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ターニング・ザ・『ホワイトマン』 ~鉄拳再起~

●非現実的存在、『ホワイトマン』。
 ビデオメッセージである。
 ブラインドらしき窓から逆光が入り、幾度か画面をホワイトアウトさせる。
 やや画質の悪い映像だが、それが室内であることは分かった。
 なぜか環境音はしない。音声だけを別撮りしたのだろうか。
 マイクに直接語りかけるように、誰かの声が入った。
「レディース・アンド・ジェントル、アークの未来有望なリベリスタへ贈る……と、こんな調子でいいか?」
 合成音声である。音からは何も判断できない、かろうじて日本語と分かる程度の音声だった。
 ビデオ映像が動き、パイプ椅子に座った白スーツの男が映った。
 顔は見えない、胸から下だけだ。
「俺の、いや六道の武闘派グループ『斬鉄』と『鉄拳』を欲も潰してくれたな! 許せん、今こそ報復の時である! ……なんてな。そういう意図で送ったもんじゃあない。長ったらしい前フリになって申し訳ないんだが、こいつは俺なりの敬意の現れであって、アークとしっかりゲームをしようって気持ちの表明だってことを、理解してから見てくれよ。でないと必要のない勘繰りだのなんだので勝負が台無しになるからな。俺はそういうの、大嫌いなんだよ」
 膝の上で両手を絡ませる。
 ちらほらと、指の上をジャグリングでもするようにネジ状の物体が転がっていた。
「さて、先に言ったように、お前らアークは俺が管理していた武闘派チームの内二つ、『斬鉄』と『鉄拳』を壊滅させてくれた。そもそも、奴らがジャックを殺した程の連中とやり合いたいっつーんで、ひと舞台用意したのが始まりだ。アークが食いつきそうなケチな仕事を押し付けてな。自己研鑽が生甲斐みたいな連中だから、あの手の仕事は嫌がったが、まあおかげでアークと正面切ってことを交えることができたワケだ。長介辺りは感謝してたぜ、歴史に埋もれて二度と振れない剣をもう一度振れたんだっつってな」
 手の上で、ネジ状の物体がぴたりと止まる。
「それくらい単純な連中だから、俺も上手い事利用できた。利用と言ってもしっかり相互理解があったんだぜ? 書面じゃ交わしてないが、コストとリスクを提示したつもりだ。……いや、悪いな、関係ない話が挟まりそうになった。じゃあそろそろ本題と行くか」
 ネジ状の物体を指でつまんで、カメラと一緒に移動させていく。
 次に移ったのは、十一人程の男女だった。
 過去に報告がある、『鉄拳』のメンバーである。
「お前らも知ってるよな。過去二回の戦闘で敗北、死亡した鉄拳のメンバー十一人だ。再戦はよせつったんだが、レッドが聞かなくてな。別のことに使う予定だったが、急きょ番組を変更しまして……こいつらに、『魔剣化』してもらうことになった」
 メンバーの一人。眼鏡の男。
 彼の額にネジ状の物体を押し付ける。
 するとネジはそういう動きをする蟲であるかのように、男の額の内側へと潜り込んで行った。
 肌が黒く変色し、闇じみたオーラが全身を包み込む。
「アーティファクトだ。名前はつけてない。死体に寄生することで強力な兵器として『稼働』させられる。死体とワンセットのアーティファクトだ。蘇生じゃないぜ、『稼働』な。だから情けも容赦も知らない人型兵器だ。言うなればこいつは、『魔剣・十一星』って所だな。何故俺がここまで丁寧に説明したか分かるか? 分かるよな。今からコレの効果測定を行う。測定内容はリベリスタの抹殺――」
 コンクリートの壁に、顔写真付きのレポート用紙を張り付けた。
 これも過去の報告にある顔である。
「『鉄拳』の生き残り、更に言うなら裏切り者の……天道烈斗。調べた所によれば、アークの仲間に寝返ったらしいが、一足遅かったな。今からこいつを囲んで殺すぜ」

●魔剣・十一星
「以上が、送られてきた映像です」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はスクリーンの前に立った。
 VHS媒体で送られた上、不幸の手紙よろしく何人もの手を渡ってダビングされたらしく、サイレントメモリーを初めとするあらゆる調査に対する対策が取られていた。
「かなり頭の回る人間のようです。『鉄拳』と『斬鉄』をめぐる戦いも、彼が裏に居たとみて間違いないでしょう」
 彼――仮称『ホワイトマン』。
 年齢どころか性別すら不明であり、少なからず神秘に属する人間であることは間違いない。これまでの報告の中にも、ちらほらと散見していた人物である。
「彼の目的は、メッセージの通りです」
 リベリスタ『天道・烈斗』の抹殺。
 彼は元鉄拳のリーダーであり、リベリスタ達と拳を交わしたことでフィクサードからリベリスタに転身したとされている。
 彼は元仲間の遺体を回収して弔うつもりだったが、そこに漬け込まれ罠に嵌ったようだ。
「彼等専用のトレーニング施設だった廃墟ビルで、交戦に入った模様です。1対11では勝てる見込みはありません。彼を抹殺した後も、きっと同じようにリベリスタ狩りをするでしょう。今すぐ現地へ向かい、彼等を撃破して下さい」

 和泉から渡された資料によれば。
 アーティファクトによって強化、強制稼働させられた鉄拳十一星は、どれも強力な個体である。
 生前同様多彩な格闘技を扱う。詳細なスキル構成は不明だが、剣や銃などの武器使用を前提とするスキルは持ち合わせていないだろうと思われる。
 ただし、活動中のキャッチフレーズが『拳でRPGに勝つ』だったこともあり、対銃撃戦には慣れている模様。
「天道烈斗の命は、皆さんの手にかかっています。どうか、宜しくお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月17日(火)23:50
八重紅友禅でございます
バトルはお好きですか?
今日は死ぬまでお楽しみください。

