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地下墓地。或いは、人形の鍵。

●人形の鍵。
 淀んだ空気を掻き混ぜるのは、半ば白骨化した死体だった。べちゃ、と肉の潰れる音を鳴らして、時折そいつらは、光の入ってこない地下墓地で身じろぎする。
 全部で30体はいるだろうか……。そんな死体を指揮しているのは、半透明の身体で瓦礫に腰かける一人の男だった。
 その男、棺 骸は志半ばにして倒れた。突然の心臓発作が原因だ。
 後一歩。彼の目的を達成するまで、後一歩だった。
 曰く「人形の鍵」と呼ばれるアーティファクト。それを使ったテロ行為こそが、彼の目的だった。
 それを手に入れるために、財産も職も、全てを失った。その代わり手に入れたのは、大量の死体。自分の家の近所にある地下墓地に死体を集め、棺 骸はその時を待っていた。
 死体をE・アンデッドにして操る。それが、人形の鍵の能力だ。
 死を恐れない兵隊を使ったテロ行為。後は、密輸入していた武器の到着を待つばかりだった。
 しかし、武器が届くより先に、彼は死んでしまった。
 それが悔しかったのだろう。
 彼の残した無念の思いが、棺 骸をE・フォースとして蘇らせた。
 人形の鍵は、彼の親戚が、彼の死体と共に棺に入れた。
 しかし、E・フォースと化した彼の前にもう一つ問題が発生した。それは、地下墓地の扉は内側からでは開けられないと言うこと……。
 分厚い鋼鉄の扉に阻まれ、アンデッド達を外に出すことは出来ないでいる。だから、彼は虎視眈々と待っているのだ……。
 誰かが、この地下墓地の扉を開ける、その時を。

●地下墓地へ。
「これは、一人の男の復讐劇」
集まった面々の顔を見渡して、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。
 モニターに映し出されたのは、疲れた顔をした一人の中年男性の顔写真。髪には白いものが混じり、頬はげっそりと扱けていた。
「彼の名は棺 骸。理由は知らないけど、この国に強い恨みを持っていた模様。否、この国、というより、この世界、と言った方が正しいかも」
 と、イヴは小さくため息を吐いた。
「先日、亡くなったわけだけど、その強い恨みからE・フォースと化したみたい。フェーズは2」
 モニターが映り変った。画面に映し出されたのは、古ぼけた鍵だ。赤錆の浮いたそれは、今にも崩れ落ちそうな印象を与える。
「この鍵は棺が生前手に入れたアーティファクト。「人形の鍵」と呼ばれている。死体をE・アンデッドにしてある程度操る能力を持っているようね。ご丁寧に、彼の葬儀を取り仕切った親戚が、棺の遺灰と一緒に埋葬したみたい。E・フォースと化した棺は、これを使って生前地下墓地に運び込んでいた死体をE・アンデッドにした」
 要は、地下墓地に入っていってこの鍵を破壊、或いは回収。そして、E・アンデッドとE・フォースとなった棺 骸を殲滅してくればいいわけだ。
「地下墓地は、迷路みたいになっているみたい。入口を入ってすぐに、ルートは3つに分岐している。いずれかのルートの最奥に棺がいると思われる。アンデッドは、そこら辺を彷徨い歩いているみたい。棺の命令で、ある程度の連携攻撃はしてくる」
 生憎、地下墓地の中は暗くモニターに映った映像はほとんど意味を成さない。
 それでも、ノイズ混じりに何かが蠢く音は聞こえてきていた。
「アンデッドのフェーズは1。また、地下墓地に入った者は、行動が失敗しやすくなるみたい。たぶん、棺の能力。棺の目的は、アンデッドを地下墓地から町に出して、人を襲わせること」
 そうすれば死体が増える。増えた死体を「人形の鍵」でエリューション化させれば、棺の兵隊が増える、と言うことらしい。
 映画なんかでよくあるゾンビパニック、という奴だ。
「一匹も、逃がさないように。地下墓地内部の敵をすべて殲滅してきて。それから人形の鍵の破壊も……」
 ゾンビパニックは映画の中だけで十分、とイヴは呟いた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月18日(水)23:37
こんにちは、病み月です。
今回は、地下墓地を舞台にしたゾンビパニックとなっています。

