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【七不思議】忘れられた話

●Case1 手毬唄
 てんてんと毬を突く音と共に、古めかしい手毬唄が聞こえる。

 その声が耳に入り、女教師は首を傾げる。窓の外はもう日が落ちた夜。
一人職員室に残り小テストの問題を作っていたところだった。確か古い童謡だ。あまり近頃は聞かれなくなったが……
 さて仕事も終わり、帰ろうと彼女が席を立った瞬間、再度響く声に目を見張った。近い、すぐ傍だ。
 いつの間に入ってきたのか、職員室の扉向こうに少女の姿が見えた。
「いっしょにあそぼ」と、手毬を差し出してくる。
 女は苦笑しながら近付き、そして小さな腕が抱えている手毬に気付く。毬にしては歪ではないか。
 目を凝らした所で少女が身を翻す。慌てて追いかけ廊下に出れば、心許ない暗闇の中を少女が駆けて行くから、つられてその背を追う。
 廊下を曲がり、階段を下る――その途端、少女の姿が視界から消失する。
 ――え?
 さっきまでここに居たのだが。
 首を傾げる女の耳に新たに響いた少女の声は、背後から。
「新しい毬、ちょうだい」
 直後、彼女の視界が暗転する。体が階段を転がり、ぶつかり弾みながら、落ちる。
 踊り場に叩きつけられ、ごとりと横たわった体からは首から上が失せていた。

 夥しい血のシャワーが染める階段の上で微笑む少女。
 足元に古い毬を転がせて、新しく手に入れた毬を手にはしゃいでいる。きゃっきゃっ。キャッキャッ。声が1人、もう1人と増えていく。
 遊ぼ。遊びましょ。また歌声も聞こえ始める。……あ、今間違えた。え?この唄は、こうよ。クスクスと笑い合う。
 てんてん……毬を突く音が遠ざかり、いつの間にか消えていた。

●Case2 青い目の人形
 校門を乗り越え忍びこんだ人影が夜の校庭を駆けて行く。一人の男子生徒だ。

 今日はなんてツイてない。配られた宿題を机の中へ置き忘れて帰るなんて。明日、全員提出しているかどうかでクラスの休日補修の有無が決まることになっている。
 なんて宿題を考えたんだ、もし明日出さなければ皆に何を言われることやら……
 追い立てられながら少年が歩を進める先、何かが校庭に立っていた。一瞬身構える。
 怪談話の類を思い出し、ぞっと背筋に寒気が走る……が、良く良く見れば、いつも応接室前の廊下に飾られている人形だ。なんでも外国製で、何代か前の校長が持ってきたとか、昔亡くなった生徒の親が寄付したものだとか言われているが、実のところは定かでない。
 こんな所に何故?誰かの悪戯だろうか。怪訝な顔をしつつも拾い上げようと近付いた直後に足が止まる。
 その人形は、およそ体半分が焼け爛れていた。更に胴はぼろぼろの穴だらけ。
 ぎょっとした少年の目の前で、人形はギギと動き出した。
「あ、ああ……」
 恐怖に震える少年の目の前で、みるみる内に体が膨張し、彼と同じほどの大きさになる。
 その手には――
「ガッ……!?」
 それと認識する前に鈍い衝撃が響き、竹槍が少年の左眼を貫いた。絶叫をあげようとした口に、続けて槍の切っ先が穿たれる。口腔から喉まで深く深く貫き、引き抜いた後はご丁寧に胸元も突いていく。何度も、何度も。何度目で命が絶たれたのか、判別できぬほどに。

「マダダ。ワタシ達のイタミはこんなモノじゃナイ……」
 モット、モット。そう呟きながら人形は、静まり返る校内を抜け、体育館の方へと姿を消して行った。


●忘れられた話
「……被害者が出るの。女教師と生徒の2名。止めてきて欲しい」
 室内に揃ったリベリスタ達へ向け、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の話が続けられる。

