●三高平センタービルにて ふんわりパン、と書かれたプレートが目に、止まった。 でも何だかありがちだな、っていうか、ふんわりって言ってるけどどうせ丸いだけなんじゃないの、なんてわりと批判的に受け止めて、プレートの上にある商品のパンを、見た。 めっちゃふんわりしていた。 とか、芝池は、トングとトレイを片手に、思わず、二度見する。 それで、ああそうです、これがまさしくふんわりです、っていうか、もうふんわりってこういう事ですよね、というくらいにはふんわりしたそのパンを、じーとか凝視した。 凝視していたら、凄い何か、指を差し込みたい衝動が込み上げて来た。 思いっきり指を差し込んで潰したい、むしろ出来れば鷲掴みにしてぐにゅってしたい、ああでもそんな事許されるわけないし、むしろこんな所でいきなり指とか突っ込んでる男なんて思いっきりおかしいし、とか思えば思う程凄いやりたいんだけどどうすれば、とか何か、大人の誘惑と戦っていたら、突然背後からにゅっと伸びて来た誰かの指が、ふんわりパンの、ふんわりたる部分を、ぐにゅ、と、躊躇いなく、押し込んだ。 「あ」 と、思わず、上ずった声が、出る。 「あーナルヨネー」 とか何か、同調感の全く感じられない覇気のない声に、げ、とか思って振り返ると、地下のアーク本部に所属しているフォーチュナの仲島が立っていた。 それで目が合うと、その美形は、 「資料、作って」 とか、挨拶の代わりみたいに、もー言った。 「仲島さん」 「うん何だろう、芝池君」 「何してるんですか」 「何してるんですかって、ここパン屋さんなんだから、パンを買ってるんじゃないの」 「僕もです、奇遇ですね」 「正確には、総務出て行く芝池君見かけたから、あー昼飯でも買いに行くのかしら、とか思って、後をつけたのだけどね」 「別にそこは正確に言い直さなくていいんですけどね」 「うん一応、付き纏ってますよ、ってことは、ちゃんとアピールしとこうかと思って」 「はーもう最悪、何でアピールされてんのか全然分からない、とかは、どうでもいいんで、とりあえず、この、潰しちゃったやつをどうするのか聞いていいですか」 芝池は、ふんわり達の中に並ぶ、私だって昔はふんわりだったんですよ、みたいに、半分ぐにゃ、っとなってしまったパンを見つめ、言う。 仲島はそれを無言で芝池のトレイへと乗せると、ポケットから降り曲がった紙幣を取り出し、一緒にのせた。 「買えってことですか」 「俺は食べないけどね」 「食べろってことですか」 むしろ、どうせ買うんだったら、自分だってむぎゅっとしたかったじゃないか、と、芝池は、ちっちゃい事を思う。 ついでに、この紙幣のお釣りって返さなきゃいけないのかな、返さないでいいなら、もう一個買って思う存分むぎゅってしてやろうかな、とか、何か、更にちっちゃい事を考えた。 考えて、ちら、と仲島の顔を窺った。 「また、今回も、単純なエリューション討伐依頼の資料を作って貰いたいわけ」 目が合うと、彼が言った。 なので芝池は、「はー」とか何か頷きながら、さりげなく、それはもうさりげなく、ふんわりパンを更に一個トレイにのせた。 「場所はね、昆虫博物館ね」 店内を徘徊し出すと、仲島はどうでも良さそうに、ついてくる。 「何かもう、それ聞いた時点で、嫌な感じしかしないですよね」 美味しそうなパンを前に、グロテスクな昆虫の姿は考えたくないな、と顔を顰めた。 「あれ、芝池君、虫嫌い?」 「いやまあ、そうですね、あんまり好きではないですよね」 「ふうん、そうなんだね」 と、美形は覇気のない真顔で、凄いこちらをガン見しながら、納得したように頷いている。 とか、不穏以外の何物でもなかった。 「いや、そこで見つめるの、やめて貰っていいですか」 「あ、ごめん、ちょっとあくどい事考えてたから」 「そんな予感はしてましたけど、正直に吐露されたところで、どうしていいか分からないです」 「依頼の内容はね。昆虫博物館の館内にE・ビーストが出現する事が分かって。というか、標本や飼育されている昆虫の中の一部が、E・ビースト化してしまうみたいなんだ。