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繰り返し、非日常


 かちゃかちゃ、お母さんが食器を洗う音。
 午後8時。晩御飯は先週とおんなじハンバーグだった。
 お父さんは何時もと全く同じスピードで今日も新聞を読んで、
 お兄ちゃんは何時もと全く同じ場所で今日もゲームをして、
 お姉ちゃんは何時もと全く同じ本を、わたしの隣で読んでいる。
「ねえ、お姉ちゃん」
「……なあに、どうしたの」
 声をかけるのは、今日で何度目だろうか。
 何時もと全く同じ返事。なんでもない、と首を振れば、お姉ちゃんはまた一枚、本のページを捲った。

 まいにちいっしょ。
 起きる時間も寝る時間も、お風呂の時間も、1週間の献立も。
 友達に聞いたら、みんなそうだって言っていた。
 中学校の先生も、近所のおじさんも、おばさんも。何時も何時もおんなじ。
 この村は、どうしてしまったんだろう。
 わたしの家族は、どうしてしまったんだろう。
 不安になってきつく、膝を抱えた少女はまだ、己の身に迫りつつある危険を、知らない。

「……ねえお姉ちゃん」
「なあに、どうしたの」
「……みんな、どうしちゃったの? なんだか、ちょっとおかしいよ」
 意を決して問うた言葉に返せたのは、沈黙。
 まずい事を聞いたのだろうか。表情を強張らせる妹の前で。
 姉は全身を苛む苦痛に、絶叫を上げていた。
 否、上げたいと心底願っていた。

 痛い痛いのいたいのよ気付いてねえ気付いておねがいたすけてねえ、 おねが い 。

 けれど、それは言葉にならない。
 彼女の意志に反して、身体は随分と久し振りに本から顔を上げてにっこり、笑みを作る。
「――大丈夫よ、」
 アナタモオトナニナレバワカルカラ。

 映像がぶつり、途切れた。


「はいはいどーも……至急ね。『運命』って奴、聞いていって頂戴」
 揃った面々の顔をざっと眺めてから。『導唄』月隠・響希(nBNE000225)はずり落ちそうになっていた椅子に座り直した。
 机に放られるのは資料。人数分きっちり綴じられたそれを受取る様に告げながら、予知は始まる。
「あんまり大きくない集落、って言うかまぁ、過疎の進んだ村で、神秘事件が進んでいる。
 其処の住人は子供から大人まで合わせて60人。……その中の大体6~7割がもう既に人間じゃない」
 放たれた一言に、リベリスタの表情が硬くなる。
 如何言う事だ。尋ねる声に、フォーチュナは深い溜息と共に言葉を続けた。
「……アザーバイドになってる。此処に住み着いているアザーバイドの主食はこのチャンネルの人間。
 繁殖能力に優れ、頭も良い。……普通に食い漁るだけじゃ、すぐに騒ぎになるって事を理解したんでしょうね。
 彼らは人間の中に入り込んで、ゆっくりその身体を消化しつつ隠れてる。……スキルとかじゃないから、見破るのは無理。
 寄生された本人は、痛みに叫ぶ事もその痛みを表に出す事も出来ない。ゆっくり溶けていくだけ。
 但し、会話や行動は、アザーバイド事前に見て覚えたものを繰り返すだけになっちゃうんだけどね」
 それでも、確信を持って見破るのは不可能。其処まで告げて、フォーチュナは資料を捲る様指示を出す。
 子供、大人、老人の細かい人数、男女比等が綴られたそのページが開かれた事を確認してから。
 元々宜しくない顔色に、疲労を滲ませた彼女はゆっくり、その口を開く。
「あんたらに頼む事は、――アザーバイドの殲滅、唯一つ。
 元々人里離れた集落。全滅しようと問題無い。山火事とでも言えば良い。……それより、アザーバイドを生かしておく方が問題。
 アザーバイドは、攻撃を受けると皮を破ってその姿を現す。人間みたいな頭と、どろどろの体を持ってるわ。
 戦闘能力は高め。耐久は其処まででもないけど、攻撃に特化してる。知能が高いから、アザーバイドになっていない人間も盾にするんじゃない?
 ……まだ無事な人間を助けたい、って言うなら止めないけど、相当難しいと思った方が良い」
 自分の親兄弟、友人、知人。それらを殺していくような相手の言う事を聞くなんて事、到底有り得ないでしょうしね。
 其処まで言い切って。フォーチュナは立ち上がる。
「あたしが指定する日、村人は全員村の祭みたいなもので、大きな広場に集まってるみたいよ。
 ……あんたらが、如何思ってこの仕事をするかは分からないけど」
 人の侭死ねるだけ、幸せだって思ってやった方が楽かもしれないわよ。
 其れだけ告げて。酷く疲れた表情を浮かべたフォーチュナは、ブリーフィングルームの外へと消えた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月21日(土)00:31
たまには苦いのも如何でしょうか。
お世話になっております、麻子です。
以下詳細。

