●黒眼と朱角 鬼の居城『鬼ノ城』 元は古城跡に過ぎなかった公園は、今や鬼達の居城。 異貌と異形を誇る暴虐の城となり、世界を蝕み、崩界へと誘っている。 堅牢なる城壁より突き出た弓櫓より、一人の鬼が彼方を見つめていた。 長身痩躯なれど体躯は隆々。 褐色の肌と額より突き出た二本の角がその者を鬼である事を証明していた。 だが、如何なる術を持ってか、その左目は漆黒へと染まりきっている。 猛禽の如き瞳で見据えるは彼方、手に持ちたる剛弓を引き絞り、撃ちぬくも、また彼方。 弦が空を斬る音が鋭く響き、空間に余韻を残す。 「……」 未だ彼方を見据える黒眼の鬼の視線は鋭い。 「精が出るではないか、黒眼よ」 背後より声掛けるは赤銅の大鬼。 見上げんばかりの巨身、その赤銅色の体はまさに鋼の如く。厳つ顔に額より突き出る一本角。 まさに鬼と呼ぶにふさわしい様相。 ただ、天衝く角は朱く鋭い。 「朱角か……」 黒眼と呼ばれた鬼は振り向き、朱角と呼ばれた鬼は鷹揚に頷く。 「前は彼の地より射られ、王を射たれるという不覚を取った」 黒眼の黒き瞳が見据えるは楯築の地。 「吉備津彦か……だが、最早彼の者は存在はせぬ。リベリスタ等と名乗る者達が抵抗して居るらしいが、我らに王がお戻りした以上人間など物の数ではないわ!」 呵呵大笑する朱角に黒眼は肩を竦めると再び見据える楯築の地。 「次の戦場となればこそ、射抜き砕いてみせようと思うている。如何なる将も、如何なる盾も」 「その時は、儂こそも、主を守り、王を護って見せよう」 黒眼、朱角、二匹の鬼が頷き合う。 「これは、誓いだ。我らの、鬼の」 人に敗北せず、王を護る。 「うむ、儂らは鬼の世を築く礎をとなるのだ」 ●箱舟 「鬼との戦いも、いよいよ最終局面です」 ブリーフィングルームにてリベリスタを迎えた『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の声は固い。 岡山の血にて暴虐の限りを尽くすアザーバイド『鬼』との戦いも佳境の最中、切り札となる『逆棘の矢』争奪戦は二本を確保することにより、アークは鬼達に対抗する切り札を手にした。 ともなれば、作戦も次のフェーズへと進める。 最終局面、それはつまり。 「いよいよ、決着か」 「ええ、決戦です」 リベリスタの言葉に和泉は頷く。 「近々、鬼達は再び大規模な進撃を開始すると『万華鏡』が観測しました。 ただでさえ莫大な犠牲と被害を及ぼしている鬼達にこれ以上の暴挙を許す訳にはいきません。 アークは鬼達の拠点である『鬼ノ城』へ総攻撃を行う事を決定しました」 勿論、鬼達への切り札を得たといえども完全ではなく、状況や情報は混乱している。 だがそれでも、踏み切らざるを得ない。 血と犠牲を覚悟した上での決死の攻城戦。 ブリーフィングルームのメインモニターへ次々と情報が映し出される。 映し出されるは、禍々しくも堅牢なる鬼の王『温羅』の牙城。『鬼ノ城』 各エリアが薄く彩られピックアップされるは、城を取り巻く城壁と城門。 城壁から突き出た櫓の一つがこの作戦の攻略地点らしい。 「風鳴童子率いる城門エリアの弓櫓を攻め落とす事がこの作戦の概要です」 温羅の忠臣たる四天王の一人風鳴童子率いる城門エリアは特に守りに秀でた鬼達が固めているという。 そして、弓櫓には恐るべき射手達が待ち受けている。 「弓櫓にて弓鬼達を率いているのは黒眼と呼ばれる長駆の鬼です。彼は親友たる大鬼の朱角に守りを任せ、櫓にてリベリスタを射続けます」 和泉がコンソールを操る。 表示されるデータは黒眼と朱角の物だ。 黒眼。片目が漆黒の眼球を持つヒョロリとした体躯。 だが、人が扱うには遥かに巨大な大弓を自在に操る剛力と精密射撃を可能とする呪力を持つ鬼のスナイパー。 撃退できなければ、被害は甚大なものとなるだろう。 朱角。額の一本角が朱に染まった大鬼。 その巨体に見合った怪力と巨大な金棒より繰り出される一撃は推測されるだけで恐るべきものだ。 資料に視線を向けていた和泉が顔を上げる。 真っ直ぐ見つめる真摯な視線。 「勿論、容易ならざる戦いだと思います。ですが、皆さんの勝利を信じています」 揺れる瞳に映る信頼に、応えぬ訳にはいくものか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月11日(水)00:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 鬼の王『温羅』の座す鬼ノ城を喧騒が包む。 鬼による日ノ本支配の足掛かりとして建立され恐怖と絶望を振りまき続けてきた魔城をアークのリベリスタが攻め立てる。 太古より蘇りしアザーバイド『鬼』と人の身より生まれし異能者『リベリスタ』 異形と覚醒者の日ノ本を揺るがす夜が始まる。 各所に焚かれる篝火よりも鮮やか赤が夜空を染める。 数多の血を求める、決戦の夜。 「朱角よ」 鬼ノ城を取り囲む城壁より突き出た櫓より、涼やかながらも力強い声が朗々と響く。 「うむ、黒眼よ。日ノ本にも骨のある者が少しは残っておるようだな」 櫓の下より力強い岩のような声が空間を震わす。 城外より響く戦いの音は、城門を護る二人の鬼、黒眼、朱角の耳にも届いている。 鬼瓦のような顔を歪めて朱角が笑う。 「御前が出られた。塵輪鬼も引き出され、他にも数多の鬼が野戦に駆り出されておる。風鳴殿が固めるこの城門にどれ程の者が来るか、骨がなるわい!」 「いや……いる」 黒眼の黒き眼は夜暗の内に潜むリベリスタの姿を捉えていた。 「朱角よ。誓いを果たそう」 「しくじるなよ。黒眼よ」 黒眼の視線の先、弓が届かぬ距離に、リベリスタ達はいた。 「馬鹿と煙は高いところが好き、というデスガ。鬼もその範疇なのデスカネ? アハ」 胡乱な視線を櫓へ向け、戦気を巡らせ『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が哂う。 都市伝説を標榜する少女には、大規模な攻防作戦は得意とせぬものだが、鬼と称される存在を惑い惑わし痛みを与え与えられるという魅力の前に、口元に笑みを浮かべ弓櫓を見つめていた。 「高台は戦の要衝だ。あの櫓にアークの旗を立てるぞ」 弓櫓同じように見据え、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が決意を胸に宣言する。 幾つも突き出た櫓より放たれる射撃はアークの行軍の成否を左右しかねