●三高平センタービルにて 総務部の自分のデスクで写真を片手にぼーっとしてたら、突然背後から、「ねえねえ芝池君」とか何か呼ばれたので、芝池はそっと写真をファイルの下とかに隠して、「はい」とか何か、とりあえず普通の顔を取り繕って、振り返った。 「やあ」 って、何か、衝立で仕切られたブースの入口辺りに、地下のアーク本部に所属しているフォーチュナ、仲島が突っ立っていた。 「あ」と、すかさず目を逸らし、「どうも」と、続ける。 絶対またこれ面倒臭い話されるんじゃないかしら、という予感がしたので、そのまま回転椅子でくるん、とデスクに向き直り、えーっと、とか、かなり臭い芝居をしながら、机に立て掛けてあるファイルを取り出したり、めくってみたり、忙しそうなフリをしてみた。 そしたら、早速、とんとん、とか肩を叩かれた。 「え」 と、顔を上げて目が合った瞬間に「頼みたい事があるんだけど」と、もー言われた。 「え」 愕然とした。何より、臭い芝居までして、忙しさを演出してみた事が、全く伝わっていないことに、愕然とした。 「うん、あのー。資料作って欲しいのよ。資料。リベリスタの人達に配る資料」 仲島は、相変わらず何を考えているのか良く分からない、覇気のなーい感じで言い、デスクの端っこに勝手に座って来た。 「あのー仲島さん」 「うん、何だろう芝池君」 「何ていうか。すいません、嫌です」 「どうして」 美形が何か、じーとか、見て来た。 だからとりあえず何か、芝池もじーとか、見つめ返した。 「はーどうしてって。忙しいからです」 そしたら仲島は納得したのかしてないのか良く分からない表情で、「ふうん、そうなんだ」とか何か頷いておいて、「でね、頼みたい資料っていうのはね」って、マイルドに話を続けた。 「仲島さん」 「うん何だろう、芝池君」 「今さっき、僕の思い違いじゃなければ、その話、断ったと思うんですよね」 「あ、ごめん全然聞いてなかった」 「この距離なのに、嘘ですよね」 「えっとね。ノーフェイス三体の討伐依頼なんだけど。出現場所は、移動遊園地内で、時間帯は、夜ね」 とか、もー、全然芝池の抵抗とか気にしてませーんみたいに話を進めた仲島は、また、で、メモとらないで何してるの、みたいな顔で、こちらを見下ろしてきた。 「敵の特徴は、見た目が、ピエロな事ね」 「はーピエロ、ですか」 別に急ぎでもない書類に目を通したりしながら、答える。 「そう。ピエロのメイクをして、ピエロの格好をしてる。武器は大型のナイフを扱うみたいね」 「そうですか。それは大変ですね。じゃあ、僕忙しいんでもういいですか」 今度はパソコンのキーボードを打ちながら、言った。 「良くないよ、話、終わってないもの」 「いや詳しい話されても、資料とか、作らないですしね」 「何でよ」 「あの、前から言いたかったんですけど、総務部は依頼とかとは関係ない部署じゃないですか。そういうのは、もっと他にちゃんとした部署があるじゃないですか。むしろ、自分で作ってるフォーチュナの人も居るじゃないですか。それで総務部には総務部の仕事があるんですよ、だからですよ」 「うん芝池君ね」 「はい」 「そんな事はいちいちくどくど言われなくても、分かってるんだよ」 「あれ、何ですか」 「分かってて、いちいち総務部の芝池君に頼みに来てるのよ。総務部の仕事でもない仕事を」 「な。何でですか」 「嫌がらせに決まってるじゃない」 とか思いっきり無表情に言った仲島の顔を、とりあえず三秒くらい、見つめた。 「はいあの、帰って貰っていいですか」 「本当は暇な癖に」 「忙しいです」 「あ、そう」 とか何か、また何を考えているか分からない顔で言った仲島が、出しっぱなしにしてあったファイルをぴっと、細長い骨ばった指で弾き、その下から一枚の写真を取り出した。 「あ」 「俺の方がよっぽど格好良いのに」 「すいません。返して下さい」 「こんなの就業時間中にじーとか眺めてるくらい時間あるのに、俺のお願いは聞いてくれないんだね。これ、フォーチュナの男でしょ。何、憧れてるの」 ぴらぴら、と写真を振りながら、言う。 