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荊に泣く

●荊の涙
 子供は薔薇園を探索していた。
 自分の背丈よりも高い壁がまるで迷路のよう。
 いくら歩いても出口が見えない。
 此処は薔薇の迷路の中。
 それでもあまりに広すぎる。
 不安は恐怖に変わり、子供は泣き出してしまう。
「坊や……どうしたの……?」
「迷って……出られなくて……うぇっ……ひっく……」
「もう大丈夫よ。私が――食べてあげるわ」
「え……?」
「私と一つになってしまえば恐れも不安も飢えもない。
 さぁ。おいで」
 硬直して動けない少年にいつの間にか巨大化した薔薇が迫る。
 少年は泣き顔のまま喋る薔薇――植物型エリューションに飲み込まれた。

●薔薇迷宮にご用心
「喋る薔薇のエリューションが近くの薔薇園に紛れ込んでいるみたいなの。
 その薔薇の目的は生きた人間の捕食。
 配下エリューションは確認されていませんが薔薇園自体を巨大迷路にする特殊能力を持つわ」
 普段は他の薔薇程度の大きさだが捕食する時は全体が成人男性ほどの大きさになるという。
「子供が食べられてしまうのでそれを回避して。
 その子供が迷路で迷ってエリューションに会う前に退治するのがいいと思う。
 不安がっていますので、出口まで案内してあげると親切じゃないかしら。
 攻撃方法は蔦によるもので……ギャロッププレイが一番近いわ。
 棘には毒が含まれているから注意して」
 エリューションの影響か、薔薇園は常より巨大化しているそうだ。
 倒せば元に戻ることだろう。
「よろしくお願いするわね……。
 あ、薔薇園は人の侵入――引いては獲物になりえると思われる人物の進入によって巨大化するの。
 迷った振りをするとエリューションに行き着きやすいですが本当に広くなるのでエリューションに行き着く前に体力切れを起こさないよう気をつけて。
 エリューション自体はそれ程強くありませんが、迷路が広くなるのが厄介かもしれないわね……」
 迷宮の先には宝物があるのが定石だがこの場合の宝物は何にも変え難い命という宝物だ。
 そして宝物も守る番人も、セオリーといえばセオリーである。
「子供を避難させる役とその間エリューションに立ち向かう役に分かれれば問題なく解決できると思うけど……離れすぎて迷わないよう注意して。
 迷路自体が生き物のように変化していきますから……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:秋月雅哉  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月22日(日)00:16
薔薇の姿を取るエリューションの撃破と子供の救出が成功条件になります。
エリューションの主な攻撃方法は蔦を使っての攻撃です。
棘には毒の効果あり。
宜しくお願い致します。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)
スターサジタリー
桜田 京子(BNE003066)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
覇界闘士
倉田・てつこ(BNE003690)
クロスイージス
エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(BNE003729)

