●UMA……? 「なんだ、これ……?」 そう呟いたのは、山菜を採りに山に来ていた一人の男だった。大して高い山ではない。山のすぐ裏には海が広がっている。時折その海を眺めながら、山菜を探して山を登って行くうちに男は大きな岩の裂け目を見つけたのだ。 まるで洞窟のようなそれに興味を抱いた男は、好奇心を抑えきれずに岩の裂け目に潜っていった。緩やかに傾斜し、下へ下へと降りて行く。 やがて辿り着いたのは、うっすらと日の光が差し込む巨大な水溜まりだった。 地底湖、というやつかもしれない。 男は光の差す頭上に視線を向ける。日の光は、男が入って来たものよりも大きな岩の裂け目から差し込んでいた。恐らく、山の山頂付近なのだろう。小さく雲が見えている。 「綺麗な水だ……」 と、今度は眼前に広がる湖に手を伸ばす。水は綺麗にすみ渡り、透明感がある。しかし、湖の中央付近はかなりの深さがあるのだろう、男のいる場所からでは底は見通せない。 「これは、海水か……?」 湖に手を付けた男が、ほのかに香る潮の臭いに気がついた。 この湖は海と繋がっているのだろう。 いつの間にか、水につけたままだった男の手に小魚が集まっていた。餌と勘違いしているのか、時折男の手をつつく。 海から迷い込んだのか、或いは卵が流されて来たのだろう。日の光と海水、それから餌となるプランクトン。それらのおかげで魚は生きていける。むしろ、天敵がいないため小魚にとっては楽園のような場所なのかもしれない。 と、そこで男は気が付いた。 「外界から隔離された、前人未到の地底湖……。未確認生物がいるかもしれない」 昔、そんな内容のテレビ特番を見たのだ。 もし万が一、未確認生物を見つけてしまったら……。 「一攫千金かもしれない!!」 と、男の目が金にくらんだ。 その時……。 地面が揺れた。否、揺れたのは湖の水だ。男の見ている前で、水面は大きく波打ち、湖の中央から何かが現れようとする。 何か、巨大な質量のものが浮かび上がってくる。 発生した波が、男の足元に迫る。身の危険を感じ、男は元来た道を引き返す。 そんな男が最後に見たのは、水面から現れる巨大な白い触手だった……。 ●発見! 地底湖探検隊! 「とまぁ、彼が未確認生物だと思ったこの触手は、エリューション化したイカなわけだけど」 と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がモニターを見ながら言う。集まったリベリスタ達の顔に、どことなくガッカリしたような様子がうかがえた。 皆、触手の正体が未確認生物、ということを期待していたのかもしれない。 「ガッカリされても……。まぁ、いいわ。フェーズは2のE・ビースト。巨大イカ。これが今回の敵ね」 イヴがモニターを切り替える。映し出されたのは、地底湖の写真。直径30~40メートル程度の湖だ。中央付近の太陽の光が差し込んでいる。 「巨大イカの大きさは、だいたい10メートル程度。触手を含めると20メートルくらい?」 手を伸ばせば何でも掴める。それくらいに、大きいのだ。 「とりあえず、クラーケンって呼ぶことにするけど……。基本的に、水面に出てくるのは足だけだと思って。全部で10本。ヘタに触ると麻痺するかもだから気をつけて」 と、イヴは神妙な顔で注意を促した。 「墨を吐いてこちらの視界を塞ごうとする時と、水を吐きだしてロケットみたいな勢いで飛び出してくる時だけ、身体を水上に出すから」 攻撃するなら、その時かも。 と、イヴは言う。 「こちらを獲物と判断しないと姿を現さないと思う。おびき出す所から頑張って。一応、釣り竿とボートは貸し出すから。ボートは2~3人乗りね」 未確認生物ではないけれど、かなりの大きさの怪物ではある。 「まぁ、釣りでもしながらおびき出せばいいんじゃないかと思う」 所でイカって美味しいよね、なんてイヴは呟いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月24日(火)00:03 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●地底湖に至る。 