●火喰い鳥は目覚める ――おなかすいたー― “ソレ”が目覚めた時、それは極自然にそう思考した。 周囲にあるのは生命力に溢れた木々。草。小さな虫達。 “ソレ”は、今まで行って居た様に食事の為に地面を啄ばみ掘り起こす。 上手く地面を泳ぐ彼を見つけ、それを何時もの様に嚥下しようとして…… 彼が燃え尽きた。 ――おかしい―― “ソレ”は疑問を感じて首を傾げる。 いつもの様に地面を泳ぐ彼を食べたのに全然美味しくない。お腹に溜まらない。 水を飲んだ時の様に乾きが潤う事も無い。 ――おなかすいた―― 溜息をついた。このままでは餓死してしまう。そんなのは嫌だ。 するとどうだろう、溜息が真っ赤な炎に変わって周囲の草むらに燃え移った。 火は怖いのに、どうしてだろう……怖くない。 むしろその炎が酷く美味しそうに見えた。 “ソレ”はとても自然な動作で嘴を開いた。 ――おいしい―― 燃える草が、“ソレ”の体内へと吸い込まれて行く。 “ソレ”は満足そうに嘶くと大きく翼を開いた。 ――あっちに、もっとおいしいものがある―― ニンゲンが乗るクルマと言う物に入れる血がある場所に向けて、“ソレ”は動き出した。 先ほど燃えた草むらから赤い火の球が二つ飛び出し、空を舞う“ソレ”の背後に付き従っていた。 ●人は守るべく動き出し 「鳥」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームに集まったリベリスタ達にそう一言告げた。 はて、と首を傾げるリベリスタの前には言葉通り鳥の画像が提示される。 「E・ビーストクワッサリーとその共生生命体でE・エレメントフレイムスピリットが二体。この三体の討伐が今回の仕事」 つづけてモニターに地図と赤い線で描かれた道筋が映る。 「E・ビーストクワッサリーとお供は郊外のガソリンスタンドに向って移動してる。到着まではまだ時間があるから、主戦場は途中にある森の中」 ここ、と指された場所は確かに森の中。 資料にはある程度高い木があると書かれている。 「クワッサリーとフレイムスピリットはその名前の通り炎を操る。森に火が出たら厄介だから、そこは注意して。天気は晴れるから、雨に期待はしない方が良い」 じゃ、頑張って。 そんなありがたい一言と共にリベリスタは仕事に就くのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月19日(木)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●人は知恵を絞る リベリスタ達は、主戦場であるとされた森に到着すると休む間もなく開けた場所を探し、それが終われば周囲の草を刈り始めた。 これは森への延焼を防ぐための防火帯作りであり、今回の戦いには必要な事である。 近くに水場は無い様だ。出来れば水場近くで戦いたいが、無い物ねだりは良くない。 それが終われば木を切り倒す班と水を撒く班。そして誘導の為の細工をする班に分かれた。 「~♪~♪」 何処かで聞いた事のある、実に馴染み深い曲調を口ずさみながら『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)が固形燃料にあれこれと細工していた。 ぐるぐは誘導班で中核を担う為に、予め固形燃料等を持ち込んでいた。 毛玉に固形燃料をねじ込み洋酒を染み込ませただけだが、今回のターゲットであるクワッサリーにはこの上ないご馳走であろう。何せ、ガソリンスタンドに貯蔵されている大量のガソリンが目当てなのだから。 木を切り倒す班で率先して動いて居るのは『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)だ。 ショットガンを豪快にぶっ放し、自然破壊をする姿は正しく怪人。その後日曜朝8時のヒーロー達に爆殺されそうな絵面になっている。 その隣で『ガンナーアイドル』襲・ハル(BNE001977) も自身のハンドガンを駆使して木を切り倒している。 訂正しよう。この二人は木を撃ち倒しているのだ。 