●三匹の首長竜 ある山の中に、深く広い湖がある。 都会から離れた村の奥、まばらな陽光が差し込む森を抜けると、開けた芝生の大地が広がっている。湖は森の出口の眼前に、海のごとくたたずんでいる。遠くの景色に目を凝らせば、あちらにも木々が揺れていて。森林浴を楽しむ観光客達の休憩所として、また交流の場として知られた場所だった。 「おい、そろそろ飯の時間だろ」 きつい坂道を上り終わり、湖までもう少しという所で、男性がつぶやいた。ぜえぜえと肩を上下させ、杖代わりの太い枝に体重をもたせかけている。 連れの男は肩をすくめ、「お前も年だな」と苦笑した。 「湖はすぐそこだろ。あそこの景色はいいぞ。せっかくなんだから、太陽の当たる場所で食おうや」 杖を突いている男性は息を整えながら、「しょうがないな」と愚痴りつつも歩き出そうとした。 が。 日がかげる。道の先、広場への出口に、何かが立ちふさがっている。男達は不思議そうに顔を上げた。先ほどまでは太陽の光が、広く長い道を照らしていたというのに。 「熊か?」 ゆらゆらとゆれる影は、あきらかに動物のものだった。が、熊ではない。日差しを受けてぬらぬら輝く体に毛皮はなく、腕も足もない。 「と……トカゲ?」 いや、爬虫類にしては鱗がない。というよりも、大きすぎる。 影が口を開くと、ずらりと並んだ牙が光る。口腔の中は灰色の粘膜に覆われ、全体が鰓が動くのにつられてぴくぴくと痙攣していた。 「竜神様だ」 思わず杖を取り落とし、二人は一歩後ずさった。影は濁った四つの瞳をじっと男達に向けながら、ずるりずるりと身をくねらせた。 こちらへ向かってきている。そう直感し、男達は悲鳴をかみ殺しながら山道を駆け下りていった。 ●犠牲になった乙女 森の奥深く、悲鳴が聞こえる。その数、三つ。 どれも年若い女の悲鳴だ。 何かが引きちぎられる音、振り回される音、租借する音。 落ちる液体の、芝生の隙間を這い伝う音。 村人達は森の土壌に片膝を突き、『竜神様』が『捧げ物』にありつく様を、それぞれの思いを抱えながら見守っていた。時々嗚咽を、かみ締めた唇の間から漏らして。 ●フォーチュナからの報告 「今回の討伐および処置対象は、こちらのウナギ型エリューション・ビーストになります」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)から、あなた達は説明を受けた。 「フェーズは2、戦士級です。認識された個体は三匹ですね。これから数日後に、この湖に出現します」 和泉が地図を指差した。そこにはたしかに山があり、湖があり、どうやら村もあるらしい。出現時間のメモも添えてある。ここから離れてはいるが、今から向かえば出現時間に間に合う距離だった。 「このエリューションの出現後、山村は個体を『竜神様』と誤認し、人身御供の儀式を開始するのですが……」 エリューションのフェーズ進行を助長するだけですと、肩を落とす。 「崩界の防止および処置を要求します。リベリスタ、ご助力を」 胸に手を沿え、丁寧なお辞儀をする。 頭を上げた和泉は地図を三つ折にし、あなた達に手渡した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:北嶋さとこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月21日(土)00:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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ウナギ型E・ビースト討伐依頼 ●本日、調査中 うららかな日差しの降り注ぐ中、山を見上げる男性が二人。彼らはもう片方の手をひさしにして木々に覆われた山をじっと眺めていた。 「なあ。その湖ってのはこの先にあるんだろ? もっと賑わってると思ったが」 「そうなんだよ」答える男が訝しげに、首をひねる。「静か過ぎる。何かあったのかな」 二人の腕に釣り下がった弁当箱を包んだ風呂敷が、所在なさげに揺れている。