「あのー、うざ島さん」 「うん、そんな名前では、ないよ」 「ちゃんと話聞いて資料作るので、すいませんけどそれ、返して下さい」 「うんじゃあ、いいよ」 「って何か、上から言われると凄い苛っとくるので、やめて貰ってもいいですか」 「とりあえず。敵のフェーズは2で、出現は3体、予知されてる。出現場所である移動遊園地の敷地は、そんなに広くはなくて、大きくわけて、四つのエリアに分けられる。回転木馬のゾーン。回転ブランコのゾーン。鏡で出来た迷路の館のゾーン。それから、フードコートゾーン。この何処かにピエロが出現する。相手は移動するからね。厳密に場所を特定するのが難しいんだよね。だから、申し訳ないけど、探し出して討伐して欲しい。で、時間帯はさっきも言ったように夜だけど、明かりの心配は要らない。その夜はアークで貸し切りにしてあるからね。灯りは全て灯して貰ってある。もちろん討伐ってことは言ってないけど、一般人の従業員なんかも置かないように言ってあるから、他の侵入者は気にして貰わなくていい。それから、機械の稼働も自由だから、戦闘の作戦に使うもよし、討伐の後に、ちょっと遊んだりするも、よし、ってことで」 「はー。何というか、太っ腹ですね」 「ピエロは、フェイトを得てないエリューションだから、それだけでもちろん討伐の対象なんだけどね。もっと悪質な事に、人を浚う。それも、子供や、女性を」 「そうなんですか」 「夕暮れ時を狙って、人を浚う、というような予知が、見えたからね。放っておくと、面倒臭いことになる」 「では、討伐当日も、浚われた人が何処かに、居るかもしれないんですか」 「居るかもしれないし、いないかも知れない。だいたい居たとして、もう、殺されちゃってるかも、知れない」 「依頼には、その人達の救出は、含まないんですか」 「そうね」 無表情に俯いた仲島は、そこにあったファイルを手に取り、興味もなさそうに、ぱらぱら、とめくる。 「どっちでもいいっちゃ、いいんだよね。見つけられれば、それでいいし。そもそも、一般人が浚われていたとして、場所は特定できてない。探して貰わないといけないからね。ついででいいよ。とりあえずピエロの討伐さえしておけば、今後、そういう事件は起こらないわけだから、一先ずはそれが優先だね」 「そうですか」 「じゃ、更に詳しい敵の説明するね」 仲島はまた、覇気のなーい口調で、続ける。 芝池はとりあえず、「はー」とか、頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月18日(水)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 巨大な回転ブランコが、無駄に光をぴっかぴかさせながら、回っていた。 その隣を通り過ぎたあたりで、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461) が、「遊園地でピエロのノーフェイス探しなんて」と、 実は始めからちょっと思ってたけど、実際この景色見たら改めて実感しちゃったんですよ、みたいに、呆れた。 でもそのまま何か、無人のくせに、ぶわーって相変わらずの勢いで稼働するブランコを見やり、「まあ、たまにはそういうのもアリかも知れないが」と、その姿が健気に見えたのか、結果的にちょっと、譲った。 そしたら何か、実は話出すタイミングを窺ってましたみたいに、そこで、 「っていうかわたし、遊園地って実は遊びに来た事ないんだよねー」 と、その隣で仰け反るようにして回転ブランコを見上げた山川 夏海(BNE002852)が、言った。 それで、「それがいきなり貸切って言うのも凄い贅沢だよね」とか何か、若干テンション高めに隣を見たら、めっちゃ真顔のエリス・トワイニング(BNE002382)にじーとか、責めるように見つめられ、あれ、何ですか、みたいにちょっと開き直ってみようとしたけど、やっぱりすぐに負けて、「え、やだなー、遊びに来てるんじゃないってわかってるよ、うん」と、笑って誤魔化そうとした。 