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『約束』はずっと、永遠に


 約束するよ。
 ずっと、傍にいる。
 いつまでも君の隣にいて、君を守るよ。
 いつまでも一緒にいるよ、君が好きだから。
 それはもう遠いあの日の約束。
 指切りと共に幼い君と交わした。

 ――大切な、約束。

「ずっと、私の傍にいてくれる?」
 愛しくてたまらない彼女の瞳には、不安の色が浮かんでいた。
「ずっと、傍にいて」
 そっと、彼女の冷え切った身体を抱きしめる。
 彼女の不安を消し去るように優しく撫でた髪はさらさらと零れ落ちた。
 それでも。
 もう離さないと、自分に言い聞かせるように。
 愛しい彼女の身体を抱きしめる。
「大丈夫、勿論だよ。 いつまでも君の傍にいる」
 君は僕の大切な……そう、大切な人なんだから。
 彼女の冷えた身体にゆっくりと、僕の体の熱を分け与えていく。
「君が何だって構わないよ」

 そう笑って、もう一度彼女の身体を強く抱きしめる。
 もう、ずっと離さないと言葉を込めて。
 彼女は、幸せそうに微笑みながら抱き返してくれた。
 その、鋭く尖った爪を僕の背中に喰い込ませながら。


「約束をしたことはあるかしら?」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達にそう、問いかけた。
 大なり小なり差はあれど、誰しも約束くらいはしたことがあるだろう。
 集まったリベリスタ達は当然のように皆頷いていく。
「例えばの話。 一緒にいる約束をしたとして
――その相手が死んでしまったなら、貴方達ならどうする?」
 少女の瞳は、真剣そのもの。
 その瞳が、今の話が単なる例え話ではないのだと。
 自分たちがこの場に集められた理由に繋がるのだと――リベリスタ達はそう直感した。
「貴方達にお願いしたいことがあるの。 
幼い頃に愛しい人と交わした約束を、一途に守る少年を救ってあげて」

 愛しい人と小さな家でふたりきり。
 ただ、しあわせな時間であれば良かったのにとイヴは言う。

「E・アンデッドの少女と暮らしている一般人の少年がいるの。
少年は、少女が死んでいる事なんてとうの昔に知ってるし、理解もしているけれど」
 それでも、一緒に暮らしているのだという。 
「約束したから、ずっと一緒にいるよって」
 
 それが、それこそが。
 少年が交わした少女との――愛しい人との約束だから。
 例えその身がどうなろうとも、少年にはそんな事はどうでも良いことだった。

「少女は、少年の両親と思われる2体のE・アンデッドを連れているわ」
 少女の両手は鋭く尖ったかぎ爪のように変化しており、
それを使って周囲の熱を奪い取っていく風を巻き起こすのだという。
 更にかぎ爪は少女に近づくものをみな等しく、切り裂いていく。
 それはまるで、二人を邪魔する者を拒絶するかのよう。
「両親のアンデッドは噛みつきによる近接攻撃をおこなってくる他、
愛しい息子の愛する少女を身を挺して守ろうとするわ。 
――それが、自分たちの愛しい息子の望むことなのだからと」
 ただひたむきに、少女を守ろうとする。

「少年も、少女を守ろうとするのだろうか」
 一人のリベリスタが不安げな顔でイヴに問いかけた。
「勿論。 貴方が思っている通り守ろうとするでしょうね」
「だけど、一般人だろう」
 そうよ、とイヴは言葉を返す。
「ちょうど今、彼は都合のいいことに外に出かけているの。
愛しい少女に買い物に行かせるわけにはいかないから。 
でも、当然ながら少しすれば彼は買い物を終えて帰ってきてしまうわ。
どうするかは貴方達に任せるけど、自由に動けるなら少女を守ろうとするでしょうね」

そこまで説明を終えて、イヴはため息を一つついた。
――きっと、少年にとっては哀しい結末になるのでしょうね、と。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月06日(金)00:06
皆様こんにちは、ゆうきひろです。
それでは今回の事件概要を説明致します。


