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『獣人』はただ、再会を望む


 ――知ってる?
 『獣人』の都市伝説。
 満月の夜に、愛する人に裏切られた男性が
 見るも恐ろしい獣人の姿になってしまったって話。
 愛する女性に逃げられてしまったその獣人は、
今はもう誰も住んでないはずのお屋敷に潜んでいて。
 夜になると、逃げ出した女性を探しだして復讐する為に
愛した人が着ていた赤いワンピースを目印に女性を襲うんだって。


 「――来たわね。 ひとまずこの新聞の此処、この記事を見て?」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は
ブリーフィングルームにリベリスタ達が集まったのを見ると一枚の新聞を手渡し、
自身が最も見せたい部分をわかりやすく指さして見せる。
 そこには大きく『連続殺人事件!!またも被害者は赤いワンピースの女性』等と書いてあった。
 ――記事の内容をわかりやすく解説すればこうだ。
 最近、とある小さな街で毎晩のように奇怪な殺人事件が起こっている。
 殺されたのはいずれも10代後半~20代前半の赤いワンピースを着ていた女性。
「まるで、大型の肉食獣にでも襲われたみたいに――引き千切られていたそうよ」
 こんな風に、とイヴが傍に準備しておいた小さな女性の人形をバラバラにしようと。
 
 グッ……! グググッ……!!
 
 リベリスタ達が一様に息を詰め、イヴを見守る。
 イヴはそんな皆の期待に応えるべく、人形をバラバラにしようと。
 ――残念、ちょっと力が足りなかった。 
 人形は無事だった、悲しいまでにそのままだった。
 ブリーフィングルームに、気まずい沈黙が流れる。 
 イヴちゃんったら本当お茶目。
「……ごめん。 分かりやすいと思って」
 ぺこり、とお辞儀。
 こほんと息を一息ついて、真剣な表情へと戻る。
 人形も、謎のバラバラ事件の被害者になることなく机の上に戻りました。
「ここからが本題。 
私がわざわざ、こんな新聞の記事を見せる理由は分かるでしょ?」
 勿論、とリベリスタ達が頷く。
 つまるところ、エリューションの仕業なのだ。

「最近この街では、ある都市伝説が流れていてね」
 あるところに幸せなカップルがいました。
 ところが満月の夜、男性は何があったか獣人化してしまう。 
 女性はそんな男性を恐れ、逃げ出してしまったのだという。
 その後、獣人は夜な夜な自分から逃げ出した女性。
 ――赤いワンピースの女を探しだそうとしているのだ。
「満月に、人間を革醒させる力があるかなんて私は知らないけど」
 その男性は革醒し、そして『獣人』になった。
「まぁ、理由なんてどうでもいいのよ」
 望む、望まざるに関わらず運命は残酷な判決を下すものだから、と。
「この獣人、――フェーズ2のノーフェイスは
全身に堅い鱗を纏った半魚人みたいな姿らしいわ」
 誰がどう見たって獣人より、魚人。
 でも、満月の夜に合わせるなら獣人よね。
 それに都市伝説だし間違いもあって当然と、イヴ。
 ちなみにこの獣人が人間だった頃の名前は、望(のぞむ)というらしい。
「それに、間違いはそこだけじゃないから。 獣人の恋人……朔乃(さくの)というのだけど。
彼女は既に亡くなっているの。 それも、獣人によって殺された」
 より正確に言えば、殺してしまった。
 獣人化した望は、自分を化物を見るような目で見た朔乃を殺してしまった。
 しかし、自分の手で最愛の女性を殺したという事実は
彼には到底耐え難く、受け入れがたいものであり――結果、記憶は捏造されてしまった。
 彼女は、僕の元から逃げ出したと。
 そうして、逃げ出した彼女を探しだそうとしているのだと。
「獣人は、昔恋人と一緒に住んでいた小高い丘の上にあるお屋敷に潜んでいる」
 そして彼は夜になると、赤いワンピースを着た女性。
 ――もうこの世に存在しない恋人を探し、街を放浪するのだという。
「恋人の見つからない獣人は、嘆きと怒りに支配されて赤いワンピースの女性を襲う」
 事実を受け入れられない人って、哀れね。
 そう言いながらイヴはもう一度先ほどの人形を手に取る。
 ……やっぱり千切れない。 いや、そのほうがいいのだけれど。
「獣人は昼間に屋敷にいけば、その中にいるわ。
誰かが赤いワンピースでも着てれば、直ぐに出てくるんじゃないかしら?」
 無理をして、夜中に街でわざわざ出会おうとする必要などないだろう。
 下手を撃てば、犠牲者が増えるだけなのだ。
「後は人の目だけど、周辺はちょっと根回しして封鎖してあるし、
元々今は誰も住んでない事になってて人は近寄らない」
 思い切りやれ、という事らしい。
「敵の能力の説明だけど、獣人は力任せに敵の身体を引き裂く攻撃と
こちらの思考能力を下げて、混乱させてくる超音波攻撃をおこなってくるわ。
あとはそうね、サイズが成人男性の半分くらいしかない獣人――もとい魚人の配下も数体いるわ。
こいつらは毒液を吐いて、攻撃してくるから注意。 情報は以上、それじゃあ頑張って来てね」」
 手元の人形を弄り倒しながら、イヴはリベリスタ達を送り出す。

「記憶って、ときどき残酷よね」
 最後に、そんなことを呟いて。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月10日(火)22:47
皆様こんにちは、ゆうきひろです。
全くもって、出来の悪い都市伝説というところでしょうか。
それでは今回の事件の概要を説明致します。


■成功条件
敵ノーフェイス『獣人』の撃破


■獣人・望(のぞむ)
堅い鱗に覆われた半魚人のノーフェイス。
魚人だけど、獣人。都市伝説的に『獣人』
体長は2mちょっとと大きめ。
赤いワンピースを着た最愛の女性を探しており、
夜な夜な女性を襲っていました。

・力任せに引き裂く 物近単体攻撃 失血・麻痺
力任せに目の前の相手を引き裂きます。
この攻撃が命中すると一定確率で『失血』及び『麻痺』が付与されます。

・混乱超音波 物遠全体攻撃 圧倒・混乱
脳の機能を混乱させる怪音波を発し攻撃します。
この攻撃が命中すると一定確率で『圧倒』及び『混乱』が付与されます。

■魚人
サイズ小さめの半魚人。こちらは『魚人』
大きさで見分けは確実につくでしょう。
合計で4体出現します。

・毒液 神遠複数攻撃 猛毒
毒液を吐きつけます。
この攻撃が命中すると一定確率で『猛毒』が付与されます。


■場所
小高い丘のお屋敷の大広間。
大きめのお屋敷で戦う分には不自由はありません。
周辺には家はなく、人が来る事もありません。


情報は以上となります。
それでは皆様のプレイングお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ホーリーメイガス
★MVP
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
スターサジタリー
リオ フューム(BNE003213)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ダークナイト
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)


 世間がランチタイムに勤しむ昼十二時を過ぎた頃。
 リベリスタ達は小高い丘の上にそびえ立つように存在する屋敷の前へと集まっていた。
 その屋敷こそ、最近この街を騒がす都市伝説に出てくる獣人の潜んでいる屋敷。
 周辺に彼ら以外の人気はなく、どうやらフォーチュナの言っていた通り人払いは済んでいるらしい。

「都市伝説担当になる気はないんだがな」
 やれやれ、と『神速疾駆』司馬 鷲祐(BNE000288)が呟く。
 彼の周囲ではこれから行われる囮作戦の準備を仲間たちが始めていた。
「事前の情報通り、獣人……いや、望はやっぱりこの屋敷の中にいるみたいだね」 
 屋敷の前で、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)から受け取った地図や
透視を駆使し内部の様子を伺いながらそう言うのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)だ。
「それにしても悲しいわね。 過ちを認められないなんて」
 彼と彼女、それともそんな事が起こったという事実。
どれに向けられた感情なのかは分からないけれど、と『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)が呟いた。
「望様の変貌、朔乃様の脅え。 そして悲劇……」
 彼の理性の瞳が曇るのも無理からぬ事と屋敷の中にいる望を思い、シエルが言う。
 記憶の改竄、其れは深き心の傷から自己を守る防衛本能なのだ。
「愛する人が消えて、辛くて、悲しくて、だから求め続ける……」
 ボクと同じだねと『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は思う。
 例えそれが間違った記憶だとしても。
 其処に込められた想いが痛いほどにアンジェリカには解ってしまう。
 そして、解るからこそ自らの手で終わらせなくてはとアンジェリカは強く決意を胸に抱く。
「まぁ、死んでまで執着するとかね……あたしには分らない感情だわ……」
 あの子ならば、喜んだりするのだろうかと同僚の顔を思い浮かべながら、
『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)が言う。
 が、直ぐに闇紅はそんな事はどうでもいいと思考を切り捨てる。
 喜ぶとか、喜ばないとか。
 そんな事は自分には関係のないことなのだ。
 そう、自らのやる事は何時も通りに潰すだけなのだから。
「事実は伝説よりも奇なりってとこかねぇ……」
 キリエ同様に屋敷の間取りを確認しながらそう呟くのは、カルラ・シュトロゼック(BNE003655)だ。
 彼は、望は朔乃に捨てられたせいで獣人になったのか。
 それとも、獣人になってしまったせいで捨てられたのか。 
「……まぁ、今更どっちでもどうにもならんか」 
 仮に、恋人に受け入れられていたらある意味でもっと面倒な事になっていたかもしれないとカルラは思う。
「そろそろ始めよう」
 囮役として、長袖の赤いワンピースを着用した『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の言葉に皆が頷く。
 そうして、リベリスタ達の作戦は始まりを告げたのだった。