 時間は辺りが暗闇に染まる夜。
 女教師が襲われるのと男子生徒が校庭に入るのと、ほぼ同じ時間帯になると言う。
 つまり少女と人形が出没するのも、同じ頃。
 そのまま分かれて戦っても良いし、分が悪い場合は互いに上手く誘導して、かち合うようにしても良い。誘導するなら挟撃できる可能性もあるし、逆にされる可能性もあるだろう。
 片方を捨て置けば教師と生徒のどちらかを犠牲にすることになってしまう。

「少女は全部で3人。最初は1人しか姿を見せないけど、じきに1人ずつ増えていくの。分裂しているように見えた。本体はフェーズ2、残りはフェーズ1。人の首を手毬にして遊ぶのを楽しんでいるみたい。それで、武器はどれも刃物を持ってる。
人形の方はフェーズ2。人間を憎んでいるようで、竹槍で襲いかかってくる。元々は普通の西洋人形らしいサイズだけど、戦う時は人と同じくらい……大体150~160cm程に大きくなる。自分の武器とは別に、自由意思で動く竹槍を3本従えてる。竹槍はフェーズ1」
 そこで気になったことを誰かが尋ねる。少女と人形は仲間なのか、と。
「それは分からない……けれど仲間同士、敵同士、どちらにしても先に貴方達を倒そうとすると思う。敵の敵は味方、そういうこと」

 学校は人通りの少ない道に面しており、校門から順に校庭、校舎、体育館と続いている。
 また、応接室は1階、職員室は2階、男子生徒の教室は3階にある。
 当日学校に残っているのは、件の女教師と男子生徒のみ。
 女教師は職員室で仕事。男子生徒は校門から校庭を抜けて、校舎内の自分の教室へ向かう予定となっている。

「二人とも無事なように何とかして。そして敵も、放ってはおけないから必ず倒してきて」
 頷き席を立つリベリスタ達。
 そういえば、とイヴが言い添える。
「随分昔になると思う。この辺りは以前、女の子が何人か誘拐されて殺される事件があったらしい。それと、戦時中には輸入品のセルロイド人形を此処の校庭に集めて、竹槍で突いてたくさん燃やしたこともあったって。何もこの学校に限ったことではないけれど……悲しい話、ね」
 きっと今通ってる生徒達はもう、こんな話知らないんだろうね――イヴの言葉が少し寂しい響きを帯びたのは気のせいだろうか。

 記憶は風化するものだから。
 語る者がいなければ、次第に忘れられていく話。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:紅遥紗羽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月04日(金)00:15
こんにちは、紅遥と申します。
宜しくお願い致します。

■成功条件
全E・ゴースト、E・ゴーレムの討伐
女教師、男子生徒の生還

■舞台
夜間の学校。
とくに手を加えなければ、光源は校庭に1本ある外灯、廊下の非常灯、職員室の明かりのみ。

■敵情報
●少女
E・ゴースト
職員室前の廊下に出没。
最初は1人ですが、1ターン経過毎に1人増え、合計3人となります。
遊んでいた手毬(生首)が古くなったので、新しいものを欲しがっています。

・本体×1
フェーズ2
武器は大鎌

首ちょうだい:物近単[流血][致命]…接近して首を刎ねる
遊びましょ:物遠範[ブレイク][自HP回復]…真空の刃で薙ぎ倒し同時に自己回復
こっちにおいで:神遠範[魅了][呪殺]…奇怪で耳障りな笑い声で精神を蝕み肉体にもダメージを与える

・分身×2
フェーズ1
武器はそれぞれナイフ、包丁

切り裂き:物近単[流血]…接近して斬り付ける
いじめないで:神遠単[虚弱][混乱]…聞く者の精神を抉る悲痛な叫び声を響かせて攻撃
ころさないで:神遠味全[HP回復][BS回復]…不協和音の鳴き声で味方の傷を癒す

●人形
E・ゴーレム
人間をとても憎んでおり、痛めつけて殺すのが望み。

・西洋人形×1
フェーズ2
武器は竹槍

殺意ト復讐:物近単[流血][猛毒]…恨みを籠めた竹槍での刺突攻撃
槍吹雪:神遠範[呪殺][自HP回復]…無数の槍を出現させ叩き込む一閃
血の涙:神遠味全[HP回復]…呪いの言葉で自らを鼓舞させ治癒の力を生み出す

