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<鬼道喰らわば>其名は、鬼道九方陣

●鬼ノ城、御庭にて
「鬼角さま……これで宜しいのでしょうか?」
「構わぬ。最も大事なるは各所の守護じゃ」
 色の白い人に似た姿の鬼、前鬼の言葉に、陰陽師風の装いをした鬼、鬼角(オズヌ)は静に応え一帯を見渡した。
 鬼角の施した術は『鬼ノ城』庭の各所に作られた場を利用して結界を作り出すものである。
 結界の目的は、ただひとつ。
 偉大なる王『温羅』への力の付与だ。
「王は未だ力を取り戻せておらぬ……御労しや……」
 口元を扇子で隠し、鬼角は眉を歪めた。
 本来であるならば自分如きがわざわざこの様な術を施す必要などない。
 王の力は他の者たちに比べれば圧倒的だ。自身は勿論、四天といえども太刀打ち出来ぬ強さは健在である。
 だが……かつての王を知る鬼角からすれば、万全な状態からは遠いと言えた。
(恐らくは目覚めし四天の幾柱の方々も気付いている事でおじゃろう)
「なればこそ、少しでも手を打たねばならぬ」
 結界の中に居る限り、張り巡らされた力が温羅を、王を守り続ける。
 すべての場が失われぬ限り……力を弱めはしても、結界は存続するように術は築いてある。
 その力場の守護の為、精鋭足る鬼たちが御庭の各所に散っていた。
 現状で鬼角の下に有るのは前鬼・後鬼以外となると、充分な修練を積みはしたものの地力で劣り数を力とする鬼たちばかりである。
 無論、並の人間であるならば太刀打ちできぬ力を持った者たちではある。が、
(彼の者たちと相対するとなれば、些かに心許無きもまた、事実)
 鬼角は先日の戦い、この時代のリベリスタたちとの邂逅を思い出した。
 個々の力という点で考えるならば、この場の鬼たちでは勝機は覚束ないであろう。
 だが、数を以って戦えばそれを補うことは十二分に可能である。
 そして、それを活かす知性を、恐怖などが混ざりはしても王の為には死を厭わぬ絶対の忠誠を、少なくともこの場の鬼たちは持っていた。
 いや、持っている者を選んだのだ。なればこそ、数が力となると言えよう。
「とはいえその為には、この者たちが麿の意の儘に動けねばならぬでおじゃる」
 無論、この者たち程には望まぬが……そう想いつつ目配せをすれば、控えていた前鬼と後鬼が静かに頭を下げた。
 急がねばならぬ。

 吉備津彦の残せし矢は、二本がリベリスタどもに奪われたという。
 なればさらに我らが勢力を強め卑しき猿人どもを圧倒し、恐怖と絶望を彼の者たちの心身に叩き込まねばならない。
 手に入れた矢を利用して彼の者たちは反撃を仕掛けてくるに違いないのだ。
 時は、彼の者たちを利する可能性も秘めている。
 とはいえ、それも一部の者のみ……とも言えた。
 リベリスタ以外の人間たちは、やはり卑しき猿人と呼ぶに相応しい……いや、それ以上に堕落し無様な様を曝している。
 だからこそ、王への大術だけでなく此の場にも結界を固めることが出来たのだ。
 醜く顔を歪めた無数の死体を、張り巡らした大禍刻の瘴気を眺め見渡しながら、鬼角は目を細めた。
 餌に、慰みに、術の力の素として捕えていた猿人たちは底を尽きた。
 近いうちに大掛かりな作業が再び行われることとなろう……とすれば。
(かの者たちに……察されるやもしれぬか?)
 リベリスタたちは何らかの力を、術を用いて、鬼道の行いを察知している。
 それも、信じられぬほどに正確に。
 ならば必ずや妨害に動いてくることだろう。
「……それとも、既に動いているでおじゃろろうか?」
 口元に浮かぶ笑みを、鬼角は扇子でそっと隠した。
 急がねばならぬ。
 鬼道のため、というだけでなく。
(主らも雪辱に燃えているでおじゃろう?)
「麿も、じゃ」
 まるで、恋焦がれでもしているかのように。
「麿の、渾身の一手……其方らなれば、如何抗するでおじゃるかのう?」
 今の彼は……祈りも、願いもしない。
 多くの強者たちとの邂逅を、そして……心折れぬ者たちとの再会を。
 鬼角は心の底から信じ、欠片も疑っていなかった。

●早過ぎる決戦
「アークは決戦に踏み切る事を決断しました」
 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)の言葉を聞いて、ブリーフィングルーム内の空気は一瞬にして張り詰めた。
 集まったリベリスタたちの多くは先日の『逆棘の矢』争奪戦の事を知っている。
作戦は完全な勝利にはならなかった。
 リベリスタたちは全力を尽くしたが、争奪に動いた鬼道の力はそれ以上に強力だったのだ。
 それでもアークは温羅に対する切り札を一先ず二本は確保することができた。
 作戦は一定の成果を上げる事が出来たと言えるだろう。
「ですが……『万華鏡』がある未来を観測したんです」
 マルガレーテは青ざめた顔で少し息を整えると、鬼達は近いうちに再び大規模な進撃を行うようですと説明した。
 四天王や温羅を復活させるために行われた、一般人への襲撃と儀式。
 同じような、或いはそれ以上の規模の襲撃が、虐殺が行われる未来を……カレイドシステムは感知したのだ。
 現時点において温羅に対する策は万全ではない。
 鬼達の勢力や本拠地である城についての情報……足りない物、不確定なものは多過ぎるくらいである。
 それでも……鬼道が動きだす未来を知ってしまった以上、アークは動くしかないのだ。
「作戦目標は鬼道の本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破となります」
 鬼ノ城自然公園に出現した巨城は堅牢な防御力を誇るだろう。
 そこに存在する鬼達の戦力も、先日の戦い以上になるかも知れない。
 それでも、戦うしかないのだ。

 もし出来なければ……先日の鬼達の暴挙を上回る被害が、万華鏡の観測した未来が。
 現実の物となってしまうのだから。

●鬼ノ城攻略作戦
「『鬼ノ城』の攻略は大きく分けて5段階に分かれます」
 作戦の決行は接近をできるだけ気付かれにくいようにするため、夜になりますとマルガレーテは説明した。
 第1段階は『鬼ノ城』へと辿り着くことである。
 辿り着くといっても容易な事ではない。
「城外周辺部には四天王の一人『烏ヶ御前』の率いる部隊が配置されているみたいです」
 彼女と彼女の配下達はリベリスタたちを城へ近付かせないために積極的に迎撃を行ってくる事だろう。
 それらにどのように対処するかで場外周辺部の状況が変わってくる。
「周辺地域を制圧する事ができれば、それだけ後方の回復支援部隊による援護効率を向上させることができると思います」
 それらが終わると作戦の第2段階、城門の攻略へと移ることになる。
 城門には同じく四天王の一人である『風鳴童子』と、彼に従う鬼たちが守りについている。
 攻城戦においての優位というのは常に守備側にあるのだ。彼の部隊は地の利を活かし、頑強な抵抗を行ってくるだろう。
「ですが、これを打ち破る事ができなければ……城攻めは極めて困難な事になると思います」
 纏まった戦力を確実に城へ送り込むことを考えれば、何としても突破しなければならない。
 また、城門や周辺を制圧する事できればその後に続く攻城戦を容易に進めることができるようになるはずだ。
「第3段階は城門突破後、城の御庭になります」
 ここでは鬼の官史『鬼角』と精鋭の近衛部隊が庭の各所を固めている。
「彼らは温羅に術を施すために作られた力場を守っているみたいです」
 彼らを倒す事ができれば温羅に施された術が解除され、その守りが大きく減じられる事だろう。
 そして城内部、本丸下部へと攻め込むのが作戦の第4段階となる。
 ここの守りを受け持つのは目覚めた四天王の内の最後の一人である『禍鬼』だ。
「どのような手を使ってくるか分かりません……それだけに危険で手強い相手です」
 だが、この守りを突破できれば……いよいよ本丸の上階にいる温羅へと挑むことが可能となるのだ。
『温羅』との決戦に臨む部隊の余力を温存出来るかどうかは、各戦場での勝敗にかかっている。
「あと、『風鳴童子』、『鬼角』、『禍鬼』はそれぞれ『逆棘の矢』を所有しています。彼らを倒す事ができれば、矢を奪い返す事ができるかも知れません」
 そう言ってからマルガレーテは、地図の一部……御庭部分を拡大させた。

●鬼角の策謀
「この場の皆さんに担当して頂くのは、この城門内側の庭の部分になります」
 ここには鬼角と前鬼・後鬼、そして配下である統率の取れた多数の鬼たちが陣を敷いています。
「鬼角、前鬼、後鬼以外の鬼たちは……平均的なアークのリベリスタと比べると個々の能力では劣っているようですが……」
 そう言いつつもマルガレーテの表情は強張っていた。
 彼女の手の動きに合わせて、スクリーンに鬼角とその配下たちを示すマーカーが表示される。
 その多さにリベリスタたちは一瞬、息をのんだ。
 文字通り、鬼角は多数の配下を用いて御庭に陣を敷いていたのである。
「百鬼陣とか鬼道九方陣と鬼角は呼んでいました」
 九の隊を三隊ずつ三列に並べているようにも見え、北、北東、東、東南、南、南西、西、西北の八方と中央の計九方に隊を並べているようにも見える、その陣形。
「それぞれ能力・技術別に分かれた九の隊が連携し合って戦うことを目的とした陣形みたいです」
 そう言ってからフォーチュナの少女は、その陣形に関しての説明を行った。
 能力毎に分かれているのは、それぞれの特徴を活かした戦闘を行うためらしい。
 また、その特徴を活かして周囲の隊を援護できるようにとの考えもあるようだ。
 ただし各々の隊は自分たちが戦闘を行っている時は他の隊への援護を行うことは難しいようである。
「あと、この九つの隊の何処かひとつに『鬼角』がいるみたいです」
 そして鬼角の傍らには前鬼と後鬼が控えている。もっとも、どの隊に居るかまでは分からない。
「鬼角を倒す事が目的ですが、その為にはある程度は鬼たちの陣形を崩す必要があるかもしれません」
 マルガレーテはそう言ってから、それぞれの鬼の隊について、鬼たちの能力について説明し始めた。
「陣形の並びはこんな感じです」

[剣鬼][槍鬼][隠鬼]
[炎鬼][術鬼][雷鬼]
[弓鬼][盾鬼][命鬼]

 言葉に合わせるように画面に鬼たちの隊を示すマーカーが表示される。
「隠鬼と書かれた部分が丑寅、北東に当たります」
 あんまり意味ないかも知れませんが……そう言ってから少女は、難しいんで以降は東西南北で失礼しますねと謝り、其々の鬼を簡単に説明していく。
 槍鬼は集団で槍を構え槍衾を形成する事で、自分たちを攻撃する敵に確実にダメージを与えてくる。
 もちろん通常の戦闘能力も持っているので注意が必要だろう。
 隠鬼は闇に紛れたり死角に潜む事を得意とする鬼たちで、その状態で不意打ちや急所を狙っての攻撃を仕掛けてくるようだ。
 不意打ちは用心していても避けるのは難しいが、突出した反射神経があるならばそれを避ける事ができるかもしれない。
 雷鬼とは雷の如き速さを持つとされる鬼たちである。この鬼たちの放つ雷は相手を傷つけるだけでなく、動きを鈍らせる効果も持っているらしい。
 命鬼は傷を癒す力を持ち、同時にその力を反転させる事で命そのものを奪う術を使いこなす鬼たちだ。
 攻撃力は弱いが、その攻撃は守りを無視する効果がある。癒しの力も考えれば、充分に警戒しなければならない相手といえるだろう。
 盾鬼は畳ほどもある大きな盾を振り回して戦う怪力の鬼だ。
 防御に優れ力もあるが、最大の力を発揮するのは他の隊を守る時と言えるかもしれない。
 弓鬼は重藤弓のような長弓を使いこなす鬼たちである。弓矢は物理にも神秘にも攻撃力を持ち合せ、敵を選ばぬ効果を発揮するだろう。
 また、武器を扱いこなし力を得た此の鬼たちは長い射程を持ち、隣接する隊だけでなく全ての隊を援護してくるようである。こちらも無視は難しい。
 炎鬼とは炎の如き猛々しき鬼たちを指す。この鬼達の生みだす炎は相手を傷つけても消えず、敵が命を落とすまで身を蝕み燃え続けようとするだろう。
 剣鬼は近接の武器を持った鬼達の総称でもある。
 攻防速、様々な面において平均的な能力を持った鬼たちは特化した力は持たぬ故に短所もなく、派手さはなくとも最も堅実な戦いを行うことだろう。
 そして術鬼はある意味、すべての鬼を支える力を持つ。
 術を扱う能力に優れた鬼たちは自身の力を他の鬼に与える術を使い、他の鬼達が全力で力を振るい続ける為の要となるのだ。

