●熱海の夜 「ねーどうして熱海なんよ? マック買うのにこんなに苦労するとかマジあり得ないから」 薄暗い部屋の中で最も明るいのはモニターの前だったから、茶髪の少女は無造作にキーボードをどかしてファーストフードの袋をどかっと置いた。 「バカユミ! てめぇテキトーしてンじゃねぇよ」 隣の席でかちゃかちゃとキーボードを叩いていた同じぐらいの年の少年が怒りの声を発して、どかされたキーボードを丁寧に置き直す。 「いーじゃん、別に……」 「いくねぇんだよ!」 「……ケンカ?」 ソファに寝そべっていた男がしどけなく上半身を起こす。眠っていたのか、はめていたアイマスクを外すと、脱色した鈍く長い金髪が舞い上がり滝の様に肩に滑る。綺麗だが腕力も気力も根性もなさそうな外見の男……だが、少年少女達の態度は一瞬で緊張が走る。どちらも立ち上がり背筋を伸ばて微動だにしない。 「……ケンカ、してたの?」 「いいえ、していません」 「お休み中のところ、起こしてしまって申し訳ありませんでした」 2人とも態度と一緒に口調までも改めている。その根底にあるのは恐怖だ。寝起きの男はゆっくりと伸びをすると口元に笑みを浮かべる。 「熱海はね、新幹線が止まるんだよ。あ、準備は出来たよね?」 出来ていない……なんて返答は許さない声だった。 ●ペントハウス 海を見下ろすオーシャンビュー……それが発売当時、このマンションの売りであった。それから周囲には沢山のビルが建ち並んだが、今も最上階からだけは熱海の海を見渡す事が出来る。そのたった4つしかない最上階で今、ゲームが始まる。 「ようこそ……」 4つの部屋には1人ずつ人間がいた。彼らはほぼ同じ頃合いにベッドの上で目を覚まし、見慣れぬ部屋をあちこち歩き回る。そうして居間にあるグランドピアノに驚いていると57型ワイドテレビの電源が入った。 「プレイヤーの皆さん。これから楽しい脱出ゲーム音楽家大会の始まりです」 稚拙なCGの顔がテレビ番組のMCの様に両手を広げて高らかに宣言する。画面を見ていた者達は訳がわからないといった様子であったが、画面の中に自分達の顔と名前が『プレイヤー』として出てくると、怒ったり叫んだり固まったりとそれぞれの反応を見せる。それでも画面の中のCGはお構いなしに進行を続ける。 「舞台は17階建てマンションの最上階の4部屋です。ルールは簡単。4人のなかで最も早く地上に降り立った方が優勝です」 CGは得意げに長広舌を続けている。要するに、マンションを脱出したたった1人だけが勝者となり命と同時に大金を手にし、残る3人は敗者となって殺される。各人に支給されるのはそれぞれのカードキーと沢山の銃刀類、ロープ、工具類。あとは食料や衣類などの生活必需品だ。非常階段へと続く扉は溶接され電話、インターネットや携帯電話は繋がらずテレビも見られない。そしてたった1つの脱出路であるエレベータのボタンを押すには複数のカードキーが必須なのだ。 「つまり、誰かの犠牲なくして栄冠はない……そういう楽しいゲームでございます。では、皆様の奮闘を期待しております」 そこでぶつっと画面が消えた。 「脱出ゲームっていうか殺し合いゲームじゃん。ナオト、あんた何か知ってる?」 暗い部屋でモニターを見つめながらユミが言う。配島の姿はなく2人とも自然体だ。 「さぁ……なんか妙なところから廻ってきた話をわざわざ配島さんが引き受けたらしいけど」 「新しいギャンブル? エントランスと屋上と最上階の廊下に監視カメラあるし、部屋の中にだって5台も……」 「かもな。拉致られた奴らには言ってないけど、24時間経ったら親の総取りって事でみんなで色々楽しんでから海に捨てちゃっていいってさ。ほら……」 ナオトが監視カメラのモニターを示すと、どの部屋にもバスルームの中にドラム缶が1つずつ無造作に置かれてあった。 ●異変のなかの異変 その日、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は不機嫌だった。