●怪談『うらみちゃん』 この廃病院には『うらみちゃん』が出るんだって。 見つかったらね、逃げなきゃいけないの。 でも、逃げられないんだよ。 どこへも、逃げられないんだよ。 ●そこに実在する恐怖 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と説明を続けている。 リベリスタ達はそれを静かに、静かに聞いていた。 ある問題によって潰えた廃病院がある。 病院にはある怪談話が伝わっているのだ。 その怪談話というのが『うらみちゃん』である。 出自は明らかではない。誰が語り始めたのか、どこから伝わっているのか、定かではない。しかしインターネットや口伝を通して広まり、いつからかそれはテンプレート的な怪談話のひとつとなっていた。 曰く――。 廃病院に八人で入り込むこと。 余計な荷物は一切持って行かないこと。 四人以上で固まっていてはならないこと。 その約束を守って、あるおまじないを唱えればいい。 『おみまいにいくよ、うらみちゃん』……だ。 その瞬間から、病院にある全ての扉と窓、出入り口になりそうなものは全て閉ざされ。『うらみちゃん』との追いかけっこが始まるのだ。 逃げ切ることはできない。 『うらみちゃん』は何処からともなく現れ、人の倍以上の早さで歩き、決して死なず壊れない。 この追いかけっこを終えるには、自分で言った通りに『うらみちゃん』の病室を見つけ、ベッドに花を一輪置く。そして『おみまいにきたよ、うらみちゃん』と唱えればよい。 それまでは逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて……捕まったら、おしまいだ。 これはただの怪談話である。 だがしかし、リベリスタ達にとっては違う。 この怪談は事実であり、病院のどこかにある病室のベッドがアーティファクト化し、病院そのものを取り込んだ結果起きたものなのだ。 これを放置しておけば、遠からず怪談を試そうとする一般人が訪れ、新たな被害者になるだろう。 調べによれば、既に何人もの被害者は出ているのだ。 階段を手順通りに始め、そして手順通りに終えることでアーティファクト化は解除される。 それをできるのは、あなた達以外には居ない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月22日(日)00:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●前提 これはとてもつまらない話なので、読み飛ばしてもらっても構わない。 日頃から幽霊よりも恐ろしい相手を倒してきたリベリスタにとって、今更お化け程度を怖がるわけもなく、もしかしたら事前の調査で全て調べきり、何の苦労もなく十数秒で事件を解決してしまうかもしれない。 だから怖がらなくていいのだ。 どうぞ、安心して読んでほしい。 これはきっと怖くない話だから。 だから。 だから。 だから。 今からこれを読み終えるまでは。 絶対に後ろを見るなよ。 ●『ティファレト』羽月・奏依(BNE003683) 奏依は夜の廃病院を歩いていた。 右手に懐中電灯。左手にマーカーペン。 場調査を省くために省略するが、彼女達は思った以上にすんなりと、拍子抜けするほど簡単におまじないを始めた。 肝試しをする若者とも、獣退治をする猟師とも違う、とても中途半端な気持ちで捜索を始めた。なんといっても五階建てである。全ての部屋を見て回るには、五組程度には分かれていた方が良かったのだ。 「……」 横目で窓ガラスを見る。 当然ながら自分しか移っていない。 半開きになった病室の扉から、何かが覗いているなんてことも無かった。 扉を開けて中に入る。 ここで三つ目だ。 目を瞑り、耳を塞ぐ。 いーち、にーい。 何か背後で動いたような気がした。 さーん、しーい。 音は無い。光ったわけでもないが、居るような気がしてならない。 ごーお、ろーく。 じっとこちらを見ているような。見られているような気がする。 なーな、はーち。 近づいてこないのか? 見ているだけなのか? きゅーう……じゅう。 目を開ける。 眼前十センチの所に眼球の無い女が立っていた。 奏依の記憶があったのは、そこまでである。 ●『ネガデレ少女』音更 鬱穂(BNE001949)と『宿曜師』九曜 計都(BNE003026) 夜だからか、廃墟だからか、それともタイルの材質か。 二人の足音は廊下によく響いた。 鬱穂はぎゅっと計都の手を握っている。 言ってしまえば、ただ時間が遅いだけの家屋内である。想像してみて欲しい。空気の音がする闇を。