● そんなつもりじゃなかった。 そんなつもりじゃなかったんだ。 あいつ、ぴくりとも動かなくなった。 冗談だよな、きっと、俺たちをびっくりさせたいだけだよな。 突き落としたのは、俺じゃなくて、あいつが間違って落ちたんだよ、だから、俺、悪くないよ。 そうだよ、悪いのは、ハンコウテキだったあいつの方だ。 いつもみたいに大人しく、的になってりゃよかったのに。 母さんの悪口言うな――って、いつまでガキなんだよ? だから、俺、悪くないよ。 階段から落ちたのは、あいつが勝手に落ちたんだ。 ● 目を閉じた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が何を考えているのか、推し量るのは難しい。 リベリスタたちは、彼女が口を開くのを、ただ待つのみである。 ――ややあって、ようやく彼女が見開いた目は、微かに潤んでいた。 「今日、みんなにお願いしたいのは、E・アンデッドの討伐」 言葉にしても、やることも、結局いつもの通りの仕事、と彼女は前置きし、言葉を続けた。 「虐めにあった男の子がいた。彼が死んだのは、今日の夕方のこと。――たった今の話」 イヴの大きな瞳が少し揺らいだのを、リベリスタは見た。 「今の彼は、自分のことも、何があったのかも、何も覚えていない。 だけど日付が変われば、何があったのかを思い出す。そして、復讐に向かうよ。 自分をいじめてた子のところに」 彼女はうさぎのポーチを抱え直し、深呼吸を一つ。 「痛かったことを、やり返そうとする。頭を殴ったりするようなの簡単なことは、日常的だったみたい。 だけど、普通の人間であるいじめっこには、それだけでも致命傷」 僅か左右にふられる首が、それだけですまないのだろうということを予感させる。 「――いじめっ子を殺してしまったら、後は、ただ暴れるだけ。 自分の痛みを誰もわかってくれなかった、誰も助けてくれなかった、って」 リベリスタたちを見回して、イヴは続けた。 「お願い。彼を止めて――復讐を、止めて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月28日(土)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「その子が人を殺してしまったという事実を、今、面と向かって指摘するのは、危険。 今回教えないのは、接触することが良い方向に働くことが決してないばかりか、状況によっては、冷静さを失ったその子が、別の事件を引き起こす可能性が極めて高いと判断されたから。 でも、神秘の関わらない事件にまで、リベリスタを割く余裕はない」 リベリスタたちが最後に確認した事柄について、イヴはいくらか意識してのことだろう、冷たい声を出した。 「だからその子がどこにいるのか、教えない。教えることはできない。 でも、ひとつだけ言える。――いじめっこは、あなたたちが向かう時間、そこにはいない。 奇跡は起きない。簡単に起きる奇跡なら、奇跡なんて呼ばない。そこには悲劇がひとつあっただけ」 これ以上、悲劇を増やさないで。 イヴはそう告げ、ブリーフィングルームを出た。 ● 借り受けた鍵がじゃらりと音を立てた。 「イジメを受けていた子と、イジメっ子……ね」 幾人かの手にした懐中電灯の光のなかで、『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)のサイドポニーが軽く振られた首につられて影を揺らす。その光が目立たぬように、と、窓際を意識して歩く『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が祈の言葉に視線を僅かに落とす。 「私は幸運にもあまり経験したことが無いけど、酷いのは本当に酷い、と言うわね」 「子供とは、時に残酷なものです。 限度を学んでいないが故に、踏み止まる事が出来ない場合がありますから」 口元の微笑みは柔和だが、明神 暖之介(BNE003353)の言葉には、子を持つ親の実感がある。 