・竹槍×3
フェーズ1
空中を浮遊し、個々の意思で人形のサポートに動く

毒槍:物遠単[毒][ブレイク]…毒を纏った刺突攻撃
無刃槍:神遠味全[BS回復]…不可視の力で味方に治癒を与える

■その他
今回、校内にある全ての部屋・施設に出入り可能ということに致します。
何か必要なものがあればお使いください。
なお、「明らかに普通の学校には無い」ものは用意できないことにもなります。

女教師は偶然居残る羽目になっていますが、赴任してからあまり経っていない為、普段学校で起こることや行事・スケジュールなどにあまり詳しくありません。
男子生徒の目的は宿題なので、それが手に入ればすぐに帰宅します。

女教師・男子生徒への直接接触は非推奨ですが、作戦上、接触せざるを得ない場合、その後の処置もプレイングに記載してください。

それではご参加お待ち致しております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
花咲 冬芽(BNE000265)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
インヤンマスター
岩境 小烏(BNE002782)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)

●今宵幕を開ける
「七不思議か~どの学校にもあるもんだよね♪ あ、三高平の七不思議は全部リベリスタ関連な気も……」
『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の言葉通り、実際何処かで七不思議状態になっていそうだが、そこはあまり深く考えない方が良いだろう。
「虚実が真実になる事も神秘界隈じゃ珍しくないけどね」と『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)。荒唐無稽な噂話の中に隠れた真実、今日はそれに会いに来た。
 人形を相手取る4人は、生徒達の下校後も早々に校庭へ潜伏して時を待つ。
「強い想いを残して去り、そして残ったこの世は生きるモノの世界だ。命あらざるもののいる世界ではない」
『アヴァルナ』遠野・結唯(BNE003604)の全身を染め上げる漆黒が、夜の闇に溶け合う。垣間見える肌とチェーンの銀色だけが仄かに浮かび上がっていた。
 そろそろ終の出番だろう。
「終さんの大人な対応、期待してるよっ」
 冬芽のウインクに、終も「任せといてよ」と笑顔で応じる。眼帯の右側で瞳が悪戯っぽく輝いた。携帯電話を掛けた先は、他でも無いこの学校。「はい、こちら三高原市立……高校です」出たのは女性、彼女が件の女教師だろう。
「コンビニに寄った際にそちらの生徒さんが夜中に学校に忍び込んで悪戯しようと話してるのを耳にしましたので連絡させて頂きました。確か校門前に19時集合とか……」
(――超言葉使い頑張ったオレ!)
 終の心の声が聞こえてくる気がする。
「えっ!? まさか……あの、貴方は」プツリ。途中で断ち切られた電話。けれどとにかく何とかしなければと思ったのだろう、やがて校舎を出、校門へと向かう女性の姿に綺沙羅が気付く。
「責任感のある人だったみたいで良かったわね。で、これからどうするの?」
「んー。まだあの男の子来てないみたいだねぇ……」
 女教師にはなるべく長く外に居て欲しい。終は少年の幻影を作り出し、校門から逃げて行く様を演じさせる。目測通り、幻影の背を追って出て行った教師の姿が見えなくなるのを待つ彼等の背後から、カタカタと何かの鳴る音が聞こえて来た。
 人形にとって、人間なら誰でも構わなかったのだろう。運悪く今日という夜にこの場に居た人間なら。故に時間の多少は些細なこと。
 校庭のライトがぼんやり照らす場所に、古びた西洋人形の姿が浮かび上がっていた。
「ああ、ぼろっちい人形。さあ鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
 歌になぞらえて手を叩いて見せ、人形を挑発する綺沙羅。終は別班で行動している4人へ、
「こちら終。先生は学校の外に出て行ったよ」と連絡することも忘れずに。
 一行は体育館へと足を速める。
 人形は眼窩で青い目をぎょろりと回し、カタカタと歪な音を立てて追い駆けてきた。

