● 暗き夜闇の中、細い月の下、舞い踊るその影は瀟洒かつ優雅。 襲いかかってきた生ける屍を瞬く間に倒し、嫋やかな細い脚で踏み躙り、しかしそれを意にも介さない。 「此処の月も、中々良い色をしているな」 見上げる顔、逸らし、淡い月灯に晒される細い首。 その肌は血の気を感じさせない程に白く、繊細な磁器の如き高貴さとともに神秘的な美しさを湛えている。 「決めたぞ。 此処に我が居城を建てよう。 この異界の夜に巣食い、闇の覇を唱えよう」 女の、鈴の様に軽やかなはずのその声に篭るは威厳、嗜虐、そして僅かな腐敗。 永き夜を超えた者特有の倦怠と歪曲、デカダンス。 「この月を我が物にして見せよう。 それまでは、月よ、我をこれ以上美しく飾らぬことだ。 ――先ずは我が城に相応しいこの世界に、祝杯を。 美しい乙女の血でこの渇きを癒すとしよう。ふふ、楽しみだ……」 夜の女帝は艶やかに笑った刹那、無数の蝙蝠へとその身を変じて夜空に舞い散った。 ● 「アザーバイド、識別名『夜の女帝』。とても強力な吸血鬼」 深い緊張と、僅かな疲れが『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声に滲んでいる。 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達に、これから語ることを厭うかのように。 「もちろん、エリューション能力者の一種族であるヴァンパイアとは別物の存在。 彼女は寧ろE能力者のヴァンパイアよりもずっと『ヴァンパイアのイメージ』に近い存在」 夜の貴族。 催眠の魔眼と強力な腕力、蝙蝠と狼への変化と使役。そして何より、吸血による知的生物の従僕化。 「――じゃあ、日光に弱かったりするのか?」 リベリスタがそんなことを口にした。 そう、近世の小説が生み出し世界に定着した『吸血鬼』は強力な存在だが、同時に弱点を多く持つ。 十字架を恐れ、流れ水を渡れず、そして日光に焼かれる。 「そういうこと……だった」 イヴの返事は、重かった。 「だった……?」 怪訝な声を出したリベリスタに、万華鏡の申し子たる少女は淡々と答えを返す。 「結論から言うと、彼女はそれらの弱点をほぼ克服した。少なくとも、日光に焼かれる事はもう無い」 デイウォーカー。数々の能力はそのままに、日光を克服した吸血鬼。理不尽の化物。 「彼女は冷静だった。先ずは夜を渡り歩き、数ヶ月の間情報を収集し続けたの。 そしてこの世界に存在する長命の術を知り、学び、それらを己の中に取り込んだ」 リベリスタ達が一斉に息を飲む。 傲慢でありながら、常に進化し続ける支配者。その存在がどれだけ凶悪な事か―― 「そうして彼女は弱点を克服し、その力をより強大に変化させた。 今見せた映像はボトムチャンネルに現れた時のもの。今はもう、別人と言っても良い」 ブリーフィングルームに、痛いほどの沈黙が落ちた。 しばらくの間、機械の駆動音だけが静かに、耳鳴りのように響く。 「冗談じゃないぞ――そんな存在、これ以上放って置いたら」 ようやく声を絞り出したリベリスタに、我が意を得たりと頷くイヴ。 「そう、非常にまずい。 だから今のうちに彼女を倒す――あるいはこの世界の武威を思い知らせる。 そうして元の世界に帰る様にうながさないといけない」 事態の逼迫具合を思い知らされ、再びブリーフィングルームが静まり返った。 「――そう言えば奴が学んだこの世界の『長命の術』って、具体的には何なんだ?」 リベリスタがそんな質問をした。 重い空気を換えようとしたのもあるが、何と言ってもそんな術は真贋問わなければそれこそ無数にある。 ――内容によっては、打開策に繋がるものがあるかも知れない。 そんな意図が伝わったのかどうか、イヴはその可憐な瞳をほんの少し物憂げに細めた。 「彼女が最終的に選び取ったのは三つ」 一度瞑目し。呼吸を整え。目を開ける。 ――そして、覚悟を決めたように少女は口を開いた。 