● 二匹の雄たけびと、一人の笑い声が森の中に響き渡る。 幾時間もの戦い。周囲の獣たちはすでにそこから逃げさっており、此処に居るのは二匹の、いや三匹の獣。 男の三倍もの巨体を誇る二頭の熊と、何も持たず、狂喜を顔に浮かべる男が一人。 熊の打撃を受けながら男は吹き飛ぶ事も倒れる事もなく拳を放ち。 熊が崩れ落ちる。 「あっはっは。はっはっはっは! たーのしぃなぁ!」 男が拳を撃つように放てば熊は弾かれ、吹き飛ぶ。 片方の熊はすでに息絶え、この熊もまた。 「さぁトドメだぜぇ!」 男の闘気の篭った一撃により、命を落とした。 ● 「ノーフェイスよ」 集まった皆の顔を見ながら『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が言えば、リベリスタ達の顔が引き締まる。 それを見て和泉は頷きを返し観測された敵の詳細を皆へと伝えるために口を開いた。 「フェーズ2。配下には赤い熊と黒い熊が居るみたい」 頷く全員の顔を見ながら更に言葉を続ける。 「問題となるノーフェイスは格闘家。革醒の影響で自分の持つ力を振るいたがっているようね」 厄介な手合いだ。 力に溺れたノーフェイス。放置しておけばどれ程の被害をもたらすのか、想像に難くない。 「幸いまだ彼は森の中からは出ていないみたいだけど、それも時間の問題。皆が到着する頃にはもう森の入り口付近へと到着しているわ」 人気の来ない森の、開けた場所に出ると言う。 周囲に民家はないため人目を気にする必要もない。 「配下の熊はノーフェイスの援護を行うけれど、どちらも弱いという事もないみたい」 かと言って弱いわけではなく、援護に回られると厄介だと結ぶ。 「甘く見るのは危険よ。だから皆、気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:文丸 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月24日(火)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 嫌に成る程に静かな、静か過ぎる森の入り口。 生き物の気配は何かに怯えるように消え去り、周囲に民家の明かりもない。 「……本当に山篭りをする格闘家なんて居るんですね」 準備を行いながら言い難いような表情で『』雪待 辜月(BNE003382)が呟き。 「今回はそれが幸いしたという事なのでしょうね」 その声に反応を返したのは『』ユーキ・R・ブランド(BNE003416)だ。更に、このまま犠牲者が出なければ最上だと口の中だけで言葉にする。 ふと、皆は地が揺れるような錯覚を覚える。 何が原因なのか。いや――ナニかなんてこの場に立つリベリスタ達は知っている。 皆はその響きの正体に気づき、ある者は顔をしかめ、ある者は笑みを浮かべた。 敵はこちらに居る八人に気づいていないのか、それとも気づいて悠然と向かっているのか。 星を眺めていた『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)がタブレットを抱え、どのような戦いになるのか、記録する事を楽しみに考えつつのんびりと後方へと下がる。 ARK・ENVG[HERO]で微かな暗闇すらも削ぎ落とした『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が千里眼で先を見通しながら呆れたような口調で言葉を放つ。 「件の相手だ。真っ直ぐこちらへ向かってきていて、黒熊は格闘家の右後ろを歩いているな」 最初に熊を叩くと考えていた『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は楽しそうな表情で了解と小さく呟きながら雷切(偽)とブロードソードを引き抜き、構える。 