こっちからは見えるよぉ? まだ車内にあるね~』
 間延びしたシャルロットの声が返る、彼女の角度からは光の反射もないらしく、真四角の箱にデカデカとDANGERと書かれ、何故か核マークのシールがついているのも見える。
 何故核マーク? 彼女は思うものの、それぐらい重要に扱えと言う意味をこめているのだろうと考える事に。
『分かった。 どうやら2号車で持ち去るつもりのようだ。 幸いドアは閉じられているので、近づいてJ・エクスプロージョンで蹴散らす。 援護を頼みたい』
『わたくしめにお任せを』
『了解だ、援護する』
 ジョンと龍治の即答を信じ、オーウェンは走る。
 2号車が3号車の直ぐ傍で急停止したところで、眩い閃光がフィクサードを包む。
 既に警戒していたフィクサード達はとっさに車体に隠れる様にしてダメージを軽減し、身を守るが結果としてオーウェンを見失うこととなる。
 龍治の姿も見えない、だが場所を特定している彼の気で練られた罠は足元まで迫っていた。
「ぐぁっ!?」
 盾を持ったフィクサードが呻きながら地面へ倒れこむ、鳥の巣の如く絡み合う糸がフィクサードを包み、体を痺れさせながらも毒すら注入し、動きを阻害する。
「戦力的に不利な戦争をするつもりは、ないのでな」
 援護を受けたオーウェンが敵の集団に取り付き、ガントレットに包まれた拳を地面に叩き付けた。
 思考の力が破壊的な爆発となって辺りを包み込み、フィクサード達を巻き込んでいく。
 2号車から援護に飛び出したフィクサードも巻き込み、大ダメージと共に一気に弾き飛ばす。
 コンテナに激突する4人、1人……そう、部隊長だけは彼の攻撃を跳躍して避けていたのだ。
「やらせんぞ!」
 バトルライフルの照準がオーウェンの額を捉える、引き金に掛かった指が絞られていく。
「テメェ、それはこっちの台詞だ!」
 ゲートを閉じた後、こちらへ急行した甚之助のナイフが煌く。
 一度、突いただけ。凡人にはその様にしか見えないだろう、だが一瞬の間に光の如く放たれた突きは機関銃の掃射力をも上回る。
 空中で直撃した部隊長は巨大なハタキで叩かれたの様に体が揺れ、照準は崩れた。
 一矢報う思いで再び照準を合わせようとするが、それも叶わない。
 遠くからしっかりと狙い続けた劉の火炎弾が胴体を貫いたからである。
 燃え上がる体、地面に落下し転がり、妄執じみた眼光を放ちながら意地でも道連れを求めていた。
 だが、そんな彼に終わりは訪れる。追撃に回ったシャルロッテの黒い光が矢となって胸部へ吸い込まれる。
「ぐぅっ!? ま、まだだ……っ!」
 恐ろしい執念だ。 既に致命傷だと言うのに倒れる様子はない。
「ちょっ、た、倒れないのぉ~っ!?」
 慌てて、もう一度……これでもかと漆黒の光を収縮し、部隊長へ狙いを定めた。
 全力の光が交戦の如く、空気を焼き払いながら直進する。部隊長も体をねじって回避を試みるが胸板を焼き焦がし、肩を貫かれ、やっとこさ瞳が白く裏返って倒れていく。
(「元々熱かったら怖そう~なんて思ってたけど……本当に熱くなってたぁ」)
 戦う前、暢気に考えていた事はまさしく的中と言うところ。因みにブリットのいう、熱いと言うのは部隊長の熱意を指していた事を知る由はないが。
 
●少女の盾
 敵と距離を保った今のうちに、ターゲットの回収に入る2人。
 同じくしてバイクで駆けつけた糾華も援護に回る。
 甚之助が扉を開け、中へ。
 体勢を立て直した3人は阻止せんと襲い掛かり、更に4号車から駆けつけた2人も迫る。
「ブラム、カタぁとるぞ……!」
「まさか、君と同意見になるとはね。 夢にも思わなかった」
 2号車から降りて早々吹き飛ばされた2人が怒りを露に襲い掛かる。
 まず特殊な足取りで幻影を生み出し、矛先を読ませぬように近づくソードミラージュのフィクサード、ブラムが先陣を切った。
「やらせないわっ!」
 特殊な形状をしたスローイングナイフで、ブロックに入る糾華。
 フェイントまみれのトリッキーな攻撃をどうにか弾くも、それでも一発当たるだけでダメージは大きい。
 中々出てこない甚之助を見かね、オーウェンが中を覗き込む。どうやら鎖でシートとつないであるらしく、簡単には取れなさそうだ。
「私が抑えるわ、だから早く対処するのよ!」
 既に確保した様な状態、背を向けている為トラブルが何かは分からないが、ここが正念場だ。