「毎朝のラジオ体操」 リベリスタ達が一斉に椅子から転げ落ちた。 「三食欠かさない納豆栄養法」 転げ落ちた先で更に突っ伏した。 「そしてノーパン健康法」 「ちょっと待てええええええええ!!」 全員が一斉に突っ込んだ。 ● 『あはははは! 待て、待てって! 砂投げんの反則! 痛っ! 痛いって! ズルいぞお前らー!』 「数ヵ月後、そこには太陽の下で元気に駆け回る吸血鬼の姿が」 映像の中、大笑いしながら子供達と鬼ごっこしている少女を指差すイヴ。 「ふざけんな本気で別人じゃねえか!?」 これにはリベリスタも苦笑――では済まない。当たり前だが。 「陽光に照らされて、陽気になったみたい。血色も良くなったし」 うん、見る影も無く健康な色になってる。 これはこれで魅力的ではあるが、少なくとも何一つ夜の女帝ではない。 「……これ、退治する必要あるのか?」 大騒ぎしながら雷魚釣りしてる吸血鬼(と、一般人の子供)の映像を前に頭を抱えるリベリスタ。 「まあ確かに、今はナチュラルハイで当初の目的をすっかり忘れてるみたい。 だけどそのうち思い出すかもしれないし。それに放置すれば崩壊につながる」 「それはそうだけど……」 懊悩するリベリスタ達に対し、イヴはあくまで冷静である。 「大丈夫。 確かにすっかり明るくなってるけど、強さを重視する暴君としての本質と誇り高さは変わってない。 正面から挑めば戦いには必ず応じるはず」 そしてリベリスタ達の力を認めれば、ボトムチャンネルからの退去にも応じるだろう。 「けど、気をつけてね。3つの秘術の力を得て、彼女の力は大きく変化している。 創作で良く聞くヴァンパイアだと思って掛かると、足元を掬われる」 そう言ってイヴは資料を配る。 リベリスタ達は渋い顔をしながらそれを受け取り――そして更に頭を抱えたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月17日(火)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「早朝の森の中でラジオ体操……ものすっごく健康的でいいことだけど……どーしてヴァンパイアが……。 ここここーなったら! わたしも明日から、毎朝ラジオ体操するっ!」 なぜ『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)がその結論に至ったのか、他のリベリスタにはよくわからない。 「ラーメン店でニンニクマシマシという呪文を唱えてきました。吸血鬼にはこの呪文がよく効くんだとか」 一見正統派に聞こえなくもない、『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)、多分それ誰かに騙されてる。 「まあ、何と言うか、色々いるな、アザーバイドにも」 呆れたように口にした『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が煙草のように咥えるそれは、棒つきキャンディー(オレンジ味)。10歳だもんね。仕方ないよね。でも咥え煙草の『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)と並んで立つと、教育的指導な意味で微妙な気分になるのは仕方ない。 「あぁん? ラジオ体操終わるの待ってからいくってのかい?」 「だって、ラジオ体操している流れでラジオ体操攻撃が来たらたまったもんじゃないでしょ?」 『下っ端リベリスタ』三下 次郎(BNE003585)が確認する声は凄んでいるようにも聞こえるが、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は軽く受け流した。 「つまり遠くから安全に眺めてていいってことかい? よっしゃ!! 不肖、三下次郎。その作戦に従うぜ!」 