●猛る風と禍ツ鬼 岡山県、『鬼ノ城』。 元はその名を冠した記念公園だった。だが、いまや、日本を脅かすアザーバイド『鬼』の本拠地、鬼道が城と化していた。ここはその一室。過去に略奪した宝で飾り立てられた豪奢な部屋。人の脂を用いた蝋燭を明かりとする、風鳴童子の部屋だ。 「くそっ、人間共め……。あいつら貧弱な生き物の癖して、ボクに怪我させるなんて……!」 「ギギギ」 中には配下の鬼が立ち並び、その内2匹が風鳴童子の怪我の治療を行っている。『逆棘の矢』争奪戦の中で、童子が負った怪我は決して浅くは無い。童子の性格上、人をいたぶるのが好きなだけで、実際の所は四天の鬼の中で、身体は決して強い方では無いのだ。 「キシシ、ご機嫌斜めじゃねぇか、風鳴ィ」 「何しに来たんだよ、禍鬼」 手元にあった、人の頭蓋を使った盃を投げる風鳴童子。禍鬼はそれを避けようともせず、中に入っていた赤い液体が、彼の顔を染める。しかし、それをペロリと舐めると、童子の傍に近寄る。童子の護衛をしていた鬼達は、黙って状況を見守る。四天の中でも取り分け性質の悪い2人の争いに巻き込まれたくないからだ。 「お前の見舞いだよ。聞けば随分と苦戦したそうじゃねぇか」 「『逆棘の矢』の回収を優先しただけだ。普通に戦っていれば、あんな奴ら!」 一層不機嫌そうな表情を浮かべる風鳴童子。その言葉はあながち間違いでもない。なんのかんので1400年前は『温羅』の下で『吉備津彦』との戦いに臨んでいた鬼なのだ。もっとも、この度の件で童子が負傷したのは、童子自身の慢心によるもの以外の何者でもなく、やられていた可能性もあった訳だが。 「そりゃそうだよなァ。風鳴童子サマともあろうものが、あの程度で終わるなんてあり得ねぇよなァ」 「何が言いたい?」 「そう気を悪くするなよ? 俺はこう見えてもお前を買っているんだゼ?」 訝しがる風鳴童子に対して、大仰な身振りを交えて話す禍鬼。 「『逆棘の矢』は俺達が握った。これで温羅様も気兼ね無く、人間共の世界への侵攻を再開出来るってもんよ。だが、悲しいかな。一番手を取るはずだった、豪鬼は眠ったまま。他にも封印されたままの実力者は多い。そんな中で、先陣を切れるような鬼なんざ、誰がいる?」 ここで言葉を切る禍鬼。そして、一拍置いてから、風鳴童子に息も掛かるような距離へ顔を近づける。 「俺はな、お前しかいないと思っているんだよ、風鳴。四天一の実力に加え、温羅様に対する忠誠心。どれを取っても、不足は無ェ」 「分かっているじゃない」 機嫌を直して笑う風鳴童子。その直前に端正な顔が歪んだように見えたのは気のせいだろうか。 一方、禍鬼は気にせずに言葉を続けている。 「そんな訳で、出陣の時は近いってこった。早い所、怪我を治しておこうぜ、キシシ」 「あぁ、見舞いに来てくれてありがとう。今度、礼は必ずするよ」 最後にいつもの笑い声を上げて去って行く禍鬼。 そして、それを機嫌良さそうに見送る風鳴童子。 風鳴童子配下の鬼達は、何事も無く終わった奇跡に感謝し、ため息をつ……こうとした時だ。 バリバリバリバリ!! 風鳴童子の手から放たれた雷が壁を焼く。 「ギギ!? ギギ!?」 「禍鬼ィィィィィィィィ!!」 気分屋の主の機嫌が失われたことに慌てる鬼達。心の中で烏ヶ御前の所へ行きたかったと思う。 風鳴童子は気付いていた。禍鬼の言葉が、上っ面だけのおべんちゃらであることに。言葉の底に淀む悪意に。大方、それで上手く自分を動かそうとしていたという所だろう。 あえて乗った振りはしてやった。だが、あんな奴が温羅様の傍にいることは我慢出来ない。 そう、偉大な王である温羅。 男とも女とも知れぬ異形の身に生まれ、鬼達の中で虐げられ、弄ばれていた自分。 そんな自分に、強ければ弱い奴に対して何をしても構わないという真理を示してくれた偉大な方だ。 それが不完全な今、守れるのは自分だけだ。 「赤角(しゃっかく)! 蒼角(そうかく)! 鬼将(きしょう)! 来い!」 よく通る風鳴童子の声に応じて、3匹の大柄な鬼が姿を現わす。 「ひゃっほう! 童子様、いよいよ俺を使ってくれるんですかい?」 「何の用でございましょうか?」 「ギギ!」 赤い肌の大鬼、青い肌で僧服を纏った鬼、全身を鎧で固めた鬼。 いずれも劣らぬ威丈夫達。風鳴童子の護衛を務める鬼達である。 「そういうことだ。直に鬼道の進軍が始まる、その前に準備を進めておくんだ。禍鬼の奴に目にもの見せてやる!」 「「ハッ!」」 「ギギッ!」 風鳴童子の命に従って、部屋を出て行く鬼達。風鳴童子は苛立ちを抑えながら、怪我の治療に専念することにした。 「ふぅ、餓鬼を使うのも楽じゃ無いぜ」 風鳴童子の部屋から聞こえてくる爆音を耳に禍鬼は呟く。やはり、あの程度の悪意を察する感覚はあるようだ。 だが、これで『予定通り』、風鳴童子は自分に対する反発から、本来の戦い方をしてくれるだろう。あのままでは怒りに任せて独断専行しかねなかった。しかし、こうなれば、そう簡単にリベリスタ共に遅れは取るまい。これで自分の仕事が楽になるというもの。 そして何より禍鬼としては、同族である鬼から受ける怨嗟の念が心地良くてたまらない。 「頼むぜェ。楽しい悪意をばら撒いてくれよ? キシシシシシシシシ」 鬼道との決戦は、近い。 ●決戦の風が吹く 温羅への切り札になる『逆棘の矢』の争奪戦は完全な勝利にはならなかった。 そして、その数日後、リベリスタ達は『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)の下へと呼び出された。集まったリベリスタ達は、既にこれが『鬼』に関係する何かであることに疑問を抱いていない。 「まず、最初に言っておく。『万華鏡』が鬼の大規模侵攻を予測した。おそらくは、以前のものよりも大規模になるはずだ」 守生の言葉にどよめく一同。 リベリスタも全力を尽くしたが、鬼達の力は予想以上に強大だった。アークが手にした切り札、『逆棘の矢』は2本。それだけ矢には意味があるという証明なのかも知れない。ともあれ、一定以上の作戦成果は上がっている。 その一方で、力を蓄えた鬼達は、再び人間社会に対して仇為そうとしているのだ。当然、あの暴挙を……それ以上の暴挙を繰り返させる訳にはいかない。彼等が動き出す未来を知ってしまった以上、アークは覚悟を決めるしかない。現時点において温羅に対する対策は完璧ではなく、状況は混沌としているがそれでもだ。アークは決戦に踏み切る事を決断した。 「そこで鬼道の本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破を目的とした作戦が始動することになったんだ。鬼ノ城自然公園に出現した巨城は堅牢な防御力を誇るだろう。簡単な戦いになる筈も無いがやり切る他は無ぇ」 色々と感情を噛み殺しているような表情の守生。色々思う所はあるのだろう。 それでも、説明に徹する守生。彼が機器を操作すると、スクリーンに『鬼ノ城』近辺を示す戦略図が示された。それによると、まずリベリスタの障害になるのは四天王『烏ヶ御前』率いる部隊だ。彼女と彼女の配下達は『鬼ノ城』に敵を寄せまいと積極的に迎撃に出てくるだろう。彼女と彼女の部隊に対してどういう戦いを見せるかで城外周部における安全度が変わってくる。エリアを制圧する事が出来れば後方回復支援部隊による援護効率が向上し有利な状況を作りやすくなるはずだ。 第二の難関は城門だ。ここでは同じく四天王の『風鳴童子』がリベリスタ達を迎え撃つ。攻城戦において有利は常に守備側にある。地の利を持つ童子と童子の部隊は精強な抵抗を見せるに違いない。 城門を突破しても安心は出来ない。御庭では鬼の官吏『鬼角』率いる精鋭近衛部隊が戦いの時を待っている。城門と御庭のエリアを制圧すれば鬼ノ城本丸への進撃が効率的になり、敵の強化が解除される。 そして本丸下部の防御を受け持つのはあの『禍鬼』だ。何を考えているか分からない奴だが、手強い敵なのは間違いない。 「『温羅』との決戦に臨む部隊の余力を温存出来るかどうかは各戦場での勝敗にかかっている。無茶なのは分かっている。だけど、頑張って欲しい」 そして、『風鳴童子』、『鬼角』、『禍鬼』はそれぞれあの『逆棘の矢』を所有している。彼等の撃破に成功すればこの矢を奪い取る事が出来るかも知れない。エリア制圧同様に、重要な作戦目標だ。 「あんたらに向かってもらう戦場は、風鳴童子が護る城門だ。ここにはアークを迎撃する鬼達が守りを固めている。だけど、ここを攻略できれば、進撃の効率化が図れるはずだ。よろしく頼む」 城門攻略の作戦はこうだ。 城門には風鳴童子を中央とし、右手と左手にある櫓にも兵がいる。さらに城門前にも陣が敷かれ、そう簡単に攻められないようになっている。 そこで、取る作戦は中央突破だ。真っ向からの大勝負になる。その際に、櫓にも兵力を差し向けて、中央突破に集中できるようにしなくては行けない。櫓の兵を放置すると、後背を突かれ不利になる。しかし、中央の敵は一番多いので、十分な数がいなければ、そもそも突破作戦を成功させることは叶わないだろう。 「他の作戦も検討しているが、基本的にはこの方向性で行く。悔しいが『鬼ノ城』の防備は完璧だ。変に奇をてらうよりも、正攻法で攻めた方が被害は少なくて済むだろうと、本部は判断した」 そして、城門を護る風鳴童子を討ち果たせば、『温羅』を討伐出来る可能性は高くなる。逆に失敗すれば、全体を危うくする重要な戦いだ。当然、逃げるわけには行かない。 「説明はこんな所、後は資料にある通りだ」 説明を終えた守生の顔はいつも以上に険しい。思えば彼がアークに来て初めてになる、大規模の戦いだ。だから、あえて強く意志を持ち、いつものように振舞う。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月14日(土)22:44 |
||
|
||||
|
