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<黄泉ヶ辻>こどもリサイクルセンタア壊滅作戦

●『いらないもの』が『なんでもないもの』になれるなら
 看板もない、ごく普通の建物である。
 本当によく観察しない限り、それがただの建物ではないとは分からない。
 ましてや、黄泉ヶ辻の秘密施設であることなど、一体何人が分かるものだろうか。
「…………」
 今日もまた、子供が一人連れて来られた。
 仮面をつけた男に手を引かれ、黙って歩く少女。
 男の仮面は、ぐるりと目が輪を描くような模様をしており、一部ではこれを『巡り目』と呼んでいる。
 入り口らしき場所はひとつしかない。
 すりガラス製の扉を開ければ、『巡り目』が二人程立っている。
 まるで門番のような彼等の間を潜り抜け、長い通路を進めば『リサイクル工場』だ。
 少女には予め神秘の力で意識を失わせ、白いベッドに乗せる。
 煙草を咥え、白衣を着た男がベッドのレバーに手をかけた。
 年中ため息しかついていないような、陰気な顔をした男である。
「はあ……また失敗作が出たのか。リサイクルする方の身にもなって欲しいよ。前にはアークに嗅ぎつけられて、プラントを一つまるまる破棄したんだよ? 回収に行かせた『巡り目』も戻ってこないし、どうなってるんだよ、最近は」
 ぶつぶつと小声で独り言を続ける。
 もはや聞き取れるレベルではないが、周囲を囲む『巡り目』達はそもそも気にも留めなかった。
 レバーを下す。
 ベッドは電動で動き出し、狭い部屋へと進んで行く。
 部屋の中は暗かった。
 いや、闇であった。
 そこには何もなく、本当に何もないのだ。
「はあ……この子も一週間後には『巡り目』か。どうなってるんだよ、最近は」
 そしてまた、ため息をつく。

●破壊
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は淡々と資料のページをめくって行く。説明の口調もまた淡々としていた。
 リベリスタ達はそれを、静かに聞く。
「以前、『集団一家非連続自殺害事件』の調査を行った際、いくつかの情報が浮かび上がりました」
 ほとんどが貴重な情報であり、今現在も調査が続けられている。
 その中で、リベリスタ達にとって関心の強い情報が得られた。
「『こどもリサイクルセンタア』……特定の条件にある子供を子飼いのフィクサードとするための施設です」
 並べられた資料の中に、一部見覚えのある写真があった。
 少女『613番』。
 なんでもないものになりかけた少女である。
 あの時リベリスタ達が助けに入らなければ、この施設によって彼女も『巡り目』になっていたことだろう。
「今回はこの施設に突入。敵性体を全滅させ、主要人物である白衣の男を――」
 捕獲、などと言う言葉は使わない。
 この時和泉は、『抹殺』せよと言った。
 捕獲した所で、置いておく場所などない。実際的な危険のある人間を置いておくことで、どんな被害が起こるか分からないのだ。この男の場合は特に。
 施設壊滅後、調査をすることは可能です。その点に関しては、皆さんにお任せします。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月17日(火)23:25
八重紅友禅でございます。
さ、補足を述べましょう。

●こどもリサイクルセンタア
施設への突入路は正面入り口のみ。
(特殊なスキル等で別の場所から突入しても構いませんが、その分孤立する危険、また味方の戦力が減少する危険が増します)
フィクサード『巡り目』が二名と、弱いEフォースが10体。
通路を進めばやや広いフロアに出ます。
横に個室がいくつかありますが、戦闘中に意識する必要はないでしょう。
フロア内には『巡り目』が四体。彼等に率いられる形でEフォースも多く存在しています。かなりの混戦状態になりますので注意して下さい。
白衣の男はフィクサードのようですが、あまり強力ではない模様です。横の個室に居る筈なので、ある程度戦闘を終えたら突入しましょう。

かつて調査を行った集合住宅地が、このためだけに存在しているとは思えません。
が、他一切の情報は不明です。
調査をするなら、壊滅後に行いましょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
ソードミラージュ
マク・アヌ(BNE003173)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
プロアデプト
アルバート・ディーツェル(BNE003460)
プロアデプト
チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)