そろそろ姿も見える程の近さまで足音が迫り、紫煙を燻らせていた『кулак』仁義・宵子(BNE003094)が心の底から笑みを浮かべ、煙草を地面へと落とし、踏み消す。 「んじゃ、やりますか」 言葉から漏れる戦意は皆へと伝わる。 同意するように『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)が華やかな笑みを浮かべ大煙管を一回転させ、その煙管の切っ先を向けた。 「いやはや気が合いそうな敵じゃな。――主を、殺しにきてやったぞ?」 言葉が聞こえたのかどうか、笑みを浮かべ、この楽しき空間へと誘われるように森から現れた男。背後に控えるように立つ熊にやや戦きながら辜月は皆へと小さな翼を与える。 浮かぶ笑みは期待か、悦楽か。何にせよその男はリベリスタ達との、強者達との出会いに歓喜しているのは事実だ。 無論その気持ちを持つのは男だけではない。 「論理決闘者にして群体筆頭、アノニマス。推して参る」 脳の伝達処理を向上させた『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)が 論理決闘専用チェーンソーを握り口火を切れば、同時に八人が動く。対して一人は、いや一匹の獣は笑いながら、激突した。 ● 「私はこの力を人々を護る為に使う! 変身!」 駆け抜けながら装備を纏った疾風が、黒熊をその名の如く通りぬけ、氾濫する川のような舞いで赤熊の前へと降り立つ。 その後ろ、通りすぎる疾風へと手を伸ばそうとした黒熊の前へ、そこに居るのが当然という雰囲気を持った迷子が清涼な川のように舞い踊る。 意識が逸れたのか、それとも疾風の速さに反応ができなかったのか。 「可愛い子だけ見てんじゃねぇ熊! てめーの相手は、この俺さ!」 どちらにせよ、黒熊はすでに遅い。目前にまで迫った竜一が駆るニ刀の得物が閃く。僅かに後ろへとたたらを踏むが、それは黒熊を吹き飛ばすまではいかなかった。 だがしかし、一時的に敵意を完全に向ける事には成功したようである。 「ハッ!」 格闘家は笑い、動く。顔に悦楽を溢れさせ、拳には力を込め。自身へと向かってくる弐升へと踏み込む。 初撃、真っ向から放たれた閃光の如き拳を視界に納め、ダメージを抑えるために僅かでも避けろ、と弐升の思考は伝える。身体を動かそうとし、だが絶妙な位置から放たれた拳を避ける事は出来ないと判断。 拳が身体を貫いたような感覚、内部へと広がるような痛みが高められた処理能力は元の状態へと戻す。その痛みの中、決して目を逸らさずに居た弐升は、笑う。 「避けられないなら、次を考えればいいだけでしょ」 拳が放たれると同時、軌道を読み最善の場所へとチェーンソーを叩き込む。骨を削る感触はない、だが確かに深くまで肉を断ち切る。引かぬが故の攻撃。 互いに初撃としては上場と言った所で、だが戦闘はまだ、序奏にしか過ぎない。 「いい男共だねェ! あたしも混ぜとくれよ!」 一瞬の鬩ぎ合いによる僅かな間隙を逃す事なく、宵子が格闘家へとкулакを装着する炎を纏う腕を振りぬく。 格闘家は連続して繰り出される猛撃に、更に笑う。強い相手と巡り合えたと言う喜びを表すために。 拳は男へと当たり、宵子は笑みを更に深くする。 ――当たりが、浅い。 当たった同時に自ら後ろへと下がったのだろう、故に完全には当たらなかった。だがそれはこの戦いがまだまだ続くという事を意味する。宵子が笑みを深くするのは当然だ。 「■■■■■■――!」 黒熊は主の状況を悟ったのか戦意を上昇させる雄叫びを高らかに上げる。主の目的である戦いを更に楽しませるために。 そんな黒熊の隣を素早く通りぬけるのは二人。漆黒を身の内から生み出すユーリと、脳の処理能力を高めるチャイカ。二人とも雄叫びに少しだけ眉を潜めている。 更に全体の後方から場を見渡すのは辜月。