隠れ名所で飯でも食おうという固い約束の下森の入り口にさしかかった二人だが、どちらともなく足を止めて耳を澄ましていた。 「失礼」 背後から突如声をかけられ、後ろを向く。スーツ姿の大男、『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(ID:BNE000681)が二人を見下ろしていた。 「誠に申し訳ございません。本日はわれわれ自治体が湖の水質調査を行っております。できたら、ご協力頂きたい」 そう言って、森の外――山村へ戻る道を辿るように手のひらを滑らせた。その軌道が、僭越ながらお引取り願いたいと語る。 「弁当なら別の場所で食えばいいか」 「そうだな」 顔を見合わせ、男性達は頷いた。 「じゃあ、そういうことで」 森の景色を名残惜しそうに見渡し、彼らはきびすを返した。正道は顔を上げ、枯葉まじりの土を踏んで去っていく後姿を“自治体職員”らしく見送る。 「事前対策、効果絶大じゃないか」 直後、木の陰に隠れていた『BlackBlackFist』付喪 モノマ(ID:BNE001658)が顔を出した。 風が吹き、森の土と草のにおいを少しだけかき混ぜる。遠くからかすかに、若い枝が割れる音がした。 「もう安心だね」 彼らが振り向いた先には、『偽悪守護者』雪城 紗夜(ID:BNE001622)と『閃拳』義桜 葛葉(ID:BNE003637)の姿があった。 「他も見てみたけど、結界のお陰で野次馬はゼロだよ」 「おお! これで遠慮なくあいつらと戦えるってわけだ」 手のひらに拳をぶつけ、闘志を滾らせるモノマ。 だな、と同意するのは葛葉だ。 「元より、遠慮は不要。早々に始末するとしよう」 「ええ。……そろそろ頃合ですな」 重なり合う新緑の間から漏れる太陽の光を見上げ、正道が腕を組んだ。 「おし、やってやるか!」 早速坂道を登り始めたモノマに続き、リベリスタ達は湖へと向かっていった。 ●戦いの場にて 森の入り口にたたずむのは、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(ID:BNE003341)。彼女からわずかに離れたところに、銃を携えた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)が陣取る。彼女等が見据えているのは、ウナギ型E・ビーストが出現すると予告された湖だ。 「さて……、どんな『竜神様』がお出ましになるのやら」 ブーメラン状のナイフを器用に一回転させ、灰色の前髪の向こうで目を細めるプレインフェザー。 ミュゼーヌは凛とした眼差しをさらに研ぎ澄ました。 「奴等から村を守る術が人身御供しか無いのだとしても、私達なら止められる」 と、草むらを踏み分ける音。 彼女等の後ろへ駆け寄ってきたのは、『串打ち3年、裂き8年、焼き一生』結城 竜一(ID:BNE000210)だった。 「前準備も終わったぜ! うな丼のな!!」 元気よく腕を上げてる竜一に、プレインフェザーはミュゼーヌと顔を見合わせ、おかしそうに肩をすくめた。 「思わず生贄捧げそうになっちまう位なんだろ? 美味くなきゃウソだよな」 「目に物見せてやるぜ、ウナギ!」 誰もいない湖に向かって吼える竜一。そしてそれを追うように響く声。 「ウナギー!! 高級食材だったらエリューションも怖くなーい!」 竜一と同じように森から出てきたのは、『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(ID:BNE000166)だ。折れた小枝を頭に付けたまま、三人の元に駆け寄ってくる。 「えー、一般人の退避を確認しました!」 「上出来だ」とプレインフェザー。「他の皆は?」 「わたくしの後を着いてきておりますよ」 あちらからと差した手の先、森の出口の木のアーチを、正道達が小走りに潜り抜けてきた。 「強結界ありがとよ。山の近くに居た一般人はほぼ全員退避完了してたぜ」 モノマがプレインフェザーに向かって親指を立ててみせる。 