僅かに差し込む太陽の光が、透き通った水面に反射する。時折、水面を跳ねているのは小魚であろうか。小山の中腹、岩の切れ目に潜り、下った先にこの地底湖は広がっていた。 物音をたてないよう、慎重に地底湖に降りて来たのは8人の男女。アーク所属のリベリスタ達であった。 「光さしこむ地底湖とは、なんとも風流な場所にござるな。のんびり釣りを楽しむには実にいい場所では御座らんか」 なんて、したり顔で頷くのは『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)だ。 「巨大イカを退治する依頼ですか。地底湖によくぞイカが居たものですね。どこか海に繋がる所でもあるんでしょうか?」 ボートと釣り竿をせっせと用意しながら『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が地底湖を見渡す。事前に翼の加護を使っておくことも忘れない。 「UMAも、蓋を開ければエリューション……。夢もロマンもないもんだ」 そういいながら、釣り竿に餌を仕掛けるのは『神華』司馬 鷲佑(BNE000288)だ。すぐ傍では『節制なる癒し手』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)がボートの用意をしている。 「綺麗です……」 そう呟くシエルを『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)が怪しい目つきで見つめていた。獲物を狙う目……というか、なんというか。捕食者のそれである。 「さぁ、釣りを楽しみましょうよぉん。餌はアタシがつけたげるからぁん」 絡みつくようにシエルに寄ると、彼女が握っていた釣り竿に餌を取りつける。 数代のボートに釣り竿を括り付け、先に湖に浮かべる。それから、元々決めていた組に分かれて、ボートに乗り込んだ。 「懐中電灯をビニールに入れて湖に向かって投げておくお。スイッチはオンだお」 と『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)がやたらと楽しそうに湖向かって懐中電灯を放った。それを確認すると、それぞれボートに乗って、或いは水上歩行のスキルを使って湖面に進行するのだった。 ●地底湖で釣りを……。巨大イカ討伐指令。 「水上線、楽しい闘いになりそう、だね。……あと、イカ食べたい」 軽い足取りで水面を歩くのは『無軌道の戦鬼(ゼログラビティ』星川・天乃(BNE000016)だ。水面に映った下着は妙に気合いが入っていた。 「水生生物は雷に弱いって相場が決まっているけれど、イカやタコはなんとなく炎に弱そうよね」 バター焼きにして食べたい。 湖を囲むように伸びた陸地から、そう言ったのは『雷を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)だった。釣り糸を垂らして、水面を眺めている。 こうして、餌を沈めて巨大イカをおびき出すのが作戦だ。 「敵の観察をメインに動くお。千里眼は任せるお」 ボートに腰かけ、糸を垂らしながらじーっと水面を眺めるガッツリ。レインコートとゴーグルを装着しているため、見た感じなかなか怪しい雰囲気を醸し出している。 湖上には八艘のボート。うち半数ほどは無人で、釣り竿だけがセットされていた。 ボートには高木と黒部、シエルと倶利伽羅に別れて乗っている。司馬とガッツリはそれぞれ一人でボートに乗っていて、星川はスキルを使って水面を歩いている。 陸に残っているのは、鳴神だけだった。全員、思い思い釣りをしながらも、巨大イカの襲撃を警戒している。 「こうして釣りをするのも、楽しいですね」 「うふふん……。デートみたいじゃないこれって?」 