下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






『復讐』は愛する妹の為に


「ねぇ、どんな人でも助けるって約束してくれる?」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達にそう、問いかけた。
 どんな人間でも助けてくれるかと問う少女の瞳は真剣そのもので。
 だからこそ、リベリスタ達も何の躊躇いもなく強く頷いた。
 例えその人間が悪人であったとしても。
 死んだほうが世の中の為になるかもしれないとしても。
 目の前で助けを求めている人を見捨てるのは、人でなしなのだから。
「復讐に心を支配され、魔道に堕ちたフィクサードがいるの。 貴方達に、彼女の復讐を止めて欲しい」
 フィクサード――沙耶には大切な妹が居た。
 幼い頃に両親を亡くした沙耶と妹は施設に引き取られ、互いを支えあい強く生きてきたのだという。
 姉は、甲斐甲斐しく妹の世話を焼き。
 妹は、そんな優しい姉を良く慕っていた。
 決して、楽な生活ではない。
 だが、厳しいながらも二人にとっては十分に幸せな日々だったのだ。
 そんな幸せを謳歌していた姉妹にしかし、悲劇は突然に訪れる。


「妹さんがね、事故に遭ったの」
 妹は今年の春、中学生になったばかりだったのだという。
 沙耶は自分も高校に通う傍らで、毎日の様に妹を送り迎えしており、
その日も何時ものように授業を終えた妹と共に帰路に着いていた。
 そんな2人の前に現れたのが、とある不良グループの少年達。
「彼らは沙耶を無理矢理、自分達の溜まり場に連れ込もうとしたの。
其処で何をするつもりだったのか、何をさせるつもりだったのかは考えたくもない」
 恐らくは、ろくでもない事をするつもりだったのだろう。
「妹は、目の前で無理矢理連れて行かれそうになる姉を助けようとしたのだけれど」
 不良達のリーダーである真木(まき)という男に突き飛ばされ、道路に飛び出してしまい。
 其処へ突っ込んできたトラックによって、妹は轢かれてしまった。
「……酷い話よね。 姉を助けようとして、事故に遭うなんて」
 其れを見た不良達は、蜘蛛の子を散らす如くその場から逃げ出し沙耶だけがその場に取り残された。
 妹を目の前で失ったと思った彼女の心は深く哀しみ、また怒り狂ったのだという。
 怒りと哀しみは憎悪となり、沙耶は革醒した。
「目の前で妹がそんな目にあったんだもの、仕方ないわ。
唯一の救いは妹さんが奇跡的に一命を取り留めた事。 ただ、今も意識不明の重体で入院中」
 きっと、憎くて仕方なかっただろう。
 たった一人の妹を突然、こんな形で奪われるなんて。
 沙耶の気持ちを考えたリベリスタ達が言葉を失う。
 幸せな日々が続くはずだった姉妹は。
 ほんの些細な運命の悪戯でその幸せを失ってしまった。
 そして、其れを奪った者達を殺すこと。
 其れが、沙耶の復讐なのだ。
 彼女は然るべき機関に少年達を突き出さず、自らの手で罰を下す事を決めた。
「2日前、既に廃業されたバーで数人の少年が惨殺される事件があったの」
 殺されたのが、その不良少年達である事は最早イヴが言うまでもない事だった。
 遺体は皆、ぐちゃぐちゃに荒らされた酷い有様で、学生証でようやく身元が判別出来る程だったという。
 人を殺すだけならば、其処までする必要はない。
 必要があるとすれば、其れは……。
 リベリスタ達の表情が、沈痛なものになる。
 が、その中の一人がある事に気づいた。
 ――彼女の復讐を止めて欲しい。
 目の前にいるイヴは、確かに先程そう言った。
 少年達全員が殺されているのなら、沙耶の復讐はとうに終わっているはずで。
 止めて欲しい、という言い方をあえてする必要はない。
「貴方が思っている通りよ。 まだ、彼女の復讐は終わってない」
 沙耶の妹を突き飛ばし。
 事故の原因を作った張本人である真木という男がまだ生きているのだとイヴは言う。
「彼は現在沙耶に見つからない様に、仲間の1人が借りていた倉庫に隠れ潜んでいるわ」
 でも、そんな隠れんぼが続くのも時間の問題だとイヴは言う。
 なにせ、相手は只の人間ではない。
 革醒し、その力を自らの復讐の為に使う事を惜しまないフィクサードなのだ。
「改めて貴方達にお願いするわ。 これ以上、沙耶が殺人を繰り返す前に彼女を止めて」
 沙耶は、黒い羽根を持つフライエンジェでダークナイトのスキルを多く使う。
 更に、彼女の憎悪は留まる所を知らず複数体の鴉型E・フォースを生み出し、使役している。
 それらのE・フォースは拠り所である沙耶が倒れれば、同時に消滅するのだという。

