●狂乱のライブステージ そこはまさに地獄のような光景であった。 「ヒャハハハハ! おら踊れ踊れ!!」 ライブスタンドの上で銃を乱射する男 「や、やめ……ギャッ!」 それは観客を恐怖で満たし、立っていた女性の足に当たり、その痛みに女は体を捩る。 「なんだぁ? もっと騒げよ。もっと、この選ばれた力を持った俺様を楽しませろ!!」 金髪にギザギザに尖った獣耳を生やし、そして唇にピアスを開けている男は、銃をタイルに向け、足を撃ちぬくかのように床に向かってさらに銃を乱射していく。 「も、もう勘弁してください! 俺だってもうつかれ」 パンッ! 乾いた銃声、パニックに陥る観衆。 文句を言った男は、頭に風穴を開けられた事で二度と語る口を失い、悲鳴や喧騒もいつしか、スピーカーから流れる大音量のBGMによってあっという間に塗り潰されていく。 「ヒャハ! 全く口の減らないやつが多いとムカつくったら無いな。 オラ、お前らは俺様を楽しませればいいんだよ!!」 「さっきの男と同じ所に行きたくなければ、言うことに従え。俺達は、マジだ」 その様子に、男が酒瓶を片手に煽りながら、手をギシギシと軋ませて威嚇する。 無骨な鉄製フレームに義眼、筋肉質な肉体も文字通り鋼で出来ているのだろうか。 が、彼は忠告だけに留め、ビーストハーフとは対照的に観客には手をだそうとしない。 「バーツ、ワカサマの言葉には従え」 「ハッ、ワカサマ? 冗談だろう!?」 おどける様に数発、宙に向かって発砲するバーツ。 「俺は気にせずやるぜ。徹底的に、俺の気が済むまで、ブッコロしてやる!」 そして、カチカチガチャガチャと騒がしい音を鳴らしながら、新しいマガジンに入れ替え始める。 「……チッ、勝手にしろ」 そんな彼を一瞥し、露骨に嫌な顔をするメタルフレームの男は、徐ろに携帯を取り出し、慣れない手でカチカチと弄り始める。 ============== To:00 Subject:(無題) 4人よこせ ============== 何らかの知らせだろうか、送信すると携帯を2つに折って閉じる。 「ったく、保健所にでも連れていきたい気分だ」 「あぁ!? てめぇドン亀野郎、保健所と言ったか!!??」 「気のせいだろう、それに俺はドンだ」 呟きすら過敏に感じ取り、壊れたテンションのまま見境なく噛み付くバーツ 彼らの真意とは別に、残っている人質は依然として、いつ殺されるかもわからない恐怖に怯え続ける他無かった。 ●会場解放戦 「……フィクサードが出た。しかもライブ会場で派手にやらかしてる」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は冷静を装い話を続ける。 しかし、その瞳や顔には怒りの形相が滲み、感情の猛りが今一つ抑えられないでいた。 「場所はとある繁華街にあるライブ会場だ。 そこにフィクサードが2人入り込んでやりたい放題している」 無法者。ちんぴらの類などではなく、銃火器を持ったれっきとした犯罪者だ。 「当日はイベントが行われててな……ざっと30人ぐらいの人が入っていた。 この観客がまるごと人質になって、『見た時点では』既に10人近く犠牲者が出ている」 強調するのは、事態次第では人質の全滅もあり得るという事か。 「肝心の主犯は2人。1人はビーストハーフ、もう1人はメタルフレーム」 ビーストハーフは傷の為かギザギザになったハイエナ耳に口元にピアスが付いている。 獲物であるオートマチック式の違法改造銃は、殺傷力は実銃と大差はないので油断は禁物だ。 そして非常に好戦的な性格で、人質を痛めつけて楽しむ光景が見て取れたと言う。 もう一人のメタルフレームは、左腕が丸々鉄製のアームになっており、左目が義眼。 余り動かずカウンターに居座り、酒を煽りながら携帯をいじる仕草だけが見えた。 一方と違い、手の内をを見せる素振りすら見せない所を考えるとなかなか手強い相手かもしれない。 また、逃げ遅れた人質に加え、彼らの配下であろうフィクサードも多数存在し、彼らが居る限りは常に『殺害』という脅威に、人質はさらされ続ける事となる。 まずは、会場への速やかな突入。 