とかやってるのを傍目に、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がまさかの行動に出た。 「え、ちょ……」 誰かの止める言葉も間に合わず。 ――凛子は女帝の隣に立ち、ラジオ体操を始めたのであった。 「それで、貴様達は何だ?」 ラジオ体操を第二まで終え、女帝はじろりとリベリスタたちを見回した。 ちなみに手は、首から下げた自作のカードにスタンプを、今日の日付の枠に、ぽんと押してたりする。 「おはようございます、女帝様。貴女にお願いがあって馳せ参じました」 「高位世界の尊き方とお見受けするわ。少しお時間よろしいかしら?」 杏に続き『禍蛇の仔』ルーチェ・ルートルード(BNE003649)が丁寧な態度を示す。 「許可する」 それに対する女帝の言葉は鷹揚。人に傅かれるのを当然とする存在の持つ威厳が、そこにはあった。 「異世界の住人がこんなところでラジオ体操は少々困ります」 「なっ、き、貴様等……まさか……」 だというのに、強結界を展開した凛子が挟んだ言葉に、女帝は並々ならぬ衝撃を受けていた。 「異世界の住人差別か!? 良くないぞそう言うの!」 ……アザーバイドがみんなこんなんだったら、吉備津彦とか、ある意味苦労しなかっただろうに。 「そうじゃなくて、アザーバイドの貴女がこのまま居座ってくれるとあたし達の世界に悪影響があるのよ」 杏の訂正に、女帝はきょとんとした顔を浮かべる。 あーやっぱりわかってなかったかー、という表情を浮かべて、ルーチェが崩界について説明を始めた。 「――つまり、わたくし達はこの世界の守り人。貴女にお帰り頂く為に伺ったの」 「なるほどな。血と月光に呪われた生命である我の存在そのものが、世界への侵蝕となる――道理だ」 目を細める女帝にも、思うところがなくはなかった、らしい。 「もちろんこれは此方側の都合。 貴女は言葉以上に力を重視すると聞いているわ。受けてくださる?」 「……ほう? クク、ククク……ハーッハッハッハ!!」 言葉を続けながらルーチェが幻想纏から取り出した蛇腹剣を目にし、女帝の瞳が一度丸められた後、その顔全面に喜色を浮かべ、高笑いを上げた。 周囲から、ざわつく空気と呼応するように呼び集められる彼女の眷属――納豆。 「愚問! 飛ばぬ鳥がおらぬように、糸を引かぬ納豆が無いように! 挑戦を受けぬ帝王が在るものか! 良かろう、掛かってくるが良い何れ死すべき定命者共よ! その泡沫の力、閃光の如し魂、我が永久(メトセラ)の生の刹那の慰めとして捧げるのだ!」 高く跳び上がり、何もない空中のはずの場所に陣取った女帝の言葉は、歌いあげるかのような血の狂宴の開幕宣言。……突っ込みどころが多いのは、この際放置の方向で。 ● 「健康なことはいいと思いますが、納豆健康法も食べ過ぎれば肥満の元です。 何より、食べ物を粗末にするのはいけません」 仲間達に天翔ける神秘の加護を付与した凛子の言葉は、柔らかい物腰ながらも説教臭い。 対する女帝は低空に身を浮かばせ、腕組みをしたまま泰然自若と見返すのみ。 「……!」 その女帝に、一陣の雷の如く突撃する影。 僅かに目を見開き半身にかわした吸血鬼の脇腹を掠めたそれは、雷を纏った刺突斬撃両用ブレード。それが取り付けられた機関銃を握るのは、精悍な肉体を持つ男。纏うは数多の戦場を駆け抜けた傭兵ならではの迫力。その男――ブレスは女帝を見据えて言葉を紡ぐ。 「はいてない美少女がニットワンピ一枚で激しく動き回って戦うだと? ぜひ観賞させて下さゲフゲフン……情操教育上良くないんで、早く仕事を済まさせて貰うぜ」 ――訂正。言葉を紡ごうとして本音が漏れかけ、取り繕った。 「あのっそのっ、は、は、はいてないのはいけないと思う……!」 「! ……ほう」 顔を真っ赤にしながらも、文のブレードナックルの斬撃は緻密。 瞬く間に女帝の肩口に刻印を刻み、本来不死である存在に死の力を浸透させる。 