●成功条件
アザーバイドの全滅
(住人の生死は問いません)

●場所
人里離れた山中の村。
当日、村人は全員村の大広場に集まっています。
端の方に出店等はありますが、邪魔になりそうなものはほぼありません。
60人+リベリスタが戦闘を行う場合、前衛後衛入り乱れた混戦になるでしょう。
(後衛に敵を行かせない、などのブロック不可。かばう等は可です)
時間帯は夕方。灯りは必要ありません。

●アザーバイド『モノマネ』
人食いのアザーバイド。
人の頭と液体の様なぬめる体を持ち、人間の皮に寄生する事が出来ます。
打たれ弱くはありますが、非常に高い攻撃力を持っています。
現在、この村にいるアザーバイドは総人口の6~7割程度です。
攻撃に関しては以下。

腐食(近複/BS死毒、弱体)
噛み砕く(近単/BS呪い)
また、革醒者に寄生し意志を奪う事は出来ません。

●村人
全部で60人。
誰がアザーバイドで誰がそうでないかは、OPと以下を参照にして下さい。

・人口詳細
60歳以上が12人
30~59歳までが28人
16~29歳までが14人
15歳以下が6人

OPの少女は今年、高校生になります。


では、ご縁ありましたら。どうぞよろしくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
蘭堂・かるた(BNE001675)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
百目鬼 クロ(BNE003624)


 未だ日も高い、昼下がり。
 既に賑わいを見せている村の中で、数人のリベリスタが中年の男と言葉を交わしていた。
「村長にお願いしたいのですが、彼女に『日本の祭りの風景』を見せてあげられませんでしょうか」
 一目で仏門を志すものだと分かる様相で。
『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は、少女3人を伴い、村長へと掛け合っていた。
 随伴するのは右から『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)、『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)。
 外国から来た友人に、日本の風景を見せてやりたい。
 そう希望する少女達の願いを叶える為に、自分が保護者をやっている。
 大雑把に状況を説明するフツに、返る村長の反応は何処か曖昧だった。
「はぁ、そうですか。……、……うちの村には、外人さんが喜ぶようなものなど、ありませんよ」
 奇妙な間。その表情に張り付いたような笑みに反して、村長の言葉に優しさは無い。
 どうぞお引取りください。そう取りつく島もなく断られた願いに、出鼻を挫かれた形になったリベリスタは困惑の表情を浮かべざるを得なかった。
 様子のおかしさから判断すれば、恐らくあの長と言うものもアザーバイド。
 しかしそれを確かめる事には、情報も、試すだけの状況も作り出せていない。
 その侭村長の家を後にせざるを得なかったリベリスタはふと、感じた視線に振り向いた。
 此方を見詰めるのは、精々中学生程度の少年少女達。
 予知にあった通り。恐らくは共通の不安を抱いているのであろう彼らは、『外』からの来訪者に救いを求めてたがっているようだった。
 しかし、その来訪者――特に霧香とかるたが胸の内に決めてきた覚悟、そしてそれ故に産み出された何処か張り詰めた空気を、敏感に感じ取っていた。
 甘さが時にどれだけ残酷な結果を生むのか。霧香はリベリスタとして重ねた経験として、既にそれを理解していた。
 故に、覚悟は決めている。情に流されるだけでは無くなった彼女はしかし、その生来の優しさも捨て切れては居なかった。
 繰り返してはいけない。けれど、助けられるものは助けたい。
 常に続く二律背反。ぐ、と胸元を押さえる彼女の横では、かるたがその面差しに似合わぬ決意を乗せている。
 ――世界を護る為、自分自身を含む如何なる犠牲も厭わない。
 あの日の誓約を改めて自分自身に刻んで。この依頼に臨まんとする彼女の表情はやはり、硬い。