■成功条件
敵E・リビングデッド達の撃破


■少女 フェーズ2のE・アンデッド
薄汚れたワンピースを着た長髪の少女です。
その両手は異形化し、鋭く尖ったかぎ爪と化しています。
少年と過ごす日々を幸せに感じ、その幸せを奪おうとするものには
誰であろうと一切容赦をすることはありません。

・熱を奪う風 神遠全体攻撃 凍結・虚弱
温もりを求めて周囲の熱を奪い凍結させる風を巻き起こします。
この攻撃が命中すると一定確率で『凍結』及び『虚弱』を付与されます。

・拒絶する爪 物近単体攻撃 物防無・麻痺・流血
自分と少年の仲を引き裂かれまいとかぎ爪で切り裂きます。
この攻撃は『物防無』を持ち、物理防御値を無視します。
この攻撃が命中すると一定確率で『麻痺』及び『流血』を付与されます。

■少年の両親 50代の男女のフェーズ1のE・アンデッドで合計2体出現します。
生前は誰よりも一人息子である少年を愛した人達でした。
その愛は少女の手によって殺され、E・アンデッド化した現在も健在であり
愛しい息子の愛した少女を守るため、必死になって戦います。

・噛みつき 物近単体攻撃 出血・HP回復30
近くにいる対象に噛みつき攻撃を行います。
この攻撃が命中すると一定確率で『出血』が付与されます。
また、この攻撃によってダメージが発生した場合
このE・アンデッドの体力が30回復します。

また、OPにある通り少女に攻撃が加えられようとした場合、
自分たちの身を挺して少女をかばおうとします。


■場所
時間は夜中。
小さなアパートの一室が戦いの舞台となります。


■少年について
一般人の少年で、E・アンデッドの少女と共に暮らしています。
戦闘開始時には買い物に出かけており、しばらくすると帰ってくる模様。
意思は強めです。
もし戦場に彼がいた場合、彼は身を挺して少女をかばおうとします。
少年が何故そうまでして少女に固執するのかは少年以外の誰にもわかりませんが、
もしかしたら恋をしているのかもしれないですね。


情報は以上となります。
それでは皆様のプレイングお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ホーリーメイガス
護堂 陽斗(BNE003398)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
デュランダル
義桜 葛葉(BNE003637)


 リベリスタ達の手によって、人払いの結界が張られた小さなアパートの前。
「約束か」
 俺にも、大事な約束をした事のある相手がいたなと空を見上げながら、
『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)はそんな事を呟いた。
 彼が約束をしたその相手は最早この世にはいない。
 自分は叶えられることのない約束を胸に、葛葉はまた別の約束を以って拳を振るう事を決めた。
 だが、果たして彼には――少年にはそんな機会は与えられるのだろうか。 
 これから自分が出逢う少年は、その機会すら無いのかもしれないのだ。
「例えどんなに優しい、大事な約束であっても……
それが全てを縛ってしまっているのであれ、間違いと正さなければなりません」 
 優しい、大切な約束。
 でも其れは2人を縛る物ではないのだからと『不屈』神谷 要(BNE002861)が言った。
「彼の想いは勿論尊重したい。 だけど、彼の両親を殺してしまう程に
いき過ぎてしまった少女はもう、人の心の大半を失ってしまっている」
 止めなくてはならないと、『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)は思う。
 人の心を失った少女は程遠くない未来、更なる暴走を始めるだろう。
 いずれは少年も標的となり得るかもしれない。
 其れは悲劇だ。
 そして、そんな悲劇に終止符を打てるのは自分達だけ。
「ま……あたしには関係ないわ」
 親殺しのアンデッドと生活だなんて幸せそうなこと、と『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)は言う。
「あたしは、あたしのやることやることするだけよ……」
 闇紅に同意するように頷くは、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)。
 外道巫女。
 其名が示す通りに。
 せいぜい暴れさせてくれよ?というその目には、少年や少女に向ける容赦の欠片一つ存在しない。
「約束した事があるかとフォーチュナは訪ねた。 少年の気持ちが分かると誰かが応えた」
 けど、どちらもキサには意味のない事と『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は言う。
 彼女にとって一番は常に己であり、約束すべき相手もまた、己のみなのだ。
 