「てめぇ!退かねぇと○×☆△~~……!!」
 筆舌に尽くしてはならない下品な罵声を口走り、ギルが拳のラッシュを放つ。
 最初の攻撃をやり過ごしたばかりの少女の体が浮き上がり、右フックが脇腹にめり込み、血交じりの何かが口から零れる。
「ブリックと部隊長やったからって調子のるんじゃねぇっ!」
 身動きの取れる盾持ちのフィクサード、レイドが、得物で叩き潰さんとシールドタックルを見舞う。
「仇がてらナマス切りにした後○×☆△~~……!!」
 下品コンビのブリットもレイドと合わせて攻撃を放つ。
「っ……!!」
 2人を間に挟む様にして立つと、すり抜ける様に体捌きを見せる。
 盾と剣がぶつかり合い、攻撃同士を衝突させて上手く回避。
 回避し終えた瞬間と言う隙を狙い、4号車に乗り合わせたクラムがロッドで少女を殴打した。
 気味の悪い鈍い響きが糾華の意識を白く焼き、遠のきそうになる一瞬をグッと踏みこらえる。
「はぁ……っ……」
 白地の額から頬へ真紅の筋が伝う、意識を失わなかったのは奇跡に近い。
「祝福よ、あれ」
 最後まで様子を見続けた小夜香の祝福の呪文が綴られ、癒しの風が少女を包む。
 失われた体力ある程度回復させ、タイミングの良いフォローで流れを掴み続ける。
 鎖の解除も終わり、後はどうにかここから脱出するのみだ。

●カーチェイス
 ターゲットの確保は完了したが、結果として取り囲まれてしまっている。
 ゲートの簡易錠が砕けるのも最早時間の問題だ、睨み合う互いの間に緊張が走る。
 その間に劉はAFから開けた場所へ、車両を展開し、逃走準備を進めていく。
 ちらりとそれを見た龍治とジョン、そして視線はこちらをみていない敵の方へ。
「こっちは無視か、いい度胸だ」
 一旦車両まで移動し、直ぐに乗り込める位置から援護射撃を開始。
 再び撒き散らされた一筋の流星が敵の頭上で炸裂し、無数の流れ星となり体へとめり込んでいく。
「目くらましで……、済みそうにありませんね」
 龍治の不意打ちは絶大な効果を発揮していた、頭上から来た攻撃に待ち構える準備などはなく、一切のダメージが防御を素通りし、残った体力は僅かだ。
 そこへ再び降り注ぐ浄化の光は、残った体力を焼き尽くすのには十分だった。
 視野は一気に白く潰され、意識も同じく潰されていく。皮膚全体から伝わる火傷にも似た痛みが彼らを膝から沈ませ、地面を転がっていた。
 もし、攻撃の順番が逆になっていれば……彼等の怪我は更に酷かっただろう。
 だが、2号車の2人はまだ意識があるようだ。
「飛ばすわよ、ちゃんと抱えなさい」
「おうよ! 頼むぜ!」
 グランピーを抱えた甚之助を後ろに乗せ、糾華のバイクが敵の隙間を縫い、走り出す。
 あえて劉の車に乗せなかったのは、不安定な運搬自体が敵に対する牽制になりうるからだ。
(「もしバイクを潰せば俺達どころか、自分達も吹き飛ばされるからな」)
 劉の車へ走りながら、オーウェンは心の中呟く。
 ターゲットという人質を盾にし、相手の攻撃をバイクに寄せ付けさせない作戦である。
 車で運搬すれば確実ではあるが、相手も自分たちと同じく車両を黙らせて奪おうとするだろう。
 同じ手でやられてはたまったものではない。
『私は上から情報を伝えるわね?』
 シャルロッテも車両に乗り込み、小夜香は再び情報収集の援護に当たる。
 敵はターゲットに釘付けなので狙われる心配もない、空高く舞い上がると彼女の耳を劈く様な甲高い音が重なった。
『扉を壊されたわ! 気をつけて!』
 同時に崩壊したゲートの鍵、強引に進入した二台の車両が意識のある2人を回収しバイクを追尾する。
「おっと……」
 スリップ音を響かせながら劉の車両が間に割り入り、敵の進路妨害を勤める。
 ただの車両ならば攻撃に耐えられず出来ないことだが、対エリューション用のM-1160X ペネトレーターならではのカードだ。
『北東のスパイクストリップが残ってるわよね? あれでダメ押しの足止めはどうかしら?』
 敵は北西から侵入し、北東のトラップは手付かずだ。
 逃げるには最初と同じくタイヤを破壊してしまえば間違いないだろう。
 そして頭上からならば正確にタイミングを伝えられる、メンバーに異論はない。
 鍵となるスイッチは後部座席中央のシャルロッテに握られた。
