●機械生命体『天雷』 あるフライエンジェの男は、廃墟の上を飛ぶのを好んでいた。 その小島は、大戦中軍事基地として利用されて以来放置され、煉瓦造りの廃墟しか残っていない。廃墟を好む誰かが時折訪れるだけの場所であった。 廃墟はここではないどこかへと投げかけるように、空を見上げるようんに、ひっそりとたたずんでいる。 壊れた煉瓦壁から吹き抜ける風が、まるで溜息のように鳴った。 男は目を細める。 空に穴が開いたのは、まさにその時であった。 ――轟音。 空中に突如として出現したフルメタルの物体は、恐竜の羽か伝記上の怪物のように爬虫類じみた翼を広げた。 大きくはばたき、いくつかの部位から小型ジェットを噴射。 大型トラック一台分はあろうかという巨体が空に浮いた。 重力など最初から相手にならないのか、『ソレ』は悠然と空中に停止する。 目が合った、と思った。 ボディそのものはスリムで、やや長めの首と大きな双翼。 それだけで既に威圧的ではあったが、ボディ突き出るように設置されている機関砲が『ソレ』が兵器であることを主張していた。 男は危険を察して回避行動。先刻まで居た場所を二十ミリ機銃の弾が通過していく。 風を切りながらきりもみ回転。斜めに落ちるような飛行で弾を回避し続ける。 途中、急激な羽ばたきを加えて上昇。速度限界ギリギリのところでターンをかける。相手と上下反転した状態で睨み合う。あの首は上にも向くのか。 男はターンによって後ろ側に回り込む。しかし、機銃だけが180度反転してこちらを向いていた。しまったと声を出し、両腕と双翼でガード。 空中を弾き飛ばされ、滅茶苦茶な軌道を描いて飛ぶ。 なんとか墜落は免れた。 そう思った途端、相手の腹から無数のミサイルが出現した。銃弾ではない、ミサイルである。 男は自分の運命を罵倒すると、急いでその場から逃げだす。 二本のミサイルがそれを追尾。速度はミサイルの方がやや早い。 このままでは逃げ切れないと判断して緊急上昇。しかしミサイルもそれを追って上昇する。 畜生。男は最後にそうとだけ言って爆発四散した。 …………。 『ソレ』は目標の撃破を確認。 爬虫類じみたヘッド部分を開くと、咆哮にも近い駆動音を響かせた。 ●空中戦の用意を――。 「小島上空にアザーバイドが出現しました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は小島上空の状態をこのように説明した。 ぐっと押し黙るリベリスタ達。 「ミサイルは酸による爆発で対象を破壊。衝撃破壊に加え、大量の炎による追加焼却で、並の相手であれば撃墜可能……のようです」 凄まじい破壊力である。 もしこれを食らったとあれば、流石のリベリスタ達とてただでは済むまい。 それだけではない。 調べた所によれば、『天雷』には高い防御装甲があり、簡単にはダメージを与えられない。 何とかして隙を作り、高威力の攻撃で装甲を一部破壊。そこを重点的に攻撃することで『天雷』自体を破壊することは可能……だと思われるが、それを彼自身が許すかどうか。 彼、である。 『天雷』は機械生命体であり、自律して動いていると言うのだ。 「戦場は100m上空。皆さんの力を合わせれば、決して倒せない相手ではありません。どうか、宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月22日(日)00:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●交戦記録 記録を語る前に、八人のリベリスタを紹介する。 『悪夢と歩む者』ランディ・益母(BNE001403)、デュランダル。 『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)、クリミナルスタア。 『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)、ソードミラージュ。 『フラッシュ』ルーク・J・シューマッハ(BNE003542)、ソードミラージュ。 『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)、スターサジタリー。 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)、スターサジタリー。 