●始まりの夜
「こちら少女班、小烏。了解だ、倒したら後で落ち合おうな」
 人形班からの連絡に、『赤錆烏』岩境・小烏(BNE002782)が応じる。
 少女を対応する彼等4人は校舎内に身を潜めていた。教師が居ないことを確認し、職員室前へ向かう。
『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が人形の頭を取り出した。冬芽が愛用する人形“AAA”を人の頭に見えるよう仕上げて貰ったものだ。精巧な出来栄えに、つい自分も見入ってしまう。
「これで誘き出せたら良いんだけど……あっ」
 声を上げる彼女の視線の先を追えば、首に釣られて出て来たのか、ゴーストたる少女の姿が現れる。
「学校にゃ怖い話が付きものだよな。俺様もよく校内で耳にするぜ」
『アルブ・フロアレ』草臥・木蓮(BNE002229)の三つ編みが揺れる。
 けれど。「……詳細が思いだせないものも多いよな。そんなの普通だと思ってたが……忘れられる方からしたら、たまったもんじゃないんだな」男性勝りな口調の中にも、女性らしさと哀感を帯びて、自らの髪に触れる。
 彼女が柔らかな髪に結わえたのは、古い着物から誂えたリボン。少女が生きていたであろう年代を思い、凝らされた趣向。藍の生地で美しい蝶々の形を成すリボンは、揺れればまるで花から花へと舞う姿に見えて。
 少女が見惚れたそれは、生前に望んでいながら手の届かなかったものなのかも知れない。
 気を惹かれた様子で瞬きする少女へ畳み掛けるように、小烏が人の好い笑顔で毬を持ち上げて見せる。
「よーく跳ねる毬が此処にある。広い場所で遊ぼうじゃねぇか」
 パチパチ目瞬きし、人形の頭を、リボンを、毬を……彼等を見つめる少女の足が、つと一歩前に踏み出された。即座に4人で目配せし合う。
 ――掴んだ。その、確信。
「角が邪魔だろうが、お前ならスッパリ切っちまえるだろ?ほら、欲しかったらこっちに来いよ!」
 身を翻す、木蓮の蝶が“こちらにおいで”と誘う。走り出す彼等の背後から追ってくる気配、それは紛れもない少女のもの。
 目指すは――屋上。

 かくて屋上の扉が大きく開け放たれる。
 転がり込むように屋上へ散開したリベリスタ達の目の前に、いつの間に持っていたのか、大鎌を携えた少女が姿を現した。
 小烏は思わず首に手を遣り、嘆息する。薄らと血の滲む切り傷が一筋。あと一歩遅ければ、刈られていたかも知れない。
「……さて、刈られる前に終わらせようじゃねぇか」
頷く仲間達。いち早く『秘されし大罪・情熱の』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が地を蹴った。
「綺麗でしょう? ほら、金糸銀糸に瑠璃の珠で飾った私の首。欲しければ、こちらにおいでなさい」
 絹のような金色の髪をアップに結い上げ、見せる首筋は少女への挑発。そうやすやすと、首を渡す心算など無いけれど。
 常より増した一陣の風にも似た速度で誰よりも早く少女へ接敵し、愛刀『戦太刀』の研ぎ澄まされた連撃で斬り込んで行く。巻き起こる風に、美辞をそのまま映したかのように艶やかな髪と濃紺のリボンが舞い踊る。
 木蓮が狙撃手としての集中を高める横を小烏が駆け、黒曜色を湛えた鴉の左手がバサリと風を切る。右手から放たれた式符の鴉が主の意思に応え少女の肩を貫く。
「……来るよ!」
 アンジェリカの視線の先で、もう一人の少女が現れた。リベリスタ達は屋上を駆ける。ここで戦うには少々手狭だが、周囲を見渡し易いという利点もあった。
 木蓮は一人の少女にピアッシングシュートを打ち込む。迷い無く少女を貫いた弾丸が爆ぜ、『Muemosyune Break』の銃身が火花を受けて煌めく。
「舞姫、次頼む!」
「はい!」
 舞姫が流れるような太刀捌きで少女の胴を裂く。苦しげな表情で、少女の一人が泣き叫ぶ。齎された治癒の力に歯噛みする思いだが、此方には高い体力を持つ舞姫と木蓮がいる。地力で遅れを取るつもりも無い、その想いを表すかのように、アンジェリカの体が舞う。
『黒姫』――愛し思い出のドレスを纏う彼女はフェンスを蹴って少女の前に降り立ち、痛烈なブラックジャックの一撃を見舞う。
 ここで仕留めなければまた回復の繰り返し。小烏がチャクラムに力籠め、大きく振り被れば、符術で編まれた鴉が鋭く敵を射抜き、立て続けに傷を受けた少女が一人かき消えた。そして入れ替わるように、新たにもう一人の少女が姿を現す。
 残るは二人、まだこれから。
 少女の本体を弄し続ける舞姫の動きは、悲哀の籠った声で慟哭する少女達の攻撃を受けながら尚、研ぎ澄まされた刃の如く。体よりも痛むのは心か。
「……一歩たりとも譲らない!」
 淀み無き剣戟が、夜の屋上に響いた。

