●とあるお宅 薄暗がりの部屋の中、二つの影が蝋燭の光に照らされて揺れていた。 一つは少し小太りな中背の男、そしてもう一つはひょろりとした体型の小柄な男。 「くふふ、これが噂に聞くアーティファクトというヤツか」 小太りの男が笑みを零しながら玩んでいるのは一つの腕輪。 「左様で御座います旦那様。何でもこの腕輪を身につけると、ありとあらゆる生物に求愛されるという神秘の力が手に入るのだとか……」 こちらも不気味な笑みを零しながらひょろ男が言う。 「ということは儂がこれを身につければ世の女子は全て儂のモノになるというわけじゃな?」 「左様で御座います! さすがは旦那様、理解が早ぅ御座います」 「全ての女子が……早ぅ試してみたいのぅ!」 締まりのない口元から零れる涎を拭いつつ、小太り男は愛おしそうに腕輪をなでる。 それを見たひょろ男がきひひと笑い声を上げる。 「そう言われるだろうと思いまして、実は用意して御座います……おい!」 ひょろ男の声と同時に暗闇の中から二つの影が姿を見せる。 一つは全身黒尽くめの明らかに怪しげな男。そしてもう一つは鎖に繋がれ、猿轡をされた一人の女性である。どうやら気の強い女性のようで、こんな状況下にありながらも鋭い視線を男たちに向けていた。 「私どものテリトリーにおいて盗みを働いた女狐で御座います。本来ならば生かしておく理由もないのですが……」 言いながらひょろ男は黒尽くめに目配せをする。 黒尽くめは反応するように握っていた鎖ごと女性を押し出した。 「ささ、思う存分お試しくださいませ」 「気が利くのぅ。さすがじゃ!」 にまりと吐き気がするような笑みを浮かべた小太り男は、ゆっくりと腕輪に手を通す。 効果はすぐに現れた。 つい先程まで仇敵のように睨み付けていた女の眼がとろんとなり、小太り男の下半身へとしな垂れかかってきたではないか。 「おほっ! これは見事じゃ! よしよし、儂が存分に可愛がって……」 早速女の鎖を外そうとしたその時、何かが小太り男のズボンを引っ張った。 何事かと振り返れば、そこには女と同じようなとろんとした眼でこちらを見つめるひょろ男の姿。 「な、なんじゃその気色の悪い顔は!? 儂は忙しいのだ、邪魔をす――」 「旦那様ぁぁぁ! 私めはもう、もう我慢なりませぬぅぅぅぅ!!」 「なっ!? ちょっ、ま、待てっ! だからズボンを下ろすなっ!?」 「いざ参ります!」 「来るなぁぁぁぁぁぁっ!?」 この日、夜通し不気味な叫び声が辺り一帯に響き渡り、住民は不安な夜を迎えたという。 ●ブリーフィングルーム 「あー、今回はアーティファクト絡みだ」 集まったリベリスタたちを前に『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は面倒そうに呟いた。 「最近多いな、出回ってるのか?」 苦笑交じりに言うリベリスタに、伸暁もまた肩を竦める。 暗にそう思われても仕方がないと言いたげである。 「とは言っても今回はそれだけじゃない。アーティファクトを狙ってフィクサードが動いてる」 そう言うと伸暁は懐から一枚の紙を取り出し、一同の前に投げ出した。 「これは?」 「そのフィクサードから届いた、予告状だよ」 「予告状……?」 首を傾げながらリベリスタたちは投げ出された紙を広げる。 『前略 若葉の候を迎え、皆様ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 突然のお手紙にさぞかし驚かれたことでしょう。 この度は貴方が所有する腕輪のお話を聞き、いてもたってもいられずに文をしたためた次第でございます。 腕輪の効力に関しましては既に実証済みかと存じます。 つきましては件の腕輪を頂きに参りたく、事前にお知らせさせていただきました。 不躾な文章での通達になりました事、重ね重ね申し訳ございません。 月の隠れる夜にお会いできる事を心より楽しみにしております。 お忙しいとは存じますが、どうぞ宜しくお願いいたします。 それでは用件のみとなりますが、これにて失礼させていただきます。 暖かくなってきましたが、季節の変わり目ですのでご体調にだけはご注意くださいませ。 