「――それじゃあ、宜しくね」
 そう、最後に言ってイヴはリベリスタ達を送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月19日(木)23:29
こんにちは、ゆうきひろです。
それでは今回の事件概要を説明致します。

■成功条件
敵フィクサード・沙耶の撃破


■沙耶
魔道に堕ちた復讐鬼のフィクサードで
種族はフライエンジェで黒い羽根が生えています。
スキルはダークナイトのものを使用するようです。

■鴉型E・フォース
合計で10体出現しますが、沙耶が倒れると彼等は全て力を失い消滅します。

・啄み 物近単体攻撃 出血
目の前の相手をつついたり、噛み付いたりして攻撃してきます。
この攻撃が命中すると一定確率で『出血』が付与されます。


■場所
夜の倉庫街の一角。
人通りは特にありません。
広さも十分にあり戦うには問題はないでしょう。
倉庫の一つの中には、不良グループのリーダーである真木が隠れ潜んでいますが
特にアプローチをかけない限りは其処に閉じこもったままでしょう。


■真木
不良グループのリーダーで沙耶とは別の高校に通う高校生です。
盗みに暴力、何でもやるような屑人間の鑑。
沙耶の妹が意識不明の重体になったのも元を正せば彼が原因。
彼は、仲間達を全員沙耶に殺されて現在は倉庫に隠れています。
リベリスタ達が沙耶に敗北すれば、そのまま彼も殺される事になるでしょう。

情報は以上となります。
それでは皆様のプレイングお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
スターサジタリー
リーゼロット・グランシール(BNE001266)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
プロアデプト
阿久津 甚内(BNE003567)
プロアデプト
尾宇江・ユナ(BNE003660)


 夜も深くなった、零時過ぎ。
 すっかり人気の無くなった倉庫街を訪れる影が八つ。
「真木ちゃんの隠れている倉庫はあそこっぽいね」
 千里眼。
 其の名に違わぬ千里を見渡す眼を以って、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が
今回の事件が起きた原因でもあり、又この倉庫街に隠れている真木の居場所を特定する。
「では、私は真木さんと少し話をした後で合流しますので」
 その間、彼女――沙耶と会話をして時間稼ぎをお願いしますね、と。
 葬識や仲間達に軽く礼をし、
『進ぬ!電波少女』尾宇江・ユナ(BNE003660)は倉庫の元へ走っていく。
「妹の仇、か。凄く気持ちがわかる気がする」
 走るユナを見送りながら、そう『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は呟く。
 ユナには、大好きな兄がいて。
 もしも、同じ状況に陥れば自分も同じ選択をしていたのだろうと思う。
「彼女は本当に、妹を愛しているのだろう」
 其れ故に。
 狂気に捉えられ復讐に走ってしまったんだと。
 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は思う。
 だが、その狂気が妹への深い愛情から来るものならば。
 まだ間に合うものならば、誰も彼もを救って見せると拓真は決意を胸に抱く。
「事情を聞く限り、この姉妹には同情を禁じ得ない」
 が、姉の方――沙耶は復讐に凝り固まる余り大切な事を見失っていると。
 目を覚まさせてやらなくてはならないと『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)が言う。
「正直、私も目標に多少同情しますが……」
 其れが任務である以上。
是非も無いと『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は思う。
 仲間達はこの後、目標と接触し説得を試みるのだという。
 が、恐らくは其処で丸く収まる事は無いのだろう。
 今回の目標である沙耶は、既に一線を超えているのだから。
 ならば自分のするべき事は変わらず一つだけだ。
「アークの敵を妨害し、アークに利益を」
 強い意思と共に、リーゼロットはそう呟いた。
「彼女、沙耶ちゃんや妹さんに酷い事した奴らだけどさ……まあ良くある話ではあるよ」
 元々地方暴走族の二代目として暴れていた『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が
自身の経験からかうんうんと頷く。
「ウチんとこはこういうの御法度してたけど、他のチームじゃザラに聞いたしさー」
 しょうがないよ、と甚内が言う。
 きっとこういう事も含めて愛すべきこの世の中って奴なのだからと。
 運命は時に残酷で。
 悪い事をしていなければ悪い事が起こらないなんて事はあり得ない事で。
 その逆にまた、良い事をしていなくても良い事は起こりうるのだ。
「はい、ええ……では、其の様にお願いします」
 アークに根回しし、沙耶の妹の身柄を時村グループの医療部に移して貰えないか打診していたユーキ・R・ブランド(BNE003416)が電話を終え仲間達の元へ戻ってきた。
「そんじゃ、トークで時間稼ぎにいこうか~」
 極めて軽いノリで言う葬識に、仲間達が頷く。
 じき、最後の復讐を遂げるために沙耶はこの倉庫街を訪れるだろう。
 其の前に此方が沙耶を見つけ出し、先回りしなくてはならないのだ。