 少年と少女の暮らす部屋は、アパートの階段を上って直ぐの所にあった。
 その部屋には、もう夜だというのに明かり一つ灯っておらず。
 インターホンを鳴らしてみても、内部からの応答は何一つない。
 もっとも、それ自体は容易に想像出来た事だ。
 この部屋の主である少年が買い物へ出掛けている以上。
 既にリビングデッド化している少女や、少年の両親がインターホンに反応するとは考えにくい。
 玄関のドアノブに手をかけながら、苦しいなと『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は感じた。
 愛してる。
 ずっと一緒。
 何度も何度も愛しい人に向けた言葉は何処か、少年が少女に向けた言葉に似ていて。
 きっと、似たもの同士。
 だからだろうか。
 此処に住んでいる2人の気持ちが、痛い程に理解できてしまう。
 少年の何処か、自己犠牲にも似た深い愛情も。
 少女が死してなお、少年と居たいと思う気持ちも。
 ――いっそ、見逃してあげるか?
 否、違う。 絶対に違う。
 一瞬頭に浮かんだ考えを否定しながら、
 俊介は隣にいる自身の大切な人――『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)を見た。 
 羽音もまた、思い出す。
 愛してる。
 好き――ずっと一緒に居て。
 何度も何度も愛しい婚約者に――俊介に言った言葉を。
 其れは何処か、自分たちがこれから倒す少女と、少年に似た言葉。
 でも其れは、似て非なるものなのだ。
 羽音の其れは、少しでも長く一緒にいれますようにという祈りなのだ。
 彼と、俊介と目が合う。
 彼の目は、何処か1人にしないでと訴えるような。
 だから、羽音は言葉を紡ぐ。
「大丈夫だよ、俊介。 1人になんてしない」
 この命が燃え尽きるまで、全力で愛するよ。
 そう笑って、ドアノブを握る俊介の手に、自身の手を重ねる。
 ドアノブが廻る。
 運命が廻る様に、扉が開く。
 偶然か、あるいはあえてそうしていたのか。
 壊して突入するまでもなく、その扉に鍵は元々かかってはいなかった。
 

 ドアを開けたその先には、闇が広がっていた。
「お帰りなさい、早かったね。 どうしたのインターホンなんて鳴らして」
 不意に、その暗闇の奥から声がした。
 か細い、何処か掠れたような少女の声。
 その声の主が恐らくは、件の少女なのだろうとリベリスタ達は直感する。
 少年が本当に帰ってきた時の抑え役である葛葉を玄関前に残し。
 残りの7人で、玄関をあがり途中、明かりを探してつけながら短い廊下を進んでいく。
 そうして、程なくして。
 リベリスタ達によって明かりが灯されたリビングルームにその少女は居た。
 見るもの全ての目を引く異形――鋭いかぎ爪と化した両腕に。
 一体何時から着たままなのか、身に纏った薄汚れたワンピースはボロボロで布切れのよう。
 そしてその傍には、B級映画に出てきそうなステレオタイプの男女のリビングデッド。 
 きっと、この2体が少年の両親のリビングデッドなのだろう。
「……私を、殺しに来たの?」
 少女が、7人を見回しそう呟く。
 何処か、怯えるような声色。
「私は、何もしていない。 ただ、彼と一緒に暮らしたいだけ」
 邪魔、しないでと。
 私の幸せを、奪わないでと。
 そんな、少女を。
「くだらぬ。お前も、少年も。いつまでこんな茶番を続けるつもりだ?」
 御龍はかくも容易く切り捨てた。
 茶番。 
 その言葉に、少女の眼の色が変わる。
「貴方に、何が分かるの? 私は彼と約束したの!ずっと、ずっと一緒にいるって!」
 居てくれるって、言ってくれたと。
「それが茶番だというておるのだ。 大体、お前そこの2人を殺しているだろう」
 少女の言葉に耳を貸さず、闘気を張らせた御龍が吐き捨てる。
「あんたの言い分なんて、あたしには関係ないわ。 時間も惜しいしさっさと済ませましょ……」
 そう言って、闇紅が武器を取り出し構える。
 そんな彼女を見て。
「そう……なら、もういいわ。 彼がいなくて良かった」
 少女の目に、静かに敵意が宿る。
 傍にいた両親のリビングデッドがそれぞれ少女を庇うように前に立つ。
「私と彼を引き裂こうとする人達なんて、全員殺してやる」
 その言葉が開戦の合図となり、リベリスタ達も即座に布陣を展開、戦闘準備を整えた。
 