 元々は糾華が使う予定だったが、運転中に押すのは危ない為、オーウェンに託されるも、後部座席扉寄りではなく中央のシャルロッテの方が視野が良いからだ。
『ルートを先導するわね、とりあえず一旦コンテナの群れの中へ進んでくれるかしら? そこからグルッと回り込めば北東に抜けられるはずよ』
 小夜香のナビゲート道理、糾華のバイクがコンテナの隙間をすり抜ける。
 彼女を見失わぬ様、劉の車がギリギリのルートを掻い潜り、フィクサードの車両をブロックだ。
『次の赤いコンテナを中心にUターンよ、後はコンテナを避けながら直進ね』
 なるべく衝撃を与えぬ様、大回りに曲がりきる糾華のバイクに続き、劉の車もコンテナのコーナーに差し掛かった。
「了解しました。では皆さん何かにつかまってくださいね?」
 後もう少しきつければ最早直角に近いUターンを強引にハンドルを切って、曲がっていく。
 ギャリギャリとタイヤが悲鳴をあげ、ジェットコースター顔負けの遠心力が搭乗者に掛かる。
 後輪タイヤが若干滑ったが、問題ない。だが障害物を避けつつの直線は危険を孕む。
 窓から身を乗り出したフィクサードが、マシンピストルを連射し、タイヤを狙っていた。
『撃ってきてるわよ!』
「もう少しご辛抱を」
 右へ、追撃は左へとハンドルを切り、黒い弧をアスファルトに焼き付ける。
 更にはルーフの穴から剣を振るい、真空刃まで飛ばしてくるがこれも何とか回避。
 だが上手くはいかない、再び放たれたマシンピストルが車体を直撃してしまう。
 装甲やホイールに被弾するも、タイヤが破裂しなかったのは限界までの回避を行った結果だ。
 そして劉の車は問題の北東のゲートを潜り 双眼鏡を覗きながら、小夜香はスパイクストリップのタイミングを計る。
『タイミングを合わせるのよ?』
「は~いっ!」
 ストップウオッチの目押しと同じ。一瞬で通り過ぎるコンマ00のタイミングを狙うかの様に、必死に目を凝らす。
 スイッチを押すシャルロッテも同じこと、一瞬の反射が要求される。小夜香からの支持だけでなく、後ろから見える光景を凝視しつつ、その時を待つ。
『……押して!』
「えぃっ!」
 装置は起動し、タイミングも問題ない。
 フルスロットルに突っ込んできた車両が横転したところへ後続車が追突。
 映画の様な大事故を見送りながら、小夜香は仲間の元へ向かう。
 減速した車の屋根に降り立ち、再び車は動き出す。大勝利の花火を背にしながら。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
あとがき
 お楽しみ頂けたでしょうか?
 さてさて、今回は色々と面白い事が重なっていたりします。
 リプレイにある通り、グランピーは3号車にありました。ですが、4号車だと思われていたハズレの狙いが偶然の結果を生んでいます。
 フィクサードはターゲットが乗っていない車両が攻撃された場合、それを残して一気に逃げる。という形で動かす予定だったのですが、それによって逆に陣形を崩されてしまい、分断されてしまった事が一つ。
 あと、所々の『ここ!』というタイミングでまさかのクリティカル目が3回出たと言う奇跡、オ○ンジーナ噴出しそうでした。
 グラサイじゃないですよねと、自分のダイスを繁々と見てしまいました。
 後は車両ですね、糾華さんと劉さんがそれぞれ準備されていたものです。言ってしまうと、そんな事されると思っていませんでした。でも後々考えればそうですよね、車両仕舞えますよね、AFと思いました。
 勿論、ただの車両であれば……と考えてましたら、劉さんの車両が凄い事になっていたので『ぇ、ぁ、その? ぇ? ちょ、ちょぉっ!?』と、再びオラン○ーナ噴きそうになりました。
 所々ですが、各々のプレイングががっちり繋がったー!と、感じ切れなかったところもあったので、そこはキャラクターの雰囲気やプレイングの内容からある程度察して補正してあります。
 オーウェンさんのどっちで運ぶかの判断はそこだったりします。差し出がましかったら申し訳ありません、FLでお叱りいただけるとありがたいです。
 ダイスを振った後、一気にシナリオが脳内で組みあがったので今回はハイペースに仕上がりました。何時もこうでありたいと思いつつ、閉めたいと思います。
 ご参加いただき、ありがとう御座いました!