「パンツ履かせるために、頑張る! 履かなきゃダメーっ!」 叫ぶ少女の身のこなしを前に、吸血鬼の表情に少なからぬ感心の色が浮かんだ。 肝心の主張は右から左に受け流しやがったが。 ──BANG! 福松のダブルアクションリボルバーの銃声が響き渡る。 銃弾に右手の甲を弾かれ、女帝は組んでいた腕を下ろし――更なる銃声に、吸血鬼の余裕ぶった体勢が崩れる。 「まっ、新参者に前衛なんてつとまらねぇわな」 福松よりも後方。卑下とも冷静な判断とも取れる言葉を呟いた次郎の、五指の先に銃口を構えたエモノが撃ち出した弾丸だ。傍らには直径1mほどの大型チャクラムを手に防御を固めるチャイカの姿もある。 「どちらかと言うと神秘の力への耐性の方が低いみたい。 周りの納豆は……今まで食べて自分の存在と同化してるのを再発現……させてる……?」 「……ちょ、おい待てお前まさか我のカナヅチまでわかっちゃったりしないだろうな!? こ、この間まで水に触れれなかったんだからしょうがないだろ! 悪いかよー!?」 そして仲間の陣形を指示しつつ紺色の瞳を怜悧に光らせ、相対するアザーバイドをスキャンするルーチェに、自分の情報が読み取られたと悟った女帝があたふたしながら妙な自爆をした。 「やっぱり納豆は使うのね。なんでなのよ、もっといい攻撃手段があるんじゃ無いの?」 ルーチェの情報を聞いた杏が、周囲に魔方陣を幾重にも展開しながら、少し呆れたように呟いた。 「……む」 女帝が僅かに不快を浮かべた目で杏を睨むが、重金属姫は怯まない。 爆発的に増大させた魔力を纏い、杏はぞのまま睨み返す。 「そもそも食べ物を攻撃に使うなんて駄目よ! もっとこう、食べ物には敬意を払わないと! 朝は納豆御飯って決まってんのよ!」 「……貴様等には、一つ言わねばならぬ事がある」 吸血鬼が、始めて構えを取った。――そして周囲から湧き出し舞い飛び始める褐色の嵐。 「納豆が食べる事にしか使えぬと誰が決めた!!」 叫びと共に夥しい量の納豆の本流が襲い掛かったのは、前衛ではなく凛子。 散開を指示していたルーチェの御蔭で他に巻き込まれた者がいないのが幸いだったが、その猛威は凛子の白衣を容赦なく引き裂く。何とも鋭いねばねばだった。 「……くそっ! 食い物を粗末にするんじゃあないッ! 世の中には食いたくても食えない奴が山ほどいるんだッッ!!」 その様を見た福松が突然弾かれた様に叫んだ。それは純然たる怒りの叫び。 「納豆の可能性を勝手に限定するな!!」 ――だが、吸血鬼の反論は斜め405度ほどずれていた。 「納豆は素晴らしい! 納豆は力を与えてくれる! 完璧な存在である納豆が、武威としても素晴らしいのは当然! 寧ろ食べるのみに使うなど冒涜! 宝の持ち腐れ! 栄えある納豆の故郷の住人たる貴様等が納豆の可能性を信じずしてどうするか!!」 おまえはいったいなにをいっているんだ。 「て言うか貴様等如きが納豆を呼び捨てにするな! 様をつけろ! そして我の事は納豆の女帝と呼べ!」 それ自称だったのか。 ● 納豆の女帝は思いのほか馬鹿だった。だが、戦いは楽な物にはならなかった。 女帝は同時に、自らを女帝と称する程度には強力な存在だったからだ。 「……エッチなのはいけないと……淑女の、心得を……」 何よりもの原因は、女帝の操る二種類の納豆攻撃に狙われ続けた凛子が己を癒し切れず、ついに無念の言葉を残して倒れた事。そう、女帝は他の誰よりも凛子を執拗に狙ったのだ。 「癒し手を狙うのは定石であろう。数で勝る貴様等が相手ならば尚の事だ」 そう、このアザーバイドは武威と暴力を重んじる武闘派の貴人。 そして侵攻を数ヶ月遅らせてでも情報収集に徹することができる程度の冷静さを持っていた。 まあ、その結果うっかり当初の目的を忘れてみる程度にはざんねんな性格してる訳だが。 「それに、徒党を組むならば癒しとて一つの武威。その再生量を見れば誰が最も強いか位、分かるとも」 にぃと笑う女帝は舌を伸ばし、己の唇についた納豆の糸を舐め取った。 