●敵戦力について
諸々、オープニングに述べられている通りです。

●戦場について
廃墟ビル。かつて鉄拳メンバーがトレーニングに使っていた場所です。
壁に穴が開いていたりと損傷は激しいですが。

●天道烈斗について
事前準備をし過ぎて突入が遅れる、突入に余裕を持ち過ぎる等の理由で出遅れた場合、既に死亡している可能性があります。
急いで突入すれば大丈夫でしょう。
彼と過去にちゃんとしたフラグを立てていて、尚且つ今回のプレイングが魂レベルで輝いていた場合、装備『レッドマフラー』もしくはEXスキル『豪快絶頂拳』が手に入るかもしれません。手に入らないかもしれません。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ナイトクリーク
リル・リトル・リトル(BNE001146)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
★MVP
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
覇界闘士
石黒 鋼児(BNE002630)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)

●天道烈斗と鉄拳十一星
 かつて『鉄拳』のトレーニングジムとして一件のビルが活用されていた。ただ、田舎の安い土地であったからといって、三階建てのビルをまるごと占有しているというのは豪華な話だった。そもそもが違法に廃墟化したビルだったし、備品も大抵が自腹だったが、それでも『鉄拳』がそれなりに良い待遇を受けていたことは察することができる。
 だが、そんなトレーニングジムも今やただの廃墟である。
「……おいおい、マジかよ」
 三階。ただ広いだけのフロアで天道烈斗は荒い息をしていた。
 壁はコンクリート打ちっぱなし。
 反対側にはやけに見晴らしの良い大硝子が嵌っており、森だか山だかの味気ない光景が広がっている。
 その風景を背にして、十一人の男女が立っていた。
 表情は一様にして味気ないが、構えだけは長年の鍛錬がありありと出ていた。
 彼らには傷一つない。
 だがどうだろう。まるで追い詰められるように(実際追い詰められているのだが)壁に背を付けた烈斗は、まるで巨大な絵の具をぶちまけたかのようにコンクリート壁を血で塗っていた。
「ろくな死に方できねえとは思ったが、まさか仲間にリンチされるたぁな……」
 意識がゆっくりと遠のいていく。
 血が抜け過ぎたのだ。
 それでも、獅子が手負いの小動物を追い込むように油断なく、乱れの無い動きで追い詰めていく十一星。カラーリングに被りがあるからか、五芒星は『壱』八星将は『弐』の文字が胸に大きく書かれていた。全くふざけている。
 走馬灯は不思議と流れなかった。
 代りに、少し前に戦ったリベリスタ達を思い出す。
「悪ぃな、お前らの約束……やっぱ守れそうにないわ」
 目蓋が重い。
 足音が近づいてくる。
 カツン、カツン。
 だがその中に混じって、遠いエンジン音が聞こえていた。
 いや、遠くは無い。
 どんどんと近づいて。
 そして『三階』の大窓より、バイクに乗った『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が突っ込んできた。
「ンな……!?」
 飛び散る窓ガラス。
 大きく靡く白衣。
 思わず振り向く十一星。
 凛子は光の翼を大きく広げ、バイクをウィリー状態にし、十一星の一人を無理やり跳ね飛ばすと、自身もバイクを破棄して床に転がった。
 色つきの眼鏡を人差し指で直し、どこか震えたこえで言った。
「死を冒涜するというならば、それは生命の冒涜と同じ……哀れですね」
 対して十一星の対応は早かった。死にかけの烈斗を後回しにし、凛子へ一斉に飛び掛る。
 低姿勢から突撃する者。変幻自在の機動で飛び跳ねる者。天井を足場にして駆けてくる者。空をワイヤーで釣ったかのように跳んで来る者。さまざまである。
 だが凛子は身震いひとつしなかった。彼女の左右より『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト[(BNE002610)と『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)が飛び込んで来る。
 ディードリッヒは剣を、ノエルはランスをまっすぐに構え、翼の加護による飛行状態をいいことに直進突撃。
 イエローカラーの二人を同時に撥ね飛ばし、コンクリートの壁に叩きつけた。
「せめて一人は受け持つぜ!」
「烈斗さんには、ここで死んでもらうわけには参りません」
「お前っ……!」
 烈斗とて、流石に目を閉じては居られない。逆に目を見開いて、好機とばかりに態勢を立て直しにかかった。
 今危ないのはノエルとディードリッヒである。
 左右から上下から、豪華なことにそれぞれ四人がかりで蹴りと拳が浴びせられた。
 同時に剣とランスを垂直に、両端に手を添える形で構える。豪快な回し蹴りが二発同時に炸裂。体のバネで衝撃を吸収するが、直後に繰り出された水平蹴りに二人は態勢を崩した。
 これはまずい。そう思った時には既に、『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)が二人を押しのけて立っていた。
 両腕を交差して残りの四発をガード。
 歯を食いしばって耐え凌ぐ。
「天道サンを死なせるわけにはいかねえ」
「――」
「――」
 言葉にならない言葉を呟いて、四人の拳士が鋼児へ襲い掛かった。
 二人がかりで両サイドから拳を叩き込み、軽く仰け反ったタイミングで入れ違ってハイキック。気が遠くなりそうな連続打撃を受けるが、鋼児は歯を食いしばって耐えた。
 これ以上はまずいか。凛子が回復のタイミングを早めようとした。
 だが結果としてその必要は無かった。
 十一星が再び攻撃を加えようとしたタイミングで、窓の外から眩い神気閃光が浴びせられたのだ。
 『無何有』ジョン・ドー[(BNE002836)が優雅な仕草で窓辺へ着地する。
 両足を揃え、片手を胸に当て丁寧に首を垂れる。
「卑劣な罠にかかったご様子。微力ながら、救援に参りました」
 それが開幕の合図であるかのように、窓の外より『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)と『紅蓮の意思』焔 優希[(BNE002561)が突入。床と水平に飛びつつ、両腕を顔の前でクロスした。紫電がバチリと溢れ出す。