 ギィ、と音を立てながら重い扉が開かれる。
 まるで其処に潜む獣人を炙り出すかの様な陽光と共に。
 昼間でも薄暗い屋敷の中へ入って来たのは赤いワンピース姿の女性――結唯。
 一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めていく彼女の顔は、緊張からか多少強張っていた。
 無理もない。
 此処は獣人と、その配下達の住処であり――勢力圏。
 取り分け獣人の気を逆撫でしかねない囮役である結唯は一切の油断を許されない。
「人にも獣にもなりきれず同じ事象を繰り返すだけ、か」
 其れは、まるで再生のようだ。
 そして、其れが再生であるならば今後も延々と繰り返されるのだろう。
 獣人が――望が、自らの罪を認めない限り。
 永遠に、終わる事はない。
「己の最初の罪も見る事も出来ず、それからやりつづけた罪も見る事が出来ず、更にはその罪にも興味がない」
 一体、どこに救いなどあろうかと結唯が思った、正にその時。
 結唯は視線の先に広がる闇の向こう。
 其処から鼻をつくような腐臭と共に何かが近づいて来ることに気がついた。
「……なるほど、人より獣に近いがやはりどちらつかずの存在か」
 目の前に現れたエリューションを前に、結唯の口からそんな感想がこぼれ出た。
 全身は鎧を彷彿とさせる堅い鱗で覆った、おおよそ人間には程遠い半魚人。
 そのエリューションが件のノーフェイス――『獣人』であることは火を見るよりも明らかだった。
 獣人――望がゆっくりとした足取りで結唯へと近づいていく。
 其れはまるでずっと待ち望んでいた最愛の女性と会えた喜びを噛み締めるかのような。
 そんな、望に。
「悪いが、私はお前の求める彼女とは違う」
 望の足が、ピタリと止まる。
 違う、という否定の言葉に反応するようにわなわなと震えだし、やがて激昂し咆哮する。
 そうして、今まで街で襲った赤いワンピース姿の女性にそうしたように。
 人間の腕力を遙かに上回る力で結唯を掴み、そのまま引裂こうとする。
 が、流石に囮として常に気を張り詰めていた結唯がそう簡単に引き裂かれるはずもなく。
 既の所で望の攻撃を躱し、距離を取りながらアクセス・ファンタズムによって漆黒のクロースを身に纏う。
 更にそれと時を同じくして、望の咆哮を聞き様子見していた仲間達がその場へ集結していく。
「殺すッ! 殺す殺す殺すッ!よくも朔乃を騙って!」
 そうして、次々とその場に現れる招かれざる客に怒りを顕にするように望が雄叫びを上げる。
 その雄叫びに導かれるように床を突き破り現れたのは4体の小柄な半魚人の姿をした魚人達。
「さて……遠野の囮作戦は上手く行ったようだし、後はこいつらを倒すだけだな」
 そうして鷲祐の言葉と共に、リベリスタ達と獣人達の戦いが始まった。
 