「うぉおおおおお!」 ブレスが裂帛の気合と共に雷電の一撃を振るい続けている。 ひたすらに突っ込み続けるその連打は、相対するものに集中を赦さないカリスマ(とチラリズム)を備える女帝に対し、バランスを崩させるための猛攻だ。そして相手の動きを良く見るべく全神経を集中した彼の眼力は決して見逃さない。そう、激しく動き回る女帝の動きの中の僅かな隙――では無く、嬉し恥ずかしノーパンチラリを! 己が前衛を担当している今が最大のチャンスと、男は今この時に全てを賭ける。 おい誰か110しろ。 「ああもうだから、はいてないのはダメだったらーっ!」 文もまたブレスと同様に、叫びながら両手に装着した刃を振るい続け己の技を連打し続ける。 叫びの内容はブレスの内心とは正反対だけれども。 「ふん、凡夫め。この開放感(パッション)と充足感(ソウル)を解さんとはな」 寝言以外の何ものでもない事をのたまいながら、理不尽な事にそれでもかもし出される異界の威厳(と、風に舞う裾と何かの境目)に集中を掻き乱されつつも、死の刻印を刻む刃は女帝を感心させただけの精妙な命中力を保持している。直撃こそ未だ適わぬ物の、その威力は十二分に吸血鬼の肉体と彼女の纏うニットワンピースを着実に削っていく。 「おおおおおお! よし! この調子で全力で(服を)削ってくぞー!!」 破界器で無いがゆえの脆さを見せるし○むら服の有様を確認し、予想が的中したブレスのテンションとやる気のボルテージが物凄い勢いで上がっている。 うん、もういっそ警察をここに建てよう。 「おいおい! 見える! 見えるって!」 その服の状態に思わず呻きつつも、福松は年不相応の冷静さと落ち着きを持って的確な狙撃を続け、吸血鬼の四肢を撃ち据える。もっとも、毒や麻痺を狙って来る事を嫌がったのか、それともノーパンを否定したからなのか、吸血鬼の姫に次の標的として狙われ出した文と配置を交代するまでの話だが。 強力な威力を誇る女帝の肉弾攻撃(※presented by ラジオ体操)に備えた前衛のローテーション。それがリベリスタたちの作戦だった。 「あ、危ないんだよ色々な意味で! 情操教育上!」 問答無用の剛拳を振るいながらも、福松は多弁だった。と言うか本来なら見えまくっているのだ。福松は暗黒街の紳士たる心意気の元に眼を逸らしているに過ぎず、よく見ると頬がちょっぴり赤くなっている。だって男の子だもん。 「何処を見ている! 闘争(ダンス)の最中に怨敵(パートナー)から目を逸らすな馬鹿者が!」 「馬鹿はお前だ!?」 何にも分かってないアザーバイドのたわごとに対し思わず叫び返したくもなるのも無理はない。 「大丈夫! 非常時にはコレで大事な部分をガードします!」 そんな福松を勇気付けるように、アークのロゴが描かれた看板を構えてチャイカが叫ぶ。いや福松前衛にいるんだけどそれどうやって使うの、というあたりはともかく、彼女が担っているのは補給。意識を同調し力を分け与える力により、激しい戦いをこなす仲間達の気力が枯渇する事を防いでいるのである。 「リベリスタとしての初実戦がこんな仕事とは人生捨てたもんじゃねぇな」 それは後衛を走り回りながら射撃を繰り返す次郎の言だ。その細やかな動きは己が早撃ちで女帝の急所を撃ち抜く為の位置取りのため、ではなく―― 「履いてるか履いてないかなんて割とどうてもよいこったぁ。チラリズム。それこそが俺が求めるものなのさ」 ――ワンピースの中を覗くためなのである。おまわりさん、コイツもです。 「衣服に隠匿された神秘の領域。目の前にある神秘! 解き明かしてみたくなるのが人間ってもんだろぉよ!」 いや、熱弁されても。 そしてついに次郎の眼が少女吸血鬼のシークレットなチラリズムをその視界に納め、ようとした所で暗黒の瘴気がそれを遮った。 「やっぱり集中できないと厳しいわね。あら、わざとじゃないのよ?」 狙いを外したルーチェの暗黒だ。