「行くぜ焔、合わせろよ!」
「分かってる!」
 壱式迅雷、乱れ交差。
 フロア中に迸る電撃に、十一星は思わず身構えた。
 スライディングで地に足を付ける猛と優希。
 猛は獰猛に笑って顔を上げた。
「喧嘩に来たぜ、最悪の喧嘩だがな!」
「お前に死なれては困るのだ。好敵手の居ない世など、退屈だからな」
「焔、優希……」
「生き延びろ、絶対にだ!」
「「――!」」
 これには十一星とて黙っては居ない。
 ピンクマフラー壱号、グリーン壱号・弐号が同時に跳躍。多重残幻剣と壱式迅雷、更に暴れ大蛇を同時発動させた。
「来なさい」
 それに対して凛子がとった行動は、いわゆる回復弾幕であった。
 白い手術手袋を地面につけ聖神の息吹を発動。ダメージ量をごっそりとリカバーしていく。
 そして烈斗に視線を投げかけた。
「退けないなんて言わないで下さいね」
「お前、俺が何度こいつらから退いたと思ってんだよ」
 地面をころごろと転がるようにして凛子の後ろへ入ってくる烈斗。鉄拳が男女混合な所から察するに、案外ノンポリなのかもしれなかった。
 首を振る。
「しかし七人か。あいつらの猛攻凌ぐにはギリギリヤバイな」
 等と言っている間に、電撃と分身したグリーンが回り込んでくる。
 舌打ちする烈斗と凛子。
 だが彼らに攻撃が当たることは無かった。
 三人の少女が立ちはだかる。
「七人じゃなくて十人っス。数的にはトントンっすね」
 タンバリンを指で叩き、爪先で床を叩く『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)。
「ハローハロー、昨日の敵は今日のトモ?」
 奇妙なスパナを片に乗せ、鈍器にしか見えない銃(実際銃ではない)をまっすぐ構える『Trompe-l'oeil』歪 ぐるぐ(BNE000001)。
「…………」
 そして『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が、天井からぶら下がるように『直立』して腕を組んでいた。大雑把にまとめたツインテールが重力に従って下を向いている。
 首をこきりと鳴らすと、つっかえるようなテンポで話し始めた。
「生き返った強敵との、再戦。本当なら、心躍ることだけど……素直に、喜べないね」
 ちょっと虫唾が走る。
 小声でそう呟いたかと思うと、天乃は全身から気糸を放出した。
 かつてない程の量である。それはたった一人、グリーンマフラー壱号へと殺到した。
「――」
 グリーンは目を光らせると跳躍。あえて天乃と同じ天井を足場にすると、ブレイクダンスのように腰から膝までの軸移動回転をかけた。ただ踊り狂っているわけではない。気糸を次々に回避し、時として千切っているのだ。
 蜘蛛のように天井に這いつくばり、グリーンは同じように気糸を放出。天乃はバックステップとスピンジャップをバク転を一緒にしたような奇妙な飛び方で回避。ぼろぼろになった窓枠に足をかけると地面へ転がった。
「また、やろう? あの時より強くなった私、試してみて」
 コンマ壱秒前まで居た場所を糸が掠って行く。天乃は無軌道な動きを続けたまま気糸を全力放射。空中で何本もの糸が絡み合い、ついにはグリーンの足首、天乃の手首に引っかかった。
 天乃は転倒。グリーンは地面に落下。その衝撃を利用して互いに糸を千切り合う。
 ブツンという破断音が連続して聞こえ空間そのものを切り裂いているかのような錯覚をさせる。
 そんな次元の裂け目を飛び石のように渡るぐるぐ。
 視線はぴったりとピンクマフラーへと定められていた。
 無数の糸を、舞いを踊るように交わしながら走る。大してピンクは酔っぱらったような構えをしてぐるぐを迎え撃った。
 否、迎え弾いたと言うべきか。
「ぐるぐさん、デートの約束は忘れないのよ」
「――」
 鳩尾に叩き込まれたスパナをのけぞりだけで回避すると、反動をつけて掌底を繰り出す。ぐるぐはそれを半身になって回避。背中を抜けていくピンクの腕。それを掴んで銃グリップを顔面へ叩き込むが、ピンクはぐるぐの肩を直接押さえてスピードを緩めて回避。そのままぐるぐを掴み返すと、捻じり落とすように地面へ叩きつけにかかった。
 ぐるぐはその攻撃を知っている。狙いすまして両足を突き出すと、投げられる勢いのまま地面に着地。ピンクの額にヘッドバットを叩き込んだ。
「今度は、『ちゃんと』戦いに来ましたよ」
「――!」
 ピンクは咄嗟に身体ごと後ろに下げてヘッドバッドを回避。膝蹴りを入れるが、ぐるぐは彼女の膝を足場にしてピンクの頭上を飛び越えた。跳び箱で言う転がり飛びである。
 着地のタイミングで裏拳が跳んで来るので、思い切り屈んで回避。ついでに身体を捻じってバネにすると、ぐるぐはスパナと銃を同時にピンクの腰へ繰り出した。
 一回転したピンクがそれを両手でキャッチ。感情がありありと浮かんだ目でぐるぐを見た。
「……んを?」
「――ぁ!」
 途端、両手首を掴んだ状態で振り上げられる。ぐるぐは上下反転した状態でくるくると二回転。背中から地面に叩きつけられる……かと思いきや、ギリギリで足を先につけた。身体を更に捻じって手首を外す。
 同時に構えなおすぐるぐとピンク。
 その頭上をリルとグリーンマフラー弐号が飛んだ。
 否、頭上だけではない。
 左右も含めて大量に、何人にも分身したリルとグリーンが躍り出たのである。
 グリーンの分身群が拳を繰り出す。リル分身群はそれをモロに喰らったが、全員同時に膝蹴りでカウンターした。一気に消滅する互いの分身。
 唯一残った本体が、拳と膝をめり込ませ合い、反発して飛んだ。リルはタンバリンを振り上げると、彼女独特の伸び上るような構えをとった。
 頬が滅茶苦茶痛いが我慢だ。言ってやらねばならない。
「なんスかこの腑抜けた拳は! 意思も誇りもない拳は、何も響いてこないッスよ!」
 良い運動をしたなあと、彼はかつて言っていた。今はどうだ。言葉も話さず、武術だけを残した道具に成り下がってしまった。
「死体でも、あの強さを見せてみろッス! アンタらの武道は、こんなくだらない玩具にされるためにあったんスかぁ!」
 グリーンとリルが再び分身。
 全部が全く違う動きをする。肘打ちが、ストレートパンチが、とび回し蹴りが、掌底が、膝蹴りが、ヘッドバッドが、全部が全部ぶつかり合ってかき消えた。
 再び弾き合って地面を転がる二人。
 口から漏れた血を手の甲で拭って、リルは相手を睨みつけた。