「あんたはあたしが抑えさせてもらうわ……」
 戦闘が始まるとほぼ同時、トップスピードで少女の間合いへと踏み込んだ闇紅が、
その速度を最大限に活かした澱みなき連続攻撃で少女の身体を斬り刻む。
 闇紅の瞬速の連続攻撃に少女は僅かに怯むも。
「ッ……随分早いじゃない。でも私、こう見えてわがままだから」
 少女が、かぎ爪と化した両腕に力を込め。
「私と彼の仲を引き裂こうとする人は皆、勢い余って殺しちゃうッ」
 全てを拒絶するかの如く、そのまま闇紅の身体を引き裂いた。
 否、引き裂いたように見えた。
 少女のかぎ爪が引き裂いたのは、超スピードによって攻撃を躱していた闇紅の残像。
 対象を失ったかぎ爪は空を裂き、そのまま大きくバランスを崩す。
「……どうしたのよ? あんた、その不細工な手は飾りなの……?」
「一度躱したくらいで、五月蝿いのよッ」
 追い打ちをかけるように言い放った闇紅に態勢を整えなおした少女が言葉を返す。
「彼のことを本当に想うなら、大切にしてあげて欲しい」
 仲間達に十字架の加護を与えながら、陽斗が少女に話しかける。
「彼の未来や幸せを考えてあげて欲しい。
彼の心を解放して上げられるのは、彼が愛している貴女しかいないんだ」
「私とずっと一緒にいる事が、彼の幸せなのよ!だから」
 邪魔しないでと言う少女に。
「違う!!!」
 俊介が大きく声を荒げ、吠えた。
「何が違うのよ、何が分かるっていうの!?」
「分かるさ! 俺だって死んでも恋人と一緒に居たい。 約束を守りたい!でも!」
 それは決して恋人を危険に追いやってまでも成し遂げるべき事ではない。
「アンデッド!お前を縛るのはなんだ!約束か?居場所か?愛か?
それはお前の大事な人を危険に追いやってまでも成し遂げていたいことなのか!」
 その言葉に、少女の顔が激しく歪んでいく。
「私が、彼を危険な目に合わせてる……?」
 自問自答をするかのように、呆然と。
 違う。
 違う、違う、違う。
 だって、私を必要としてくれたのは彼。
 約束を守ってくれているのは彼。
 私は――私は彼を危険な目になんて。
 少女が、絶叫する。
 考えもしなかった、考えたくもなかった。
 少女が頭の隅へと、いつの間にか追いやっていた事。
「俺は……俺だったら絶対に大切な人を、羽音を一人にしない、危険にもさらさない。
できるなら戦って欲しくない、でもそれは無理だから俺の力で羽音を護る!」
 それが俺の約束だと。
 ずっと一緒に居るを護るための約束だと俊介が言う。
「俺は羽音の全てと、彼女を取り巻く環境全てを護る!」
 俊介のその、一切の迷いない赤い瞳が、射ぬくように少女の心を戸惑わせる。
 そんな少女を庇うように、少年の両親のアンデッド――母親の方が動いた。
 少女を戸惑わせる俊介に狙いを定め近づくと、鋭い牙を武器に喰らいつこうとする。
「この、邪魔するな!?」
 振り払おうとするも、僅かに母親の方が速い。
 大きく開いた口でそのまま俊介の腕に喰らいつく母親。
 鋭い牙が柔らかい肌をいとも簡単に貫き、苦痛に俊介の顔が歪む。
「痛ッ……」
 できれば少女にはそのまま戦闘を辞めてもらいたかったけど、と俊介は思う。
 どうやら、流石にそう上手くは運ばないらしい。
「ふん。 まずは、そこの過保護なのを終わらせるかねぃ!」
 そう言って御龍が月龍丸を飛び出してきた母親に向け、振るう。
 自身のオーラを電気に変換し、捨て身で放つギガクラッシュは
其名に違わぬ威力で母親を大きく怯ませ、感電させる。
 其の大きすぎる力は同時に、御龍自身もの身体を傷つけたが
戦闘狂である彼女にはその程度、気にも留らない。
「自分が傷つくのを気にしないなんて、この戦闘狂……」
 配下である母親のアンデッドが一蹴されたのを見て、我に返った少女が御龍を激しく睨みつける。
「貴方達なんかに、私と彼の愛を理解なんて出来ない!」
「キサはそもそも、理解するつもりなんてないけど」
 本当、愛って真っ当な感情じゃないのかもねと、考えながら印を結び、瞬時に防御結界を展開する。
「さっきは良くも俊介を!」
 愛する者を傷つけられた怒りと共に。
 人を切断する為に調整されたチェーンソー――ラディカル・エンジンを手にした羽音が母親に迫る。
 彼女の怒りに呼応するかのように。
 刃が唸りを上げ、奔る雷光が愛する人を傷つけた母親を一閃する。
 その一撃で生涯を、息子への愛に捧げた母親は崩れ落ちたのだった。
 残る敵は父親のアンデッドと、少女の2人。
 少女を狙えば、まだ動いていない父親は少女を庇おうとするだろう。
 ならば、やることは一つ。
 冷静に戦況を見極めた要が動く。
 彼女が放つは、怒りを誘発する不殺の十字光。
「ジャスティスキャノン……ッ」
 要が、ブロードソードから強烈な十字の光を父親向けて放つ。
 見事に命中したその光は、父親のアンデッドにダメージを与えると共に理性を失わせる。
 怒り狂った父親のアンデッドが、激しく咆哮しながらそのまま要に突撃するも。
「甘いですよ」
 怒り狂い、単調化した噛みつき攻撃は狙いを大きく外し、要には当たらない。
 その後もそうして我を忘れた父親は最早リベリスタにとってはさほど障害にもならず。
 幾重かの攻防の後に父親は、母親同様倒れ伏したのだった。
 そうして残ったのは、少女1人。
 少女との戦いは、いよいよ以って佳境を迎えつつあった。


