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絡涙オプトフォビア

●紅涙の殻
 ――りり、いい子ね。暫く目を閉じていて。私がいいと言うまで、開けちゃだめよ。

 ママはそう言ったのだと、薄紅色の殻に閉じこもった少女は言った。頑なに閉じた瞼から涙をこぼしながら。
「だからママがいいって言うまで、開けちゃいけないの」
「でも、このままじゃ貴女の体がもたないわ」
「せめて食事だけでも取ってくれないか」
 仲間達の声に滲む心配は本物で、故に少女はますます頑なになる。
 目を開ければ待っているのは現実。認めたくない、怖いもの。
「お願いだよ、璃々ちゃん。これじゃ君のお母さんも浮かばれな……」
 途端。静かにすすり泣くような調子だった少女の声音が、悲痛な絶叫に変わる。
「嫌! ママは絶対戻ってくるの! りり、約束したんだもん。ママは約束破った事ないもん。ママは、正義の味方なんだもん……!」
 慟哭に反応するように薄紅の殻が震え、攻撃態勢に入る。
 苦しげな溜息とともに下がっていく仲間達の気配を感じながら、少女は膝を抱える腕に力を込めた。

「りり、良い子にしてるから……もう約束破らないから。お願い、ママ」
 お願いだから、もういいよって、言って。

●岩戸の娘
「開眼恐怖症って知ってる?」
 突然『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が発した問いに、場にいた一人が「目を開ける事に対し、強烈な否定的感情を抱くこと」だと答えた。
 模範的回答に、うん、と少女は頷く。
「それが高じてアーティファクトに囚われた女の子がいる。名前は天瀬璃々(あませ・りり)、12歳。小規模リベリスタ組織のメンバーで、彼女の母もまたリベリスタ、だった」
 過去形。それが示すものを悟れぬ者は一人もいない。
 璃々の仲間達によれば、彼女は「母と交わした約束を守る」と言って頑なに目を開けずにいるうち、お守り代わりだったアーティファクトの暴走に巻き込まれたのだという。
「本当はね、既に一度約束は破られている。E・ビースト討伐戦中、母が自分を庇って死んだ時に」

 鈍い音、血の匂い、苦しそうなうめき声。
 不安に駆られて瞼を開いた少女の眼に飛び込んできたのは、力尽きた母の姿。
 二度と開く事のない瞼から滴る涙と、夥しい量の血。

「天瀬女史と交戦したE・ビーストは相討ちとなり消滅、結果的に娘だけは生き延びた。けれど、この事実が彼女に強烈な罪悪感と孤独感を植え付けてしまった」
 強烈な思念がアーティファクトを変質させたのか、それとも気がつかれていなかっただけで元々「そういうもの」だったのかは分からない。これに惹かれてか最近はE・エレメントまで出没しているという。
 放っておけば彼女を救おうとする仲間達はいずれ命を落とし、暴走したアーティファクトは人々に被害を齎すだろう。
「まるで天岩戸。……そうね、あくまで『所持者にして使い手』は彼女なのだから、上手く気持ちを解してやれば内から開くかもしれない」
 出来ない時は力づくになるけれど。
 イヴは静かに告げて、リベリスタ達の瞳を見た。
「最善の成果を期待してる。いってらっしゃい」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:蜜蟲  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月14日(月)22:46
蜜蟲と申します。今回も宜しくお願い致します。

●成功/失敗条件
アーティファクトの破壊&E・エレメントの撃退/リベリスタ側の敗走

●敵情報
アーティファクト『紅涙岩戸』
元は掌に収まるサイズの、堅固な紅水晶(のようなモノ)の塊だった。今は成人男性くらいのサイズ。
防御機能特化のアーティファクト。璃々が望まない限り内から開く事はありません。
「己をこじ開けようとするもの」に反応し、また璃々の感情が高ぶると攻撃態勢に移行します。
※物理的接触に限らず、言動からそれと察せられた時点で発動。

・閃光 神遠複+BS(ショック)
・押しつぶし 物近単ダメージ
・EX『紅涙嵐』 神遠全+BS(死毒・致命)