だからリベリスタの人達にはこれを探し出し、討伐して貰いたい、という事でね」 「はー。そうですか」 「当日の館内の様子だけど、とりあえず、標本が盗まれそうだから、ってことで、アークで話をつけて、館内には電気を通して貰ってある。警備員は追い払ってあるけど、監視カメラはついたままかもね。敵が出現するのは、二階建の別館の方で、そんなに広くはない。部屋数は、上下合わせて、4部屋くらいかな。警備員とか監視カメラとかあるのは、本館の方だけどね」 「飼育とかしちゃってる感じの部屋なんですか」 「飼育とかしちゃってる感じの部屋と、標本のある部屋がある。敵は、二種類出現して、一種類目は、蠅みたいに、ぶんぶん飛んでくるE・ビーストね。これは数は八匹と中々多くて面倒臭いんだけど、フェーズは1で個体で見ればさほど強くない。で、どうもE・ビースト化してでかくなっちゃったみたいで、思いっきり見つけやすい。ただ、もう一種類は、見た目が思いっきり普通のカブトムシでさ。これが、厄介なんだよね」 「でも、普通のカブトムシくらいの大きさなら、簡単に倒せそうですよね」 「戦闘開始と共にでかくなる」 「都合がいいんですね」 「つまりこのカブトムシは、他の昆虫達の中に紛れ込み、奇襲をしかけてくる可能性もあるから、ちょっと注意して探して貰わないといけないかも知れないんだよね」 「ってことは、カブトムシがいっぱい飼育されている部屋がある、という事なんですか」 「かも知れないし、そうじゃないかも知れない。実は、俺の予知の能力が至らなくて、どんな昆虫が飼育されてたり、標本にされてたりするのか、そこの詳細だけは、ちゃんと分かってないんだよね」 「都合がいいんですね」 「いや都合が悪いんだよね」 「はい都合が悪いんですね」 ってもーわりと何でも良かったので、とりあえず冷蔵ケースから飲み物を取ってトレイにのせ、レジへと進む。 「まあ何だったら、これから二人で一緒に調べに行ってもいいんだけど」 「いえ遠慮しときます会計中なんで」 「だからまあ、じっくりゆっくり昆虫達とふれあいながら、エリューションを探して貰って討伐して貰うっていう。虫好きにはたまらない仕事だと思うのよね。逆に、虫嫌いには、地獄かも知れないんだけど」 「いやそこでちょっと笑顔になってるの、おかしいですよね」 「と、まあ、そんな感じで。資料、よろしく。あと、もちろんこれから、そのパン一緒に食べてくれるんだよね、俺の奢りなんだし」 「え」 と、がっつりお釣りまで仕舞い込んだ財布を、尻ポケットにしまおうとした所で、芝池は、固まる。 「うん、お釣りは、返さなくて、いいからね」 すかさず、言われた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月25日(水)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「つーかあれだよな」 飼育部屋の中に置かれたガラスケースの中を覗きながら、『チェインドカラー』ユート・ノーマン(BNE000829) は、言った。 「思ったんだけど、カブトムシってあれじゃねえ? あのGとかいうやつに似てねえ?」 って凄い普通に言って振り返ったら、部屋の中がどういうわけか凄いシン、としていて、めっちゃ近くに立っていた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が、全然近くに居るけど、ものすごーい遠くを見るみたいに細めた目でこっちを見ていて、えーあれ何これめちゃめちゃ見られてんじゃんって、ぼーっと。 見つめ返したけど、結局何かその物凄い無言の威圧に負けて、「いや、悪い、忘れてくれ」と、すぐに訂正した。 けどすっかり非難の眼差しはこちらを見たままで、えーあれこれどーしよーっていうか、アメリカではカブトムシとかあんま見ねえから、思い入れとか全然なかったんだすまん、とか言ってみるべきか、とか考えてたら。 