然る後に人質をホールから解放し、フィクサードを倒すべきだろう。 でなければ、どれほどの被害が出るかは見当もつかない。 「……殺した奴らの中には、バンドの連中を応援しに来た奴らも多かったろうさ。 インディーズな俺達にとってファンが居るってのは嬉しいこと……だからね」 普段クールである彼が滅多に見せる事のない、滲み出るような激情。 それは彼と同じ志を持つ者の夢を踏み躙り、二度と果たせなくした事に対する怒りと、悲しみの表れでもあったのかも知れない。 「――まったく俺もだがどうにも大変でいけないね、クールクール」 と、流石に頭に血が上りすぎたと感じたか、一呼吸置いて伸暁はいつもの口調で話し始める。 「猫の手を借りたい位忙しいってのは冥利なのかも知れないが、キャットハンズオールフリー、何せラヴ&ピースが一番だから。沙織ちゃんも情勢を調べてるらしいけどそっちはそっちで頑張ってくれよ」 数多くのフィクサードが行動を起こし始める中、これもまたその一つと思われる。 一筋縄では行きそうにない事態に、一同は覚悟を決めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)01:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●Attack! 「内部に2人。そちらはどうかね」 「正面にも2人、どちらも慢心しきっているようでござるな」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)と連絡を取り合うのは、『ニンジャブレイカー』十七代目・サシミ(BNE001469)。 繁華街の外れにあるライブ会場。 そこで起こるはずの惨劇を阻止せんと、総勢10名のリベリスタが別れて準備を進めていた。 突入に際し、部下に用心していた一行だが、その警備の様子はといえば…… 「マジだりぃな」「立ってりゃ金もらえるんだし、いーんじゃね?」 警備そっちのけでお喋りをしている始末。 挙句にライフル銃は足元、通信機は腰元にぶら下げっぱなしという体たらく。 それでも援護を呼ばれれば状況が苦しくなるのは必定。 ならば、放つ弾丸よりも、助けを求める声よりも、迅速に事を成せばいい話だ。 「では――見せてあげるでござるよ、忍びの業というものを」 「了解、こちらもお見せしよう。俺が望む、『怪奇』を」 AFの通信をそのままに、オーウェンは意識を研ぎ澄まし、資材を足場に壁から侵入していく。 「ん、誰だ?」「仲間ではないっぽいな。おい、ドンさんを」 バキンと、放った気糸が通信機を二つに砕く。 「口上を並べるのは後にしたまえ……今だ、破れ!」 AF越しに告げるGOサイン。 その言葉と共に『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の一撃が鉄製の扉が歪み、鍵と共に吹き飛ばす! 「ぶぎゃ!」 転がるドアごと敵を踏みつけ、そのまま拓真と『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)が飛び込む。 「な、3人!?」 慌てて応戦する部下だが多勢に無勢。見る間に鎮圧されてしまう。 「しかし、あまりにあっけない。やはり力量を測っているつもりだろうか」 「分からないけど……今は全身全霊をもって、救える命を救うのだよ」 オーウェンが思考する中、卯月は逃げられぬ様にしっかりと彼らを捕縛し、人質救出に先行した面々の後を追う。 同刻、正面門でも―― 「くそ、腕が……」「通信機は確か、あっ!?」 「油断大敵でござるよ、見張りなら尚の事でござる」 サシミの糸捌きにより片腕を易々と縛られ、慌てて通信機を取ろうとした仕草さえ、『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)にとってはあまりに隙だらけ。 コインよりも遙かに大きな通信機を素早く撃ちぬき、連絡手段を断っていく。 「怖がらせて楽しむ。