E・エレメント『涙眼』×4 フェーズ2
空中を漂う水の目玉。
防御は脆く攻撃力も低め、代わりに再生力が高くBS持ち。

・自己再生 最大HPの半分まで回復
・氷のつぶて 神遠範+BS「氷結」

●場所情報
璃々の所属する小規模リベリスタ組織が提供してくれた倉庫。
広さは20×20メートル程度、中身は運び出されてからっぽ。
中にいるのは璃々とE・エレメントのみ。

●補足情報
場合によっては戦いながらの会話になると思われます。
感情的になっている子供相手ですので、理屈を説いてもあまり効果は期待できません。
最悪璃々が死ねばアーティファクトは活動を停止し、後はE・エレメントを倒せば一応は成功となります。

どうぞ悔いなき戦いを。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)

浅倉 貴志(BNE002656)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
プロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
ダークナイト
アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)

●春嵐
「外の力よりも内の力によって開ける、まさに天岩戸。古事記によるアメノウズメの様に裸踊りをするわけにも参りませんし、難題ですね」
 重たい沈黙に包まれた倉庫へ視線をやった『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は静かに息を零す。件の少女がいるという倉庫は、木立の間に隠れるように存在した。
 案内役の女性に礼を述べ、彼女が立ち去るのを待ってからアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が口を開く。
「母親との約束か。それが、かの娘のレゾンデートルになってしまっているのだな。……約束を果たせないのは、確かにつらいものがある」
 閉じこもる娘はまだ幼く弱い。だが幼いからと言って逃げられるものでもない。誰しも何かに立ち向かわねばならない時は、目覚めなければならない時は来るのだ。それが彼女にとっては今なのだろう。
「まるで自分をみているようだ。とじこもって、何もかも、信じれなくて」
 ぽつりと零す『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の脳裏に、濃紅色で塗りつぶされた残影が浮かぶ。あかく、あかく、どこまでもあかく、深い痛みの記憶に目を伏せる。けれどそれでも、雷音は生きている。あの子もまだ、生きている。ならばまだ出来る事はある筈だ。
 物思いに沈む仲間達に向けて、彩花が静かな声で告げる。
「救出は皆様にお任せ致します。わたくしの目的はあくまで依頼目標の完遂」
 勿論、説得中は下手に手出しせず待ちますけれど、と付け足して彩花は目を細める。澄んだ青い瞳に、淡く冷えた色が浮かんだ。
「ですが。もしも状況が破綻した場合は躊躇いませんわ」
「……うん。私もそのつもりでいる。その上で、戦闘になっても出来る限り璃々を説得できる目は潰したくない」
「ですね。時間経過と対話で多少でも落ち着くなら……それが見込めない場合や攻撃態勢に入った場合には、逐次前倒し、でいきましょう」
 眼差しを少しだけ伏せた『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)と、表向きはいつもと変わらぬ顔の『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が意を重ねる。
 比べえぬものを天秤にかけねばならない時もある。だからこそ分水嶺に至るまで、瀬戸際まで諦めないとリベリスタ達は決定していた。
「既に悲劇は起きちまった、そこはもう変えられないけれど。これ以上は、絶対に止めてやる」
 決意を秘めた声で『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が宣言するのを聞きながら、ふと、それまで沈黙を保っていた浅倉 貴志(BNE002656)が口を開いた。不思議そうに目を瞬きつつ、コンビニ袋を片手に下げたエルヴィンに問う。
「ところで、そのお菓子やら飲み物やらは何に使うんです?」
「ん? ああ、うん、なんだ。天岩戸の宴会騒ぎ、って訳でもないけどさ。僅かでも彼女の生きる意志に訴えかけられたらと思って」
 倉庫へ向かう前、案内役の女性にあれこれ聞いてひとっ走り買ってきた、と青年は笑う。それを聞いて、真摯なまなざしを倉庫に向けていた『名無し』氏名 姓(BNE002967)が、淡く笑みを浮かべて一歩踏み出した。

