●舞う者、世を侵し それは、神話に於いて善とも呼ばれ、悪とも呼ばれた。 それは、歌い手であり、魅了する者であり、惑わせるものであり。 歌を唄う者が理性あるものとする一方で、歌を本能として唄い、惑いこそ本懐と呼ばれることもあり。 豊満な女性の身体をところどころ覆うのは、鳥の羽毛に酷似したそれだ。 その足は鋭い鉤爪を持ち、その腕は大きな翼を携えて。 鳥の如くに飛翔するには、埒外の腕力を必要とされる――そんな話がある。 類に漏れない存在ならば、それは力ある神秘なのだろう。 単純な力の概念に囚われない、空を舞う神秘存在。 空を覆うその影が、次第に世界を広げていく。 ●神秘の歌い手 「此処暫く、鬼の騒動でなりを潜めていた……というよりは、余り目立った神秘異変が起きていなかった三ツ池公園ですが、どうやら、今回は相応の数の相手のようですね」 ふむ、と納得するように小さく頷き、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は背後のビジョンを操作する。 そこに映しだされたのは、人間の肉体に鳥の腕と足を備えた、優美とも言える女性型の神秘存在だった。一部のビーストハーフに近い姿見をしているが、より飛行に適した身体と広い獣化部分をしていることから、この世のものと思えない雰囲気を醸し出している。 「アザーバイド、識別名『ハーピー』。まあ、割りとポピュラーな神秘存在として昔から知られているのですから、ボトムチャンネルへの干渉はそれなりにあったのでしょう。ただ、今回は場所が場所ですし、彼らは元々敵性アザーバイドです。下手を打てば、三ツ池公園の影響で力をつけてしまう可能性だってある」 「本当に昔話みたいな外見なんだな……じゃあ、歌も?」 「ええ。特性としては見ての通りの飛行能力、足の鉤爪、そして歌。厄介なのが、彼らが単体ではないところで。こちらに来ているだけで、三体が確認されています。それぞれ、歌の特性が大きく異なることから、役割が存在すると思われます。 皆さんの能力に例えれば、天使の歌、ブレイクフィアー、神気閃光……に、近いものかと。全体が対象であるというだけで、色々と異なる部分はあるんですけれども、それはさておき。 能力としては目立って強いということはありません。ですが、連携もできるし低空であれ飛行もしている。こちらに複数回来ている種族であることを加味すれば、決して侮っていい相手ではありません。 最大を以って、最善を。不吉な歌を唄う時間は、終わりにしていただきましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月24日(火)00:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●空を舞い世を呪うモノ 三色の翼が宙を舞い、地表に現れた者達を前にして歓喜にも似た声を上げる。 幾度と無くこの世界に現れた異物。一度として分かり合うということをしなかった来訪者は、しかしその経験が故に『獲物』の感情を熟知している。彼らが最も好むのは恐怖。然し、現れた者達はそのどれもが強い意志と抵抗を顕にしているがために、却って彼らを興奮させてもいる。 抵抗の果ての恐怖を味わう興を知る程に彼らはこの世界を熟知し――この世界に害為す存在であるのだ。 「わ、これがハーピー……! 初めて見ましたが、とっても綺麗ですねっ……」 如月 凛音(BNE003722)にとって、神秘との遭遇がそう珍しいことではない。だが、それが伝承の生物と同名同型を象り、実際に自らの前に現れた事実は彼女をして興奮させるには十分すぎた。 リベリスタとしての使命感もあり、前に出て戦うことの恐怖も人並み程度にはある。自らの立場を誇りこそすれど、恐れにその身を竦ませない胆力を持つ彼女をして臆病とは呼べまい。 「やれやれ。ドラゴンやらハーピィやら、幻想生物の博覧会の如き有様だな」 神秘の要衝と化した三ツ池公園では、過去にも竜の討伐依頼が複数回に亘って発生している。それらに加えてハーピーの出現となれば、中世の欧州を彷彿とさせるが如き有様だ。