 ここで、ブロックの不自由さについて少しだけ述べておくべきだろうか。
 例えば複数人が複数人に対してブロックをかけた時、相手が密集していた状態ならまだしも、分散した状態でブロックするとなると、バスケットボールで言う所のマンツーマン状態になりがちである。その所為で疑似的に一対一状態になり、予め定めた攻撃優先順位を大幅に変えて戦うことも少なくない。
 以上、お膳立てである。
「お――らあああああああ!!」
 『ごきばきり』という音が鳴った。
 馴染みある感覚である。
 猛の拳とブルーマフラーの拳が正面から激突した音である。
 肉を潰し合い、骨を砕き合い、人体を壊し合う音である。
 その横で、ノエルが槍をまっすぐに構えて突撃。シルバージャケットの男がそれを脇で抱えて受け止めた。
 シルバーはノエルの槍を抱え込むと強引に振り上げる。対してノエルは空中で身をひるがえし、両足から地面に着地。逆に円運動でシルバーを引っ張り上げ、壊れた窓から投げ飛ばした。
「こうして再び見えたのは、あの時塵に返さなかったわたくしの不始末ですか……」
 歯をぐっと食いしばると、ノエルは窓から外に飛び出した。
 一方で猛はブルーの拳を食らって吹き飛ばされていた。
 コンクリート壁に背中から叩きつけられる。跳ね返って地面に転がるも、止まることなく立ち上がった。
 追撃とばかりに叩き込まれた斬風脚をサイドステップで回避。
「っつ、おおおおおおおおっ!!」
 低姿勢のまま突撃。腰にしがみつくようにしてタックルを仕掛けた。背後は窓。いや、外である。
 猛とブルーはもつれ合ったまま空中へ躍り出る。懐かしい感覚だ。ノエルとシルバーも横に居た。
 彼らはもつれるように回転すると光の翼を広げる。
 猛は足を、ノエルは槍を相手の腹に突きつけ、全速力で地面へ突っ込んだ。
 盛大に巻き上がる土煙。地面がクレーター状に抉れる。
 叩きつけられたブルーとシルバーだったがそのまま黙っては居ない。突きつけられた足と槍を掴むと、身をよじって離脱。身体を転がすようにスピンをかけると、振り子動作をつけた強烈な拳を叩き込んで来る。
 ノエルと猛の頬にめり込み、態勢を強制的に傾けさせた。
 更にロケット噴射でもしているのかと言う程の勢いで膝蹴りを入れられる。身体が横向きにへし折られるかと思った。
 歯を食いしばる猛。
「痛……く、ねえ!」
 ――戦う理由は誰にだってある。
 ブルーの腹に土砕掌を叩き込む。顔面に業炎撃を叩き込まれる。
 ――守りたい奴、示したい奴、競いたい奴、壊したい奴。
 ブルーの襟首を掴んで頭突きを叩き込む。逆に襟首を掴まれて地面に叩きつけられた。
 ――良いも悪いもひっくるめて、この拳で通じてきた。
 足を掴んで引っ張り倒す、マウントをとって顔面を滅茶苦茶に殴った。
 ――どんな形であれ意味を持った拳は重い。
 勢いをつけて転がされ、今度はマウントが入れ替わる。組んだ両拳を鼻っ面に思い切り叩き込まれる。
 ――だから。
「だから!」
 相手の首を鷲掴みにし、炎を上げた拳を全力で叩き込んだ。ひっくり返って転がるブルー。
「今のお前を見てると、我慢ならねえんだよ! 一度でも拳(気持ち)を受けた奴らが、操り人形にされんのは」
 二人はよろよろと立ち上がる。
 流石にアーティファクトで強化されているだけはある。猛はフェイトを使って無理矢理立ったと言うのに、相手はフェイト無しで立っていた。恐らく使えないのだろう。
 拳を握る。
 体が熱い。
 殴られた部分が、燃えるように熱い。
 実際に炎は上がっていたし、血流も信じられない程勢いが良い。だがそれ以上に、暑くて暑くてたまらなかった。
 自分の拳を見る。
 そして、ブルーの握った拳を見た。
「そう、か……」
 猛は笑って両腕を振り上げた。
 ブルーもまた両腕を振り上げる。
「行くぜ!」
「来い!」
 人の目をして、獣の目をして、二人は全力で拳を叩き込み合った。
 ボディに、顔面に、時には拳どうしを衝突させ、最後には腕の力が入らないのか互いの襟首を掴み合ったまま顔面を殴り合った。
 拳が交差し、頬にめり込む。
 そして二人は、抱き合うようにしてその場に力尽きた。
 一方、ノエルは縦横無尽に駆け回り、シルバーへ槍を叩きつけていた。突きを受け止められることは学習済みである。なら上下左右から叩きつけるまでだった。
 ――たとえば自分が死んだとして、不本意に身体を動かされたら。
 身体を軸にして槍を回転。相手に叩きつける。転がるようによけるシルバー。
 ――きっと堪えられないだろう。堪らないだろう。
 素早い足払いが入る。転倒するノエル。槍が相手の腕によって跳ね上げられる。槍の有効範囲の内側へ潜り込まれる。
 ――ノエルは信念は身にこそ宿ると信じている。それを勝手に利用されることが、自分に堪えられるか。シルバージャケットのこの男は、どう思っている?
 胸に掌底が叩き込まれる。仰け反る暇もなく蹴りと拳を連続で叩き込まれ、身体が複雑にシェイクされた。
 ――なれば。
「なればこそっ」
 ノエルは槍から手を放すと、シルバーの額を鷲掴みにした。素手の拳を叩きつける。
 倒れ、地面を転がるシルバー。
 槍を拾うかどうか迷った挙句、ノエルはその場から跳躍した。
 光の翼を広げる。紫電を全身に纏う。空中で上下反転すると、シルバーに向けて全速力で降下した。
「今度こそ、すべて消し去る!」
 激突である。
 パンチでもキックでも、ましてや体当たりや頭突きでもない。数十キロの肉と骨の塊を、全速力で叩きつけたのだ。
 無論自分とてただでは済まない。
 人間の身体が立ててはいけない音をたてて地面に転がった。光の翼が消える。効果時間が過ぎたのだ。
 うつ伏せに倒れる二人。
 ぐらぐらと、がたがたと、壊れかけのからくり人形のようにシルバーが立ち上がる。
 ノエルもまた、フェイトを削って立ち上がった。
「なるほど、確かに以前より……強い」
 血を吐き捨てる。唾を吐くなどと言うレベルではない。リットル単位で血が漏れ出た。
 綺麗な銀髪が、白いジャケットが、今や汚く血と土で汚れている。
 それはシルバーも同じだった。
 なんと無様な。
 なんと滑稽な。
 ノエルは地面に転がった槍を持ち上げると、今度こそしっかりと構えた。
 突撃の構えである。狙いは相手の頭だった。
「今度こそ、さようなら」
 地面を蹴る。
 槍が、シルバーの頭部を貫いた。