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)、スターサジタリー。 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)、ホーリーメイガス。 以上八名。これより記録を語る。 1400、某小島上空。 ヴィンセントのイーグルアイにて目標十八試局地機竜『天雷』を確認。 索敵に当たっていたメンバーを再集結。翼の加護を改めてエンチャントし、交戦空域へと向かった。 この時のことをヴィンセントとルークはこう語る。 「僕は空を護るためにあの場所へ行きました。『彼等』にとってはこの世界の空なんて低界の上澄みにすぎないかもしれませんが、ここは世界で一番美しい場所ですから」 「それは、分かる気がするよ。咆哮のような音が数十メートル先から既に聞こえていて、心がすくみそうな気持ちだったけど、でも、退くつもりは無かった。皆が居たし……この空をオレも護りたいと思ったから」 彼らは安全空域から翼支援を送る補助員たちと別れ、一度上下に分断した。 なぜか? それは圧倒的な火力と防御力を持つ『天雷』に対して少しでもイニシアチブを握りたかったからに他ならない。 肉眼での発見はこちらが先だったが、『天雷』もなにがしかの索敵方法があったのか、こちらの接近には気づいていた。 『天雷』は首と機関砲を上に向ける。上方からの襲来を察知したからだ。 だが飛来してきたのは『天雷』にやや似たフォルムの機竜だった。翼を広げて急降下をかけてくる。 『天雷』は即座に発砲。射撃を受けた謎の機竜は消滅、代わりに身体を丸めたヴィンセントが現れた。 そう、謎の機竜は超幻影によって作られた虚像だったのだ。 直後に下方向から浴びせられるスターライトシュート。 これによって戦闘のイニシアチブは完全にリベリスタ達のものとなった。 下方よりスターライトシュートを発射したユウはこう語る。 「見上げるアングルだったのもあるけど、空飛ぶ要塞ってカンジでした。本来ならアーリースナイプの方が確実だったんですけど、見た目にも注意を引きやすいし、意識を上下に揺さぶれるかなと思って」 一対多の戦闘において最も苦しいのが意識の振り回しである。慣れない者になれば混乱し、攻撃の精度が著しく低下することもある。だが『天雷』は違った。機械であり、兵器であるだけに素早い対応を取って見せたのだ。 『天雷』はまず腹部のフタのようなものを開き、無数のミサイルを発射。目がついているかのような複雑な軌道を描いてユウたちへと襲い掛かった。 リベリスタは素早く反応。ドーラが機関砲(エリコン35ミリ機関砲というスイス製の重火器である。主に陸上兵器)を構え、スターライトシュートで迎撃を図った。 対してミサイル群はランダムな立体蛇行を開始。十発程が小爆発、もしくは誘爆を起こして消滅。残った数本がリベリスタ達に届いた。 着弾。爆発炎上するリベリスタ達。 あひるが即座に聖神の息吹を展開。回復弾幕を張った。 着弾目の迎撃、着弾後の回復。神秘戦ならではの二重弾幕である。 あひるは当時をこう語る。 「大きな相手で、すごくこわかったけど……でも皆がいたから大丈夫だったの。お守りも、あったから」 ちなみにこの時あひるにも何発かのミサイルが飛来していたが、ルークが身を挺して盾になったことであひるのダメージは全くなかった。 一度目のミサイル爆撃を回避したリベリスタ達は素早く攻撃に移った。 ランディ、郷の二人による近接攻撃である。 まずはランディが全速力で『天雷』に突撃。斧を機体に叩きつけてバランスを揺さぶる。 次に郷が上方に回り込んでキック。これを郷はソニックエッジのオリジナル技としてソニックスタンプと名付けていた。要するにヘビーレイガスによる高速打撃である。 こうして激しく揺さぶられた『天雷』にランディが飛び乗る。 だが思い出してほしい。ここは地上100mの空中。『天雷』はレトロイズム溢れる気球船などではなく、ジェット噴射によって飛行する空戦兵器である。ハイバランサーを駆使して体重を支えたランディだったが、風圧で軽く吹き飛ばされてしまった。 ろくでなしのハイバランサーめ。せめて面接着があれば耐えられたものの。ただ耐えられたとしても瞬きを幾度かする程度の余裕しか生まれなかっただろうが。 