●闇の中で踊る
「――誰かを……何かを救うものはね」
 広い体育館の中、縦横無尽に空を走る竹槍の毒刃に堪えながら、冬芽が人形へ語り掛ける。
 もしかしたらそれは。口ずさむ一節の歌か、咲き誇る一輪の花か。或いは誰かの笑顔かもしれないし、誰かが流した一滴の涙かもしれない。
「あなたもきっと誰かを救ってきてたんだよね……だから、赦せないんだよね?」
 誰か。その言葉に一瞬見せた迷いか、人形の穿つ竹槍は僅か目標を逸れ、終の腕を切り裂いた。
 痛む腕で、終はナイフの刃を閃かせ、残影剣を見舞い返礼をする。高速の残像が竹槍へ人形へと斬り付けた。
 愛らしく整った容姿と裏腹に、雪の冷たさを内に秘めた綺沙羅の服がふわり舞う。手番を引き受けた彼女の術式が雨となり、目に映る敵の姿を凍りつかせていく。
「……竹槍とか古臭い。それを使って人形をぼろぼろにした当時の連中の頭もね」
 狙いは常に人形へ。桃の髪を踊らせて舞う冬芽のAletheiが人形の体を、周囲の竹槍も巻き込んで切り刻む。ギッと軋む音が紛れるのは着実に体力を削っている証拠。残る竹槍が旋回し、切っ先を向けられたのは結唯。空を切る音が重なり、竹槍の毒刃が容赦なく傷を残していく。
 続けざまにくらった攻撃に、人形は早々に回復へ手をつけた。溢れる血の涙が傷を癒していく。厄介ではあるが全快に至るほどでは無い。綺沙羅は冷静に戦況を判断していた。
 回復手段が豊富にあるのなら、それを上回る攻撃を与え続けるとでも言うように、心情を武器に乗せ攻め続ける彼等の攻撃は、少しずつ人形達の傷を深めていく。
 武器のかち合う硬質な音が響く中で、痛みの応酬の先にあるのは悲しみでは無いと願っている。

 木蓮の銃が幾度目かの閃光を放つ。
 昔語の中で忘れられた者の悲しみを、今日初めて知った気がした。
「今夜のことは……ずっと覚えていよう。これから誰かが忘れても、な」
 二人に分かれていた少女のゴースト達は着実に倒され、一体に溶け合って、やがて毬に蝶に目を瞬かせていた少女の姿が残った。
「そろそろ疲れたろう、休む時間だ。そんでまた、いつか遊ぼう」
 小烏の言葉に少女が瞬き、「……また遊んでくれる?」
「ああ、きっと。毬つきでも、かくれんぼでも何でもな」
 “いつか”は、もう無い。それでも小烏は約束した。果たすことよりも紡ぐことに意義のある、少女への花向けの、優しい約束だった。“またいつか”は希望の言葉でもあるのだから。
「ねぇ、君にも愛された記憶はあったのかな……?」
 アンジェリカが、抱きしめるような優しさで手を伸ばす。