「残っていたのは観光客が二人だけだ。彼らへの対応は鬼ヶ島が行った。今日の登山はあきらめた様だ」 葛葉も、待機していたリベリスタへ歩み寄る。その後ろに正道と紗夜が続いた。 「さて、準備完了だね。世界救済のお仕事をしようか」 肩にもたせていたデスサイズを構え、湖へと向き直る。彼女のまとう空気が凝縮し、破裂して紫電へ変貌する。 同じく集中を始めたのはプレインフェザー。照準を合わせるべくコンセントレーションを発動させる。 紗夜の爆砕戦気が全身を多い、死神の大鎌にすら及んだ頃。 生き物の気配の無かった湖で、巨大な生き物の影が蠢き始めた。 ●まずは釣りから 異形の気配と活動音を真っ先に察知したのは正道だった。周囲に注意を促し、自分も後退する。 モノマとヘルマンが、木々の柱が視界をさえぎらない場所を選んで身を潜めた。 刹那、湖の水が異様に膨れ上がる。水しぶきがリベリスタ達の上に降り注いだ。 太陽をさえぎるように首を伸ばしたウナギ型E・ビースト。巨大な胸ビレを広げ、鎌首をもたげて“獲物”を見下ろす。 続いて二度、水柱が上がる。後の二つは最初に姿を現したものよりも小柄だ。特に、三番目に出現したE・ビースト――それだけは、湖のほとりから遠い場所で顔を出した。 「狙いはあいつだな」 竜一が、隣に居た正道を見上げる。 「ですな」 正道が肯定すると、竜一と葛葉が左右にばらけて走り出した。 後方で待機している紗夜とミュゼーヌも、ウナギの射程を計算している。 うつろな目をリベリスタ達へ向けていた異形。その首を振り上げ真っ直ぐ上空にに伸ばし、雫を四方に撒き散らして咆哮を上げる。 戦闘開始のゴングだ。 まず動いたのはプレインフェザー。片手を宛がった右手を前方へ突き出す。伸びる気糸が、小型の顔面をとらえた。仰け反る敵の眼球へ追撃したのは、正道の気糸だ。二度のピンポイントを食らい、吼えるE・ビースト。手前に陣取っていた中型のウナギを押しのけて、後退する二人目掛けて迫ってくる。 それを煽るかのように、ミュゼーヌが発砲。ウナギに命中したのを確認し、距離を取る。 プレインフェザーのピンポイントが、再び空を走る。今度は眼球に命中。体勢を立て直したウナギの喉から、先ほどとは比べ物にならないほどの奇声が発せられた。 「よし、怒ったんじゃねえの?」 気糸を消して一歩引き、仲間達へ目配せをする。 涎を滴らす牙をむき出しに、草むらへと這い上がる奇形のウナギ。ずるずると粘液の跡を付けて芝生を濡らしている。 「竜神様にしちゃ、ちょいカッコ悪くねえ? ドラゴンにゃ見えねえだろ、日本の文化って変わってんなぁ」 その隣で正道が一歩動き、相手の出方を伺う。 「さて、狩りの時間ですな。湖から引き離すとしましょう」 突如として伸びてきた首を寸でのところで後ろへかわし、さらに一歩後退する。すでに後ろで待機していたプレインフェザーとミュゼーヌの方へ後ずさり。ウナギが上体をひねり、三人を巻き込む形で地面をなぎ払った。射程範囲にぎりぎり入っていた三人のうち、正道が攻撃をわざと掠らせ、後の二人が回避する隙を作った。 さらに後退した三人を追いウナギが陸地へ這い出た。バックステップから着地したミュゼーヌが、 「さて……そろそろいいわね、皆さん」 小型ウナギの視界に入らないよう待機していたリベリスタへ手振りした。 「待ちくたびれたぜっ!」 森の中に陣取っていたモノマの跳躍、そして焔腕の攻撃。燃え上がる炎。爆発音が響き、頭頂部のぬめりが消え去る。 「ヨツメウナギなんてこわくねーですよっ!」 地面を蹴ったヘルマンの踵落としが眼球を貫く。眼球はつぶれ、周りの粘液も蒸発した。ウナギの絶叫。怒りも忘れ湖へ戻ろうとしたところで、 「戻さないぜ!」 頭部にくわえられた重い一撃に、木々をなぎ倒して吹き飛ぶ。 二本の刀を手に、竜一が湖への道を塞いだ。 「付喪。新しいウナギが釣れたようだ」 集中を続けていた葛葉が、視線で湖を指す。湖から這い出してくるのは、先ほどまで湖からやや離れた場所にいた中型のウナギだ。 「あいつが一番好戦的なのか」 腕を大きく回し、すでに全身が陸地へと乗り上げたウナギを睨みつけるモノマ。