カレイド・システムを通して伝わるフィクサード絡みの事件が多すぎるのだ。熱海のマンションで拉致された4人が不可解なゲームの駒にされるのもその1つだ。 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 事件の裏側に何があるのか、或いは無いのか……自慢のカレイド・システムもそこまでの情報は伝えてくれない。 「フィクサードが何を考えているかは分からないけど、事件が起こるのは間違いない。だから4人の人間を救出して……出来たらその真相も引きずり出して来てくれると嬉しいけど、そこまでは望まない」 にこりともせずイヴは言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)22:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 真っ先に行動を開始した『威風凛然』千早 那美(BNE002169)は足音を忍ばせて非常階段を駆け上っていた。長い黒髪をなびかせて足音も忍ばせて上を目指す那美の姿は『力』を持たない者には見る事が出来ないが、手にした懐中電灯からの光は別だ。ごく普通の者が見たら熱海の都市伝説になりかねない光景だ。 「最上階……ここね」 扉も壁も那美を阻む事は出来ず、すり抜けて侵入する。 成功率が高く人質を無事に救出する可能性が高い完璧な作戦……もし、それに見落としがあるとすれば『奇人変人…でも善人』ウルフ・フォン・ハスラー(BNE001877)がどの様にしてマンションの17階に潜入するという事であった。 「アタシが運ぶって。ちょっと待ってよね」 「オーノォー!」 用意してあったロープで『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は手早くウルフをぐるぐると縛りあげ、運びやすい様に幾本かの持ち手を作る。握力だけでウルフを無事に運搬出来るとは思えないからだ。 「じゃあお願いね、雷音殿」 多少の不安を押し殺し『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)に低い声で言い、会釈をする。 「任せろ。あまり乗り心地はよくないかもだが」 2人は向かいあわせで互いに抱き合う様な姿勢を取ったが……すぐに雷音は複雑な表情をして身を離し、アナスタリアの背中側に廻って飛び上がる。 「わっぁ……」 安定感の低い体勢に思わず声が出そうになり、アナスタシアは自由な両手で口を押さえる。見る間に高度はあがっていき、2人は17階のバルコニーに到着する。 暗がりの中、じっと連絡を待つ間も『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は集中を切らさない。所在がわからない敵の存在が鉅の心にひっかかっていた。もしこの配島とかいう奴に自分達が見つかれば、皆で練った作戦がふいになる。 「……!」 素早い身振りで鉅は仲間達に身を低くして音を立てるなと伝える。マンションの出入り口から脱色しすぎの長髪で痩せすぎの男が外に出てきた。おそらくこれが配島だろう。男は周囲になんの注意を払うことなく、海側の賑やかな方角へと歩き去っていく。 「あんた等食い過ぎだろ。大概にしろよな。中のどこに人の気配がするんだ?」 待機中の『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)はカラス達にねだられるままに新しい缶詰のプルトップに指を入れ、そっと音が出ないように気を付けながら開ける。もう2缶も出資しているというのに、カラスたちの話は全く要領を得ない。こちらのカラスは8階といい、別のカラスは全部だと言う。 待機中の『目標:三高平一の伊達男』ティーゲル・松崎(BNE001890)は17階の室内にあったピアノが気に掛かる。駒にされた者達が全員音楽関係者だってのは何の意味があるのか……まるで読めないが『ピアノを弾かせたい』のだろうかか? 