「誰か、誰かひとりでも、彼等を踏み止まらせられる方が居たなら……。 それを願うには、あまりにも遅すぎますが」 「……本当に、儘ならないものね」 暖之介の言葉に滲む感情に、祈は無念の言葉で同意を示した。 それを横目に、足音を消して歩く『√3』一条・玄弥(BNE003422)がにやりと口の端を上げる。 「子供やからたいした罪にはならんよ。やが、そいつは一生人殺しであるがねぇ。 ろくでなしの外道、おめでとう」 玄弥の、くけけっ、と嗤う声が無人の廊下にいやに響いた。 ――命はひとつ。失われてしまえば、もう戻らない。 本来当たり前のことであるそれさえも、エリューションは裏切ってしまうのだ。 「子供のアンデッドを討つ。ただそれだけと割り切れば、然程難しいものではないのだがな」 そう言いながら、『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は、低すぎる階段に眉をしかめた。小学校の階段は一段一段の段差が驚くほど低く、普段の感覚で歩くと思わず足を取られてしまう。 「E・アンデッドになってしまっては、もはや救う余地はないのが現実、なのよね……。 下手な情けをかけたところで、犠牲者を増やすだけなのだから……」 「情けを掛けて、返って傷付けるかも知れない……」 佳恋とハーケインの続けた言葉。自ら望んで争乱の場に身を置いた男と、気負い気味ながら運命を得たことを自身に納得させようとしている佳恋が似たようなことを考えたのは、偶然の一致だろうか。 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の足は僅かに宙を滑り、階段に触れない。彼女も懐中電灯を手にはしていたが、点けていない。必要に足るだけの灯りはある。 「全てを忘れたまま、ただ二度目の死を迎える事と、復讐鬼となるも、記憶を抱えたまま逝ける事。 果たしてどちらが正しいのでしょうね……」 カルナの望みは、そのどちらでもなかった。だが、奇跡を願っても仕方がない。 運命は既に、ありとあらゆる意味で少年を見放しているのだから。 「……足が重い。けど……オレ達が止めるしか、ないんだ。……止めたいんだ。トオルくんを」 無愛想、仏頂面。そう表現されるような表情で、『フラッシュ』ルーク・J・シューマッハ(BNE003542)は階段を昇る足を止め――勿論、物理的に重たいわけではなかったが、翼の加護を請う。 喚ばれた翼は僅かな時間だけ、ルークの足を重力から切り離した。 彼らの目の前には、少年が身動きひとつ――否、まばたきひとつない姿で横たわっていた。 「……さて、始めましょうか」 まだ動かないその姿を前に、にこやかに微笑んだ暖之介が強結界を展開する。 「誰にしろ理不尽は襲いかかる物だ。 母の事を口にされ、行動を移した事は間違っていない。 誇りたまえ。君は間違っていない。君は、正しかった」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が金の瞳を幻想纏に向け、時間を確認する。 22:59:50。 「――が、すまぬな。これも"理不尽"であると思ってくれて構わん」 22:59:55。 「『トオル』よ。あぁ君の事は覚えておこう。私の命を掛けても良い、忘れはせんよ。 されど私達は君を見過ごせん。せめて、安らかなる終焉をその眼に捉えたまえ」 23:00:00。 トオルが、寝起きのような呻き声を上げた。 ● 「こんばんわ」 にこりと微笑みを浮かべた暖之介の挨拶に、トオルはきょとんとした表情を浮かべた。 こうして見ればおそらく昼間の彼と何も変わらないように見えるのだろうという気もするが、目に見えて窪んだ後頭部と土気色の肌、濁った瞳は、彼が生気を取り戻したわけではないと証明している。 「ここで何をしている?」 