●場所
地下墓地。入口を入ってすぐルートは3つに分岐している。いずれかのルート最奥に、ターゲットとなるE・フォース(棺 骸)が居る。
また、3つのルートのいずれかに電源が存在し、スイッチをオンにすることで地下墓地内に明かりが灯せる。
地下墓地には複数の部屋があり、軽く迷路のよう。
部屋は納骨堂として使われている模様。
E・アンデッドは地下墓地内を好き勝手に歩きまわっている。

●ターゲット
アーティファクト(人形の鍵)
古ぼけた鍵。死体をE・アンデッドにしてある程度自由に操る能力を持つ。
現在は棺 骸の骨と一緒に地下墓地の最奥に安置されている。
棺 骸の骨と一緒にE・アンデッドの手によって移動させられた模様。

●敵
E・フォース(棺 骸)×1
フェーズ2
強い恨みを持って死んだ中年男性の思念が、エリューション化したもの。
人形の鍵を使って、テロを起こそうとしている。
【怨嗟の声】→神遠範[不吉]
 地下墓地全体に響き渡る強い怨嗟の念が籠った声。
【恨み】→神遠単[隙]
 恨みの念を叩きつける攻撃。
【ポルターガイスト】→物近範[ノックB]
 自分の周囲に散らばる瓦礫を舞いあがらせる。

E・アンデッド(死体)×25
フェーズ1
棺によって集められ地下墓地に隠されていた死体。人形の鍵によってエリューション化され、操られている。
動きは緩慢だが、ある程度連携をとって行動する。
【噛みつき】→物近単[出血]
 出血を伴う噛みつき攻撃。
【スクラム】→物近複[重圧]
 E・アンデッドが3体以上いる場合使用。スクラムを組んで突撃してくる非常に回避し辛い攻撃。
 対象にヒットした後、圧し掛かってくる。


以上になります。
地下墓地を攻略してきてください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)

浅倉 貴志(BNE002656)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)

●地下墓地突入。
 錆ついた鉄の扉を押し開ける。ギギィ、と金属の軋む音が響いた。
 地下墓地の出入り口である。扉を開けた途端、墓地の中から埃とカビの咽るような匂いが漂ってきた。それと、腐肉のような異臭。恐らく墓地内を徘徊するE・アンデッドの放つものだろう。
 それから、地の底から響いてくるような唸り声も……。聞き様によっては、悲鳴のようにも聞こえる。恨み辛みに満ち満ちた怨嗟の声。聞いているだけで、集中力が乱れる、そんな声だ。
 それが、単なる地鳴りや、風の音ではないことを、地下墓地入口に集まった8人は知っていた。
 彼らはアーク所属のリベリスタ。
 今回も、怨嗟の声の主を討伐する為に、ここに来ている。
「財産も、職も全て失って得た力……か」
 難しい顔でそう呟いたのは、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)という名の青年である。彼が思うのは、現在この地下墓地の主となっている男(棺 骸)についてだ。棺は、自身の持つ全てを擲って「人形の鍵」というアーティファクトを手に入れた。
 彼がそこまでして、アーティファクトを渇望した理由に思いを馳せるも、答えは出ない。
 死者は黙して語らない、というが……。
「生前の恨みが募っての凶行、神秘界隈ではよくある事なのが恐ろしいです」
 先頭を進むべく前に出て『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂・彩花(BNE000609)が、困り顔でそう言った。一度は死んだ筈の棺が、エリューションとして蘇った。今回の件は、言ってしまえばそれだけの出来事。普通ではありえないそんな出来事だが、そこに神秘が絡むと似たような事件は割とよく起こる。
 結局のところ、棺も気まぐれな神秘の力に弄ばれ利用されているだけの被害者なのかもしれない。
「じゃあ、僕は入口に残るよ。アンデッドが外に出ないようにしないとね。みんな頑張っていってらっしゃ~い!」
 と、妙に嬉しそうな様子で手を振って仲間を送りだしたのは『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)だ。入口で待機し、敵を外に出さないようにするのが彼の役割である。
 地下墓地の暗がりに消えて行く仲間を見送って、彼はほっと溜息をついた。
「おばけだよ~。あ、殺人鬼だった」
 そんな設楽の背後から、ヌッと姿を現したのは『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)だった。意地の悪い笑みを浮かべ、ビクッと肩を跳ねさせた設楽を眺めている。
「暗い所でゾンビ的なものと戦わずにラッキー! とか、考えてないよ?」
 誤魔化すように、設楽は早口にそう言う。それを見て満足したのか、熾喜多は軽快な足取りで仲間達の元に向かうのだった。