懐中電灯の丸い明かりが少しばかり遠くの床と壁を照らしている。 鬱穂が帰りたそうにしているのを、計都はなんとなく察する。 「怖がらなくても、おねーさんがついてるから安心するッス!」 「は、はい……」 少し大げさに胸を叩いて見せた。 やんわりと安堵する鬱穂。 しかし一方の計都は、この空間の異常さを肌で感じていた。 聞けば、この建物自体がアーティファクトに呑まれていると言う。なら、今は既に術中にあると言うことなのだ。 どこから何が出てきても、おかしくは無い。 たとえば背後から。例えば足元のタイルから染み出るように。例えば窓に張り付いて。 「……」 息をのむ。まさか、そんなわけがあるまい。 一応、鬱穂にESPをかけさせている。接近があれば気づく筈だ。 「次の病室は、ここッスね」 病室の引き戸に、数センチほど隙間が開いている。 計都が扉に手をかけたその瞬間、向こう側から指が伸びたのを見た。 「――っ!」 「うっ、なあああああああああ!!」 二人の反応は早かった。悲鳴を上げて駆け出す。背後で扉が勢いよく開かれる音がするのだ。足音が聞こえるのだ。 まるで歩行する足音を倍速に早めたような奇妙な音だ。 振り返る暇はない。計都は必死で走るが、足音はどんどん自分に近づいていた。 焦りから足がもつれる。 どんよりとした空気が全身に絡むような気がした。浮き出る汗に重量を感じた。肩を掴まれる。 「イ、イヤァー!!」 「計都さ……ううううっ!」 転倒する計都。鬱穂は振り返らないようにして、全力でその場から逃げ去った。 ●挿入、『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)と『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)。 病室のベッドにバツ印を付けていた椿達は、下階から聞こえた悲鳴に顔を上げた。 「出たか!」 「うらみちゃん」 急いで扉を潜り廊下に飛び出す。懐中電灯も使わずに廊下の端まで走ると、数段抜かしで階段を駆け下りる。 焦りが見える椿に比べて、菜々那はどこか楽しげな顔をしていた。 「ナナはね、ほんとはうらみちゃんの方を探してるの」 「今そんなん言ってる場合かっ」 「うらみちゃんと一緒に遊ぶのよ。ナナは――」 「あん?」 言葉が不自然に途切れた。 反射的に足を止めて振り返る。 菜々那の姿は無い。 椿は本能的に気味の悪さを感じたが、今はこちらが先だとばかりに階段を降り切った。 カーブして廊下を走る。 ライトで照らすと、向こうから走ってくる鬱穂の姿があった。 「こわくないこわくないこわく――う、わ――!」 椿の姿を見つけ、飛び付いてくる鬱穂。 背丈の近い二人の事、丁度正面から抱き合うような態勢になった。 「だ、大丈夫……そうやな」 念のため呪印封縛の準備をしていたが、うらみちゃんが追って来ている様子は無い。 「あっごめんなさい、椿さん……菜々那さんは?」 「途中ではぐれてもうた。見つかったのかもしれんけど、むしろ自分から探してる風やったし……足止めしてくれたんかなあ。そっちは――」 「こっちもです。計都さんが捕まってしまって。私だけ逃げてきました」 「うん?」 鬱穂に抱き着かれたまま、椿は首を傾げた。 「じゃあ、後ろにいるのは……誰なん?」 「……」 反射的に椿から顔を離し、後ろを振り向く。 計都がにっこりと笑って、千枚通しを振り上げた。 ――。 距離にして5センチ。 鬱穂の眼前を通り抜けた千枚通しが、椿の眼球に突き刺さった。 突き飛ばすようにして離れる鬱穂。一方の椿は押し倒され、手首を押さえつけられた。 誰だか知らない誰かが、千枚通しを振り上げる。 菜々那の行方について述べなくてはならない。 彼女は階段の七段目を踏んだ次の瞬間、どこかの病室に立っていた。 「うらみちゃん? ここにいるんだね?」 楽しげに身体を左右に揺する菜々那。 とりあえず周囲を見回してみると、窓や扉が無かった。 壁だけがある。 数秒して、天井にある蛍光灯が光を放ち、病室を明るく照らしてくれた。 薄緑色の壁がてらてらと光を反射した。 ベッドがひとつあって、他にはない。 念のためベッドの下を覗いたが、特に何も無かった。 首をかしげる。 ――1分が経った。 何も起こらない。菜々那はショーテルを抜くと、油断なく周囲を警戒する。 ――10分が経った。 何も起こらない。菜々那はベッドに腰掛ける。 ――1時間後。 何も起こらない。いくらなんでもおかしい。他の皆はどうなったのだ。外はどうなっているのだ。 ――10時間後。 何も起こらない。何も起こらないのだ。 