●らびりんす 行けども行けども出口が無い。 いっそこの場に座り込んでしまおうか。 等、思うけれど、この足だけは決して止めてはいけない。 逃げねばならない。何故なら追って来るからだ。 逃げねばならない。今日も目を覚ます為に。 はやく はやく ゆめならさめて 夢なら、夢なら、何でもするから、早く早く早く―― ●おめざめない 目覚まし時計のアラームが鳴り響く。 鳴り響く。いつまでも鳴り響く。 布団から投げ出された手はピクリとも動かず、真っ白い色をしてた。 まるで死人の様に。 ●三高平 「という訳でして、『E・エレメントの討伐&一般人の救出』ですぞ皆々様。 そして私はメタフレフォーチュナのメルクリィです」 いつもの様に事務椅子をくるんと回して振り返ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 その背後モニターには何とも奇妙で不気味な光景――廊下、だろうか。長い長い、曲がりくねって幾つにも分岐している廊下。両壁の下部には非常口の誘導灯がズラリと並び、通路は不気味な緑色に染め上げられている。通路は狭い。並べても2,3人だろう。 これは……迷路、か。 「御覧の通り」 フォーチュナが口を開く。 「これは迷路。しかし実際に存在しているのもでは――いや、ある意味実在しているんですけども」 つまり。 「これは一般人『浜田・恭弥』の悪夢なんですよね。 夢だから割と何でもアリ。この通り異様な光景ですし、空間は無限大。この迷路には出口も入り口もありません。無限大に続く永遠の迷路です。仲間とはぐれたりしたら絶望的ですぞ、お気を付けを! サテ……この悪夢に巣食ったエリューションがおりましてな。 E・エレメントフェーズ2『悪夢さんB』。画像はありません――と言うのは、悪夢さんBは『見た者が最も嫌悪感と恐怖を感じる』姿になりましてな。 怖いものなんて無い! と自信のある方でも心の底の恐怖が曖昧な姿となって顕現する事でしょう。 サテ問題の悪夢さんBですが、皆々様の後方よりやって来ますぞ。動きはゆっくり……なのですが、妙に速い。ずっと立ち止っていると凶悪な近接技で大ダメージを受けてしまいますぞ! 常に走って逃げつつ戦う事になるでしょうな」 それから、と続ける。 「悪夢さんはその姿から視界に収めただけで気が遠ーくなりますぞ。心も身体も傷付けられる事でしょう。 それと、当然これは恭弥様の悪夢なので夢の中に恭弥様もいらっしゃいます。 まぁどんだけ神秘を見せ付けても『夢』って事で片付きますんで神秘秘匿に関しましては問題無しですぞ。 さてここからが問題。夢の中のダメージは現実世界にも反映されます。つまり、夢の中で重傷状態になれば実際に重傷状態になりますし、恭弥様が夢の中で死んでしまえば現実の恭弥様も死んでしまいます」 つまり夢の中では恭弥を護りながら、且つ迷宮を走りつつ悪夢さんBと戦わねばならないのだろうか。 「一つ言っておきますが、この廊下の壁も天井も何故か壊す事が出来ません。夢だから、でしょうか。泥臭く走るっきゃないですな。 悪夢自体も、悪夢さんを討伐するかフェイトを使う事で脱出が出来ますぞ」 色々と頼みますぞ。言いながらメルクリィがリベリスタ一人一人へ手渡したのは錠剤だった。 その背後モニターには閑静な住宅街と安アパート、薄いカーテンで遮られた窓。閉まっているが鍵は開いている。 「この部屋が恭弥様のお宅ですぞ。屋根伝いにこの窓から楽々入れる事でしょう。 8人全員が入ったらちょっと狭いかもですがまぁ大丈夫です。詰めて下さい。 恭弥様は眠って魘されてますし、何やっても起きません。討伐後もきっと眠っていらっしゃる事でしょう。その辺はご安心を」 それから、と先の錠剤に機械の指をゴトンと乗せる。 「肝心の悪夢への入り方ですが、方法は簡単。恭弥様の傍で眠ればよいのです。 これはその為に用意させて頂いた睡眠薬。事前に飲んでおけば、恭弥様の部屋に辿り着く頃には効き始める事でしょう。 ――以上で説明はお終いです」 ニッコリ。凶悪な顔面を笑ませた予言師が皆を見遣る。 「それではお気を付けて。醒めない夢は無いのです――御武運を!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月22日(日)00:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●うつつにまどろ 結界で人目を憚って屋根伝い、窓を開けて、そこに立つ。 魘されている声。それから、目覚まし時計が秒を刻む音。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が式神化させた獏のぬいぐるみが主人の肩でキューと鳴く。悪夢退治って言えばやっぱバクだろ――撫でた指先でフツが印を結べば守護の結界が薄く仲間を包み込んだ。次に施すは翼の加護。 「まさか夢の中でエリューションと対峙する事になるとはな」 俺の恐れるものはやはりあのエリューションだろうか。脳裏を掠める光景、『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は防御のオーラをその身に纏った。 「夢の中で逃げてる時ってどうして上手く走れないんだろう? そして目が覚めたらすごい疲れてるのよね」 仲間達一人一人へオートキュアーを施しているのは『蜂蜜色の満月』日野原 M 祥子(BNE003389)、何度も瞬きを繰り返しているのは睡眠薬が効いてきたからだ。ああ、眠たい。抗い難き睡魔。脳味噌の中でチクタクとやけに時計の針が、針が――駄目だ、寝てしまう。 瞼の裏はどこまでも暗い。 ●toイグヂット 緑色。迷宮。 「頼むぜ」 フツは獏の式神に命じて先行させる。彼方。古びた電灯がぶーーんと鳴る音。悪夢に囚われた者を捜すべく。 「……まあ、なんていうか。こう、居るだけで不安定になりそうな、ところねえ」 はぐれたりしないように。『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)はぐるりと周囲を見渡した――何処までも続く迷路、非常口と知らせる緑色。 「ひたすら迷路。この誘導灯どこに案内するつもりよ。まったく、よろしい趣味ですこと」 出口なんか無い癖に。呟き捨てて、身体のギアを上げた。 (湯羅を見たとき、『怖い』って感情を理解した。だけどそれは根源的な恐怖じゃない気がする) 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は足元より影の従者を呼び出しつつ、思う。ボクが怖いと思う物ってなんだろう?無意識的に己が唇に触れる。眠りに落ちる前、「必ず助けるから」と魘される男へ呟いた唇。 一方で、怖じける様子を一切見せずに『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は鼻歌交じりで三高平公園前バス停を引き摺っていた。謡っていた。 「沈む回廊 夢うつつ 呼び声遙か胡蝶の夢の向こうの果て 醒めぬ夢に微睡み揺蕩う 不条理の夢沈む深く遠く 死人の誘いゆるゆると――迷宮、夢のなか。面白いわ」 ごり、ごり、と武骨なコンクリートの音を鳴らして断言する。 「怖いもの、ルカにはない。 世の中は不条理で理不尽に満ちた箱庭カタコンベ 夢のなかに入って迷宮に囚われるのよ」 地下墓地、そして墓守。獣の神経で気配を探り、警戒する。 「嫌悪と恐怖か」 同じくと周囲を警戒する『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が牙の奥で唸る。怖い?そりゃ俺だって何も怖くないたあ言えない、俺だって怖いもんはいくらでもある。今一番怖かったのは…… (そうだな、やっぱ温羅だ) 圧倒的な力っていうのは、ああいうことなんだろう。つい先日の死闘。 だが、だからこそ。 