●地下墓地探索。
「死して尚、妄執にしがみ付くのですか」
 地下墓地に響く怨嗟の声に顔をしかめながら『祈りに応じる者』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が、地図を取り出した。役所で予め手配して貰った物だ。
「恨みつらみとか、本当にどうでもいいのよ……」
 と、心底詰まらなそうに『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)は、視線を泳がせる。千里眼を用いて、地下墓地内の探索を行っているのだろう。アラストールの持っている地図に指を這わせ「今は、ここ」と、現在地を指示した。
 地図によるとこの地下墓地は複雑に入り組んでいる。大きく分けて、分岐するルートは3つ。そして、目の前の角を曲がると、その分岐点に差し掛かる。
 角を曲がると、3つの分岐点が見えてきた。地下墓地内に明かりは灯っていないため、光源は数人が手にしている懐中電灯だけだ。その懐中電灯の光に、人影が照らし出される。
 人影が、ひどく緩慢な動作で7人の方を振り返った。その数3体。人影は死体だった。棺によってE・アンデッドにされた死体なのだろう。
「ゾンビパニックなんてものは、映画の中だけで十分だ」
 と『糾える縄』禍原・福松(BNE003517)が、手にした銃の引き金を引く。弾丸は、真ん中にいたアンデッドの頭部に当たる。
「確か、ゾンビパニックを生き残る為のルールに『二度打ちしてトドメを刺せ』というのがあったな」
 禍原の放つ二発目の弾丸。しかし、急に感じた眩暈のせいで、狙いがずれた銃弾はアンデッドから逸れてしまう。地下墓地の壁に、銃弾が当たった音が暗闇に響いた。
「どうやらこの眩暈、地下墓地内に響く棺の声によるもののようですね」
 浅倉 貫志(BNE002656)が、前に飛び出しアンデッドを殴り飛ばす。棺の声による行動失敗率の増大。地下墓地の暗さや、アンデッドの数、人形の鍵による敵の連携などよりも、この声がなにより厄介だと、禍原は悟る。
「一回死んだのをもう一回殺し直すとか厄介だよねぇ~。あーやだやだ。生き返らないでよ、怖いでしょ」
 なんて言葉とは裏腹に、熾喜多は嬉々として残った2体のアンデッドを、暗黒の瘴気で包み込んだ。
 近くに敵が残っていない事を確認し、日下禰がハイテレパスで入口待機の設楽に連絡を入れる。
「あっちには、2体出たそうよ」
 と、興味なさげに報告するのだった。
 
