●幻惑ラフレシア じっとりと、空気は湿気を多分に含みうっそうと茂る木の葉によって陽光は遮られている。 時折チチチと虫の声が聞こえ、地面を覆う草の間をトカゲが走る。 植物園、である。 巨大なビニールハウスの中に広がるのは、再現された南米の密林。一歩踏み込めば、じわりと汗が浮くことだろう。湿度の高さと、ハウス内に漂う甘ったるい香りが不快指数を高めていく。 ほぼ完璧に再現された密林に、感動する者もいるだろう。 最も、立ち入るものがいれば、の話だ。 原因は、先日運び込まれたラフレシア。世界最大の大きさと異臭を誇る巨大花である。 とはいえ、全長10メートルを超えるラフレシアなど、誰も見たことがなかっただろう。もちろん、運び込まれた段階では、普通のサイズだったのだ。 普通、と言っても、花としては異例の大きさなわけだが。 それはさておき……。 運び込まれた翌日、係員がハウスに立ち入るなり気付いたのは、立ちこめる異臭だった。鼻を摘まみながら匂いの元を探すと、それはすぐに見つかった。昨日運び込んだラフレシアだ。 しかし。 ハウス最奥に植えられたラフレシアは実に6メートルを超えるサイズに成長していた。時折花の中心から、異様な臭気を発している。 死肉の色にも似た花弁が、小さく揺れていた。空気を掻き混ぜ、腐臭を拡散する。 その匂いに耐えることが出来なくなり、係員はビニールハウスから逃げ出した。垂れさがる蔦や、視界を塞ぐ木の葉を避けながら、痺れる手足を必死に動かし一目散に出口を目指す。 腐葉土に足を取られそうになりながらもビニールハウスを脱出し、その場に座り込む。意識が途切れる直前に彼が見た物は、ビニールハウスの中で蠢く食虫植物達の姿だった……。 ●植物園へ。 「ラフレシア科、ラフレシア属の全寄生植物。それがラフレシア。本来は1メートル程度の花だけど、エリューション化して6メートルを超えている。フェーズは2」 モニターに映る画像を見て『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が顔をしかめる。 「強烈な匂いが特徴。動くことはないけど、最奥にいるから匂いに耐えながら頑張って辿り着いて。この匂いには毒、麻痺、混乱なんかを誘発させる効果があるみたい。衣服をすり抜け皮膚呼吸でも吸い込まれるようだから、ガスマスク等では一時しのぎにしかならないかも」 それから、とモニターを切り替える。映し出されたのは、ビニールハウス入口から撮影されたハウス内部の様子だった。昼間だというのに薄暗く、木の葉や蔦が蔓延っていて視界が悪い。 「見ての通り、視界が良くない。それから、火気厳禁ね。燃えちゃうから、危ない」 木や植物に邪魔され、入口からはラフレシアは見えない。その代わり、木の葉を掻きわけ巨大な虫と、ウツボカズラが姿を現した。 「これはラフレシアに釣られてエリューション化したウツボカズラと冬虫夏草。ウツボカズラは3体、冬虫夏草は2体確認されている。どちらもフェーズは1。ウツボカズラの方はラフレシア同様ほとんど移動しないみたい」 その代わり、どこかで待ち伏せて長い蔦を使って攻撃してくるから、とイヴは言う。 「冬虫夏草の方は、ミツバチに寄生してる。背中のキノコみたいなのが本体ね。こっちは空を飛んで移動してくる」 煩い羽音と、体当たりに注意。そう言ってイヴはモニターを操作し、ラフレシア、ウツボカズラ、冬虫夏草の画像を映し出す。 「確認されているターゲットはこの3種類。今のところビニールハウスから出るつもりはなさそうだし、もし万が一逃げられても困るからハウス内で殲滅してきて。複数を相手にする力に欠けるようだから、こちらを分断しにかかるかも……。注意して」 なんども言うけど火気厳禁ね、とイヴは再度念を押す。ハウスの傍にボイラー室があるため、燃え移ると大惨事に発展しかねないのだ。 「植物園は皆の憩いの場だから、平和を取り戻してきてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月07日(土)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ビニールハウス突入。 