 同刻、ビル三階フロア。
「試すだけ試してみますか」
 ジョンはボウガンを構えるとピンポイント・スペシャリティを発射した。
 大量の気糸が発射され、相手の額目がけて叩き込まれる。ホワイトの鉢巻をつけた巨漢やブラックスーツの男はこれで仰け反ったが、イエローマフラーの壱号弐号は紙一重で回避して突っ込んでくる。
 ジョンは苦い顔をして首を振る。
「やはり頭ごと潰すしかありませんか。生きて解放する手段はなさそうですね」
 インスタントチャージは残念なことに活性していない。とにかく撃ちまくるしかなさそうだ。
 左右より、床に半月跡を刻んでイエローマフラーの女性が飛び込んできた。
 鏡合わせたような後ろ回し蹴りである。
 ジョンは頭が歪に拉げる覚悟をしたが、その一瞬前にディードリッヒが割り込んだ。屈強な腕で蹴りを受け止めると、強烈なパンチで吹き飛ばす。
 その反対側はと言うと、優希が機械化した腕で蹴りを受け止めていた。足を掴んで地面に叩きつける。
「鉄拳五芒星、鉄拳八星将。お前達は確かに戦士であった。日々研鑽してきたお前たちの拳を、これ以上利用されてなるものか!」
 そうこうしていると、助走をつけてブルーグローブの男が突撃してきた。
 腕を引き絞る。
 と同時に、鋼児が飛び出した。
 ブルーの顔面に鋼児の拳が叩きつけられる。ブルーの身体は逆上がりでもするように回転すると背中から地面に倒れた。
 首を振って立ち上がる。
 そうして、鋼児を自らの目に納めた。
 鋼児の青い目と、ブルーの黒い目が鏡合わせになる。
 次の瞬間にとった行動はシンプルである。
 鋼児の拳、そしてブルーの拳。互いの拳がクロスして、顔面を思い切り凹ませ合ったのだ。
「……はっ!」
 不思議な縁もあったものだと思う。
 まさかもう一度こいつと殴りあえるとは。
 鋼児は踵でしっかり踏ん張って転倒を堪えると、空いた拳を相手のボディに叩き込んだ。
 がくんと『く』の字に曲がるブルーの身体。だがすぐに態勢をもとに戻すと、鋼児の腹に強烈なブローを叩き込んだ。
 不思議な感覚だ。
 相手は意思も無く、心も無く、魂も無く動いているだけの筈なのに。
「なんでだ」
 泣きそうな声だった。鼻を叩き潰されているから、身体が勝手に涙や鼻血を流させるのだ。
「なんで『あの時』と一緒なんだよ!」
 ブルーの襟首を掴んで鼻っ面を殴りつける。一発と言わず五発は殴った。
「アレは楽しかった、最高だった! 拳だけで全てが通じる、そんな殴り合いだった! 今みたいな、殴り合いだったんだよ!」
 直後、鼻っ面に強烈なパンチが叩き込まれた。思わずのけぞる。そこへ再びパンチが炸裂し、後頭部ごと地面に叩きつけられた。
 果実を踏み潰したように血が広がる。本来なら死んでいる。だが鋼児は耐えた。フェイトを削って無理矢理目を覚ますと、ブルーの腕をひっつかんで腹に蹴りを入れた。1m程跳ね、ブルーは床に転がる。
 手をついて起き上がる二人。
「は、はは……」
「くははははは……」
 どちらからともなく笑い出した。
 道具であったことなど。
 人間であったことなど。
 誰が敵で誰が味方かだったかなど。
 全てがどうでもよかった。
 言葉など要らなかった。
 意思確認など必要なかった。
「うはははははは、あははははははははは!!」
「くっはっは、はははははははははは!!」
 身体という部品を無理やり捻じ動かし、拳らしき物体を相手のどこかに叩きつける。
 人間どころか、動物ですらないような殴り合いである。
 しかし彼らはあえて言葉を発する。
「二重将児だ」
「石黒鋼児だ」
「「派手に行こうぜええええええええ!!」」
 全身のエネルギーを拳に集中。二人は顔面だけを狙って撃てる限りのパンチを全弾滅茶苦茶に叩き込み合った。
 血が噴き上がり、肉が拉げ、骨が砕け、得体の知れない液体が飛び散った。
 前が見えない。
 声が出ない。
 息ができない。
 だがパンチだけは打てた。
 それが全てだった。
 他には何も必要なくて、あと一発、もう一発だけと叩き込み合う。それが何度続いただろう。
 二回ほどのドラマ復活を経て、漸く二人は停止した。
 互いにうつ伏せ。
 拳を伸ばしたまま、何処にも視線を向けることなく意識を失った。