目的を忘れかけているように見えるのはシエル&倶利伽羅ペアだ。和かな雰囲気に満ち満ちている。 「……大丈夫。自分、任務は忘れて御座らんよ」 真剣な表情で釣り糸を見ているのは黒部だ。隣に座る高木はそんな黒部を見て苦笑いを浮かべる。時折竿が引かれるものの、そのほとんどは小さな魚であった。 「まぁ、釣れるまではのんびりやりましょうよ」 高木は、餌をつけ直すと再び針を湖に落とした。 「俺の隣はアイツだけだが……今日はゲストのエスコートだ」 シエルと倶利伽羅の乗るボートの傍で、司馬が竿を構えている。いざという時に、回復役であるシエルを守るのが彼の役割である。 「……水が、揺れてる」 いち早く状況の変化を察した星川が、そう呟く。一同の間に緊張が走る。 やがて、湖中央の湖面に変化が生じた。中心から波紋が広がり、先ほどまで穏やかだった湖面が大きく波打ち始めたのだ。 「来ますよ!」 高木が叫ぶ。瞬間、彼の手にしていた釣り竿が、すごい勢いで水中に引っ張り込まれた。 若干のタイムラグの後、水面に白い触手が飛び出してくる。高木と黒部の乗ったボートを狙った攻撃だったのだろうが、狙いは外れ、触手は何もない空間を貫いた。 宙に舞いあげられた水滴が、雨のように降り注ぐ。 「今の触手は……間違いなくイカね」 鳴神が叫ぶ。 「イカだお。めちゃくちゃでけーお。でもイカって大きくなればなるほどアンモニア臭くなるんだお」 と、後から食べる気満々のコメントをしたのは、ガッツリだ。千里眼で、イカの居場所を探る。 突き出してきた触手目がけ、黒部と倶利伽羅、それから星川の3人が駆けよっていく。 「やはり、足が付いている方が動きやすい」 真っ先に触手に切りつけたのは、黒部だった。水上歩行のスキルで、地上と同じように水面を駆ける。 続いて、星川が触手に近寄り全身から伸ばした気糸で縛りあげた。 「動く、な」 と、そこに追撃を加えるべく倶利伽羅が飛びかかった。しかし、水上の倶利伽羅目がけ、触手が突き出された。2本目の触手だ。 星川が縛り上げた、1本目の触手に届く直前、水面から現れたもう1本により倶利伽羅の身体は宙高く打ち上げられた。 「粘り強く、シツこく、いやらしくぅん」 それでも、自身を打ち上げた触手に攻撃を加える。ダメージを受けた触手は水中に沈んでいった。 とはいえ、受けたダメージが大きかったのか口の端から血が流れている。 「水中に落ちたらマズイお! イカのテリトリーだお!」 ガッツリが叫ぶ。落下する倶利伽羅目がけ、更にもう1本触手が接近しているのを確認したのだ。 「受け止めるっ」 水上に浮かべたボートを足場に、司馬が倶利伽羅に駆け寄った。落下する倶利伽羅を受け止めると、そのまま陸地に運んでいく。 「魔力の円環と錬気の力もて……癒します」 自身の翼で、一足先に陸地へ退避していたシエルが、傷ついた倶利伽羅を癒しにかかる。 「ゲソ足1本、いただきっ!」 鳴神が、脚を鋭く降り出す。空気の刃が発生し、倶利伽羅を狙って水面に現れた触手を切りつけた。チャンスと見てとったのだろう、ガッツリと高木による遠距離攻撃が、触手に追加のダメージを与え、切り落とした。 時を同じくして、黒部と星川も触手を切断する事に成功する。 残り8本。ダメージを受けたことで警戒したのか、イカは再び水中に沈んでいった。 現在水上には高木、星川、黒部、ガッツリの4名。陸地には司馬、鳴神、シエル、倶利伽羅がいる。 一同の間に沈黙が降りる。皆、イカの襲撃に備えているのだ。治療を終えた倶利伽羅が、水面に足を踏み入れた。 瞬間、湖中央から巨大イカがその姿を現す。水を吐きだし、一気に飛び出て来たのだろう。巨体に水が押され、大きな波が発生する。高木の乗ったボートが波に飲まれた。 水上にいたメンバーは、波に飲まれないようにするので精一杯だ。イカは、陸地目がけ墨を吐きだす。倶利伽羅と司馬は咄嗟に回避することに成功したが、シエルと鳴神は墨を浴びてしまう。 「シエルちゃん!?」 倶利伽羅が悲鳴をあげた。 「回復役が行動不能にされるのはまずいぞ」 司馬が続ける。