ビニールハウスの中に一歩踏み込んだ瞬間、ジワリと肌に汗が滲む。それと同時に鼻を突くのは、腐肉にも似た耐えがたい悪臭。 「やべぇ、マジでくせぇな」 ハンカチで口元を覆いながら呻くようにそう言ったのは、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。 「くっさ!!! ひぇぇ、制服に臭いついちゃうかな?」 涙目で鼻を押さえるのは、『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)である。名前からも分かるように、御厨・夏栖斗の妹だ。 「よりによってラフレシアがエリューション化するとは」 残念だ、とガスマスク越しに唸るのは、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)である。 「火気厳禁? うげ、煙草も吸えないじゃんさ。ま、たまにはいいか。休肝日だ」 そっちの方が残念だ、と『кулак』仁義・宵子(BNE003094)がポケットから取り出した煙草を背後に放る。 「できれば、普通の植物園に来たかったな」 仁義の放った煙草を受け取ったのは『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)だ。地図を手に、ビニールハウス内の構造を確認している。 「ラフレシア……。異臭でハエを誘引し、紛送者とする巨大な花だったか?」 と『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が、嫌な顔をして呟いた。 「ウツボカズラや冬虫夏草が近くにいるかもですから、気を抜かないでくださいね」 可能な限り鼻で呼吸をしないようにしながら『くるみ割りドラム缶』中村 夢乃(BNE001189)が、シールドを構える。 事前に手に入れた情報で確認された敵は三種類。ハウス内に満ちる悪臭の元凶である巨大ラフレシアと、ウツボカズラ、それに冬虫夏草である。 彼らは、それらを討伐しにここを訪れたわけだが……。 「(しゅこーしゅこー)」 眼前に広がる森林を眺めながらユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、ガスマスク越しにため息をついた。 そう、すでに彼らは敵の狩り場の中にいるのだ。 ●樹海探検。 高い湿度と悪臭に耐えながら、8人は人工的に作られた森林に足を踏み入れる。前衛と後衛に別れて陣形を組んだわけだが、植えられている木々や生い茂る草、見通しの悪い視界に遮られて少々乱れてしまっている。 元々大人数が移動するようにできていないのだろう、狭い道を進むのは、それだけで重労働。 歩けば歩くだけ汗が噴き出す。立ち止まっても、汗は流れる。空気の循環は悪く、立ちこめる悪臭のせいで、多かれ少なかれ体に異常を感じている者もいる。 周囲に警戒を払いながら、慎重に進んでいく。入口を入ってから真っすぐ進んでいる筈だが、木に進路を乱されてそれすらも怪しい。 ガサ、と頭上で音が鳴る。 リベリスタ達は咄嗟に武器を構え迎撃態勢を取った。そのまま、数秒……。 禍原の前に何かが落ちて来た。 「これは……」 落ちて来たのは、鼠の死体だった。ドロドロした粘液に包まれ、溶けかけているのが確認できる。 近くにいた他の仲間の視線も、落ちて来た死体に集まった。 その時。 「はいみーっけ!」 先頭を歩いていた仁義が、嬉々とした顔で飛び出していった。髪を振り乱し拳を振るう。 「私に不意打ちかまそうなんて無駄無駄無駄ァ!」 仁義の拳に殴り飛ばされたのは、人を丸のみできるほどのサイズに肥大したウツボカズラだった。鼠の死体を囮にして、リベリスタ達を襲おうとしたらしい。 「バラバラになるなよ! まだ、他にもいるかもしれねぇ!」 禍原が銃を構え、仲間に注意を促す。