 鋼児たちが狂ったような殴り合いを終えた頃。
 凛子は巨漢の拳を回避していた。
 回避したと言っても、まるで丸太を叩き落とされたかのような拳から大きく飛び退いて逃げただけである。床板がトタンか何かのように圧し折れる。今度くらったら確実に死ぬな、と凛子は顔を青くした。
 ホワイトの鉢巻をした巨漢である。見た目通りに動きが鈍いのでなんとか逃げ切れているが、ヒットアンドウェイで避けきれるとは思えない。撃ちながら下がっていてはいずれ味方が回復圏から出てしまう恐れもある。今現在、基本スペックで負けているこちらは凛子の回復があって初めて互角に渡り合えているのだ。回復が無くなったが最後一気に畳まれることだろう。
 各個撃破で危険な順に潰していく作戦ではあったが、相手がこちらの意図を先読みして半数以上のブロックをかけて来た上、五人ほど分断されてしまった。想像が難しいなら、何層にも別れた戦場にそれぞれ仕切りが下された状態を考えて欲しい。これでは一方的な集中攻撃はできない。
 かろうじてジョンと凛子、そしてディードリッヒと優希の四人が固まっているので集団戦らしいことができているが、相手が五人がかりである以上どうやっても分が悪かった。
 以上、戦況分析である。
「いつ負けてもおかしくないですね」
 眼鏡の奥で目を細める凛子。
 とその時、狙いすましたようにホワイトの拳が繰り出された。凛子は防御行動が遅れる。まずい。
「凛子様、下がって!」
 途端、ジョンが鋭い歩法で間へ割り込み、ホワイトの拳を自身で受けた。片腕を顔の前に翳しての防御だが、完全にパワー負けしている。そうでなくても相手の攻撃は防御を貫通するタイプの攻撃だった。
 内臓ごとシェイクするような攻撃にジョンは思わず血を吐き捨てた。フェイトはとっくに削れている。もう一発食らったら終わりだ。
 だと言うのに、ピンクマフラー弐号やブラックスーツが縦横無尽な連続攻撃を叩き込んで来る。
 凛子は回復に精を出すが、残念ながらダメージ両の方が上回った。
 ならば仕方ないとばかりに、ジョンは視界に入っている敵全員へとピンポイント・スペシャリティを乱射。力尽きるまで全力で撃ち尽くした。
「がっ……!」
 強烈なパンチをくらって吹き飛ぶジョン。
 完全に意識を失っている。凛子は歯噛みした。
 だが下がっている暇はない。ピンクの足払いで転倒。地に手をついた凛子が顔を上げた時には、既に詰みであった。
 ブラックスーツが蝶ネクタイを片手で直してから跳躍。天井を反射するように凛子へと鋭い蹴りを繰り出す。
 ここまでか。凛子がぎゅっと目を瞑ったその時――。
「楽しそうなことやってるじゃねえか」
 凛子の前に立ちはだかり、両腕をクロスした男。
 天道烈斗がそこにいた。
 ゆっくりと目を開ける。
「お前のお陰で全回復だ。腕いいな、アンタ」
「……どうも」
 応え方が分からない。
 やけに曖昧な返事をして、凛子は立ち上がった。
 烈斗はブラックを強引に跳ね飛ばして振り返る。
「お礼と言っちゃなんだが、ちいとばかし守ってやるよ。あと顔好みだし」
「は? 今何と?」
 問いかけに答えずに、烈斗は突撃。床を盛大に蹴ると、ブラックの顔面に強烈な業炎撃を叩き込んだ。
 頭部を残らず吹き飛ばす。
 それに気付いた優希が少しだけ嬉しそうな声をあげた。
「烈斗、もういいのか?」
「お陰さんでな。さっさと巻き返すぞ」
「言われなくてもそのつもりだ」
 背中をぴたりとつける烈斗と優希。そして二人は同時に腕を薙いだ。紫電が散る。