 リベリスタ達の戦いが続く中。
 その少年は、アパートの入口前へと現れた。
 少し痩せた……否、やつれた感じの優しげな少年だ。
 その手には重そうな買い物袋を携えている。
 人払いの結界はしていたはずだが、成程意思が強いと葛葉は思う。
 恐らくは、彼が件の少年だろう。
 そう確信した葛葉はゆっくりと少年へ歩み寄る。 
「ぁー、済まない。 少し、話を聞きたいのだが良いだろうか」
「えっと、何でしょう?」
 少し、警戒したかのような声色。
 無理もない、急に知らない大人に話しかけられたのだ。
 そんな、少年の警戒を解くように葛葉が言葉を続ける。
「実は最近、この辺りに引っ越して来たんだが……その、土地勘がなくてな」
 そんなふうに言う葛葉に、成程と少年が頷く。
「ぱっと見た所、買い物をしてきたのだよな?もし良ければ、その場所を教えてくれないだろうか」
 なんてことはない。
 極めて自然な流れだと葛葉は思う。
 実際、少年は特に葛葉をこの時点で警戒する事はせず。
 むしろ。
 引っ越してきたばかりで右も左も分らぬこの人の力になってあげようとさえ思っていた。
 故に、問題があったとすれば。
 少年が、買い物した場所をメモで葛葉に教えようとしたことだろうか。
 そして、その為に一度部屋へ戻ろうとして。
「明かりが、ついてる……?」
 いつもと違う、自分の部屋に気づいてしまった。
 葛葉がしまった、という顔になる。
 その顔を見て、買い物袋を放り出して走りだした少年はしかし。
 即座にスタンガンを使用した葛葉によって、気を失ったのだった。
「周囲に誰もいなくて助かったな」
 アクセス・ファンタズムを使って、
葛葉が仲間たちに少年を確保した事を知らせる。
 戦闘は佳境を迎えつつも、未だ続いているらしい。
 葛葉は気絶した少年を抱えると、そのまま戦場へと足を運んだ。