草々 怪盗卍』 「…………」 一通り読み終わったリベリスタたちの間に沈黙が横たわる。 「コホン……まぁなんだ。内容はともかく、相手が何を狙ってるかはよくわかったと思う」 沈黙を破った伸暁はモニタのほうへと視線を移す。 同時に現れたのはいくつかの写真。 その全てが腕輪の写真であった。 「相手が狙ってるのは神秘の腕輪なんて仰々しい名前のついた腕輪だ。これはちょっと特殊な効果があってな、装着者の周りの人間を問答無用で魅了する厄介な代物だ。だがその効果範囲は装着者の半径一メートルの空間のみ、まぁ結界のようなもんだと思ってもらえればいい」 続けて画面が変わり、今度は人物の写真が現れる。 映し出されたのはどうみても小悪党にしか見えない風貌の小太りの男。 「これが今回アーティファクトの回収を依頼してきた現在の持ち主、企金蔵(たくらみきんぞう)氏だ。何かと黒い噂の絶えない人物で、アーティファクトなんてモンを持ったら最後、絶対に悪用すると思われてたんだが……」 「そうではなかった、と?」 「いやわからん。ただ、何でもTrueなLoveに目覚めたから必要ないと言っていたそうだ」 伸暁の言葉に、リベリスタたちは早くも頭が痛くなるような思いを抱いた。 「何がどうあれアーティファクトとなれば回収しないっつーわけにもいかない。ま、最悪破壊したって問題はないから、頼んだぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月02日(土)22:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●見つめる猫の目 月の隠れる夜――すなわち、新月。 とかその辺一切気にせずにリベリスタ一同は企氏のお宅へ訪問したのであった。 「あなた様がトゥルーなラブに目覚めたという企様でございますか、どうぞよろしく」 どこか高圧的な態度でそう告げて一礼する『炎獄の魔女』エリザ・レヴィナス(BNE002305)。実はそういった態度を気にしているらしい彼女は、きっと後でもうちょっと普通に挨拶できなかったんだろうかと悩むに違いない。 その横で手袋を外した『消失者』阿野 弐升(BNE001158)がわずかな時間だけ幻視を解き、依頼の主とその従者をちらりと見やる。彼らは一瞬驚いた顔を浮かべた後、納得したように頷いた。 「おや、今のは……」 「なるほど、不思議な手じゃな。それが神秘というヤツの一端か」 「本当は私どものような者が軽々しく手を出して良い世界ではなかったのでしょうね」 「もっとも、その御蔭で愛というものの真実を知ることができたのじゃから、良しとしようかの。なあ細井?」 「まったくでございますね、旦那様」 いちゃつかないでください。 穏やかな瞳で互いを見つめ合うおっさんたちを放置し、弐升は少し考えこむ。 (……怪盗が変装していないかどうかの確認をしたかったんですが。 そういえば、幻視は別にエリューション能力があれば見えないというものでもなかったような……) 「しまった、いちゃつく機会を与えてしまっただけですか!」 後悔先に立たず。 いちゃつきだした依頼人たちを放置して、リベリスタたちは自分の仕事を全うしようと心に決める。 「まさか、小説みたいに怪盗と関わる日が来るとは感動だぜ」 さっきその辺で買ってきた安物の鹿撃ち坊をかぶりなおし、無闇矢鱈とテンションの高い『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348)がギザギザの眉を跳ね上げる。探偵で小説家でリベリスタだった祖母の影響だろうか。彼はどうやら『探偵』というものに対してなみなみならぬ思い入れがある様子。 「目指せ名探偵、俺が吸血鬼探偵だ!!」 ――余談ながら、某世界的名探偵は作中で鹿撃ち帽とパイプを身につけたことはなかったりする。 「怪盗さんって何か格好良いイメージあるですけど、実物はどーなんでしょー? 見てみたいでーす」 幻視を使わず猫耳と尻尾を揺らし、『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)は人差し指を顎に当てる。 