●『こどもリサイクルセンタア』
 硝子の押し扉を、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は足で蹴り開いた。
 玄関フロアと言うべきだろうか。
 簡素な鉄扉の両端を、まるで門番であるかのように二人の男が立っている。
 男、と言ったが性別は分からなかった。大きな外套を羽織り、仮面をつけている。
 『巡り目』と呼ばれる奇妙な模様の仮面をつけた連中を、そのまま『巡り目』と呼称していた。
 『巡り目』は周囲に10匹程のEフォースを発現させると、一歩も動かずにじろりと見つめる。
「人間をモノ扱いで好き放題しやがって、ふっざけるな!」」
 夏栖斗は大きく足を踏み出すと、虚空を斬って進んだ。鉄扉がめぎりと音を立て、奇妙な形に裂ける。
 途中にあったEフォースたちも悉く潰されていった。恐らく弱い部類なのだろう。
 入り口を塞ぐようにEフォースが集まるが、『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)のダガーがピンポイントで突き刺さる。
「ここを潰せば、少なくとも一つの決着はつく……筈ですが、何故でしょう」
 ここで本当に終わるのかという不安もよぎる。
 そんな彼を追い越して、『悪食』マク・アヌ(BNE003173)が『巡り目』の喉に食らいついた。猫科の肉食動物がそうするように、まず息の根から止めようとしているのだ。
 肉を食いちぎり、がじがじと咀嚼してから再び食らいつく。
 アルバートは目を反らした。今は感傷を受けている時間は無い。
「チャイカ様、マッピングの様子は」
「進めてますよ。不穏なトコですから、隅々まで見て行かないといけないのです」
 小首を傾げて返す『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)。
 コンパクトなノートパソコンを片手で操りながら、フロア内の様子を逐一撃ち込んでいた。力技ではあるが、隠し部屋対策にはうってつけである。
「敵が多いですね、まずは頭数から減らしていきましょうかぁ」
「……」
 からからとした調子で、夏栖斗達の後ろについて歩くチャイカ。
 それを横目に、夏栖斗はある想像をした。
 暗い部屋に何日も、椅子に座って携帯電話を見つめる少女……と。
「あ、れ?」
 何故こんなことを連想したのか。
 夏栖斗はそれ以上考えるよりも、目の前の敵を優先した。

 広いフロアに出た頃にはもう混戦状態に陥っていた。
 四人の『巡り目』が腕を広げて立っている。その周囲を渦巻くようにEフォースが顕現、リベリスタ達へと襲い掛かってくる。
 その数なんと20体。
「フォローは任せて下さい、先へ」
 七布施・三千(BNE000346)は翼の加護やクロスジハードを順番に展開。そこからは回復をメインに戦術結界を張った。
 とは言え戦闘に気を配っている暇はあまりない。ここまで突入してしまったからには、目的の人物がどこからか逃走してしまう危険もあるのだ。
 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)と『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)はてっとり早く『巡り目』の仮面を弾き飛ばし、発狂して自殺する彼等を背にEフォースを叩きにかかった。
「……」
 気持ちの悪いものを見る目で振り返る真琴。
「彼等は失敗した場合……なんですよね。なら成功したら?」
「リサイクルですからね。ともかく、フィクサードの企みは潰さねば」
 捻じれた赤ちゃん人形。指が三十本ある右腕。全方位にフォークが刺さった生首。奇怪な様相をしたEフォースを、真琴は無理矢理叩き潰した。
 すると、何と言うことか。
 残ったEフォースたちが己の身体そのものを弾幕にして突撃してくるではないか。
「させないッス!」
 素早く印を結んで守護結界を発動させる『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)。弾幕が潰れ、ペットボトルを密閉したまま踏み潰した時のような、何とも言えない音が響いた。おどろおどろしい粘液が大量に飛び散る。
「自爆……!?」
「大丈夫です、このくらいなら!」
 素早く聖神の息吹を発動させる三千。
 思わず身を護った計都達だったが、ダメージに緊急性は無いとして更に突入。奥にある小部屋へと走った。
 その途中で、床に転がった『巡り目』の仮面に視線を落とす。
「円相……」
「エンソウ?」
 ちらりと視線を寄越してくるノエル。計都は彼に応えると言うよりは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「十牛図にこういうのがあるんす。人牛倶忘って言って、実際には『なにもない状態』を現した『空(くう)』の図なんすけど……まさか、禅道の境地が本気だなんてこと、ないッスよね」
「……?」
 禅の知識が無いノエルは小さく首をかしげる。
 十牛図。禅の悟りに至る道筋を現したもので、乱暴に説明するなら絵本のようなものである。
「絵本。絵本か……」
 計都はほの暗い表情で呟いて、奥の小部屋へと急いだ。