「……がぁ、ぐだぐだ考えてても何も始まらねぇな」 ティーゲルは自然なウェーブを活かして整えられた髪を手でかき混ぜるようにぐしゃぐしゃっとかきむしる。せめてピアノに触れないよう、警告してもらうぐらいしか考えつかなかったが、他に手はないのだろうか。 アナスタシアとウルフ、そして雷音と杏は1702号室のバルコニーから必死に室内の蘇我龍司へとアピールを続けた。だが、この状況に男で大人の蘇我も平静ではいられないらしく、部屋の中を無駄に動き回るばかりでなかなか窓の外に気が付いてくれない。それでも手足を大きく動かしていると15分ぐらい経ってようやく気が付いた。驚いた様に目を見開くがそれ以上パニック状態になる程ではない。全員でそっと手招きをすると、蘇我はガラス窓を開けずに低く誰何の声をあげる。 「君達は誰だ? 僕達をどうするつもりだ?」 「振り向かないで。監視されているの」 室内からの声に今度こそ飛びあがらんばかりに驚いた蘇我だったが、かろうじて振り向かずに身を固くする。 「私達は貴方達を救出に来たの。お願い、そこの工具で部屋中の邪魔なカメラを壊して」 那美の言葉は聞こえている筈だが蘇我はすぐに動かなかった。たっぷり3分経った後、意を決したのか窓の鍵を外し振り返る。そしてダイニングルームのテーブルに置きっぱなしになっていた工具箱へと手を掛けた。 頃合いを今か今かと待機し続けていた見ていた戦闘班は、マンションに鳴り響く非常ベルとトランシーバーからの連絡で行動に出る。 「悪趣味すぎるゲームよね。全力で叩き潰すわ……もちろん作戦にのっとってね」 元々吹き渡る風の様に素早い『風のように』雁行 風香(BNE000451)だが、力を使って更に加速させる、出入り口へと突っ込んだ。見張りの男達が振り返る。 「退ける! 変身!」 いつも通りのかけ声と共に装備を変えた『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も風香に続く。普通の人生をまっとうに送るだけなら一生身に着ける事がないかもしれない戦闘服がしっくりと身体にフィットし、見た目も着心地にも違和感がない。これも日頃の生活のたまものなのか。 「……悪趣味なもんだ」 反応速度を高めた『捜翼の蜥蜴』司馬 鷲祐(BNE000288)も突入し見張りへと向かい、鉅の足下からは意思を持つ影が伸び上がる。 「そんなに楽しいゲームがしたいなら相手になってやるからたっぷり遊んでいけばいい」 「おっと……あとで喰った分埋め合わせしろよ!」 「私もご一緒します」 カラスたちに言い置いて、モノマも続いて出入り口へ突入する。最後に『深き紫の中で微睡む桜花』二階堂 櫻子(BNE000438)が内部に入ると、もう見張り役のフィクサード達との戦いは始まっていた。誰よりも素早い風香の動きについていける程の手練れたフィクサードはいない。刃渡りの短いサバイバルナイフの切っ先を楽にかわし、幻惑するかのような美と剛を兼ね備えた攻撃が一人目のフィクサードを斬り、更にもう1人を返す刀で斬り付ける。 「何していやがる。さっさと増員しねぇか!」 深手にうめく仲間をしりめに無傷のフィクサードは監視カメラ越しに怒鳴るが、リベリスタを目の前にしてそれはあまりに無防備すぎた。 「どうだ。当たるしかないだろう?」 破壊的な漆黒のオーラが鉅から突き出し、上方を向いていたフィクサードの側頭部を強襲する。 「必殺!」 流れる水の構えから繰り出される疾風の拳は火炎をまとい、風香の斬撃で姿勢を崩す2人の敵を殴り倒す。その強烈なパンチに昏倒した2人は倒れて動かなくなる。 「そうか。貴様が祭雅、ヒーロー気取りの……」 「気取りじゃねーぜ!」 モノマの拳が炎を吹いて残るフィクサードの顎を打つ。 「俺達ゃ全員、ヒーローだっ!」 倒れて気絶したフィクサードにモノマはニヤリと笑って断言した。 「つーか管理人室とか守衛室が一番怪しくないか? ユミだかナオトとかの居場所」 ティーゲルは櫻子に支援を任せ、出入り口のすぐ横にある階段やエレベータを監視出来る管理人の部屋を覗く。