けど、誤魔化すどころか、 「ピエロは……遊園地やサーカスで……見られるけれど。子供にとっては……攫われた場合は……トラウマが……植えつけられる可能性も……有る」とか真顔で追い打ちをかけるように言われて、すっかり、折れた。 「あデスヨネー」 「そうでなくても……早く探し出して……絶やさないと」 とかまだまだ続きそうだったので、「分かってるって、ちゃんとやるよ!」と、びしっと敬礼とかして見せて、「超反射神経で奇襲も警戒!」とか、わざとらしく口に出して辺りを見回す。 そんな二人を、気の言いおっちゃんの顔で眺めていた吾朗は、「まあ、あのフォーチュナはピエロ優先みたいな事を言ってたけど、まだ拾える命を捨てるつもりはないしな」と、合の手を挟む要領で、言う。 それから、千里眼を発動した『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471) を、どんな感じかと、確認するように、見やった。 けれど、目が合うと涼子は、まだ何も確認できない、とばかりに首を振り、「ピエロのノーフェイスか。なんでまた、そんなカッコでひとさらいなんて、するんだろうね」と、ふと浮かんだ疑問を口走る。 「さー。その方が子供とか寄ってくるからかな」 とにかく何かを答えなければ、くらいの雰囲気で、夏海が、それとなくそれっぽい返事を返した。 とか、まーわりと本気で答えが欲しくて言ったわけでもなかったので、そうかもね、くらいの返事を返し、それはそれとして、みたいな雰囲気でAFを取り出した涼子は、別の班で同じくピエロと一般人を捜索しているはずの、小梅・結(BNE003686)に連絡を取った。 「そちらはどう? 何か動きはありそう?」 と、呼びかけてみる。 「はい、こちら、むっちゃんなのだ!」 と、AF片手に、むーっと顔を顰める結は、「むっちゃんの班は、今から鏡の館に突入する感じなのだ」と、目の前にでん、と佇む鏡の迷路の館を凝視する。 「そして今、むっちゃんは猛烈な勢いで頑張っているのだ。むしろ、ここでむっちゃんがやらねば誰がやる、みたいな感じなのだ」 とか、若干、ふざけてる感じというか、幼い子供が何かふざけてる感じにわりと見えてしまうけれど、実の所、本気の本音で彼女は真剣だったりして、しかも千里眼とかいう能力を発動してたり、した。 つまりは、結構遠くの方まで、ずーんといろんなものが透けて見渡せるということで、一般人や敵の探索にはうってつけなのだった。 「さて。ではオレも協力しよう」 更には、感情探査を発動する『闇狩人』四門 零二(BNE001044)がその隣に並び、館を凝視する。 とか、スーツ姿の渋い中年男性と、小柄な少女が並んでいる景色は、何か凄い異様な感じだったけれど、そこで更に、レースとかふんだんにあしらった、奇抜な格好をした『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939) が並んだ所で、一気にもー何が何だか分からなくなった。 何せ、彼女の帽子は凄い。っていうか、大きい。 でもそれはそれで、そんな人は欧米にはわりと居たし、と、『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)は、持ち前のスルー能力で一連の景色をスルーし、超直観と集音装置で、館以外の、周りからの奇襲などを警戒することにした。 と。 「いますね」 鳥頭森の呟きが、ポツン、と落ちた。 「ああ、みたいだね」 薄っすらと酷薄な笑みを浮かべながら、零二が同意する。「強い恐怖と不安の感情が、ある」 「わたしも同じような感情を察知、です」 「むっちゃんも気づいていたのだー! 中に人が居るのだー!」 待って待っておいてかないで、みたいに、慌てて結が騒ぎたてる。静かにしないといけないよ、と注意してあげるつもりで零二が見やると、怒られると思ったのか結が、「でも本当は、今、気付いたのだ……」と、切なげに訂正をした。 