●コーリングベルは聞えない
 小部屋の中には、白衣の男が居た。
 情報にあったフィクサードである。
「うわああ、もう来た! もう来たよう! 知ってることを全部喋るから、どうか命だけは助けてくれよう! 僕は脅されてたんだ、僕は悪い事なんてしたくなかったんだよう!」
 頭を抱え、スチールデスクの裏に隠れる白衣の男。
「来るのは分かってたってことか」
 夏栖斗はずかずかと歩みより、デスクを迂回することなく踏み越えると、男の襟首を掴んで持ち上げた。
「何のつもりか分からねぇけど、気持ち悪いんだよ! 人間を人間とは思わない? ふざけんな!」
 思い切り殴りつける。
 男はうひゃあと言って壁に頭をぶつけ、丸くなって転がった。
 無抵抗だ。
 それどころか、軍隊に襲われた一般人のように縮こまっている。ガタガタと震え、鼻を突くような臭いがした。失禁までしたか、と夏栖斗は眉をしかめた。
 蹴破られたドアをそのまま通過して、真琴が部屋に転がり込んでくる。
「そいつですね!」
 真琴は警告抜きでジャスティスキャノンを連射。男はみっともなく悲鳴を上げ、床を転げまわり、壁やデスクにあちこちをぶつけた。
 紙束やファイルが崩れ落ち、ノートパソコンが机から落下する。
 相手が無抵抗なのを確認して、真琴は砲撃をやめた。
「やめてくれよう、殺さないでくれよう! 怖いよう、怖いよう、僕はこんなことしたくないんだよう、助けてくれよう!」
「何が助けてくれだっ!」
 うつ伏せになって身体を丸める男を無理やり引っ張り上げ、計都は壁に叩きつける。額を鷲掴みにしてハイリーディングを発動。それでも足りないとばかりに怒鳴りつけた。
「このクソッタレな真似をして何が目的だ、ああ!? テメェらは『こどもたち』から何も奪ってないだろうさ。奪われるモノさえ与えない人生を作ったんだ。そんな真似、絶対に許さない!」
「ど、どうするんだよう」
「全てブッ潰す!」
「ひぃぃぃぃ!」
 男は涙と涎を汚らしくまき散らし、首を振って命乞いをした。
「喋るよう、何でも喋るよう! だから殺さないでくれよう! 死にたくないよう、死にたくないよう!」
 ハイリーディングは映像レベルで思考を読み取れるスキルである。今の言葉が嘘なら、そうとはっきり分かる筈だ。
 しかし脳内の彼はやはり蹲り、みっともなく命乞いをしていた。
 後から部屋に入ってきた三千も、自分の頬を撫でて見せる。
 一応これた『相手が動揺している』の合図なのだが、もはや意味は無いだろう。
「こんなヤツが……」
 何十人もの人々を操り、自殺させ、喪失させ、なんでもないものに仕上げたのか。
 男は黄泉ヶ辻への連絡方法をべらべらと喋った。それは主流七派との一時休戦条約を結んでいた時に判明した情報とほぼ変わらない。この男は本当に小者だったのか。
「喋ったよう、全部喋ったから解放してくれよう! 怖いよう、怖いよう!」
「子供たちを『巡り目』にしたのはどういう理屈だ。言え!」
「そこのパソコンに入ってるよう! ただの催眠術なんだよう、薬物を投与して、言い聞かせを毎日続けてただけなんだよう!」
「……っ」
 簡単に吐いてくれる。
 三千はその様子に、どこか落胆に近い表情を見せた。
「この男は小者で間違いないでしょう。上は直接黄泉ヶ辻のようですし……事件も、これで終わりですね」
「待って下さい」
 殺すか連行するかのどちらかを議論しようとした三千を押しのけて、ノエルが部屋へずかずかと踏み込んで来た。
 槍を男の首にぴたりと突きつけ、鋭い目で睨みつける。
「あの『巡り目』は欠陥が多すぎる。あれを作ることが目的ではないのでしょう?」
「知らないよう、きっと忠実な構成員が欲しかったんだよう! 新興宗教みたいなものだよ、皆もそのくらい分かるだろう!?」
「あの集合住宅も、あれだけとは思えません。他はどこですか?」
「前に潰したので全部だよう、勘違いをしないでくれよう! 僕はそんな大それたこと、できないよう!」
「…………くぅ」
 歯噛みする。
 沢山の人を不幸にした元凶が、こんなものだったなんて。
「他には何が知りたいんだよう!」
「他、他には……」
 男は投げつけるように『何が知りたいのだ』を繰り返す。
 ノエルは聞ける限りのことを聞いた。今まで知らなかったこと。不明だったこと。曖昧だったこと。全部に納得がいくまで問い詰めた。
 聞くことが無くなっても、他には何が知りたいのかと問うてくる。
 まだ何かあっただろうか。
 何かある筈だ。
 命令した人は誰だ。知らないと言う。ではお前は誰だ。年齢も性別も本名も全てすらすらと答えた。どうしてこんなことを。理由も経緯も全部話した。これまでの生い立ちや、考えていることや、弱みや、悲しみや、絶望や、死の概念、この世ではないものの存在、知らぬことの幸せや、真後ろに居るとされる何物でもない何かの存在、この世を構築するとされる理論、神話の原典、世界の心理、それが……。
「嘘って言ったら、信じるかい?」
「…………あ……れ?」
 会話に引き込まれていた。
 ノエルも、三千も、真琴も、夏栖斗もだ。
 気づけば武器を下していた。
「なあ、君の名前は何だい?」
「ノエル・ファイニング……出身はイギリスで、フィクサードのせいで孤児になった」
「それは本当かい?」
「当然……」
「実はその事件に関わったのは僕なんだが、あれはリベリスタの所為だよ。アークが派遣した『脅威になる神秘』を潰す計画のひとつだったんだ。わかるだろう? リベリスタはいつでもフィクサードになる性質を持ちあわせている。人間だものね。君だってそうさ」
「違う、そんな……私はフィクサードになど」
「違いは一つだよ。君が『わがまま』で神秘を使えば、もうフィクサードの道は開いている。世界の為? 嘘だね、君は自分のわがままでフィクサードを憎んでいるんだ」
「馬鹿なことを言うな! 私はフィクサードじゃない!」
「そうだよ。ごめんね、今のは嘘だ」
「嘘……」
「君はずっと昔に対フィクサードように情操開発された兵器型リベリスタなんだ」
「わたくし、が?」
「嘘だよ」
「……」
「なあ、君は本当は誰なんだい?」
「…………わたくし、は」
 額に手を当てる。
 誰だ?
 この人物は、誰だ?
「教えてあげよう、君はただの――」
「そこまでッスよ」
 目を開けた計都が、男の後頭部を思い切り壁に叩きつけた。
「ガッ!?」
「うかうか騙されるところだったッス。まさか神秘も使わずに話術だけで催眠状態にしていたなんて、絵本を使った教育の時点で気づいておくべきだったッス」
「計都、さん?」
「心を強くもたなきゃ駄目ッスよ。幸いあたしは鉄心で固めてましたから騙されるフリしてタイミングを待ったんス……それにコイツ、ダブルキャスト使いッス。手品みたいに途中で人格を変えたんスよ!」
 そう言って白衣の男を睨むと、男は忌々しげに舌打ちした。
 重々しくため息をつく。
「はあ……乱暴な手段を取るから絡め手が通用すると思ったのに、とんだ用心深さだねえ。アークは本当に恐ろしい所だ。どうなってるんだよ、最近は」
「待って下さい、じゃあ……今まで吐かせた情報は?」
「全部嘘ッスよ。恐らく、パソコンに入ってる情報もフェイク。資料もフェイク。アークがここに来ると踏んだ時点で情報媒体なんてとっくに焼いてるんスよ! 仲間のフィクサードをサーバーにして、どっかに持ち去った後ッス! でも残念だったスね、アルバートさんがサイレントメモリーで片っ端からスキャンをかけてる最中ッス。その内バレるんスよ!」
「はあ……僕が本性を現した所を狙ってリーディングをかけ直したのかい? 失禁までして演技したのにパァだよ。どうなってるんだよ、最近は――ぐあっ!?」
「暗室の鍵は貰っとくス。本当、偽装大好きスね」
 計都は男の耳から大きめのピアスを引き千切ると、夏栖斗に向かって放り投げた。
 どうやら電子コード式の鍵らしい。SDカード程度のサイズだが、これを翳せばドアは開くだろう。
「ありがとう、助かった!」
 部屋を飛び出していく夏栖斗。計都もそれを追って飛び出す。
「…………」
 暫く額に手を当てていたノエルは、目をぎゅっと細めて男を睨んだ。
「これ以上、言うことは無い……死ね」
 男の頭が、スイカのように砕けた。