「――ねぇ。私の何かは、あなたの救いにはなれないかな?」他の誰でもない、花咲冬芽として。
 冬芽のオーラが死を招く弾丸となり、人形の片腕を打ち砕く。
 破片を散らせながら迫る人形に、結唯がフィンガーバレットを両手に銃口を構え、声を荒げる。
 人は神を造り、神は人を育む。人は祈り、神は成す。片方だけではありえないのだと。
「その神が人間に――我らに牙をむくと言うのなら。その神を殺そう……生きているなら神様だって殺してみせる!」
 打ち込まれた弾丸が人形の体に罅を入れ、体が大きく傾く――けれど動きを止めるにはあと一歩及ばない。
 まるで合わせ鏡のように、結唯の脇腹を竹槍が貫く。肌を突く音に鮮やかな血の花が咲いた。
 戦闘時の立ち回りを思い描いていなかった結唯は思いの他ダメージが深く、綺沙羅の治癒の後にも受けた傷に耐え切れなかった。崩れ落ちる彼女の体を冬芽が抱き止め、託すような瞳で終を見上げる。
 交わす視線に頷き、自らをピエロに例える青年が地を蹴った。
「痛かったよね、辛かったよね。君は全然悪くなかったのに……」
 ……今、楽にしてあげるから。
 今夜の出来事は、終の求める価値となり得るだろうか。

 ――アンジェリカの優しい願いを籠めた鋼糸が、最後の少女の胸元を切り裂いた。

 ――人形の胴を、恨みも痛みもその一撃に引き受けた終のソニックエッジが貫いた。


●消えゆく夜の中で
 その一撃が、止め。
 分かたれた戦場で各々の想いが交錯する。

 ぼろぼろになった少女がガクリ、と壊れた人形のように膝を突く。
 ――もう戦えないことは明白だった。
 アンジェリカが少女へ駆け寄り体を抱き起こす。愛を知る娘が、傷だらけの手に優しく触れる。過ったのは愛しい神父の顔。
「君達の痛みも悲しみも、きっと忘れさせたりしない……約束するよ……」
木蓮が、閉じた少女の目から一筋の涙が流れていることに気付く。いつ流した涙だろう。戦いの最中か、或いは。
今であって欲しい。痛み悲しみに囚われないで欲しかった。
 舞姫が、少女の流した涙を、そっと手でぬぐう。
「わたしは忘れません……貴女たちのことを。怪談としてではなく、哀しい少女の悲話として」
 消えゆく少女への手向けに、囁く声を風に溶かした。

「もしもし、キサよ。こっち、終わったわ。そっちはどう?」
 愛用のキーボードを片手に抱き、少女班に連絡を取る綺沙羅の声。木蓮が応じる。
「ああ、こっちもちょうど終わったところだ。そっちに向かう」
 何一つ痕跡は残さないようにしましょう。怪談として記憶に残るのは彼女等の本意ではないでしょうから。
 そんな舞姫の言葉に、仲間達は頷く。皆で手分けし、残された人形や竹槍を回収していく。
 こつん。冬芽の靴に何かが当たったような気がして見てみれば、人形から跳ね飛んだと思しき小さな白磁の欠片が一つ、足元に転がっていた。
 私はあなたの救いになれたかな?
 冬芽は拾い上げた欠片を、そっと両手で包み込んだ。祈りがどうか届きますように。
 終は人形を抱き上げた。持ち帰って弔ってあげるつもりだったけれど、慰霊碑の類が出来るなら、そこに埋めて墓代わりとする方が良いだろうか。せめて何かをと、取れ掛けていた人形のリボンを解きポケットに仕舞った。ふと人形の頬が汚れているのに気付き、拭いてやる。少し綺麗になった人形の顔に憎しみの情は無く、仄かに笑んでいるように見えた。貴方達の行動に意味があったのだという、言葉なき肯定だった。
「……終くん?」そんな友人の様子を見て、気遣うように声を掛ける舞姫。
「何でも、ないよ」終は俯いて、顔を逸らした。彼女はそれ以上追及はせず、
「……人形。埋めるなら、お手伝いしましょうか」
 一緒に、校庭の隅に埋めてあげましょう、と。
 顔を上げ、頷いた彼の表情はいつもの笑顔に戻っていた。