別の意味で良い仕事である。 「ちょ、止めろよ! つーか視界塞がれたら攻撃があて辛くなるだろ? な? な?」 必死に異議申し立てる次郎。ブレスも大いに頷いているが、ルーチェはこれを華麗にスルー。 「見た目年端も行かない少女に手を上げるのは気後れするけど、お仕事だから恨まないでね、っと!」 言葉と共に精妙に踊るピック。震える弦。鳴り響くギターソロ、そして迸る四色の魔光。杏の奏でる四重奏の魔曲は暴君の身体を蹂躙し、そしてニットワンピースを見る見る千切れ飛ばしていく。 「「おおおおお!」」 ブレスと次郎、大フィーバー。 「男ってやーね」 微妙に棚上げ気味な感想を漏らす杏である。 「くくっ、やるではないか女。お返しをせねばな!」 含み笑いとともに女帝が放ったそれは、一見すれば蜘蛛の糸。だが杏を絡め捕らえた糸は、電流に酷使した魔力を獲物へと流した。 「まるで限定的なチェインライトニング! いいわ、欲しいわこの技!」 全身を魔力に焼かれながらも興奮した声で杏が叫んだ。どれほどの思い入れがあるのか、情熱の篭ったその目は生気を失わず、寧ろその身に受けた技を観察しようとばかりに見開かれている。 「面白い。我が編み出した納豆の秘技(ソウルスキル)、真似れる物ならば――」 「あ、それは無理!」 不適に笑った暴君の言葉を、模倣の術など持たない杏の言葉が力強く遮った。 「……そうか」 吸血鬼、ちょっと残念そう。 ● 「誰か女帝にパンツ履かせてーっ!」 後衛で、ついに倒れた文の悲鳴が戦場に響き渡る。 「破廉恥な事を……注意を……」 伏したままの凛子が無念そうに呻く。 頭上にチャクラムを待機させて看板をぶんぶこ振り回していたチャイカも、既に倒れている。 「スカートがちらちら翻って集中が途切れるって何なの? そんなもん、アタシにも付いてるんだから集中が乱れるわけ無いじゃないの!」 そう豪語していた杏だが、いざ相対すると矢張り気になってしまう。それがカリスマの魔力なのか、それとも『でも、アザーバイドなわけで。本当に同じものが付いてるんだろうか』等と考えてしまったからなのか。 「倒れるものかああ!」 ブレスが凄まじい気合で運命を削り、戦い続ける道を選ぶ。 「熊を倒す事はこの世界の戦士のステータス。そしてくまパンは強者の証よ。穿いてみたくない?」 ルーチェは持参の下着を薦め出す。 「貴様等、どうしたのださっきから」 満身創痍となりながらも不敵に笑い戦舞を踊り続けた吸血鬼だが、明らかに様子のおかしいリベリスタ達を前に、流石に眉を潜めて怪訝な顔をした。 「どうしたのだじゃねえッッッ!!」 福松が溜まらず叫ぶ。 そりゃそうだ。激戦の末、少女姿のアザーバイドの服は、その、なんだ。 「?」 アザーバイドが自分の身体を見下ろす。不思議そうに。 だがようやくやっと、その顔に理解の色が浮かび。ブレスと次郎と福松を順に見て。 これまでのやり取りを反芻して。 更に理解の色が強まって。 「っ! っっ!!」 その顔が見る見る真っ赤に染まり。 「遅過ぎんだよッ!?」 「……きゅう」 全身全霊で突っ込んだ福松の拳の直撃が、長い激戦を決したのであった。 ● 「ようやく終わったか。しかし、後ろにいたからちょっとはましだったがよ、さすがに納豆まみれはたまったもんじゃねぇな……ねばねばべとべと。ん、おい。ちょっとまて!! ねばねばべとべとってエロくね? ……落ち着け俺。そうだ深呼吸だ。そしてゆっくりと周りを見渡すんだ。周りにはねばねばべとべとで苦しんでいる女性陣が! 納豆最高。納豆バンザイ。勘違いするなよ。俺はロリコンだが、年上もいけ……」 「チェインライトニングー」 「魔閃光っ!」 「ぎゃああああ!?」 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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