「……以上の鬼達が作り上げた陣の何れかの隊に、鬼角、前鬼・後鬼の三鬼はいます」
 三鬼の能力は逆棘の矢を奪いあった時と大きくは変わっていない。
 それでも、鬼角と前鬼は少々の違いがあるらしい。
「鬼角の方は不吉を与える占いは同じですが、それ以外に魔の雨を降らす事で多くの敵を凍結させる術と、怨念を纏わせた刀を浮遊させ自身を援護させる術を使用してくるみたいです」
 加えて前回は発動までに時間のかかった大禍刻を土地そのものに掛け、戦場を常に瘴気で満たしているようだ。
「今回はこちらの力を弱めるほか、僅かですが鬼達の力を高める効果もあるようです」
 そしてその効果は戦場全体に及ぶ。
 正に、万全の状態を整えているといえる。
 それだけリベリスタたちの力を警戒しているという事でもあるのだろうが。
「前鬼の方は闘気を漲らせる能力ではなく、限界を超えて生命力を戦闘力に変換する能力を使ってくるみたいです」
 前回の戦いで力を消耗した事を考えて、ということだろうか?
 それ以外の能力は同じのようだ。
 激しい烈風を生みだし近くの敵を薙ぎ払う力と、闘気を爆発させ叩き込む爆裂する一撃。そして、反応速度や身体能力を大きく高める能力。
 一方で、後鬼の使用する能力は前回と全く同じのようである。
「完全なる防御の力と、同じ隊の味方すべての状態異常を払う力。同じく同隊全員の傷を癒す力と、周囲の魔力を取り込み自身の力を高める能力」
 数を力とする九鬼と、個々で優れた力を持つ三鬼。
「すべてを倒す事が出来ればもちろん最良ですけど、とにかく鬼角を倒せれば敵の連携も万全ではなくなりますので……」
 もちろん倒す以外にも陣形の力を発揮させない手段は、効果に差はあれど様々存在するはずだ。
 上手くいけば有利に戦いを進めていく事ができるだろう。
 加えて鬼角を倒す事ができれば、彼の持つ逆棘の矢を奪回する事ができるかもしれない。
 温羅に施された守りの力を弱め、或いは打ち消し、倒すためのアーティファクトを手に入れることができる。
「強力な相手です……ですが、ここを打ち破ることが出来れば、温羅との戦いの大きな助けになると思います」
 どうか……どうか、お気をつけて。
 御武運、お祈りしております。
 真剣な……強張った表情で、そう言って。
 フォーチュナの少女はリベリスタたちを送りだした。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:HARD ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月14日(土)22:01
●このシナリオはイベントシナリオになります。
イベントシナリオについては本部利用マニュアルなどを御参照下さい。

●重要な備考
・このエリアは『御庭』です。
・このエリアの作戦達成効果は『鬼角の大術の無効化(温羅の防御力低下)』です。
・当シナリオの結果次第でエリア『御庭』の作戦達成度が変動します。
 エリア『御庭』の作戦達成度が目標値以上になると作戦達成効果が発動し、アークに有利が発生します。
 作戦達成度の目標値については『鬼道喰らわば』作戦ページをご確認下さい。
 作戦達成効果は『温羅』との決戦に適用されます。(例えば回復支援が万全なら後退で回復支援を受けられる為、死亡確率が低下し、立て直し易くなります。進撃効率が上がれば大きな被害を受けずに目標に到達出来ます。鬼角の術が破れた場合、温羅の防御力が低下します)

●参加条件について
当シナリオに参加したキャラクターは他のエリアボス『烏ヶ御前』、『風鳴童子』、『禍鬼』のシナリオに参加出来ません。
『温羅』シナリオに参加する事は可能です。

●『逆棘の矢』について
鬼角を倒す事に成功した場合、このシナリオと温羅シナリオの両方に参加しているキャラクターが『逆棘の矢』を獲得する場合があります。獲得の成否、獲得PCはこのシナリオで決定されます。
『逆棘の矢』獲得が成立した場合、温羅シナリオでは通常のプレイングによる描写に加え、『逆棘の矢』を使用するスペシャルアクションが加算され描写されます。この描写内容についてはYAMIDEITEISTに一任されますが、プレイングの精度は自動的に『最高レベル』とみなされます。


オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
今回は『鬼ノ城』攻防戦の内のひとつ、御庭での鬼角率いる部隊との戦いを担当させて頂きます。

このシナリオはフェイトの残量に関わりなく死亡する可能性があります。
参加の際は、充分に御考慮下さい。



■戦場
城門を越えた内部にある広大な庭の一角。
集団が優位に戦える場所を選んでいるらしく、障害物らしきものは存在しません。
また、既に鬼角の術・大禍刻が戦場全体に掛けられています。


■鬼道陣
鬼角、前鬼、後鬼、そして多数の鬼たちが御庭中央にて陣形『鬼道九方陣』を敷いて待ち受けています。
陣形は以下のような並び方で、それぞれの鬼たちが小集団として集まり隊を形成しています。

[剣鬼][槍鬼][隠鬼]
[炎鬼][術鬼][雷鬼]
[弓鬼][盾鬼][命鬼]

・御庭の中央付近に位置しているので全方位からの攻撃が可能です。
(どこかの隊を破らない限り術鬼には攻撃できません)
・各隊は隣接する前後左右斜めの他隊への援護(戦闘)が可能です。
・但し、自集団が攻められ戦闘を行っている場合は他隊への援護が行えません。
・九の隊のひとつに鬼角が前鬼・後鬼を連れ加わっています。


■鬼道戦力
・鬼角(オズヌ)
陰陽師風の格好をした男性鬼。
独自のこだわりを持った美学主義持ち。
素早い結印や式符の早打ち等により2回行動を行ってきます。
扱う能力はインヤンマスターに似たものを3種類(EP消費)
それ以外として能力・大禍刻崇場を使用し、それを利用して温羅を守護する大術を使用しています。
どちらの術も鬼角が倒されると大きく力を減じます。
(多くの力場が奪われていると消滅します)

大禍刻・崇場(オオマガトキ・タタリバ)
殺された人間たちの怨念と血を吸った土地に術式・大禍刻を施すことで作り出された瘴気の結界です。
戦場に侵入した敵(鬼以外の存在)は毎ターンWP判定を行い、失敗すると【無力】【崩壊】【虚脱】の効果を受けます。
また、結界内の鬼たちの力を僅かずつ強化する効果も持ちます。


・前鬼(ゼンキ)
戦装束を纏い剣を持った色白の男性鬼。後鬼と夫婦。
デュランダルとソードミラージュに似た能力(計4種EP消費)を使用し、主に攻撃を担当します。

・後鬼(ゴキ)
戦装束を纏い術具を持った色白の女性鬼。前鬼と夫婦。
クロスイージスとホーリーメイガスに似た能力(計4種EP消費)を使用し、主に防御や鬼角の護衛を担当します。


・鬼道九鬼
各隊を結成している鬼たちです。
個々の実力では平均的なアークのリベリスタに劣りますが、其々の長所を活かし連携し戦闘を行います。

『北』槍鬼
槍衾を形成する事で攻めてくる敵に確実にダメージを与えてきます。
(反に似た効果を持ちます)

『北東』隠鬼
闇に紛れたり死角に潜む事で不意打ちや急所狙いの攻撃を行います。
(回避効果を下げたり弱点の効果のある攻撃を行ってきます)

『東』雷鬼
放つ雷は相手を傷つけ、動きを鈍らせる効果を持ちます。
(ダメージに加えショックの効果があります)

『東南』命鬼
傷を癒す力を持ち、同時にその力を反転させる事で命そのものを奪う術を使います。
(回復の他、防御無視の遠距離攻撃を行えます)

『南』盾鬼
畳のような大盾を振り回し戦う怪力の鬼たちです。
(高い防御力と生命力を持ち、力も弱くありません。援護の際は味方を庇います)

『南西』弓鬼
長い射程を持ち物理神秘共にバランスの取れた攻撃力を誇ります。
(この隊のみ、全ての隊に援護を行えます)

『西』炎鬼
生みだす炎は相手を傷つけても消えず、燃え続けようとします。
(ダメージに加え火炎の効果があります)

『西北』剣鬼
攻防速、すべてにおいて平均的な能力を持つ鬼たちです。
(大きな長所、短所はありません)

『中央』術鬼
自身の力を他の鬼に与える能力を使用します。
(インスタントチャージに似た能力を持ちます)


●備考
・分かる範囲で文字の省略等行って下さって構いません。
・グループ参加の方は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。

鬼角を倒せばこの依頼は成功となります。
それでは、興味を持って頂けましたら宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 72人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
インヤンマスター
桜月 零音(BNE000244)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ソードミラージュ
ジェスター・ラスール(BNE000355)
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
デュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ナイトクリーク
有沢 せいる(BNE000946)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
スターサジタリー
マリル・フロート(BNE001309)
覇界闘士
陽渡・守夜(BNE001348)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クロスイージス
ステイシー・スペイシー(BNE001776)
ナイトクリーク
大吟醸 鬼崩(BNE001865)
マグメイガス
アーゼルハイド・R・ウラジミア(BNE002018)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)

神音・武雷(BNE002221)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
★MVP
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
マグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
デュランダル
神守 零六(BNE002500)
クロスイージス
ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)
インヤンマスター
石 瑛(BNE002528)
ホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)

ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
ナイトクリーク
賀上・縁(BNE002721)
クリミナルスタア
桐咲 翠華(BNE002743)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クロスイージス
ミミ・レリエン(BNE002800)
クリミナルスタア
桐生 武臣(BNE002824)
スターサジタリー
アシュリー・アディ(BNE002834)
クリミナルスタア
山川 夏海(BNE002852)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
プロアデプト
天魚・秋(BNE002882)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)
クロスイージス
東・城兵(BNE002913)
ホーリーメイガス
夏月 神夜(BNE003029)
クリミナルスタア
竜造寺・成銀(BNE003040)
マグメイガス
リウビア・イルシオン(BNE003100)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
クロスイージス
犬吠埼 守(BNE003268)
クリミナルスタア
三芳・琥珀(BNE003280)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
プロアデプト
楓・巽(BNE003314)
ソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
デュランダル
日月・蒼龍(BNE003339)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
ホーリーメイガス
雪待 辜月(BNE003382)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
ダークナイト
カイン・ブラッドストーン(BNE003445)

十七夜 明(BNE003446)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)
ソードミラージュ
ルーク・J・シューマッハ(BNE003542)

風間 小太郎(BNE003579)
ナイトクリーク
晴峰 志乃(BNE003612)
ホーリーメイガス
鈴木 楽(BNE003657)