●薔薇園は迷宮と化して
 普段は少々大きく、迷路仕立てではあるものの至って普通の薔薇園がエリューションによって巨大迷路となった。
 迷いこんだ子供とエリューションの撃破を依頼されたのは八人の男女。
 常ならば大人の背丈より少し高い程度の薔薇が絡んだ生垣は今は優に三メートルを越す。
 迷路自体もかなり複雑なものになっているようだった。
 どうやら救出対象の子供はすでに薔薇園へと足を踏み込んでしまっているらしい。
 生垣に絡みつくようにして植えられているのは色とりどりの蔦薔薇。
 汚れを知らない白。
 情熱的な深紅。
 華やかなオレンジ。
 可愛らしいピンク。
 謎めいた紫。
 珍しい青薔薇もある。
 市民の憩いの場である薔薇園を殺戮の場にしてはいけない。
 戦う宿命を背負った八人のリベリスタはまず現場をよく確認することからはじめた。
 なにぶん迷路である。
 しかもかなり巨大化しているとなればうかつに入り込んだら最後、自分たちがたどり着く前にエリューションと子供が接触してしまう可能性が高い。
「千里眼を使ってみましょうか。届く範囲にいてくれればいいのですが……生物は対象外なので期待しないでくださいね」
『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が集中を始めると他の七人は邪魔をしないように沈黙を守る。
「あー……すみません、見えませんね。飛行して上から見るのはどうでしょう?」
 フライエンジェである『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)に視線が集まる。
「分かりました、やってみます」
リサリサが翼を広げ飛行し、薔薇園を上から眺める。
 薔薇園は生き物のように刻一刻とその姿を変えていた。
 それはさながら生きる迷路だ。
 その中心部に空き地なのかなんなのか、開けた空間がある。
 蔦薔薇ではない真っ赤な薔薇が入り口からでもよく見えた。
「子供の姿は見えませんがエリューションらしきものは確認できました。
 ただ……迷路自体が常に変化しているので中に入りながらの案内になりそうです」
 迷路に入ると両脇の蔦が伸びて頭上を覆う。
 飛行しての探索を阻むためか、よじ登って脱出するのを防ぐためか……なんにせよ、千里眼を使いつつ地道に探すほかないようだ。
「未来ある子供達の生命を…只、自分の欲望の為に摘み取ろうなど…許されざる行為だ。
 我々リベリスタが冥府へと引導を渡してくれよう」
『Weiße Löwen』エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(BNE003729)が静かに呟き。
「薔薇がいたいけな坊やを食べるなんて……もうね。
 なんかイケナイ妄想をしちゃったよ」
『ブラックさん』倉田・てつこ(BNE003690)がひょうきんに言ってみせる。
「薔薇でできた迷路ねぇ。
 傍目には綺麗だけど、文字通りの意味で綺麗なモノには棘がある、ってことね。
 ま、あたしの方が綺麗だしー」
 セレア・アレイン(BNE003170)が軽口に乗ると一同が僅かに笑った。
「喋る薔薇のエリューションですか。
 喋る時点でファンタジーかホラー展開にしかなりませんが、今回の依頼では喋っても喋らなくてもホラーですね。
 まあ、永久に喋らなくてすむようにしてあげましょう」
場を仕切りなおすように『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が言ったのを契機に、八人は歩き出した。
「人を食う美しいバラですか。
 綺麗に咲く花の下には死体が埋まっている、とかいう話は桜や薔薇できく話ではありますが、そんな話は都市伝説で終わらせる為に犠牲が出る前に終わらせてしまわないとですね」
 雪白 桐(BNE000185)は愛用のまんぼう君に手をかけいつでも迎撃できる用意をしている。
『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)は辺りに声をかけながら、自身が迷子にならないよう気をつけていた。
「迷った方いませんか、一緒に動きませんか」
「……子供の名前、聞いておくべきだったな」
「でもいきなり自分の名前呼ばれたらパニックになっちゃわないかしら?」
桐、疾風、セレアが会話しながら呼びかけを続ける。
「こ……ここはさっき通らなかった!?」
迷った振りをするてつこ。
「どうしましょう、道に迷ってしまいましたわ……。どちらに行ったらいいのかしら」
 お嬢様っぽくセレアがそれに乗る。
「……どうしてお嬢様風なんですか?」
 無言。気分でしょうか。
「おーい、誰かいないかー?」
「ふむ……困ったな」
 三十分ほど歩いただろうか。
小さな声が聞こえた気がした。
「今、泣き声が聞こえませんでしたか?」
 真っ先に気付いたリサリサが立ち止まって耳を澄ます。
 全員がそれに倣うと、そう遠くなさそうな場所から子供の嗚咽が聞こえてきた。
「うぇっ……く……ひっく……」
 随分と長い間泣いていたのだろう、声には疲労と恐怖、不安が混じり、かすれがちだ。
「今からそちらへ向かいますから、動かないでくださいね。大丈夫ですよ」
「ほ、ほんと……?ひっく……ここから、でられるの……?」
 頼りなげな声は小学校中学年くらいの子供の声だろうか。
「えぇ。すぐにいきますからね。ちょっとだけ待っていて下さい」
「わ、わかった……」
 距離は近くても巨大迷路と化した薔薇園を歩き回っては離れてしまう危険性が高い。
「非常事態ですよね。子供も心配ですし。急ぎましょう。
 今、近道を作りますから」
 ギガクラッシュで道を切り開く桐。
 男らしいなぁ、と後に続く七人が思ったかどうかは不明。
「……誰……?」
「助けに来たよ。もう大丈夫だからね」
 てつこがそっと少年の頭を撫でる。
「私の獲物を横取りするのはだぁれ……?」
 ぞくりとするほど妖艶な声が、辺りに響いた。