「でもどー考えても人手が足りないので、桜ちゃんが人手を増やしまーす。 あ、そこのお兄さん? ちょっとちょっと」 こそっと外に出て住宅街を歩く人を捕まえると、桜はじぃっとその男の目を覗き込む。 ――魔眼である。 「お兄さん、何かおかしいなって思ったら、桜ちゃんにケータイで教えて下さい。 桜ちゃんが3つ数えて手を叩いたら、あなたはこの会話を覚えていない……3、2、1」 ぱん、と手を打ち鳴らす桜。 お兄さんは少しぼぅっとした風情でいきなり携帯を取り出し、暗示の中の携帯番号を押し出す。 「お!? もう効果が!」 「猫耳です! ネコミミの女の子が! 萌えー!!」 そりゃ確かに、何かおかしい。 ●真っ赤なローズはあいつのリップ 「……うわぁ」 無表情な顔で、しかしその他すべてを持ってして全力のどん引きを示すえんがちょポーズは『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)である。犬なのか鳩なのかウサギなのか。 ともかく、彼らが企金蔵邸の一室にて、関わりのない人が近づくことのないよう強結界を張ってから見せてもらった腕輪はもう、どうしようもなくピンクいオーラを放つ代物だった。 範囲は狭いとはいえ、いかなる相手であろうと魅了することができる魔性の腕輪。あまりに強いその魔力は、エリューション能力を有している者には、一目瞭然だったのだ。 「これは……無用のようだな」 準備してきた数本のブレスレットをアクセス・ファンタズムにしまいながら、『元・少尉官』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が苦い声を出す。これは偽れない。エリューション能力を身に宿したものなら、一瞬でわかるこの禍々しさ。その違和感たるや、まるで貸しビデオ屋の子供向けアニメの棚に置かれたポルノビデオ。例え範囲は狭くとも、誰であれ逃れられない呪いを放つ代物とはこうまでも恐るべき物だったのか。 「圧倒的なピンクだね。……どうする?」 「やるしかないだろう」 寝ぐせの頭にチューリップハットをかぶり、絣の着物と縞の袴。随分形から入ってきた『ぼんやり焙煎師』土器 朋彦(BNE002029)の、のんびりした声に雷慈慟は煙草の火を消しながら答える。 頷いたうさぎが緊張感の漲る無表情で腕輪をはめる。 一層色濃くなる、半径1mの桃色幻想。 むせかえるんじゃないだろうかと思うほどのピンクに、彼らはエリューション能力を持たぬ者を今ほどうらやましく思ったことはなかったとかなんとか。 念のために上から巻いた包帯にもまったく影響など受ける様子を見せない。 「不詳土器朋彦、あえて虎穴に……」 効果を確認するためには人身御供が必要。 覚悟を決めた朋彦がそろり、と足を桃色空間に踏み入れる。 「――き、きみのそのボーダーラインなスタイルが、僕の焙煎機を加熱して止まらな(以下略)」 「うわあああ!?」 「とうっ」 「ウボァー」 これが漫画なら間違いなく眼がハートマークになっていた朋彦がうさぎに本気で跳びかかり、悲鳴を上げたうさぎが跳び退り、その横っ腹に雷慈慟がタックルをくらわせて吹っ飛ばす。 「天啓が! 迷惑かからない程度にネタには全力で乗っていくべしという天啓が!」 「ひゃあああ!?」 「そぉいっ」 「ぬわーーっっ!!」 その横から妙なことを叫びつつ弐升がうさぎに近寄り魅了され、ついでとばかり雷慈慟に吹っ飛ばされる。 なんかあなたたち、楽しそうですね? どこから怪盗がやってくるかわからないからと、間取りやブレーカーの位置などを確認してきた『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が、吹っ飛ばされたり近づいてみたりしている人達を背に、既に疲れた様子でとてつもなく深い溜息を漏らす。 「……こんな任務で大丈夫か?」 神は言っている。ここで終わる運命ではないと。 大・丈・夫! BNEのコメディだよ! ●そう恋のウインドをフィーリング 3人、3人、2人。 腕輪の力をひと通り確認した後、リベリスタたちはいくつかのことを相談した。