●酷い状況 かつてはそこそこ小綺麗だった筈の実験室は今や足の踏み場もない程、乱雑になっていた。まるで暴漢か強盗でも押し入った直後の様だ。あちこちにうずたかく積み上げられたゴミの中央から声がする。 「またしっぱーい!」 ガシャンと放り投げられたガラスが割れた音が続き、盛大なるためいき。 「だめだ、だめだ、だめだ! もうぜんぜ~ん、無理! どーしても駄目!」 ゴミの山に占拠されていない僅かな場所に、色々なガラス器具や装置、チューブが走り駆動音が規則正しく響く。 「……しょーがない。三尋木さんに正直に報告して折檻されてこうかな。明らかに僕の失策だけど、三尋木さんは怒った顔も魅力的だし、お仕置きだって……」 気持ち悪いぐらいにクスッと嬉しそうに笑うと、配島は未熟児集中治療室でよく見るクベースという保育器へと専用の丸い穴から差し入れていた手を引き、厳重に穴を閉ざす。そして、無造作にゴミの山を突き崩して部屋を出ていった。 残ったのは規則正しく駆動する機械の音だけだ。 「要するに……谷中篝火は死んで蘇生出来なかった。もう使いモノにならないってわけなんだね。配島、お前にここまでがっかりさせられるとは思っちゃいなかったよ」 濡れたようなシャイニーリップから落胆混じりの辛辣な言葉が響く。だが、返事がない。三尋木凛子はクイッと顎を動かし、ボロ布の様に足下に転がっていた男の腕や頭を数人がかりで強引に引き上げ、顔を向けさせる。 「小芝居なんかするんじゃないよ、配島。お前がこの程度でオネンネするわけないじゃないか。おおかた陶酔でもしてたんだろう。けど、それじゃあこちらの用が足せないのさ」 冷たい口調でなじら、うっすらと配島は目を開ける。同時に血に汚れた顔に笑みが浮かんだ。 「いけずですねぇ、三尋木さん。せっかくいい気分でいたの……ぐっ」 凛子のピンヒールが配島の腹にめり込む。その容赦ない衝撃に配島は薄い身体を前のめりにし胃液を吐いて苦しむが、左の男が無造作に髪を掴んでまたも顔を引き上げられる。 「あんたのことだ。篝火を生き返らせる事は出来なくても細胞や組織、DNA情報は保存してあるんだろう?」 ぐったりとしていた筈の配島が目を開く。少し力をいれると押さえつけていた男達を薙ぎ払いゆらりと立ち上がった。 「もうちょっと三尋木さんと楽しいプレイを続けていたかったけど、仕事に戻ります。もうユミには材料の調達に出てもらってますしね」 配島は口元の汚れを手の甲で拭いながら言った。 ●調達 「極限定された事件でしたが、リベリスタによる処理が妥当との判断に至りました。色々と事象が多発しておりますが、速やかなる対処を希望するものです」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はこう前置きすると事件の概要を説明する。 簡単に言ってしまえば、それは連続女性拉致事件であった。 「最初の事件……当初、これは拉致事件ではなく家出と思われていました。被害者は上田狭霧(うえだ・さぎり)15才。高校一年生です」 狭霧は中学時代の友達と会うといって家を出たまま帰らなかった。家族は捜索願を出したもののそれきり捜査はほぼ行われてない。 「狭霧さんは学校で孤立していたらしく、警察は家出と決めてかかっていたようです」 その後も若い女性が行方不明となる事件は続いたが、ハッキリとした関連性に乏しく行方不明となる者の数も多くて一連の事件としては扱われてはいない。だが、アークの誇るカレイドシステムはそこにフィクサードの介在がある事を示している。次の月曜日、午後5時から6時の間に大きく動くだろうことまでは突き止めている。 「ハッキリと申し上げますが、これは三尋木に所属するフィクサードが起こしている事件です。彼らにとっては必要のある事なのでしょう。ですが、わかった以上放置しておくことも出来ません」 和泉は新たなる紙片を提示する。それはある少女のプロフィールだった。 「名前は山辺美鈴(やまのべ・みすず)14才。