●御庭にて。戦い開始
 武臣は戦いの始まる前に陽動部隊の皆と最後の打ち合わせを行った。
 隊の役割は文字通り、敵陣の攻略を少しでも容易とするために攻略する陣の周囲へと攻撃を行って敵の援護を阻止することである。
 それ以外にも攻略部隊として戦いを行う場面もあるし、そもそも全員が同じ動きをするという訳でもなかったが、此の戦場においては纏まった戦力の隊といえた。
 だからこそ、その戦力はしっかりと活かされなければならない。
 武臣はその為に行動のほとんどを費やした。
 攻略部隊の動きに応じての方針や、戦力が減少した場合の行動。
 方針を確認しあった陽動部隊は攻略部隊が第一目標である弓鬼陣へと攻撃を開始したのと時を同じくして、盾鬼陣へと攻撃を開始する。
 誇りを胸に見栄を切ったのち、武臣もヴァンパイアの力を利用して戦いを開始した。
 攻撃を行いつつ負傷や消耗を吸収によって回復し、ダメージの蓄積した相手の背後に高速で回り込むと、首を狙って一撃をキメる。
 ソウルはオーラによって防御態勢を整えると、前衛に立つ事で戦線の一部を形成した。
「攻撃にゃ、ちょっと不安点が残るが、生存能力関してはそれなりだぜ、俺はな」
 そう口にしつつ邪気を払う光を生みだし周囲を満たす。
 大禍刻・崇場。鬼角の術によって力を減じられ動きを鈍らされていたリベリスタたちが、その光によって力を取り戻した。
 危険な者がいれば庇う事も考えつつ、今は問題ないとしてソウルは癒しの力を世界から借り受ける。
「俺の背中には、若い奴らが、いるんだからな」
 だから、前衛で不沈艦の存在を示してればいいだろう。
(背中を土で汚すようなマネはしねえようにするさ)
 男が倒れる時は前のめりに、だ。
「攻撃とかってのは、若い奴らに任せておきゃいい」
 年寄りを、こきつかうもんじゃない。
 そんな事を呟き、口にしながら。ソウルは仕事を果たしていく。
 若い奴らが、攻撃に専念できるようにと。
(本当に力及ばずですが…出来る限りを、尽くさせていただきます…!)
 陽動部隊の一員として盾鬼陣へと攻め込んだ零音は、最初に味方に向かって守護の結界を張り巡らせた。
 その後は前衛から中衛といった位置を取り、負傷者を回復させるために癒しの符を作り出す。
 付近に負傷者がいないと判断すれば、呪力で氷雨を降らせ鬼たちへと攻撃する。
「私の力は小さくて、でも……それでも、出来る事は、あります」
 自分一人では為せないことはある。それでも、誰かが其れを為すために出来る事が、ある。
 戦いながら、そして戦う仲間たちを眼に焼き付けながら。胸に刻みながら。
(私は皆と共にありましょう)
 傷付いた前衛を癒すために。零音は符を作り出すと仲間たちへと駆け寄った。

●弓鬼陣へ
 攻略部隊、そしてそれ以外の幾人ものリベリスタたちが第一目標である弓鬼陣へと攻め込んでいく。
 陣へと突っ込んだ涼子は、暴れ狂うオロチのように殺意の儘に周囲の鬼たちへと攻撃をしかけた。
 もっとも味方を巻き込まないように、可能なら多くの敵を巻き込めるようにとの配慮は行っている。
 飛び込んでからの二手目は武器に頼らぬ強引な拳の一撃だ。
 近くの者と狙いを合わせ、敵を減らすことを優先して。
 姿勢を低くしたまま動きまわる事で視線を散らすように、同時に敵の死角を突き易いように。
 加えて弓鬼たちに対してはその動きは狙いを定めにくいという効果も発揮していた。
 歴史なんて知ったことか。
 因縁なんて犬にくわせろ。
(わたしにあるのはただ、40Kgにも届かない重みと、この拳だけだ)
「他にはなにもいらない」
 味方と並ばぬようにと左右に踏み込みながら彼女は拳を、命を、心を、揮い続ける。
「決戦だ!」
 ノアノアは攻略部隊の後衛として能力を活用し敵の分析、情報収集を行っていた。
 エネミースキャンやリーディングを用いて敵の能力を暴き、確認した情報を味方へと伝達していく。
 その必要がない時は大禍刻で動きを鈍らされた味方へと邪気を退ける光を放つ事で、皆に付与された邪な力を浄化する。
 後は状況を見つつ前衛に癒しの力を付与していき……敵が攻勢に出て前線が押されていると感じると巻き込まないように注意して魔の炎を召喚する。
「おらおら! 魔王様だぜぇ!!」
 陣の撃破を早期に達成する為に、彼女は仲間たちと共に次の目標へと狙いを定める。
「さてさて、今の私に出来ることなんて限られてますが出来る限りの支援で皆さんを支えさせていただきますね」
 周囲の仲間たちへと翼の加護を施すと、楽は魔力を循環させる事で能力を使用する為の態勢を整えた。
 念のために加護の掛かっていない人がいないのを確認しつつ皆の状態もチェックし、負傷が一定以上と感じられた仲間を癒すために詠唱で清らかな存在へと呼びかける。
 どちらも問題なさそうな場合は、自分の生存率を上げる為に防御態勢を取って待機しようという心算だ。
「癒し手が真っ先に倒れてしまっては意味がありませんしね」
 自身に言い聞かせるかのように呟きながら、楽は仲間たちの状況を確認する。
「ねぇねぇ、一発だけで良いからちょっとチャージしてくんない? 息切れしちゃって!」
 そう言って近くの味方から魔力の供給を受けたリウビアは、自身を覚醒へと導いた魔道書を開いた。
 詠唱によって魔力の活性化、増幅は完了している。
 近くの味方が狙っているのと同じ鬼へと狙いを定めると、彼女は呪印の刻まれた黒の大鎌を召喚する。
 気配を遮断して、なるべく見つからぬよう皆に紛れて動きつつ。
 鬼崩は敵の足止めを主な目的として行動していた。
 即座には攻撃せず、慎重に目標の動きを見極め、その動きに集中して。
 狙いすました気の糸の一撃で相手の動きを一時的にでも封じたら、また紛れるように人の中に。意識の外に。
 直接ぶつかるような事はせず、一撃離脱とでもいうべき動きを徹底する。
 派手な動きを控え、こそこそと。
 目立たぬように、終始無言で。
 気付かれぬように、少しずつ、少しずつ。
 アークの勝利の為に。彼女は結果を積み重ねていった。

●それぞれの戦い
 流水の構え取った守夜は炎鬼たちに戦いを挑んでいた。
 炎に対しての耐性能力を持った彼は、炎鬼たちの攻撃の追加効果を受けることなく拳に冷気を纏わせ攻撃を行っていく。
「お前達の炎では、俺は死なないっ!!」
 強い意志を篭めた言葉は鬼たちに対して挑発の効果もあったようで、炎鬼たちはやっきになって守夜へと攻撃を集中させた。
 負傷の蓄積を吸血能力によって補うものの、鬼たちの攻撃は回復力を大きく上回る。
 一体一体の攻撃は決して強力とまでは言えないが、無力とも言えない。
 何より敵は小集団とはいえ数で守夜を圧倒していた。
 それでも彼は怯むことなく拳を振るい、あるいは敵の力を奪う事で戦い続ける。
 その戦いは決して長くは続かなかったものの、短時間だけとはいえ確実に炎鬼たちを引き付け、他の陣への援護を阻む効果を発揮していたのである。
 一方でジェスターは北東に位置する隠鬼の陣へと攻撃を行っていた。
 音を頼りに敵を窺い、離れた場所から攻撃を仕掛ける。
 敵に気付いた鬼たちは襲撃者を探すべく動きだし、すぐに彼を発見した。
 闇に紛れ死角に回ろうとする鬼たちからの奇襲を、青年は圧倒的な反射神経で感知する。
(……鬼達っすか。オレは因縁ないんすけど、一般の人達が殺されるのを黙って見てる訳にはいかないっすからね)
「止めさせてもらうっすよ」
 数体の隠鬼が周囲にいるのを確認すると、彼は多数の幻影を展開し周囲の鬼たちに向かって高速の刺突を繰り出していく。
 攻撃を受けた鬼たちは不意打ちが難しいと考えると、とにかく数で圧倒する作戦に出た。
 鬼たちの一撃一撃は決して強力では無い。だが、弱点を的確に突いてくるのに加え……瘴気の結界は、常では無いもののジェスターの力を大きく減じていた。
 攻撃は鈍り、守りは崩され……空気が重くなったかのように動きが鈍らされていく。
 それでも彼は臆することなく、寧ろ楽しげな笑みすら浮かべて。ジャマダハルを揮い続ける。
 せいるとラヴィアンは命鬼陣を最初の攻撃目標に選んだ。
(やっぱ、一番厄介なのは回復役だろうからな。まずはこいつらからぶっ潰すぜ)
 ラヴィアンはそう考え、葬送曲・黒で複数の鬼を呪縛することで回復を封じようと考えたのである。
 せいるは意志を持つ影を作り出し、それを利用して別方向からの同時攻撃やタイミングをずらした時間差攻撃によって命鬼たちを攻撃していた。
(ボクはまだまだ未熟だけど、鬼との決戦でお留守番なんてしてられないよ)
 せいるは影と共に鬼たちへと攻撃を仕掛け、ラヴィアンも自らの血で黒き鎖を作り出す。
 反撃とばかりに命鬼たちが腕を伸ばし何かを掴むような仕草をすると、何かが内側から吸い出されるような、毟り取られるような感覚があって。
「そんなの……効くかあっ!」
 それを無理矢理に抑え込んでラヴィアンが叫び、せいるも戦いを続行する。
「皆が命をかけて戦ってるんだ。ボクもやれる限りの事はやらなきゃ!」
 運命の加護を受けて、手繰り寄せて、圧倒的な敵に対して二人は怯むことなく戦い続けた。
 そんな時、だった。
「熟慮の末か、偶然か。どちらにしても汝らは持っている、という事でおじゃるな?」
 突然飛び込んできた……どちらかと言えば穏やかささえ感じさせるその声に、せいるとラヴィアンは凍りつくような緊張を覚えた。
「熟慮の末、という眼(まなこ)をしておるのぅ。ならば予想していたか? 陣の急所となるべき処に、麿がおると」
 まあ……どちらでも、よい。予想していたとしても、意外であろうとも。
「……其方らが臆さねばそれでよし。死力を尽くしてくるでおじゃるよ」
 楽しげな声と共に、一体の鬼が、鬼角が。
 前鬼と後鬼を伴い、姿を現したのである。