「こういう時に立ち向かって勝てれば、一皮剥けそうじゃねえか。 俺の知る限り、立ち向かう奴はいくらでも思いつく。俺もな、そいつらと肩を並べるためにも引きたくねえんだ」 刃を構える。彼方を見澄ます。 キュ、とフツの式神の声が聞こえる――恭弥を発見したらしい。彼は激しく走っていたのだろう。荒い息に膝に手を突き、驚いた表情でリベリスタ達を見渡している。 「安心してくれ、オレ達は味方だ。あんたを助けに来た」 「え……?」 「もう大丈夫だ、後は任せてくれ」 恭弥の肩をポンと叩き、フツは抱き上げた獏を彼に託す。主人を見るぬいぐるみへ、 「この世界や浜田に、何か妙なことがあったらすぐに知らせろ」 周りを見張らせる為。ついでに、恭弥の不安が僅かでも紛れたらいいのだが――取り敢えずは夢の世界という事もあり特に訝しがられたりする事はなかったようだ。 「いいか、うんと下がっとけ」 侠気の鉄を構えた義弘が張り詰めた声で低く言う。彼が、誰もが、察していた。 緑の奥から、何か、何かが、来る――来ている―― 「くるわよ、ガタガタ震えて祈りを乞う準備はできてる?」 真っ向。吾郎と共に立ち塞がる様に立ったルカルカがバス停を構えた。緑に照らされたそれは形容しようの無い、姿の無い、されど心臓に細い虫が這う様な不快感。歪む視界。 「ふぅん、気分は、悪くなる程度のものね。けど、ルカは、嫌なものは、怖いものは、殺すことにしているの」 誰よりも速く跳び出した。光すらも従える速度で距離を零に消し飛ばした。振り上げるのは、武骨な鈍器。 「だって、怖いものが目の前にあるなんて許せないじゃない」 速度を乗せた鈍器が閃光を散らしながら何かを殴る、殴る、抉って潰して叩き伏せる。 その間にも、じわり。脳味噌を揺さぶられているかの様な。視界がブレる、されど何かの何かを鋭く躱すや再度バス停を振り上げた。 何かが何かを囁いた――それは吾郎にとって凄まじい怨嗟の大咆哮として耳に届いた。 紛れもない、温羅。自分達に葬られた筈の、あの圧倒的で絶望的な。血に塗れた姿。あの血は、仲間達の。あの手で殺した。あの脚で殺した。跡形も無く。奪っていった。血に塗れた仲間が睨んでいる。生々し過ぎる幻が武器を振り上げ縋り付いてくる。脳で鼓膜の裏でガンガン響く騒音に叫んだ。振り払う様に。切り払った。 「ふざけるな。そんなものはクソ喰らえだ!」 凶器を暴力の儘に振り回す鬼の王から、仲間の幻から決して目を逸らさず。心と体が折れる前に倒しきる。折れても魂で奮わせる。 「形のわからない恐怖に、尻尾丸めて怯えるような真似はしてられねえんだよ! 人生楽しく生きられるだろう年の奴らがこぞって戦ってるんだ、いい年の俺ができなくてどうする!」 胆の底からの咆哮。鬼が振り下ろした鈍器に打ち据えられても強引に踏み込み、超速の連撃を次々に叩き込んだ。鬼の悲鳴が、仲間の悲鳴がいっぱいに響き渡る。それでも目を逸らさず、真っ正面から、危険は承知で傷付きながらも攻撃を繰り返した。 『メリー・メリー・クリスマス』冬童・ユキメ(BNE003710)が悪夢さんに取り込まれ姿を消したその光景――フツにとって、それは自分が仲間を殺している姿に映った。誰も、何も護れない、何一つその手に無い、無力でどうしようもない、価値なんて無い、必要無い、意味も無い、紛れも無い自分で、自分なのだろう。 (オレが恐れるのは、オレだ。誰も守れなくなっちまったオレだ) 脚が異様に重い。動かし難い。自分の脚では無い様な……虚ろな目と目があった。 『偽善者』 言葉は刃となって突き刺さる。深く。痛い。されど逃げない、願行具足を開く。この身に満ちるは衆生の想い。その想いがある限り。震える指を抑え込む。 「オレはまだ……守ってみせる!」 放つ破魔の光で視界を白く、蝕む全てを拭い去る。 ぼくの、こわいもの。 強いて言うなら、ドールかしら。日本人形も、にがて。 「ヴィルの家にね、ドールの並ぶ部屋があったんだけど、怖かったわ。 