●インターミッション/鬼ノ城‐1 「して、数はどれ程だ?」 「ハッ、正確な数は不明ですが、恐らくは総勢400は下らない数かと」 「クソッ、リベリスタ共め、忌々しい……」 蒼角の言葉に細い眉を歪めて怒りを示す風鳴童子。 櫓の1つから報告があったのだ。革醒者の軍勢が攻めて来たと。あの城壁を統括する鬼は、虚偽の報告をするような鬼ではない。おそらく人間共は、鬼道の動きを察知して、先んじて攻撃を仕掛けたのだろう。 「……今も昔も、変な奴らを飼っているのか」 過去に何度か、痛い目を見せられたことがある。こちらの動きをある程度予見できるのだ。そして、鬼角辺りに使わせたら面白そうと思ったが、捕えると舌を噛んで自害してしまったのを覚えている。 「良いだろう、向こうから来たならかえって好都合ってものさ」 ぞっとするような笑みを浮かべる風鳴童子。その顔は悪戯を思いつく子供のようであり、まさしく地獄の鬼のようでもあった。 「鬼将、既に兵は集めてあるとのことだな?」 「ギギ!」 風鳴童子の言葉に頷く鬼将。愚鈍な印象を与えるが、鬼の中でもそれなりの力を持つ将軍。こと、兵を率いる点に関しては、誰よりも得意だ。そんな彼は、革醒者襲来の報を聞くと、すぐさま兵の編成を急がせた。お陰で鬼の戦闘準備は万端だ。金棒を使う雑兵、弓部隊、呪術師、盾持ち鬼、果ては飛礫部隊に指揮官級の軍鬼にまで命令は行き届いていた。 しかし、風鳴童子の表情はどこか浮かない。風の中にやな気配を感じ取ったからだ。これは単に、鬼道の出鼻を挫こうという攻撃では無い。これは決戦だ。リベリスタ共は、鬼道と雌雄を決することを決めたのだ。 「赤角、砦の守備には誰が回れる?」 「任せて下せぇ。烈鬼、朱角、黒眼も出てきやす。あいつらを破れる奴なんざ、早々いやしねぇ」 自信満々に胸を張る赤角。しかし、風鳴童子の顔は晴れない。たしかに、今挙がった鬼は歴戦の兵だ。だが、数が足りない。今回はそんな予感を感じる。これは……吉備津彦と戦った時にも感じた風だ。 「ナナオは動いているな?」 「御意に」 「桐姫殿、それに塵輪鬼殿にも出てもらうぞ。あの女達もいれば磐石だからな」 「か、かしこまりました」 答えながら、赤角と顔を見合わせる蒼角。自分達の主がここまでの警戒を見せることは珍しい。と言うか、桐姫と塵輪鬼に頼るなどとは思いもしなかった。あの尊大で傲慢で女嫌いな童子が、このように言うなどとは、まさしく青天の霹靂だ。 そして、控える三鬼に指示を与えると、風鳴童子は砦の城壁に向かって飛び立つ。 「禍鬼の奴……ボクを二度と侮れない様にしてやる」 風鳴童子は城壁に降り立つと、部下の前で取り繕っていた仮面の底の表情をチラリと覗かせる。 これも本音なのだろう。 今、この逆境を乗り越えることで、他の四天との差を見せ付けたいのだ。それこそが、自分が『温羅』の一の部下である証左だと思っている。 「いいか! お前ら! 此処に来る敵をボクの元に辿り着かせるなよ!」 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」 風鳴童子の飛ばす檄に、鬨の声を上げて答える鬼達。 幼い姿の鬼ではあるが、さすがは四天である。これだけの鬼を、ここまで昂ぶらせる鬼はそういない。 叫ぶ鬼達を見て、童子は溜飲を下げ、ほくそ笑む。 (人間共、蟻のように集まってきたな。だったら、纏めて虫けらのように踏み潰してやる。覚悟しておけ!) 風鳴童子の手に握られるのは、『逆棘の矢』。 これがある限り、人間共は退くまい。 だが、自分こそが最高の保管場所であり、最高の防備だ。 返り討ちにしてやる。 『逆棘の矢』を胸元に仕舞うと、代わりに童子は宝具「鬼神楽」を取り出し、そっと口を当てる。 戦場に響き渡る笛の音。 それは持ち主の性情とは裏腹に、静かでどこか切ない。 これは『温羅』への忠誠の調べ。 風のように激しく、風のようにまっすぐな鬼が、刹那に見せた胸の内。 そして今、決戦が始まる。 ●BATTLE/城門前‐1 遠くから剣戟、爆発音、そして怒号が聞こえてくる。 どうやら、アーク本隊と『烏ヶ御前』率いる遊撃部隊の戦いが始まったようだ。 そして、城門前に辿り着いたリベリスタ達は、いよいよ鬼の軍勢との距離を詰めることとなっていた。個人レベルの戦闘であるのならば、まず敵との間合いを計り……となるのだろう。 しかし、これは攻城戦。 リベリスタ達が中央の陣を突破するために向かった人員は50人。 鬼の陣にはその倍近い人数がいる。 そのような状況では、ひたすらに刃を交えるしかない。 「数が多いっていうのなら、手伝っていこうか。後には引けない戦いってやつだよね。やるしかないよねえ?」 ゆるりとした口調で仲間に声を掛ける『怠惰なスナイパー』木島・なると(BNE001258)。その言葉は戦闘直前の緊張感とは程遠い。だが、それで良い。これが彼のスタイル。これこそ、彼が最大の力を発揮出来る状態なのだ。 「鬼ノ城での優位を確保するためにも、城門をこじ開けさせましょう」 「こんな時ですけど、嬉しいです。ミュゼーヌさんのそばで、一緒に戦えるんですから」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)と七布施・三千(BNE000346)は、そっと互いを見詰め合う。戦場の最中で想いを通じ合わせる2人。傍らに心から愛する人がいてくれるならば、恐れる事は何もない。 そして、その時間は終わりを告げる。 リベリスタ達が射程内に入るや否や、鬼達の応戦が始まったのだ。 鬼の軍勢から、一斉に矢が降り注ぐ。夜闇の中にあっても、それはくっきりと映り、一昔前のアクション映画を髣髴させる景色であった。 しかし、鬼にとっての射程とはリベリスタにとっての射程と同義である。 黙って矢を喰らうような親切なリベリスタ等、そんなにいない。そして、ここに集ったリベリスタは、そういう意味で多数派に属していた。 リベリスタの放つ、弾丸の雨が、真空の刃が、無数の光が、鬼の陣地に吸い込まれていく。これこそ、まさに神秘世界における戦の景色である。 「さってと、相当好き放題やってくれたみてぇだし、燕さんも鬼どもにお礼参りに行くとすっかね」 流れる水のように舞い、蹴撃からの一撃を鬼卒に見舞った【猟犬小隊】の1人、『鋼鉄の渡り鳥』霧谷・燕(BNE003278)は、不敵に笑みを浮かべる。 「前にヤツらが侵攻してきた時、守りきれなかったからその仕返しに来たんだ。やられたらやり返すのがウチの流儀なんだよね」 鬼達を覆うように暗黒の瘴気が現れる。 『紅翼の自由騎士』ウィンヘヴン・ビューハート(BNE003432)の仕業だ。彼女は己の闇から生み出した武器防具に身を包み、その称号にふさわしい姿になっている。 目覚めたばかりの鬼達による、無差別な襲撃事件。 『禍鬼』が引き起こした、鬼達の封印を解き放つための鬼道の驀進。 出た被害はとても大きい。 経済的な被害に留まるものでは無い。 多くの人間が命を落とした。 そして、それ以上に多くの人間が涙を流した。 アークが手を出しあぐねている間に、鬼道は力を付けていった。 だからこそ言える。この時を待っていた、と。 「する事はいつも通り、すべき事を歯車のように」 『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は、パイルシューターを撃ち尽くすと、すぐに杭を込め、撃つ。やることはいつも通り。そして、アークが城門を制圧するまで撃ち続けるだけだ。 そうしている間に、鬼卒達がリベリスタ達の中に切り込んでくる。 たしかに、接近戦を得意とするものは少ない。鬼卒達も嵐のような攻撃の中でいずれは倒れるにせよ、リベリスタの耐久力にも当然限界はある。 だからこそ、『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)は最前線に立った。 「ここは抑えます。先へは行かせません」 そして、仲間に切りかかろうとしていた鬼卒に、炎の拳をお見舞いする。 「ギャギャギャ!」 「キーッ! こ、こんの筋肉ダルマ……! 只でさえ美しくないってだけで万死に値するのに! 私を撃ち抜いていいのは美少年の視線だけだってぇの!」 「ギーッ!」 その時、後方で声が上がる。『茨の魔術師』リアナ・アズライト(BNE002687)のものだ。 鬼卒の攻撃に晒され、ヒステリー気味に雷を撒き散らす。 鬼卒の鳴き声が、抗議のように聞こえるのは気のせいだろうか? そして、鬼との戦いの中で、傷ついたリベリスタが出てきた時だった。戦場に癒しの息吹が顕現した。 中心部にいるのは、【境界線】の1人、『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)。彼女のスキルがリベリスタ達を癒して行ったのだ。 「ありがとう、とら。大丈夫かい?」 スキルの使用に消耗したとらと精神を同調させ、『不機嫌な振り子時計』柚木・キリエ(BNE002649)がその疲れを拭い去る。それにとらは微笑んでお礼を返す。 「ありがと。ねぇ、ここつまんないし、早く終わらせて温羅のとこ行こう? とら、温羅の首持って帰って、魔よけ代わりにお部屋に飾るんだ~」 「そんなこと言っている場合では無さそうですよ。アレがこの陣の指揮官、鬼将ですか」 『むしろぴよこがヤンデレ』立花・英美(BNE002207)が目を凝らす先には、全身を鎧に包み、強弓の弦を引く鬼がいた。とらの挑発に乗った、ということなのだろうか。まっすぐ、彼女らを狙っている。 そして、矢は無言で放たれる。 それは風を裂き、空を震わせる。 矢が刺さったら、というのは正しい表現ではあるまい。矢が『ぶつかったら』、たまらず少女の身体は弾け飛んでしまうように思われた。 しかし、それは現実の光景とはならなかった。 矢がとらに向かう直前、マントを羽織った少女がその身で防いだからだ。 その姿に、感心したような仕草を見せる鬼将。 そして、防いだマント姿――『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)――は、鬼将に向き直ると、高らかにその名を名乗った。 「イージスの盾、ラインハルト・フォン・クリストフ。