何とも面白くないことだ」 とどめの一撃と『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が降らせた氷雨が、部下の身も心も凍てつかせる。 「このまま雪崩込む」 雷音の手で抵抗の意思が失せた事を確認すると、4人は会場へと雪崩れ込んでいく。 「やっているな」 「あーもっと殺りてぇなぁ!」 言葉と共にバーツの銃口が、人質に向けられる。 次の贄は誰か。人質の誰もが覚悟したその時だった。 「待ちなさい!」 鳴り響く音をも貫き、『ガンナーアイドル』襲・ハル(BNE001977)の声がバーツの耳に届いた。 ●Taunt and Rescue 「な、てめぇら」 ハルだけではない、両方の出入口から続々とリベリスタ達がなだれ込んでいく。 「止まれ! ドン奴らを止めろ、そいつは俺の玩具だ!」 バーツの罵声に、ドンは不慣れに携帯を弄るばかり。 「落ち着け、定時連絡だ」 「~~っ!!」 上がっていく沸点にリベリスタも気が気でない。 このままでは予報通りの惨劇に見舞われてしまうのは誰の目から見ても明らかであった。 「まずは私と勝負してからとかどう? 君も銃使いなら、受けたっていいでしょ」 「……ほぉ、テメェが俺様の気を晴らしてくれるってか?」 やりとりを見かねたハルの言葉に、バーツの視線が彼女に向く。 怒りは醒めぬが、唐突に現れたリベリスタにもバーツは興味を示していく。 「それに、撃つなら少しは抵抗する方が良いじゃない?」 注意が向きつつある中、エルフリーデがさらにダメ押しすれば、呆気無く彼の注目は2人に釘付けになっていく。 「いいゼェ。負けたらひん剥いて、その生意気な体に銃の使い方を教えてやる!」 「な、ふざ……けて風穴開けても怒らないでよね」 バーツの返答に赤面し、危うくボロが出そうになったハル。 それとは対照的に、エルフリーデは淡々と、彼を挑発しながらも銃を構える。 「来なさい、射撃の手ほどきをしてあげる」 「ヒャハ、手ほどきされるのはテメェらの方だ!!」 恐ろしい程に、本能に従順な獣の如き思考。 それが次の瞬間、銃撃と破砕音となって辺りに響き渡る! それは獰猛でもあり、そして至極単純なモノであった。 一方、突然の乱入者にざわつく人質だったが、バーツの乱射に再び塞ぎこむ。 「大丈夫だ、必ず助ける」 守護結界を展開する雷音と『無謀な洞窟探検者』今尾 依季瑠(BNE002391) 彼女達は、怪我を負った人質に傷癒術と天使の息をかけてはその銃痕を癒しては脱出に向けて奔走する。 「応急手当だ。少しは痛みは引くだろう」 「あ、あぁ。ありがとう」 神秘を目の当たりにしてキョトンとする者、礼を述べる者。その誰もが希望や期待を彼らに見出しつつあった。 「焦らないでください、もう大丈夫ですから」 「おうよ、後は俺についてきな」 『星守』神音・武雷(BNE002221)を先頭に、裏口へ進んでいく人質一行。 度々起こる銃声に悲鳴を漏らしながらも、生き残る為に一歩一歩進んでいく。 それを、ドンは目で追うのみ。 「思った以上に動けるか。リベリスタ、アラキ・タクマ」 その言葉と共に、荷が降りたかのような顔をしていたのは、拓真の気のせいだろうか。 だが、彼はそれ以上に動揺を隠し切れずにいた。 (何故、俺の名前を知ってるんだ? 今回の事件、一体何が目的だ……!) ●Crazy Shoot 「1発や2発ぐらい当ってもしょうがないよなぁ!」 乱射、掃撃、乱れ撃ち。 撃つ事を楽しむようにスピーカーや照明を破壊しながら、流れるBGMは雑音から銃声と雑踏へと変化していく。 それが、自分の愚行を露呈する事になるとは彼自身も思わず――。 「あ? おいなんだこの音……ドン、てめぇ!」 BGMが薄れ、彼が耳を立てた先にあったものは――武雷に守られながら進む人質一行の姿。 それと同時に徐々に2人を包囲していくリベリスタの面々。まさに、時既に遅し。 「もう遅いわ。さあショータイムよ!」 「ふざけんな! 死ね!」 目先のハル達に気取られ、格好の玩具を奪われたバーツは、その行き場の無い怒りをリベリスタに向ける。 飛び交う銃弾を武雷は一身を以て防ぎ、人質達は捕縛済みの部下を尻目に裏口から続々と脱出していく。 