 ぐるぐ、天乃、リル。そしてピンク壱号、グリーン壱号、グリーン弐号。彼らは三対三の混戦状態に陥っていた。
「行くね」
 木箱の上を飛び越え、大量の気糸を放出する天乃。
 それぞれに意思があるかの如く殺到する糸を複雑なジグザグ軌道でかわす壱号。ピンクがすれ違って跳躍。空中で蹴りを繰り出すが、それをぐるぐはスパナと銃をクロスして受け止めた。彼女の肩を踏み台にしてリルがジャンプ。上下反転して高速回転。対して弐号が腕が六本あるのかと言う程の素早い腕裁きで連撃を受け流した。
 同時に地に足をつける六人。それぞれの相手は完全に定まっている。だがこの場においては三体三。
 常識外れの無茶苦茶な戦闘を繰り返していたら、彼らはいつの間にか二階フロアへと転がり落ちていた。木箱やトレーニング機器が並んでいる。三階と比べてあまり広々とした印象は無い。
「悔しいッス。勝ち逃げされて玩具にされて、こんな形で再戦なんて」
「侮辱するにも、程がある」
「ぐるぐさんも今回はチョット本気だよ?」
「「――」」
 睨み合う。
 天井にぶら下がっていた何かのネジが振動で外れ、地面へ落下し始める。
 その瞬間、彼らは全く同時に動き出した。
 二号が大量に分裂したラ・ミラージュをリルが複雑機動で回避。頭上から飛び掛ってきた壱号に糸を絡められる。糸を間を地面と水平に飛んだ天乃が切断。待ち受けていたピンクが天乃の首を掴んで地面に叩きつける。その背に向かってスパナを叩き込むぐるぐの攻撃は前屈したピンクに回避されここぞとばかりに多重残幻剣で分裂しようとした弐号をリルの分身が取り囲んでめった切りにしようとしたが瞬間的に暴れ大蛇を繰り出した壱号によって弾き飛ばされるが天乃の糸が直後の壱号を絡め取り天井に跳ね上げると狙いすましたようにピンクが天乃の高等部に掌底を繰り出し吹き飛ばすその勢いを利用して弐号の幻惑的な拳が天乃の腹に命中するかに思えたその時リルの分身が足払いを仕掛け弐号を転倒させるがピンクの壱式迅雷が全て薙ぎ払って行くそれに対してノックダウンコンボを叩き込むぐるぐだがカウンターで首に引っかかった糸を切れず転倒し顔面に強烈な土砕掌を叩き込まれ気絶しかけるがフェイトを削って復活するとリルが駆けつけピンクに高速連続蹴りを繰り出すがそれらを受け止めて地面に叩きつけられトドメとばかりに業炎撃を叩き込まれ燃え盛る身体を振り切って復活し全力のハイバーチュンを弐号へと叩き込む。
 ――この一連の動きが、ネジが地面に落下するまでの間のことである。
 六人は複雑に激突。最後には天乃の糸が壱号の腕と脚と首を絡め取り、更には激しい爆発を起こして全身を木端微塵に飛び散らせた。
「そっちに逝ったら、またやろう」
 一方ではぐるぐのスパナがピンクの鳩尾に叩き込まれており、がくりとピンクは全身の力を抜いた。
 頭や鼻から大量に血を流しながらよろめくぐるぐ。
 その一方では、腹に拳を叩き込み合ったリルと弐号が二人同時に仰向けに倒れた。
「リルのしぶとさ……甘く……見る、な……ッス」
 ぐるぐはよろよろとリルに近づいて様子を伺った。まだ息はある。
「行こっか」
「うん」
 短く言葉を交わし合うと、ぐるぐと天乃は互いを支え合いながら三階への階段を上った。

 イエロー壱号、そして弐号。二人の全く隙の無い連携攻撃は一人で捌けるレベルではなかった。
 蹴りが繰り出されたかと思えば一瞬遅れて拳が突き込まれ、バックして避ければ読んでいたかのように足を掬われて断固としたタコ殴りが待っている。距離をとろうとすれば逆に相手がバックステップして交差斬風脚を繰り出してくる。
 だが優希と烈斗の二人がかりであれば、これは十分に捌けた。
 拳を勇気が受け止め、足元への蹴りを烈斗が絡め取るように阻止。硬直した状態から地面に叩きつけ、追撃をできないようにして優希が壱式迅雷で纏めて薙ぎ払った。
 一方ではホワイトと弐号ピンクをディードリッヒが一人で受け持っている。
 厳密には凛子のフォローがあるのだが、彼女は味方の回復で手いっぱいだった。それもそろそろ終わりが来る。相手の攻撃があまりに激し過ぎるので聖神の息吹を連発せざるをえず、インスタントチャージ担当のジョンが倒れてしまったこともあってエネルギーが底をついたのだ。ジョンの活性ミスでそれが加速したとも言える。
「やべえな、刺し違え覚悟で元気な奴一人吹っ飛ばすか?」
 拳を強く握って言う烈斗。
 優希は小さく首を振った。もう少し待てと言おうと口を開いた所で、別の声が挟まった。
「こらえて。道は、つくる」
 天乃の声である。そう言うや否や、彼女は壱号ピンクの全身を絡め取り、強制的に転倒させる。
 後頭部をぎゅっと踏みつけると、指を小さく鳴らした。
「爆ぜろ」
 ハイアンドロウの爆発。
 その隙をついて、ディードリッヒが壱号イエローに飛び掛った。勢いを付けて押し倒し、マウントを取る。躊躇いを捨て打てる限りの打撃をぶち込んで行く。間もなく力尽きる壱号イエロー。
 弐号イエローがディードリッヒに狙いを定めたその時には、喉を凛子のマジックアローが貫いていた。
 両目を見開いて倒れる弐号イエロー。
 残るはついにホワイト一人である。
 そんなホワイト目がけ、死角から飛び出したぐるぐがしがみ付いた。小柄なぐるぐである。巨漢のホワイトにしがみ付いた所で大した拘束にはならない。だが全身を使って無理矢理腕の動きを封じにかかった。
 開いた腕でパンチを叩き込まれる。正直痛い。ヤバイ。
 それでも、いつもの調子であっけらかんと言ってやった。
「さぁさ、彼らの最後はリーダーが豪快に飾ってやりなよ」
「やりなよって、お前」
 今打ったら確実に巻き込むぞと言おうとして、意味が無いことに気づいた。
 ぐるぐはオッドアイの目をウィンクすると、彼女独特の意地汚い笑みを浮かべた。
「約束、忘れてないよ」
「……だったな」
「にひひ」
 腕をぐるぐると回す烈斗。
「お前の徹底した物欲主義、気に入ったぜ。これで死んでも文句言うなよ! ――おい優希ィ!」
「ああ、分かってる!」
 機械の義手を振り上げる優樹。
 烈斗と優希は同時に駆け出し、同時に叫んだ。
「「豪快絶頂拳!!」」
 時空が歪む勢いで放たれた拳は、ホワイトをぐるぐごと吹き飛ばした。壁を突き破って宙を舞うぐるぐ。
 空中を目まぐるしく何十回も回転しつつ、柔らかくない地面へと墜落して行った。
 あ、これ死んだ。ぐるぐさん死んだ。