鬼将殿、失礼ながら足止めさせて頂くので有ります」 「破壊するばかりで管理能力もロクに持たない連中に、俺たちの世界を渡すわけにはいかない」 『ミスター・パーフェクト()』アウラール・オーバル(BNE001406)もまた、鬼将に堂々と宣戦布告する。仲間を守り抜く、それこそがクロスイージスの矜持、本懐である。ラインハルトの場合、同じ全身鎧姿の鬼に対して、親近感を抱いたのかも知れない。 「鬼将、その腕、敵ながら尊敬に値します。けれどあなたの弓は私に届かない。アウラさんが私を護ってくれる。絆が私を護り、敵を討つ力となる」 英美の言葉に、鬼将は無言で弓を仕舞うと、もう1つの武器である金棒を構える。言葉は通じずとも、その魂を感じ取ったのだろう。 人と鬼、その道が交わることは無いのだろう。 それぞれ、あまりにも生き方が違い過ぎる。 そんな者達が出会えば……戦いは避けられない。 だから、鬼将は何も言わない。自身が奉じる、鬼の道を突き進むだけだ。 アウラールはそれを感じ取った。 だから、アウラールは語りかけた。自分の道を進むために。 「あんたに悔いなどないだろうが……心持つ相手と思うからあえて言う。これから与えられる痛みや苦しみは、自らの選択の答えに他ならない」 ●BATTLE/櫓(左翼)‐1 一方その頃、左翼の櫓にあってもリベリスタと鬼達の戦いは既に始まっていた。 この戦場の在り方を表現するのなら『いちめんのなのはなとゆれるきんにく』と言ったところであろうか。そんな、華やかさと男臭さが拮抗する、不可思議な空間であった。 「まずは城門を突破だよ、遅れないようにね? さぁ、なのはな荘軍団、出陣なの!」 「おー!!」 戦場に似合わない、明るい声で集まった【なのはな荘】のメンバーに呼びかけるのは、『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)。その声は、鬼道との日本を賭けた戦いの中にあって、一際輝いている。 「野郎共! 城門を守りきるのが俺らの仕事だ! 鬼の力、見せ付けてやれぇぇぇッ!!」 「オォォォォォォォォォッ!!」 櫓の上から、鬼の幹部の1人である赤角の声が響き渡る。如何にもと言った雰囲気の巨躯から出る声は、間近にいたのならば吹き飛ばされてしまいそうな迫力がある。加えて、ガタイの良い鬼達の声が唱和してくるのだ。並の人間だったら、泣いて帰っても許されるレベルである。 しかし、それ程の威圧感に晒されながら、涙を流して戦場に留まっているものの姿もあった。 「それにしても……お嬢立派に指示を出しながら戦ってるっスね。……安心したっス。次回はコッソリじゃなくても良いっスかね……?」 「お嬢かわゆいよ! お嬢! お嬢かわゆい! まじ天使! お嬢ホント可愛いわぁ……ちょ、ちょっと位なら持って帰っても良いわよね……」 『忠犬こたろー』羽柴・呼太郎(BNE003190)と羽柴・美鳥(BNE003191)の2人だ。 物陰に隠れてルーメリアの姿を見て、感動に打ち震えていた。ストーカーの一種と考えても差し支えないような気もして、泣いて帰っても許さずに良いのでは無いかと思わせてくれる。 「何をやっているんですか、しっかりして下さい」 そんな2人にツッコミを入れつつ、『Average』阿倍・零児(BNE003332)は抜き打ちで、的確に相手の金棒を狙っている。効果はあったり、なかったり、平均的な成果といえよう。 その時、戦場を赤い光が照らす。 空に赤い月が浮かんだのだ。 崩界の兆しを告げる赤い月。 それはあたかも、かつて三ツ池公園で行われた死闘の夜の再現のように思われた。 だが、違う。 これは人の手によって作り出された偽りの月。 『第19話:戦場カメレオン』宮部・香夏子(BNE003035)が鬼を倒すべく呼び出したものだ。 現れた月がもたらす呪いの前にいくばくかの鬼が倒れていった。それを見て、香夏子は戦場のど真ん中に座り込む。 「ふぅ……なんか戦ったら疲れたので休んでて良いですか?」 「ダメなの! ほら、これで疲れは取れたでしょ?」 そんな香夏子を叱咤し、立ち上がらせると、『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は彼女の気力の疲労を癒す。最近、依頼においてはこんなことばっかりやっている気もするが、このように大規模かつ長期の戦いにおいて、その存在は極めて重要だ。 そして、大事な補給線を守るのは、前衛の仕事だ。 「ウォォォォォォッ!」 唸りを上げて鬼卒が金棒を振り下ろす。 しかし、その一撃は見えないエネルギーに弾かれるようにして、食い止められてしまう。 「これ以上、もらったら危ないので、助かりましたね」 『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)は、傷だらけの身体を押さえながらほうっと息をつく。丈夫な方だと自負しているが、やはり敵は強力だ。防御の上からでも容赦無く、攻撃が降り注いでくる。 なればこそ、凌いでみせる。少なくとも『女好き』李・腕鍛(BNE002775)はそういう類の人間だった。 「これは厳しいでござるなぁ。でも、久嶺殿は守れるでござるから安心して欲しいでござるよ。称号女好きは伊達じゃないでござる」 女好きの名に恥じぬよう、女性を守る。それがたとえどんなに過酷な戦場であっても。 それが腕鍛の矜持だ。 そして、庇われる『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)も、ただ庇われるだけの少女ではない。 「先で待ってる親玉のためにも、こんな所でぐずぐずしてられないわ。ほらほら、さっさと道を開けなさい! 城門なんかぶっ飛ばしてやるわ!」 高圧的な言葉と共に、断罪の弾丸が飛び交う。それは久嶺に逆らう者達へ下される、絶対的な判決。 そして、それと並び立つように1人の少女が櫓に向かって声を張り上げる。 「アナタ達もヘクス達を倒したいでしょうが……ヘクスが護ります。ヘクスが庇います。この絶対鉄壁が守ります。さぁ、砕いて見せて下さい。ねじ伏せて見せて下さい。そして、絶望するがいいです。ヘクスの硬さに!」 『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)の声は、果たしてその直前まで炎を吹いてリベリスタを牽制していた赤角の耳に届いた。 赤角は不敵な笑みを浮かべると、横にいた鬼卒達に預けていた巨大な刀を手に取る。 「楽しいこと言ってくれるじゃねぇか、人間。俺ァ、そんなお前らが大好きだよ」 そして、ひょいっと櫓から降りると、リベリスタ達の前に堂々と姿を晒してくる。 「中々に良いもん見せてもらった。アァ、これなら俺も本気が出せるってもんだ!」 鬼の顔に迷いは無い。現れた好敵手達の存在に、興奮が隠せないといった風情だ。 先程のように声を出さずとも、それ以上の威圧感を全身から発していた。 「それじゃア、今度は俺達の番だ。楽しませてやるぜ、人間共」 ●BATTLE/櫓(右翼)‐1 「これが本当の戦場、ですか。こ、こんなにも怖いものなのですね」 『残念ナイト』シルヴィア・八雲(BNE003439)は自分の身体を抱きしめるかのように身を竦める。 右翼に展開された櫓近辺は、他の戦場と比べて明らかに異様な光景であった。 響き渡る呪詛の念。 鬼達の呪力に歪められ、真っ赤に変色した草花。 地獄とはこのような景色なのだろう。 あるいは、鬼達がやって来た元のリンクチャンネルは、このような光景だったのかも知れない。 そして、この中でリベリスタと鬼達は戦っていた。修羅の世界を思わせる光景に、シルヴィアの身が震えてしまうのは、致し方無いだろう。それを見て、『気紛れな暴風』白刃・悟(BNE003017)は元気付けるかのように明るい声を出す。 「大決戦だねー、気力を高めて頑張っていこう! 気合いれて頑張るよ!」 「そ、そうですね。諦めない限り真の敗北はないのです! 全力で立ち向かうのみです!」 悟の言葉に元気付けられるシルヴィアは、いつもの口癖で己を鼓舞する。ここで逃げ出すことは簡単だ。周りが戦っている間に、自分だけすたこらさっさと去ってしまえば良い。 だが、もしアークが敗北を喫してしまえば、どうなるか。 鬼道の邁進を止められるものは、今度こそいなくなってしまう。 自分達を封じていた人間への復讐として、そして、自分達の世界を作り上げるために、鬼達は喜んで人間社会を破壊し尽くすだろう。 もし、ここで戦って救える命があるなら、誰かの為になるなら。 だから、リベリスタ達は戦場に立つ。 「さあ鬼達、黄泉路へ向かう時だ。その道は私がこの刃で照らすとしよう」 「鬼さんこちら~、手の鳴る方へ~、ですよ~」 世界から借り受けた生命の力と共に、『闇夜灯火』夜逝・無明(BNE002781)は直刀を振り下ろす。先程、仲間の鬼に対して、癒しの祈りを捧げていたものだ。 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)はのん気な声で、多数の分身と共に、舞うような動きで鬼達を切り刻んでいく。幻影に惑わされた鬼は、同士討ちを始めてしまう。 こうして、ゆっくりと鬼達は数を減らしていった。しかし、この陣地を守護する鬼には、回復能力を持つものが多い。それゆえに、自然と持久戦を強いられる形になり、鬼達が与える状態異常が猛威を振るう形になった。数や力に頼る他の場所とは違う……蒼角という鬼の面目躍如と言ったところだ。 しかし、この苦境にあってもリベリスタ達の表情に絶望は無い。 「はいはいさっさと死んじゃってねぇ~。そっちいったよ~阿久津ちゃ~ん」 「はいさい殺人鬼ちゃーん 食べて食べて大きくなって アークビルより大きく育ってねー」 外見に気楽に戦っているように見えるのが、『殺人鬼』熾喜多・葬識(BNE003492)と『大風呂敷』阿久津・甚内(BNE003567)の2人だ。それぞれに大きな鋏と矛を振るい、戦場の鬼達をなぎ倒していく。