「どう、して? ねえ……どうして?」 ――70時間後。 何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。 ――823時間後。 何も起こらな何も起こ何も起何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も出してよ出して出して出してもう嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ――現実には、1分後。 暗い病室の窓を、風が叩いている。 蛍光灯からロープが下がり、目を大きく見開いた計都がぶら下がっていた。 薄緑色の壁には菜々那が寄りかかっていて、ここではないどこかを見つめたまま唇を半開きにしていた。 壁には赤い字で、『だして』と書かれている。 ●『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224) ガッツリ、という名前が愉快だとは自分でも思っている。 だから彼女にとってこの場所はとても不似合なのかもしれないし、だからこそ平気でいられるのかもしれない。 病室の壁に済印を書いて、次の病室へと移動する。 「んー……」 懐中電灯は使っていない。暗視が効くのだ。 それもあって、かなり恐怖は和らいでいた。 余裕のある頭で考える。 『うらみちゃん』はこの病院に伝わる怪談話である。 なら、それを伝えた誰かが居る筈だ。アーティファクト化が解けていない以上、誰かがクリアしたとは考えられないし、何等かの方法で逃げおおせたとも考えにくい。 なら、もともとの怪談話がある筈だ。 何故、『おみまいにきた』と言った人を何故襲うのか。 何故、『8人』という人数に限定されているのか。 何故、倍以上の早さで移動しながらも『歩き』と言われているのか。 裏に何かある筈だ。 何かが、ある筈なのだ。 「火の無い所に煙は立たないお、きっと何か……ん、んん?」 ぐにゃり、と廊下が歪んだ気がした。 いや、それだけではない。 気づけば自分は病院のベッドに寝ていた。 いや、何が『気が付けば』だ。 音の聞こえ方や物の感じ方が明らかに現実のものと違う。 これは夢なのだ。どんなタイミングかは知らないが、どうやら眠らされて、夢を見ているようだ。 病院だと分かるのは、白いパイプの骨組みや、独特な天井が見えていたからである。 起き上がろうとしたが、身体が動かない。皮のベルトとがっちりと全身をベッドに固定されていた。 まあいいか。何かのヒントになるかもしれない。 そう思って隣を見ると、椿が自分と同じように固定されていた。 目を大きく見開き、口を開けている。両目と口には千枚通し(実物を知らない彼女には巨大な針に見えた)が刺さっている。それだけではない。掌や腕、胸から腹、つま先に至るまで、一本一一本丁寧に、等間隔に千枚通しが突き刺さっていた。ベッドの枕元にはブレートがついている。 目を細める。 プレートには『串刺し』と書かれていた。 なんだろう、これは。 夢ながらに怖気が走る。反対側を見ると、そこには奏依が固定されていた。顔はこちらに向いている。 目蓋を大きく開け、涙を流した跡があるが、なぜか眼球が見つからない。口も開けているが、舌が無かった。 奏依の枕元に目をやる。 プレートに『引き抜き』と書かれていた。 まさか、と思う。 苦労して頭を動かして、自分の枕元を見た。 プレートには『磨り潰し』と書いてあった。 ●『無音リグレット』柳・梨音(BNE003551)と『Weibe Lo"wen』エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(BNE003729) 老人が歩いている、と表記すると誤解を招くかもしれない。 エインシャントは三十手前の若い男だったし、背筋もよく伸びている。 だが雰囲気がとても老熟しているのだ。 「ガウストには出会えなかった。出会えれば、噂の事を聞いたのだが」 「……はあ?」 梨音はどことなくサディスチズムのある目で首を傾げる。 反応は無い。慣れているのか、聞こえていないのか、それとも意識の外にあるのか。 廃病院の廊下を、二人並んで歩いている。 おまじないの前によくわからない探索を始めたエインシャントの後を、梨音が勝手についてきたという構図である。 返事が無いので勝手に黙る梨音。 言葉通りに受け取れば、幽霊を見つけて会話をするという意味なのだが、まさかそんな筈はなかろう。応じたスキルも無しに、何を言うのかと思う。 だがこうも考えられるだろうか。