●涙織
 倉庫の中は薄暗かった。視界に問題が生じる程ではないが、埃っぽい空気や砕けた照明の破片が廃墟を思わせて薄ら寒い。
 件のアーティファクトはその中央に位置していた。その周りを水で出来た目玉のようなモノが幾つか、ぱしゃり、ぱしゃりと、涙のように水を滴らせつつ取り囲んでいる。どうも岩戸の発する気配に惹かれて、辺りを漂っていたらしい。
 夢でも見ているように茫洋と浮かんでいた目玉達は、リベリスタ達を認めた途端、真っ直ぐに向かってきた。姓は急ぎ視線を巡らせ、少女の姿を探す。それはすぐに見つかった。
 薄紅の奥にうずくまる人影が一つ。銀の色に染まった二つくくりの長い髪と、握りしめられて傷だらけの手をした少女――天瀬璃々は、小さな声で謝罪を紡ぎ続けていた。
「ママ、ごめんなさい。ごめんなさい。りりが弱いから。りりが怪我なんてしたから」
 繰り返される呟きの内容から察するに、どうやら璃々の母は負傷した娘を安全な場所へ隠した後、不意打ちを受けて亡くなったようだ。
 りりちゃん、と姓が呼び掛けると声は止まった。微かに顔が持ち上げられる。返事はないが、聞こえてはいるようだ。
「僕らはこの目玉を退治に来たんだ。暫くの間、大きな音がするけど我慢出来るかな」
「ちょっと厄介なのが周囲にいるんだが、君の事は俺達が護るから安心してな?」
 強い子だと信じてる、と穏やかな声で告げる姓と、明るい調子で笑いかけるエルヴィン。彩花は様子を見つつ、少女を脅かさぬための仮面を心に纏う。
 岩戸の反応がない事を確認した後、リベリスタ達は向かい来る目玉を討つべく身構える。
「岩戸よりはやりやすい、とでも思ったのかしら。浅はかですわね――わたくしの実力、とくと御覧なさい!」
「全くです。……来ますよ!」
 冷ややかな声に貴志が応じ、二人の覇界闘士による一撃を受けたE・フォースが硝子のように砕けて飛び散る。しかし、次の瞬間には砕けた「水の塊」としか言えないモノがあっと言う間に寄り集まり、再び水の目玉が出来上がる。ただし、大きさは先ほどの半分程度だ。
「成程、な。これは面倒だ」
 碧衣の手から生まれた無数の気糸が目玉達を貫く。血の代わりに水が飛び散り、床に無色の惨劇痕を作り上げた。

 今回、リベリスタ達は回復力に優れた敵に対し、致命の効果を持つ技を中心に用いていた。唯一のとりえとも言える回復力を封じられ、あるいは回復する前に擂り潰されるようにして、目玉はひとつ、ひとつと姿を消していく。それでもしぶとい奴はいるもので、二体の目玉が攻撃を凌ぎ続けていた。そんな戦況を見て姓が少女に呼び掛ける。
「りりちゃん、僕らに力を貸してくれないか。君だって戦えるんだろう? 自信を持って」
 岩戸の使い手にして所有者は璃々本人。上手くいけば、強力な技の発動をもって彼女の安定とE・フォース討伐の双方が叶うかもしれない。仲間から聞いたとして岩戸の能力を説明し、更に優しく促す。
 しかし少女は俯いたまま、暫し考え込むような間を置いて首を振った。
「だめなの。……りりには、できないよ。何度願っても、なにも聞いてくれないの」
 きっとりりが弱いから。
 この答えに一瞬、幾人かは引っかかりを覚えた。
 璃々は「何度願っても」と言った。つまり幾度か念じてみた事はあるのだ。けれどダメだったのはアーティファクトが暴走しているからか、それとももっと別の理由があるのか。
 考えているうちに、最後の目玉が墜ちる。ぱしゃりと跳ねた末期の水音を背に、リベリスタ達は薄紅の岩戸へと視線を向けた。