 鷲祐が、その身に圧倒的な速度を宿しながら戦況を自身の力を高めるべく集中していく。
 心を集中させながら想うのは、目の前にいる望の事。
 一歩間違えれば、自分とて同じ道を歩んでいたのかも知れない。
 自分は運命に愛されただけ。
「お前の境遇には、歩み寄るべき理由がある。……歩み寄りたいさ」
 だが、と鷲祐は望を見据えたまま言葉を続ける。
「お前はやってはならない逃げ方をした。 それ故に、俺達がここにいる」
「そういうこと……まぁ、とっとと終わらせましょ」
 鷲祐に続くように、闇紅が動く。
「その為にも、まずはこの邪魔な魚人達からね……」
 望を狙う前に、まず魚人達の数を減らすのが闇紅の役目だ。
 狙いを絞り、近くにいる個体へ愛用のブロードソードで高速の連続攻撃を試みる。
 二連、三連、四連。 
 一切の淀みなく次々と紡がれてゆく剣閃が彼女の近くにいた魚人を無慈悲に切り刻んで行く。
 全身を斬り刻まれる痛みに魚人が悲鳴を上げる。
「折角だからもう一発、喰らっときなさい……」
 更に、その速度を維持したままもう一度同じ魚人へ連続攻撃を仕掛けようとするも。
 流石にそう何度も斬り刻まれるのは御免と言いたいのか。
 まるで魚が跳ねるように、素早く跳躍し闇紅の攻撃を魚人が躱す。
「やるじゃない……魚風情が」
 闇紅がブロードソードを構え直しながら、魚人を睨もうとしたその時。
「オオオオオオッ!!」
 望が、周囲すべてを圧倒するかのような、雄叫びにも似た超音波を発する。
 直後、躱しきれなかったリオとキリエの2人が頭を抱え、身体を震えさせながら絶叫した。
 其れはまるで、最愛の女性の死を理解出来ずに殺人を繰り返す望のような。
「うあああああッ!」
「リオ様ッ!? 駄目です!」
 射程圏外に陣取り、被害を受けずにいたシエルがハッとした顔で叫びを上げる。
 しかし、そんなシエルの声も今のリオには届かない。
 混乱し狂気に囚われたリオが震える手でヘビーボウを構え、我武者羅にスターライトシュートを放つ。
 奇しくも。
 彼女が陣取っていたのは、射線の遮られにくい場所。
 即ちこの場にいたほぼ全ての存在が射程圏内である事をも示していた。
 そうして撃ち出された光弾は望を、魚人達を、そして仲間達をも等しく撃ち貫かんとする。
 屋敷を震わせるような激しい爆発が起こり、粉塵が巻き上がる。
 そんな、凄まじい光弾の嵐に先程闇紅の連続攻撃を受けていた魚人が倒れる。
「これが敵にだけ向けた攻撃なら、凄く頼もしいんだけど」
 光弾の直撃を受けたアンジェリカが重傷の身をおしながらそう言う。
 幸い、リベリスタ側で今の一撃で倒れている者はいない。
 逆に、望側が手駒を一つ失ったことは不幸中の幸いだろう。
 ならば。
「ボクが今すべき事は!」
 アンジェリカの頭上に、其処にあるはずのない『赤い月』が浮かぶ。
 望や、魚人達がその不吉な月に気を取られた瞬間。
 アンジェリカの全身から解き放たれた強大なエネルギーの奔流が望達へと襲いかかっていく。
 バッドムーンフォークロア。
 獣人という都市伝説を、赤い月が産み出したフォークロアが呑み込んでゆく。
 そうして全てを呑み込む赤い月が消え失せた時、その場に残っている敵は最早望1人だけだった。
「私の役目は、皆様の御怪我を癒す事……回復の祈りは止めません」
 形勢を立て直すべくシエルが高位存在の意思を読み取り、詠唱で具現化させた力を癒しの息吹として放つ。
 放たれた癒しの力はリベリスタ達の傷を癒し、狂気に陥っていたリオとキリエの思考をも正常な物にしていく。
「何も言わなくて、大丈夫です……それよりも、今は」
 味方を傷つけた事で自責の念に駆られたリオをシエルは、仲間達はしかし咎めない。
 やりたくてやった訳ではないのだから。
 今は、其れよりも目の前の相手をどうにかすることのほうが重要。
 もう一度あの超音波を使われれば今度は2人じゃ済まないかも知れないのだ。
 其れを自ら体験することで誰よりも理解したキリエが即座に動く。
「彼女のワンピース、似合っていて素敵だね。貴方がプレゼントしてあげたの?綺麗な赤……まるで、血のよう」
 望にそう、問いかけながらキリエは全身から気糸を伸ばし、堅い鱗の僅かな隙間を精密に、執拗に狙い撃つ。
 望は気糸を振り払おうとするも、キリエの正確無比なコントロールによって操作される其れを振り払う事は出来ない。
 気糸が突き刺さり、飛び散った鮮血が望の手を赤く染め上がる。
「自分の手をよくご覧。残念だけれど、貴方はもう、彼女には会えないよ」
 望が自分の手のひらを見る。
「違う!」
 望が気糸を振り払い、キリエの言葉を否定する。
 其れは、まるで駄々をこねるよう。
「こちとら現実に向き合った上で戦ってんだよぉぉぉ!?」
 そんな望に、いい加減お前も現実を見やがれと赤く染まったランスを手にしたカルラが迫る。
 力任せに引き裂く事を得意とする望に対抗するかのように、全力で堅い鱗ごと一気に刺し貫く。
 望が悲鳴を上げながら転がり、痛みに悶え苦しむ。
 最早、ほとんど戦う力は残っていないのかも知れない。
「貴方が愛した人はもういない、いないんだ……!どんなに探しても、もう貴方の前に現れる事はない……!」
 身を切られるような痛みを感じながら、アンジェリカが言葉を紡ぐ。
 其れはまるで、自分自身にも言い聞かせるかのよう。
 否、自分は違う。
 自分の神父様は、死んでなんかいない。
 きっと、見つけ出せる。
「嘘だ……嘘だ、嘘だ!」
 愛した人がもう居ないなど、嘘だと望が咆哮する。
 最愛の女性が、朔乃がもうこの世に存在しないなんて信じないと。
「そうやって、逃げて、あなたは何度最愛の人を殺すつもりなのかしら?
あなたの目は何も見てはいない。運命に絡め取られ、足掻くほどに墜ちていくだけ」
 リオが、あえてきつい口調で望に言う。
「俺は、俺は……」
「自らの行いと向き合うのならその過去を抱いて、目を瞑るのならそのまま運命に呑まれて沈みなさい」
 どちらにしても、きっとそれがあなたの為だと。
「向き合ったらどうなるっていうんだ。 朔乃が生き返るって言うのかよ!そんなはずないだろう!?」
 ボロボロと、望の目から涙が零れ始める。
 自分の手を、血に染まった手を見た時。
 全てを、思い出してしまったけれど。
 でも、認めたくなかった。
 彼女のワンピースを、赤く、赤く染め上げて殺したのが自分だなんて。
「俺は認めない。 朔乃は絶対に何処かにいるんだ。俺は殺してない!」
 激昂と共に、向かってくる望を結唯のフィンガーバレットが撃ち抜いていく。
 更に、追撃を加えんと鷲祐が恐るべき神速を以って、屋敷の中を駆ける。
 床を、壁を、天井を、縦横無尽に蹴り、駆け上がる。
 蹴り崩された壁から光が差し、その眩しさに望の目が眩む。
 その一瞬の隙をつき、愛用のナイフを手に鷲祐が望を一閃した。
「お前は、そのまま光の中で逝ってくれ」
 求める恋人……朔乃は、けして闇の住人じゃあ無いはずだ。
 逝った先で、かつての日々を過ごせることを祈ると、そう言いながら。
「朔乃……ごめん……俺、お前を……」
 そう言い残して、運命に翻弄され獣人と化した望は光の中で静かに倒れ伏した。