死体解剖医が解剖のことを使者と対話すると表現することがあるように、『探索』を指す彼独特の言い回しなのかもしれない。 それらしい成果は無かったようだが。 「次の病室、そこよ」 小さな手で指をさす。 エインシャントはそれこそ老人のように短く応答して、病室へ入って行った。 梨音は部屋の前で立ち止まる。 「……」 この時点で彼女は、おまじないの本質を見ていた。 常に動き続ける必要のある『追いかけっこ』と、立ち止まって集中する必要のある『お見舞い』を同時に行うことはできない。 お見舞いをするなら、誰かが追いかけられている間のみであり、できればその誰かは身近にいた方が効率が良い。 探索効率と天秤にかけて、大体2人1組に分散するのが丁度良いだろう、と踏んでいた。そしてそれは概ね正しい。 問題は、追いかけっこがどれだけ引き伸ばせるものなのかどうかだ。 「……」 目を細め、梨音はその時を待つ。 エインシャントはベッドの前に立った。 おまじないの手順は覚えている。目を瞑ろう……と、した時。 ベッドの下に何かを見つけた。 ぬいぐるみの手である。 「……」 ぬいぐるみの前に屈みこむ。暗くてよく見えないが、どうやら女の子のぬいぐるみのようだ。 あっけないものだ。 エインシャントは表情を変えずにぬいぐるみに手を伸ばした。 その手が誰かに捕まれた。 ベッドの下から青白い手首が伸び、エインシャントの手を掴んだのだ。 「――!」 何かを喋る暇はない。信じられない力でベッドに引き込まれる。だが屈んだ姿勢から腕だけを引っ張られているのだ。首や腰がつっかえる筈だ。だがそれすら無視して、エインシャントは文字通り『引き摺り』込まれた。 「来た」 梨音は予め確保しておいたベッドシーツを放り投げると、踵を返して一目散に走り出した。 案の定、背後から足音が追ってくる。イメージとしては、梨音の全速力でギリギリ引き離せるレベルだ。これなら追いかけっこができる。 「大丈夫……ソミラの足を、舐めるな」 口元に笑みを浮かべ、梨音はスピードを上げた。 ――20秒後。 足音がまだ追って来ている。 だがおかしい、そろそろ廊下の端についても良いころだ。 ――10分後。 息が上がってきた。だがまだ走れる。足音もスピードダウンをしている。大丈夫そうだ。 ――30分後。 廊下が終わらない。足音が追ってくる。 ――5時間後。 廊下が終わらない。足音が追ってくる。廊下が終わらない。足音が追ってくる。廊下が終わらない。足音が追ってくる。廊下が終わらない。足音が追ってくる。廊下が終わらない。足音が追ってくる。廊下が終わらない。足音が追ってくる。 ――520時間後。 おわらない。おわらない。 振り返ると、そこには、腐りきった白骨が居た。 自分を追って走っていたのはこれだったのだ。 だが、何故だろう。 背丈も、引っかかっている服装も、まるで。 十年かけて腐り落ちた、自分のようではないか。 現実には、3分後。 ベッドの下で横方向に折りたたまれたエインシャントが、目だけを虚空に彷徨わせている。 何も見てはいない。だがその視線の先、病室の入り口で、梨音がうつ伏せに倒れていた。 目の奥には、まだ長い廊下が映っている。 ●おみまいにきたよ 「おみまいに、きたよ……」 鬱穂はがくりと膝をついた。 目の前には、綿のはみ出たぬいぐるみが落ちている。 病室の窓がいつの間にか開いているのを見て、鬱穂はため息を漏らした。 「もう、いや」 夜明け。 計都やエインシャント達は、病院の入り口フロアで目を覚ました。 八人全員が寄り集まるようにして気絶していたのだ。 「想い出の欠片は土にかえり、また花と……」 何やらと呟くエインシャントの横で、椿とガッツリが眼を擦る。 「夢、だった……夢だった。夢、夢……」 「でも、アーティファクトは確かにあったみたいやな」 横目で鬱穂を見やる。彼女の手元には綿のはみ出たぬいぐるみがあった。 虚空をじっと見つめる菜々那と梨音。 「良かった」 そうとだけ言った二人に、奏依が小さく頷いた。 終わったのだ。多分これで、終わったのだ。 重々しい扉を押し開け、外に出る八人。 そんな中で、計都は目頭を押さえて低く唸った。 「最初に、サイレントメモリー、かけてたんスけど……」 「病室探しの手がかりらしいものは無かったって、言ってたよね」 「そうス。無かったんス」 顔を上げる。 「『何も無かった』んスよ」 「…………」 背後で締まる扉。 ばたんと音を立てる直前、誰かの声を聴いた気がした。 この病院には、怪談話が伝わっている。 誰が伝えたのかは、分からない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|