そしたらいきなり、部屋の中で、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650) と共に、カブトムシをおびき出す為の仕掛けとやらを作っていた『虫狩人』四門 零二(BNE001044) が、「カブトムシか……」とか、凄い何か得体の知れない哀愁を漂わせながら呟き、窓の外とか、見つめた。 見つめたからにはそこに何かあんじゃねえか、とか思って、ユートは同じように窓の方を見たけど、全然何見てるか分からなくて、あえて言うなら、カーテンくらいしかなくて、え、何、何を見てるの、つか、え、何を見てるの、って困惑に眉とか潜めてたら、 「……ふ。思い出すね、あの頃を」 ってどの頃かも、もー全然分からなかったけれど、とりあえずその不敵な笑みで、害虫のくだりはすっかり持っていってくれたみたいだった。 「うんあの頃、あの頃ね」 って全然分かってないけど、ああそれね、みたいにうんうんユートは頷く。 「カブトムシと戦えるとは、楽しみだ」 「男の子にとってカブトムシは特別なのでしょうね」 ふわーんと微笑みながら、シエルが頷く。「そういうの嫌いじゃありません」 「あら。私だって別に、昆虫は嫌いではないわ」 ミュゼーヌが、昆虫の話ならいいわよ、みたいに、話に乗っかる。「蝶は綺麗だと思うし、蜂も格好良いと思っているし。だけど、流石に巨大な昆虫というのは……生理的な嫌悪感を感じるわね。革醒が飛び火しない内に、確実に仕留めてしまいましょう」 「だな、とっとと済まそうぜ。で? その仕掛けって何がどーなんの?」 ユートは、零二の手元を見やりながら顎を摘む。 「これはね」 鋭い眼孔はそのままに、ふふ、と唇を緩ませた零二は、低い艶やかな声で、宣言する。 「カブトムシGET大作戦だよ……」 そして、ドドドドド。とか何か、体中から謎の闘志を漲らせた。 とか何か、物凄い事をしそうな雰囲気だったし、物凄い事を言ったような雰囲気だったけれど、 「か、カブトムシゲットだいさくせん?」 って口にしてみたら、実は大したこと言ってなかったっていうか、むしろ凄い何か、真面目に繰り返した自分がちょっと、恥ずかしくなった。 「まずはこのシーツを広げて幕のように固定してだね。そしてそれに向かって光が当たるように懐中電灯を地面に置く」 まるで何処かの教授が、素晴らしい実験を披露するかのような風情で彼は説明を開始する。 「光が当たる部分に虫用のシロップを塗布。この時、シロップは広げすぎないようにしないと駄目だよ」 「ふむふむ、なるほどです」 シエルが、熱心な助手みたいな風情で彼の行動を手伝い、頷いている。「え……と……これで宜しいでしょうか?」 「ああ、ありがとう。孤児院の子供たちとも、夏の山にでもいくことがあれば、試してみるといいよ」 「はい。孤児院の男の子達も、昆虫採集大好きです」 ふわん、とまた、彼女が柔らかい笑みを浮かべる。 「もう、二人とも何だか子供みたいなんだから」 ミュゼーヌが、子供を見守る母のような面持ちで微笑み、一気にその場が何か、朗らかなムードになった。 女性は、偉大だ、と全然そんな場合でもないけど、ユートは何かちょっと、思う。 「さて、首尾よくいくと良いが」 すたすた、と高そうなスーツ姿で移動した零二は、部屋の電気のスイッチに触れ、シエルに目配せを送る。 「オレがこの電気を消したら、キミは懐中電灯のスイッチをオンしてくれたまえ」 こんな大役を預かれるなんて、素晴らしいよ、と言わんばかりの口調で、力強く頷いた。 「はい……!」 シエルが、緊張したように、頷く。 これは一体、どんな大きなプロジェクトの話だったのか、と一瞬ユートは錯覚しかけた。 「現れ出たカブトムシ達がエリューションか否かは、我々なら見れば分かるはず……! さあ、観察しよう、スイッチ、オーン!」 どーん、って別に言ってないけど、それくらいの勢いで、ぱち、と部屋の灯りを消し、代わりにシエルが懐中電灯をオン。 ……。…………。 ……………………。 「お、ほら縄張り争いが始まったぞ」 「わー本当ですねー」 「へえ、カブトムシって、こうすれば寄ってくるのね」 皆が、ごそごそ、とシーツの向こう側で動き出したカブトムシを、そーっと眺める。