 一方、そのころ。
「うぁ……ぁ」
 マクは千切れた腕のようなものを咥えたまま、のそのそとフロア内を徘徊していた。
 鼻をひくひくと動かして、何かを探すように首を左右に巡らせる。
 そしてふと、なにも無い壁に目が行った。
 施設内の壁には奇妙な網目模様がびっしりと巡らされており、一見して悪趣味な壁紙のようでもあった。
 その一部。壁にしか見えない場所をかりかりと爪で引っ掻く。
 すると、網目の一部が隙間になっているのを発見した。
「……ぁぁ」
「ここって?」
 フロア中をマッピングしていたチャイカがぴたりと足を止める。
 パソコンのディスプレイと壁を交互に見比べて、ぺたぺたと壁を触った。
「どうも変ですねー、この部分だけ空洞っぽいんですけど」
「どれ、調べてみましょう……」
 頭を重そうにしたアルバートが、壁に手を付けてサイレントメモリーをかけた。
 扉の開くイメージ。チップのようなものを翳すイメージ。
 そこへ夏栖斗が駆け寄ってきて、イメージにあったチップを翳した。
 顔を見合わせる。
 するとどういう機械仕掛けか、壁が動いて内側にドアが出現した。どんな家庭にでもあるようなドアだ。しかしこの壁がある以上、つっかえて開かないようになっているのだろう。
 こんなことをするのは、『ドアが開かない』という事実を内側の人間に知らしめるための仕掛けに他ならない。ここまでやって、面倒くさかったからなどという理由ではあるまい。
 計都も遅れて駆けより、腰に命綱を巻く。
「何かあったら引っ張って下さい。夏栖斗さんも」
「あ、ああ……」
 同じように腰に綱を撒き始める。
 その横を、マクが足早に追い越して行った。
「あ、待って! 危な――」
「ぅぁ……ぁ……ぁ」
 返事でもなんでもないうめき声を返してドアを開く。そして、内側の闇へと入って行った。
 闇の中から声が聞こえる。
「食べれる、ない」
「どういう、意味だ?」
 慎重に部屋に入って行く夏栖斗達。
 夏栖斗は暗視に切り替えて周囲を見た。
 見て、固まった。