「ええと……学校? あれ、僕……夜? ここは? ……母さん? おじさんたち、誰?」 ハーケインの言葉に、トオルは周囲を取り囲む大人たちの姿を見回した。支離滅裂な言葉が並ぶのは、思いつくままに言葉を述べているからだろうか。 暖之介が、混乱するトオルに根気強く言葉をかける。 「学校です。君はこんな時間に、何故ここに居るんでしょう?」 「どうしてって……え? 僕は、あ、あれ? どうしてこんなところにいるの?」 「お家に帰りましょう?」 「家……は、家は、どこ? お家、わからないよ、僕は、誰? 僕、ぼく、何をしてたの?」 泣きそうな顔を浮かべる、トオル。 「何をしてたの、か。……それは俺達もおなじか。先ずは何から話すか……」 記憶を取り戻していないことを確信し、ハーケインは階段に腰を下ろす。コンビニの名前が印字されたビニール袋からケーキを取り出しながら、非現実的な現実の宣告を始めた。 「始めに……お前は既に死んでいる。嘘だと思うなら心臓が脈打っているか確かめてみろ。 今直ぐ全てを理解するのは無理だろうな……正直俺も困っている……」 「!?」 絶句したトオルは勢い込んで己の胸に手を当て、その衝撃に自分でむせる。だが、やがてその表情が凍りついた。むせたところで息苦しくならない事に気がついてしまったのだろう。コンビニケーキを階段の上に置きながら、ハーケインはさらに続けた。 「俺達は、本当の怪物になる前にお前を止めなくてはならない……。 だから選べ……何も知らぬまま討たれるか、午前0時になって全てを思い出して抗うかを」 ● 「何を、何を言ってるんです? 僕が怪物? そんな、そんなわけないじゃないですか!」 混乱した少年の、悲鳴にも似た否定の声。それを宣戦の合図として、カルナが今までよりもさらにふわりと浮き上がり、周囲の魔力へと呼びかけて次々と己へと取り込み始めた。初めて目にする燐光にも似た魔力、そして重力にとらわれないその姿に、トオルの目は丸く見開かれる。 「……トオルくん、キミのお母さんはなんでそんな仕事してるの?」 「とお、る……?」 それが自分への呼びかけに使われたものだと気がついて訝しげな表情を浮かべたトオル。自分の名前も、母の顔も欠落している彼の記憶では、ルークに言われた言葉の意味がわからなかった。資料に「トオルの母」がどのような職業に従事しているのかは記載はない。だが、ルークにはある確信があった。 それは、トオルが母を大切に思っているはずだと言うこと。 (……すごく、すごくイヤな気分だ。育ててくれるお母さん、頑張っているお母さん……大好きなお母さん) それを、侮辱されたのだとしたら。 (……彼が怒るのは、当たり前の事、とても大事な事) 「……オレ、最低だ」 それを挑発に使った自分への自虐を口にしたルークの、その手に現れたファイティングナイフに、上半身を起こしただけの姿勢だったトオルは思わず後ろについた手を頼りに後退りしようとする。 「最低、なぁ?」 その声は階段の、さらに下から聞こえてきた。 階下の廊下に立った玄弥は、トオルと暖之介たちが会話していた間に全身から漆黒の闇を生み出してその身に纏い、機会を伺っていたのだ。 「いじめられるんが悪い? 苛めるのが悪い? どっちでもええよ。どうせ殺すしなぁ、おぃ」 「うぁあ!」 声とほぼ同時にトオルに叩きつけられる、暗黒の衝動を持った黒いオーラの塊。打ち据えられた少年はその勢いに押され、階段を上方へと転がった。 ハーケインが漆黒無形の闇を武具として纏い、暖之介が影の従者を呼び出して己に沿わせる。 最もトオルの近くにいたその二人の間をシビリズが突き抜け、巨大な槍を、爆発させた膂力で持って振りぬく。少年の体が、階段の壁に磔のように叩きつけられ、重力に引き寄せられて床に引き落とされる。 「う、ううう……」 呻き、頭を抱えるトオル。恐怖、痛み、絶望。生前の彼が慣れ親しんだ感情は、彼の心に容易に馴染む。 仲間の背中越しに少年の姿を見ながら祈はじっと集中を重ね、佳恋は輝かしいオーラを纏いながら、振り被った大剣でトオルに追撃を重ねる。 