 無数に立ち並ぶ倉庫の一つの前に、ユナは居た。
 付近に街灯は少なく、立ち並ぶ倉庫はどれも似たような形をしており
 事前に千里眼で仲間が探してくれていなければ、
この中から真木が隠れている倉庫を見つけ出すのには相当の手間がかかったに違いない。
 さて、とユナは意識を集中させると武器を手に倉庫の扉を開け、中へと入っていく。
 倉庫の中には外よりも深い、人工の闇が広がっていた。
 恐らくは、この闇の中に自分を包み隠す事で沙耶から逃れようとしているのだろう。
 そうでなければ、迫りくる恐怖に自我が崩壊してしまいかねないのかも知れない。
 崖っぷちも良い所だなとユナは思う。
「どうも、こんばんは。貴方、真木さんであってますよね?」
 不意に、目の前から声をかけられたからか。
 ひっ、と声を上げながら少年――真木が一気に身を引く。
 ムリも無い。
 唐突に自分の隠れていた倉庫にガスマスクの少女が現れたのだ。
「だ、誰だあんた。倉庫の前に、人がいる気配なんて全然しなかったのに」
 あ、アイツの仲間なのかよとか細く震えた声で真木がユナに問いかける。
 そう問いかける彼の眼には大きなクマが出来ており、又血走っている。
 自分の理解の範疇を超えた復讐鬼との隠れんぼをしていれば、こうもなるのだろう。
 恐らくは、一睡もしていまい。
「いいえ」
 アイツ――沙耶の仲間なのかと言う問いに、ユナは首を横に振り、言葉を続ける。
「窃盗…それから暴行歴がありますね。
そして今、友人達を惨殺され、かといって警察にも頼れずこうして震えている」
「し、仕方ないだろ!あんな奴、警察だってどうにも出来やしない!
なあ、頼むよ!アイツを知ってるって事は俺を助けに来てくれたんだろ!?助けてくれよ!」
 ユナの肩を掴み、真木が嗚咽を漏らしながら言う。
「あんな事するつもりは無かったんだ。
俺は只、アイツがちょっと可愛いくて、いっつも妹と幸せそうにしてたからちょっかいかけてやろうと思っただけなんだ。
仲間といつも溜まり場にしていたバーに連れ込んで、ちょっと遊ぼうと。だから……」
「黙れ」
 ユナが不意に発した冷たく、重い言葉に真木の口が止まる。
「こちらは聞く事など何もありませんし、知りたい事は知ってます。
加えて、我々は一応、『今回は』貴方の身の安全を保障しますが…」
 ゴクリと真木が息を呑む。
「これ以上余計な悪事を働いたりしたら…『ぶち殺す』ぞ」
 キツイ灸を据えるように、ユナが言い放つ。
「祈って世間様に対して詫び続けろ。これからの人生でお前ができるのはそれだけだ」
 真木が言葉を失った様にずるりと崩れ落ちる。
 ユナは返事は要りませんと最後にそれだけ言い残し。
 早々にその場を切り上げ、仲間達の元へと急いだ。