「……外国人だと警戒されてしまっているのでしょうか」
 状況を変えたのは、ぽつり、漏れたカルナの少し寂しげな言葉だった。
 少年達の耳にもそれは届いたのだろう。勇気ある少年の一人が、恐る恐る近付いてくる。
「あ、あの、……お姉ちゃんたちは、都会の人?」
 一人が話しかければ途端に集まる残りの子供達。
 明らかに先ほどの村長とは異なり、人間である様子が滲み出る年頃の子供達は、尋ねられるままに村の状況を話していく。
 大人がおかしい。自分達は全員話がきちんと噛み合う。如何したらいいか分からない。
 息つく間も惜しいと言葉を紡ぎ続けた子供が漸く、言葉を止めれば。
 じわり、とその目一杯に涙が浮かんだ。
「お願い、助けて、お姉ちゃん、お兄ちゃん。みんなおかしいんだよ……!」
 切実な声音に思わず、リベリスタ達は頷く。かなり有力な情報を得る事が出来た。
 けれど。
 あちらこちらから。そんな彼らをじっと、見詰める視線があった。

「これまた運がない村人たちですさなぁ」
 時は流れて、夕刻。
 広場からそう遠く無い高台で。『√3』一条・玄弥(BNE003422)は飄々とした風体を崩さず肩を竦める。
 村人に紛れてみようか、そんな考えもあったが、先に入った4人の様子を目にすれば即座に見破られるものだと彼は判断し直した。
「手間掛けずに全部始末すりゃ早いのに、面倒な事や」
 何にもしていないと、彼らは泣くだろうか。
 けれど、それは間違いだと彼は嗤う。何にもしないで生き残れる生き物など、この世には存在しないのだ。
 振り向いた先には、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)。
 同意を求めるような玄弥の視線に、殺人鬼はけらけら、楽しげに嗤って目を細めた。
「一般人を殺すのは美学に反するんだよねぇ。ちゃんと好き好んで殺すから殺人鬼」
 無差別な殺人は美しくない。冗談とも本気とも取れる調子で告げられた言葉に、玄弥が小さく舌打ちする。
 それに無邪気とも言える笑みで答えながら、葬識はすぅっと目を細めた。
「まあ、そういうこと。助けれるものは助ける。……そうじゃないのは殺しちゃったらごめんね!」
「まぁ、生かすというのが彼らの方針なら協力はしましょう。もっとも、生かすのが救いとなるとは限らないけれど」
 千里を見通す瞳が周囲を確認する。
 その横では、『百目』百目鬼 クロ(BNE003624)が、村を散策しがてら買い求めた面を被り小さく、呟いていた。
 神でもないのに。人の生死を決めるだなんて。
 殺す為の選別か。生かす為の選別か。哲学なんてものを嗜むような歳ではないけれど。
 頭を占める思考を振り払って。彼女はそっと溜息を漏らした。
 将来の脅威を排除する。その為だけに、今日は来たのだから。
「……みんな助けられてハッピーエンドならいいんだけどさ」
 そうして、最後の一人。
『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)は己が銃の調子を確かめながら、誰に言うでもなく言葉を漏らす。
 ずっとずっと。それこそ銃を握るのもやっとの頃から、理不尽は見続けてきた。
 だから今回だって、そのうちの一つ。不条理で残酷であろうとも、嵐子は自分で全てを救えない事を誰より良く知っていた。
 だって。
「アタシは正義の味方じゃないんだよね」
 1も100も全て救うなんて言うのは、御伽噺だ。
 同意する様に、4人のリベリスタの間に、沈黙が落ちた。


 一方で。
 広場に来ていたフツ達の下には、ふらふらと、様子を伺っていたのであろう大人達がにじり寄って来ていた。
 虚ろな瞳。恐らくは全てアザーバイドなのだろうが、確証は無い。
「……革醒者。革醒者……」
 ぶつぶつ、呟くような音。
 気付かれている、と悟ったカルナの表情が一気に硬さを帯びる。
 こんな辺鄙な村に来訪者、と言う時点で酷く違和感があったのだ。
 加えて、革醒者に寄生する事が不可能であるアザーバイドにとって、自身が乗り移る事が出来ない者は間違いなく、革醒者。
 フォーチュナの情報によれば知能の高い敵は、完全にこの来訪者達を黒と判断している様だった。
「っ……どうしたもんかね……!」
 完全に囲まれている状況では、即座に戦闘を始めようと窮地に陥り兼ねない。
 歯噛みするリベリスタ達はしかし、直後にかかった声に漸く安堵の吐息を漏らす事となる。
「命が惜しい人は動かないで! じっとしてれば殺さない。死にたい人だけ前に出なよ!」
 言葉と共に。驚異的な集中で限界までその動体視力を高めた嵐子が、玄弥が、クロが駆け込んでくる。
 葬識の千里眼により予め地形を確認していたお陰だろう。
 素早く定位置についた仲間達に安堵の吐息を漏らし、カルナがその翼を以って空高く舞い上がった。
 続いて、かるたがその両手を地面へと叩きつける。
 巻き上がる、烈風。己を囲む、明らかに人間ではない者たちを巻き込んだ一撃を受けたアザーバイドが、ずるり、とその正体を顕にした。
 それを目の端に捕らえながら。かるた、クロと三角形を描く様に位置取った霧香もまた、高速の残像と共に周囲を切り裂いていく。
 始まる、乱戦。その只中で周囲へと空を舞う力を付与したフツの傍では、微かに宙にその身を浮かせた葬識が、自身の身を削り産み出した瘴気で敵と思しき者を薙ぎ払う。
「虐殺してる気分~やだぁ~★」
 楽しげな笑い声を耳にしながら。三角形の最後の一点を任されたクロは、始まる戦闘に怯え駆け出した老人を目に捉える。
 躊躇いも無く。放たれたガトリングがその脚を消し飛ばして。
 悲鳴を上げる事も出来ず倒れ伏した老人がその場で息絶える。
 死ぬかもしれない、何て躊躇はしていられなかった。その死体から即座に目を外す。
 