ちらと後ろを見やり、小型ウナギが既に弱っているのを確認すると。 「さぁ、楽しませろよっ!てめぇらの力を見せてみやがれっ!」 その腕に炎を纏い、叫ぶ。 葛葉がウナギの背後に移動し、メガクラッシュを叩き込んだ。吹き飛ぶ体に付いていたぬるぬると水分が、吹雪のように散る。 「ふん、ぬるぬる相手は今回が初ではない…!義桜葛葉、推して参る…!」 クローに残った粘液を芝生で素早くふき取り、退路を塞いだ。 「ご自慢のバリアを燃やし尽くしてやるぜっ!」 モノマの足が土を飛ばす。吹き飛んだウナギを追い、折れた木々を避けて進み、ジャンプ。叩きつけられた焔腕が二匹のE・ビーストを巻き込み、燃え広がった。 「どうにも、言語を解さない敵だと口上も意味が無いね」 焔腕の範囲から器用に逃れた紗夜が、二匹のウナギへそっと忍び寄る。 「君の存在、叩いて砕いて押し潰す、世界を護る悪魔だよ」 わずかに息のあった中型ウナギ目掛け、魔落の鉄槌。圧倒的重量の攻撃を前に、断末魔すら上げることなくエリューションは息絶えた。 ●最後の一匹 激昂、奇声、燃え上がる火柱。最後に残った最大級のウナギE・ビーストは、やはりプレインフェザーと正道らのピンポイントに釣られて上陸し、竜一と葛葉のメガクラッシュで退路を封じられていた。 大勢の敵を相手にしているだけあり、ウナギの攻撃は首による薙ぎ払いが中心だ。 「来ますよっ!」 ミュゼーヌが声を張り上げる。 身をくねらせたウナギが、その巨体で森の木々をへし折る。ある者は跳躍し、ある者はバックステップで避け、体勢を立て直した後に陣形を戻す。 ウナギが顔を上げる前に、駆け寄ったヘルマンが業炎撃で目を狙う。つま先が眼球にクリーンヒットし、形容しがたい感触が伝わってくる。黒い煙を上げる眼窩。続いてプレインフェザーが、残った眼球をピンポイント・スペシャリティでつぶしていく。 彼らが身を翻した直後、モノマの焔腕がウナギを直撃する。激痛に身をよじらせ上体を上げたところで、ミュゼーヌのピアッシングシュート。追い討ちをかけるように正道のパーフェクトプランが命中する。 気糸に貫かれた異形の悲鳴。空の眼窩はリベリスタを捉えられず、牙も空気を噛むだけだ。 「よし、当たりそうだね」 チャンスを狙っていた紗夜が、紫電で輝く大鎌を振り上げた。地面すら揺るがす一撃がエリューションに落ちる。 「遠慮なく、我らの供物となるが良い!」 むき出しになった皮膚目掛け、葛葉の土砕掌が骨をも砕く勢いで叩き込まれた。 あと少し。力なくのた打ち回るE・ビースト目掛け、竜一が突進する。 「俺がお前たちを、捌く!」 渾身の気合を込め、敵を十字に切り裂くデッドオアアライブ。 絶叫と共に身体をゆらりと起こしたエリューションは、ヒレをひくつかせ、湖の方へ戻ろうとしたのかわずかに身じろぎし――地響きと共に倒れた。 横たわった三匹のウナギを見つめ、肩の力を抜いて、湖が静寂を取り戻した頃。 ふと、紗夜が呟いた。 「これだけ巨大だと、私達だけでは食べ切れなさそうだね……」 ほぼ全員が無言で同意した、だろう。 ●『竜神様』のお味は…? さて、戦いの幕が閉じられた後のこと。ウナギの残した粘液を炎で処理した湖のほとり。 「やっぱり米は無農薬だよな」 竜一が、大量に並べられた飯盒を運びつつ、満足げに呟いた。 「おう、ご苦労さん」 焚き火の傍でモノマが礼を述べる。番をする焚き火の上にはすでにいくつかの飯盒が釣り下がっていた。 「……本当にこんだけ食べるのかい? 途中でギブアップするんじゃないだろうね?」 山椒を運んできたプレインフェザーが、どう見ても八人分ではない飯盒の数を数える。 「さあ。しかし戦いの後故、皆もいつも以上に空腹なのではないかな」 葛葉が持参したブルーシートを湖のほとりに敷いている。ミュゼーヌがそこに正座し、正道もシートの上に腰を下ろした。 米炊き用の新しい備長炭を用意する紗夜。ふと香ってくる調味料のにおいに鼻を鳴らし、 「さぁ、捌いて開いてうな丼だね」 楽しそうに料理班の方へと向かった。 料理班に残っているのは調味料だけ。どういうことかと、元・戦場の中へ入っていくと。 