人殺しと族上がりのコンビにとって、鬼との戦いなど厄介以外の何者でもない。しかし、それでもそれなりに自分達の衝動を満たすために、鬼へと切りかかっていった。 その時、2人は気付いた。 他の鬼とは格の違う何かが近付いてきていることに。 「こわいのきちゃったねぇ~、やだー、俺様ちゃんちびりそー」 「やるのは良いけどやられんのは御免だわー!」 あえて軽薄な言葉で誤魔化そうとするが、やって来る気配が弱くなるわけでは無い。 そして、戦場を強烈な呪詛の念が襲う。 「どうやら出てきたようですね。さすがに、強い」 『オールオアナッシング』風巻・霰(BNE002431)は全身を血に染めながら、やって来た気配の方へと目をやる。そこにいるのは、僧服を纏った1人の鬼。他の鬼とは一段違う風格を漂わせていた。 その圧迫感を前に、霰は膝が折れそうになるのを感じていた。鬼道が有している戦力は生半なものでは無い。それを身体で実感したからだ。それは彼女の心に弱気を生み出す。 「私にもこの戦場を駆け抜けることができるでしょうか」 しかし、それを無理矢理捻じ伏せ、レイピアを握りなおす。 「いえ、できると信じて、戦いましょう。それが私達リベリスタの務めであり、お仕事です!」 「……ふぅ。皆さん、ここが頑張りどころです」 そして、現れた強敵にも屈する事無く再び戦闘を続けるリベリスタ達を、『優しき白』雛月・雪菜(BNE002865)の癒しの歌が癒していく。彼女もこみ上げる不安を深呼吸で飲み込むと、まだ傷ついた仲間に癒しを届けるべく、詠唱を続ける。 次第にリベリスタ達の戦法は効果を表して来た。じわりじわりと、鬼達の補給路は断たれ、次第に持久戦を行う余裕が無くなってきたのだ。 「私の最大の一撃をもって皆さんの助けとならんことを」 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)の攻撃で、呪術師である小鬼がまた1体倒れる。 その様子を見て、蒼角が眉を顰める。 「なるほど……予想以上の戦闘力だ、リベリスタ」 風鳴童子にとって、「リベリスタ」とは現代の革醒者に対する蔑称である。 しかし、蒼角にとっては、現代に蘇った鬼道を阻む強敵の名前だ。 自分の役割は、櫓の守護。 しかし、犠牲が多くなれば、中央の守護のために本隊と合流するのも、大事な仕事だ。 素早く犠牲と櫓を天秤にかける。 その時、蒼角の頬を刃がかすめる。 「あー、そこの蒼角とかいうヤツ。あんたのカッコ、なんか懐かしーね。うちが子供ん時にも、家にそういうカッコの人いたよ」 『呪印彫刻士』志賀倉・はぜり(BNE002609)の呪印彫刻刀だ。 「にひ、あんたらみたいな鬼を使役する側だけどね。うちらに使われる鬼風情が術師気取りとか、大概にしときなよ!」 「む……これは……」 そして、さらに幾重にも呪印を重ね、はぜりは蒼角の動きを束縛していく。 「隙あり!」 そこに、『死神の鎌』九十九・百景(BNE000634)の足元から伸びる黒いオーラが追撃をかける。蒼角は体勢を仰け反らせた。 「射撃や神秘が得意ってんなら、接近できれば当たるだろう」 蒼角の動きが止まる。 倒すことが出来たのだろうか? その時、周囲に風が吹き荒れる。 「ハッ!」 気合と共に、蒼角を束縛していた呪印が砕け散る。 「中々に的確な狙い……見事なり。しかし、それなればこそ、城門を抜かせるわけには行かない」 今度は蒼角が印を結び、術を組み上げる。カマイタチを作り出し、周囲の敵を切り刻む技だ。 「残念だが、人が鬼を使役する時代は終わりだ。これからは鬼が世を統べる時代。我々を甘く見ないで戴こうか」 蒼角の言葉と共に、櫓の周辺を竜巻が覆った。 ●BATTLE/城門前‐2 戦闘において、数は武器である。 数と質、どちらが上であるか答えを出すのは難しいが、ある程度を越えると、数は質へと姿を変える。 それは先の三ツ池公園の決戦で証明された通りだ。世界最強クラスの個人であっても、数の前に押しつぶされることは十分あり得るのだ。 だが、それは極端な例における話。 たとえ数に劣ろうとも、質で劣ろうとも、その差を他の何かで補うことが出来れば、勝利を掴むことは叶うのだ。 ここ、城門前の戦いでも、まさしくその勝敗の綱を奪い合い、人と鬼は戦っていた。 「貴方がたが人の敵となるならば、討ち落とすまで!!」 鉄・結衣(BNE003707)の放った暗黒の瘴気に呑まれ、また鬼達がパタパタと倒れていく。互いに消耗してきているのだ。そして、彼女はまだアークに編入して短いリベリスタだ。いつ倒されてもおかしくはない。 しかし、このアークの、いや日本の未来を決める戦いを前に、座して待つなど、許せなかったのだ。そして、その想いは結実し、戦場に少なからぬ影響を与えていた。 「ギィィィィィ!!」 倒れた部下に声を上げる鬼将。 戦いの中で鬼将の部下は、既に半数を切っていた。そして、撤退の構えも時折見せたが、リベリスタ達の動きはそれを許さない。ここで彼を引かせたら、中央での決戦に際して、強大な壁として再び立ちはだかって来る筈だ。 「……道を開けて。さもなくば貴方を道の一部と変える」 「ギギッ!」 撤退しろ、なら鬼将は従っただろう。だが、道を開けることは、彼の矜持に賭けてもあり得ない。 返事とばかりに金棒を振り回し、周囲のリベリスタをなぎ倒す鬼将。 それを受けながらも、『不迷の白』八幡・雪(BNE002098)は、高速で残像を生み出し、周囲の鬼を切り伏せていく。 それでも、鬼の数はまだまだ残っている。城門前という最重要な場所だけに、個々の戦闘力はさておき、投入されている鬼の数は最多なのだ。 それらを相手に、『Rabbit Fire』遠野 うさ子(BNE000863)と『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)は、2人して背中合わせで術を振るい、弾丸を放っていた。 (戦場なんてすごく怖い。死ぬのも怖い。戦いたくない。でも、彼を守るためなら、一緒なら怖くないのだね) (うさ子さんと共に戦えるのがとても心強いです。貴女がいれば僕は絶対に負けません) この戦場は、人と鬼とが血で血を洗う修羅の世界だ。それでも、修羅に飲み込まれない者達の姿があった。誰かを想い、そのために命も捨てる覚悟のリベリスタ達。一緒にいられること。それこそが降伏なのだから。 「まだまだ敵は多いな。おう、だったら俺の出番だな!」 『錆天大聖』関・狄龍(BNE002760)の両手にあるフィンガーバレットが唸りを上げる。 そこに死角を突いて踊りかかろうとした鬼卒は、『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)の足元から伸び上がる影に阻まれる。 (この間のおデートが楽しかったです。だから、もう一回行けるようにまおはがんばります) まおが目で狄龍に想いを伝えると、狄龍も目でまおに返す。2人の間に言葉はいらない。 「そうですね、まだまだ数が多いですよね。と言う事は、誰かがお掃除しないとなりませんね」 朝早く起きたから家の前を掃いてきます、と言う位の簡単な口調で『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)もまた、戦場に弾丸をばら撒く。 「駆け出しですけれど、お役に立てるよう、できるかぎり頑張りますの」 長い集中から『黒き断罪人』霧城・七海(BNE001252)が放つ雷が戦場を焼く。戦場の鬼達は彼女よりも強い。だったら、それを戦い方で補えば良いだけの話だ。 「ギ……ギ……!?」 弾丸の雨にやられ、雷が降り注ぎ、気付けば鬼将の陣は壊滅状態になっていた。部下の半数は倒れ、立てるものも戦闘の継続は難しい。そして、逃げることは許されない。まさしく、八方塞がりの状態だ。 「身を削る思いで飛び込んでやったんだ、オマエラの身だって削ってやんぜ。避けられるならよけてみろォ、避けられたって追いすがってやんぜぇぇぇぇぇ!!!」 動きの止まった鬼将目掛けて飛び込む一・烈(BNE003638)。怪我だらけの身を引きずって、鬼将に無理矢理槍を届かせた。 「さて、あなた様にも負けられない訳はあるのでしょうが、わたくしめも負ける訳にはまいりませんね。できる、全力で参りましょう」 『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)の張り巡らせた気糸が鬼将を束縛していく。たしかに、鬼将の鎧は強固だが、糸からかかる圧力ばかりはどうしようもない。 そこを狙うのは『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)だ。しかし、動きを封じられた鬼将を相手にしながら、彼女の顔は暗く、ぶつぶつと何かを言っている。 「まぁ、どうせこの矢は当たらないのじゃ。たとえどれだけ的があったとしてもじゃ」 実際の所、緒戦においてもちゃんと矢は当たっていたわけなのだが、どうにも自信が持てないらしい。 「相手は動いておらぬが、当たらぬに決まっているのじゃ」 狙いをつけて放たれた光弾。それは鬼将の胸を貫く。 血を吐く鬼将。 そして、その一撃は彼に1つの決意をさせた。 「ギィ……ギギ!!」 自分の牙で、気糸の絡み付いていた腕を食いちぎる。 それによって、自由の利く部分が多くなり、それを利用して、脱出を図る。 「ギィィィィィィィィッ!」 そして、そのまま金棒を振り回し、周囲に集まってきたリベリスタ達をなぎ倒してい。まだ負けてはいないと言っているのだ。たとえ死しても、この先には進ませない。それが将としての鬼将の意地なのだろう。 鬼将の気持ちは、多少なりとも『猛る熱風』土器・朋彦(BNE002029)には理解できた。 戦場に立ち続け、仲間の力になるのを自身の役目と自認している。たとえ戦線がどれほど苛烈でも、だ。 だからこそ、相手の脅威は良く分かる。 だからこそ、猛り、奮い、全力を持って勝利を此方に引き寄せるのだ。 「行くぞ……ちぇすとーッ!」 「神代の神秘達……興味深いけど。