回復役として唯一全員を見渡す彼は、マナの循環を高めながら格闘家の一挙一動を見る。 僅かな癖でも確認できるのならばそれはきっと味方のためになると信じて。更に、大きく傷を負った者を癒すために。歯がゆく厳しい役目だろう。 「――――!」 赤熊が威嚇の咆哮を上げて疾風へと腕を振るう。緩慢な動作から繰り出される一撃を軽々と受け流し、涼しい表情で文字通り燃える拳を放つ。 受け、よろける熊の後ろにはいつの間にか漆黒を纏うユーキの姿がある。 「甘い、そして今です」 疾風の言葉が放ち終わった瞬間、漆黒の霧が赤熊の身体を覆う。知覚できたのか、できていないのか。それすらもわからぬ程に一瞬で黒い棺が形作られ赤熊の姿が見えなくなった。 「……残念、しくじりました」 棺に閉じ込めた熊は無理やりに霧を振り払いその姿を現す。身体には幾つか傷が見える事から完全には振りほどく事は出来なかったようだ。 動こうとした赤熊は痛みに声を上げる。黒い霧だけではなく、いつの間にか周囲に張り巡らされていた糸。霧のように振りほどこうともがけばもがく程に身体を絡めとっていく。 罠にかかりもがいている赤熊の様子を笑顔で見ながらチャイカは頭の隅に現在の状況を書き留める。 「さっさと離れて、俺を熊殺しと呼ばせろ!」 赤熊の救援に向かおうとする黒熊へと再度二刀が閃く。黒熊は腕をクロスさせて防ぐが、その巨体で耐え切れない程の力が込められた一撃は巨体を容易く弾き飛ばす。 二度目ともなればどこを叩けば相手を弾く事が出来るのかを、竜一が経験と勘で見抜いたのだろう。 その様子を確認した迷子は黒熊は問題ないと判断し、ひらりとスカートが舞う。一瞬の早業。スカートに皺が出来ていないかを確認しながら、迷子が赤熊へと視線を向ければ、縛られた身体から血が舞っていた。 「このまま一気に畳み掛けたい所じゃが」 余裕をもった仕草で格闘家へと目を向ける。最低でも赤熊を倒さなければそちらへは加勢へはいけない事を内心で歯噛みしながら。 格闘家の対処を行っている二人は今の時点ではまだ防ぐことが出来ている。 右の弐升と左の宵子。左右から迫る二人は見る、微かに足が動く前兆を。 弐升は覚悟して腹部への一撃を受ける。同時にその様子を見ていた辜月が身体を癒しの風が包み、受けた傷を回復する。 続けて喰らい付くように放たれた蹴りが宵子へと延びると同時にチェーンソーで肉を、その更に深くまで裂く。 「気弾ぐらい使えないんですかぁ? ぶっちゃけ、拍子抜けなんですよねぇ!」」 一見して柔らかい、だがよく見ればこの勝負への楽しさを滲ませて弐升が言い放つ。 同じく宵子も蹴りを受け止め、更に一歩踏み込む。己の心意気を見せ付けるために、己の心を貫くために。 「疾さが売りなら、こっちは熱さが売りだよ!」 轟、と風を押しつぶすように放たれた拳を、格闘家はニヤリと笑い己の拳で受け止める。 各自それぞれの想いを抱き戦いは更に白熱していく。 ● 赤熊が、吼える。 その咆哮は断末魔にも似ており、最後の力を振り絞るようにして放たれた叫びは格闘家と黒熊、そして自身の傷も癒していく。 だとしても赤熊の命運はもうとっくに決まっている。 「これで終いです!」 疾風の拳が赤熊の巨体を浮かし、その身体は燃え盛る。炎に包まれた、すでに朽ち果てる直前の身に申し訳なさを含んだ瞳で、ユーキは黒い光を放つ武器を構え、穿つ。 貫かれた赤熊はそれ以上の行動を起す事は出来ず、ゆっくりと大きな音をたててその身体を倒した。 「……あと少しで静かになります。その時は安らかにお眠りください」 倒れた熊へと言い残しユーキは戦場を見渡し、離れた場所で戦う竜一と黒熊へと視線を向けた。 赤熊が倒れる前に残した咆哮は先ほどまで削っていた黒熊の体力を少しだが回復させていた。 「こっから、本気でやってやるよ! その身に刻め! 俺の名を!」 二振りの剣が黒熊の反応を凌駕する。