偽物にもぐるぐると包帯を巻いてみて、絶望的に無意味なピンク色を漂わせる本物をどうするか悩んだ後にうさぎがそれを装備せずに持つことになり、前述の人数で3つの班にわかれて順に邸内・腕輪周辺・屋敷外を警戒すると決める。 リベリスタたちはすぐに行動に移ろうとし――すぐ、そうは行かないことに気がついた。 「ドアが……開かない!?」 ノブをがちゃつかせ、エリザが驚愕の声を上げて歯噛みする。 彼女は事前に聞いていた卍の話から、もしかしたら物質透過の能力を持っているのだろうと踏んでいたのだ。 もし卍が戦闘に長けていて――外から細工をされて出られなくなったのであれば。 「まずいですね」 眉を寄せて周囲を見まわし、警戒を強める疾風。 桜は壁に走りより、火災報知機を探そうとするが、企氏がどれだけ警戒心が強いと言ってもここは一邸宅にすぎず――壁にいくつか据え付けられた蝋燭の燭台も、煙を感知したりする一般家庭用の報知器がこの部屋には存在しないことを示している。報知器を諦め、彼女は一人の男に詰め寄る。 「――細井さん、怪盗卍さんのこと知ってるんじゃないですか? 桜ちゃんの目をじっと見て、知らないって言い切れますか?」 「知りません」 即答。 「私を疑っていらっしゃるのですか?」 「だって、マフィアのボスの側近で、細面の男の人ってダントツで怪しいじゃないですかー。 あとですね。今回の神秘の腕輪の騒動で、あなただけ得をしてるのが気になるんでっす。 アイって人によっては幾らお金を積んでも得たい物ですよね、何物にも代えられません」 「はあ……」 魔眼を使ってでも聞き出そうとする桜に、細井は歯切れ悪く、しかし否定だけを繰り返す。 「……手に入れているのなら、もう不要ではないかと思うのだが」 タバコの火を消した合理主義の人、雷慈慟がぼそりと呟く。 「犬束くんだったか。とりあえず、儂らはどうしたらいいんじゃろうか? そこに、腕輪と一緒に隠れておれば良いんじゃないかと思うんじゃが」 「ええっと、安全な場所は、この部屋の中だとどこになりますかね」 企氏に聞かれ、部屋の中を見回すうさぎ。 「――ちょっと待った!」 真剣な顔をした企氏の提案に、芝居がかった待ったをかけたのは朋彦である。 「あなたが本物の企金蔵なら、舌を鼻まで伸ばしつつ早口言葉を唱えながら三点倒立できるはず!」 「舌を鼻まで伸ばしながらできる早口言葉ってまず何があるんですか!」 その壮絶な無茶振りに弐升がほとんど考えるより早くツッコミを入れる。 「な、何じゃと……? できん、それはできん」 そりゃそうだ。 「儂は企金蔵ではないのでな!」 ちょっと待て。 変なところから露呈した変装。 ばさりと広がる、見まごう事無きエリューションの翼。 特殊ゴム製のマスクをべりべりと引きちぎった下から現れたのは、 「えーと……誰?」 そのフライエンジェは、見知らぬ女性の顔であった。 冒頭、あわや企氏の毒牙にかかるところだった彼女なのだが、そのような経緯リベリスタたちには知る由もなく。腕輪を狙う輩が現れたのだということだけが現在のリベリスタたちにわかる全てである。 「なっ、お前は……! 旦那様は、旦那様をどこへ!」 「ふふふ。あのミニマフィアなら、この人達が来る前に気絶させて隠してきたわ……」 リベリスタ置いてけぼりで盛り上がっている細井と女。 「どこにいるのかは、あたしが逃げおおせたら教えてあげる。さあ、その腕輪をあたしによこしなさい!」 高らかにそう宣言する女の前に、一人の影が立ちはだかる。 「――俺の名は陽渡・守夜、吸血鬼探偵だっ!! 怪盗卍、俺がこの事件必ず解決して見せる! ばあちゃんの名にかけて! 怪盗だってぶん殴ってみせる、だが魅了だけは勘弁なっ!」 鹿撃ち某をかぶったままの守夜が、女を前に気合が充填されきった啖呵を切る。 「……あれ? この人、女性ですよ?」 「男という報告が間違いなんだろう。卍は今まで捕まったことがないとのことだしな」 弐升が浮かべた疑問を切って捨てる雷慈慟。 「お初にお目にかかります。こんな魔法で挨拶代わりになるかはわかりませんが…」 「この地獄の壁は越えられないでしょうハハハ!」 