でも、余り人間を舐めないでね……滅びなさい!」 動きが鈍ったところに、黒い鎖が濁流のように押し寄せる。『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)の血から生まれた黒鎖だ。 再び動きを封じられる鬼将。今度は先程のような逃げ道など存在しない。 その時、鬼将は歌声を聞いた。 風鳴童子のものでは無い。 もっと透き通った、清らかな歌声だ。 「鬼の執念がいくら強くとも負けはしない。僕達も命であれ平和であれ、守りたいものを背負い戦っている。そして、一番近くに居る人の笑顔を守る」 日常に帰るという誓いを胸にした、『剣を捨てし者』護堂・陽斗(BNE003398)の心の歌だ。 それに勇気付けられ、傷ついた者達も、城門に向かうべく立ち上がる。ここで立ち止まっている暇など無いのだ。 「ギィィィィィィィィィィィッ!!」 それを留めようとする鬼将。しかし、彼の動きは封じられ、声を出す以外の抵抗など出来ない。 「守りたいのはフィネも同じ」 その時、鬼将は目の前に立つ、1人の少女の姿に気が付く。『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)だ。彼女は疲れた身体を動かして、全身のエネルギーを解き放つ。 「風は廻るもの。追い風を呼び起こすため、今、フィネにできるのは目の前の敵を殲滅して、敵将への道、開くことです」 そうか、目の前の人間も同じなのか。 自分も、目の前の人間達を殺して、城門への道を阻むしか出来ない。 そして今、流れは人間達の下にある。 悔しいが、そういうことらしい。 「変わらぬ明日を生きる為に、何度でも月の光を」 空に浮かぶのは、不吉の象徴たる赤い月。 だが、今はリベリスタ達の明日を切り開く道標となって。 城門前を守っていた鬼の将軍は動きを止めた。 「おーい、そっちはどうだ?」 「大丈夫、誰もいないお」 行方不明者が出ていないかを探っていた『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)は、仲間に答える。まったく初っ端からとんだ激戦だった。これでは、他の所に行った仲間達もどうなっていることやら。 しかし、最低限の被害で抑えることは出来、全体としては城門に向かっている。 敵の幹部も倒せたし、結果は上々だろう。 そろそろ、自分も城門に向かうとしよう。 そう思った所で、ガッツリは動かなくなった鬼将を見やる。 鬼将の鎧はあの激戦の中をも耐え抜き、彼自身の墓標となっている。 「泣いた赤鬼みたいに良い鬼が居てくれればあちきはいいなって思うんだけども……少なくともここには居ねーお」 少し残念そうに呟くと、先行した仲間と合流するべく、ガッツリは駆け出した。 まだ戦場のそこかしこから、戦いの音は聞こえてくる。 夜はまだ終わらない。 ●インターミッション/鬼ノ城‐2 「風鳴童子様! 塔鬼が倒れたとの報が入ってまいりました!」 「花梨の部隊がやられたとのことです!」 鬼とアークの戦いが始まってきてから、どれ程の時が経ったろうか。 既にいくつかの戦場でのぶつかり合いが報告されている。 風鳴童子は子供のように愛らしい顔に、怒りの表情を浮かべる。その表情に恐怖を浮かべる斥候の鬼。童子の才に対する畏敬はあるが、童子の八つ当たりで殺されたら元も子もない。 (唐梨め、元々期待はしていなかったが……) 一方、風鳴童子としては、八つ当たりなどしている場合では無かった。総力を結集したリベリスタは強い。その相手をするのに、八つ当たりなど――童子にとって無意味とは言わないが――で、部下の数を減らしている場合では無い。 鬼と人間、どちらが強いかを比べれば、おそらくは鬼だろう。 『温羅』の圧倒的な戦闘力は言わずもがな。 『禍鬼』の呪剣や『烏ヶ御前』の惑わしの術。 歴々たる幹部の実力は折り紙付きだし、雑兵にいたってすら下手なリベリスタ、フィクサードよりも実力は上なのだ。 だがしかし、実力を結集して1つのことに当たる能力は、圧倒的に鬼は劣っている。 自身の欲を優先して、仲間との連携を取ることが出来ないのだ。風鳴童子など、まさにその典型と言えよう。 城門には強大な防御効果がある。 しかし、守る場所に束縛されてしまうが故に、自由な攻撃が出来る攻め手に比べると機動力は落ちてしまうだろう。人同士ならば、それを補い合うことが出来たはずだ。しかし、風鳴童子は自分の力のみで解決しようとし、自縄自縛に陥っていたのだった。 「大変です、風鳴童子様!」 その時、斥候の鬼が駆け込んできた。 「何だ、騒々しい! 既に2つの隊がやられたことは聞いている!」 「はい、それが……」 「また、敗北の報なのか? どこが落ちた?」 「は、はい。鬼将様の陣が……落ちました」 その場にいた兵達は、雷が落ちる音を聞いたような気がした。 実際に落ちたわけでは無い。 ただ、たしかに聞いた。風鳴童子の怒りが突き抜けた音を。 「そうか……人間……。ここまで来るか」 風鳴童子の声は冷ややかだ。だが、この場にいる誰もが確信していた。 既に怒りが頂点を越え、逆に冷静に見えるだけだ。 そして、その怒りをぶつけるべき場所を見つけたのだ。風は吹く向きさえ決めてしまえば、迷う事無く力を発揮する。 「お前達、出るぞ。城門を決して抜かせるな」 「ギギッ!」 風鳴童子の命令に従って素早く動く鬼卒達。 そして、今。 アークと鬼の熾烈な戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。 ●BATTLE/城門・中央‐1 鬼将をはじめとして、諸幹部を倒したリベリスタ達は、いよいよ城門前へと到達した。 しかし、さすがに城門前の防御は、今まで以上に丈夫だった。 雨霰と降り注ぐ石や弓、そして神秘の呪法。 リベリスタ達は、その中を駆け抜けて城門を開くための攻撃を仕掛けていた。戦場の常識で考えれば、城を攻めるのには圧倒的な戦力が必要である。しかし、神秘世界の常識ではそんなことは通用しない。望めば空を飛ぶことも、壁を駆け上ることも出来る。 かくして、城門の前では一進一退の戦いが繰り広げられているのであった。 「どっかんどっかんいっちゃおー! 遠慮なんかいらないもんね! 始めから全力で行くよっ! 撃つべし! 撃つべし! 撃つべし~!」 「やれやれ……ままならないものだな」 『ものまね大好きっ娘』ティオ・ココナ(BNE002829)の手から放たれる光が戦場を四色に染めれば、『ピンポイント』廬原・碧衣(BNE002820)の撃つ気糸が戦場を覆いつくす。 「ギィィィッ!!」 お返しとばかりに、城壁の上から鬼の矢が癒し手目掛けて発射される。 「そうはさせませんよう」 そこで癒し手達の前に『リピートキラー』ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)が立ちはだかる。彼女の左手のアタッチメントについたチェーンソーが唸りを上げ、迫る矢を叩き落していく。 そして、この一進一退の戦場はどれ程続いたのだろうか。 仲間達の傷を癒していたエリス・トワイニング(BNE002382)は、風の気配が変わったのを感じた。この風は、以前に矢喰の岩で感じたものと同じだ。 「……来る」 その時、戦場に雷が落ち、風が渦を巻く。 たまらずに数名のリベリスタが倒れる。中には運命の加護を頼りに立ち上がるものもいたが。 「やってくれたな、人間共……。だけど、お前達の命運もここまでだよ」 その声は戦場にあっても、よく通った。 戦場に似つかわしくない童子の姿。しかし、それを見て油断するリベリスタはいなかった。明らかに周囲の鬼達とは違う空気を纏っていたからだ。 「お前達が温羅様の所にたどり着くなど、あり得ない。ここで這い蹲って、汚泥に塗れて、息絶えろ!」 そして、風鳴童子が指を動かすと城門の周辺に大きく竜巻が渦を巻く。轟々と鳴る竜巻は、童子の怒りの歌声だ。さらに、空を切る手をリベリスタ達に向けると、そこから雷が迸り、リベリスタ達の身体を焼いていく。 「ただでさえ高い攻撃力に加え、それを素早く使用出来る機敏さ、耐久度の低さは部下を壁にすることによって補う、か。たしかに強敵だ」 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)は冷静に風鳴童子の攻撃を分析していた。 (風鳴の復活は私の不手際であった、そう認識している。……己の失態は、己でケリをつけよう) そして、攻撃に入るべく、集中を開始する。中途半端な攻撃が当たる相手でもない。 「あら、意外と可愛いのね。食べちゃいたい位だわ」 『毒絶彼女』源兵島・こじり(BNE000630)はアームキャノンを片手に舌なめずりする。恐怖心は心の底に仕舞いこんだ。何故なら。 「そういえばこの子、私のダーリンをボコってくれたらしいわね。お礼に泣けなくしてあげる。息の根止めて」 静かな怒りを胸に、風鳴童子を守る鬼卒達の下へと駆けて行く。 当の「ダーリン」である『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)も、鬼卒に殴りかかる。 「うっす! かわいこちゃん、僕らから矢を奪って愛ちい温羅にはかわいがってもらった? 今度はいいように前線に出されて踏んだり蹴ったりだな」 (あぁ、兄ちゃんが心配で来てもうたけど、大丈夫かな) 夏栖斗の言葉は軽いが、まなざしは真剣だ。そんな兄を御厨・麻奈(BNE003642)は心配そうに見ている。 「お前か、カトンボ。よくよく死にたいみたいだね。良いよ、今度はお前を生かして帰す理由は何処にも無い。お前を愛するものの前で、無様に殺してやるよ」 「ふぅん、私に受けた傷は治った? 前までは小手調べ。これが本来の私の得物だし……もっと痛い目にあわせてあげる。それと矢は返してもらうよっ」 不敵な表情で風鳴童子を睨み付ける『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)。 