 人気のない倉庫街を十羽の鴉を従え、少女が歩いていた。
 長い黒髪を後ろで結って纏めた制服姿の少女。
 いやに落ち着いた瞳には、静かな殺意が宿っている。
 少女の名は沙耶――彼女こそ、今宵リベリスタ達が探している件のフィクサード。
「ねぇ、私は彼を殺すわ。他の誰でもない貴方の為に」
 誰に言うでもなく、沙耶が呟く。
 其の手には何時の間にか、西洋剣が握られている。
 そんな、答えの返ってくる筈のない呟きにしかし。
「復讐鬼も殺人鬼も殺すのは選んだ相手だけ、美学があっていいねぇ」
 返ってくる声があった。
 自然、沙耶の足が止まり後ろを振り返る。
 振り返った先には、街灯に照らされる七つの影。
 先程沙耶の呟きに答えを返した葬識を始めとした、リベリスタ達だ。
 リベリスタ達は沙耶にゆっくりと近づくと、彼女を包囲する様にそっと陣形を整えていく。
「何か用事かしら、えっと殺人鬼さん?私、此れからデートの約束があるのよ」
 表情は変えず、其の手に携えた武器もそのままに沙耶が問う。
「デート、か。まぁ良い――お前の凶行を止めに来た、聞く耳は有るか?」
 ハーケインが沙耶を刺激しないよう、注意を払いながら答えた。
「そうね。でも其の前に、私も聞きたいわ。貴方達、一体何?警察ではないわね」
「『特務機関アーク』に所属するリベリスタ……と言っても、理解を超えているでしょうか」
 端的に言えば、貴方を止める為に来た有志ですとリーゼロットが言った。
「きっと、私が得たこの『力』に関わるものなのね。……私の復讐を、止めたいのかしら」
 くすり、と沙耶が哂う。
「正直な所をお聞きしたい。後一人しか残っていないのですが、それで満足できますか」
 そう、沙耶に問いかけるのはユーキだ。
「実際の所、余り仇を討った実感が無いと思うのですよね。
今の貴女にとって、復讐は容易過ぎるんです。それだけの力を得てしまっている」
 復讐を遂げたとして。
 貴女が満足して普通の生活に戻れるとは思えないとユーキが沙耶に言う。
 沙耶の復讐すべき相手は後一人だけ。
 だが、果たして其れで本当に彼女は満足するのだろうか。
 例えば――彼等を生み出した世界を憎み凶行を今後も繰り返すというのであれば。
 最早其れは復讐では無く、只の殺戮だ。
「泣き寝入りしろって訳じゃないけどさ。
なんていうのかなー。例えば人殺してる奴が『人殺しは良くないよ』って言って
説得力が在ろうが無かろうが言葉の意味は変わらないでしょー?」
 沙耶の横へとついた甚内が煙草を吹かし、神経を集中させながら言う。
「そうね。でもとりあえず」
「とりあえず?」
「煙草は辞めて。でないと」
 沙耶の周囲に屯していた鴉達がざわつき始める。
 甚内がちぇ、と煙草の火を消し灰皿に仕舞う。
「貴方の気持ちは凄く解る。
私だってお兄ちゃんが殺されたら世界を敵に回してでも仇は取る」
「そうでしょうね」
 沈痛な顔持ちで言った虎実の言葉に、沙耶が当然のように答える。
 しかし、虎実はその沙耶の言葉には頷かず言葉を続ける。
「でも今回は復讐より先にするべき事があるんじゃない?
その力を復讐よりも治療に使う、あるいは回復に向いた仲間を探す、とかね」
 沙耶の表情が僅かに、曇る。
「何より、妹さんが目覚めた時にあなたが傍にいなかったら彼女はどう思うのかな?
それも取り返しの付かない事までしてしまったと知ってしまったらどう思う?」
 其の事だけは頭に置いて復讐に走った方が良いと虎実は言う。
「俺も同意見だ。何故、君は此処にいる?」
 虎実に頷いた拓真が、沙耶にそう言葉を投げかける。
「何故、妹の傍に居てやらない。
この復讐が妹の為だと思っているならお門違いだ。それを望んだのはお前だ。
……自分の勝手な思い込みで、自分の大切な人間を巻き込むんじゃない!」
 拓真が声を荒げ、沙耶に言う。
「違う!これは妹の為よ!大切なあの子を傷つけた連中をッ!」
 そんな拓真の言葉に沙耶が取り乱すように激昂する。
「本当に大切だと思っているのなら、目覚めた時に良かったと抱きしめてやれば良い!」
「其れまでじっと何もせず待っていろと言うの?
あの子を傷つけた奴らがのうのうと暮らすのを黙って見ていろと!?」
 怒りをその瞳に宿しながら沙耶が言う。
 そして其の怒りに呼応するかのように、鴉達がざわつきリベリスタ達に敵意を顕にする。
「丸く収まりは……しなかったみたいですね」
 丁度、真木との対話を終え其の場に戻ってきたユナが仲間達と沙耶を交互に見て言う。
「見ての通り、会話は決裂したようです」
「そのようだ。もう少し話を聞くよう、少し血の気を落しておこうか」
 そう呟いたリーゼロットやハーケインを皮切りに、リベリスタ達が応戦の構えを取る。
「結局は、私の邪魔をしたいのでしょう?いいわ、だったら無理矢理にでも通らせて貰うわ」
 沙耶の全身から禍々しい瘴気――漆黒の闇が生まれる。
 漆黒解放。
 闇から生まれた無数にして無形の武具達。
其れらを身に纏った沙耶が静かな殺意をリベリスタ達へ向け――戦いが、始まった。
 