ランディは舌打ちしつつもしっかりと戦鬼烈風陣を発動。自身の回転による衝撃を与えつつ『天雷』から距離を離した。元々ヒットアンドアウェイで攻撃するつもりだったのだ。問題は無い。 空中をきりもみ回転しつつ翼を展開。バランスをとったランディの横を凄まじい勢いで魔弾が通過する。 この魔弾を放ったのがこれまで攻撃に加わらなかった久織である。 途中、わざとあひるの回復効果範囲から外れ、『天雷』のミサイルの直撃をあえて受ける。その間集中を重ね、HP残量が七百台に入った所で漸くギルティドライブの引金を引いたのだ。 ギルティドライブ。ダメージ両に応じて最大400迄攻撃力を上乗せできる射撃スキルである。この時持っていた銃も大型スナイパーライフルだった。(これをライフルカテゴリに入れてよいかは微妙な所だったが) リロード時に排出される空薬莢と、久嶺の身体にかかる百近い反動がマッチしていた。 魔弾は正しい軌道を描いて『天雷』に着弾。激しいダメージを与えた。 しかし固い装甲は未だ剥がれる様子を見せない。 そう、ここまでの攻撃を重ねても、装甲をほんの僅かに削ったに過ぎなかったのだ。 ●機竜という兵器 ここからはリアルタイムで状況をお伝えする。 煙が軌跡を描き、ミサイルが螺旋飛行する。 郷は光の翼を羽ばたかせ、複雑にミサイルから距離を離した。途中でターン。 「うおおおお廻れ、俺のホイール!」 正面から下方に潜り込むように回避したが、別のミサイルがそれを発見。郷は背中からミサイルの直撃をくらった。 「づあっ、ホーミングミサイル……こんなの大戦中の帝国にゃ無かったぞ!」 もはや詳細を説明するまでもないことかもしれないが、十八試局地戦闘機・天雷という兵器が実在していた。完成時期が終戦直前だったこともありスペックがはっきりとしていないが、少なくとも二十ミリ機銃を二丁備えただけの機体だった筈だ。 以前彼が戦った零式艦上機竜は、この世界における似名の戦闘機『ゼロ戦』と同じ機銃を装備し、さながら竜化した戦闘機と言う様子であった。 しかしこれはどうか。ジェット噴射で飛行し、ミサイルを積み、大型トラック並の巨大さと堅牢な装甲を持つ機体のどこを刺して『天雷』としたのだろうか。 だがこうも思う。機銃程度の武装しかなかった時代から数年で、とある世界ではここまで兵器開発が進んだのではないか? 機竜という、この世界ではまずありえない戦闘兵器の存在からして、兵器の常識がまるごと違うことは間違いないのだ。 さておき。 「明らかに用途が違いそうな機体ですよね。こんなにミサイル撃ってくるなんて」 ユウは郷の肩越しにライフルを構えると連射。彼らに迫っていた数発のミサイルを迎撃した。 一方では、ヴィンセントとドーラが後ろ向きに二重螺旋飛行しながらスターライトシュートを連射。迫りくるミサイル群を撃ち落としていく。 「迎撃確認、仕返し行きますよ!」 枝分かれするようにターン。二人は『天雷』に向かって銃を連射した。 ちなみに、ヴィンセントの愛用する銃は切詰め散弾銃である。一般戦闘では室内戦で取り回すためにあるような銃だが、こと神秘戦闘では一般常識など通用しない。ヴィンセントは平気で1$シュートを連発した。 途中から久嶺が合流。久嶺は身体を寝そべったような態勢にして、ライフルの銃身と自分を並行になるように保持した。 片目をつぶってギルティドライブを連射。空薬莢と共に自身の体力がガスガスと吹き飛んでいく。 「燃え上がれアタシ! その自慢の装甲、ぶち抜いてやるわ!」 『天雷』も対抗して機銃を連射。薙ぎ払うような射撃が三人を襲う。 そこへ割り込んだのがルークである。 「こんなの全然痛くない、怖くない……!」 全身で二十ミリ機銃の弾を受け止める。 その後ろであひるが天使の息を送り込む。 「すぐに直すから、持ち堪えてね!」 「……ありがとう!」 あひるの強みは何と言っても高レベルな神秘攻撃力である。これを回復に転じれば、最大で九百クラスの単体回復が可能になる。ルークの文字通り身体を張った防衛と、あひるのハイレベルな回復によって、今の所リベリスタ達の戦線は少しのブレも見せていない。 「この調子で一気に畳みかけられればいいんだけどなっ」 はるか上方よりターンした郷が『天雷』目がけて突撃を敢行。『天雷』は数発のミサイルを発射して対抗するが……。 「突っ込むぜ、このまま一気に沈めてやる!」 