その手に握られるのは二挺の拳銃。今まで風鳴童子と相対した時には使わなかったスタイルだ。今回の戦いで必勝を期して準備したものである。 「それはこっちの台詞だよ、小娘。お前のことは、心が崩壊するまで甚振ってやる」 リベリスタ達が攻撃すると同時に、再び風鳴童子の元から風が吹き荒れる。 その場にいるだけで、皮が破れ、肉が裂ける戦場。それでも、『おとなこども』石動・麻衣(BNE003692)は必死に勇気の光で、仲間達を元気付ける。 その時、嵐を割って、爆発が起こる。 「一戦目、復活したアンタは周囲の人間を無残に殺したッス」 それはデュランダルが裂帛の気合と共に放つ一撃。 「二戦目、逆棘の矢争奪戦。痛手を与えたものの矢を奪われたッス」 まさに生と死を分かつ、絶対的な破壊の一撃。 「これで三戦目、お互い顔も見るのも嫌になってきたッスね」 それが風鳴童子を守る鬼卒の壁をぶち破り近付いていく。 「さあ、決着を付けに来たッスよ! 風鳴童子ぃッ!」 全身を朱に染め、風鳴童子目掛けて突き進む『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)。 「珍しく同感だよ、血吸い蛭。もうお前の顔を見ずに済むよう、顔だけ抉り取って、川に流してやる!」 風鳴童子の雷が再び戦場を焼き尽くす。これ以上時間を掛けていては、ジリ貧になってしまう。 「せめて、矢だけでも奪うのですよ」 『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)が、風鳴童子の元へと肉薄を目指す。 しかし、それですらも、届かない。 「させるかよ、人間! お前達の力は所詮その程度だ。どれだけ力を尽くそうと、どれだけ知恵を捻ろうと、お前達は鬼には勝てない!」 風鳴童子は思い出す。 自分を虐げていた鬼達が、温羅の前でゴミ同然に倒れたことを。 そして、そいつらにトドメを刺した瞬間に悟ったのだ。 力無き者は、力ある者に逆らうことは出来ない。 そう、だから、この世界が人間のものでなどあるはずはない。鬼達は欲したのだ、この世界を。そして、人間などにそれを阻める理屈は無い。 「温羅様! 見ていて下さい! 貴方に憎まれようと、蔑まれようと、ボクは温羅様を守る! それがボクの力! ボクの強さ! 禍鬼にも烏ヶ御前にもやらせない! ボクが、ボクこそが、鬼道を切り開くんだ!」 快哉の声を上げる風鳴童子。 命に代えても、それを倒そうとするリベリスタ。だが、届かない。 城門が落せなければ、『温羅』攻撃に十分な成果が上げられるかは難しい。 さらに、『逆棘の矢』が得られなければ、『温羅』への決定打が足りない。 なんとしてでも届かせる。そのために、命を賭け、運命を捻じ曲げる決意をするものが出ようとする、まさにその時だった。 周囲から鬨の声が上がる。 「な、なんだ、この声は!?」 戸惑う風鳴童子。 たしかに左翼と右翼にも敵が展開しているのは知っている。だが、安々と突破できるはずは無い。だが、敗走する時に、人間はこのような声は上げない。 「押せ押せー! あと少しなの。ガンガンいくのー!」 しかし、風鳴童子は忘れていた。人間の持つ強さを。それによって、鬼が倒される可能性を。 戦場にルーメリアの声が響き渡る。 「逆棘の矢……みんなの希望、渡して貰うの!!!」 ●BATTLE/櫓(左翼)‐2 「よう赤角野郎! 俺達の戦で賭けをしねーか」 「賭け? 何が言いてぇ」 『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)の言葉に怪訝な表情を浮かべる赤角。 「何の意味はねぇ、俺達とお前らどっちが勝つかでこの先の戦況を占うってよ! 分かりやすいだろ!」 創太の笑いに笑顔で返す赤角。 「つまり何が言いたいかって? 闘ろうじゃねーかコラ!」 「望むところだ、コラァッ!」 「創太くん、あまり無茶したら駄目だよ?」 戦争と言うには、あまりに単純な理屈で殴り合いを始める創太と赤角。それを慌てて止めに入る『癒し風の運び手』エアウ・ディール・ウィンディード(BNE001916)。 この場で繰り広げられているのは戦争などでは無い。ただの喧嘩だ。それでもリベリスタの力と鬼の力だ。互いに流れる血は、喧嘩程度に収まるわけが無い。 「歌よ、風よ、皆に届け…っ!」 鳴り響く歌声がリベリスタ達の怪我を癒していく。だが、それはより一層戦いが激しくなることを意味していた。 「張り切りすぎだろ、みんな。……まだまだ、死ぬわけにはいかねぇからな」 ちょっと呆れたような口調でカルラ・シュトロゼック(BNE003655)は暗黒の瘴気で、前線に立って喧嘩している者達の支援を行う。激しすぎる戦いの中では、こうした動きでわずかでも流れを掴んでいかなくては。 そうした動きに気が付き、鬼卒がカルラに殴りかかろうとしてくる。しかし、その目の前にドールが現れ、目をくらませる。 「ギギ!?」 「これは集団対集団戦……独りになった所から潰れていっちゃうからねっ」 その時、鬼卒は見た。 月を背に舞うように空を翔ける『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲・冬芽(BNE000265)の姿を。 そして、爆発。 鬼卒は動きを止める。 「さぁ、存分にその膂力振るうといいですよ……」 複数の鬼に囲まれながらも、『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の表情に恐れは無い。むしろ、楽しんでいるようにすら見える。 「ギギッ!」 一斉に踊りかかる鬼卒達。しかし、リンシードはそれをかわすと、幻影を展開させる。それは常人であればとても見切れない神速の攻撃。鬼と言えども、見切れずに仲間同士で攻撃してしまう。 「お味方に向かって……ね……?」 「さすがだなぁ。だが、この程度でぇぇぇッ!!」 怒る赤角の口から地獄の炎もかくやという炎が吹き荒れる。 さすがに、これをもらってはリベリスタも無事とは言えない。 「うぅ……吹っ飛ばされないようにしないと……」 炎の威力に身を震わせる『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)。しかし、必死に勇気を振り絞り、神々しい光を放ち、味方の支援を行う。あれ程の炎を放っておいて、おちおち戦闘など出来ない。 「みんな、頑張って! 皆さんが耐えてくださる限り、アークは絶対に負けません!」 既に怪我の量は限界を超えている。しかし、仲間の役に立ちたいと言う想いが運命を動かし、シェラ・カーライル(BNE003361)の命を繋ぎ止めた。ささやかな風がリベリスタの傷を癒す。 「片桐殿、忝い。共に戦ってくれる事、とても心強く思う」 「ふふ、そう言って頂ければ幸いよ。では、参りましょうか、葛葉さん」 片桐・水奈(BNE003244)の助力に後押しされるように、『閃拳』義桜・葛葉(BNE003637)は再び戦線に復帰する。この戦いは1人の英雄によって勝利を掴み取れるような戦いでは無い。皆が力を合わせることによって、初めて勝利を得られる戦いだ。ならば、僅かな助力であれど自分の拳、振るう事に躊躇いはない そんな真っ直ぐで不器用な葛葉を見送る水奈の眼差しは厳しくも優しい。今、アークの手にある希望は2つ。それを多いと取るか少ないと取るかは人次第だろう。だが、それを増やすことができる可能性があるのなら、全力を尽くすまでだ。 「ああ、ほんとうに、美味しくない。もう、ぼろぼろよ。ぼく、オンナノコなのに。ひどいわ」 悪態をつく『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)。言葉の通り、服も焼け焦げ、全身は血に塗れている。しかし、言葉と裏腹に、口元には笑みが浮かんでいる。 「まったく、暴力って、嫌いなのに。野蛮で美しくないでしょう? ……そうも言ってられないわねえ。やんなっちゃう」 ポルカが嫌々暴力を振るっているのか、そこに愉悦を見出しているのかは彼女にしか分らない。しかし、その刃は確実に鬼を切り刻んでいった。 「鬼が角を立てれば正義は牙を剥く! 光にひれ伏し、正義に許しを乞え! そして浄化されるがいい!」 『Holy Order』アルティ・グラント(BNE002505)の叫びが戦場に響く。 アルティの正義にはやや偏りがある。普段であればそれが災いして、残念な印象を与えてしまうことが少なくない。しかし、この戦場においては違った。鬼道が進むことを彼女の正義は良しとしない。何よりも、鬼道に踏み躙られた命が、悲しみがそれを許さないからだ。 厳然たる意志を秘めた聖なる光が戦場を焼く。 光を背に『自称・雷音の夫』鬼蔭・虎鐵(BNE000034)は愛刀・鬼影兼久を構え直す。 「これでも刀の腕は中々でござる。一戦交えてはもらえぬでござるか?」 全身の制限を外し、連続攻撃を仕掛けるための構え。その本気を赤角は感じ取る。 「上等、かかってこいよ!」 赤角は大上段。防御も二の太刀も考えない、必殺の構えだ。鬼の膂力で振るわれる一撃であれば、神秘の力も関係ない。物理的な力だけで、圧倒的な威力を持つことは明白だ。 止まって見えたのは一瞬のみ。 2人の影が交差すると、お互いから激しく血が飛び散る。 「ん、ここ突破できないと後が大変そだから何とかおにー倒さないとだけど……おにーすっごくこわ。ぅ、うさぎは美味しくなーい」 赤角と戦うリベリスタ達の隙間を縫うように、『うさぎ型ちっちゃな狙撃主』舞・冥華(BNE000456)の放つ光弾が鬼達を倒していく。気が付くと、既に赤角と共に櫓の守護を行っていた鬼達は皆倒れていた。 赤角は息を切らし、全身を血で濡らして、周りを見渡す。 「そうかァ……。もう、残ったのは俺だけかよ……」 「あぁ、赤鬼は泣いて帰る物と相場は決まっているのだ!」 「悪いけど、もう泣いて帰るつもりはねぇな。ここまでされちゃア、童子様に申し訳立たねぇし……何より、ここにいるてめぇらと決着付けずに帰るとか、ありえねぇだろ」 既に炎の息に頼るまでも無い。