ユートも、敵の奇襲に備えて、大型の丸盾「Shield of Dream」を構えながら、同じように覗き込んだ。 「あ、これ意外と和むな」 「だろう?」 うん、と得意げそうな零二に向かい頷きかけ。 いや、和んじゃ駄目だろ、自分、とハッとする。 一方、標本部屋のある階では、雪待 辜月(BNE003382) が今まさに、「標本部屋B」のドアを開き、そーっと中へと入ろうとしているところだった。 とかいう光景を、さっきの標本部屋Aでも見かけていた『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933) は思わず、「あの、虫が、苦手なんですか」と、その背中に問いかけていた。 え、と、突然声をかけられ、きょとん、と振り向いた辜月は、「虫は、そんなに苦手というわけでは、ないです」と、ドアノブをそーっと開こうとしてます、みたいな中腰のポーズのまま、言った。 「あ、そうなんですね」 「でも」 「でも?」 「たくさんいるとちょっと、その……苦手な感じで……。ぇと、服の中這いずり回られたときとか、凄くゾワゾワしますし……」 ってどうしてそこで、服の中を這いずり回られた時の事を持ち出してきてしまったのか分からなかったけれど、それは確かにぞわぞわするに違いない、と孝平は思わず想像してしまい、ぶる、っとした。 「あら、私は、たまにはこういうのも悪くないと思うわよ」 『Bloody Pain』日無瀬 刻(BNE003435)が、壁に寄りかかりながら、薄っすら、と微笑む。開けるならいつでも開けなさい、飛んできたらすぐにでも打ち落としてやるわよ、みたいに、ヘビーボウガンを構えていた。「珍しく人を殺したり殺されたりのない普通のお仕事だもの。相手は虫だし。多少退屈かも知れないけど、少しは楽しめるといいわね」 その泰然自若とした様子に、うん、と力づけられました! みたいに頷いた辜月は、部屋のドアをそーっと開き、素早く左右を、そして、上下をチェックした。 特に天井の事は凄い注視していて、 「天井からとか落ちてきたりしたら大変だから……」 とその理由は自分で呟いた。「服の中に入ったら大変だから……」とも、呟いている。 よっぽど、服の中に虫が入って這い回ってぞわぞわした経験があるのかも知れない。 一先ず、奇襲はなさそうだったので、孝平は部屋の中へと入って行き、電気を点灯した。 そして、そこに飾られた標本をぐる、と見渡す。 「カブトムシは子供時代によく山で虫取りをしたものです。ただ、あの頃は標本にするのが可哀想でしたのでそのまま飼っていましたね。僕以外にもそういう体験をした人はいると思いますが、今回は虫取りならぬ虫退治。カブトムシ以外にもおまけがいるようで、それもしっかりと退治しませんと」 「そうですね。とりあえず蠅のようなEビーストの方は、何やら音も五月蝿そうですし、普通に注意していれば大丈夫そうな気もするんですが」 文月 司(BNE003746) が、部屋をきょろきょろ、と見回しながら、言った。 その間にも熱感知を発動した辜月は、部屋にかけられた標本を一つ一つ、その目で確認していく。生物なら多少熱を持つに違いなく、エリューションなら他の虫と見え方が違うはずだ、とも、思った。 そこに敵が隠れているのなら、必ず見つけてみせる。という意気込みで見ていると、動いていない虫って変な感じだな、むしろ、意外に可愛いな、とか何か、ちょっと思って、これ、案外可愛いですよねって、振り返って刻を見たら、彼女は、部屋の隅をじーっと凝視している。 思いっきり何か見つけてるけど、それと牽制し合ってるんで膠着状態です、みたいな彼女の傍に、辜月はそっと近づき、一体何を見つけたんだろう、と自らもその目で確認してみた。けれど、何も見つからなくて、でも何もなくても確かに何かが潜んでそうな物陰だ、とか思って、暗視の能力を使用している彼女には、それが見えているのかも知れない。 