それを聞いて、星川が湖の中に飛び込んだ。 「高木を、助けてくる」 もう一人の回復役である高木を救助する為だ。 一度は水面に顔を出したイカだったが、直ぐに水中に沈んでいく。それを追って、倶利伽羅が水の中に飛び込んだ。 「星川チャンだけに負担おしつけたくないもん!」 シエルと鳴神への追撃を庇うため、司馬が2人の傍に駆け寄る。2人とも、身体を墨で覆われ、上手く動けないようだ。 「イカの墨は粘性が高くて、形をとどめようとするはずだお」 ガッツリがそう言って、水中に目を向ける。水に混じった墨の動きから、イカの居場所を探るつもりなのだ。 「そっちいったお!」 イカの進行方向には、丁度体勢を立て直したばかりの黒部の姿がある。黒部目がけ、イカの触手が突き出された。 「水上戦闘はお手の物なれば」 冷静に対処。突き出された触手を受け流し、身体から伸ばした気糸で縛りあげる。力が強く、永い間縛りつけてはおけないが、それでも時間稼ぎくらいにはなるだろう。 岩壁やボートを利用し跳躍する司馬の素早い斬撃と、水中から飛び出してきた倶利伽羅の踊るような攻撃が、イカの触手を切り裂いた。 「くふふ……イカサン。オドリましょ?」 鋭い眼光でイカを捉え、長い手足を踊るように動かす倶利伽羅。 攻撃を終え、司馬が陸地に戻る。と同時に、イカの触手が切断され陸地に投げ出される。 「ぷはっ……。助かりました」 星川に寄って水中から助けだされた高木が、陸地に上がる。急ぎ足でシエルと鳴神の元に向かうと2人の治療を始めた。 黒部と司馬が3人の護衛に回る。 「一気に2本くるお!」 水上を駆けながらガッツリが告げる。それと同時に、今度は触手が2本水面に現れた。それぞれ、星川と倶利伽羅のすぐ傍だ。2人を狙って攻撃したのだろうが、狙いは多少外れている。 「触手はあんまりあたらねーお!」 星川と倶利伽羅が、自分達の傍にある触手に攻撃を加える。 「……爆ぜろ」 星川が、触手にオーラで作りあげた爆弾をセットし爆破する。辺りに肉片が飛び散った。 しかし、水中から突き出された新たな触手により、星川の身体が陸地へと弾き飛ばされる。身体が痺れてしまっているのか、上手く受け身も取れずに星川は岩盤に激突する。 「あちらは私が……」 治療を終えたシエルが星川に駆け寄った。司馬が、それに追随する。 「……晩飯ィっ!!」 星川を狙って近寄って来た触手を、ナイフで切りつける。切断するのは至らず、触手は直ぐに水中へ戻っていった。倶利伽羅が相手にしていた方の触手も、水中に身を隠す。 「また来るお! アチキから離れるお!」 ガッツリが叫ぶ。彼女の指示に従って、倶利伽羅が後ろに跳んだ。 水面が波打ち、今度はガッツリ目がけ6本の触手が飛び出してきた。いち早く、触手の接近を察知していたガッツリだったが、回避が間に合わず触手に打ち上げられる。 暫しの間宙を舞ったガッツリが、鈍い音をたててボートの上に落下した。触手の直撃は避けたようだが、麻痺を受けたらしく動けないでいる。 触手による追撃を避けるため、倶利伽羅が触手の間に飛び込んだ。 「誰か、ガッツリちゃんの手当てをぉ!」 「自分が行きます」 鳴神の治療を終えた高木が、手近にあったボートに乗って湖上に漕ぎだした。黒部もその横を並走する。 「相手の射程にお気をつけて!」 と、星川の治療をしながらシエルが注意を促す。それを受けて、司馬がナイフを構えた。 倶利伽羅が、数本の触手相手に戦闘を繰り広げる。 ようやく、倒れたガッツリの元に高木と黒部が辿り着いた。早速ガッツリの治療に取り掛かる高木と、それを守るよう水上に立つ黒部。 「う……、くる、お。逃げる、お」 途切れ途切れにガッツリが呻くようにそう言った。 「どういう……。あっ! 黒部さん!」 いつの間にか、倶利伽羅が相手取っていた触手が消えていた。その事に高木が気付き、同時にガッツリの言葉の意味を理解する。 しかし、時すでに遅くガッツリと高木の乗るボートに巨大イカが迫っていた。