中学3年生です。次に三尋木が狙うだろう候補者です。もう一人、山辺美鈴の友人の赤城玲奈(あかぎ・れいな)」 2人は同じ学校の同じ学級だが、仲は良くないらしくほとんど挨拶ぐらいしか口を利かない。学級が同じ事以外、部活動も塾も友人達も家のある地域も違っている。 「詳細なデータはこちらの紙にも記されています。後ほど見ておいて下さい。あ、これらは全て個人情報ですから、取り扱いには留意して下さい」 ご存じでしょうけれど、と和泉は笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月22日(日)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●事前 「それで、狭霧さんはまだ見つかっていないんですよね」 適当に理由をでっちあげて上田狭霧の身辺を調査した『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)は、中学時代の女友達に聞く。 「あの子ちょっと暗くて高校でも家でも浮いてたみたい。でも、恥ずいみたいであたしも相談はしてこなかったよ」 少女は智夫を同性と思っているのか、気取らない口調と態度で話をしてくる。 「でもさ、家出はしても自殺なんかしないよ」 「どうして?」 聞いて貰いたいようなそぶりに智夫は聞き返す。 「献血! 特殊なAB型だから16才になったら献血するって言ってた。ねっ自殺なんかしないでしょ」 「そうだね」 弱い根拠だが智夫は逆らわずに賛同する。 まだ夜が明けきらない早朝、2人が使う経路を『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)はバイクで辿っていた。徒歩で使う道も大切だが、襲撃が想定される2点を最速で結ぶ道も把握していて損はない。曜日や時間が違うから危険とされているその時間と感じは違うかもしれないが、今は人通りがなく人目を気にせず行動出来る。そうでなければバイクを使う竜一の姿は人目を惹いてしまうかもしれない。 「つまらない道だな。これじゃ寄り道されたり別の道を使われたりするかもしれねーじゃんか」 誰もいないのを良い事についつい思った事が言葉となる。 「っと、他の道もあたってみるか」 変化してしまった体格ではちょっと難しいけれど、なんとかバイクの方向を変え竜一は左手をギュッと握りながら足先を伸ばしてクラッチをあげた。 対象者達が通う学校と自宅、そして学習塾の場所を『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は歩いて確かめる。どの移動経路も毎日歩くには少し退屈で面白みがなく、疲れていたりするとおっくうになるものだった。 「寄り道をしたりもっと楽な手段を使いたくなる誘惑にかられるな」 碧衣は苦笑いをうっすらと浮かべる。そこをつけ込まれる可能性もあるということだ。 「うむ……皆に伝えておいたほうが良いかもしれない」 小さくつぶやき碧衣はまた歩き出す。 「この辺りか?」 ごくごく当たり前の、どこにでも居そうな成年男性はつぶやいた。それは普段の格好をザックリと脱ぎ捨て髪を梳きコートを季節に合致した薄手のジャケットに着替えた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)だった。本人も思っている通り、変装というよりはごく普通の装いに変えただけなのだが、見事に目的を果たしている。目の前に馴染みにフィクサードが現れても鉅その人だとは判らない程の完成度だ。 「下校途中の対象を目立つことなく狙うなら……」 住宅地にさしかかる境界エリアにある道と併走して続く緑地帯。そこに身を隠し捉えた対象を確保し容易してある車に連れ込む。その幻影が見えるようで鉅は無性に煙草の苦みが恋しかった。 「ないよりもマシという感じですか」 素通りの眼鏡を掛けながら浅倉 貴志(BNE002656)は言った。