 沙耶が剣をリベリスタ達へ向け、鴉達に号令を出す。
 彼女の、妹を傷つけられた深い哀しみと憎しみから産み出された鴉達の内二羽。
 彼等は、リーゼロットとユナの二人を目標に定めると、
自身が拠り所にせんとする沙耶の悲願を果たさんと鋭い嘴を武器に迫ってゆく。
 闇に溶ける様な其のシルエットと、素早い動き。
 其れらに翻弄されるもリーゼロットは辛くも攻撃を避けてみせる。
 が、逆にユナは避けきる事が出来ず啄むような鴉の一撃の直撃を受けてしまう。
「なかなかやりますね」
 出血の止まらない腕を抑えながら、ユナが鴉を睨む。
「ならば、纏めて叩き落としましょう」
 リーゼロットが自身が特注した杭の弾丸を打ち出す大型ライフル銃
――パイルシューターを沙耶を含む眼前の鴉達へ向ける。
 ハニーコムガトリング。
 其の名の通りに、凄まじい連射を以って。
 一気に発射された杭が、鴉達に次々と命中してゆく。
 視界を埋め尽くす勢いで放たれた其れに沙耶は一瞬呆気に取られるも。
 直ぐに気を取り直し、杭の雨を掻い潜り躱しきる。 
「私は、復讐を果たすまでは決して止まらない」
「どうだかな……其処で止まるといいんだが」
「ええ、其処で止まってくれると良いのですがね。やっぱり気は済まないでしょう?」
 ハーケインとユーキが、共に沙耶と同じ様に全身に漆黒の闇を纏いながら言う。
「気が済まないとしたら、どうするのかしら」
「……そうですね。わかり易く言いましょう。
怒りと悲しみが収まらないなら、
彼より先に私達にぶつけなさい、という事です。
お受けしますよ。それが我々が来た理由ですので」
 ユーキが強い視線で沙耶にそう、問いかける。
「莫迦ね、そんな事をしたって私の気持ちは収まらないって事」
 沙耶が、其の手に携えた西洋剣を両手でしっかりと握り締める。
 剣が、禍々しい黒光を帯びてゆく。
「この一撃で思い知らせてあげる」
 沙耶が、告死の呪いを乗せた剣を手にユーキの元へ駆ける。
 間合いを詰め、大きく剣を振りかぶりユーキの身体を斬り裂かんと。
「思い知らせるんじゃないんですか?手元がブレていますよ」
 若干の動揺があったのか、先程リーゼロットの攻撃を避けた時の動きのキレは無く。
 素人に毛が生えた程度の剣さばきをユーキは難なく躱してみせる。
「ッ……黙りなさい」
「復讐する事で何も得る事はない、なんて俺様ちゃんは言わないよ」
 葬識が己の生命力を瘴気に変換し、夜よりも深い暗黒の闇を其の手に生み出してゆく。
 そうして生まれた暗黒は、眼前の鴉達や沙耶を呑み込み一気に蹂躙する。
 闇が完全に晴れた時、其の場に残っていたのは傷ついた沙耶と、二羽の鴉のみ。
 暗黒の濁流は、一度に八羽もの瀕死の鴉を其の闇の中へと葬り去ったのだ。
「だったらどいて。私は復讐して、大切なあの子の幸せを勝ち取るのよ」
 そう言う沙耶に。
「其れは違うかな。得られるのは只の自己満足」
 もっとも、自己満足は生きる為の大きなモチベーションだけどと葬識が言葉を続ける。
「結局でも、そうやって綺麗事を並べて止めたいだけでしょ!」
「綺麗事かも知れない、だけど!」
「だけど何ッ、さっきから鬱陶しいのよ」
「君のその手も、腕も…!人を殺す為に存在する物じゃないだろう?」
 大切な人を迎えてやる為の物のはずだ!と拓真が言う。
 拓真の言葉に目を見開いた沙耶が、自分の手を見る。
 其処に或るのは、復讐鬼と化し少年達を惨殺し血塗れた手。
 沙耶の顔が歪む。
「そんな歪んだ顔で妹に会えるのか?血塗れた手のまま、妹を抱きしめられるのか!」
 拓真が祖父である弦真から受け継いだ曲刀――風絶を沙耶達へ向け、投擲する。
 ブーメランの様に放たれた其れは、名の示す通りに風を断ち残っていた鴉達を撃ち落とす。
 そうして、残されたのは、満身創痍の沙耶只一人。
 沙耶一人に対し、リベリスタ達は八人。
 この時点でほぼ沙耶に勝機が存在しない事は其の場にいた誰もが理解していた。