●盾鬼陣の攻防
「敵も然る者……実に厄介な陣に御座るが、これを破ることは温羅を討ち果たす大きな好機へと繋がるというもの」
 朝日の一員として戦いに加わった幸成は鬼たちの陣列を眼に呟くと、忍甲を構え暗月の柄を確認するように撫でた。
「黒部幸成、命を賭して参る……」
 言葉を結ぶと仲間たちと共に、南側から盾鬼の陣へと接触する。
 紡いだ気の糸で一体の鬼の動きを封じるように締め上げ。
「仲間が少しでも戦い易いよう、陽動として大いに暴れさせて頂くで御座るよ」
 戦闘状態に陥った事で盾鬼たちは、攻略部隊の攻め入った弓鬼陣への援護が難しくなった。
 攻略部隊が弓鬼陣を、そして東南の命鬼陣を打ち破るまで陽動部隊と共に盾鬼たちを釘付けにするのが彼の任である。
 南側の陣が破られれば、九方陣はその力を大きく減じることだろう。
「その命と逆棘の矢、貰い受けると致そうか……」
 盾鬼たちの動きを封じつつ、幸成は未だ見ぬ鬼角に布告するように呟く。
「今回こそは勝つ」
 誰に言うでもなく未明は呟いた。
 思い出すのは、先日の戦い。
 もっとも、あの時と今は状況も立場も異なっている。
 それでも、同じものもあるのだ。
 朝日の一員として、隊の目標を定めるようにして。
 彼女も仲間たちと共に盾鬼の陣へと攻撃を仕掛けた。
 闘気を全身へと巡らせると、高速の動きで複数の盾鬼たちへと同時に攻撃を仕掛けていく。
 流水の構えを取ったクルトも盾鬼陣へと距離を詰めた。
 大禍刻は、気にしない。
「仲間の援護を信じて俺は俺の役目を果たすまで」
 盾鬼の一体の懐に踏み込むと掌打を放ち、命中と同時に気を送り込み対象を内部から破壊する。
(これなら例え瘴気に侵され減じた力でも敵の防御を抜ける)
 盾に無視できない相手と思わせる。
 先ずは援護の妨害。
 敢えて狙いを1体に絞らず、クルトは周囲の鬼たちの意識を向けさせるように交互に攻撃を行っていく。
 もちろん、前衛としての任務も心得ていた。
 突破させぬようにと注意して位置は取ってある。
 鬼たちが反撃とばかりに巨大な盾を振り回した。
 精度は決して高くないが、命中すればその威力は高そうである。
 回避し、あるいは直撃を避けながら、クルトは土砕掌を放ち周囲の鬼たちへと少しずつ負傷を蓄積させていく。
「大変だけど僕は僕の仕事をしないとね」
 呟きつつ縁は戦いを援護させる意志持つ影を作り上げた。
 朝日の一員として彼もまた盾鬼の援護妨害に臨む。
 戦場へと踏み込んだ彼にも、すべてのリベリスタたちと同じように……鬼角の作り出した結界、大禍刻・崇場が、その内を満たした瘴気が襲い掛かった。
 崇場に対抗するには意志を強く持たねばならない。
(死ぬのが怖くないわけじゃない。だけど、ぎりぎりまで、その一線を見極めて頑張らないと)
 前衛へと踏み出し巻き込む範囲に味方がいないのを確認すると、縁は二丁一対の双舞銃を手に距離を詰めた。
 軽やかに踊る様なステップで、周囲の鬼たちへ次々と攻撃を仕掛けていく。
 敵は盾を持っているだけあって防御力は高いようだ。
 だが、その防御の隙をついて攻撃を命中させられれば。その為にはとにかく手数を出さねばならない。
 攻略部隊が到着するまでは妨害をメインに。
 意識しつつ縁は攻撃を行っていく。
「ウフ……血の匂いね」
(死ぬにはいい夜……それもいいかもね、全て出し尽くせたならねぇ)
 陽動は少数でいかなきゃ、攻略が手薄になる。
(最後迄足掻きながら無様に楽しむわん……這ってでも最後迄)
 お役目果たしましょ。
 同じく陽動部隊の一員として、おろちも前線を支えていた。
 後衛へと向かおうとする鬼たちを阻むように前衛へと位置を取る。
 前衛で交戦、可能な限りブロックも試み。
「んふ……アタシオイシソウでしょ? いらっしゃいな」
 身体のギアを上げて反応速度を高めたまま、彼女は笑みを浮かべたまま静かに機を窺う。
 楽しげで、どこか冗談めかしたような物言いではあっても動きそのものには隙はない。
 攻撃は考えずに守りに最も適した姿勢を取りつつ、敵を物色するかのように。
 獲物を狙う大蛇のようなヒトミが、その視界に一体の鬼を捕えた。
 おろちの顔に、笑みが浮かぶ。
 その出会いと別れが少しでも情熱的なものになる事を期待して。
 彼女は刃を手に、鬼へと一歩を踏み出していく。
「自分が未熟すぎるという事は自分が一番よく分かっていますからね」
 志乃は前に出て戦うのではなく、倒れた人物の援護に回っていた。
(下手に攻撃するよりも、皆さんが倒れた際のカバーリングをする方が良いでしょう)
 自分はまだ自分の戦い方と言う物を見つけてはいない。だから。
「周囲の人の戦い方を見ておくという事も、今回の目的の一つで御座います」
 癒し手が危険な状態ならばと、庇うように位置を取る。
(私自身は非力で御座いますが、一度や二度程度なら壁にでもなるでしょう)
 深い傷を運命の加護で抑え込んで。
「可能な限り皆さんのお役に立てるよう尽力いたします」
 志乃もまた、彼女自身は気付かずとも彼女なりの戦いを通して小さな沢山のものを積み重ねていく。
 翼の加護を仲間たちに使用した後、辜月は大禍刻を堪え抜いた時は恐怖を払う光を周囲の皆へと降り注がせた。
 鬼角の術式は、残っていればリベリスタたちの戦力を大きく減じる可能性があるからだ。
 自分は火力は低いけれど、その分他の援護なら出来る。
(出来るだけ皆さんの負担を減らし、力を発揮できる環境を整えます)
 魔力を循環させ早めに回復態勢を整えると傷付いた者たちへと癒しを施し、癒しや浄化の力が必要ない時には能力の使用によって力を消耗した者へとインスタントチャージで力を供与する。
 部隊から逸れた方や単独行動している方には、とくに出来るだけの援護を心掛けて。
「どうか、皆さんが無事に帰れますように」
 辜月も自分にできる、自分の戦いを続けていく。

●第一陣、撃破
 攻略部隊に加わっていた杏樹は、暗視と集音の能力を利用して敵の位置把握や鬼同士の会話等に注意を払っていた。
 誰かに指示を出す声や、印を組む僅かな音も聞き逃さぬようにと留意する。
 特に、ずば抜けて早く印を組む音がないだろうかと注意を払っていた。
 恐らくそれが鬼角である筈。
 戦いの中で彼女が声らしきものを確認したのと、AFを通じて目撃情報らしきものが伝わったのは殆んど同じくらいだった。
 予定では命鬼へと攻めた後、朝日へと合流するつもりだが……如何するべきか。
 ともかく先ずは目の前の敵を。
 スキルによって動体視力を極限近くまで強化した彼女は、女神の名を冠したヘビーボウガンを敵に向ける。
 放つのは魔力によって精製した光弾だ。
「私の眼に映って、逃げられるとは思ってないだろうな?」
 より多くの射線が開くタイミングを見計らうようにして狙い撃つと、次の攻撃を行うべく。
 杏樹は重石弓へと力を収束させた。
「異国人ではあるが、加勢してお前の侵略を阻ませてもらう」
 漆黒の闇を無形の武具として身に纏ったハーケインは、武器に力を篭め血のように赤く染め上げると、命を啜る斬撃を鬼たちへと繰り出した。
 周囲を確認し、手薄そうと感じる場所へと加勢に回る。
 力が限界に近付いた時は魔の閃光や通常の斬撃などを行いつつ気を練り続け消耗した力を蓄積させていく。
 後衛に危害が及ばないようにと敵の動きに注意を払い、必要であれば陽動するように鬼たちを引き付ける。
 その最中も可能であれば、皆と同じ敵へと攻撃を集中させて。
「初めての大勝負だ、調子に乗らせてもらうとするか!!」
 味方からの力の賦与や癒しを受けていても多数の鬼たちへの攻撃は、そして鬼たちからの攻撃は、消耗激しく、負傷も蓄積していく。
「よーし、ここからが本番だっ、アークのリベリスタに遅れを取ってたまるかっ!!」
 それでも彼は運命すらも礎にして戦い続ける。
 誇りを胸に自身の力を高めると、翠華も弓鬼の陣へと距離を詰めた。
「色々と思う事はあるけど……今は、目の前の敵を倒すだけね」
 常に仁義を忘れぬように。意識しつつナイフの狙いを定める。
 弓鬼たちに向かって嵐のような連続攻撃が繰り出され、数体の鬼たちが負傷に呻き声を上げた。
 反撃とばかりに弓の弦が音を立て風切り音と共に複数の矢が翠華や他のリベリスタたちへと放たれる。
 敵の攻撃を、戦況を確認しつつ神夜は体内の魔力を活性化させた。
(厄介な相手だが……勝てない相手じゃないはずだしな?)
「いつもより、気合を入れていくとするかねぇ……」
 活性化させた魔力を循環させる事で態勢を整えると、神夜は周囲の味方へと癒しの福音を響かせた。
 自身と翠華の状況を意識しつつ、消耗が一定以上に達したのを確認すると意識を一時的に同調させ、力を供与する。
「今日の俺は……最初から、本気で行かせてもらうぜ?」
 黒いコートを翻しながら移動しつつ、神夜は戦いについて、次の戦場について考える。
 術鬼、そして途中から炎鬼たちの援護を受けつつも、弓鬼たちはリベリスタたちの攻撃によって次々と撃破されていく。
 リベリスタたちも負傷するが、それらは幾人もの術者たちによって即座に癒された。
「さて、これが鬼の陣形というやつか」
 皆が十二分に作戦は提案し、実行してくれている。
(ならば俺は彼ら英雄の為に少し手を貸してやるだけさ)
 弓鬼から切り崩すという。ならばそこに可能な限り火力を叩き込むとしよう。
 アーゼルハイドは詠唱によって魔力を増幅させると、召喚した魔炎を鬼たちの陣へと叩き込んだ。
 味方の前衛が接触するのを確認すると、そこからは魔曲四重奏、属性の異なる四種の魔術を組み上げ作り出した魔光で敵を攻撃していく。
 精度よりは手数を重視して。
「さて、高貴を気取る鬼。人界の英雄達をお前の所まで送ってやる、討ち果たして見るがいい!」
 味方からの力の供与を受け消耗を回復しつつ、アーゼルバイドは攻撃を続行する。
(有利な陣に引きこもって牽制、防衛か)
「癪だが、確実な手で固めてきたな」
 先ず、弓鬼の攻略。前衛が攻めこんでも後衛に攻めが飛んでくる。
 冥真は散開し集中攻撃を受けないよう位置を取り戦っていた。
 孤立しないようにと注意しつつ、天使の歌で仲間たちを癒す。
 あるいは後衛を中心に敵の攻撃が集中されていないか等を能力も活用して確認し、傷の重い者へと天使の息を使用する。
(ここで誰か倒れるなら、死んだほうがなんぼかマシだ)
「誰も死なせない。俺も死なない。それだけは実現させる」
 彼の想いに応じるかのように無限機関が稼働し続け、彼の癒しの源となるエネルギーを生産し続ける。
 複数の癒しや援護を受けた攻撃手たちによって弓鬼たちは次々と倒されていく。
 他の陣への攻撃によって援護が減少したのも大きかった。
 こうして鬼道九方陣の一角はリベリスタたちの猛攻によって打ち崩されたのである。
 だが、戦いはまだ始まったばかりだとも言える。
 他の戦場でも戦いは続いているのだ。
 皆と共に冥真も次の陣を目指して移動を開始した。