ランディが戦鬼烈風陣を発動させながら突撃。つまるところ高速できりもみ回転しながら突っ込んだのだ。 迫りくるミサイルを無理やり撃破し、突撃と言うより衝突事故に近いタックルを叩き込む。 「デカいってことは強いってことだ。だがデカ過ぎるんなら弱点なんだよ!」 装甲に斧を叩き込むランディ。 びしりと入った亀裂を狙って郷が再びのソニックスタンプを繰り出した。 亀裂が広がる。 ついに堅牢だった装甲に穴が開いたのだ。 ドーラがイヤホンマイクに向かって大声で叫んだ。 「装甲の破壊を確認。ドーラさん!」 「既に狙ってますよ」 翼を大きく広げてバランスをとると、ユウは装甲の穴に向かってピンポイント射撃。装甲の固さが逆に仇となったか、弾丸が内部で跳ねまわり大きな被害を生んでいた。 小爆発を起こして身体をガタつかせる『天雷』。 久嶺たちはここぞとばかりに射撃を集中させ、そしてついに。 「一気に決めちゃいましょう!」 何人かの射撃が一ヶ所に集まり、『天雷』の装甲を内部から貫通。大爆発を起こしたのだった。 ●終戦 地面スレスレで翼の加護が切れたランディは、危なっかしく砂利道に着地した。 赤いレンガ造りの廃墟である。聞く所によれば、ずっと昔に軍事要塞として機能していた建物らしい。 「ゲートは発見できたが、規模が大きすぎたな。俺一人で壊せるレベルじゃあ無かった」 「そっかー、まああんなデカいの出てくるくらいだしな」 頭をがりがりとかく郷。 久嶺とユウに視線を向ける。 「そっちはどうだった。目当てのモンは回収できたか?」 「んっんー……」 久嶺はツインテールの片方を指でつまみ、捻じるように弄っていた。 腕組みするユウ。 「それがぁ」 回想する。 『天雷』を撃破した瞬間、よく狙いを澄ましていたユウには、機体内部で妙に機械らしくない正十二面体が砕けたのを見た。 その次の瞬間、『天雷』の機体が数センチ単位で粉々に粉砕。内部の機械らしきパーツや配線類は勿論の事あれだけ強固だった装甲までもが粉になって海へ落ちて行ったのだった。 だが久嶺はどうしても例のミサイルや二十ミリ機銃が諦められなかったらしく、全速力で残骸を追尾。海中に飛び込んでまで拾い上げようとしたのだが……。 「やっぱり粉々だったわ」 手に乗っていたのは銀色の金属だった。 指の第一関節程度のサイズがある。 「ぱっと見た限り、機銃だけは微妙に形残したまま落下してたからキャッチできないかなあとは思ったんだけど」 「ああ、それ……微妙に気になってたんですけど」 横から顔を覗かせるドーラ。あの一人装甲師団のような機関砲はしまってある。 「なんでアレ、態々背中やお腹からコッチにあるような火器撃ってるんでしょうね。ドラゴンらしく口からビーム出せばいいのに」 「…………ああ」 言われてみて気づいた。ユウは外装にある『鍵印のついた日の丸』にばかり目が行っていた所為でよく考えてしなかったが、あれだけ首が回って自在な飛行が可能なら、何も戦闘機用の機銃を使う必要はないのだ。 それまで銃の手入れや後片付けをしていたヴィンセントが顔を上げる。 「疑問と言えばまだありますよ。あれに態々十八試局地機なんて名前を付けてるのは、あれが向こうの世界でもそういう名前だからじゃないんですか? 前回出たのは零式でしたし、こちらで勝手に名前をつけるにしてもいきなり数字が飛ぶのはおかしいでしょう」 「んー……いまいち謎な兵器ね……」 久嶺たちが機竜について話している間、ランディは建物の上へとやって来ていた。 赤レンガの塀に腰掛けて、ルークとあひるが海を眺めている。 「何か考えごとか」 「いや……うん、少しね。今日は頑張れたな、って」 「そうか」 ランディも二人に並んで腰掛ける。 「実を言うとな、俺は、暫く戦闘からは離れていようと思っていた。今回は特別だ」 「それは……」 「言うな、野暮になる」 あひるの顔を覆うように手を振る。あひるはぱくんと口をつぐんだ。 「ここ、静かで素敵な場所ね」 「…………」 膝を抱き寄せるように座るあひる。 目の奥で、遠い波がざわめいていた。 空には穴が、開いている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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