正しく木を切り倒しているのは『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)くらいなものか。 いや、彼女もジャベリンで木を切ると言う無茶な事をしているが。 撃ち倒した木や、草を刈り取った地面などに水を撒いて行くのは『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523) とキッカ・シュワルべ(BNE002294)、そして既に偵察が出た為、空を監視しつつも手伝う事にした『Gimmick Knife』霧島 俊介の仕事だ。 事前にキッカが用意していた水を如雨露で撒いて行く仕事は、単純に見えて中々骨が折れる仕事である。 濡れた草や泥で足を取られない様に、しかし森に炎が燃え移らない様に。 その加減は思っていた以上に難しい物だ。 「来たようだ」 偵察を買って出た『捜翼の蜥蜴』司馬 鷲祐(BNE000288) が空を見上げながら戻ってくる。 やや遠くの空に赤い鳥と、赤い光の尾を引いた光球が二つ見えた。 それを確認してリベリスタ達は積み上げたダンボールと刈った草に火を点け意識を切り替えた。 ●誘導、そして メンバー唯一のフライエンジェであるぐるぐが空に舞い上がる。 手には既に火をつけた火種を乗せた銀のクロッシェ。さながら天使のメイドである。 強い熱源が近づくのに気づいたのか、クワッサリーは本能のままにぐるぐに進路を変える。 予想していた以上に速い。それは飛行速度であり、気づかれた事でもある。 くるりと踵を返すと、ぐるくは仲間達が居る方向へ全力で飛んだ。 「うふふ、捕まえてごらんなさ~い♪」 とても楽しそうな声で挑発するのも忘れない。 だがしかし、内心は焦りで一杯だった。間近で見た火喰い鳥は以外とデカかった。衝突すれば結構痛い。 辛うじて、追いつかれる前に焚き火近くまで来る事が出来た。クロッシェごと火種を焚き火に放り込んで間合いを計る。 クワッサリーは己の胃袋を満たさんと焚き火に向う。かなり速いがその分小回りは効きそうにないのが見て取れた。 地面に衝突すると思ったその瞬間、水面に上がった魚を鳥が啄ばむかの様な三日月の軌道を描いてクワッサリーが上昇した。 焚き火があった場所はごっそりと軌道と同じ様に抉れている。無論焚き火は完全にクワッサリーの胃袋に収まったのか、跡形もなく地面ごと消滅していた。 満足そうに嘶くクワッサリー。しかし、それに文字通り水を差したのは、もう一度上昇しクワッサリーの頭上を取ったぐるぐである。 やかんに入った水をぶっ掛けたのだ。 「悪戯成功!けらけら♪」 ようやく追いついたのか二体のフレイムスピリットも到着した瞬間の出来事。そこでようやく敵が居ると認識したのか、クワッサリーはリベリスタ達に襲い掛かった。 ぐるぐは慌てて後ろに下がった。 ●怒の火 水をかけられたクワッサリーの火力が一気に上がる。怒りとは往々にして力を引き出すものだ。代わりに冷静さは失われるが、本能で動く動物にとってはそれも関係ない。 先んじて動いたのはクワッサリーだ。 怒りをそのままに、火力を全開にして空中から火炎放射を行いながら滑空する。 自身への着火を防ぐ能力を持つ朱子とレナーテが前に出て、森に向う分の炎を受け持つ。両名とも盾を持っているのが幸いしたのか、森への延焼は防げた。 仲間にも着火していない。 しかしそれでもダメージは大きい。幸い持続的にダメージを受けるのは免れ、仲間に治療魔術を使える者が居る。 「……炎をどうこうの前に、短期決戦と行くか」 呟きと同時に鷲祐が間合いを詰める。狙うはフレイムスピリット。 無数の斬撃がナイフの切っ先から放たれる。 最初の数回はフレイムスピリットも見切っていたのか上手く交わしていた。しかし、眼で追える数が十を超えた辺りからその切っ先が掠り始め、ニ十を超えた所で炎の球を的確に捉え始める。 三十、四十……一撃の威力では無く圧倒的な手数で攻め立てる。 百を超えた辺りでその動きが止まる。これ以上の連打は余力を削ってしまうからだ。 大分削ったと言う手応えと共に感じた嫌な予感が身体を強制的に横へと動かした。 直後、右肩に焼けるような痛み。