●命鬼陣
 命鬼を狙える地点へと接近していったステイシーは、遮蔽物等を利用して隠れると自身への付与を行いつつAFを使用して戦況を確認していた。
 弓鬼たちの戦力が大きく減少したのを確認すると、命鬼たちの動きへと意識を集中する。
 充分に狙いを定めると彼女は物陰から飛び出し攻撃を開始した。
 力を篭めた十字の光を、命鬼の一体に向けて解き放つ。
 光のもたらす力で相手から平静さを奪い、陣形を崩したり回復行動を妨害するのがステイシーの目的だった。
「怒りの矛先を自分に向けてもらうのも、愛されてる感じですてきよねぇん?」
 攻撃後はすぐに次の標的を決めると、狙いを定めるためにその動きに再び意識を集中する。
 彼女に気付いた鬼たちが攻撃をステイシーへと向ける。
 戦いの起こっていない陣からの援護もやってくる。
「自分の愛でうち倒しちゃうわよぉ~んっ♪」
 ステイシーは敵の援護を防御態勢を取ったりしながら凌ぎ、負傷を厭わず命鬼たちへと攻撃を続行する。
 弓鬼の撃破後に命鬼陣へと移動したミミも、戦いを開始していた。
 自分に癒しの力を付与した後で全身を光り輝くオーラで覆うと、前衛として鬼たちの前へと立ち塞がる。
 彼女が自身に課したのは、仲間たちへの壁という任務だった。
 敵の攻撃を堪え、後衛達へと接近させないように位置を取りながら彼女は特殊な呼吸法で自身の体力を回復していく。
 力の消耗が大きくなればヴァンパイアとしての能力を活用し、複数の味方が大禍刻や援護の雷鬼らの力によって動きを鈍らせれば邪気を退ける光でそれらを浄化する。
 壁役として鬼たちの攻撃に耐えつつ、ミミは周囲の状況を確認していた。
 敵の数は多い。リベリスタ側もかなりの戦力を御庭へと投入したが、個々の戦力ならともかく総力や数で考えれば鬼たちの側が上回るのではないだろうか?
(誰か、危険そうな人が見えるなら、助けに行かない、と……)
 後衛たちの数が多ければ癒しや攻撃の面で頼もしいが、庇う者の数はどうしても不足気味になる。
 破壊の音や喧騒によってしっかりとした周囲の観察は難しい。
 それでもミミは誰かのお役に立てないだろうかと周りの戦況を確認する。
(鬼道九方陣な……陣形としては微妙な気ぃするけど、鬼の特殊能力が加わることで一変しとるなぁ)
「うちは鬼角さんや前鬼後鬼さんに対して因縁あるわけやないけど……決戦の為にも、きっちり潰してかんとな!」
 椿は集中によって処理速度を高めた状態で魔弾や呪いの弾を使用し、負傷の蓄積した鬼を確実に一体ずつ仕留めていた。
 そして、成銀は13代目こと依代椿をかばい続ける。
 常に13代目の傍らへと控え、周囲を警戒し敵の攻撃に備える。
 もちろん戦わない訳ではない。
 敵が近付けば仁義上等と見栄を切り、無頼の拳で応戦する。
 だが、最優先は13代目を庇う事だ。
(13代目がやるべきことをやれるように、そのサポートをするのが自分でございます)
「この命は全て13代目の為、自分は護り熊でございます」
 全ての力は13代目の為。
(決戦に向ける力、ぜひとも13代目に繋げたい)
「難しい事はよくわかんないけど……十三代目についていくよ」
 血の掟を自身に刻んだ夏海も、フィンガーバレットと拳で戦いながら十三代目から離れないように注意していた。
(一応護衛のつもりだし……)
 もっとも、成銀と比べれば彼女の方は十三代目の為に敵を排除するという役割なのだろう。
「もう、殺してやるっ!」
 複数の鬼たちが近付いた時には寧ろ巻き込まぬようにと踏み出して大蛇のように暴れ狂い、周囲の敵を薙ぎ払う。
 踏み出す事で敵の攻撃を受け限界を超えかけても。
「排除するまで、何度でも立つんだ……」
 うわ言のように口にしながら夏海はボロボロの体を根性で繋ぎ止め、戦い続ける。
 椿はふたりの事を……止めようとはしない。ただ、
(倒れるよぉなら、安全な場所に避難させよか)
 口には出さずにそう思ってから……彼女はふと、知り合いのことを想った。
(慧架さん、鬼角狙って動いとるけど大丈夫やろか?)
「知らん顔でもないし、無茶は止めんと……」

●鬼角との邂逅
 漆黒の闇を無形の武具へと変え身に纏った玄弥は、先ず暗黒の瘴気で複数の命鬼たちを攻撃した。
 そして敵の回復能力を確認すると、攻撃を癒せぬ傷を与える奪命剣によるものへと変更する。
「急所を抉り込むように刺すべし刺すべし!」
 突出し過ぎないようにと注意しつつ、ユーヌと連携し互いの死角を守るように戦闘する。
 ユーヌは不幸を齎す占いで鬼たちを不吉の影で覆い尽くし、回復役が狙われぬようにと符で作り出した鴉で命鬼たちを自分へと引き付けた。
 大禍刻の侵食を受けた者がいれば、癒し手が間に合わないと判断すれば、浄化の光を作り出し周囲へと拡散させる。
 本来であれば命鬼陣の撃破後に鬼角の探索を行う予定だった。
 事前のミーティングでも術鬼のいる中央に鬼角はいるのではと幾人かが話し合っていた。
 同時に、もうひとつの可能性も示唆されていた。
 欲しい援護が全て受けられる場所にいる可能性と、最も重要な陣にいて、そこを崩させないようにする可能性。
 欲しい援護が全て、これは中央という可能性。
 そして、最も重要……もちろん鬼角がそう考えている陣という事になるが、この場合はリベリスタたちと鬼角の思考に大きな差は無いのかも知れない。
 傷付き味方に助けられたリベリスタたちの目撃情報の成否は、すぐに明らかになった。
「来たか、強き心持つ娘よ」
 どこか楽しげな声と共に、ユーヌにとって見覚えのある姿の鬼が……鬼角が、姿を見せる。
 かつての同じように、前鬼と後鬼を従えて。
 それをユーヌは、いつも通りの表情で見返した。
「変わらぬ様子……されど、それでは結果は先日と同じでおじゃろう?」
「そうでもない」
 何度も負けるのは性に合わない。
「底も知れたし、鬼の相手にも飽きて来た」
「貴様っ!? 鬼角様に向かってっ!!」
 よい、と。憤る前鬼を押さえるように口にすると、鬼角は楽しげに眼を細めた。
「それが負け犬の遠吠えでないこと……期待して良いのでおじゃるな?」
 温度が一気に下がるような感触を味わいつつ、ユーヌは構えを取った。
(さて、飄々とした暇人と押して参ってみようか?)
「帰ってゴロゴロしたいし」
 発見を短く皆に伝えると、鬼角たちへと向き直る。
「見つけたらこっちのもんや!」
 玄弥も笛を鳴らし発見の報を周囲に響かせた。
 鬼角に従うように鬼たちが動き、リベリスタたちも迎え撃つ。
 ユーヌの結んだ印は前鬼には避けられたものの、後鬼を中心に多重展開された呪が彼女の動きを封縛した。
「鬼角なら兎も角、お前には効きそうだからな」
 早過ぎる決戦が始まる。
 AFで連絡を取り合う味方から鬼角発見の報を聞いた淳とウルザも、命鬼陣で戦いを繰り広げていた。
 ウルザは脳の伝達処理速度を常に高めた状態で、全身から伸ばした気の糸で命鬼たちへ攻撃を行っている。
 精度の高い攻撃で複数の鬼を精確に狙い撃つことで回復困難な負傷を与え、動きを鈍らせる。
 攻撃を行いつつも少年は味方の動きも確認し、消耗具合にも気を配った。
 特に全体攻撃を行える者と淳の消耗には注意する。
 鬼角を捜索する必要はなかった。離れてはいたものの、ふたりもその姿を捕えていたのである。
 距離を詰める為にウルザは無数に放った気の糸の一部で罠を作り出し、淳の進路を妨害する一体を絡め取り動きを封じこんだ。
「いまだ、――父さん!」
 その言葉に応じるように、或いは幾つかの面で応じないように。
 淳は一気に距離を詰め、鬼角を射程距離へと捉える。
 そして陰陽師の姿をした鬼へと、現実に威力を持った不幸を齎す占いを発動させた。
 ダメージそのものはかすり傷程度でしかない。だが、
「死相が出ているぞ」
 直撃させることによって鬼角が自身に施していた術は破られ、不運の影が鬼の官吏に纏わり付く。
 けれど、それを意に介さず。寧ろ楽しげな表情を浮かべて。
 鬼角は扇子を広げてみせた。
「そちの占い、当たると良いでおじゃるのう?」
 不敵な言葉を交わし合いつつ……戦いは続いていく。

●九方陣の担手
「後衛を守る事は、部隊を、そしてこの場にいる全員を守る事に通じるからね」
 陽動部隊の一員として後衛達の護衛を引き受けていた竜一は、待ち望んでいた報を確認すると、真っ直ぐに目的地へと向かった。
 彼は、鬼角、前鬼、後鬼に狙いを定めていた。
 その三体のどれかの姿が確認されたのならば、真っ直ぐにそこへ向かおうと。
 故に、狙うべき者を見出した竜一は同じ想いを持つ者たちと同じように、命鬼陣へと向かったのである。
 例えるならば、引き絞られた一矢の様に。
 狙うべきは大将首。
 振るうは二刀。
「二刀を敵に突きつけよう、生か死か、をな」
(戦場に立つ以上、俺もまた生死を選択させられる身ではあるが)
 話に聞いた陰陽師風の鬼の姿を確認した竜一は、全身の闘気を爆発させると二振りを大きく振りかぶって距離を詰める。
 命鬼の陣を攻略していた喜平も見覚えのある姿を……命鬼たちに混ざった陰陽師風の姿を鬼を、それに従う者たちを発見した。
 忘れる筈もない、三鬼の姿。
 それでも、激昂して突然仕掛けるような真似はしない。
 乱戦に紛れるようにして喜平は様子を窺うと、命鬼の一体を踏み台にして跳躍し一気に距離を詰めた。
 そのまま高速で同時に複数の方向から奇襲する。
 敵の援護能力を奪う為に。標的は、後鬼だ。
 突然の攻撃によって一時的に混乱した後鬼に目をやった鬼角は、その襲撃者を確認すると楽しげな笑みを浮かべてみせた。
「ほほぅ、自身を弱者と宣(のた)もう兵(つわもの)よ。やはり、来たでおじゃるか?」
「掴み損ねた想い、此処で奪い返す」
 その言葉に鬼角は瞳を鋭く細めると、笑みを浮かべた。
 もっとも冷静に戦いを進めてきた喜平は即座に仕掛けるような、鬼角に固執するような真似はしない。
 最優先はあくまで、陣の破壊だ。
「ヒャハハハハァッ! 行くぜ、デスペラード……狩りの時間だッ!」
 破壊の闘気を常に前進に漲らせた零六は、オーラを雷へと変換し自身の武器へと注ぎ込み鬼たちへと叩き込む。
 鬼角発見の報の後、幾人もが彼の撃破に動いたことを確認した零六もまた、命鬼陣へと攻め込み戦いを続けていた。
 先ずは陣を形成する鬼たちへと攻撃を仕掛け、鬼角たちを確認すると背のブースターを強引に噴出させ後鬼に対して強襲を敢行する。
「そこで……踊ってやがれッ!」
 色の白い戦装束の女鬼は、完全な回避はできなかったものの直撃を避けると、反撃は行わず癒しの力を周囲の鬼たちへと施した。
 代わりに他の鬼たち、命鬼たちが零六へと攻撃をしかけてくる。
 鬼角が呪力によって生み出し続けている冷たい雨も、彼の体力を奪っていく。
 そのダメージは圧倒的だった。
 降り注ぐ氷雨はそれだけで数体の鬼たちの攻撃以上の力で、零六の耐久力を消耗させていく。
 それでも、零六は歯を食いしばり折れかける膝に力を篭め、闘気を滾らせた。
「主人公は、決して倒れねぇ……来いよ、俺はまだ、戦える」
(俺には……やらなくちゃいけねぇ事が有るんだよッ!)
 刈り取る者の形状を取るデスペラードが、主の意志と共に振り被られる。
(御庭を制圧する事は本丸を攻略する上で大切な事です)
「鬼角を討ち、その術を破り、本丸の攻略へと繋げる為に……ここは何としても、征します」
 戦場が大禍刻の影響下にあり、これの効果を受けたままでは戦闘すらままならない。
 そう考えたユーディスは、周囲の仲間たちが本来の力を発揮できる事を最優先に行動を行っていた。
 邪気を払う光で鬼角の術を退け、既に味方が回復済みの場合にのみ攻撃に参加する。
 そんな彼女が定めていた最優先事項のひとつが鬼角の撃破である。
 彼らを視認したユーディスは、力を篭めた十字の光を後鬼に放った。
 相手の心を乱し自分に引き付ける事で、防御や鬼角を庇う行動を行わせない為である。
 もっとも、敵は三鬼だけではない。
 命鬼たちに対しては武器に破邪の力を篭め、或いは吸血の力を利用して消耗や負傷を軽減しながら彼女は懸命に戦い続けた。