「紗夜さん、ちょっとこれ手伝ってください!」 E・ビーストの死骸をなんとか持っていこうと、ヘルマンが奮闘していた。地面に食い込んだヘビーレガースの跡を見る限り、かなりの距離を引きずってきたらしい。 「……こういうのはね、捌いてから運ぶんだよ」 「あっ、そうでした。うっかりですね! 見ていたら運びたくなってしまったですよ!」 ヘルマンがウナギから離れ包丁を取りに行っている間に、紗夜が鎌で頭部、つまり異形化が顕著な部分を切り落とす。 戻ってきたヘルマンは、包丁とアルコール消毒液を手にしている。その後を竜一とプレインフェザー、葛葉が追ってきた。 「切り身は大きそうですから、皆さんに運んでもらいますですよ!」 次々と切り分けられていくウナギ、運ばれていく切り身。そして量産される、ドッキリかと思うくらい大きな蒲焼。 「ふふん、フライパンがあれば案外簡単にできちゃうんですぜ? 伊達にうなぎを想像しながらイワシで蒲焼き作りまくってません」 蒲焼のコツを掴んだヘルマンは手際よく、ご飯が炊き上がる前に人数分の蒲焼を完成させた。 これを、炊き立ての真っ白でふくよかな、甘い香りすらしてきそうなご飯に乗せれば完成だ。 できましたーっと並べられたうな丼に、誰かがごくりとつばを飲み込む。 ……おいしそうだ。 ……だが、これはエリューション。一体どんな味が――、 「いっただきまーす!!」 緊張を破ったのはヘルマンだ。続いてモノマ、竜一がばしーんと手を合わせていただきます! の宣言。 がつがつむしゃむしゃもぐもぐ、三人分の擬音と箸の音が嵐のようにとどろく中、ミュゼーヌが小さな声で三人の名前を呼んだ。 「その……おいしい、のかしら?」 三人は真剣な表情で顔を見合わせ、真ん中に座っていたモノマが弁当箱をすっと下ろした。数秒の静寂の後、かちんと箸を弁当箱に乗せて。 「死ぬほどうまい……」 途端に身を乗り出し、箸を持っていた手をブルーシートに勢いよく叩きつけ、 「フェイトが減った気がする!」 「俺も!」 「たくさん食べる! 腹一杯食べる! 丸々一匹くらい食べたい!」 「俺も!」 「油の乗りとやわらかさとタレの染み具合! それを引き立てる米の控えめな甘み、ふっくら感!」 「水によって与えられたつややかさとまろやかさ!」 モノマと竜一の絶叫が続く。 「こ、これがうなぎの味なんですね……! 初めて食べた!」 ようやく思考回路のスイッチが入ったのか、ヘルマンが涙を湛えながら箸を持つ手を震わせている。 まだ何やらはしゃいでいる三人を見やりながら、葛葉が手を合わせた。 「……では、俺も冷めない内にいただくとするか」 「ここのところ激戦続きでしたしな。しっかりと役得にあずかり英気を養うと致しましょう」 正道も丁寧に手を合わせ、早速蒲焼を割りにかかる。 「おかわり!」 「俺も!」 「わたくしも!」 「お前が取って来い!」 「えー!?」 既に一杯目を食べ終えた三人が、おかわり係でもめ始めた。 「…うん、やっぱコイツ竜神だったのかも。お代わり、あたしの分も」 いつのまにか弁当に手をつけていたプレインフェザーが、空っぽの弁当箱を三人に向けて差し出す。 まだきれいに残っているうな丼を残したままのミュゼーヌが立ち上がり微笑む。 「いいわ、私が取ってくるから」 四人分の器を持ってお代わりを取りに行く。 「そうそう、私はこれを持って来たんだ」 紗夜が取り出したのは日本酒だ。 「おお、奇遇ですな。自分も持って参りました」 正道が頷く。 ミュゼーヌが戻った後、ウナギを持ち帰るかどうか問われれば、多数が手を挙げ。本部へ土産にするという紗夜と正道の案に頷き。 後日、本部に大量のうな丼が届けられたのは言うまでもない。 作戦成功だけならず思わぬご馳走に人々が喜んだのは、湖を守護する『竜神様』のおかげではなく――知られざる勇者リベリスタの功績だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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