● 「えー、つーかバカじゃねぇ?一回死ねよ」 少年は、笑いながらクラスメイトの頭を小突く。頭を小突かれた少年も笑っている。 よくある、じゃれあい。 少年はクラスメイトと別れて家に帰った。 ドアを開けると母親が『勉強しなさい!』とキッチンから声を張り上げた。 「うるせー、クソババァ、死んじまえ!」 少年は、自室への階段を登りながら大声で返答する。 よくある、光景? ――よくある。 深夜、携帯が鳴った。 少年は、枕元に手を伸ばすと携帯を見る。 携帯の液晶に写った名前は、夕方に別れたクラスメイトのもの。こんな時間になんだろうと思いつつ、携帯を耳にあてた。 「はい、もしもしー?」 『……』 「…………」 耳元で告げられた言葉を聞くと、少年はベッドから立ち上がる。 携帯を片手に握ったまま、逆の手には部活で使っているバットを持って。 少年は、階下にいる両親の元へ向かった。 数刻の後、少年の足元には血の池。 床に転がるは、両親の死体。 少年の持つバットは、鮮血に塗れていた。 「……」 少年は再び、携帯を耳に当てる。 そして、ドアを開けると外へ出た。 携帯からは、声が響いている。 『サツガイセヨ』 ● 「えと……。少年がアーティファクトに心を囚われ、殺人を犯しているわ……。これ以上犠牲者を増やさないためにも、急いでアーティファクトを回収もしくは破壊して欲しいの」 ブリーフィングルームのスクリーンには、少年と携帯電話が映し出される。 「アーティファクトは、この少年の持つ携帯。音声を以て少年の心と脳を支配し、殺人をおかさせているわ。殺人に至るキーワードは『死ね』という言葉に関するもの……」 慣れない手つきでぎこちなく資料を捲り、『もう一つの未来を視る為に』宝井院 美媛(nBNE000229)は詳細を説明する。 「殺人を犯しているのは、緋色修一という少年……ね。この春中学を卒業したばかりで、中学校では野球部に所属していたようだわ。この少年が、悪意の有無に関わらず『死ね』という言葉を発するに至った相手を次々に殺しているの」 子供だし、恐らく何の気なしに言っていた言葉だとは思うのだけど……。と、美媛は言葉を続ける。 「アーティファクトである携帯は、少年が死ねと言った相手に対する殺意を増幅させる音声を携帯から伝えてくるわ。そうすると操られた少年は『死ね』と言ったことがある相手を殺すために行動を開始するの。凶器は、部活で使用していたバットです。戦闘になれば、バットを使って闘いを挑んでくるわ」 スクリーンに映し出されたバットは、所謂金属バット。トレーニング用のウェイトを先端につけてあるので、ただ振っただけでも当たればかなりのダメージを受けそうなのが見て取れる。 「なお、アーティファクトは自らも魅了の技を持っていて、更に持ち主の少年もしくは自分に触れたり害を与えるものが現れた際にエリューション・アンデッドを呼び出してくるわ。それは、少年が殺害した両親で、フェーズは2。母親は包丁、父親はゴルフクラブを振り回して攻撃してくるわ」 スクリーンには、在りし日の両親の姿が映し出されている。美媛は少し悲しげに瞼を伏せる。 「少年に遭遇するタイミングは両親を殺害した後の家の前……。少年はクラスメイトを殺しに行くところよ。――残念だけど……、少年の両親を救うことは出来ないわ。少年を殺さずに済んだ場合は、精神的なフォローも必要になるかも知れないわ」 よろしくね、と、美媛は深く頭を下げ、資料を閉じる。 「自分が何気なく言った言葉なのに……こんな風に作用したことを少年が理解したら、本当に辛いと思うの……」 ぽつりと呟く、美媛。そして彼女はブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月21日(土)00:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 深夜の住宅街を、幾筋もの光の帯が照らす。その帯は徐々に速さを増して移動していく。 それぞれ準備した光源を体に装着したリベリスタ達が目指すは、アーティファクトに心奪われた少年の家。 「言葉は力なり。因果応報……で片付けちゃうには、多分修一さんにとっては酷な話なんだろうけど」 『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)は、少年の顔を思い出していた。 その言葉に返したのか、独り言なのか。全速力で向かう足は緩めずに、『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)は呟いた。 「殺すね……別にいいけど。 そんな言葉軽くに口にするもんじゃないわよね……。 口にしても良いのは自分も殺される覚悟があるヤツだけよ……。 ……平和ボケした坊ちゃんには想像できない世界ってことでしょうけどね……」 「軽い気持ちで言ったことが現実になるだなんて誰も思わないわよね。 でもま、もう過ぎてしまった事は仕方ないけど」 『ティファレト』羽月・奏依(BNE003683)は、闇紅の呟きに言葉を返すと、続けて決意を口にする。 「これ以上人を殺させていいわけないもんね。絶対に、止めるよ」 「その通りだ。……これ以上の不運を、積み重ねさせてはならん。 力づくでしか止められんというのなら……我が拳、全力で振るうまで」 『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)は、駆けながら握り締めた己の拳を見つめた。 「日本の美意識だよね、言葉って」 『кулак』仁義・宵子(BNE003094)は、葛葉に併走するとふと空を見上げた。 空に浮かぶ月。「月が綺麗ですね」と言った言葉の裏に想いを隠しているなんて、他の国には無い物かも知れない。 だからこそ、思わずにはいられない。 「少年は言葉の神様に嫌われちゃったんじゃないかなって」 でなければ、何故こんなことが起きてしまったのか――。 ● 洋風住宅の扉がゆっくりと開き、少年――緋色修一が、現れる。 ゆらゆらと、上半身を左右に揺るがせながら歩く、その姿。力なく垂れ下がった右手に握られた金属バットからは、今まさに殺めてきたのだろう。両親の血が、滴り落ちている。 そして、左手に握られたアーティファクト――携帯。 それを眼中に収めると、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は、眉間に皺を寄せた。 「アーティファクトで歪められた人生の話は枚挙に暇がないが、これもまたやるせねえ話だ。 携帯のせいとはいえ本人の手で親を殴り殺してるんだしな」 「ああ。本当に大切なモノは失ってから気付くとはよく言ったものだ。 操られていたとはいえ、子が親を殺す等と言う事になってしまうとは……」 温かい家族……両親の顔すら知らぬ彼には手に入らなかったものだ。 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の帽子につけられたヘッドライトが、緋色修一の顔を照らした。 虚ろになった瞳、しかしその瞳には狂気にも似た光が宿っている。 「――くそっ、胸糞悪い。 悪いがこのアーティファクト、確実に破壊させて貰う」 福松は手に握る相棒の銃口を修一の携帯へと向けた。 その携帯を照らすのは、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の腰につけられたランプだ。 「本当に。ひどいアーティファクトね」 あの携帯が修一を惑わした。修一は携帯を所持していただけだ。それだけの事で、彼の両親は命を失い、修一は殺人者になった。 「まあ、修一のことは別に何も思わないよ。 わたしだって、そんなに正しくは生きてないから」 だからこそ、狙うのは修一ではなくアーティファクトだ。 福松にあわせ、涼子も携帯に銃口を向けた。 それを合図に、奏依は結界を展開する。 ――戦闘開始。 「こんにちは、修一さん。これからお出かけですか?」 冬芽が影――ゲーデを呼び出しつつ、声をかける。呼びだされたゲーデは、冬芽を護るように彼女の傍らに並び立った。 修一は呼び声にも反応せず、彼女とゲーデの脇を通り過ぎようとする。その眼前に、大鎌を振り出した冬芽。ゲーデもそれに倣うように、修一の前に立った。 「悪いけど……ここから先へは、行かせないよ。 これ以上の殺しも、神秘への踏み入れも。私達が、貴方の境界線になってあげる」 冬芽を退けようとした修一よりも早く動いたのは闇紅。 