「恨むなら私を恨んで。貴方を倒す……いえ、殺すことでしか解決できないのだから」 いじめで殺されるのも、世界の理を守るために殺されるのも、それがもたらす結果に違いはない。 その違いを受け入れてもらおう、というのは虫が良すぎると、佳恋はそう思った。 だが――その言葉は、少年の精神に限界を与えた。 ● 殺す。 ころす。 コロス。 「うわあああああああああああああああ゛ああああ゛ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 絶叫。 トオルが自分の耳をふさぎながら、何も見えなくなるくらい目を見開きながら叫ぶ。 それは、絶望の氾濫。 その場に居る全員の脳裏にその光景が過ぎり――いや、殴りつけるように叩きこまれる。 白昼夢や幻覚と言うのもおこがましいほど曖昧で、けれど皮膚感のある感覚。 それは無数の視線。それは沈黙。それは途方もない孤独感。 沢山の沢山の沢山の目が見ているのに、何もせず何も言わず何もしてはくれない。 いや、その視線はもしかしたら自分のことすら見えていないのかもしれない。 誰にも気が付かれていないような気がするのに、それでも誰からも監視されている感覚。 イジメの標的を移さないために、生贄が逃げ出さないために、自分が生贄にならないために。 トオルの長年の実体験を数瞬に濃縮した、強制的な追体験。それは強い悪意となってリベリスタ達の身体をきしませる。圧倒的な悪意によって、その運気を捻り上げるように削られた者は、3人。 「彼が受けた心の疵、心の痛みが……流れ込んでくるみたいだ」 ルークは、肉体へのダメージよりも強い痛みを感じたような気がしていた。 「ッハハ、イジメられて死んだもんの言い訳なんぞ、クソつまらぬなぁ、おぃ」 気持ちで負けぬようにと玄弥が吐き捨てた言葉は、トオルの肩を震わせるには充分だ。 そしてシビリズは。 「なぁ、トオルよ。君は嫌いかもしれんが、私は己に厳しい逆境という状況が大好きでね。 如何に打破するのかに心躍るとも。楽しんだ者勝ちとは言わんが、君もそうであれば良かったのにな」 そう続けられた言葉にトオルは更に混乱した様子を見せ――やがてその目を、酷く悲しげに伏せた。 ● 「――どうか悔いのない選択を」 その言葉は少年へのものか、あるいは仲間へのものか。 静かに語るカルナは、己の中で組み立てた条件を踏まえて仲間への癒しを続けている。もっとも、彼女自身に、例えば%や、数値化された情報を得る手段があったわけではない。目測などに頼ることになるために、完全な管理とは言いがたかったが、それでも十分な威力を持つ回復という援護は、戦況の地盤を固めるのに一役買っていた。具現化された癒しの息吹は、幾度も階段を吹き抜ける。 玄弥は効きの良かった暗黒の正気を放ち続け、ハーケインは独特の鍔を持つ剣に暗黒の魔力を込めて振るう。己の影とともに舞う暖之介は少年の身体を着実に爆破し、ジークベルトの重槍がその傷ついた体をさらに穿つ。 少年は泣きじゃくっていた。 泣きながら野球ボールに似た気弾を撃ちだす。泣きながら箒に似た形に束ねられた気糸を振り回す。 ――つまりそれが、彼の周囲の言っていただろう『ドッヂボール』や『遊び』の正体。 「やだよ、やだよ! ねえ、どうして僕に、こんな痛いことするの? 僕が何をしたの!?」 ボールが飛んでくるのだろうと考えていた玄弥は、クローではじいてどうにかなるものではないと、腹に食い込み背中に抜けた硬球もどきに理解する。ドッヂボール。なるほどドッヂボールだ。回避しようが弾こうが、再び目標を追尾しだす。まるで数人で一人の少年を囲んで、当て続けるかのように。大穴をあけた肌に触れて口の端をにやりと上げると、運命を燃やし、その膝を床につくことを拒否した。 箒は、誰かれ構わず顔を引き裂くように横薙ぎに振り回される。髪が長ければ絡みつけとばかり、押し付けるかのように。 ――『痛かったことを、やり返そうとする』 イヴの言葉を思い返せば、それはつまり、彼にとって嫌だったことなのだろう。 「せめて私を攻撃してちょうだい。その痛みは、忘れないようにするから。それが私にできる、貴方への唯一の手向けなの」 「お前に課された運命を理不尽と思うかも知れない……それでも、誰も恨んではいけない……恨むなら、討たんとする俺だけを恨め」 小細工よりも数で押し切ろうとする佳恋の剣が、声がトオルの背を揺らす。精神ごと身体を引き裂く一撃とともに、ハーケインがトオルに告げる。 死ぬことが、忘れられることが、怖い。 もう死んでしまったのだと、切られても吹き出さない血が、いくら体を動かそうとも微塵も鼓動を打たない心臓が、否応なく教えてくれている。夢だと思いたくても、痛みは現実感を持ってトオルを走り抜ける。 「もう遅いけど……こんなカタチでしかないけど、オレ達はキミを止める、キミと向き合う。 ……キミと友達になりたいよ」 箒のいち激に耐え切れずに階下へと向かって倒れこむルークの言葉が、トオルの耳に入ったのだろうか。目を見開き、ルークへと一瞬呆然とした表情を向けたトオルの顔が――しかしそれは、僅かな歓喜を見て取れた。 優位性の証明。 暴力によってそれを得たことへの満足感に、トオルは満たされていた。 記憶はなくとも意識を保っていた少年であれば、やり返すことの悲しさを知るのではないかと考えたルークの希望は、だが結局は幼すぎた精神には理解できず、打ち砕かれたのだ。燃やした運命によって立ち上がり、ルークは転がり落ちた階下から少年を見上げた。 トオルの首には、細い黒紐が巻き付いていた。 「お母様の事を言われて、彼等に立ち向かったのですね。優しく、強い心を持った方だったのでしょう。 ……こうなる前に、出会えていたなら」 暖之介のブラックコードが、トオルの身体の自由を奪う。 「僕は……僕、なんて、こと」 少年は恐れに満ちた表情を浮かべ、その時になって自分の感情の動きを理解し、慄いた。 「苛めはな、やる方が悪いのだ。苛められる方に非は無い。 百万通りの種類があろうとその法則に一つの例外もありはしない。 だが駄目だ。駄目なのだ、君は、もう」 ――シビリズの言葉は、深く、核心をついていた。 「母を思える優しき子、今はただ全てを忘れて、ゆっくりお休み」 「辛いな。――でも、君を討つのを躊躇うわけにはいかないの。私は世界を崩界から守る防人だから」 狙いをつけた祈の魔法の矢が少年に刺さり、オーラを纏った佳恋の大検は執拗にトオルを狙い続ける。未だ記憶を取り戻さない少年には、数にまさるリベリスタたちを相手に競り勝てるほどの力も、その理由もなかった。だから――その時が来たのは、ただ当然の帰結。 ● 帰路、祈が本部に提案した弔いをしたいという言葉は却下された。 朝になれば、一晩帰らなかった息子を探しに母親が学校を訪れるのだという――その時に案内するのは、学校の職員に紛れ込んだアークスタッフの仕事になるだろう、と。 怪我の治療を受けながら、ルークは少年のことを思う。 (何度夜がきても夜が明けても、トオルくんは、もういない。さよなら、ごめん) いち早く外に出たハーケインは校舎を見ながら、深く紫煙を吐き出す。 最後に出てきたシビリズと目があい、軽く手を上げて互いの労をねぎらった。 何をしていたのかと聞かれて、シビリズは花を捨ててきた、と答えた。 「意味は無い。捨てるだけだからな。何の意味も無いともさ。 そう。これはただの――自己満足だ」 明日になれば、泣き叫ぶトオルの母を見て、突き落とした子は、自分のしたことの意味を知るだろう。 夜になれば、耐え切れず、自分がしたことを明かすだろう。 今は――月がただ、全てを青白く染めるのみである。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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