どうやら反撃の火炎弾が右肩を焼いたのだ。 炎はそのまま鷲祐の身体に燃え移り肉を、皮膚を焼き始める。火喰いの威力を考えればこのままで危険だ。 だが同時に、鷲祐が相手をしていた方とは別のフレイムスピリットからも火炎弾が放たれる。狙われたのはぐるぐ。どうやら共生先の怒りを感じて、その対象に追従したらしい。 「Heyピーちゃん!こっちこっち~」 言葉こそ楽しんでいる様だが内心では燃えたら終わりと焦りながら、自分に向う火炎弾を辛うじて避ける。 森への延焼は……しない。上手く水をかけた場所に着弾した。土が焦げる臭いがする。 お返しとばかり、気で紡がれた糸をクワッサリーに伸ばす。 オレンジ色の美しいと言える翼の片方を貫き、クワッサリーが嘶く。痛みを感じているが故の咆哮。怒りは完全にぐるぐに向いた。 「どかーん!すどーん!」 擬音だけで構成された気勢を発しながら、猛スピードでキッカが突撃する。 最高スピードから残像を残すほどの際加速を重ねたレイピアがフレイムスピリットを貫く。 発声器官があれば絶叫して居るであろう程のダメージを受けて、フレイムスピリットがびくりと震える。 「熱いの嫌いなんだよ!」 文句とも絶叫とも付かない言葉を吐き出しながら、聖なる光で敵を焼き払う。 光が広がり、それがクワッサリーとフレイムスピリット達に到達すると衝撃を受けた様に仰け反る。いや、フレイムスピリットは明滅しているだけだが、効果はあった様だ。 「まあ、お腹空いただけの相手を撃つというのも気は引けますが」 「クワッサんを逃がせばガソリンスタンドがピンチだからね」 強烈な閃光に眼が眩んだのか、ハルと九十九の三丁の銃の射線から飛び退く事が出来ない。 ぐるぐとの追いかけっこの間に、既に十分な集中をしていた九十九が切り刻まれ、光に焼かれて虫の息のフレイムスピリットを完全に吹き飛ばした。 ハルの二つのオートマチック拳銃が正確に翼を打ち抜く。その一撃、いやニ撃で既に翼に傷を負っていたクワッサリーが高度を維持できずに地面に降りた。 ――クアァァァァ!!―― 嘶く。それは怒りであり痛みであり、疑問。 しかし獣が人の言葉を理解出来ぬ様に、獣の言葉を人が理解する事は出来ない。 「……行きます……」 急速に間合いを詰め、ジャベリンに気を集めた朱子がまだ無事なフレイムスピリットを叩く。 強烈な薙ぎ払いがフレイムスピリットを野球のボールの様に捕らえ、吹き飛ばす。クワッサリーとの距離が開いた。 「そう簡単に餌はやらないよってね」 レナーテから神々しい光が発せられる。 邪気を払う光が、鷲祐を蝕む邪悪な炎を駆逐し消滅させる。 これで火喰いを受けるリスクが無くなった。 しかし、油断は出来ない。 その証拠に、今一度とばかりにクワッサリーが嘴を開く。 ぐるぐと首を動かせば狙えるであろう俊介に向けて、再度火力を最大にした火炎ブレスが吐き出される。 それに反応して朱子とレナーテが庇う。盾を前面に出し、自分へのダメージを最小限にしようと試みながら二人は炎に呑まれた。 ――あのニンゲンたちはもえない―― 悔しそうにクワッサリーが嘶く。 その悔しさを汲み取ったのか、まだ無事なフレイムスピリットが火炎弾を放つ。狙うのは射程内に捕らえた俊介だ。 向ってくる火炎弾をぎりぎり紙一重で避け、尚且つ水をかけた場所に着弾させると言う芸当をやってみせた俊介は高らかに詠唱した。 何処からともなく、神々しさを感じる音色がリベリスタの耳を打つ。 その音色が進むにつれ、負っていた火傷が戻り痛みと疲れが引いていく。完全、とは言わないがそれでも大分楽になった。治療魔術は偉大である。 「もっかいどかーん!」 無数の残像で幻惑しながらキッカが突っ込む。フレイムスピリットが火炎弾を放った後にじりじりとクワッサリーに近づいていたのを感じ取ったのだ。 此処で仕留める、と言う強い意志と共に繰り出されたレイピアがフレイムスピリットの中心部を貫く。 しばし明滅を繰り返したフレイムスピリットは急速に萎んで跡形も無く消え去った。 「今日の夕食だ……ッ!!」 大分欲望に塗れた気合を発し、鷲祐も続く。今のメンバーの中でもっとも足が速い鷲祐はあえて行動を遅らせクワッサリー背後を取る隙を伺ったのだ。 