「面倒なので最初から飛ばしていくわよ……」 尋常ではない速さを手に入れたその体で、修一の進路を遮るように立った。 次いで動いたのは、吾郎。彼もまた自分の速力を高める。 そして、修一が動く。 呻りを上げ、振り抜かれた金属バット。狙われたのは闇紅だ。 腹に重い一撃を受け後方へと吹っ飛ぶ。 それと時を同じくして、『ギィ』という音が響いた。 「来たか……」 家屋から現れた二つの人影。その一体の前に、葛葉が立つ。 「……息子の危機を感じて、という話なら少しでも救いもあるのだがな。……存分に怨め。義桜葛葉、これよりそちらを殺す者の名だ──」 息子の為ではなく、ただ、アーティファクトに呼び出されただけの『モノ』 その姿に悲しみにも似たものを感じつつ、闘気を爆発させる。 「少々時間稼ぎに付き合って貰おう。……時間稼ぎといっても勿論手も出すが――そう簡単には倒れんだろう?」 体から噴出するかのような闘気を纏った葛葉の体は、男性のE・アンデッド――父親を完全にブロックしていた。 葛葉にブロックされた父親を押し退けるように、女性のE・アンデッド――母親は前に出る。 母親は修一を抑える闇紅へと包丁を突きだした。その手を捕らえると、吾郎は手首を捻り上げる。 「アンタらも災難だが、こうなっちゃあ仕方ない。覚悟しろよ」 吾郎の剣が乱れ舞う。母親は切り刻まれ、麻痺の呪いを受けた。 涼子と福松の銃口は、戦闘開始時からずっと修一の手に握られた携帯を狙っていた。 いつでも引鉄は引ける。しかし、修一が動くたびに、その手に握られた携帯は動く。その為、なかなか弾丸を放てない。 福松が忌々しげに舌を鳴らす。その音を耳にとめると涼子は呟いた。 「先にアンデッドを狙う」 「あぁ」 涼子の言葉に福松は短く返答すると、弾丸を母親へと撃ち込んだ。 母親の体が大きく九の字に折れ曲がる。それと同時に、けたたましいコール音が鳴り響いた。 その音は、奏依の脳の奥に囁きかける。――『サツガイセヨ』。 「あ……っ」 奏依は体を震わせ、その言葉に抗うように耳を塞ぐ。 奪われそうになる心と体。それに抗い、叫びを上げる。 「そんな簡単に人殺しなんてしてたまるもんですか――!」 けれど、それを退けることは出来なかった。 奏依のドレスがひらりと翻る。それは、母親ではなく、仲間を狙うため――。 ヘビーボウガンから放たれた矢が一閃、葛葉の頬を掠め赤い筋を生み出す。 「魅了か」 葛葉は、父親にメガクラッシュを叩き込むと、頬を伝う温かい雫が何であるかを悟る。 リベリスタの中にバッドステータスを解除できる者は居ない。 咄嗟に、近くに居た福松が彼女を抑えつけた。 その間に、母親が両手に構えた二本の包丁を天高く振り上げる。 刃先はXの字を描き宵子へと迫る。その腕を、宵子は自らの両腕をクロスして受け止めた。 「人ってさー、結構脆いんだよね」 包丁を受け止めた腕が、ギリギリと軋む。母親の全体重が、彼女の腕へとかかっていた。それでも宵子は、修一を睨み付けた。 「言葉でだって、傷つくし、壊れるんだよ」 意識がなかろうが関係ない。言葉が通じぬことはもとより、自分は言葉を操るのは得意ではない。 だから、自分の理屈は、拳で語る。 宵子の業火を纏った拳に胴を打ち抜かれ、母親は焔に巻かれ消え去った。 未だ、奏依の魅了は収まらぬまま。けれど、母親が消え、状況は好転しつつあるかに見えた。 闇紅は修一の動きを止めるべくソニックエッジを放つ。その腹目がけて、修一はバットを思い切り振り抜いた。 「……っ」 バットは、闇紅の腹を強かに討ち、彼女は後方へと吹っ飛ばされた。 「闇紅さん!」 一緒に修一を抑えていた冬芽は、修一へとギャロッププレイを繰り出す。 「今より紡ぐは不殺の糸。 だけど、死ぬほど痛いから覚悟してねっ」 仲間が受けた傷を返すかのように放ったそれは、冬芽の語った通り、糸の如く修一を絡め取り縛り付けた。そう、麻痺という糸で。 吹っ飛ばされ、後方へと転がった闇紅はゆらりと立ち上がる。どうやら体に異常は来していないようだ。 「……ふぅん……少しはやるじゃない……いいわ……もうちょっとだけ遊んであげるから」 まだ、止められる。 ガゥンッ!! 福松の弾丸が、修一の手を掠めた。 携帯を確実に狙っていた銃弾は、修一の体がゆらりと傾いだ事で、命中のチャンスを逃す。 