その時、前に出て、突然フレアバーストを放ったのが二人。 エリザと朋彦である。 うさぎと女の間に放った朋彦の魔力の炎と、卍に向けて放たれたエリザの魔炎。 ――ところでこの炎、標的の周囲を巻き込むという性質がある。 当然、炎は近くに居る者たちを包みこみ。 「ぎょえーーー!?」 「あちちちちっ!?」 「ちょ、ちょっとっ!?」 順に女、うさぎ、細井をかばった疾風の悲鳴である。 「見敵必殺ですよね。あ、殺す気はありませんけど」 「逃走を封じるにはまず利き足だな」 気糸で狙いを絞って女の両脚を撃つ弐升と雷慈慟。 「旦那様ー、旦那様ー!!」 突然火に巻き込まれ、かばわれて無傷ではあるものの錯乱し愛しい人の名を呼ぶ細井。 ――ああもう、何が何だか。 「ま、負けるもんですかー! これであたしも、もてもてハッピーライフを送るんだからぁっ!!」 女が、ある種悲愴な叫び声を上げながらうさぎに跳びかかる。 その執着心に、こちらもある種の覚悟を決めたうさぎが腕輪を身につけた。 「ハッピーライフ! ハッピーライフ! 男か女かわかんなくてもそこに愛があればいいのよー!!」 ――案の定、目的が変わる女。 「よ、寄るな触るなー!?」 冷静に振舞おうとしたものの、我慢できずにこちらも錯乱するうさぎ(無表情)。 ぐいぐいと女の鼻先を押しつぶすようにオーラ製の爆弾を押し付けて後じさり。 隙だらけになった女の背中に守夜の斬風脚が飛び、 「はーい、桜ちゃんいっきまーっす」 ご。 と重い音を立てて、桜のブラックジャックが女の頭を打ち据えた。 「これにて、一件落着です♪」 倒れ伏した女を背に、カメラ目線で決めポーズ……ってカメラどこ!? ●澄んだブルースカイに手を伸ばし ドアを蹴破り部屋の外に出てみれば、服を剥がされ転がされていた企氏はすぐに見つかった。 「細井ー! 儂は、儂は心細かったんじゃー!!」 「旦那様あああ! お怪我は、お怪我はありませんか!」 ひしとだきあうおっさん二人。 だからいちゃつかないでくださいってば。 「ちょっとー! 卍とか知らないってー! あたしは単にあの腕輪を狙っただけでー!! これは何かのインボーだって、言ってるでしょー!」 アークのスタッフに連れていかれる彼女の声には、誰も耳を傾けやしない。 「これで腕輪を狙うものはいなくなったんですね」 しみじみと呟く弐升。 「恋とは元々魔法のようなものですが……幾らなんでも、腕輪の呪いでは、あとで後悔するというものでしょう。……まぁ、それがトゥルーなラブに目覚めるきっかけになるのなら良いのかもしれませんが」 エリザの言葉はあいかわらず、どこか高圧的である。 「ところで腕輪はどうした」 「え? それならさっき、アークの回収班の人が」 「桜ちゃんたちがー、回収班じゃなかったですかー?」 雷慈慟が眉を潜め、うさぎがきょとんとし、桜が首をかしげ。 卍のことに気を取られすぎて腕輪のことをイマイチ忘れていた数人のリベリスタたちが、にわかに慌てだす。そこにいつの間にか姿を消していた守夜と疾風が戻ってきて、腕輪を見せた。 「腕輪の回収が最優先、ですから」 回収班の振りをして逃げようとした男の背を二人して斬風脚で斬りつけ、取り落としたのを拾ったという。 紛れもない桃色オーラに、偽物とごっちゃになるわけもなく。 「多分、本物の怪盗卍は警備が厳しいのを見越した上で、移送する道中を狙う計画だったのではないかと」 つまり、最初から腕輪をアークに持って帰ろうとするところを狙っていた、と。 道理で邸内をいくら見まわっても警備してても、何も動きがなかったはずである。 そこに囮が投下されて―― ああ、と。 納得と共に脱力するリベリスタたち。 「再び相まみえる時を楽しみにしていますよ、ふふ」 結局顔をまともに見せることなく逃げおおせてしまった卍に、朋彦は再戦を期待する。 深く、深く、もう一つ深い溜息を吐き、疾風はどんよりと呟いた。 「……こんな結末で大丈夫か?」 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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