水流を吐きだし飛び上がってくる巨大イカの攻撃、ロケットダイブである。 咄嗟に、黒部が2人の乗ったボートを蹴り飛ばす。と、同時に黒部のボディに、巨大イカの頭部が突き刺さった。 「が……はっ!」 身を挺して2人を庇った黒部が、宙高く打ち上げられる。内臓が傷ついたのか、黒部の口から血が吐き出された。錐揉み状に回転し、やがて岩盤にぶつかって陸地に落下した。 同じくイカも、水中に落ちて大きな波を起こす。波に押され、高木とガッツリの乗ったボートが陸地に辿り着いた。 「また来るぉ……。今度は鳴神の方だお」 ボートから半身を乗り出して、ガッツリがそう告げる。 「鳴神さん、イカ、そっちに行くそうです!」 それを、高木が鳴神に伝えた。 「オッケィ!」 鳴神が答えた。それと同時に、再びイカが水中から矢のような速度で飛び出してくる。触手では倒せないと分かって、直接攻撃に出たのだ。予めイカの接近を知っていた鳴神は、事前に付与されていた翼で低空飛行を行い、イカの背後に回り込んだ。 「あたしのコブシは、シビれるわよっ!」 鳴神が吠える。と、同時に彼女の身体が放電し、拳に雷を纏った。そのまま、身体ごとぶつけるような勢いで、鳴神はイカへ拳を叩き込む。 雷を纏った鳴神の一撃は、イカの巨体を陸地に叩きつけた。地面が大きく揺れ、水しぶきが上がる。 「星川さんの治療終わりました。私は黒部さんの元へ行くので、お2人はイカに止めを」 星川と司馬は、頷くと地面を蹴ってイカに駆け寄る。同じように、水面を倶利伽羅が走っている。 「ようやく、ご対面、だね」 無表情のままそう告げて、星川がオーラで作りあげた爆弾をイカに埋め込んだ。 「ウフ、アナタの愛撫も素敵だけどまだまだイケないわ。先に一人でイって頂戴な」 と、怪しい笑みを浮かべる倶利伽羅の身体から黒いオーラが伸びた。爪のような形をとったそれは、イカの頭部目がけ、情け容赦なく振り下ろされる。 「あぁ、一攫千金なんて、腹の中に納めて幻にしておけばいいさ」 UMAってのはそういうものだ、と司馬が素早くナイフを走らせる。 イカは、暫しの間のたうちまわっていたが、やがて力を失って完全に動かなくなった。爆ぜて欠けた頭部から、墨が溢れて湖を汚す。 これが、人知れず、地底湖でエリューション化したイカの最後だった。 「烏賊様……。エリューション化して可哀そう」 今にも泣き出しそうなシエルの声は、波打つ水面に吸い込まれて誰の耳にも届かなかった。 ●後始末。 「そう言えば、退治したこのイカを食べる方はいるのでしょうか?」 イカの遺体を突きながら、高木がそう口にする。 「全て湖へ沈めてしまえ。小魚たちが分解してくれるさ」 イカの足を千切って口に運びながら、司馬が言う。 「食べられる? でも、ダイオウイカとかってマズイのよね。これもそんな感じかしら?」 「私は焼いて食べてみたい」 恐る恐るといった風に、イカの足を切りにかかる鳴神と、同じくイカ足を切りながら火を起こそうとする星川。 「アンモニア臭いかもなんだお。料理してもあんまりおいしくねーと思うのが残念だお」 そう言いつつも、興味深そうにしているガッツリ。 「ゲソ……食べられるので御座るかね……」 イカから受けたダメージが酷いのか、壁に寄りかかって黒部がそう呟いた。しゃべるのも苦しいのか、時折顔をしかめていた。 「あの……皆さん。調理でしたら、私がするので」 生のまま食べようとするの止めませんか? と、シエルが控えめに提案する。「安らかな眠りを……」と、黙祷を捧げるのも忘れない。 「釣ったお魚も焼いていい? 生でもいいけどねぇ。生の魚のキモって珍味なのよぉん……。冗談よぉ。ヒいちゃ、い、や、ん」 くねくねと身をくねらせ、倶利伽羅が魚を運んでくる。 「皆さん、躊躇ないですね」 やれやれと頭を掻きながら、高木がその輪の中に加わる。 地底湖の湖面は、日の光を反射しながら静かに揺れていた… |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|