葉巻を片手に呆れた様に呟く『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)からすれば、半ば呆れにも取れる状況だろう。当然ながら、甘く見ているわけではない。当然のようにそれらの神秘が跋扈する状況に、明確な危機感があればこその言葉なのだろう。 「ハーピー、神話の怪物か。ま、俺みてえな男にゃ縁遠い生き物ではあるな」 歌に震わせる心は既に戦場に置いてきた、と静かに宣言するのは、『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)だった。感情を捨てたのではなく、他者に惑わされない確固たる芯を戦いの中で築いた彼に、神秘に糊塗された偽りの歌は響かない。真実、彼を震わせる程の歌い手が現れる日が来るか、否かは別問題として、少なくとも彼の言葉は、ハーピー達を意に介さずと高らかに宣言しているようなものだ。それだけの自負と意地が、彼を彼たらしめている。 「鬼の事件が落ち着いてきたと思ったら、公園の対応に逆戻りか」 「やれやれね」 『鉄鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)と『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)が口々に吐いた言葉からは、激戦の残り香が色濃く漂っていた。鬼道との激戦冷めやらぬ中、忘却に置き去られかけた三ツ池公園の怪異がリベリスタへ牙を剥く。正しくアークの人間として戦い続けなければならぬ業を背負った彼らにとって、或いは想いに身を浸して刃を鈍らせるよりはずっと親切な世界のあり方だったのかもしれない。だからこそ心は折れず、目の前の戦いに全力を傾ける心のあり方を示すことが出来たのかもしれない。 「鳥と遊べると聞いて来たが、随分と猛禽類のようだのぅ……」 人ならざる声、歌と呼ぶには耳障りな上空のアザーバイドを眺めた『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)は、その視線を仲間に向け、目を伏せた。耳や尻尾がそれに応じるように垂れ、その感情の揺れを如実に表している。 鬼道との戦いから間もない戦闘とは、返すにその戦いで負った痛みを癒す間も許されないことを意味していると言える。仲間達の傷を見るのは忍びない。であれば、それに見合う程度は自分がカバーしなければなるまいと考えるのは当然過ぎる程に当然だった。 自らが若輩であると言う事実を臆面もなく認めて尚、仲間を想うその意思は決してやわなものではないだろう。 「久しぶりの実戦……足を引っ張らないようにしなきゃ」 一方で、『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)に付いて回るのは久しく感じていなかった闘争の空気だった。殊、三ツ池公園の重々しい神秘の空気は経験が浅い彼女をして竦ませる程のものだ。気負うところの多いその指先が小刻みに揺れる。それでも、戦わねば。 ――その、緊張の一方で。 幻想纏いから降り注ぐ光を身に受け、俗に言う「変身バンク」の只中にある巨漢があった。 身に合わぬ、否、サイズだけはきっちりとその男にそぐうように装備されていく服装は数多のフリルと表に視えぬ金属繊維の束から組み上がったハイテク装備。 一身に受けるように構えたその姿は、神々しさとは違った意味で他者を引きつける。主に悪い意味で。 やがてステッキ、ではなくガードロッドを構えて現れたのは筋骨隆々の、 「悪の鳥女をこらしめるため、魔法少女ジャスティスレイン、推・参!」 ガチムチ魔法少女こと『超重型魔法少女』黒金 豪蔵(BNE003106)でした。ガチで無知な僕にはちょっと彼の数奇な運命がわからないです(迫真 上空を漂っていたハーピー達も、地上のリベリスタたちが次々と得物を構え、あるいは準備行動に移る様を唯唯諾諾と許している訳ではない。 嬉々として地上へと降下するそれらを睥睨するリベリスタ達の表情は決して優しいものではなかったろうし――この戦いも、易しいものではないはずなのだ。 ●歌とココロと 黒い翼を携えた個体の歌唱が世界を揺らし、半透明の防壁をハーピー達に与えていく。圧倒的な防御とは成り得ないだろうが、それでも踏み出し、斬りかかる足を躊躇わせる程度にはその雰囲気が強く現れていると言えるだろう。 速度の面でハーピー達と拮抗し、或いはそれ以上であるだろうエルフリーデはしかし、初動を攻撃に充てようとはしなかった。黄色の翼を持つそれの射界から離れようと数歩ステップバックを行使し、銃を構える。その一挙動がすでに命中を押し上げる確固たる一手。悪戯に手数を増やさず、確実に仕留めようとする意気に満ちている。 対照的に――しかし無策というほどでは無い程度に一歩を踏み出したのは悠子だった。黄色の翼をしたそれに突進から気糸を振り抜き、振るう。回復役である個体の動きを縛る為に与えた一手は、しかし絡めとるには一寸が足りない。カウンター気味に放たれた歌を真正面から受けた彼女は、受け止めた重圧に、僅かに膝を揺らす。追撃のように放たれた赤の個体の爪が身を掠め、その学生服を朱に染める。実戦の空気が粘着くようにその身に絡み、背筋を恐怖が駆け抜ける。 だが、その恐怖を打ち消すようにして、彼女の真横を閃光が駆け抜ける。その光の根源には、振りぬいたナイフを赤の個体に突き付けるゲルトの姿があった。 「さて、少々付き合ってもらうぞ」 大きく翼をはためかせたそれは金切り声を上げてゲルトを威嚇し、足元に膝をつく悠子に一顧だにする気はない。それが正しい戦いの在り方、戦略ではあるとしても。 「がはぁーっ」 しかし、彼女の落胆を許さぬ勢いで放たれる癒しの吐息は、熱情のこもった意思を強引に押し付けてくる。豪蔵の華麗なポージングから放たれた天使の息は、悠子に否応なしに立ち上がるように告げているようでもあり、仲間に対する明確なエールのようでもあり。 「怖いですけどっ……皆さんがいらっしゃいますのできっと大丈夫っ……!」 小刻みに揺れる薙刀をきゅっと握り直し、凛音は自らに言い聞かせるように黄色の個体に斬りかかる。声と共に振りぬかれた得物は袈裟懸けにその肉を割き、僅かにその顔に警戒色を浮かばせる程。気合を載せた一撃の重さが、そうさせるのだ。 (状況判断能力が高い、ということは裏を返せば行動の予測はしやすいということ) 自らが葬った友の名――トゥリアを銘打った銃剣を携え、ティセラは黒い個体へと肉薄する。彼女の思惑通り、それは初手に防壁を選択した。ならば、自らが全力を傾け、その危険性を見せつけることで彼らを引きつけることもできるだろう。神経を確実な一撃の為に組み替え、その覇気を以って脅威であると自らを売り込む行為。それは返すに危険性を高める行為でもあろうが、彼女にとっては関係無いこと。 「……お姫様をしっかり守ってくれ、ナイト君」 「前途洋洋たるお嬢ちゃんを、傷ものにするわけにゃ、いかねえからな」 ブロードソードを高く掲げ、黄色の放った幻の歌を無力化させてカインはソウルへ声を張る。その声色に交じる僅かな苦悩は、しかしソウルが鑑みることではないだろう。それを背負うに足る守護者としての矜持を、彼は備えているのだから。 だからこそティセラを守ると断言出来る。だからこそ、目の前のハーピー達をして寒気を与える程度の存在感を押し付ける。イージスの名を、その男は恣にするに足る人物なのだ。 黒の個体が、再びに歌を紡ごうとせずに攻撃に転じたのは、その驚異を空気から感じ取ったが故か。 だが、黒がソウルへと向かおうとする前に、戦場は動く。 「狙った獲物は逃がさない、ってね」 鮮やかに、かつ正確に――生家の誇りと矜持をそのままに、エルフリーデの一撃が黄色の個体を覆う壁を打ち抜き、砕きながら突き刺さる。遠吠えの様に吹きすさぶその悲鳴が示す様に、その貫通力は慮外の精度を叩き出し、大きくその体力を削った。 だが、快哉を叫ぶ暇はない。悠子が追撃とばかりに攻勢にでるが、痛みだけで我を失う神秘存在ではなかった。すい、と軽い挙動からその手を抜けると、全力の歌唱を世界に叩きつけ、癒しと言うには激しすぎる音響を爆発させた。 