「朔乃……?」
 朦朧とする意識の中、望が見たのは自らの傍らに寄り添う朔乃の姿。
「なんだ……戻ってきてくれたんだ。ごめんな、怖いだろ?こんな姿してて」
 首を横に振る朔乃を見て、望は嬉しそうに微笑む。
「悪い夢を観たのですか?…傍に居るからもう大丈夫」
「そう、だなぁ……なぁ朔乃」
「何ですか?」
「俺は、恨んでなんかない。裏切られたなんて思ってないよ。怖くなって当たり前だから、こんな姿じゃ」
 それだけ、君に伝えたかったんだと望は言う。
 ぎゅっと、優しく望の身体が抱きしめられる。
「ああ……嬉しいなぁ、やっと、伝えられて……」
 そのまま、眠るように望は息を引き取った。
「騙してごめんなさい」
 でも、せめて安らぎを与えたかったからと朔乃は……否、シエルは言う。
 優しい嘘に見送られ、眠る望の頬に、一滴の涙が流れ落ちる。
 涙の主は、アンジェリカ。
 彼女もまた望の魂が安らかに、愛する人の元へいけるようにと鎮魂の聖歌を歌う。
「やっぱり、裏切ったなんて思ってなかったんだね貴方は」
 そう言うのは、キリエだ。
 彼は、ずっと待っていたんだ。
「都市伝説なんかじゃあないお前の姿はずっと記憶に留めておく。俺が戦う限り」
 ――その為の神速だ、と鷲祐が眠る望に約束する。
 そうして、一つの事件は幕を閉じる。
 街を騒がした都市伝説の獣人は、最後に人として光の中へと逝く事が出来たのかも知れない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
MVPは最後に、優しい嘘で望を安らかに逝かせてくれたシエル様に送らせて頂きます。
例え、それが幻想だとしても最後に自分のやりたかった事が出来た望はきっと幸せになれたのでしょう。

それでは皆様、またお会い出来る日をお待ちしております。