「どうしたんです? 何かあるんです?」
「慌てないで下さい、ライトは用意していありますから」
 アルバート達がランプを灯す。
 部屋の中が良く見えた。
 見えてしまった。
 大量の『眼球』が、壁に埋め込まれるようにして並んでいる。まるでそういう壁紙であるかのようにだ。
「……ぃっ」
「エグい、ですね……」
 喉を詰まらせるチャイカ。
 だがそれ以上に異質だったのは、部屋の中心で、古びた椅子にじっと腰掛ける一人の少女である。
 彼女は起動もしていない携帯電話のディスプレイを、いつまでもじっと見つめていた。
「あの時の、娘だ……」
 震える声で、夏栖斗が言った。
 アルバートがおそるおそるサイレントメモリーをかける。
 そしてすぐに頭を抱えて蹲った。
 この部屋で行われた、『なんでもないもの』になるための処置を、ダイレクトに感じてしまったのだ。
「強制的、自己言及……」
 そうとだけ呟くと、アルバートは意識を失った。

 ある意味で無人になった『こどもリサイクルセンタア』から出ると、外は夕暮れ時になっていた。
 気分が重い。
 しかし、得られた情報も多かった。
「見えましたね、この先にあるものが」
 情報を手に、帰路につくリベリスタ達。
 空は、どんよりと沈んでいる。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
これが未来にどんな影響を及ぼすのか
それは、今はまだ分かりません。