●『鉄拳』の終幕
 原型をとどめていないものが殆どだったが、出来る限り遺体は回収した。
 その辺に埋めて棒を立てると言うやり方もないでもなかったが、烈斗の要望でそれはやめておいた。
「ちゃんと葬式挙げて、遺族連中に頭下げてくる。これは俺の仕事だ」
「……やることがあるって言ってたのは、それだったのか」
 そう言う割にはかなり無造作に麻袋をトラック詰めにして、烈斗は背伸びをした。
 作業を手伝っていたディードリッヒが手を叩く。
「その後はどうするんだ。アークに来るのか?」
「来るのかって……お前らの組織、そうポンポン出入りできるもんなのか?」
「まあ、多分な」
「どんだけ自由主義なんだよ」
 肩をこきりと鳴らして、烈斗はその辺の木箱に腰掛けた。背中を付けるようにして座る優希。
「それにしても、相変わらず凄い技だったな『豪快絶頂拳』」
「俺がモブのリベリスタだったら死んでたな」
「モブってどういうことだよ……」
 実際、あの後フェイト復活でぎりぎり持ち応えたものの、一発でHPを完全に失う程のド派手な反動。並のリベリスタにも扱える代物ではない。
「劣化しないレベルで教えて貰うには、どのくらいかかるんだ?」
「4~5年……かな。あと才能」
「人生賭をけるレベルか……」
 優希は遠い目をした。
「まあそう言うな。だからこそのアイデンティティなんだぜ?」
「いつか60回転がしてやる」
「その時にはもう30回転がすからな。得意の豪快絶頂拳で」
「あ、それぐるぐさんラニったよ?」
「「…………」」
 無言で振り向く勇気と烈斗。
 頭から大量の血を流し、もう死体とほとんど区別がつかなくなったぐるぐが、茂みの中から這い出てきたのである。今までどこにいたのか。
「ちゃんと見えるように打ってくれたから。でも命中補正のとこ端折っちゃったし、多分反動がオリジナルより滅茶苦茶酷いと思うけど」
「劣化してる……」
 本気で凹む烈斗だった。
「まあまあ、今度撃ってあげるから」
「心からお断りだよ」
 そうこうしていると、怪我人の応急処置を終えた凛子が手袋を外しながらビルから出てきた。こういう振る舞いが誰よりそれっぽい女である。本職は伊達ではない。
「そろそろ、聞いてもいいかしら」
「『ホワイトマン』のこと」
 同じくビルから出てきた天乃が、ふらついた姿勢のまま言った。
 烈斗はショックのあまり聞えなかったふりをしていたが、やがて口を開いた。
「奴のことは俺も詳しく知らねえんだ。元々小規模組織だったのを、向こうからのアプローチで六道に吸収されてな。何か用事がある時以外はとにかく技を鍛えてればいいってんで、俺達は楽だったんだが……寄生型アーティファクトなぁ……そんな利用のされ方をするとは」
「謎の男、か」
 腕組みをする天乃とディードリッヒ。
 そんな中で、凛子は一人鋭い視線をビルの陰に向けていた。
「なら、本人に聞いたらどうですか?」
「…………」
 ビルの影から白い服を着た男が歩み出てくる。
 すわ『ホワイトマン』の登場かと身構えたディードリッヒだったが。
 男は何故か薄型テレビを抱えていた。
 テレビが起動し、映像が流れてくる。ビデオレターにあったような合成音声である。
 映像は、首から下だけが映った白スーツの男である。
 彼は両腕を広げて言った。
『ハッピーバースデー!』
「……」
『違う、間違えた。おいビルの陰に戻れ。やり直しだ』
「いやそのままでいい。戻るな戻るな」
 若干の殺意と共に呼び止めるディードリッヒ達。
『そうか? なら続けるが……お疲れさん。今回はお前らの勝ちだ。正直あの規模だったらギリギリ勝てると思ったんだが。さて、どうだった?』
「どう、って……」
 天乃は返答に困って烈斗たちを見た。烈斗も『俺はあいつ嫌いだから話したくない』というオーラで自らを守っていた。
 『ホワイトマン』はからからと笑って手を叩く。
『まぁいいか。後何戦かしたら色々喋ってやるから、もう少し付き合えよ。死ぬほど楽しませてやるからさ……じゃ、グッバイ』
 言うや否や、テレビが爆発で破壊された。抱えていた男がやったのだ。
 それだけではない。彼は口にショットガンの銃口を咥えると、何の迷いもなく引金を引いた。自爆である。
「……これは」
 ひとつの激戦が終わった。
 だがこれも、新たな戦いの幕開けでもある。
 期待と不安を胸に、彼らは空を見上げた。
 夕暮れ時が、近づいている。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした

・ラーニング成功
歪ぐるぐ:豪快絶頂拳

では、激戦地でお会いましょう。


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ラーニング成功!
EXスキル:「豪快絶頂拳(EX)」
取得者:歪 ぐるぐ(ID:BNE000001)