先ほど仁義が殴り飛ばしたウツボカズラに向けて銃口を向けた。 放たれた弾丸はがウツボカズラを撃ち抜く。 「うおっ! 危ない」 銃創から溢れた溶解液が飛び散る。ウツボカズラに追撃を加えようとしていた御厨・夏栖斗が咄嗟にそれを回避する。 木の葉が邪魔で、視界が遮られた状態での強襲。あっという間に、陣形が崩れて行く。この機を窺っていたのか、いつの間にかブブブブと、空気を振動させるような羽音が辺りに響いていた。 「冬虫夏草か」 新たな敵の接近を察知して、不動峰が銃を構えた。そんな不動峰目がけて、頭上からウツボカズラが降ってくる。獲物を捕らえる為の口腔部を大きく開き、不動峰に食らいつく。 不動峰はウツボカズラに銃を向けるが、遅い。 「そうはさせませんよ!」 不動峰を庇うように、中村がシールドを構え飛び出した。ウツボカズラを受け止め、弾く。 「分断されたら、敵の思うつぼです!」 仲間に向けて中村が注意を促す。視界の悪い中での戦闘、混乱に乗じて奇襲をかけるつもりだったのだろう。視認できているウツボカズラ2匹の他にも、敵の気配を感じる。 「こんな場所じゃ、十分な戦闘もできんぞ」 最初に仁義が殴り飛ばしたウツボカズラにトドメを刺しながら、義桜が叫んだ。戦闘を行うとどうしても隊は乱れる。生い茂る木や葉に視界を遮られ、仲間の姿も確認できなくなる。 同志討ちを避けようとすると、敵への対応が遅れる。 「離れ過ぎるなよ……、っとと」 ウツボカズラに鋭い蹴りを入れていた御厨・夏栖斗が、急によろけ地面に膝を突いた。ラフレシアの発する臭いを吸い込み過ぎて、体が痺れてしまったようだ。 治療の為、中村が駆け寄る。 「ぎゃぁぁぁぁ! 虫嫌い虫嫌い虫嫌い!」 その時、御厨・忌避の悲鳴が木霊した。ガサガサと草をかき分け、御厨・夏栖斗の元へ逃げてくる。その後ろから、木の枝をへし折りながら巨大なミツバチが突っ込んできた。 「視界は悪いですが、向こうから攻めてくる分には当てられるでしょう」 と、仲間を庇うように前に出て来たのはユーキだった。狙いをつけて、ヘビースピアを突きだす。ミツバチは、回避する様子も見せず体当たりを敢行する。 ユーキのスピアが、ミツバチの片目を抉った。しかし、ユーキ自身も、ミツバチの体当たりを受け、地面に転がる。 「真っすぐにしか飛ばないみたい!」 ミツバチの動きを観察していた御厨・忌避が叫ぶ。 彼女の言葉通り、ユーキを弾き飛ばした後ミツバチは上空で大きく旋回して、そのまま真っすぐ戻って来た。重力に任せた落下するような突撃。再びそれを受け止めようと、ユーキが立ちあがる。彼の背後には御厨兄妹と、中村の姿。後衛の回復役を守るのが、彼の役割なのだ。 「鬱陶しいぜ、その羽音」 と、禍原がミツバチの羽を撃ち抜いた。バランスを崩し、ミツバチの身体が大きく傾ぐ。 ミツバチの背中に、キノコのような物がくっついているのが見てとれた。菌を伸ばし、ミツバチの背に寄生するそれが、本体の冬虫夏草だろう。 パン、と軽い破裂音。不動峰の撃ち出した銃弾が、狙い違わずキノコを撃ち抜いた。冬虫夏草の呪縛から解放されたミツバチは、力を失って地面に落下する。 「ウツボカズラが2、冬虫夏草が3。半分は撃破したわけだが」 義桜が唸る。ラフレシアの臭いを吸い込み過ぎたのだろう、頭を押さえ必死に意識を繋ぎとめる。御厨・夏栖斗の治療を終えた中村が、今度は義桜に所に向かう。 「ここでの戦闘は避けるべきだろうな。ラフレシアはこの先にあるみたいだし、場所も開けてる」 とりあえずそこを目指そう、と地図を畳みながら不動峰が言った。 ●最奥到達。 不意打ちを食らわぬように細心の注意を払いながら、8人は奥へと進んでいく。先の戦闘で、ビニールハウス内の敵の内、半数は片づけたわけだが、まだ油断はできない。 奥に進めば進むほど、ラフレシアの放つ臭いは強くなり、それに応じて体に異常をきたす者も増えて来た。湿度も増し、流れる汗が止まらない。 何度も状態異常の治療を施していた中村は言うに及ばず、他の仲間達も気を張り詰め続けたせいで、皆一様に疲れた顔をしている。 