●語られるもの
 それぞれに少女の、人形の最期を見届けた皆が校庭の隅で落ち合う。
 残された名残を、共に校庭の一角へと埋葬していく。そんな仲間達の姿を綺沙羅が見守っていた。哀切を洗い流したかのような夜風が頬に心地良い。
 終が人形の体に優しく土を掛け、冬芽は傍に竹槍も埋めてやる。木蓮が傍に生えていた野花を一輪摘み、そっと墓前に供えた。
 ちょうどその時だった。一人の男子生徒が駆けてくる姿が見えたのは。
 校庭を、少年は未来視の通り走っていた。通り過ぎようとする彼の背を、アンジェリカの声が打つ。
「ちょっと君、こんな夜に一人でどうしたの?」
「え?それがさ、明日絶対出さないとヤバい宿題があってさー」言いながら振り向き、驚きに目を見開く少年。まさか夜の学校に、こんなに人がいるとは思っていなかったから。
 けれどそんな怪訝な表情も小烏の、
「宿題、か……今から一人でやるのは大変じゃねぇか?何なら手伝ってやろうか」との一言で吹き飛んだ。
 綺沙羅が更に、
「実は私達もちょっと訳ありでね……お互い先生に黙っておいて貰う代わりってことで、どう?」意味ありげに笑って見せて。
 なるほど確かに先生にばれたなら怒られるに違いない。お願いします、とプライドも無く頭を下げる少年に、一同は快諾する。
 ……ありがとう!! 返ってくる嬉しげな声に笑顔が咲いた。
 校舎際の物陰に皆で身を潜め、宿題を解きながら、舞姫は七不思議のことを少年へ尋ねてみる。
そういえば、と少年は記憶の中から拾った話を語り出した。曰く、贈られた相手は昔の校長の娘だったこと。取り上げられる前は相当可愛がっていたこと。
「そっか……愛されてた時期もあったんだね」
 良かった。胸のつかえが取れたような表情で、ほうっと息をついたのはアンジェリカ。
 首を傾げる少年に、「……あのね、こんな話知っている?」冬芽が、皆が一緒になり、少女達や人形の悲しい物語を話し出す。その話が始まる頃にはもう、宿題はすっかり解き終えていた。
 互いの口止め以外に見返りも無く、宿題を手伝ってくれた彼等の話と真剣な眼差し。どこか物悲しい話。
「このまま忘れられてしまうのは寂しいから、君一人でも覚えていてくれたら嬉しいな」
 終の声に、少年は俯き、何事か考えているようだった。

「遅くならないよう早く帰るんだぞ」
 小烏を始め、皆が少年に別れを告げ見送った後。やがて彼等の目に、首を傾げながら校門へ入って来る女教師の姿が映る。彼等の姿には気付かずに校舎へ戻って行ったようだ。
「それでは、私達も帰りましょうか」
 職員室に明かりの灯る校舎を見上げ、舞姫が促す。

 さようなら。
 ずっと覚えている。


 ――後日。かの学校で、少女や人形達の供養塔を作る話が持ち上がる。
 発端は学校へ送られてきた一通の手紙。かつて彼女達の身の上に起こった悲しい出来事が切々と綴られていた。それは皆が忘れて仕舞うことの無いようにと願うアンジェリカの計らい。話を聞きつけたのは宿題が出来ないと涙目になっていたあの男子生徒だった。校庭の隅に、ささやかなもので良い、彼女達の存在した痕跡を残して欲しいと教師達に語る彼の言葉は、しかし子供の話と聞き流されそうになったところを、一人の女教師の賛同により前向きに検討されることとなる。

 忘れないで。
 忘れないよ。

 忘れられた物語は、リベリスタ達が織り成した短くも長い夜を経て、語り継がれる物語となっていく。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
大変、長らくお待たせいたしました。

少女達や人形達は、寄せられる想いが無ければ、ただ倒されるだけの存在だったでしょう。
「ただの話」で終わらなかったのは、添えて頂いた優しさのお陰です。
頂きました心情は、出来る限り詰め込んだつもりです。

戦闘シーンに関しましては、敵同士の共闘を防ぐために戦場を分けて頂いたものと思われますが、結果的に戦闘の効率も良く、またそれぞれの行動や想いの違いも引き立てることが出来たように感じました。

ご参加誠にありがとうございました。