コーヒーのサイフォンやフィルターとカップ、茶菓子やミカンなど生活感漂う品々がちゃぶ台の上に乱雑に置かれているが、誰もいない。 「ちっ……」 盛大に舌打ちしたティーゲルは乱暴に扉を閉めて戦場と化している出入り口に戻る。 「あれ? もう終わってるのか?」 既に3人のフィクサード達は昏倒し縛られているところだった。 「お怪我も治しておきました」 僅かな傷も櫻子が癒しの技を使い、ティーゲルの出る幕はない。 その時、疾風が手にしたトランシーバーが電子音を奏でる。 人質全員を部屋から救出したリベリスタ達は非常階段を駆け下りようとしていたが、そこへ屋上から見張りのフィクサード2人が追いかけてきた。横溝初美と門倉彩音は悲鳴さえ上げる事が出来ないほど怯えてへたり込み、小清水凱もなんとか下へ降りようとするが膝が震えて足がもつれる。比較的まともなのは蘇我だけであったが、他の3人を気遣う余裕はない。 「約束したわよねぇ。無事に帰って素敵な曲を聞かせくれるって。だから立ってぇ!」 黒いジャケット越しに燃える炎を拳に乗せアナスタシアは不用意に迫ったフィクサードの鼻面を思いっきり殴りつける。 「汚い顔を近づけるんじゃないわよ」 みなぎる闘気を乗せ、那美の黒いコードが鼻をおさえてのけぞる男を一閃する。 「セーラー服の黒髪……こいつ、千早か」 「それを早く言え!」 2人のフィクサードが言い合う間も、杏は魔力弾で牽制し雷音は4人を励まし抱え上げる。 「これでも喰らいな!」 「絶対に助けるのだ」 「こちらは非常階段でフィクサードに追撃されていマース。このままでは人質の皆さんが危険になりマース。救援乞いマース!」 ウルフは手にした武器を乱射しながら肩でトランシーバーを固定し、下にいる戦闘班へ救援を願う。 「上が危険だ。扉だ、モノマさん」 トランシーバーを切ると疾風はティーゲルが出てきたのとは別方向に走る。そこにある非常階段へと続く扉もがっちりと溶接されていて、疾風がモノマを呼ぶ。 「よぉおおしぃい! ぶちぬけぇぇぇぇ!!」 2人がかりの攻撃が扉の頑丈な蝶番を破壊し向こう側へと扉が吹き飛ぶ。 「行きましょう」 風のように風香が真っ先に駆け上がる。疲れも見せずに一気に階段を駆け上がっていく。だが、8階まで来ると風香を狙ったかの様に荒々しく非情扉が開け放たれ、激突しそうになる。いや、僅かにドアノブが風香の腕をかすめ赤い跡を残していた。 「ごめーん。当たっちゃった?」 「って、狙った癖にてめぇ正確悪いなっ」 扉の向こう茶髪の少女と同じ年頃の少年がいた。どちらも夜の渋谷が似合いそうな風体で、熱海の夜には場違い感がハンパない。 「ユミとナオトか! なんでピアノよ!」 階下から放った魔力の矢が2人のフィクサードをかすめて過ぎる。 「おっさん! 危なねぇよ」 「ピアノとか意味わかんねぇし!」 非常階段の隙間から2人が罵倒してくるのは想定内だ。ティーゲルもどうせまともな返事があるとは思っていない。 「風香さん、先を急ぎましょう」 「はい! ここは頼みました」 先行する風香に声を掛け、おいついた疾風もユミとナオトがティーゲルとやりあっている隙にすり抜け上へと走る。 「あっ、待てって」 「俺が残る。それで我慢しろ」 手を伸ばしたナオトの指先を黒いオーラがかすめる。鉅の攻撃だ。 「いちいちうざいなぁ」 ユミは片手に構えた拳銃の様な武器を無造作に鉅めがけて乱射する。だが鉅の脇から突進するモノマを止める弾幕とはなり得ない。 「てめぇ、配島はどこだ。奴がボスか……こんな事しやがって何が目的だ!?」 勢いあまって非情扉からマンション内にもつれたナオトに格闘技を仕掛ける。だが、ナオトも多少の心得はあるらしく、容易く決め技へと持ち込めない。 「ナオト、遊んでないで……」 「おっと、お嬢ちゃんのお相手はおじさんだぜ」 駆け上がってきたティーゲルがニヤリと笑ってユミの間合いに飛び込む。 「人質が気になる。