「あああふざけんじゃねぇぞ偽善野郎!」 ハニーコムガトリング! 憤怒のままに足元に向けて放った掃撃は、潜んでいたオーウェンごと銃弾を浴びせていく。 「ドクター!」 「……く、了解した!」 ボロボロになりながらも張り巡らした気糸の空間が、見る間にバーツの動きを妨げていく。 「救出が済んだのなら、遠慮は要らないわね」 ハルの近くを陣取りつつ、エルフリーデが狙うのはバーツの腕。 「ハメやがってメスガキ共、纏めてぶち殺してやる!」 挑発した2人を容赦なく狙うバーツの猛攻。 乱れ飛ぶ銃弾に傷を負いながらも、放った彼女のの一撃はバーツの手から銃を弾き飛ばす! 「てめ、俺の銃を!」 「まだだ、オーウェンの分も纏めて受けろ!」 全身を纏った闘気と、刀身に膨れ上がったエネルギー球。 それが合わさり、拓真の力強い一閃と共に炸裂し、バーツに深い手傷を負わせる! 「ぐ、げほっ」 もんどり打ちながらも、慌てて拾いに走るバーツ。 「先程の返しだ」 その銃を、ピンポイントでオーウェンがさらに遠くへ弾き―― 「射撃魔に銃は使わせないわ!」 さらに、ハルの足から繰り出されるハイキックが、ステージ外へと銃を蹴飛ばす! 「殺す……殺す、殺す、全員ぶっ殺す!!」 目は血走り、血管が切れそうな程の怒りに我を忘れ、銃を頭上に向けるバーツ。 銃は1丁、人質も解放されたとはいえ、もはや彼は敵味方もなく無差別に被害を与える今年か頭になかった。 「一気に決めるよ!」 そして、リベリスタがそれを許す筈もない。 オーウェンによって組まれた呪印の網に加え、ハルとエルフリーデの銃口から放たれる精密射撃の雨。 そして、拓真の一撃がバーツの身に気糸と共に食い込み、その力を見る間に奪っていく。 「ドン、何して……助け、ろ」 「そろそろ、死ぬな。――」 ドンはバーツを見、そのまま目を背ける。 「てめ、シカト、こいて、殺……」 大量の銃弾と斬撃を受け、相方からも見放され、怨毒を口から搾り出すバーツ。 磔にされた無法者に、救いの手が差し伸べられる事は無かった。 ●Fight Club 「数も腕もそれなり、か」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)を中心に、ドンと相対する4人。 脇目もくれずに真っ先にやってきたぐるぐの目的はただ一つ。 それは、システムで見抜けなかった彼の動きの謎を暴き・手に入れる事にあった。 「早速お手合わせ願いますよ」 「断る」 真っ向から拒否し、守りを固めるドン。 やはり、バーツと違って意気揚々と付き合ってはくれない様子……かと思われたが、次の言葉に皆の考えが一変した。 「言っておくが、やりあうつもりは毛頭ない。利もない上に、手の内を読んで真似る奴がいるなら尚更の事だ」 「……えっ」 その言葉に、ぐるぐがギクリとなったのも無理も無い。 「オッドアイに、甘い匂いのするフライエンジェ、ヒズミ・グルグ。お前の事だな」 まるで、見知っているかのように、ドンはぐるぐを見据えて言うではないか。 「あらら、ぐるぐさんも有名になったものですね。でも折角ですから一つお手合わせを」 「断る。見たければ仕掛けてみろ」 まずは自分達の力を見せろ、ということだろうか。 「力を持ちながら、悪徳に身を委ねるお主らを許すわけにはいかんでござるね」 「人質も解放した、これで遠慮無く戦える」 雷音の強結界が広がる中、銃声を物ともせず互いにじっと相対し続ける。 「なら、遠慮なくいきますよ!」 中距離から放たれたぐるぐのピンポイントを皮切りに、様々な色をした無数の糸が飛び交い、縛り、打ち込まれ、凍らせる。 その攻撃の数々は、どれも異常を与えるのに十分な威力であった。 「……」 しかし、ドンは攻撃を尽く弾き返し、七星の気糸と雷音の氷雨のみが唯一ドンを捉え、食らいついていた。 「硬いですね。当たったのはいいけど……」 その堅牢な硬さには思わず目を剥く。 「思った以上に、やる」 凍った椅子を破壊し、ギロリと見据えたのはやはり七星。 「潰れろ」 明確な殺意を孕んだ拳。