「うん、それは別にいいんだが」 「どうやらピエロも居る感じですね。ピエロは笑われるものなのに、こいつらのやってることは、笑えない」 「そうだな。人の笑いを誘うべき道化が、人が遊戯に興じるべき場所で、人を殺す。笑えない話だね」 「せっかくの遊園地で怒られることするなんておばかさんなのだ。もっと楽しいことで遊んでいればよかったのだ」 「まあ、おばかさん相手でも、手は抜かないけどね。むしろ、おばかさんだからこそ、手は抜かないけどね」 アシュリーが、館の中のピエロを威嚇するかのように、ツリ目を細め、フン、と仰け反る。 「女性や子供を浚うのならば、私も浚う対象になるのかな」 嬉しげに、っていうかむしろ、浚えるもんなら浚ってみればくらいの、若干小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、鳥頭森が言い、「でも、幸いここには、女子供が三人もいるし、私達が先に入って相手を油断させておいて、挟みこむ、という作戦もありかと思うんです」と、述べる。 「いざとなったら鏡ぱりーんするのだ。もったいないおばけが出たらときむらのざいりょくなめんなって呪文唱えたらよいそうなのだ」 「ええ、そうですね。壊してごめんなさいだけど、請求はアークへって事で」 って思いっきり他力本願な女子二人だったけれど、そこは同意っていうかむしろスルーくらいの勢いで、零二は無言で、静かに、頷く。 「では行こう」 「ってことで。こちら、アシュリー。これから、鏡の館に突入するからね」 「一般人、発見か」 吾朗が、いよいよ何か、仕事らしくなってきたな! みたいに無意味に若干テンションを上げて、言った。 でも本当は全然最初から仕事で、分かってたけど、今やっぱり、仕事ってことを実感してます! ってなったみたいだった。 「そろそろこっちにも何か動きないかなあ」 ちょっと飽きてきちゃったよーみたいに、夏海が言った。 言った瞬間、ハッ、みたいに、フードコートの店の裏側を覗きこんでいたエリスが、振り返った。 「い、いや、別に飽きてきちゃったなんて、言わないよ、本当だよ、何せ、仕事だし! 真面目だよ、ホントだよ!」 って必死で言ってる感じがもう既に、完全に臭かったけれど、そんな水から上がった魚みたいにあわわわ、ってなってる夏海をぼーっと見つめたエリスが、「ピエロ……出た」と、急に、言った。 「えっ」 「えっ」 「え」 と、吾朗、夏海、涼子の三人は、メイド服姿の仲間を思わず、振り返る。 「な、え?」 「だから……ピエロ、出た。走って行く。なので、エリス、追いかけます」 全く緊張感のない少女の喋りに、しかもそのまま、メイド服の裾とかひらひらはためかせながら、ぱたぱた走っていく仲間の姿に、何か一瞬、あーそうですかー、了解ですーとか間延びした返事とかして、置いてけぼりをくらいそうになったけれど、事の重大さに遅れて気付き、夏海は、むしろ、わーーーて、なった。 「ちょ、ちょっちょちょ! 大変だ! わたしも追いかけないと!」 慌ててばたばたーっと走り出す。 「おいおいマジか! せめてもっと慌ててくれよ~!」 吾朗も慌てて、バスタードソードを召喚し、走り出した。筋肉みっちりの巨体ながら、走り出した後のスピードはびっくりするくらいの俊敏さで、すぐにエリスへと追いついて行く。 「と、いうことで、何か、ピエロ出たみたいなんで、追いかける」 と。そんな展開の中でも、わりとテンションの上がらない涼子は、ぼそ、とAFに向かい報告をし、ピエロの逃走経路を千里眼で見通し推測しながら、さてやりますか、みたいに走り出した。 「こっちに出たのは、二匹だぜ!」 ちなみに言っときます! みたいに、吾朗が付け加える。 その頃。 鏡の館では。 ダダダダダダー! と、鳥頭森の放った弾丸が、館の壁というか鏡を撃ち抜き、粉々に砕いていた所だった。 かと思うと、ダーーーンとか何か、大口径狙撃銃「01AESR」でわざわざまた別の場所を撃ち抜いたアシュリーが、姿を現す。そしてもう、走り出している。 