とか、一旦気になりだすと、もー気になって気になって、むしろ絶対何か出てくる、ほら出てくる、もう出てくる! とか、心臓の鼓動が早まり、最早絶対に目が離せない。でもその何か、を分かっているわけではないので、迂闊にも動けない。なので、とにかく、見た。 とかやってたら、いきなり、ポン、と肩を叩かれ、得体の知れない緊張状態に置かれていただけに、あり得ないくらいびっくり仰天し、「ひぅ!」っと、情けない声が、出た。 「あ、ごめん」 刻が、肩を叩いたくらいでそんなに驚かれるなんて、むしろ驚きですよ、みたいな顔でこっちを見ていた。 「どうしたの、何か見つけた?」 「え?」 「え、って、え?」 「いや、何か、見つけたんですよね?」 「私が? 辜月でしょ」 「え? 私? 違いますよ。刻さんがめっちゃ見てるから、何かあるのかな、と思って」 「いや何もないけど。最初は暗視で見てただけなんだけど、辜月が凄いガン見してるから、熱感知で何か見つけたのかな、と思って」 「いえ、見つけてないです」 「私も見つけてない」 「ということは、お互い勘違いしてたってことですか」 「そのようね」 「なーんだ、もう、はははははは」 「って笑ってる場合じゃないよね」 「全くですよ」 溜息つきたい気分で踵を返し。 と。 顔を上げた視界に、ぶーん、と何かが、過った。 「え?」 「出た!」 すかさず刻が辜月の前へと庇うように歩み出る。「E・ビーストよ!」 そしてAFを掴み、別班へと連絡を入れた。 「こちら、刻。蠅的なE・ビーストを標本部屋Aで発見!」 更にすぐさま敵の出現を察知した孝平が、トップスピードを発動しバスタードソードと共に、二人の前へと躍り出て来た。 牽制するように刃をちらつかせ、距離を取る。 何時の間に、一体何処から沸いて出るのか、ぶうん、と耳につく音を立てながら、蠅はどんどんと増えていく。そのたびに音が、激しさを増す。 「こちらに合流出来るかしら?」 「こちら、ミュゼーヌよ。合流は難しそうね。何せこっちにも出たわよ、E・ビースト。カブトムシ二匹」 とか何か言ってるミュゼーヌの背後で、「……感慨深いな……カブトムシ……お前と戦う日が来ようとはな……いくぞ!」 とか何か、凄い哀愁漂う声で言ってる零二の声が聞こえ。 「え、何それどういう状況?」 「とにかく今はこちらも手いっぱいの状況なのです~」 シエルの声が答える。「皆さんも頑張って下さいませ。私達も頑張ります!」 「と、いうわけなの、あとで合流しましょう! じゃあ!」 ミュゼーヌの声が、続けて答える。 「じゃあ、この蠅の始末は私達でしろってことね」 了解、と刻は、AFの通信を終える。 同時に頷いた辜月は、翼の加護を発動した。「ぇと、室内の物壊しちゃったりとかは、避けたいですし。戦うとき正確に当てられるように皆さんの支援を致します!」 「じゃあしっかり、誘導頼んだわよ!」 声と共に刻は暗黒を発動した。 ぶわああああっと、その体から、暗黒の瘴気へと姿を変えた生命力が、放出される。飛びまわる蠅を包むように纏わりついたそれが、ぐにゃり、とひねり潰すように消滅させていく。 その隙間を縫うようにして、トップスピードで駆け抜ける孝平は、瘴気から辛くも逃れた蠅達を、的確に輝く刃で切り裂いていく。囲まれる寸前素早く体を回転させ、残影剣で前方と背後に居る蠅を、交互に攻撃した。 背中合わせに構える司も、無頼の拳でぶんぶんと近寄ってくる蠅を殴りつける。 「そこ、来てます!」 辜月が、詠唱と共に詠唱で魔方陣を展開する。小さな魔法の矢が、司の死角から飛び込んで来た蠅を突き刺した。 ● 「うわー本当にでかくなりましたねえ」 ってわりと和みそうな声で、シエルが喜んでんだか、驚いてんだか良く分からない声で言った。 そんな彼女の前に、両手でしっかりと「アメリカで最も有名な盾の模造品」を構え立ちながら、ユートは、「あんだけでかいと……足の付け根とか、やべえ」と、また思ったことを思わず口走ってしまう。 「足の付け根?」 そんなとこ見てませんでしたーみたいに小首を傾げたシエルは、じゃあ言われたんで見てみます、みたいに注視し、ひっ、と口に手を当て、小さな悲鳴を上げた。