今回、2人の女子高校生を拉致する予定のフィクサードとは面識がある。今回活動しているらしい三尋木のフィクサード、ユミとはかつて拳を交わした事がある。下手に気取られてリベリスタ側の行動が露見することは避けたい。 「そろそろか」 校舎の正面にはめ込まれた大きな時計はここ数日山辺美鈴が下校する時刻を示している。今はまだ人が多すぎる。感情探査は温存しつつ貴志は美鈴が校舎から出てくるのをじっと待つ。 「来たぞ」 それはアクセス・ファンタズムからの機械処理された碧衣の声だった。顔をあげ視線を向ければ確かに校門を抜けて北へと延びる道をゆく美鈴の姿と、その後から南へと反対方向に向かう玲奈が見える。 「先に立つ。背後は頼むぞ」 碧衣の言葉が切れ、小さな路地から出て美鈴の前を歩き出す碧衣の姿が見える。 「わかった」 貴志もアクセス・ファンタズムにそう告げると物陰から出て歩き始めた。 「私もそろそろ出番の様ですね」 四輪駆動車の倒してあったドライバーズシートを起こして『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は独りつぶやいた。今回は確実に狙われる対象がはっきりとしていない。美鈴かもしれないし玲奈かもしれない……或いはその両方である可能性もある。というわけで機動力がどうしても必要で、そのための四輪駆動車であった。きめ細かい尾行は他者に譲るが、備えあれば憂いなしだ。 一方大通りを南に進む玲奈の前方にも幻視で赤みの乏しい姿に変えた『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)がゆっくりとした歩調で歩いていた。腕にはアクセス・ファンタズムを抱いている。玲奈の家までの距離は美鈴よりも若干長い。タイミングによってはバスを使ったりすることもあると事前の調査で判っている。 「JKの気まぐれって奴に翻弄されないようにしないとだぜ」 所在なげにぶらぶらとしている風を装い、距離が空いてしまうことを防ぎながら歩いている。 赤城玲奈の後方100メートルほどのところには懐かしいビジネスバックとスーツで男の武装をした『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の姿があった。小物類も変えて簡単な変装としている。玲奈は自分が尾行されていることなど想像もしていないらしく、同じ部活動の仲間数人と楽しそうに話ながら大通りを南下している。ここ数日の尾行の結果、玲奈はその日の気分や状態、ノリによって寄り道したりまっすぐに帰宅したりと行動が決まっていない。まっすぐに帰宅する際も1停留所分だけバスを使う事もあれば大通りを避ける近道を使い家まで歩く事もある。 「さて、お嬢さん。今日はどうするつもりかね?」 心のどこかでワクワクするような高揚感を感じつつ喜平は歩を進める。 ●その時 友達と別れた山辺美鈴が自宅のある住宅地、その入り口にある緑地帯へとさしかかる。案の定、そこにはいつもはないピンク色の軽自動車が止まっていた。すぐに運転席以外の3つのドアが開き3人の女性達が降りてくる。 「やまのべみすずってアナタだよね?」 運転席のすぐ後から出てきた女が気安く言う。 「しら……」 知らないと美鈴が答えるよりも早く貴志が美鈴の背に庇った。 「逃げて下さい、早く!」 貴志は伊達眼鏡を無造作に外しながら美鈴を押しやり強く叫ぶ。 「う、うん」 不自然な事態にもかかわらず美鈴が走り出したのは直前に智夫が強結界を張り巡らせたからだったのかもしれない。 「早くここから立ち去って……今の事、忘れちゃったらいいと思うよ」 こっそりとつぶやきながら走る美鈴を見送った智夫はフィクサード達へと目を向ける。ユミ以外は新顔ばかりで見知った顔もなく内心僅かに落胆する。 「こっちの向こうに状況は伝えたけど……」 「追いかけますよ、ユミさん」 碧衣の言葉が終わる前にユミとは反対側の後部座席から降りた女が美鈴を追って走り出した。 