同時刻、地下墓地入口。
設楽 悠里は、頬に付いたアンデッドの血を拭ってため息を吐いた。割と見慣れている筈のアンデッドも、こういった暗く雰囲気のある場所では、いつもより気味悪く見える。
 それこそ、設楽の苦手なおばけを彷彿とさせるほど……。
 入口担当で正解だったかも……と、内心ほっとしていた。
 しかし、緊張を解くことはしない。ここは敵の陣地内。いつ敵が現れるか分からないからだ。
 そして、わずか数分後。
「休む間もないか……。不気味だなぁ」
 設楽の視界に、1体のアンデッドが姿を現す。緩慢な動作で近付いてくるアンデッドに向かって、設楽は脚を旋回させる。放たれた空気の刃がアンデッドの足を切り裂いた。地面に倒れるアンデッド。
 だが、痛みを感じていないのか、そのまま這いずって設楽に近づいてくる。
「こっちに、さらに1体。そっちはどう?」
 AFを使って仲間に連絡を取る。と、同時に先ほどと同じ攻撃で、今度こそアンデッドにトドメを刺した。頭を真っ二つに割られ、アンデッドは地面に倒れて動かなくなった。
 
「こっちも順調だよぉ~。今のところ合計10体撃破だねぇ」
 設楽の報告に答えたのは、熾喜多だ。千里眼を使って、この先の道を探ることも忘れない。
「死者は灰に帰すのが生者としての務めですもの。徹底的にお願いしますわ」
 大御堂が、続ける。色白の頬に血が付いていた。
「まっすぐ行くと棺のいる部屋……。少し遠回りすると、配電盤のある部屋。どうする?」
 地図を見ながら日下禰が言う。
「真っすぐ最奥を目指して、棺を倒した方がいいだろうな。俺たちの侵入にも気付かれてるだろうし」
 剣を構えた新城の視線の先には、5体のアンデッドの姿があった。先ほどまで倒してきたアンデッドと違い、前に3体、後ろに2体と隊列を組んでいる。
「ああ……あぁぁぁ」
 唸り声をあげて、前列にいた3体が一斉に駆けだした。
 駆ける、と言ってもずいぶん遅い。ただ、肩を組んで進路を塞ぐようにして突っ込んでくるのだ。禍原が銃を撃って迎え撃つ。
 右端のアンデッドの足が折れ、地面に倒れる。しかし、すぐに後衛にいたアンデッドが1体前に出て、抜けた穴を埋める。
「これが人形の鍵の能力ってことか」
 禍原が舌打ちして、後ろに下がる。入れ替わるように、アラストールと大御堂
が前に出た。肩を組んで突っ込んでくるアンデッドを迎えうつ。
「騎士故に……」
 引くわけにはいかないのだ、とアラストールは自分に言い聞かせた。正面からアンデッドの突撃を受け止めた2人の身体が浮き上がる。
熾喜多と日下禰が、そんな2人の背中を支える。
 両者の力が均衡し、動きが止まる。
 その隙に、新城が壁を駆ける。まるで、そこが普通の地面んであるかのような移動だ。壁を駆け、天井へ。そこからアンデッドの背後に飛び降りると、中心にいた1体をオーラを纏った一撃で切り伏せる。
 敵の隊列が乱れた。中心の1体を失って、左右にバラける。すれ違いざまに、大御堂と日下禰が攻撃を加え、2体のアンデッドは地面に転がった。熾喜多と浅倉が追撃を加える。
「新城、頭を下げろ!」
 禍原の鋭い声。咄嗟に頭をさげた新城の頭上を、弾丸が通りぬけて行く。彼の背後に迫っていたアンデッドの頭部を撃ち抜いた。頭蓋骨が割れ、脳漿と血が飛び散る。
 それを見て、日下禰が楽しそうに笑っていた。
「先を急ぎましょう」
 アラストールが、そう言った。