●炎鬼陣、強襲
 九十九と付喪は弓鬼撃破後、炎鬼陣へと攻撃を仕掛けていた。
 九十九は集中によって動体視力を強化したのち、精密の高い射撃によって炎鬼たちを一体ずつ狙い撃つ。
「たまには身内と組むのも悪くはないですな。鬼さんこちら手の鳴る方へって奴ですぞ」
 鬼角の術によって戦場一帯にはリベリスタたちの力を弱める結界が張り巡らされている。
 だが、九十九はあまり気にする様子もなく鬼たちへと攻撃を続けていた。
(銃の威力が下がったのなら、相手の脆い所を狙えば良いのです。防御が甘くなったのなら、当たらなければ良いのです)
「くっくっく、私は鬱陶しいですぞ?」
 容易い事ではない。だが、温羅と戦う仲間のためにも。
(鬼道九方陣、此処で破らさせて頂きますかのう)
 銃口を鬼たちへと向けると引き金を引く。
「たまには、身内と組むのも悪くはないね。壁役、頑張りな九十九」
 詠唱によって魔力を増幅させた付喪は魔炎を召喚し炸裂させ、距離が詰まった後は作り出した雷を拡散させ炎鬼たちへと攻撃した。
 次の陣に移る前に消耗した力の補充は受けているので、攻撃の方はまだ余裕はある。
 が、耐久力という点では厳しいかも知れない。
(さあて、あんた達はこう思ってるのかねえ? 私達は弱体化してるって)
 甘い、甘いよ、と。付喪は呟いた。
「多少弱った所で、私の術の冴えは変わらない事を思い知りな!」
 一体一体の攻撃は強力とはいえないが無視できない威力をもつし、何より数が多い。
 そうであるならば、直接自分へと攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
(けど、それも甘いね。伊達に盾なんて装備してないんだ。近付けば楽勝なんて思わない事だね)
 こちらは寡兵。敵は多数。それでも、一体でも多く倒してやる。
「派手に散らせてやるから覚悟しな」
 ふたりは負傷を物ともせず戦い続けた。
 これによって炎鬼陣からの盾鬼への援護は……短時間ではあるものの、再び中断される事となる。

●陽動部隊と攻略部隊
 鬼角が命鬼陣に存在する事を確認したモヨタは、周囲の仲間たちへと連絡しあってから先にいない陣へと攻め込んだ。
 鬼角を倒すためにはその周囲の陣を何とかしなければならない。
 そう考えての事である。
 鬼角を標的としていた者達に命鬼陣を託す形で攻略部隊が向かったのは、当初の予定通り陽動部隊と朝日が攻撃している盾鬼陣だった。
 モヨタは闘気を全身に漲らせると、オーラを雷へと変換し機煌剣・プロミネンサーブレードへと注ぎ込むと、渾身の力で斬撃を叩き込む。
 弱っている鬼を狙って、数を減らすことを優先して。
「こいつら倒しゃ温羅との戦いも有利になんだろ?」
(皆のためにも気合入れていかなきゃな)
 消耗や反動で蓄積した疲労や負傷が大きくなると、攻撃をエネルギーを武器へと篭めたメガクラッシュへと変更する。
 それでも彼の攻撃は鬼たちに対して充分な効果を発揮していた。
 直撃しない事も幾度もあったが、それでも鬼たちが受けるダメージは少なくない。
 鬼角と直接相対する者たちを別の形で支援するように。
 少年は陣へと斬り込んでいく。
(右も左も鬼だらけだったですぅ。ここにも鬼がいるですぅ。あたしの攻撃うけるといいですぅ!)
「……と言いたいところですけれどあたしひとりではさすがにどうにもできないのですぅ」
 そう言う訳でマリルは離れた場所から能力を使って敵を狙撃していくという戦法を取った。
(1匹ずつぷちぷち攻撃してやるのですぅ)
 負傷していると思われる鬼の動きを見切って狙いを定め、逃れる暇も与えずに。
 とにかく相手の数を減らしていくことを最優先。
 発見した鬼たちが盾を構え接近してきても、彼女は怯むことなく攻撃し続けた。
「この先にもまだまだ戦いがあるですから倒れていられないのですぅ」
 運命の加護で受けた傷をこらえ、マリルは短弓を引き絞る。
 戦いは所々で乱戦の様を呈し始める。
「御庭は一番アークにとって不利な地域と聞いた」
 だから此の戦場を望んだという琥珀は、味方と連携し戦闘を行っていた。
(今の俺では出来る事は限られているが、援護射撃くらいはできると思う)
 仲間たちと同じ目標を狙い、早撃ちで急所を撃ち抜いていく。
 あらかじめ皆で決定した優先目標に従って、1体ずつ、確実に。
(陽動部隊の一員として、後方支援を行おう)
「支援と言っても、攻撃であるがな」
 攻撃は最大の防御ともいうであろう?
「我が暗黒にて敵を範囲攻撃にて巻き込み、打ち倒して見せよう」
 その前に、倒れては意味もあるまいとカインは敵の攻撃を減じ、無力化する闇のオーラを身に纏った。
「我は貴族であるからな。鬼などというものが、民草に手を上げることなど看過できん!」
 自身の生命力を暗黒の瘴気へと変換し、鬼たちに向けて解き放つ。
「ただひたすらに敵を撃つべし。討つべし!」
 貴族には貴族の責務というものがある。
(今こそ、その責務を果たし遂げる時ぞ!)
 気勢を上げよ!奮い立て!
「我らが背後には、億を数える民たちの命が在るのだ!」
 自分を鼓舞するかのように言葉を発しながら生命と精神の消耗を厭うことなく、カインは攻撃を続けていく。
(癒します……この力の限り……誰ひとり失わせはしません……)
「この体に宿る全ての力を今この一戦に……」
リサリサは光のオーラを鎧へと変化させ後衛たちに付与していく。
 終わったら、前衛の者たちへも。
 後衛の者たちを庇えるように位置しながら、彼女は守護の力によって仲間たちの傷を癒し、体の異常を消し去っていく。
「ワタシの力は守る力……」
(もう何も失いたくありません……失わせない……)
「だからワタシはもう逃げません……必ず止めてみませます」
 自分が倒されない限り、後衛の者たちは力を最大限発揮できるはず。
(そうワタシの役目は守る事、守り…癒し…命の炎を消さない事……)
「大丈夫ですっワタシの防御はこの程度では崩れませんっ!!」
 仲間たちへと呼びかけ、励ましながら。
(守ります……ワタシは絶対に……誰も失いたくないんですっ……)
 リベリスタたちは戦いを優勢に進めていた。
 元々陽動部隊と朝日が攻撃を仕掛けていた事もあって、盾鬼陣の被害は大きかった。
 命鬼陣を攻め続けるリベリスタたちがいるお陰もあって回復の援護はなく、途中一時的にだが炎鬼陣からの援護も中断される。
 その状態で攻略部隊も加わったリベリスタ達の大攻勢を凌ぐことは、守りに優れた彼等であっても不可能だった。
 盾鬼陣を撃破したリベリスタたちは、二手に分かれて行動を開始する。
 次の目標は……隠鬼陣と、雷鬼陣。

●隠鬼陣攻略
(鬼と人……どれ程の違いがあるんだろうな? ……鬼よりおぞましい外道は腐る程いるさ)
「いつも通りやるさ……命を賭けてな」
 巽は後衛を狙ってくる鬼たちをブロックする事を自身の任務として戦場に身を置いていた。
 もっとも、この陣での相手は隠密行動を得意とする鬼たちである。
 完全にブロックすることは難しいと判断した巽は、後衛たちを庇う事で被害を抑えようと考えた。
「……弱さは罪。だが、弱いから何もしないことこそ、最悪の罪悪だ」
 特に回復手たちを守ろうと考えた巽はその近くへと位置を取り、同時に機を見て力が枯渇しないようにと疲労等を確認しながら気力の付与を行っていく。
 やれるだけやる、あがくだけ足掻く。
「……あのときとは、違う」
 受ける傷を物ともせず巽は鬼たちの前へと立ち塞がり、後衛の仲間たちを守り続ける。
 美峰は中衛に位置を取りつつ味方を回復すべく癒しの符を作り上げた。
 最初に作成した影人たちはここまでの戦いによって消滅してしまっている。
 加えて守護結界を張り直し常に援護の鬼人を自身に付かせるとなると……気を練る事で消耗はある程度は抑えているものの、そろそろ厳しくなってくる。
 攻撃しないというなら兎も角、氷雨を使用するとなるといずれ間隔が必要になるかもしれない。
 幸いなことに力を供与してくれる味方に恵まれ、美峰は力を回復した。
 新たに影人を1体作成すると味方との攻撃に参加させながら、彼女は負傷した前衛の一人へと傷癒術を使用する。
 自分自身は隠鬼たちの戦い方に苦戦しているものの、警戒の呼びかけ等によって敵の能力による不利は少しではあっても軽減されていた。
 隠鬼攻略部隊に幾人ものビーストハーフ達が加わっているが故である。
 他にも不意打ちを避ける能力等を用意している者もいる。
 それらの仲間たちを癒しの力や守護の結界で援護しつつ、足りているとなれば冷たい雨を召び出して。美峰は戦い続ける。
「死角を作らなければいいのだろう?」
 蒼龍は石瑛と背中合わせになりながら口にした。
 二人は攻略部隊の一員として隠鬼たちの陣へと攻撃を仕掛けている。
 鬼たちは闇などの視界の悪さや自身の姿を利用して不意打ちや急所を狙った攻撃を行ってくる。
 石瑛はそれを圧倒的な反射神経で察知することで奇襲を回避していた。
「石瑛は動きたいように動けばいい。その自由な奔放さが石瑛の魅力だ。背中は俺が護ってみせる」
 蒼龍は闘気を前進に巡らせた後、エネルギーを武器へと収束させ一閃を放つ。
 守護の結界を巡らせた石瑛は呪力で冷たき雨を降らせる事で凍結によって周囲の敵を攻撃していた。
 隠鬼の陣は他の陣からの援護も受けている。
 雷鬼たちの陣へは陽動部隊が向かってくれている事で援護は無いが、槍鬼陣と術鬼の陣からはそれぞれ援護が行われていた。
 傷の蓄積を確認すると石瑛は癒しの符を作り出す。
(わたしの力ではリベリスタ全員を癒す事はできません)
「でも一番大切な彼だけは絶対に確実に癒して見せますよ」
 ふたりは庇い合うようにして戦い続ける。
(今度こそ大切なものを護ると誓った)
 石瑛を護る。俺の大切なものだからだ。
「この絆は断ち切らせん」
 隠鬼たちの攻撃が、槍鬼たちの反撃がふたりを傷つける。
 ふたりはそれを運命の加護で捩じ伏せた。
「あいにく鬼に負けるような運命は持ち合わせていませんよ」
 わたしの運命は蒼龍さんと共に生きていくためにあるんですから。
「共に生きる、その為にも死なない、死なせない」
 遥かなる道筋を歩まんとするこの龍の、大切な翼だ。
 石瑛の言葉に蒼龍が続けるように口にして、二人は背中合わせに戦い続ける。
 集中によって狙撃手としての感覚を研ぎ澄ますと、木蓮は銃弾の貫通力を高める為に魔力を篭めた。
 自身の能力のおかげで不意打ちの心配はないが、急所狙いは用心しなければならない。
 できるだけ仲間たちの多い場所に陣取り、可能な時は周囲を警戒する。
 そして狙いを定め……発射された銃弾は隠鬼の一体を撃ち抜いた。
 充分に狙いを定めれば直撃させられるが、それが難しい場合は動きを見切る方に力を使い魔弾で撃ち抜いた方が確実だろう。
 もっとも、その場合は攻撃力の方が大きく減少してしまう。
 敵が複数いる事を考えれば光弾の同時発射も挟みたい所だが、そちらも精度を考えると充分照準を合わせねばならないかも知れない。
(一体でも多く減らせるように善処するぞ!)
 木蓮は静かに強く呟くと、仲間たちと同じ目標へと銃身を向ける。
 感覚を研ぎ澄ましたアシュリーも、仲間の攻撃した鬼を巻き込めるようにと意識しつつ光弾を放って複数の鬼たちを攻撃し続けていた。
 自分の能力を活かして不意打ち等には特に注意し、事前に気付くことが出来れば対応できていない仲間へと警告する。
 負傷者が増えた場合は回復も考えていたが、幸いなことに隠鬼陣の方では負傷者の数は増えてはいても緩やかで、彼女が警戒するレベルに達してはいなかった。
 もっともAFで確認する限りは雷鬼陣の方へと攻め込んだ陽動部隊の方が、戦力がやや少ない事もあって危険とまでは言わないものの苦戦しているようである。
 幸いなことに隠鬼陣の攻略は、戦力が充分だったことや複数のビーストハーフたちが警戒を行うなどで味方を支援したお陰で大きな被害を出すことなく達成できた。
 仲間たちと共にアシュリーも次の攻撃目標である雷鬼陣へと到着する。
 到着した彼女は自身の任務を攻撃から、味方の支援へと変更した。
 負傷によって戦闘不能となった者を、敵の射程外へと搬送する。
 もちろん、鬼たちの被害も小さくはない。
 だが……幾つもの陣を打ち破ってきたリベリスタたちの負傷が、消耗が、回復量を上回り始めていたのも紛れもない事実だったのだ。