それから、何でそのような事を私に教えてしまったんですか、ユート様。みたいに、だいぶ切なそうな目で、こちらを、見た。 「まあ何ていうか、あんま気にしねェで、仕事に集中しよう!」 その間にも、爆砕戦気で全身にあり得ないくらいの闘気を漲らせた零二が、あり得ないくらいの勢いで、あり得ないくらいでっかくなったカブトムシに向かい、突進している。ドーン、と体ごとぶつけるような勢いで、ブロードソードをその艶やかな焦げ茶色の体躯へとぶつけると、やる気なのか何なのか、体をピカーっ! とか輝くオーラで光らせながら、連続で叩く、叩く、叩く、叩き斬る! が、カブトムシだって負けてたまるか! とばかりに、ズサっと、後退り、体を下げて。 「グ! やつのグレートホーンがくるか! まずい!」 って、まずいって言ってるわりに顔が凄い嬉しそうだった。しかも、バックラーを突き出し、さあ来い! とばかりに構えて。 「受け止める気かよ!」 「真正面から立ち向かう……そうでなくては意味がないのだ! さあ来い! 王者よ!」 「シエル、下がって」 ユートがシエルと共に更に下がった刹那、ガッチーン! とカブトムシの角が、零二のバックラーと派手にぶつかる。ぐッと腰を落とし、一瞬堪えたものの、零二はやっぱり弾き飛ばされ、部屋の壁に激突する。 すかさずシエルが詠唱を開始した。清らかなる存在に呼びかけ、癒しの微風を発生させる。 「フフ……やはり、強いな…」 って全然嬉しそうに零二が立ち上がった。「流石の威容……! 王者の風格よな! フ…心が躍る!」 「躍ってる場合じゃねえって!」 ユートは、追撃に出ようとしているカブトムシと零二の間に割って入り、ヘビースマッシュを発動する。一見すれば細身にも見える腕の膂力を高め、渾身の力で盾をその体躯へと振り下ろした。 零二の攻撃で微かにひび割れていたらしい外殻の一部が、バコッとへこむ。べちょ、と、血なのか内臓なのか良く分からない緑色の液体が、飛び出て、盾を汚した。 「……洗えば落ちるよなコレ」 「しかし眠りの時間だ。さらばだカブトムシよ!」 体制を立て直した零二が、また、オーララッシュを発動し、突進して行く。 とかやってる隣では、ミュゼーヌが、もう一匹のカブトムシと対峙していた。シューティングスターを使用し、シューターとしての感覚を高めた彼女は、フランスの銃士隊で活躍した祖先に倣い作らせた特注のリボルバー、「リボルバーマスケット」を構え、的確に敵の外殻を撃ち抜いている。 「私の弾丸からは……逃れられると思わない事ね!」 移動しては狙いを定め、1$シュートを発動し、引き金を引く彼女の弾丸が、ダーン、と足を潰し、ダーン、と角を潰し、また、ダーン、と足を潰し。 どんどんと壁際へと追い込むようにして攻撃し、相手がぐわっと体を浮かせた瞬間を見逃さず、足の付け根がグロテスクにも見える体の内側、腹の部分へ弾丸を撃ち込んだ。びゅっと勢い良く飛び込んだそれが、E・ビーストの体をみしみし、と引き裂く。 「一寸の虫にも五分の魂」 シエルが、両手を合わせながら小さく、呟く。「安やかな眠りを……」 「さて、終了ね」 リボルバーマスケットを下ろしたミュゼーヌが、AFを取り出し、通信を開始した。 「こちら、ミュゼーヌ。こちらの討伐は終了したわ。そちらはどうかしら?」 「こちらも終了です」 孝平の声が、答えた。「でも、今回、僕達カブトムシ見れなかったですからね。久しぶりにカブトムシを取りに行きたくなりました。今年の夏にはどこかで虫取りをしてみるのも良いかもしれませんね」 「その時は、是非、協力しよう」 零二が、ふふふ、と不敵に笑いながら、言う。 「俺は、もー暫くカブトムシとか見たくねえわ」 ユートは、はーと息を吐きながら、言った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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