中でも、一番苛々しているのは仁義だろう。 煙草が吸えないことに加え、お気に入りの一張羅に臭いが染み込むこの状態に、そろそろ我慢の限界を迎えそうだ。 苛々を誤魔化すように、近場の木を殴りつける。 いつの間にか口数は減り、足音と葉の擦れる音しか聞こえなくなっていた。 否……。 いつの間にか、ミツバチの羽音が辺りに響いている。或いは、最初から聞こえていたのかも知れない。ただ、その音が少しづつ大きく聞こえるようになってきたというだけで。 それはつまり、敵との距離が近づいてきたということだ。 「お、抜けた」 戦闘を歩いていた仁義が、樹海の終わりを確認し、そう呟いた。と、同時に視界に巨大なミツバチが現れる。 「ウツボカズラも、見つけましたよ」 スピアを持ち上げ、ユーキが告げる。彼の視線は背後に向いている。どうやら木にぶら下がって、彼らが通り過ぎるのを待っていたらしい。ウツボカズラとミツバチに挟まれた形だ。 「ラフレシアもこの辺りのようですし、終わらせてしまいましょう」 中村が地図を仕舞いながらそう呟く。と、同時に仁義が弾かれたようにミツバチ目がけ飛び出した。 「無頼の女の喧嘩、見せてあげる!」 自身があるのか、それとも考えるのが面倒なのか、気合いの籠った一撃をミツバチ目がけ叩きこむ。それに対抗するように、ミツバチの方も不快な羽音を鳴らしながら突っ込んできた。 「だから、煩いっての」 ミツバチの羽を狙って禍原の銃弾が撃ち出される。羽に穴を開けることには成功するものの、ミツバチの勢いは衰えない。正面からぶつかった仁義が、地面に倒れる。 しかし、ミツバチの方も無事とはいかなかったようで、顔の半分ほどが陥没してしまっている。それでも動きを止めないのは、本体が背中の冬虫夏草だからだろうか。よろよろと飛ぶミツバチの先には、ウツボカズラ相手に戦っている御厨・夏栖斗の姿がある。 どうやら、ミツバチの接近に気付いていないようだ。それを見て、御厨・忌避が飛び出した。 「だぁ! ざけんな! ホリメキーック!!」 兄を庇うように、ミツバチ向かって飛びかかる。キックと叫んだ割には、鋭い牙を向いてミツバチに噛みついた。ヴァンパイアの持つ、吸血という能力だ。 「うえぇ、虫噛むとかオエエ!!」 羽に開いた穴と、御厨・忌避が飛び付いた衝撃でミツバチの進路が逸れる。羽を木にぶつけ、地面に落下した。 空気がかき混ぜられ、ラフレシアの悪臭が舞い上がる。 「しかし、この漂う匂いはどうにかならんものか……仕方ない。義桜葛葉、推して参る!」 一足飛びにミツバチに駆け寄って、気迫の籠った一撃を振り下ろす。キノコもろとも、ミツバチの身体を真っ二つに引き裂いた。 冬虫夏草の殲滅を確認して、禍原がペンで倒した敵の数を記入する。 その近くでは、他の仲間達がウツボカズラと戦闘中だった。 「トンファーキックが冴えてるぜ!」 切れ味鋭い蹴りが、ウツボカズラに突き刺さる。御厨・夏栖斗の攻撃だ。トンファーキックと言う名の蹴りである。口腔から溢れた溶解液を避けながら、ユーキが追い打ちをかける。 しかし、ウツボカズラは咄嗟に蔦を伸ばして、体を木の上に引き上げそれを避けた。 その隙に、中村は戦闘の邪魔にならぬよう樹海の外へ移動する。 「撃ち漏らさないように。仕留めてくれ」 ラフレシアの蔦を、不動峰の放った弾丸が断ち切る。支えを失って落下する。真下に回り込んだユーキがスピアを構えた。 「これでトドメにしましょうか」 スピアに闇が纏わりつき、禍々しいオーラを発する。落下してきたウツボカズラを貫き、息の根を止めた。飛び散った溶解液が周囲の木々を焦がす。 「あとは、ラフレシアだけか……」 禍原がそう呟いて、流れる汗を拭う。 「ラフレシア、見つけました」 そう言ったのは、戦線から離れていた中村である。仲間達が彼女の傍に集まってくる。中村が指さす先には、確かに全長6メートルを超える巨大なラフレシアの姿があった。 「あとはあいつだけだな。しかし、本当に臭いな」 漂ってくる悪臭に、不動峰が顔をしかめた。銃を構え狙いをつける。