続いて、何かもういろいろあんまりの事に、失神間近の一般人、とか抱き抱えた零二が、そっと出て来て、 「零二だ。了解した。こちらは一般人の救出に成功した」と、AFに向かって報告をする。 そうしながらも、前方を走って行くピエロを見失わないよう注意、とか思ったけれど、そのすぐ後ろを追いかけて行く、鳥頭森とかアシュリーとか結が、わりと派手だったので、見失いようはなかったかも知れない。 「残りの一匹はどうやら、一般人の見張りについていたようだね。今、追跡中。回転木馬のゾーンに向かって走ってるよ」 続けてアシュリーがAFに向かい、がなりたてた。 「聞いてくれたまえ」 零二は、朦朧としている一般人に向かい、極めて平静な声で、言い含めるように、囁く。 「大変だったね。でも、もう心配はいらないよ。今回の一連の出来事は、ピエロに扮した犯罪者グループによる事件だったんだが、これで無事解決しそうだ。君に危害が及ぶことは、もうない。これからも、不安を感じないよう、オレ達がきっちりと犯人達を捕まえる。安心したまえ」 その、精悍な顔をぼんやりと眺めていた、一般人女性は、暫くして、言った。 「あの、お名前は……」 でも、名前を聞く前に、こて、とか完全に気を失ってしまったようだった。 零二は彼女をそっと近くにあった壁へと寄り掛からせると、自らも戦闘に参加すべく走り出す。 ここに一般人をおいている限り、敵を見失うわけにはいかない。 すると前方でまた、ダダダダだー! と鋭い銃声が、響いた。 「ピエロのくせに芸もなさそうだし興ざめね。せめて散り際ぐらいは楽しませてね」 フィンガーバレットを装着した手を一旦顔の高さに戻しながら、鳥頭森が、前方のピエロをねめつける。もちろん、放った弾丸は、園内のいろいろな物を撃ち抜き、破壊しちゃってたけれど、彼女には全く意に介する雰囲気はない。 むしろ、穴のあいたマシンの鉄の部分とかちら、と見て、「これも壊してごめんなさいね。請求はアークに」と、完全に開き直っているようだった。 「全く、あのピエロ。動きだけは一人前ね。ちょこまかと面倒だわ」 01AESRの照準を合わせながら、アシュリーが舌打ちする。ピエロとの距離は中々縮まらない。前方に、停止したままの、回転木馬のマシンが見えてくる。 ピエロは勢い良くその周りを囲む柵を飛び越え、追いかける二人の女子を振り返り、へへん、みたいにそのままマシンの中を横切ろう、としたまさにその瞬間、ガーンッと、メリーゴーランドが動きだし、横から突っ込んで来た馬に激突した。 多分、若干普通のメリーゴーランドより早い回転で、馬や馬車達は、くるくる、回る。 「?!?!??!!?!?」 ウォォォッ?!?! みたいに、腰を押さえ蹲るピエロが、回転ともに姿を消して。 「おー! 何か良く分からんボタン、ポチっとなってしたら機械が動き出したのだー!」 交代するように現れたのは、わーい! みたいに手を上げながら、馬に跨る結だった。 「メリゴひとりじめしてみたかったのだー! こんなに早くくるくるするなんて、知らなかったけど、面白いのだ!」 ってまた、結が消えて行き。よっぽどきつく当たったのか、全然回復出来てないピエロの背中が見えて、また結が姿を現す。 「むっちゃんピエロ足止めしたったのだー! さー! きらきらメリーゴーランドで戦闘なのだー!」 AFに向かい、結が歓声のような声を上げる。 ● 「って本当にめちゃくちゃ回転してるじゃん!」 二匹を誘導するように追いかけながら、メリーゴーランドへと合流した夏海が、早めに回転するマシンを見て、ぎょっと仰け反る。 「しかも約一名、凄い楽しそうだし」 やれやれ、みたいに苦笑した吾朗は、けれど次の瞬間、きりっと表情を引き締めて、ハイスピードを発動する。「でもま、それはそれとして、あいつは倒すぜ」 きらきらと眩く幻想的な灯りを明滅させる回転木馬へと、駆け出して行った。ピエロへと到達する寸前に、幻影剣を発動する。構えを取ったピエロが、え、みたいに茫然とした瞬間を狙って、ソニックエッジを発動した。 決して止まらないかのような澱みなき連続攻撃で、大きなバスタードソードを振り抜き、振り抜き、振り抜き、振り抜き! 