闘気の篭った武器が防御をも打ち破り先ほど回復された傷以上のダメージを確かに刻み付けた。 赤熊をも倒された黒熊は痛みの報復するように大きく腕を振りかぶり、一気に振りぬく。 その腕を防ぎきれなかった竜一は血を吐きそうになる程の激痛を感じ、声を上げる。 「こ、この熊つええー! へるぷみー!」 「はいはーい。お助けにきましたよー」 赤熊への対処が終わりいち早く移動していたチャイカがタブレットの角で黒熊の喉元を狙い僅かに掠る。 他の二人も来れば優勢ははっきりとしたものとなるだろう。 いや、優勢となり、速攻をもって倒さなければならない。格闘家は多少の傷を得ているとはいえ未だ健在。 回復を行う辜月を含む三人でどうにか戦線を支えている。もしも二人の内どちらかが崩れれば少しばかり厳しい状況になるだろう。 ゆらり、と格闘家の身体が揺れる。 ――これは! 姿を見た弐升が防御を行おうとし、パンッ、という何かが弾かれる音が響き、ザザザという音と共に地面を削り弐升の身体が後方へと吹き飛ばされる。疾風の名を冠する拳だけはあるのだろう。 それでも直撃以上にならなかったのはやや遅れたとは言え初撃を受け流そうとした結果がよい方向へと働いたおかげか。 見切る事が難しい拳を前に宵子の心は更に燃え上がる。 拳を振るうのは、楽しい。だが更に当てるために相手の動きを視界に納め、挙動に集中し、構える。 「お邪魔させてもらうぞ。――さぁ、存分に語り合おう」 集中し当てるための一撃を準備する宵子を援護するために、そして自らの楽しみのために迷子が格闘家との戦いに参戦した。 黒熊は次で竜一ら四人が決めるだろうという判断の下、二人ではやや厳しくなった状況の援護のために。 新たな敵対者の登場に格闘家の笑みは更に、更に深まる。 大煙管を使わずその拳を振るう迷子の素早い炎の拳。それを防ぐ事が出来ない。 更にそこへ吹き飛ばされた弐升が加わり先ほどまで以上の攻防が繰り広げられる。 きっと終わりは近い。格闘家も、黒熊も。 「外しませんよ」 黒い棺の中に黒熊が閉じ込められ、苦痛の叫びが轟く。先ほどから続けられる竜一の攻撃は確実に体力を奪っていた、ならば四人の集中攻撃に長くもたないのは当然。 その苦痛をいち早く終わらせようとする慈悲をもって疾風もまた幾つもの拳を叩き込む。 黒い霧が散った後、ふらふらと揺れながら、それでも戦意を見せる黒熊の頭にチャイカがタブレットが振り下ろされる。 「熊殺し貰ったぁ!」 ダメ押しとばかりに放たれた二刀が炸裂し黒熊は最後、小さなか細い声を上げて巨体を沈ませた。 格闘家はその光景を見たのか見ていないのか。だが黒熊が最初に上げた戦意の声を最大限に活用するために格闘家は、拳を、足を放っていく。 目を向ける先に居るのは、宵子。弐升に同じ手が通じないと判断したのか、迷子を後に回すべきだと判断したのか。 もしくは――格闘家へと向ける戦意を受け取ったのか。 ゆらりと、身体が揺れる。宵子はそれを見つめる。 「来ます!」 辜月の言葉が届いたと同時に福音の音が響き傷ついた者を癒す。 格闘家の姿が掻き消えるようにして、宵子に拳を放つ。 受ける。一歩も前に引かぬという顔で。酒に酔ったような高揚した顔で、宵子は、哂う。 「拳を信じるのはあんただけじゃないよ!」 一直線に放たれた拳は格闘家を吹き飛ばしかねないような重さで直撃する。 「楽しい戦いじゃった!」 「いい遊びでした」 迷子の拳が追撃をかけ、弐升のチェンソーが格闘家を切り裂き。格闘家は出会った時と同じ、それ以上の笑みで目を閉じて。 戦いが終わり、リベリスタ達は帰路へ着く。今日の戦いの残り火を胸に抱いて、また次の戦いへ向かうために。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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