●荊纏う者
 血を吸い続けた影響か、艶やかに赤い花弁。
 周りの薔薇よりはるかに巨大な花と、太く凶悪な蔦。
 棘も刃物のように鋭い。
「祭雅さん、宜しく」
「子供を餌食にさせる訳にはいかない!」
「お仕置きの時間ですよ」
 前もって相談していた通り、てつこと疾風、孝平が主に前衛に立つ。
「さーて、ここからが本領発揮ね。悪いエリューションをやっつける。単純で明快よね!」
 後衛から勇ましい声とともにセレアが魔曲・四重奏を放った。
 子供を励ましながら京子も1$シュートで牽制する。
 リサリサは縁の下の力持ち。リベリスタとして日が浅いメンバーを浄化の鎧でサポートする。
「ゆくゆくはこれからのアークを担っていくであろう方々……。
 まずは任務成功の喜びと実感を……。
きっとこれからの任務にも自信を持っていただけるはずです……。
 そのためにワタシはサポートに力を裂きましょう」
 隙を見てエリューションが子供に蔦を伸ばせばすかさず横合いから切り払うのはエインシャントだ。
「もうすぐ出れますからね」
 にこりと笑いかける桐に少年は緊張の糸が切れたようにしがみ付いて泣き出した。
「エインシャントさん、私達はこの子の安全のためもう少し離れたほうがよさそうです。
 精神的外傷を負いかねません」
「了解した、雪白卿」
「逃がさないわよ!」
「貴方の相手は僕たちですよ」
 ソニックエッジの容赦ない連続攻撃で孝平が足止めする。
 疾風の可変式モーニングスター[響]による打撃攻撃がそれに続いた。
「美しい花も自ずから人に害なすのであれば許すわけには行きません……っ!」
 決して子供に危害が加わらぬよう盾となる凛々しいリサリサの姿を見て味方は鼓舞される。
「リサリサさんの言うとおりです!」
 もう一人、京子もまた攻撃をしながら盾となっている。
「美しさを吸い取ってやるわよ、がおーっ」
 本気か冗談かはさておき。
 セレアが器用に棘を避けて吸血する。
 相手は植物、ということで火に弱いのではないかと推理したてつこが業炎撃で攻撃。
 幸い周囲にダメージはないようだ。
「どうして邪魔をするの……?私はただ綺麗に咲いていたいだけなのに……」
「そんな理由で人の命を奪っていいわけがないでしょう……消えなさい」
 孝平の幻影剣が留めとなり、巨大な薔薇を中心に突風が起きる。
 散っていくのは血のように赤い花びら。
 風が吹き止むと、其処には空を覆う蔦もなく、エリューションの消滅を通常サイズに戻った薔薇園が声なく告げた。
「終わったの……?」
「お疲れ様、倉田さん」
 ほぅっと息を吐くてつこに疾風が笑いかける。
「さぁ……私達が来たからには、もう大丈夫だ……御家に帰ろう」
 エインシャントが少年に声をかける。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。凄く格好良かったよ!」
 ずっと傍で励まして貰ったおかげだろうか。
 少年は恐怖から抜け出し、飛び切りの笑顔で八人を見つめ、お辞儀をして感謝の意を示した。
「送っていってあげますね。怖かったでしょう」
「ありがとう」
 八人でぞろぞろと子供を送るよりは、という話になり、女性陣だけで少年を家まで送り届けることになった。
「"一つの命を救える者は、世界も救える"……か、果たして私は其れに足るのだろうか……」
 感慨深げなエインシャントの呟きに疾風が肩を叩く。
「そんなに難しく考えなくても、今の子供の笑顔を見れただけで今は十分じゃないかな」
「……そうかもしれぬな」
「では僕たちは報告に行きましょうか。あの子供も、あの様子ならトラウマの心配はないでしょうし」
「そうですね」

「そういえば名前はなんと言うのかしら?」
「哲弥だよ」
「そう。あたしはセレアよ」
「セレアお姉ちゃん?」
 少年――哲弥が首をかしげて反芻する。
 まだ稚い仕草だ。
「私は京子。宜しくね」
「リサリサです」
「アタシはてつこよ」
「お姉ちゃんたち、強いんだね。僕も強くなれるかな……?」
「努力を怠らなければ、きっと」
 少年はリベリスタの内情など分からないだろう。
 それでも、笑顔を取り戻せたことを。
 自分たちを目標としてくれることを、嬉しく思わないわけがない。
「緊張したけれど……無事に終わってよかった」
 てつこがしみじみと呟く。
「こうして人を救えるのって、いいですよね」
「そうねぇ……」
「あ、お母さんだ!」
 徹夜の母は息子と連れ立って歩いてきた見知らぬ女性たちに少し驚いたようだ。
「息子さんが近くの薔薇園で迷子になっていたのを見つけて、不安だろうと思い付き添わせて頂きました」
 リサリサが如才なく応える。
 エリューションに襲われたことは事前に『秘密だよ』と約束してあるので哲弥は何も言わない。
 素直ないい子だな、と京子は思った。
「まぁ……ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
 抱きついてきたわが子を抱きとめてやりながらしっかりと礼をする母。
「それじゃあ、アタシたちはこれで。またね」
「うん。ありがとう、お姉ちゃんたち!!」
 リベリスタの女性たちは笑顔で手を振り、少年と別れた。

 先ほどまでに比べるとこじんまりとした、けれど清らかで美しく感じる薔薇園は、今日も訪れる人の心を癒しているのだろう。
 悪意は、去ったのだから。
 汚れを知らない白。
 情熱的な深紅。
 華やかなオレンジ。
 可愛らしいピンク。
 謎めいた紫。
 珍しい青薔薇。
 縁だけが濃い赤のクリーム色の薔薇や黒薔薇。
 薔薇迷宮に咲く色とりどりの薔薇は、季節にいろどりを添えるように、今日も花開く――……。
 ただ自然の流れのままに摂理に従って咲いては散る。
 美しいと人が褒めても、ただの花だと通り過ぎても薔薇たちには関係ない。
 ただ自身が自身であるために咲く。
 エリューション化した薔薇も、或いはそんな薔薇だったのかもしれない。
 意思を持ってしまったが故に、美しさを求めただけで。
 悲劇の薔薇は、もう咲かない。
 青空の下、美しさに囚われたが故に散った、ある意味哀しい薔薇の存在を、八人のリベリスタと一人の少年だけが知っていた。
 それは言葉どおりのアンダー・ザ・ローズ。
 全ては薔薇の下の秘密のままに――……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
STとして初めてのお仕事、楽しく書かせて頂きました。
まだまだ未熟者ですが機会がありましたらまた宜しくお願い致します。