 戦場に降り注ぐ、厳然たる閃光。
 命を奪う事は無い、しかし一般人が浴びれば想像を絶する激痛に見舞われるそれを振りまいたカルナは、戦場全体に広がる悲鳴と皮を破る音に表情を歪めかけ、けれど堪える様に首を振った。
 どのような謗りも甘んじて受ける。その覚悟が彼女にはあった。
 躊躇いでこの惨劇を繰り返す訳には行かない。
 そして、何より。
「――大切な仲間達に『人殺し』をさせるわけには参りません」
 その為ならこの程度、やってのけてみせる。
 覚悟の色がその翡翠の瞳に浮かぶ。戦場全体に効果を及ぼしたそれは、回避の術に乏しい一般人を軒並み気絶させる事に成功していた。
 そして。攻撃をされれば姿を現すアザーバイドを恐らくは全て、正体を現させる事にも成功したようだった。
 分かってしまえば後は、倒すのみ。
 霧香の澱み無き剣舞が、かるたの巻き起こす烈風が、的確にアザーバイドを薙ぎ払っていく。
 耐久に乏しい敵は猛攻の前では塵にも等しい。致命傷を受け呻く間も無く倒れていく敵も多いがしかし、数は圧倒的。
 生き残っているアザーバイドの牙は必然的に、地上に立つリベリスタ達へと向かう。
 滑る身体がクロを、玄弥を襲う。体を蝕むのは死を齎す毒と、弱体の呪い。
 呻く彼らをカバーしようにも、包囲を崩す事は出来ない。フツの呼び寄せた福音が仲間を癒すものの、呪いを解く術を持つのはカルナのみだった。
 申し訳程度についたヒトの頭が牙を向く。腐食の身体が纏わりつく。
 正体を暴かれたアザーバイドの猛攻に遂に、クロの膝が折れる。溢れる鮮血が血を濡らした。乱戦の中では、倒れている事さえ危険。
 気付いた葬識が、倒れた一般人と共に彼女を抱え、戦線の外へと放り出す。
 数は減っている。しかし、戦況は芳しくなかった。


「人質の使い方もわからんようなトーシロがうざったいのぉ」
 自身の目の前で。
 一般人を盾に取り戦おうとするアザーバイドを、玄弥は何の躊躇いも無く一般人ごと紅に染まる爪で叩き切る。
 軽やかに立ち回り、容赦ない攻撃を繰り返す彼はしかし、その容赦の無さ故に最も多くの敵を引き付けた。
 幾度目かの突き刺さる牙に、その身体が力を失いかける。
 けれど、運命を燃やす音と共に。彼は確りと地を踏み締め持ち直していた。
「殺しがたりぬなぁ。もっと命の火を消させろやぁ。おぃ」
 奮戦する地上組はしかし、クロの抜けた穴を埋める為に劣勢に追い込まれつつあった。
 霧香が、かるたが、出来る限り多くの敵を巻き込み薙ぎ払う。
 被害の拡大を抑える為。出来る限りの犠牲を減らす為。分かっている。
 けれど。救う方法は無かったのだろうか、そう思うだけで揺らぎそうになる心を必死に真直ぐ保つ彼女達を癒しながら。
「……望月、お前さんの方に一人逃げたぞ」
 状況確認を行い続けるフツが嵐子に声をかける。
 返事を確かめる事必要も無く。即座に放たれた弾丸が弱り始めていたアザーバイドの息の根を止めていた。
 他は大丈夫だろうか。そう、頭を巡らせる彼女の耳に届くのは、怯えすすり泣く、傷ついた人々の声。
 自分達に怯えて。嘆いて。そんな彼らはきっと、全てが終わった後、自分達へ怒りをぶつけ、恨むのだろう。
 けれど。
 そんな人たちこそ、恐らくは人間なのだ。アザーバイドなどでは、なく。
 