そして、警報を鳴らすように携帯のコール音が響いた。吾郎の耳の奥で声が聞こえる。――『サツガイセヨ』。 吾郎は、脳内で響く音に身を捩った。 「気をしっかり持って!」 「気持ちで負けるな!」 携帯の標的を把握したリベリスタは、魅了に負けぬように声を上げた。 「うおぉぉぉぉぉ!!」 仲間たちの声に押されるように、吾郎は叫ぶ。それは、魅了に落ちたからではない。 アーティファクトに喰われそうになる意識を、強い意思で跳ね除けた叫び。 「俺は殺しを好き好んでしたかねえんだよ、強要されるなんてもってのほかだ!」 携帯の呪縛を払いのけた怒れる男。だが、それでも冷静さを失わず、仲間たちが攻撃する父親へと襲いかかる。 それに合わせ、葛葉のメガクラッシュが炸裂し、父親を葬り去った。 残されたのは、修一と。アーティファクト『携帯』。 未だ魅了から回復できぬ奏依は仲間に抑えつけられ、味方を襲う事はないが、それは仲間たちを回復する役割が欠けている状態でもある。 それもこれも、こんなアーティファクトが存在したためだ。 「こんな携帯は残しちゃおけねえ、絶対だ」 吾郎は、自らの脳を侵そうとした携帯を睨み付ける。 その携帯を、修一は耳に当てる。流れてくる音声を聞き取ると、冬芽と闇紅目がけて渾身の力でバットを振った。 二人はフルスィングをモロに受け、呻きを上げた。 そして、闇紅は今まで受けたダメージが重なり、己の限界を超え、倒れる。 遠ざかる意識。その先に見える光の糸を、決死の気持ちで手繰り寄せた。 「……あたしもまだまだね……だけどやられっ放しで終わったりはしないわ…… きっちり返すからそこ動くんじゃないわよ……!」 睨み付ける瞳に宿るは、燃え尽きることの無い生命の炎。 「これ以上……好きにはさせないわ」 奏依が正気を取り戻した。 闇紅の体力が大幅に減少している事を察知すると、即座に天使の息を吹かせる。 そして、闇紅を庇うように、宵子が修一の前に飛び込んだ。 「ぶっ殺すなってまたまあ、面倒くさいなー」 彼女の心情では、それが正直な感情。 人の考えに口を出すことはしないが、それでも、修一を殺さずにという作戦には疑問が残っている。 「まあ、仕事だから出来る限りの事はするけどさ」 携帯を狙う事の出来る仲間、そして一度倒れてしまった闇紅を庇うため、全力防御の構えを取った。 「今だ」 宵子がブロックしている修一は動きを止めていた。機会を告げる福松に、涼子は頷きを返す。 二人のショットが遂に携帯を射止めた。 暗闇に無機質な音が響く。アスファルトを転がる携帯。リベリスタ達は、携帯に止めを刺そうと駆ける。修一も携帯を拾うために駆けだした。 それを追うように動いたのは、闇紅。背後から襲いかかると修一を地へと倒し、その手を抑えつける。 「おとなしくしてなさいな……別に殺しはしないわよ……殺す価値もないしね……」 修一の手は、携帯の寸前で抑え込まれ、動きを封じられた。 地に転がった携帯は、自らを護る術もなく――破壊された。 ● アーティファクトが壊れると、修一は本来の意識を取り戻した。 それを確認すると、闇紅は背中越しに手をひらひらと振った。 「結果的な事までは面倒見切れないし……。 後始末とかはアークにお任せ……あたしは疲れたし帰るわ……」 宵子は、ポケットを探ると煙草を取り出す。口に咥えて火をつけると、大きく紫煙を吸い込んだ。 この一本は、仕事終わりの一本。今日やったことは、あくまでも『仕事』。 「仕事だよ? 本当はこの子の命なんて関係ないさな」 紫煙を燻らせ、先を行く闇紅に続いた。 残された6人は、状況を掴めずに寝ぼけたような顔をしていた修一の周りを囲んでいた。 闇紅と宵子が立ち去る間に、ぼんやりとでも記憶を取り戻したのだろうか。 修一は悲鳴ともつかぬ叫びをあげた。 慌て、その体を福松が取り押さえ、更に声を上げる修一の頬を葛葉が叩く。 「……済まん、だが落ち着け」 強い平手打ちを受け、修一の叫びは止まる。リベリスタ達は修一を家の中へと入れ、今までの経緯を説明した。 黙ってそれを聞いていた修一は、リベリスタ達の説明が終わると、頭を抱える。 「なんで、殺してくれなかったんだよ……」 両親を殺害し、今日からは自分を保護する者は居ない。