●雷鬼陣陥落、陽動部隊の決断
「こいつらを何とかしねぇと温羅の守りが堅くなっちまうんだよな」
 しっかり陣を組んで援護し合う厄介な相手ではあるが、何も連携するのは相手だけじゃねぇんだ。
「こっちもチームワークを見せてやろうぜ?」
 身体のギアを上げる事で反応速度を高めていた吹雪は、淀みの無い高速の連続攻撃で鬼たちを追い詰めていた。
 敵の身体能力は高いとまでは言えないが、低いと言い切るのも難しい。
 数度の攻撃で相手の地力をおおよそ確認した吹雪は動きに集中しての攻撃を試してみる。
 このほうがやはり直撃の可能性は高くなるか?
(消耗したら幻影剣、それも使えなくなったら物理通常攻撃で殴るしかねぇか)
 そんな事を思った直後、味方の確認をしていたリベリスタの一人が彼へと力を供与した。
 短く感謝の言葉を述べると、吹雪は再び鬼に向けて連続で斬撃を繰り出していく。
(ふほほ……老骨を埋める戦場には上等すぎるわい)
「では、行こうかのう」
 前衛か中衛辺りにと位置を取りつつ城兵は前衛として戦う者たちへ癒しの力を付与していた。
(陽動部隊は少数で赴く以上、消耗も激しいじゃろう)
 大禍刻や雷鬼の攻撃で力を弱められ、あるいは動きを鈍らせた者が多数いれば邪気を払う光を作り出す。
 回復が追い付かず体力が危険なものがいれば、身を挺して庇う。
「なに、死ぬは年の順よ」
 年寄りより若者が先に死んではならぬ。
 静かに、そう口にして。
 痛みを堪え、運命の加護で壊れかけた鋼の身を動かして。
「ゆけ。屍を乗り越えて、唯前へ」
 促すように口にする。
 鬼か人か、そんなことは関係ない。
 勝てば勝利の凱歌を、敗れればただ蹂躙されるのみ。
「だから戦うのだ、我々は」
(正邪の別など戦いの果てに生き残ったものがゆっくり考えればいいさ)
 序盤は強化の能力は使わず、敵数を減らすことを第一とする。
 狙うのは極力傷ついている敵か、周囲の前衛たちと同じ目標だ。
 高速で動き、複数の敵に斬撃を浴びせていく。
 零二の戦い方はどの陣でも基本は同じだった。
 敵前衛と此方の前衛が同数程度まで減じてから、闘気を全身に巡らせる。
 集中攻撃されている味方がいれば、そこに取りつく鬼たちを優先し攻撃を仕掛けていく。
 死力を尽くし、運命を燃やす。
「全てを刃に乗せただ振るうのみ」
 零二はバスタードソードを振るい、鬼たちの数を減じていく。
「本来、頂点たる(予定の)私が群れる必要などないのだが……今回は特別に私の力の一端をお見せしよう!」
 後衛攻撃手への気力賦活を行ってきた秋は、雷鬼との戦いでは同じ後衛でも回復役への賦活を行っていた。
「ふははは、気にすることはない、存分に戦いたまえ」
 攻撃であれ回復であれ威力の高い者を優先し、能力を使う為の力を供与していく。
 移動時すら手を惜しまず前衛たちへも力を分け与えた結果、秋の力は早々に尽きる。
 それでも彼は敵から狙われる後衛を庇うという形で隊へと貢献し続けた。
「なんという強さ……! 私を狙うとは……フフ、やるな貴様」
 ぐはぁ、と表情を歪めつつも戦いを続行し、負傷をフェイトで抑え込むと同時に力を一部回復させると、秋は後衛達への賦活を再開する。
 守は邪気を退ける光を放って味方の受けた力を浄化しつつ、負傷した者たちを庇い続けた。
 万が一の時は撤退も考えなければならい。
 そう思い戦況を窺うが……少なくとも今のところは、その必要は無さそうに思う。
 もちろん多くの者が傷付き、戦えなくなっている者もいる。
(……凄い強敵、恐ろしい軍勢)
 けれど、と。ルークは自分に言い聞かせせた。
「……恐怖で足を竦ませている場合じゃない」
(未来へ……一歩、踏み出すんだ)
 周りの皆が少しでも戦いやすいように、できる事を精一杯。
 前衛と後衛の中間辺りに位置を取ると、少年は他の仲間たちと手分けするようにして周囲のリベリスタたちへと翼の加護を付与していった。
 おおよそでタイミングを確認し、常に加護を維持できるようにと意識しつつ、続いて邪気を払う聖なる光を手に灯す。
 前衛を抜け後衛を向かう敵をブロックできるようにと注意しつつ、癒し手で狙われる人がいた時は庇えるようにとも考えて。
(死ぬのは怖い……けど)
「何もできずに死ぬ事で仲間が倒れている未来こそ、一番怖い……!」
 だから。勇気を振り絞って。
 ルークは戦場に立ち続ける。
 周囲の味方へと施した意志の力を高める十字の加護と、エネルギーを守りへと特化させた完全なる防御態勢。
 要はその両者を常に切らさぬようにと注意を払い、時が近付くと新たに力を味方や自身へと施した。
 そして、遠距離攻撃を持たない敵の戦場では前衛として敵の突破を阻み、遠距離攻撃を行える敵のいる戦場では回復役たちを庇うように戦闘を行っていく。
 班にはこだわらず、とにかく同じ戦場、陣で戦う癒し手をできるだけ攻撃から守るように。
 敵の攻撃や味方の位置に注意を払いつつ、敵の攻撃や鬼角の施した術式によって力を発揮できない味方がいれば……庇っている回復役たちの体力が充分に残っている事を確認してから、浄化の光を作り出す。
 やがて隠鬼陣が打ち破られ、攻略部隊の者たちが雷鬼陣への攻撃に加わって……この陣での戦いも終局へと近付いた。
 槍鬼陣へと攻め込んだ朝日によって雷鬼陣への槍鬼たちの援護がなくなったことも大きい。
 攻撃の度に反撃によって受けていた負傷がなくなったのである。
 リベリスタ側には援護が加わり、対して鬼道側は援護を失い……やがてリベリスタたちの手によって雷鬼陣も打ち破られた。
 そして、ここで主力は大きく分かれる事になった。
 大きく消耗し重傷者戦闘不能者を多数出した陽動部隊は、残りの全戦力で鬼角のいる命鬼陣への攻撃を決定する。
 武臣は既に負傷によって戦線離脱していたが、事前に皆で確認しあっていた為に混乱等はなかった。
 攻略部隊はそのまま、陣の中央となる術鬼陣へと攻撃を仕掛ける。
 これは、術鬼たちが命鬼陣を援護するのを妨害する役割も担っていた。
 戦いの途中ではあるものの、実質的に次の段階は……此の陣における決戦の意味を持っていたのである。
 リベリスタ達の戦力が陣の機能を破壊するか、鬼道が陣を維持してリベリスタたちの戦力を半壊させるか。
 御庭の一角で行われていた戦いは、最終段階を迎えようとしていた。

●戦いと戦いの間に
「色々どうでもいいって生きてきたけど、ここに来てそんなコト言えねえよ」
大事な仲間が命懸けてんだ。
「気力体力の続く限り、どこまでも追っかけるぜ」
 プレインフェザーは後衛から仲間たち全体の様子を確認しながら行動していた。
 脳の処理速度をスキルによって向上させ、その後は消耗した味方への力の供与を最優先に。
 自分の消耗が激しくなれば同じように力を注ぎ込む事でエネルギーを補充して。
 それらが必要ないと判断すれば、気の糸で精確に離れた敵を狙い撃つ。
 動けなくなるほどの傷を運命の加護によって捩じ伏せて戦い続け……隠鬼を撃破した攻略部隊が加わり雷鬼陣を打ち破った時に、傷付いた彼女は節目を感じた。
「足手纏いになンのはな……それに、生憎とまだ生きる予定なんだ」
(頼むから、誰一人、死ぬんじゃねえぞ)
 戦っている者へ呼びかけて。
 倒れている重傷者に手を貸して、周囲を警戒しながら彼女は後退する。
 明鏡止水。
(怒りに目を曇らせず、私の成すべきを成しましょう)
 攻略部隊の一員として戦い続けた大和は、雷鬼陣を打ち破った後、鬼角たちの守る命鬼陣へと向かっていた。
 陽動部隊の方も死者は出ていないものの多くの重傷者、戦闘不能者を出した事で残りの戦力を纏め鬼角へと向かう形になっている。
 攻略部隊の方は次の目標である術鬼陣へと向かったらしかった。
 鬼角たちを打ち倒す上で、消耗した力を補充するという術鬼たちの存在は無視できないものがある。
 陣の攻略と同時に鬼角の打倒という面でも重要な作戦だ。
 九方陣の半数近くが破られたにも関わらず、今だ命鬼陣が破られる事なく機能しているという事が、陣が機能し援護を受けている場合の強固さを物語っている。
 大和は命鬼陣へと近付くと、鬼たちの動きをしっかりと捉え、呪力によって不幸を齎す赤い月を作り上げた。
 幾体かの鬼たちは受けた異常を痛みへと変える赤月の呪いで更なるダメージを受ける。
 そのまま大和は黒のオーラで鬼たちを攻撃しつつ仲間たちの許へ、鬼角のいる戦場へ接近していった。

●槍鬼陣への援護妨害
 味方と共に隠鬼陣を破った未明は、チームメンバーたちと共に敵陣を迂回すると槍鬼の援護を妨害する為に移動していた。
 移動の足並みをそろえ、其々の位置を確認する。
 そして一気に、後衛陣の遠距離攻撃に合わせるようにして、先陣を切って槍衾を並べた鬼たちの列へと突進した。
「人間相手に槍衾だなんて、意気地のない鬼もいたものね!」
 挑発するように口にしながら闘気を篭めた武器を、穂先を撥ね跳ばすように一閃させる。
 鬼たちはその攻撃に抗するように槍を並べ彼女へと攻撃を開始した。
 数度の攻撃を行ったのち未明は攻撃を速度重視のものへと切り替える。
 高速で仕掛ける多角強襲攻撃に鬼たちの幾体かは彼女の動きを捉えきれずに混乱する。
 そのまま未明は仲間たちと共に攻撃を続行する。
「よくもまあ、こんなに大勢鮨詰め状態で集まったもんですね」
 どうぞ一網打尽にしてくれと言わんばかりですよ。
 前衛からは少し後方、中衛から後衛と呼ばれる位置を取りつつモニカは極限なまでの集中力によって動体視力を強化した。
 ここまでの戦いで大きく消耗はしたものの、その分は仲間たちから充分な力の供給を受けている。
 彼女自身の無限機関も消耗されたエネルギーを補充しようとフル稼働を続けていた。
 少なくとも数回の射撃を行うには充分な量を確保できていると判断したモニカは、対戦車ライフルを基に自身の手で開発改造した対物重火器を鬼たちへと向ける。
 狙いを定め、引き金を引き、嵐のような攻撃が開始された。
 目標を文字通り蜂の巣へと変えるような攻撃を浴び、鬼たちは傷付きながらも槍衾を形成し反撃に転じようとする。
「まぁそう簡単にはいかないのが戦の常ですが、邪魔者の露払いぐらいはさせてもらいますよ」
 反撃を受けつつもモニカは怯むことなく嵐のような攻撃を続行していく。
 後衛に位置するフツも朝日の一員として槍鬼陣へと挑む。
 これまでと同じように発光によって隊の皆の視界を確保し、翼の加護を付与し守護結界を張り巡らして。
 彼が特に注意を払うのは味方の負傷と状態異常だ。
 負傷で耐久力が半減した仲間が複数いれば詠唱で癒しの福音を響かせる。
 大禍刻の瘴気を受けた者が同じく複数いれば邪気を払う光を作り出す。
 結界や加護の効果も確認し、時が過ぎればかけ直す。
 少なくとも効果を打ち消される心配は槍鬼陣では無かった。
 もっとも、攻撃に対しての反撃がある以上、別の意味で厄介な陣であることは変わりない。
 特に範囲攻撃を行う者たちにとって此の陣は脅威となる存在と言えた。
 だからこそ、放置する訳にはいかない。
 回復が必要ないと判断すればフツも迷わず攻勢に転じた。
 動きを封じる特殊な結界は、敵を傷つけることなく動きを鈍らせる。
 それ故に槍鬼たちの能力による反撃を受けることはない。
 回復を最優先にしつつ、フツは隊を支え戦い続ける。
 雷音も朝日の皆と共に槍鬼陣へと攻め込んでいた。
「來來氷雨! すべてを凍りつくせ!」
 後衛から陰陽・氷雨……敵を凍結させる冷たい雨を周囲へと降らせ続け、一気に押し切るくらいのつもりで消耗を気にせず印を結んでいく。
 後衛でダメージが大きくなった者がいれば傷癒の符を使って回復させる。
 状態異常に対してブレイクフィアーも用意してきたが、幸いフツがそちらの面での支援に専念してくれる形になっていた為、雷音は攻撃に専念する形になっていた。
 その為に彼女も鬼たちの反撃能力によって傷ついていく。
 一撃一撃は小さなものだが、広い範囲を攻撃する者にとってはその累積は無視できないものがある。
 それでも雷音は怯むことなく印を結び、氷の雨を呼び寄せた。
(ここを落とせば、鬼角を落とせば、この恐ろしい戦いに終止符を撃てるのだ)
 戦いが続き味方の負傷が蓄積し始めフツが回復に専念するようになると、大禍刻の瘴気を退ける為に雷音も邪気を払う光を作り出す。
(足がすくむけれど、でも……ボクは前に進む)
 明日、みんなと笑顔でいたいから。