いのちが、感情がないのに、ひとの形をしているものって、どうしてあんなに怖いんでしょう、ね。ふしぎ」 きみはどう思う?ポルカが訊ねたのは人形の群れ。堆く、命の無い目で幾重にも幾重にも彼女を凝視している。淡々と。気が遠くなって千切れてしまいそう。 「さあさ、それではおやすみなさい。夢の終わりを、はじめましょう」 歌う様な声でステップを一つ。踏み込み、繰り出す超速の刺突。人形が一つ一つと砕かれていく、砕かれながらも手を伸ばしてくる。ペタリと掴まれたその手の、得も言われぬ不快感。せり上がる嘔吐感。引き摺り倒される。人形の群れに引きずり込まれる。人形になる。人形になる。人形になんかなりたくない。切り裂いて、砕いて、立ち上がって、跳び下がった。 人形に触られた頬から血が流れている。流れて、伝って、唇へ。口の中へ。 「ひとの血は、ほんとうにほんとうに、美味しくないのよ」 刃を、手を伸ばし歩み寄って来る人形へ突き付けた。 「悪夢を見せるきみの血は、美味しいかしら」 遺作の長く麗しい銀の髪を靡かせるのは迷宮に響く神秘の歌、祥子は目の前の『ソレ』からつい目を逸らす。 巨大蜘蛛に見える。 ガサガサ、カサカサと這い寄って来る。 どんなに小さいやつでも蜘蛛に殺される気がして怖いのだ。蜘蛛恐怖症。なるべく見たくない。 (あたしの前世は蜘蛛に食い殺された虫に違いないわ) 悪夢さんを倒したら少しは克服できるかな――逸らした目、視界の端に恭弥の不安げな様子が見える。だから、無理をして笑って、ちょっと冗談めかす様に。 「それにしてもお兄さん家で寝ていただけなのに死ぬ目に会うなんて運が悪いわね。 いま連れて帰ってあげるから、ちょっと後ろの方で待っててね」 再度詠唱を始める――悪夢さんから逃げず目を逸らさず真っ向から立ち向かう故、それだけ前衛陣の被害が酷い。祥子のオートキュアーやフツの支援があるとはいえ、戦いが長引けばそれだけ危険な状況になるだろう。 侠気の鉄を構える左手がジワリと痛む。 義弘の目に映るのは黒い塊、無数の腕、巨大な口、並ぶ臼歯。 (暴食――俺の侠気と左手を砕いていった、あの化け物……) 無意識的に左手へ手を遣る。大丈夫、ついている、動く、ある、大丈夫。 霞みそうになる視界で正面から見据え、震えそうになる足で踏ん張って、逃げてやるつもりは無い。 真正面からぶつかってやる。そして打ち倒すんだ、奴を。 暴食が手を伸ばしてくる。全てを喰らい尽そうと。だが、立ちはだかる侠気の鉄が悪夢の侵攻を許さない。受け止める。踏み止まる。暴食の吐息が、気が遠くなりそうな悪臭が義弘を包む。大きく開けた口、並ぶ臼歯、ゾッと背筋を這うあの記憶。食べたい。食べたい。声なき声が咽の奥から義弘を手招いて居る。腕が引っ張る。食べたい、と。 嗚呼、喰われる。いや、喰われて堪るか。 「俺は盾だ。どんな恐怖も受け止める!」 メイスの一振りで腕を払い除け、十字の光を放つ。これでも貪るが良い。こっちを向くが良い。それだけ皆が攻撃に集中出来るのであれば。 「どうして……」 息が上手く出来ない。身体の震えが止まらない。 アンジェリカの目に映るのは冴えない中年男だった。貧相な見た目のそんな男、多分誰が見ても怖いなんて思わないだろう。それは両親の死後彼女を引き取った夫婦の夫。 殴られ、蹴られ――それだけじゃない。忌まわしい記憶。下卑た笑みに見下ろされ、汚い手が身体を這いずるあの感触。せり上がる嘔吐感に堪え切れず、蹲った。吐いた。咳き込んだ。あの頃は何の感情も無かったのに、今は、怖い、逃げたい。今すぐに。 だけど、自分が、自分達が逃げたら誰が恭弥を救うのだ。 (それにボクは一人じゃない、皆がいるんだ) 「神父様、ボクを守って……」 黒姫と名付けられたゴシックロリータドレスをぎゅっと握り締める。愛する神父が自分にくれた物、命の次に大切な物。 震えを抑え込む。口元を拭って立ち上がる。真っ正面から睨み据える。指先に道化のカードを作り出し、投げ付けた。視界が滲むのは気が遠退く所為だけじゃない。 