最初こそ、ナイフで応戦していたピエロだったけれど、その機敏な切り返しには及ばず、胸元をダッと切り裂かれ、悲鳴のような雄叫びを上げた。 すかさずそこへ、アシュリーが、やっと撃ち込める! とばかりに、バウンティショットを発動する。大口径狙撃銃「01AESR」から、続けざまに発射された弾丸が、ピエロの両足を撃ち抜き、砕いた。 体から、口から、むしろいろんな場所から血のような物を垂れ流したピエロが、肉の塊のようにそこへ崩れ落ちる。 「敵……後方より、接近中です」 超直観で戦場の状況を見定めるエリスが、アナウンスした。 「ではキミの相手はオレがしよう」 零二が、奇襲をかけようとするピエロの間にすかさず割って入り、爆砕戦気で攻撃能力を上昇させたオーララッシュを繰りだした。その体から放たれた眩いオーラに輝くブロードソードの刃が、ピエロの衣服を斬り裂き、肉を裂き、腕を斬り落とす。 「それは、いいですね」 何かを納得したように声を上げた鳥頭森が、背後から、連続した弾丸でピエロの反対の腕を狙い、撃ち落とした。 「貴方に手なんて勿体無いわ♪ グチャッと壊れちゃってね♪」 「ってそんな薄っすら笑いながら言われるなんて、ピエロさんは災難なのだ……」 って回転していく結は、でも別に助ける気なんてさらさらなくて、むしろ助けるどころか、トラップネストとか発動して、ピエロの動きを封じ、「では、続きをどうぞなのだ」と、差し出す気分で、口走る。 「じゃあ、最後は頭、ドーンって、感じで、どうですか」 って誰に確認したかも分からないし、むしろ、そう口走った時には彼女はもう、B-SSを発動し、ピエロを撃ち抜いちゃっている。 とかやってるその頃、涼子は、何か静かに、切れていた。 多分誰にもばれてないだろうけれど、やたら無意味に明るい、そのくせ時々調子の外れるメリーゴーランドのポップな音楽がとにかく耳について耳について、段々ムカついてきて、苛々してきて、キーッ! って、気付いたら暴れ大蛇とか、発動していた。 単発銃(どんき)をガンガン振り回し、メリーゴーランドの柱にあたろーが、んーなもんしったこっちゃないすよ、みたいに、ピエロへ突っ込んで行く。 え、え、え、え、みたいにおろおろとナイフでとりあえず応戦してくるピエロに、更に突っ込み、どんどん突っ込み、頬を殴りつけ、肩を殴りつけ、横っ腹を殴りつけ、何か、グキっとか時々鳴ってるのは、骨の折れてる音なのかも知れない。 「さあ、こっちもぱぱっと排除だよ!」 そんな涼子の攻撃に手いっぱいのピエロの背後へ、すかさずナイアガラバックスタブを発動し駆け寄った夏海は、 「後ろは、取ったッ! 曳馬野、離れて」 フィンガーバレットをピエロの首筋へと突き付ける。 「さよなら」 そして、無数の弾丸を、放った。 ● 「っしゃー終わった終わったー」 ってまだまだ回転中のメリーゴーランドに、やっとこさ乗れましたー! みたいな歓喜に顔を綻ばせ、夏海が声を上げる。 それをアシュリーが、ぼーっとか、近くで煙草とか吸いながら見ていたら、 「では、オレは行くよ」 歩みよって来た零二が、言った。 「助けた人を早く返してあげたいからね」 「了解。アークの連中ももう来るらしいよ」 「彼女たちにも、程々にして、そろそろ切りあげるよう伝えておいてくれ。遊びはまた、日を改めて、とね。凶悪犯を捕まえたはずの何らかの機関の人間が、遊んでるなんて一般人に見られたりしたら、示しがつかない」 「それも、そうだな」 同じようにぼんやりと、回転木馬を眺めていた吾朗が、苦笑する。 「では、エリスも、零二と行く」 「わたしも行きます」 鳥頭森が、帽子のふわふわを撫でながら、言った。 メリーゴーランドは、暫くの間、幻想的な光を放ちながら、くるくる、と回っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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