●言霊
 戦いの間、努力の甲斐あってか岩戸は特に反応していなかった。しかしE・エレメント達が消えた途端、唸るような音を立て始めたのだ。
 警告音染みた鳴動をかき消すように、まず雷音が穏やかに言葉を紡ぐ。
「ボクも父親と母親をフィクサードに殺された。ここから出るなと言われて、ボクも約束は守れなかったよ。みえたものは君とおなじだ、璃々」
 薄紅の壁の向こう、少女が震える。いや、と小さく悲鳴染みた声が聞こえた。痛ましさと、自身の痛みとに拳を握りしめながら雷音は続ける。
「なにもかも失くした。約束を破ったボクはもう、死んでしまうべきだと思った。でも、命だけは失くさず助けられたんだ。大切な人に」
 だから、リベリスタとして戦うことにした。自分のような人を減らす為、今度は助ける方になる為に。璃々だって母のような正義の味方になりたかった筈だと訴えれば、少女の顔にはじめて感情らしいものが浮かんだ。
 何かを思い出したような。落としてきたものを見つけた時のような、そんな顔。
「ボクは知ってる。約束は、守れなかった方も辛いんだって。だから、 もういいよ」
 きっと彼女が欲しがっている言葉。
 しかしそれを発した途端、これまで心動かされていたようだった少女の顔が強張った。緩みかけていた手に、再び力がこもる。
「ママ以外の人に許されても、意味がない。一番に助けて欲しいひとは、もういない……!」
 虚ろと激情とを綯い交ぜにして少女は「拒絶」する。避ける暇もなく、一条の光が雷音の腹を貫いた。一撃のダメージこそ大した事はないものの、甲高い悲鳴は心と耳に突き刺さる。
 雷音へ向いた少女の気を逸らす意図もあり、今度はうさぎが口を開く。
「貴女のお母さん、立派な方なのですね。どう言う所を特に尊敬してるので?」
「……ママは正義の味方なの。約束破った事ないのよ。助けるって言った人の事は必ず助けたし、ぶっ飛ばすって言った人には必ず勝ったの」
 母を語る少女の声には、痛みと誇らしさとを複雑に混ぜたような響きがあった。
 前半はともかく後半には色々と意見もあるが、ともあれ娘の眼には母こそ世界一のヒーローとして映っていたらしい。
「そんな人だったならきっと、お前の母親はお前を守りぬけた事を満足しているはずだ。でも、お前がそんな様子だと心配しているんじゃないかな」
 碧衣が言葉を重ねると少女はびくりと震え、わからない、と小さく呻いた。分からないからこそ迷うのかもしれないと、碧衣は一瞬痛ましげに眼を伏せる。
「そこから出てこられないのには何か理由があるのかな。君はこれからどうしたい?」
 何も知らない風を装って姓が問うと同時、紅い閃光が奔り頬を掠めて過ぎた。
 璃々の母が残したものは、娘を守る為の「お願い」であって束縛する為のものではないと姓は思う。母への敬慕故に雁字搦めになった少女の姿は、第三者にすら耐え難い何かを覚えさせた。論理を極めたプロアデプトの理性さえ超えて、嫌だ、と心が叫ぶ。
「目を開けられないのは、怖いからか。でも、外は明るく楽しい世界だぞ。それに、目を開けないと友達が分からないだろう。君はもう1人じゃないんだ」
 アルトリアは理屈っぽくならないよう、苦心しながら言葉を紡ぐ。時折ぎこちなく言葉に迷う様は却って説得力を増してもいた。だが、それでも足りない。
 少女は青ざめた顔で口を閉ざし、岩戸は攻撃こそ散発的ながら戦闘態勢へと移行する。けれどまだ破局は訪れていない。ギリギリまで、と願いながら今度はエルヴィンが声をかける。
「辛いなら無理しなくたっていいんだ。落ち着くまで一緒に居るよ、一緒に待とう。気の済むまで、ずっと側に居るから」
 きっと、ひとりで耐えるにはこの少女はまだ幼すぎる。散発的に放たれる閃光に肌を焼かれ、近づけば拒むように体当たりをしてくる岩戸をかわしながら、リベリスタ達は語り掛ける。

 彩花と貴志は口を挟む事なくやり取りの様子を見ていたが、攻撃は苛烈になっていくばかりだった。彩花がついに終わりを宣言しようとした時、うさぎが再び口を開いた。
「……お母さんの事、尊敬しているんでしょう。彼女は、どんな事を望みどんな事を嬉しがる人でしたか。他の誰よりも貴女が一番良く知ってますよね?」
 貴女のお母さんは、『貴女が』どうしたら悲しんで、どうしたら喜ぶでしょうか。
 静かに問いかける調子に少女は戸惑った。動揺は岩戸にも反映され、一瞬攻撃がやむ。
「で、も、りりは約束破ったの。ママの嫌いな嘘つきになっちゃったのに、もうゆるして貰えないのに、どうしようもないじゃない……!」
 悲鳴染みた声が光の嵐になって岩戸から放たれ、リベリスタ達を襲う。肌を裂かれ喉を焼かれながら、雷音は咄嗟にうさぎへ癒しを送った。エルヴィンがそれに続き、異常を払う光を招く。
 ここまでに少女の心を一番強く動かしたのはうさぎの言葉だ。それによって辿る結末はどうあれ、賭けてみるしかない。
 仲間達の援護を受けてうさぎは息を吸い込み、そして一息に言いきった。
「貴方なら知っている筈だ。叶えれる筈だ。自分の為ではなく、『大好きなお母さん』の為に!」