●鬼角との決戦
「漸く会えました……では、今度こそ決着をつけましょう」
 鬼角と対峙したカイは静かに、しかしハッキリとよく通る声で口にした。
「お久しぶりです、今度こそ私達が貴方達に勝ってみせます」
 続くように慧架も、構えを取りながら口にする。
「……よきかな」
 よきかな、実によきかな。
 ふたりの闘気を、戦気を真っ向から浴びながら鬼角はえもいえぬという様子の笑みを浮かべた。
「言葉にならぬ、まこと……どのような美酒より甘美なる味わいにおじゃる」
 そんな言葉を交わし合い、ふたりも鬼角との戦いに加わって……どれだけの時が流れただろうか?
「ここまでとは、のう?」
 傷付いた鬼角は、それでも楽しげな……狂気すら含んだようにも感じられる笑みを浮かべていた。
 幾人もリベリスタたちが傷を負い倒れ、それに数倍する鬼たちも倒れていた。
 もっとも、多くの癒し手たちが居なければリベリスタたちの被害はもっと大きなものとなっていたことだろう。
(さおりん、ここは厳しいエリアですけれどあたし頑張って癒しの歌を歌っているです)
「あたしに愛情パワーで勇気と力を下さいです」
 そあらは詠唱で清らかな存在に呼びかけ、癒しをもたらす福音を響かせる。
 回復能力を持つ他の者と被らない位置を取りつつ、声を掛け合う事で無駄な重複を避けるように意識して。
 相手が知性を持つ存在である以上狙われる可能性も高くなるが、それよりも味方の回復を優先する。
「あたしの癒しの歌声、皆さんに届けなのです」
 皆が鬼角の術によって力を奪われていると感じれば高位存在の力の一端を導き、聖神の息吹を仲間たちへと優しくふりまいていく。
 味方が耐え切れる状況があれば、それを利用して魔力の循環を再開させ、自身の力を強化する。
 癒し手である彼女は当然敵の攻撃に曝された。
 前衛や中衛たちが懸命に守ろうとするものの、彼ら彼女らも傷付き、何より人数が絶対的に足りない。
 それでも、傷を物ともせず。運命の力を借りてねじ伏せるようにして。
(皆頑張って! 矢を奪い取ってほしいのです)
 そあらは癒しの力を周囲へと、仲間たちへと、優しくふりまき続ける。
 それに応える為に。
 カイは全身から気の糸を放出し、変幻自在に姿を変える意志持つ影と共に攻撃を仕掛けた。
 慧架も続いて踏み込み、一気に組み付くと雪崩の如き投げ技で鬼角を地面へと叩きつける。
 それらの攻撃を華麗に避け、あるいは防御姿勢すら取らぬのではと思えるほどに受けながら。
 鬼角は淀みのない動きで印を結ぶ。
 それに応えるように骨すら凍りつかせるような雨が、リベリスタたちに降り注ぐ。
 耐久力に劣るものであれば、運悪く二度受ければそれだけで戦えなくなるほどの危険な氷雨。
「逆棘の矢……相応しき方に委ねる為にも、必ず」
 痛みを堪え、カイは構えを取り慧架も大雪崩落を続けざまに仕掛けようとする。
 其処へ。
「……申し訳、ございませぬ……鬼角様」
 二体の鬼が、前鬼と後鬼が幾体かの命鬼たちと共に現れ、崩れ落ちた。
 戦いによって引き離されていた幾人かのリベリスタたちが合流する。
「今までよく仕えてくれた。共々、ゆるりと休め」
 その言葉が聞こえたのかどうか……二鬼はそのまま瞳を閉じる。
 命鬼たちはそのまま鬼角を守るように位置を取り、リベリスタたちも構えを取った。
 ウルザが命鬼たちへと気の糸で攻撃を仕掛け、淳が鬼角へと不運を齎す占いを施す。
「今度こそ……だ、ぶちくだけろぉぉ鬼角ゥゥウゥ!!!!」
 喜平は光の飛沫を散らす華麗な攻撃で鬼角へと挑みかかる。
 大和は唯、鬼角の動きに集中した。
 充分に、絶対に外さぬように狙いを定める。
 集中攻撃によって限界へと近付いた鬼角は、それでも印を結び氷雨を呼び寄せる。
 見事な結印によって作り出された雨は、守りを打ち砕くかのように降り注ぐ。
 大和はそれを運命を力に耐え抜くと……全ての呪力を費やして、赤き月を作り出した。
「貴方達へは二の太刀があるなど考えません。この一撃に全てを賭します!」
(倒しきれずとも、後の人が生かせる機会を生み出してみせます!)
 神秘の力によったその攻撃は、鬼角にかすり傷程度のダメージしか与えることはできない。
 だが、皆が鬼角に刻み込んだ幾つもの傷が、異常が、呪いが……防ぐ事の出来ぬ痛みへと、変換された。
 表情をほとんど変えなかったのは、最後の美学だったのかもしれない。
「……見、事……」
 鬼角は静かに息を吐くと、扇子を手に詩でも歌うかのように口を開き……そのまま、崩れ落ちた。
 その瞬間だった。
 何かが激しく揺れるような感覚と共に、周囲に漂っていた空気が変わる。
 禍々しく不気味な瘴気が急速に薄くなっていく。
 確かに、鬼角の術を破った事を感じつつ。
 大和は倒れた鬼角に静かに歩み寄ると、その懐から……一本の矢を、取り出した。

●九方陣、破るる
 攻略部隊に加わった理央は隊の攻撃目標を意識し、皆との確認を行っていた。
 雷鬼陣までを打ち破った攻略部隊は術鬼陣へと向かう。
 理央は最前線から少し下がった場所に位置を取り、後方支援に徹する形で戦闘を行っていた。
 守護結界を展開し続け、翼の加護を絶やさぬように賦与していき、合間に天使の歌での回復を行っていく。
 攻撃も考えてはいたものの、結局彼女は癒しや援護にほとんど全てを費やし続けた。
 後衛の者たちが狙われ難いように前衛を突破しようとする敵をブロックし、その間にも周囲を確認する。
「私自身は戦えるほどの力量は無いが……君達の懸念材料を除去する事は出来る」
 戦場を発光で照らし味方の視界を確保つつ、卯月も攻略部隊に同行していた。
 味方が常に翼の加護を受けた状態にあるように意識しつつ、周囲の皆に対して魔力を供給する。
 自身が枯渇しそうな時は最優先とした上で、全体回復を行える者を優先し、次いで多数を攻撃できる者へ。
 それでも余裕がある時は周囲で最も消耗している者へ。
 周囲の味方の消耗をチェックしつつ、卯月は順次消耗した力の回復を行っていく。
 味方の視界を確保するための光故に敵の攻撃目標とされる可能性は飛躍的に上昇した。
 中衛や後衛で味方を庇うリベリスタたちはいるものの、その数はどうしても不足してしまう。
「私が倒れたら誰が魔力を供給するんだ。倒れるわけには行かないね」
 それでも、敵の攻撃を堪え回復が追い付かずとも運命を振り絞るようにして。
 卯月は自身に課した責務を果たし続ける。
 個々の信念によって死力を尽くす者がいれば、集団の為に献身する者がいる。
 攻略部隊は当初の予定を守り、確実に陣を攻略していった。
 その最中だった。
 周囲を満たしリベリスタたちを蝕んでいた瘴気が急に重みを無くしたかと思うと……ゆっくりとそのまま薄らいでいく。
 AFを通して響く味方の声。動揺する周囲の鬼たち。
 ひとつの結果。だが……戦いそのものは、まだ終わってはいない。
 攻略部隊のリベリスタたちは、動揺した鬼たちをそのままの勢いで攻め続けた。
 術鬼たちも懸命に立ち向かってくるが、連携を乱し、大禍刻・崇場の消えた戦場では……先程までの戦いのようにはいかない。
 戦いの末、リベリスタたちはまたひとつ、九方陣の一角を打ち砕いた。
 深い傷を負いながら戦い続けていた朝日の者たちも、槍鬼たちの陣を破壊する事に成功する。
 そして、残った全てのリベリスタたちによる炎鬼陣と剣鬼陣への攻撃は……短い時間で戦いを終幕へと導いた。
 今までの激戦を思えば呆気ないほどに鬼たちは倒れていき、御庭の一角はリベリスタたちの手によって制圧されたのである。


 戦いが終わった後、フツは戦場となった御庭の一角で……大禍刻・崇場によって瘴気の結界が張り巡らされていたその場所で念仏をあげた。
 術の力が失われつつあるその場所には……今はもう、何も残っていない。
 それでも、殺された人間の無念を少しでも晴らせたら。
「南無阿弥陀仏……」
 戦いは終わってはいない。
 それでも、短い時間でも。フツは静かに死者たちの冥福を祈り……そして。
 短い手当てや支度を整えると、リベリスタたちは休む間もなく駆けだした。
 そう。終わりではないのだ。
 此処からが、本当の戦いなのである。
 この御庭での戦いも、すべて最後の、この時の為だ。
 戦いの終わった御庭にもたらされた、僅かな静寂。

 皆が知っていた。
 嵐は……これから訪れるのだと。
 それでも臆することなく、リベリスタたちは向かっていく。
 未来へ、立ち塞がる運命へと。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼の方、お疲れさまでした。
個々の戦力に対しては各陣で撃破。
統率された集団には相互支援で抗戦するというのが九方陣の基本戦法でした。
ですので、個々や小集団で援護を封じ大集団で各陣を潰していくという戦法は極めて有効でした。
勝利の為に集団で行動した方、個々で全力を尽くした方、両方の力が合わさってこそ。
アークのリベリスタらしい勝利だと感じました。

多くの素晴らしいプレイングがありましたが以上を踏まえ、
集団としての行動、個人としての行動、そして強い意志、
三点においての判断で矢の取得者を決定させて頂きました。


此処での戦いは一区切りですが、多くの方が続いての戦いに参加される事でしょう。
決戦、そしてその支援。
参加される皆様、どうかお気をつけて。
御武運、お祈りしております。