「戦力分散か? それなら遠慮なく攻めさせてもらう!」 鉅の全身から放たれた気糸がすれ違い様にフィクサードの追っ手の自由を奪う。 「邪魔しないでよ。アタシ達はフレンドリーだったじゃん。このまんま仲良くやっていこうよ」 ユミは笑う……だが、いつの間にか手にしていた銃は走る美鈴の背を狙っている。だが、そのユミをうなる風の音が襲う。ハッとしても防御の態勢に移るには遅い。鞘から引き抜かれた美しい刀を手にしバイクから飛び降りた竜一の目前で、見えない刃に切り裂かれたユミが反転しつつ倒れるのが見える。 「やったなぁ!」 見せかけの余裕もかなぐり捨てたユミが立ち上がりながら引き金を引く。 「あの子はあたしが!」 助手席から降りたスレンダーな女が美鈴へと走る。 「追わせるわけにはいかないな」 狙いすました碧衣の攻撃が女の細くしまった足首に命中した。短い悲鳴をあげ女がもんどり打って倒れ込む。 その頃、喜平も行動を開始していた。既に最適化した身体は高速運動に対応出来ている。 「すいません、道に迷った気がしましたが気のせいでした」 「え?」 玲奈を連れ狭い路地へと入る喜平。すると即座に3人の女達が全速力で走ってくる。 「よ! 何すんのか知らねえけど、させねえよ」 立ち塞がるように現れた俊介は右手のスタンガンを玲奈の左首に押しつけ昏倒させ、魔法の矢を放って追っ手を牽制する。 「あっちはユミいれて4人らしいし、こっちは囮だろ?」 碧衣とアクセス・ファンタズムで連絡を取ったのだろう俊介は正確に人員配置を敵に告げる。 「囮なんかじゃないわよ」 「ゲット出来るものは全部手に入れる」 「普通っしょ?」 追ってきた女達は路地に入ると豹変する。ごく普通の春ジャケットを脱ぎ捨てるとノースリーブの両腕の先に無骨な拳銃が鈍く光る。それをためらいもなく構えて撃つ。弾丸はぐったりとした玲奈を庇う俊介と喜平に命中し鮮血が飛び血の臭いが充満する。 「遅くなりました。こっちです」 路地の逆側の出入り口に車を横付けした京一が後のドアを開け放して叫ぶ。すぐに俊介の手から玲奈を抱きとり、あまり丁寧とはいえないが迅速な行動で後部座席に放り込む。 「逃がさないよ」 「誰が逃げると言いましたか? ですよね、お二人さん」 車を背に京一が俊介と喜平へと尋ねる様に声を掛けるが、当然答えはわかっている。 「あの子を庇いながらの戦闘から解放されたからね。折角の情報源をこのまま野放しにするわけないよ。たっぷりと語り合おうよ……いろんな方法でさ」 ニヤリと喜平が笑えば福音の歌を響かせ、撃たれた傷を癒した俊介も強い怒りを讃えた目を追っ手の女達へと向け口を開く。 「お前ら、篝火の遺体使って何か完成させたのか? あと、配島元気ー?」 「知るか!」 「知ってたって教えるわけないだろ!」 「その子を渡せよ」 不良少女の様なはすっぱな声をあげて女達が一気に迫る。 運転役の配下まで投入したユミ達4人とリベリスタ達の戦闘が続く。碧衣に怒りを誘発された女は早々に倒され地面に転がっている。 「えっと、あの女の子みたいのに攻撃を集めな。いっつもあれが傷を治しちゃうやっかいなのだったからね」 今は指揮官として動いているのか、ユミが結構マトモな事を言い智夫を指さす。途端に集中攻撃を浴びる智夫……だが、その前に碧衣が立ちはだかり身を挺して庇う。 「まだ倒れられてはこちらが困るのだ」 白い肌を血が染めてもかすり傷だと碧衣は笑う。 「派手にやるな。人目を惹いても構わないのか?」 「結界あるんでしょ?」 ダガーの刃を交える女が面白そうに目を煌めかせながら言う。戦いをおもしろがっているのだろうか。貴志の拳を受けた女も転がりはするのだが、やはり致命打とはならずすぐに立ち上がってくる。 「今回の事は持ち去った篝火さんの遺体と関連性が有るのでしょうか? 答えてください、ユミさん!」 戦い続ける貴志にユミの感情を正確に探る術はないが、目に見える変化はない。 「ノーコメント! って小さい癖に生意気だよ!」 