「提案なんだけどさ」
 そう口を開いたのは、甚内だ。
「その力。今も生きてる妹さんか、これから同じような
運命辿るかも知れない被害者の為に使ったりとか考えられない?」
 俺ちゃんはその方が良いと思う訳なんだけどなー?と沙耶に言う。
「絶対に、妹さんの事も胸糞の悪い男の事も、悪いようにはしないからさ」
 投降してくれないかな、と虎実が言う。
「お前の事情は聞いているし、同情もしているがな。
お前もあの不良と同じく、助けを求める妹に手を差し伸べず見殺しにするつもりか?」
「見殺し……?私が?」
「たった二人の姉妹なのだろう?、お前がいなくなったら妹はどうなる?」
 生死の境を彷徨う妹に寄り添い、生きろと励ます事が今すべき事と。
 何度もリベリスタ達が言った言葉をもう一度ハーケインが言う。
「でも、私の手はもう汚れてしまったのよ。解ってる、解ってるけれど」
 沙耶の目からぽとり、ぽとりと涙が零れてゆく。
 彼等の言う事が理解出来ない訳ではない。
 だけど、気づいてしまったから。
 復讐に囚われて、力を振るったのは結局自己満足で。
 自分の手は既に、血に濡れて汚れてしまった事を。
「もう、駄目なのよ。私はもう、あの子と会う事なんて」
 沙耶が其の場に泣き崩れる。
「駄目なんかじゃない。まだ、間に合うんだ」
 まだ妹は助かるんだと、一人にはしてやるなと。拓真が沙耶に言う。
「大事な家族なんだろう」
 そう言って、拓真が沙耶に手を差し伸べる。
 その目端には、僅かに涙が落ちていた。
 其れは、彼自身が忘れる事の出来ない過去を思い出したからかも知れない。
 沙耶がゆっくりと自身に差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
「妹さんは、我々が知る限りで一番設備が良い場所に移させて貰っています」
 出過ぎた真似かも知れませんがと言うユーキに、沙耶が小さく首を横に振った。
 そうして、一つの復讐は終わりを告げた。
 

 後日談になるが、時村グループの病院に入院している沙耶の妹の元に、一つの花束が届いたという。
 送られた花の名は、ブルーローズ。
 其の花言葉は『奇跡』。
 其処には、必ずまた姉妹で笑える日が来るはずだと願いが込められていたのだろう。
 きっと、そう遠くない未来。
 奇跡は、信じて待つ優しい姉の為に訪れるに違いない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様お疲れ様です。
MVPは、沙耶の心を動かしてくれた貴方に。
真木もきっと、これで懲りて心をいれかえるかもしれません。
沙耶の妹が目覚めるかどうかは、私にも分かりませんがきっと、姉妹が笑える日はそう遠くない未来に訪れるはず。
本当に、皆様お疲れ様です。
またお会い出来る日を心待ちにしております。