「物は相談なんだが……。見逃す気はないか? 何、別に君らに敵対するつもりはないんだ。ちょっとだけ、オレの事を馬鹿にした連中に目にもの見せてやりたいだけでさぁ。極力関係ない奴は襲わせないようにするし……。どうだ?」
 リベリスタ達が最奥の部屋に到着するなり、半透明の男はそう声をかけて来た。神経質そうな顔をした男だ。彼の身を守るように、5体のアンデッドが立っている。彼が棺 骸だろう。
「貴公は志半ばに倒れた、それを受け入れ、現世より去るべきだ」
 盾とブロードソードを構え、アラストールが告げる。棺は残念だというように首を振る。
「同情はしますが、遠慮はしません」
 両の拳を撃ちつけて、大御堂も臨戦態勢を整える。
「個体の強さはそう高くないとはいえ、数でこられると面倒だな」
 と、呟いた新城の攻撃。
ハニーコムガトリングと呼ばれる射撃攻撃だ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉああぉぉぉぉぉぉぉぉおああああ!!」
 棺が叫び声をあげる。それは、地下墓地に入った瞬間から聞こえていた物と同じものだった。恨みに満ちた叫び声を聞いた途端、新城の狙いが大きく乱れる。攻撃の失敗だ。
 その隙に、アンデッドがスクラムを組んで駆けてくる。部屋の広さは十分あるため、5体全員で横に並んで、棺の姿を隠すようにしている。
「もー、迷惑なんだよねぇアンデッドを作るアーティファクトとか~。命は一人一個まで! 復活とか気軽にしないでよ。命って地球より重いんだよ~?」
 と、熾喜多の放った闇がアンデッドを包み込んだ。それでもお構いなしに、アンデッドは近づいてくる。腕が折れ、身体が崩れても、アンデッドは止まらない。
 浅倉と、大御堂が前に飛び出した。
 これ以上、アンデッドを接近させないようにするためだ。
「先手さえ取れてしまえば、ただのいい的ですね」
 大御堂は、敵の中に飛び込むと、踊るような動きでアンデッドに次々と攻撃を加えていく。疾風のような速度で、アンデッドの間を飛び回る。肩を砕き、顎を割って、腕をへし折る。浅倉のサポートもあって大御堂は、迅速に敵を殲滅していく。とはいえ、棺の叫び声のせいで、何度か攻撃を外してしまったし、アンデッドの反撃も受けて、無傷とはいかなかったが……。
「耳障りなんだよ、お前のダ三声はな」
 アンデッドの壁が消えて、棺の姿が視界に入る。棺の頭目がけ、禍原が銃弾を放つ。
「…………邪魔を、しないでくれよ」
 棺が叫ぶのをやめて、そう呟いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 恨みの籠った声で、再び棺が叫ぶ。
 途端、周囲の瓦礫が宙に舞い上がる。瓦礫だけではない。地面に転がっていたアンデッドの遺体も一緒に宙に浮いた。そのまま、ゆっくりと棺の身体の周りを回り始める。
「うおおっ!!」
「きゃぁ!」
 前に出ていた浅倉と大御堂が宙を舞う瓦礫に巻き込まれて弾き飛ばされる。壁にぶつかって、地面に落ちた。一度は立ち上がろうとしたものの、力尽きて倒れ込んだ。同じように、飛んできたアンデッドを受け止めたアラストールも地面に伏す。棺の叫び声によって、回避が上手く行えなかったのだ。 
「ここは引かせてもらうよ」
 棺はそう言うと、部屋の隅に開いた穴から、外に逃げ出す。
「皆さんは棺を追ってください。お二人の治療は私が。入口に残る設楽殿が心配です」
 と、片足を引きづりながら、アラストールが地面に倒れた大御堂と浅倉の元へ向かう。残りの4人は、棺を追って部屋を飛び出した。
 