命が尽きるまで刀を振るい続けるまでだ。 その言葉に『エリミネート・デバイス』石川・ブリリアント(BNE000479)もDreihänderを構える。身体から電光を放ち、身体のエネルギーを最大限まで引き出す。 そして、そのまま一気にぶち当たった。 「まだまだぁぁぁぁぁ!!!」 赤角が咆哮を上げる。鬼の命はまだ燃え尽きていない。動ける限り戦うのだろう。 その姿に『祓魔の御使い』ロズベール・エルクロワ(BNE003500)は地獄の光景を連想する。だが、まだ自分はまだ地獄に落ちてやるわけには行かない。地獄に落ちるのは、まだ見ぬ多くの悪魔を裁いてからだ。 「ジャパニーズ・オーガ……あなたの罪、ロズがいただきます」 十字架を模した鉄槌が閃く。それに宿る暗黒の魔力は、赤角の身体のみならず、精神も切り刻む。 その姿に『ビタースイート ビースト』五十嵐・真独楽(BNE000967)は一瞬憐憫の表情を浮かべる。だが、今はそのような場合では無い。クローを赤角に向けると、鬼の将軍目掛けて飛び込んだ。 「まこもむつかしいコト考えるのは超苦手。味方どうしだったらトモダチになれたかな? でも今は敵だもん、こっちも本気でいくね!」 赤角に与えられたのは死の刻印。これ以上はこの鬼が立ち上がることは出来ない。 「早問答など交わす意味も無く、ただ武によってあたること是非もなし。推して参り……押し通ります。いざ、参られませ!」 『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)の言葉に刀を突き出す赤角。それは彼女に一撃を与えたが、既に力は無い。 かるたのエネルギーを込めた一撃が、赤角を大地に叩き付ける。 傷を受けたかるたの頭に一瞬、ある言葉が浮かんだ。だが、今はこのまま押し切るだけだ。 「おぬしも強かったのであろうが、我々も負けられないのでござる」 「……今も昔も、人間ってなそういう奴ばっかだよな……俺ァ、そんなお前らが大好きだったよ……」 最後に赤角目掛けて虎鐵の刀が振り下ろされた。 その姿を見て、櫓に残っていた鬼達が算を乱して逃げていく姿が見える。 この戦場を制圧したのだ。 だが、まだ風鳴童子が残っている。自由な機動力を持つ、奴が生き残っている以上、城門を制圧したとは言えない。 リベリスタ達は互いに頷くと、すぐさま戦場を移動するのだった。 ●BATTLE/櫓(左翼)‐2 右翼の櫓での戦いにおいて、戦いの天秤はじわりじわりとリベリスタに傾いていった。 鬼将のように兵力に頼るでもなく、赤角のように武力に頼るわけでもない。蒼角の戦いは知力に頼るもの。大事なのは敵を倒すことでは無い。城門を開かせないことなのだ。それ故に徹底した持久戦の構えが出来ていた。 しかし、リベリスタの耐久力もまた、その策に耐えうるだけのものを持っていたのだ。 「ルールを守れないのなら、鉄・拳・制・裁です!!」 『委員長』五十鈴・清美(BNE003605)の拳が呪術師の小鬼に吸い込まれると、炎を巻き上げながら鬼は吹っ飛んでいく。接近戦に持ち込めば、十二分に勝ち目はある。 「あっかんべーろべーろべー」 過酷な戦場だからこそ、遊ぶように。逆境だからこそふてぶてしく。 それが『Trompe-l'œil』歪・ぐるぐ(BNE000001)のやり方だ。知恵策謀を巡らせるタイプにとって、これほどやり辛い相手はいない。 「いかん、調子を乱されては……」 集中をし直すように印を組む蒼角。しかし、それを安々と見逃す『残念な』山田・珍粘(BNE002078)こと那由他・エカテリーナではない。 「あなたは蒼角さんでしたか? こういった戦場では、あなたの様な知恵者が一番厄介なんですよね。厄介な芽は早く摘む限ります。此処で、斬らせて頂きますね?」 珍粘の姿が2つ、4つ、8つと増えていく。そこから繰り出される神速の一撃が蒼角を始めとして、鬼達を切り裂いていく。 「くぅ……惑わしの術か、やってくれる」 蒼角自身は部下の回復を受けるが、既に回復の手は足りなくなっているのだ。同士討ちが起きてしまうのを止めることは、そう簡単には行かない。 「ならば、先にそちらの動きを封じるまで!」 蒼角は視線に呪力を込めると、それでリベリスタ達を縛り上げる。呪いの圧力は動きを封じるだけでなく、肉体をも蝕んでいく。そして、動けるリベリスタには矢を降らせ、一気に片付ける心算だ。 「おやおや痛い所を突いて来る。と、言いたい所だけど残念、此処は通してあげられないなあ」 『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の身を守ったのは、『彼岸の華』阿羅守・蓮(BNE003207)だ。持久戦に持ち込まれている以上、回復役が倒れてしまっては勝てる戦いも勝てなくなってしまう。 「しかし、それだけで庇えるような傷ではなかろう、おぬし」 「例え戦争でもさ、子供を守るのは大人の役割でしょうよ」 ニヤッと笑って蒼角に返す蓮。腹からは夥しい血が流れている。だが、今の言葉には自分の命を賭ける価値があると信じている。 「皆がのほほんと暮らせるように頑張るよ。戦うのはいつも怖いけど……。できることがあるんだから、逃げたりしないよ」 アリステアはキッと睨むと、高位存在に呼びかけ、癒しの息吹を呼び込む。 「鬼さんなんて、さっくり退治しちゃうんだから! 私たちは、絶対負けない。皆でアークに帰ろうね」 アリステアが戦うのは、鬼を退治するためではない。皆でアークへ帰るためだ。だからこそ、恐怖を乗り越えて戦うことが出来る。 「この体が傷付こうが血が吹き出ようがそれがどうした。地面を這いずってでもこの戦場、勝ち取るぞ!」 『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076)は立ち上がると、魔炎を召喚し、炸裂させる。それは櫓を焼き、鬼ノ城へと次第に延焼していった。 蒼角は冷静に頭の中で計算をしていた。 どうやら手遅れだったようだ。人間達の強さを分っているつもりだった。 それでも、どこかでまだ十分な評価が出来ていなかった。 この分では、赤角や鬼将の陣もどうなっていることやら。 既に中央への増援は間に合うまい。 そうなれば、覚悟を決めるだけだ。せめて1人でも多くの人間を屠り、後の戦いを有利にするのみだ。 生きてこそ浮かぶ瀬もあるだろう。しかし、人と鬼の間でそれはあり得ない。互いに雌雄を決するまで戦い合うだけだ。 「アルは、アルトゥルは! アルトゥルの大切なものを、譲れぬものを、守るんです! 怖くないって言ったら嘘になっちゃうけど」 『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)は蒼角に向かってライフルを構える。その手はまだ震えている。過酷な戦場への恐怖からだ。それでも、彼女は戦いを止めない。 「でも、アルはリベリスタだもん。みんながいるもん。負けない。負けないよ」 撃たれた傷を抑える蒼角。痛苦に顔が歪む。 しかし、立ち止まっている暇など無かった。 「城攻めって燃えるよな!」 空中から蒼角に踊りかかる影があったからだ。 『月刃』架凪・殊子(BNE002468)だ。 空中から目にも止まらぬ連続攻撃で蒼角を切り刻んでいく。殊子に十分な力は無い。だが、代わりに補って余りある速度がある。 「最近鍛錬サボってたからちょっとあれなんだが、まぁ。とにかく角を圧し折る!」 「鬼道を舐めるな!!」 蒼角の叫びと共に、周囲をカマイタチが舞い、リベリスタ達を切り刻む。 だが、それでも蒼角は安心しない。吉備津彦と戦っていた頃から知っている。人間はここからなのだ。たしかに、1人1人は鬼に劣る。しかし、力を合わせた1つの「人間以上」はあの『温羅』すらも倒したのだ。 「痛みは感じない、倒れるまで突き進む」 『定めず黙さず』有馬・守羅(BNE002974)は、ボロボロの身体を引きずり、電撃を纏う太刀で蒼角を切り裂く。 「何故だ……何故、お前達は立ち向かう……何故、恐れないのだ?」 誰にとも無く呟く蒼角。 「怖くないわけじゃないけどね。皆が居るから、きっと大丈夫」 『本屋』六・七(BNE003009)の足元から伸び上がる黒いオーラが、蒼角の頭を掴む。 「風鳴を確実に討ち取る為に、少しでも力になれるよう。気合い入れて頑張るよ」 既に蒼角は答えることが出来ない。 そこに『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)が突っ込んでくる。彼女も既に満身創痍。それでも、残った力の全てをぶつけてやる。 「知恵比べをするつもりはない。抗う術は意地と根性のみ。戦略などない。優劣など知らぬ。攻める。意識を手放そうが喰らい付く。死ぬまで殺す」 蒼角がどうと倒れる。 再び、人間の強さを知りながら。 ●BATTLE/城門・中央‐2 「馬鹿な……鬼ノ城が……ボクらの、最高の城、鬼ノ城が……」 風鳴童子は呆然としていた。 目の前で起きている事態に頭がついていかない。 赤角・蒼角を始めとする、幹部達が敗北という報も耳に入らない。 吉備津彦が相手だったのなら、まだ分かる。アレは人間ではあったが、人間の枠に収まらない戦闘力を持つ革醒者だったから。だが、昔の強さを持たない、『リベリスタ』などにここまで鬼道が押されるなど、あり得ない。いや、あってはいけないのだ。 「風鳴童子……強敵とは聞きますが、このような場所で躓いていられぬのもまた事実。……一気に突破させて頂きます」 普通なら、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の槍が届くはずは無かった。しかし、周囲からリベリスタの増援がやって来て、そちらを抑えるために鬼の兵力は動いていた。加えて、相次ぐ幹部連が敗れたという報の前に、鬼達の士気は崩壊しかかっていた。既に、風鳴童子を守る防備は一枚一枚と剥がれていったのである。 「対多戦闘は私の領域だ。恐れ怯え平伏しなさい。