ユミの弾丸が竜一を狙い撃つ。反動でぐるりと半回転して倒れながらも竜一は立ち上がる。 「彼女の血を浴び、こうなった。それは、彼女が俺に刻まれているってことだ。なら、倒れてられねえだろ、こんなところでぇああああああ!!」 言葉が悲鳴に変わる。身体中が軋むように痛い。五感も思考も消し飛ぶ様な激しい痛みが全身から沸き上がり竜一は悲鳴を上げながらのたうち回る。 「結城さん!」 智夫が駆け寄るが、転げ回る竜一に手が付けられない。 「今のうちだよ!」 ユミは残る2人を促し緑地帯を抜け脱兎の如く走っていく。 「逃がすか!」 「俺が追う。ここはお前さん達に任せた」 女達の後を追う碧衣と鉅だが、大通りに出る手前で2台の大型バイクに乗って走り去る姿を目撃する。 「くそっ……」 鉅が地面を悔しそうに蹴る。 「ナンバーは覚えたが……」 おそらくは無駄に終わるだろう、碧衣は言葉を飲んだ。 京介の的確な注意やフォローが喜平と俊介の戦闘能力を普段よりも格段に際だたせる。 「オレンジ色の服! 狙い目です。右から」 傷つきバランスを崩して行動が遅れた敵を京介が鋭く指摘する。 「手加減しないけど……出来れば死なないでよね」 美しい光りの乱舞が目を奪う。芸術の様な瀟洒な刺突が繰り替えされ、女の悲鳴が木霊する。女が腹を真っ赤な血に染めて倒れると、仲間の2人が逃げ出していく。 「悲鳴?」 「何かあったのか?」 路地から走り出した女2人を不審そうに通行人達が振り返る。 「退きましょう。みんな車へ」 京一が運転席へ、そして俊介が助手席へと向かうと倒した敵を抱きかかえた喜平が後部席へと飛び込んでいく。そのまま高いタイヤ音をたてながら走り出した。 ●事後 手下を2人減らしてしまったユミは乗り換えた大型バイクを操りながら声を張る。 「失敗です……2人とも。だから、ごめんなさいって言ってるじゃないですか」 辺りはすっかり暗くなり信号とその先で光るテイルランプの赤が妖しく輝く。 「こういう報告、アニメのラストみたいで嫌いなんでよぉ。ノリノリでお仕置きとか萎えるんですけどぉ」 ユミは唇をとがらせ、信号のチェンジと同時に右手のアクセルを強く解放する。 「マジ寝返った方がよかったかな」 「おかあさん、ただいま!」 山辺美鈴は普段通りに家に帰ると玄関で大きな声を出す。 「あら、美鈴ちゃん早かったわね。どうしたの? そんなに息を切らせて……」 母親に言われて初めて美鈴は自分が全力疾走してきた事に気が付いた。 「どうしたのって……お母さん、いつも早く帰ってこいって言うじゃない。だからだよ」 動機の判らない自分の行動を少し不審に思いながらも、美鈴は靴を脱ぎ着替えようと自室へと向かう。 「塾の前にご飯、食べちゃいなさいよ」 「はーい」 意識はすぐに日常へと向いていく。 「ねぇ、玲奈。やっぱり中学生なのにバイトってヤバいんじゃないの?」 家庭教師の茶菓子を準備しながら母親が言う。 「来年は受験だし、ばれたら怒られるんでしょ?」 「心配性だなぁ。もう今週はシフトが入ってるし、その時に辞めるって言うよ」 玲奈は左の首から肩をもみほぐしながら言う。なんとなく違和感があるのだが、寝違えたのだろうか? 「お腹空いた~お母さん、早くご飯にしようよ」 キッチンに入ってきた玲奈がコンロにかかっていた鍋の蓋をあげる。 「シチューだ。えー冬場じゃないのに」 「文句言わないの」 2人は笑って戸棚へと向かい皿やらスプーンやらを取り出した。 後刻精密なる検査の結果、竜一の外見は篝火の血を浴びる前の状態に戻っている事が判明した。発現のメカニズムや後遺症などについては今はわかっていないが、元々不安定な現象だったのだろうというのがアークメディカルルームの現状報告である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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