 正体を暴いてからの戦闘はやはり、早かった。
 窮地に陥りかけようと、カルナが、フツが癒しに徹し。
 時には葬識が地に下り、暗黒の魔力で味方の窮地を救う。
「これで……終わりだよ!」
 霧香の声が響く。
 己の影すら置き去りに。高速の一撃で切り裂かれたアザーバイドが力なく伏せれば。
 広場に残ったのは、倒れ伏す一般人と思しき者たちのみだった。

 戦闘は終わった。地上に降り、そっと息をつく仲間へと。
 戦線を離脱し、力無くベンチにその身を預けるのがやっとのクロがひとつ、提案を口にする。
 生き残った一般人への、再度の神気閃光。
「流石に死ぬかしら? でも、より分けたこの中にアザーバイドが紛れ込んだ可能性もあるしね」
 一瞬言葉を失う仲間へと、淡々と言葉を放つ彼女が重視するのは己の安全。
 禍根を残すのが恐怖故に、苛烈に、他の全てを犠牲にしてでも脅威の排除を提案するのだ。
 ともすれば生き残った一般人の恨みすら彼女にとっては恐怖なのかも知れない。怯えるが故に他者を殺す、めくらの百目。
 施行者であるカルナがそれを拒めば、一応は確認を取るべきだと判断したフツが死なない程度の打撃を与える事を提案する。
 生き残っているのは15人程度。
 フツと玄弥が、淡々と確かめの作業を行っていく。弱弱しい泣き声が、日の落ち始めた広場に響いていた。


 全てが終わってから。
 せめて、今日の記憶を消してやろうとフツが施した記憶操作は、その効果を発揮しなかった。
 閃光による激痛に重ねて、念の為に、と痛めつけられた身体。
 戦場の中で、家族だったはずのものが次々に殺され、次は自分かもしれないという恐怖に嬲られ続けた心。
 限界を超えたそれらに、彼の力は届かない。
 霧香にも、かるたにも。言葉を交わしたはずの少年達は、生き残った老人達は、答えない。顔も向けない。
 その侭放置するわけにも行かない。そっと手当てを施してゆくカルナとさえ、村人は目を合わせようとしなかった。
 嫌な、沈黙が落ちる。
 アザーバイドに侵された村。アークが封鎖の上処置を取る事となった其処で、職員の到着を待つ内に、日は落ち切っていた。
 本来ならば、祭りが行われるはずだった広場は見る影も無く荒れ果てている。
 疲れ切った顔でそれを見回す、リベリスタの元に。アークの職員が静かに、近寄ってくる。
 到着したのだろう。大雑把な引継ぎを終えて即座にその場を立ち去ろうとするリベリスタの背に向けて。
 こつん、と。
 投げられたのは、一つの石。
 それを皮切りに。次から次へと、生き残った村人達は石を投げ続ける。
「助けて、助けてくれるって言ったのに、おじいちゃんは『普通』だったのに、人殺し……!」
 先程までの戦闘を見ていようと、一度爆発した憎悪は止まらない。
 がつん、と石の当たった衝撃と共に、フツに背負われたクロの面が外れる。
 憎悪に満ちた視線。思わずその表情を歪めた霧香へと。
「助けたかったんでしょ? たとえ助けた子たちが不幸を嘆き、助けたことを恨んだとしても」
 放たれるのは、酷く冷ややかな葬識の言葉。
 自分は殺人鬼。その程度の怨嗟を受けるのは覚悟の上だった。
 そう、本心の見えない表情で呟いて、彼は肩を竦める。その隣では、嵐子が後ろを振り向く事無く、静かに銃を収める。
 すべき事は、使命は果たした。救える者は救った。覚悟を決め続けた彼女の表情に、迷いは無い。
 わかっている。それが、リベリスタの有り方だ。霧香はそう、微かに頷く。
「禍が断ち斬れたなら……それで、いいの」
 ぽつり、漏れた声は、夜の闇に暗く、沈んだ。 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

非殺スキルでの選別と言う答えは、素晴らしいものだったと思います。
結果として、ほぼ全員を救う事が出来ました。有難う御座います。

その他判定等については、リプレイの中に込めたつもりです。

参加、有難う御座いました。
またのご縁がありますことを。