 葛葉が部屋に飛び込んだのとほぼ同時。
 部屋を凄まじいまでの冷気を伴う暴風が荒れ狂った。
「うぉっ!?」
 荒れ狂う暴風に、無防備に少年を晒す訳には行かない。
 即座に少年を庇う様に背を向け、耐える。
 其れが、この場所へ少年を連れてきた自分の責任でもあるから。
 瞬間――体内の熱が、温もりが急激に失われていくのを葛葉は感じた。
 まるで、心まで凍りついてしまいそうな冷気に身体機能が著しく低下していく。
 これが話に聞いていた少女の攻撃か、予想以上に堪えるなと葛葉は思う。
 なにせ、この一撃で自分を含めた部屋にいる8人全員を怯ませたのだ。
 もう一度食らえば、まずい。
「また敵が増えたの……?」
 少女が、部屋に現れた葛葉を見据え、言い放つ。
 見ればその身体は幾らか傷つき、息も心なしか上がっている。
「攻撃する前に、自分の大切な人を巻き込むかどうかくらい確認しろよな……」
 俺が即座に庇ってなきゃこいつ死んでたぞ、と言わんばかり。
「何を……ッ」
 言っているの、と言いかけた少女が絶句する。
 がくがくと震えながら、葛葉の抱えている少年を見つめる。
 当然だ。 
 葛葉が連れているのは、自分の最愛の人。
 それも、気を失っている状態。
「彼に何をしたのッ!」
 これまでにない殺意を、怒りを顕にする少女。
「落ち着け、何もしてない。 ちょっと眠らせただけだ」
「落ち着け?何をどう、落ち着けばいいのよ?殺してやる」
 貴方達全員殺してやると少女が吠える、激昂する。
 怒りに全身を任せ、只々目の前の人間達を殺す事だけを考えて。
 しかし其れは同時に多くの隙を生み。
 そして其れを見逃す程彼女は、御龍は甘くはなかった。
 一寸の迷いもなく、月龍丸を手にした彼女は
きっと、その場にいる他の誰もが嫌がるであろう役目をあえて買って出る。
「今生の別れを告げさせてやろうかと思ったんだがねぃ。まぁ、仕方ない」
 余りいい終わりではないな、と自嘲気味に笑いながら。
 完全に少年に気を取られていた少女の真後ろに立ち。
「茶番は終わりだ」
 冷静にして冷酷。
 残酷にして華麗なる一撃を見舞う。
 まるで本物の雷が落ちたかのように激しい悲鳴と共に少女が崩れ落ちる。
 其れが余りにも虚しい、苦い――戦いの終幕だった。


 少年が目覚めた時、既に愛しい少女は物言わぬ死体へ還っていた。
「そうか……。 彼女は、逝ったんだね」
 自分に見せないよう、丁寧に布団をかけられた少女を見て。
 喉元から出た言葉は思っていたよりも冷静なものだった。
 だが、言葉と反してその瞳からは自然と涙が零れ落ちていく。
 思っていたよりも、冷静でいられたつもりだったのに。
 愛しい少女の事を思うと少年は涙が止まらなかった。
「……悔しいなら、憎いなら俺を殺しに来れば良い」
 だから、生きろと俊介が言う。
 憎しみでも何でもいい、それが生きる糧になるのなら。
 勿論、だからといって殺されるつもりはない。
 自分にも、大切な人がいるのだから。
 少年は、その言葉には頷かず只、泣き崩れているだけだった。
 各々が少年に言葉を残し終えると、静かにその場を立ち去っていく。
 アパートを出て、部屋を見上げる。
 部屋に、明かりはない。
 そういえば……と、羽音がある事を思い出した。
 俊介と一緒に開けた部屋の扉。
 どうして、あのドアノブには鍵がかかっていなかったのだろう。
 本来ならば、壊してでも強行突入するつもりだった。
 だが、実際には鍵はかかっておらず、
 そう。 まるで私達を招き入れるようだった。
 まさか、と彼女は思う。
 だが、それはあくまで推測だ。
 真実は、きっと少年だけが知っているのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
皆様のプレイングが本当に素敵で、纏めたり削る作業が本当に心苦しかったです。
少年が泣いた理由とドアノブに鍵がかかっていなかった理由は、あえて明記致しません。皆様のご想像にお任せします。
MVPは霧島 俊介様に送らせていただきました。

それでは皆様、またお会い出来る日を楽しみにしております。