それが、七星のフルフェイスを真正面から激しく殴りつけ、破壊する。 「う……いや、ボクの取り柄はこれくらいだ」 容赦無い一撃に思わず挫けそうになった雷音だが、急いで符を宛てがい七星の傷を癒す。 「げほっ。これは、手加減できそうにないな」 フルフェイスはひしゃげたが、七星は無事の様子。 出来れば捕縛も考えたかったが、これでは手を抜く余裕もない。 「それにしても面白い技ですね」 拳を唯一の武器とし、問答無用の一撃を相手に叩き込む。 まさに『無頼の拳』と言って相応しい技が、彼の持つ謎の技だろうか。 「ますます興味が沸きましたよ」 力量差は少し上、硬さはそれ以上で、無限機関によっていくらでもふるうことが出来る。 だが、潰すにも雷音のような回復役がいては数が足りず、構えている限りは潰される事もまず無い。 千日手……いや、明らかに不利だ。 「無意味に人の命を奪ったようなお主らに、正義などありはせんでござるよ」 「俺は俺、あいつはあいつだ」 今は淡々と応じ、サシミの縦横無尽な動きにも惑わされること無く、防御の構えで耐え続ける。 「どうも一枚岩ではないですね。それに、その技自体使う人を見た事ありません」 「……」 そのような中で、ドンはバーツを見る。 彼はといえば、オーウェンの仕掛けたトラップに縛られ、追い詰められている最中。 身から出た錆。だが、それも頃合いにはなる。 「そろそろ、死ぬな。退くとする」 バーツを見捨て、正面口へと逃げるように向かうドン。 「アークの力、見せてもらった。そして、協力感謝する」 「捨て駒でござるか」 「ただの厄介者だ、好きにしろ」 ドンにとっては厄介者の謀殺に成功し、アークの力量も測れた。十二分過ぎる戦果だ。 「はいそうですかって、そう易々とは逃がしませんよ」 だが、ぐるぐの言葉も尤もで、フェイントを絡めた2発の気糸が、ドンの背に突き刺さる。 「邪魔を、するな」 怒りも相まって、ドンの殺気がぐるぐを捉える。 「これは、来ますか」 いよいよか、そう思っていたまさにその時だった。 ザシュッ! 「……!?」 まるで掻き切るような、背中に入った一撃。 一瞬の出来事であったその技は、ぐるぐに一対の血の羽を生やす。 「ま、だまだ……」 そんな一撃受けても尚、フェイトを削ってでも立ち上がるぐるぐ。 「クソッ」 舌打ちをしながらも、瀕死な状態から立ち直った部下のと共に逃走していくドン。 「アーク、リベリスタ。厄介な相手だ」 熱くなりすぎた。怒りに飲まれ、見せるつもりの無い手の内を見せたのは明らかに蛇足だった。 自分の未熟を猛省しながらも、今は本懐を果たす為にただ逃げていく。 その場に、厄介者の死体を置きざりにしたまま。 ●Question バーツの処理、捕縛した部下の輸送と事情聴取といった一連の作業が急ピッチで進められていく。 背に傷を受けたぐるぐを運びながら、リベリスタ達は改めて今回の事件を振り返る。 「今回の一件で、私達の実力はある程度知られたと見ていいだろうね」 七星の推測通り、今回はアークの力量を測る為にフィクサードが動員されたと見て間違いない。 数人ではあるが個体識別も行われていた以上、彼らがアークの評価を現状より高く見積もっている事も頭の片隅に置くべき事だろう。 そして何より―― 「ドンさんらはドンさんで、ぐるぐさん達の知りえないスキルを使うようですね」 「あれすらも大技でないとは。恐ろしい御仁でござる」 血で濡れた翼を、手で払うぐるぐ。 ドン自身の持つ大技を明かさなかった為、彼女のラーニングは徒労に終わった。 しかし、それが無意味という訳ではない。 彼女達が誘発させ、見せた手の内は今後の戦いにて必ず役に立つことだろう。 「……よしっ」 メールにて義父に報告する雷音。 普段凛としている彼女が、たまに見せる素顔がその文面から読み取れた。 1つの事件が、終わりを迎える。 だが、それは新たなる事件の始まり……なのかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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