●花散る、満ちる
 叱咤に近い言葉に少女は大きく震えた。何かを言葉にしようと懸命に口を開閉する。けれどまともな声は出ず、代わりに岩戸が声ならぬ声を受けて今までで一番大きく激しく震えた。
 まるで、子を守ろうと立ち塞がる母のよう――誰もが似た印象を抱き、そして一瞬空想する。
 別れを嘆いたのは遺された娘だけではなく。恐らく娘の守りとなるよう願って与えられたアーティファクトを狂わせたもうひとつの原因は、あるいは。

 璃々は震えながら、手探りで狭い岩戸の壁に身を寄せはじめた。伸ばした手が壁に届く寸前で躊躇いに揺れる。けれど、それが完全に止まる前にうさぎが声を張った。
「お母さんが、大好きなんでしょう?」
「っ……」
 意を決したように頷いて、少女は両手を壁に付ける。薄紅の壁が大きく鳴動し、そして、

 ぱき  ん 。

 酷く呆気ない音に、嗚呼、と誰かが溜息を零した。
 軽くはかない音に、嗚呼、と誰もが理解した。
 ぷつりと糸が切れるようなこの感覚を知っている。鼓動が絶える瞬間に似たこの空気を知っている。
 これは、誰もが知る「別れ」の気配。

 うさぎが駆ける。エルヴィンと姓、雷音が続く。碧衣とアルトリアは数歩進み、彩花と貴志は場にとどまって――各々がこれから起きるであろう出来事を見守る。
 ひび割れた岩の間から転げ落ちた璃々を、うさぎが抱きとめた。震える背に姓が手を添えて、エルヴィンがそっと頭に手を置く。
「ほら。僕らの言ったとおりでしょう、君は強い子だって」
「ああ、良い子だ。よく頑張ったな」
 嗚咽を零す璃々に、まだ少しやりにくそうにしつつもアルトリアは柔らかな声で言う。
「これでいい。……きっと、それを望んでいたはずだ」
 誰がとは言わない。けれど誰もがこの言葉の指すものを取り違えたりはしなかった。
 心配げに雷音が傍に駆け寄ると、漂う血の匂いに少女は顔をくしゃくしゃと歪めた。
「ごめ、なさい、いたいよね、ごめんなさい……っ」
「ううん、いいんだ。ボクはここに、傷ついても君と出会うために来たんだから」
 繰り返される言葉は今や母ではなく、リベリスタ達へと向いている。大丈夫、と笑って雷音は胸を張った。

「溶けていく……ううん。散っていく、のか」
 離れた位置で見守っていた碧衣が呟く。薄紅の岩戸は桜が散るように、細かな破片となって空気へ溶けだしていく。鋭利な石の破片はきらきらと輝きながら薄れ、消えていく。最終的には一握りほどの大きさにまで縮みながら、それでもまだ狂ったアーティファクトは動いていた。
「では、これで終いと致しましょう」
 彩花の言葉にリベリスタ達は頷く。
 遺された想いのかけらは璃々の心に在れば、それでいい。力の奔流に呑まれ、薄紅の石は砕け散った。

 うさぎに抱えられ、左右の腕でエルヴィンと姓の服を掴んだまま、少女はそっと瞼を開く。
 眩しさに目を潤ませつつ、はじめて見る人々へ面映ゆそうに笑む娘の瞳は、晴れ渡る空の瑠璃色をしていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
いつか一人の人間として戦う時、璃々の心にはこの日貰った言葉が生涯添い続けるでしょう。
ご参加、ありがとうございました。