エルフリーデに受けた手傷を癒し切るほどに熟達した神秘干渉は起こし得ないとしても、受けた傷は僅かずつ修復され、復元され、その活力を取り戻す。ゲルトの痛撃を受けた赤の個体も、傷の癒えに活力を得て声を張ろうとするが、しかしその視界を塞ぐようにゲルトが立ち、挑発するように薄く笑んでみせる。彼の一手を受けている以上、その意識を強く向けるのは自明であり、故に普段からは考え用もない愚手に手を染める。真っ向からの戦闘など考えうる程には強くないだろうに、しかしそれを本能的に欲する程度にはその思考は怒りに染め上げられ、元の形を為す暇がない。鉤爪を鋒で鮮やかに凌ぎつつ、ゲルトは再び戦況を整理する。 現状、全ての個体が往々にして交戦を続けており、逃走の気配は薄い。 このまま押し切ることも状況的には不可能ではない。少なくとも、数十秒の猶予はあるだろう。そして、その判断に至ったのは豪蔵も同じだった。少なくとも深手を負ったリベリスタは見受けられない。戦況は確実にリベリスタ側に傾いている。ならば、自らは機を伺うに徹するべきだと身構えた――否、ポージング。 「力を借りるわ、トゥリア」 ティセラの声が小さく響き、得物が大きく振るわれる。彼女の声を聞き届けたか、その銃剣から放たれた一撃は黒の個体をその防壁ごと叩き切り、吹き飛ばす。割れ砕けた防壁の向こうに佇むそれは、高度を維持することは出来ても、攻めに転じることは敵わぬらしく、虚ろな視線でティセラを、そして彼女を庇って立つソウルを睨みつけた。 逃走することは難しくはないだろう。状況を判断することを是とする彼らなら既にこの状況を理解している。今此処で逃走する確率と成功率が最も高いのは、麻痺で攻められずとも逃げ切る程度には判断力のある黒の個体だったろう。だが、ティセラの言葉通り――状況判断が出来る相手は、その分予測が容易いのだ。 「はァーッ」 アドミナブル・アンド・サイ――両手を後頭部へ持って行き、腹筋と脚を強調するポージングから放たれた豪蔵の一撃は、冗談じみたその行動から理解できないほどの正確性を以って黒の個体を貫いた。常時であれば当てるに労する一撃も、その一時は話が異なる。 判断力を怒りで塗り潰され、根底から覆された黒の個体には既に彼しか見えていない。 故に、そちらへ向かおうとするそれを全力で止めんとする存在が居ても気づけなかったろう。 「後ろに、下がって下さい……!」 気を吐くように凜音の一撃が黒の個体を正面から捉え、豪蔵への進路を防ぎきる。弾き飛ばされたそれに覆い被さるように踏み込んだ影は、ソウル。 「空飛んでねえで一緒に地に足つけ降りようや、この一発でな!」 唸りを上げて叩きこまれた一撃を、相次いだ連撃で削られた体力で耐え切るなど既に不可知の領域だったに違いない。パイルバンカーの一撃が掠める程度だったとしても、地へ叩きつけられるには十分過ぎる。黒のハーピーは、数度大きく地を跳ねた後、軽く痙攣を起こして動かなくなった。 「まだ踏ん張れるかい、イケメン!」 「無論だ、造作もない」 黒の撃破を受け、勢いに乗ったカインの自動治癒の術式がゲルトへ馳せ、耐えることを要求する。ゲルトからすれば、この状況も予測はできていた。赤の個体を封殺できたのは慮外としても、目の前の敵を食い止め、或いは倒す事などそれこそ造作も無いこと。 エルフリーデの銃弾が黄色の個体を貫くのに合わせるように、凜音の薙刀が大きく振りぬかれ、その胴を大きく裂いた。 既に、勝敗を語る間もなくそれは決したも同然。 判断力は、それに相当する余裕がなければ効果を発揮しない。連携は、信頼がなければそれとして機能しない。 リベリスタ達の信頼を超える関係を築けなかったのが彼らの敗因であるとすれば、とても虚しく苦しい結末であり。 「せめて魂だけは己の世界に帰れるように祈ろう」 そう告げ、静かにこの世界の神に向け十字を切るゲルトの姿は、静かながらも強い感情を滲ませていたといえるだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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