今一度、ナイフが乱舞する。無数の斬撃がクワッサリーの主に下半身を狙って繰り出される。 見えていないのも含め、確りとしたダメージを与えた感触が手に返ってくる。しかし、それでも足を両断するには足りない。 それに合わせてぐるぐの気糸と九十九、ハルの銃がクワッサリーの翼を打ち抜く。三人の攻撃が集中した翼は、エリューションの一部と言えど破壊は免れない。 大きく千切れ飛び、クワッサリーを地面に引き釣り降ろす事に成功した。 地面に降り立ったクワッサリーを待っていたのはジャベリンを大きく振りかぶった朱子だった。 溜め込んだオーラが球体状にアッシュされ、穂先に宿ったジャベリンを全力を持って振るスイングする。 狙い違わず、もはや空を飛べると言う利点が無くなったクワッサリーには避けるだけの力も残っていないのかもしれないが、ともかくその一撃はクワッサリーの身体に叩きつけられた。 肉を咲き、骨を砕く感触を腕に感じながらも朱子は冷静に後ろに下がる。 手負いの獣ほど恐ろしい物は無い。最後の悪あがきで手痛いダメージを食らうのを防ぐ為だ。念の為にと言う物であるが相手は常識の外に居る生物だ。 朱子と入れ替わる様に、レナーテが前へと進む。両手に構えた盾を振りかぶり、己の体重と膂力を一杯に乗せた一撃をクワサリーへと叩き込む。 既に身体の骨に罅が入っていたのか、その一撃を受けてクワッサリーの身体から骨の砕ける音が大きく響いた。 レナーテの手にも、その感触が伝わり流石に眉を顰めた。 クワッサリーは、暫くじたばたとのた打ち回り、吹けば飛ぶ様な弱弱しい火を吐き出して居たが、その火ではリベリスタ所か草にも火が点かず弱弱しく嘶くと、そのまま動かなくなった。 最後の嘶きが妙に遠く響き……戦いは終わった。 ●勝利、そして 「唐揚げに……できないか?」 鷲祐が俊介の治療魔術を受けながら言う。腹が減っているらしい。 リベリスタの受けた傷は存外深かった。それでも重傷者を出さず無事にに済んだの僥倖だろう。 「いや、やめとけって司馬兄ちゃん」 流石に俊介がツッコむ。 今だかつてエリューションを食べた人物は居ない……はずである。 こんな所で世紀の実験? をするのも気が引けた。 クワッサリーの死体は無残な結果となっている。それを抱き上げながら九十九が仮面の下で何を言っているんだと言う顔をした。 「腹を壊しますぞ。それよりも埋葬致しましょう」 そう言って、九十九はクワッサリーが抉った地面の底に死体を横たえる。 最後の嘶きが耳に残っている。まるで何で死ななければならなかったのか問いかけた様に聞こえたからだ。 「良かった、無事だった」 愛用のヘッドフォンが無事だった事に大きな安堵を感じつつ、レナーテが言う。 二代目に襲名したばかりのヘッドフォンである。三代目襲名はまだ早い。 「流石のぐるぐさんも冷や冷や物だったね」 何故か自慢げに小さな胸を張るぐるぐ。 確かに、延焼させずに避けられたのは中々出来ない。 とは言え、そこかしこに火傷が出来ている。後できっちり治療してもらう心算だが。 「森も無事だったしね。水持ってきて正解!」 キッカが勝利の余韻に浸りながら嬉しそうに言う。 直撃は危険だが、延焼も危険。水を持ってきて確かに正解だった。 予想以上に火力が強かったのは……まぁ、言及しない方が良いだろう。 「……大きな怪我しなくて良かった……」 こちらは朱子。最近怪我をするのが多かったのだが今回はダメージらしいダメージ等無かった。強いて言えば、草刈りが予想以上に疲れた事くらいだろう。 ともあれ…… 「ともあれ、無事に終わったし治療が帰りましょう」 全員が全員、多かれ少なかれ火傷を負っている。 特に肌を見せる服装をしているハルには、乙女的に色々とピンチである。 こう言う時、治療が出来る仲間が居るのは有り難い。 ハルの一言に、リベリスタ達は笑顔で頷く。 そして、夕日が沈む中一同は帰路につくのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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