「私の目的とか私の望みの通り道に、貴方みたいな死損ないがいただけで……。無様な計画を立てて無様に頓挫した。無様に閉じ込められて、無様に足掻いて、そして此処で無様に朽ち果てる。あぁ、そう、それだけの塵芥なのだわ」
 ブツブツと、独り言を呟いているのは日下禰だった。まるで何かを予見しているかのような、語り草。最も、普段から割とこんな感じなので、一緒に棺を追う3人は大して気にも止めていないようだが。
「ちっ、アンデッドだ。道を塞ぐつもりらしいな」
 禍原が足を止めて、アンデッド目がけ銃弾を放つ。アンデッドは全部で5体。残った手ごまの全てを使って、足止めするつもりらしい。
「ここは俺が受け持つ。設楽が心配だ。先に行け! 死後もテロリストをやるような輩にかける情けは一切無いぞ」
 禍原が叫ぶ。と、そんな彼の横を笑いながら日下禰が走り抜けた。手に付けたクロ―を振りあげ、アンデッドを切りつける。
「ここは2人に任せた方がいいねぇ~。棺も、設楽ちゃんの所にむかっているようだし」
「あぁ、設楽の所に急ごう」
 熾喜多がアンデッドの脇を駆け抜ける。アンデッド達がそっちに気を引かれている間に、新城が壁を走り抜けた。
「うふ、うふふふふふふ」
 背後から、日下禰の楽しそうな笑い声が聞こえていた。

●恨みの果てに。
「うわぁああ!? お、おばけ?」
 宙に浮いた半透明の男を目にして、設楽が小さな悲鳴をあげる。半透明の男、棺はちっと舌打ちして、大きく腕を振り回した。
 心臓を直接握りつぶされたような感覚がして、設楽は地面に膝を付く。
「あ……うぁ」
 強い恨みの念による攻撃だ。設楽の顔が青ざめた。
 地面を見つめ、冷や汗を流す設楽に視界に何かが映る。それは、懐に忍ばせてあったお守りだった。ガントレットを嵌めた手でそれを拾い上げると、途切れそうになる意識を繋ぎとめるよう強く握りしめる。
「設楽ちゃん。一人肝試し、お疲れだねぇ」
「そいつが棺だ。喰い留めてくれ!」
 なんとか立ち上がった設楽の耳に、熾喜多と新城の声が届く。頭を振って、意識をハッキリさせると、設楽はガントレットに包まれた拳を握りしめた。
「左手に勇気を。右手に仲間を。胸に誓いを!」
 冷気を纏った拳が、設楽の横を通り過ぎようとしていた棺のボディを捉える。半透明の身体が凍りつき、地下墓地内へと押し戻された。
「う……ぐゥ……」
 直ぐに瓦礫を宙に浮かせる棺だったが……。
「貴様の妄執、ここで断たせてもらう! この一撃、耐えきれるか!」
 大上段から振り下ろされた新城の剣が、棺の肩口に食い込む。そのまま力任せに切り裂かれ、棺の身体は真っ二つになった。
「あ……あぁ」
 棺の懐から、古びた鍵が飛び出した。それが人形の鍵なのだろう。棺の手が鍵に伸びる。
 しかし……。
「ざ~んねん。平和と正義の為に、これは壊させてもらうよ」
 ヒュン、と空気を切り裂く音。一瞬の後、鍵は粉々に砕け散った。と、同時に棺の喉元に熾喜多の手が突き刺さる。声にならない悲鳴をあげて、棺の姿が闇に溶けて消える。
「……あと、すこ……し」
 なんて、恨みがましい声と視線。それが棺の最後だった。
 こうして、恨みに取りつかれた男の復讐劇は、失敗という形で幕を下ろした。
 後は、地下墓地内に転がった死体を回収すれば終わりである。
「もう暫くは煩いだろうが……少しだけ待ってくれ」
 誰にともなく、新城がそう呟いた。そんな新城を、設楽は気味わるそうに見ている。
「皆も無事だって~。今こっちに向かってるらしいよ?」
 AFを使って仲間に連絡をとっていた熾喜多が、楽しそうにそう告げる。
 なにはともあれ、これで一件落着。
 設楽は、嬉々とした表情で閉めていた地下墓地の出入り口を開け放ったのだった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。地下墓地探索はいかがでしたでしょうか? 
依頼は成功です。

楽しんでいただけたなら、幸いです。
では、これにて終幕。機会があれば、またお会いしましょう!