踏み止まる故、取り込まれかければそれだけ酷い傷を負う。酷い傷の頻度が増える。運命を燃やす者も出始める。 「ん。ん。ごめんなさい、ね。ちょっとだけ、お願いするの」 人形に毟られた肉をフェイトで治し、貪った悪夢のエネルギーに口元を拭いつつポルカが下がった。フツが彼女へ傷癒術を施すのを横目に見、代わりに前へ出るのは義弘。ただ、前へと押し進む。仲間を倒れさせずに戦いを進める事がこの戦いに勝つ条件ならば、自分はその為の盾。 「盾を自称するくらいの働きはしてみせるさ――打ち砕いてやる」 何度だろうと立ち上がって、盾になり続けてやる。振り上げたメイスで大口を開ける化物を打ち据えた。 「こんなとこでやられてたら、ますます蜘蛛恐怖症になるじゃない。冗談じゃないわ。きっちり倒して帰るわよ」 脚に絡み付く蜘蛛の糸を引き千切り、祥子は祝詞を紡いで癒しの息吹を顕した。霜月ノ盾で大蜘蛛を隠し、激励する様に下がっていた吾郎の背を叩く。もふもふで少し癒されたのはここだけの話。 「おっしゃ往くぜ!」 傷が癒えるや否や吾郎がその巨体からは大凡量れぬ速度で飛び出した。鬼の咆哮が全身を打つ。暴力の権化。けれど、そんな奴にだって勝てるんだ――諦めない限りはな! 「俺は諦めない、どんな相手だろうと、俺を貫いて、勝つ! だから消えろ!俺はお前なんかに負けやしねえッ!!」 最後まで戦い抜いてみせる。絶対に。集中を重ねて放たれた渾身のソニックエッジが鬼を切り裂く。幻を掻き消し、切り刻む。 「悪夢なんてこわくないわ、未だ立てるもの」 目にも止まらぬ二回行動、瀟灑なる速撃の後にルカルカは何かの何かを鮮やかに回避した。回避に重点を置いた羊を捉えられる者などこの場には居ない。掠めた傷も仲間が癒してくれる。 「ささ、悪夢さん悪夢さん。恭弥くんは返してもうわよ」 痛いの痛いの、お見舞いしてやるの。前線へ戻ったポルカが跳び下がったルカルカの横に並ぶ。剣先を突き付ける。 「それにもう、ぼくも疲れちゃったし。だいじょうぶ。夢は醒めるものだから。わるいゆめは、これで、おしまい」 「理不尽、不条理、迷い羊は夢見て嘆く。罪の帳を追いかけて」 同時に飛び出した。何かへ。人形達へ。 「おやすみなさい」 「こんどはきっと、よいゆめを」 残りの精神力を掻き集めて放つ、渾身にして超速の連撃。 アンジェリカの目に映ったのは蹌蹌としつつも尚汚い笑みを此方に向けるあの男だった。 こいつは本物じゃない。言い聞かせる。吐き気と涙と鼻水にまみれ、足が竦んでも。こいつは本物じゃない。脚を大きく踏み出した。振り上げる腕に死の爆弾を乗せて、零の距離。殴られる。蹴られる。罵りの言葉が突き刺さる。でも、逃げたりなんかしない。 「ボクは、お前を克服する……!」 刹那に閃く爆弾の閃光が――誰も彼もの視界を白く染め上げた。 ●今日も明日 は、と気が付いたら目を開けていた。目ざまし時計が秒を刻む音。 夢から醒めた、現実。 ただ、もう魘されている声は聞こえない。静かな寝息を立てる恭弥の顔を覗き込み、吾郎はその額をポンと撫でた。 「もう悪夢になんか、負けるなよ? 負けなきゃ、きっと明日はいい日になる」 さて、ちゃっちゃと帰るとしよう。この体躯にこの部屋はちと狭いのだ。 そうと決まれば――いや、もう既にルカルカは窓の外へ。屋根を駆け、三高平を目指す。 (しっかり倒したから、テバサキに甘えるのよ。たまにはいいでしょ) 怖かったっていうくらいのリップサービスはできるわ。 ちゃんと撫でてね。 ――アンジェリカは一人、屋根の上にて膝を抱えていた。 肩を震わせ嗚咽を漏らす。ただ泣き続ける。 小さな胸に抱くのは一縷の願い。 (涙と一緒に、ボクの恐怖も流れ落ちてくれますように) 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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