上に行ってくれ」 「わかりました」 鷲祐はティーゲルとモノマのフォローに入り、櫻子は決死の覚悟で戦う者達の間をすり抜け上へと階段を駆け上がる。 「きゃあぁぁ!」 「いやああぁぁ!」 うずくまる横溝と門倉は頭を抱え悲鳴をあげる。 「死ねぇええ!」 アナスタシアの拳と那美のコード、そしてウルフの重火器に逆上した血まみれのフィクサードがサバイバルナイフを手に飛びかかった。狙うのは戦う手段も身を守る術もない人質の女達だ。 「ダメ!」 「刻んでやるぜぇ!」 那美を振り切ってもう一人も強引に階段を駆け下りる。 「とまりなさぁい!」 「オーマイガァー!」 アナスタシアとウルフの手も僅かに届かない……だが、突然ウルフは強烈な危険を感じた。 「みなさーん、伏せるデース!」 言いながら自分も倒れ込むように身を低くする。 「ぎゃあああ」 「ぐわあああっ」 凄まじい魂切る悲鳴が響いた。屋上からの遠隔攻撃がフィクサード達の頭を撃ち抜いていた。破裂した中身をまき散らして非常階段の踊り場にフィクサード達のフレッシュな死体が落下し、ワンバウンドして更に階下へ滑り落ちていく。 「……だめだよ。かたぎの人は殺しちゃダメだって言われてるんだから」 かったるい様子で立つのは配島だった。 「配島さん、そんな事言ってないですよ」 「そ、そうですよ。24時間経ったらお楽しみタイムだって言ってたじゃないですか?」 鷲祐の援護を受けるモノマと格闘するナオトも、鉅とティーゲルの猛攻をしのぎ続けるユミも、聞き捨てならない台詞に恐怖も状況も省みず抗議の声をあげる。 「……そうだっけ?」 悪びれた様子もなしに配島は首を傾げた。 「まぁいいよ。そろそろ帰ろうよ」 「は、配島さん」 「今ですか? 今、帰れって言うんで……」 「この悪趣味なゲームは何のために行ったのかしら? 言ってくれた方がお互いのためよ」 ユミとナオトの言葉を遮り、風香が配島に進み出た。 「あなたの目的はなんなの?」 厳しい視線を配島に向け那美が尋ねる。人質達の元にたどり着いた櫻子は懸命に彼らを下へと降ろし始めていた。 「そうだぜっ! 一体何が目的だ!?」 ナオトを放り出し非常階段に出たモノマが上に向かって叫ぶ。 「皆さん、ここはとても危険です。とにかく下へ降りましょう。私に続いて下さい」 真っ青な顔をした4人の人質達はまだ冷静に物を考える事も出来ない。 「どけ!」 何時の間に上がってきたのか鉅が門倉を抱きかかえた。横溝は下がってきた疾風が抱え上げる。なにより人質達の救出が優先だ。 「私にしっかりと掴まって下さい。出来ますね?」 「……は、はい」 微かな声を聞くと2人は階段を駆け下りる。雷音と杏も男2人を促した。一刻も早く配島から遠ざけたい。 「その前に教えろ! なんでピアノよ!」 戦意の消えたユミを放り出しティーゲルが声を張り上げる。 「なんでだったかな? うーん、気分?」 「はぁ?」 ティーゲルの中で何かがキレた。 「お前さん、わけわからねぇ事言ってんじゃねぇぞ、コラ……」 「ここはお互いに退きましょうかぁ」 ティーゲルを背後から止めながらため息混じりにアナスタシアが言う。 「じゃ、お先っす」 「うぃーす」 鷲祐をすり抜けて非常階段へ出たユミとナオトがそのまま手すりを越えて飛び降りていく。ヒラヒラと手を振った配島だが、ふと思い直した様に表情を変えてリベリスタ達を見た。 「正直さ、こんなギミックでこれほど優秀な人達が来てくれるとは思わなかったよ。アークって組織を甘く考えすぎていたと思う……ほんとゴメンね」 ペコリと頭を下げてから配島はロープを伝って降りていった。 「……わけがわからないデース」 ウルフは両手を広げて肩をすくめた。 縛り上げておいた見張りには逃げられたが、人質達は無事に救出されたが、『どっきり』を信じたかどうかはさだかではない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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