かくあれかし」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の言葉と共に、周囲の地面を風化し、焦熱の熱砂と変わる。そして、熱砂の蛇はとぐろを巻き、みるみる鬼達を喰らって行った。 「いままで2かいもまけてるのっ! こんどこそ……こんどこそかつのっ! もうにどとまけないのっ! ぜったいぜったいぜったいぜーったいこんかいはかつのっ!!」 「矢ハモラウゼ」 『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ・ミ-ノ(BNE000011)の指揮が、リベリスタ達に勢いを与える。過去に風鳴童子と戦ってきた彼女だから、相手の戦い方も熟知している。下手をすれば、童子本人以上に、童子の戦い方を熟知しているのだろう。ミーノの指揮を受け、一気に距離を詰めた『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)のナイフが閃く。すると、風鳴童子の顔をかすめて、血が舞い散る。 「お前、お前、よくもボクの美しい顔に傷を!! 人間なんかが!」 傷を受けてようやく正気に返る風鳴童子。しかし、既に彼の怪我を癒すべき呪術師は数を減らしていた。 そこに切り込んでくるのは【アロンダイト】の『蒼き炎』葛木・猛(BNE002455)と『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)だ。 「……人間舐めんじゃねえよ、ちっとの希望がありゃ、俺はどんな絶望にだって喧嘩売ってやるさ」 「貴方達は強い。けれど剣は届きます。貴方が見下す人間の力、その身で受けてみなさい!」 1人だけでは届かないかもしれない。だけど、2人いれば届かせることが出来る。越える事だって出来る。2人の絆の力は、風鳴童子の力を上回ったのだ。 「そっちも本気だろうけど、こっちは本気に命も張ってるってことを見せてやる!」 『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)の気合が、今ここに炸裂する。神をも切り裂くチェーンソーの一撃は風鳴童子を斬り、城壁をも揺るがした。 「知ったような口を聞いてるんじゃない! お前等に! お前達なんかに!」 城壁を風と雷が飛び交う。今まで放たれた中でも、最大級の一撃だ。さすがに少なからぬリベリスタが倒れている。極大の威力を持つ攻撃が連続で行使されるのだ。そうそう、耐え切れるものでは無い。 「近づくんじゃ……ねぇよッ!!」 しかし、それでも倒しきることは出来なかった。いや、攻撃が届いていれば『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は倒れていたはずだ。しかし、【夜猫】の相棒、『みにくいながれぼし』翡翠・夜鷹(BNE003316)がそれを庇ったのだ。強い絆の防壁、これを崩すことが出来るものなど、この世にどれ程いるというのか。 レイチェルは目で夜鷹に感謝の意を示す。だからこそ、自分は戦うことが出来るのだ。 「貴方はただの通過点、私達はこんな所で止まってられないんです。四天王だろうが何だろうが、押し潰して進むのみ。その矢を私達に寄越して、さっさと塵になれ、風鳴童子」 「かはぁっ!」 レイチェルの手から伸びる気糸が寸分たがわず、風鳴童子の心臓を穿つ。血を吐いて、大地に倒れる風鳴童子。 「貴様は浅慮極まる。だから、温羅への忠誠心の高い貴様を禍鬼が遠ざけた本当の理由にも気付けない。だから、禍鬼の裏切りにも気付けない!」 そこに『斬人斬魔』蜂須賀・冴(BNE002536)の追撃が入る。 その時、風鳴童子の懐から、1本の矢が零れた。その破魔の光は、戦場を白く染め上げる。 アレこそ、風鳴同時に奪われた『逆棘の矢』。温羅に対する最終兵器だ。 それは城門の上から、リベリスタ達が戦う地表へと落ちて行く。 「待て! 待つんだ! そっちへ行くんじゃない! 温羅様が! 温羅様が!」 城門から身を乗り出して、『逆棘の矢』を取り戻しに行こうとする風鳴童子。 しかし、その前に立ちはだかるのは『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)だ。 「どけよ! リベリスタァッ!」 以前のように風を展開させて振り切ろうとする風鳴童子。しかし、既に囲む数が多すぎて、それは意味を成さない。 「弱い奴に対して何をしても構わない、らしいですね」 荒ぶる風鳴童子に対して、静かに語りかける亘。 「だからこそ言いたい。そんなに強い力を持ったなら、絶望を不幸を受けた貴方なら……一人でも多く不幸な方を救えるじゃないですか!」 それは亘の偽りの無い本心。しかし、力のみに大きく偏った風鳴童子の耳には届かない。 「うるさい! 黙れ! 黙れよ! 黙ってそこをどくんだよ!」 「貴方の前では自分は限りなく脆弱です。でも、どんなに弱くても自分はそんな貴方に負ける訳にはいかない。一つでも多くの笑顔を幸せを……守ってみせる!」 誓いを秘めた蒼い刃が閃く。 その刃を受け、風鳴童子は大地に落ちて行く。 戦いは終わった……かのように見えた。 ●BATTLE/EX そうか……ボクは間違っていたんだな。 とてつもなく、大きな間違いをしていた。 弱い奴に対しては何をしても構わない、とか……。 そりゃあそうだ、『人間は強かったんだ。だから、ボクは何をされても文句は言えない』、それだけのことだったんだ。 悔しいなぁ。でも、温羅様が完全復活すれば、人間なんかどうってことはない。 だから、人間は死に絶える。 ただ……ただ、今はまずい。 今の弱った温羅様が『逆棘の矢』を受けたら、どうなるか分からない。 それだけは、それだけは、避けなくっちゃ。 動けなくなった風鳴童子は、手の中に何かがあるのに気が付く。 そうだ、ボクにはこれがあったじゃないか。鬼に伝わる宝具の1つ『鬼神楽』。これがあれば……まだ! 「こ、これは……!?」 落ちた『逆棘の矢』を探すリベリスタが驚愕の声を上げる。 風鳴童子の落ちた場所が揺れている。そして、そこから凄まじいプレッシャーを感じるのだ。 「まさか、まだ……」 『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』 叫び声と共に、風鳴童子が落ちた場所から巨大な鬼が姿を現わした。 その姿はブリーフィングの際に資料で見た『温羅』の姿に酷似していた。しかし、細部には色々と違いがあり、別物に見える。腕は2本しかない。そして、身体に付けている装飾品が、風鳴童子の名残を残している。風が鳴り止まないのも、風鳴童子が息絶えていない証だ。 「まさか、アイツ……風鳴童子なの!?」 真っ先に気付いたのは虎美だった。 『お前達……皆殺しにしてやる! 死ね! 死ね! みんな、死ねぇ! アーッハッハッハ!』 悪鬼の咆哮と共にリベリスタを切り刻む、巨大な鬼。 間違いない、アレは風鳴童子が姿を変えたものだ。 「アーティファクトの力を使って、自らを変異させたようなのだね。恐ろしい破壊力だ」 呻くような声を出すヴァルテッラ。そう言いながらも、既に戦いを続ける準備は出来ている。 「でも、わるいおにはむかしむかしからやっつけられちゃうんだよっ! だからこんかいもっ!!」 テテロの言葉に頷くリベリスタ。 そうだ、今ここで奴を倒さなくては、『温羅』の元へは辿り着けない。 今の風鳴童子は全ての力を破壊力へと転化した、極めて危険な存在だ。だが、裏を返せば、隙はあるということ。最後の力を振り絞って攻撃を開始するリベリスタ達。 しかし、風鳴童子の攻撃も熾烈だ。かすっただけで、精鋭のリベリスタも吹き飛ばされてしまう。 だからと言っても負けてはいられない。 「今度は奪取が目的じゃないからとことんやってやるっ! あの時の借りを、今こそ返してみせるんだから!」 「三度目の正直って奴だね。雪辱は果たすよ」 斬乃の一撃が風鳴童子にぶつけられる。それを手で防ごうとする童子の腕ごと斬って、童子の胸板を切り裂く。続けざまに虎美の弾丸が嵐のように襲い掛かる。 しかし、その中でも風鳴童子は爪を振るう。その度にリベリスタが倒れていった。 「大切な誰かがいれば人は強くなる……それは鬼も同じなのでしょうね。だからこそ、強敵であるあなたを温羅の元に行かせるわけにはいきません。もう言葉を弄する必要は無い。どこまでも追い続け、決着をつけます!」 ヴィンセントの弾丸が風鳴童子の腹に大きな穴を空ける。 『温羅様! 温羅様! うら様! うらさまぁッ!!』 狂ったように温羅の名を叫ぶ風鳴童子に、リベリスタ達の攻撃が集中する。 剣が舞い、銃弾が飛び交い、炎が荒れ狂った。 「蜂須賀示現流、蜂須賀冴。参ります!」 冴の刀が振り抜かれた時、風鳴同時に再び限界が訪れる。 『うらさま! ぼくは! ぼくはぁ!』 既に力尽きようとしている風鳴童子。しかし、それでもまだ放っておけばまたリベリスタを道連れにしようとするだろう。 「基本的にさ、負けたままっつーのは性にあわねぇ。ソレに、親父が僕に見せ場を作るために送り出してくれた、それに報いるために」 手に破壊の気を込める夏栖斗。奴との決着を今こそ。 「もう考えてもしょうがないっスね。真っすぐ行ってグーで殴る。この心意気ッスよ」 イーシェは深呼吸すると、自分の剣に目をやる。剣に込められたものは騎士の誉れであり、折れざる意志。 『うらさまぁぁぁぁぁぁ!!!』 「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」 再び立ち上がろうとする風鳴童子に、2人が飛び込んでいく。 そして、爆音が鳴り響いた。 鬼ノ城の城門が焼け落ちる。 主がなくなり、守る者がなくなったからだ。 主の歌声はもう聞こえない。 聞こえるのは鬼道を打ち破った英雄達の鬨の声だけだ。 そして、今。 風は鳴り止んだのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|