この春高校に上がる少年には、重すぎる現実。 「親を殺して、一人になって……これから、一人でどうすればいいんだよ……っ」 喉を締め付ける様な声、修一の頬から涙が零れ落ちる。 「これからどうするかは、修一が決めることだけど。わたしたちは一人にするつもりはない」 涼子が静かに言葉を発する。そして、修一を正面から見据えた。 「そうだ。警察に自首して自ら罰を求めるのも否定はしない。 だが、こうなってしまったのは、あんたの意志じゃない」 福松は、涼子の言葉に続けると修一の体を抑えていた手を離す。 「さっき話したように、今回の一件はアーティファクトによるものだ。 修一が心から望んでやった訳じゃない。 罪を償いたいなら警察へ行くことも出来るが、しばらく考えたいなら『アーク』に連絡を取って保護を願い出ることも出来る」 先ほどの説明で、アーティファクトやエリューションについて確り説明していた吾郎も、言葉を添えた。 修一は彼らの言葉を聞き続けるが、それでも判断はつけられずに居る。 「少年、君がただ悪い訳じゃない。……今回の事件の真相を自らの内に仕舞い込む、というのならそれも選択の一つだ」 葛葉は、修一の前に膝を着き正面から瞳を見据えた。 「……だが、操られたという事であっても、両親を殺めたという事実を受け入れ、罪を贖いたいというなら、俺達は止めん」 選択権は、修一にあるのだと告げる。 幾度も出てくる『警察』という単語に、修一は胸を締め付けられる思いを感じていた。 警察は、犯罪者が行くところ。リベリスタ達から告げられた事で、己は『犯罪者』であると言う事を自覚する。 思わず、震える手。その手を奏依が取り、消毒薬を付ける。 「さっき組み合ったときに、手を擦りむいたようね」 「痛っ」 消毒薬が染み込むと、痛みに顔を歪める修一。思わず手を引っ込めそうになったが、その動きを止めた。 「父さんと母さんは、もっと痛かったんだよな……」 同じくらい苦しんで死ねば、罪を償えるのかな、と呟く。 その言葉に、冬芽の手が動く。 「さっき貴方を縛った糸の事は覚えていますか? もう一度、死ぬほど痛い目にあってもらうこともできます。 あの糸は不殺の糸。……だけど、死ぬほどの痛みを与えます。 さっきのと合わせて、貴方は二回の死の苦しみを味わうことになる。 ご両親の分だけ、苦しむことが出来る。 それで罪がなくなるわけではないけれど……」 錯乱しての言葉では無い事を理解すると、冬芽はギャロッププレイを放つことはせずに、修一に語り掛ける。 「もし苦しいのならばその痛みを抱えて、心の中で石を積みなさい。 一つ積んでは父の為。 二つ積んでは母の為。 これからの全てを、大切に積み重ねて生きなさい。 私達は、それを……貴方の為したい事を、全力で支えてあげるから……ねっ?」 「……でも、警察に行くのは……」 怖い――。 奏依の暖かな手に包まれていた時は震えなかった手が、また震え始める。 「わたしは」 涼子の声に、修一は顔を上げる。 「運が悪いだけの修一が殺人犯になるのは気に食わない。だから、警察に行かせるつもりはない」 自らがリベリスタである以上、『人』を――『ノーフェイス』を殺してまわる自分とて、『人を殺している』事に変わりはない。 なのに、修一だけが裁かれるのは納得がいかない。 「アークに、いこう」 修一の震える手を、涼子は掴み引き上げる。 今まで腰を下ろしていた修一は、涼子に引かれると立ち上がった。 皆が止めても、ここは譲らないと告げる涼子。 そして、修一は決断を決めあぐねたままだ。 「一旦アークで保護してもらおう。そこでゆっくり考えるといい」 リベリスタ達は、アークへと向かう準備を始める。 涼子に手を引かれ家を出る修一の背中に、福松が声をかける。 「あんたの選択を誰も責めやしない。 逃げたって構わない。時間だけが癒してくれる事だってある。 無責任な事を言うつもりは無いが、それでも敢えて一言だけ言わせて貰うなら。 ――願わくば、生きてくれ」 修一はその言葉に、振り返らずに小さく頷いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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