不動峰と同じように、禍原と御厨・忌避も遠距離から攻撃すべく構えをとった。 「それじゃあ、さっさと終わらせよっか」 なんて、鼻を押さえて御厨・夏栖斗が言った。それを合図に、遠距離攻撃班の3人を除いたメンバーが、一斉に駆けだした。 敵の接近に気付いたのか、ラフレシアが花弁を揺らす。風圧と一緒に悪臭が叩きつけられた。 ガスマスクをかけている者はまだいいが、そうでない者は臭いにやられて、体が痺れる。 空気を掻き混ぜる花弁を止めるため、遠距離班が攻撃を加えた。その間に、中村が状態異常にかかった仲間に治療を施す。 たった10メートル程の距離が、やけに遠く感じていた。臭いと体力の消耗で、意識が混濁しかかっているのが原因かもしれない。 疲労が限界に達したのか、中村がその場に膝を付いた。顔色が悪い。どうやら毒にやられたらしい。 「後はお願いしますね」 麻痺状態だったユーキの治療を終えて、そう告げた。ユーキは頷くと、ヘビーランスを構え駆け出す。少しでも仲間の援護をしようと、遠距離攻撃班の放つ弾幕が厚くなる。 その弾幕が途切れた、その瞬間。 御厨と仁義が、大きく飛び上がった。上から、ラフレシア本体に攻撃を加える為だ。それを阻もうと、ラフレシアが再び花弁を振りあげる。 しかし……。 「そうはさせんぞ」 「大人しく、やられて貰いましょう」 義桜とユーキが、それぞれの武器を使って花弁の一部をブロックする。 花弁を縫いとめられたラフレシアが、苦し紛れに悪臭を放つが、時すでに遅く、御厨と仁義はすでに攻撃態勢に入っていた。 「燃え散れよ草ぁ!!」 炎を纏った仁義の拳と、御厨の鋭い蹴りがラフレシアに直撃した。ラフレシアが火に包まれる。一応、周囲に燃え移らないように注意していたのだろう。燃え盛るのは本体のみで、やがてその火はラフレシアの根を焼き尽くし鎮火する。 地面にはひびが入り、後に残ったのは真っ黒に炭化したラフレシアの燃えカスのみだった……。 ●後始末。 ラフレシアを討伐したものの、ハウス内に漂う悪臭は消えなかった。いい加減我慢の限界に達していた8人は、後始末も早々にビニールハウスを脱出する。 「次に植物園に入れる時は、もっと匂いのいい植物に……。まぁ、花に罪はないのだけど」 パタパタと自身を仰ぎながら、不動峰が独りごちる。その不動峰から預けていた煙草を受け取って、仁義がそれに火をつける。 「やっぱ煙草でもハートでも拳でも何でも、火を付ける方が性にあってるや」 なんて、煙を吸い込む仁義を呆れたような目で義桜が見ている。 「休肝日じゃなかったのか」 「休肝日? 何それ?」 ヘビースモーカーには、そんなもの存在しないらしい。 「くそっ、オレの一張羅が……」 服に香水を振りかけながら禍原が唸る。それくらいで落ちる匂いではないだろうが、少なくとも何もしないよりはマシだろう。 「きいちゃん、一緒にお風呂あとではいる?」 「え!? お風呂はいりたー……ぃ。や!? お兄とは駄目でしょ! ばか!」 と、戯れているのは御厨兄妹だ。皆一様に疲れたような顔をしている中で、この2人は比較的元気な様子。 「昔、博覧会で展示された剥製が大人気だったとか……。本来なら目玉展示にしたっかたでしょうに……。って、難しそうですね、この臭いじゃ」 と、ビニールハウスの扉を閉めながら中村が言う。 「なんというか、気軽に覚醒しないでいただきたいものですねぇ。こういった現場は結構しんどい」 やれやれ、とばかりにユーキが首を振る。 なにはともあれ、これで仕事は終り。後は、皆で帰るだけだ。 悪臭と、高い湿度による不快感、それらによる多大な精神的疲労と、肉体的疲労を感じながら8人は植物園を後にすした。 帰宅途中、服に染み付いた悪臭をどうするかと、悩むことになるのだが、それはまた別の話。 涼しい春の風を体いっぱいに浴びながら、彼らは家路に付いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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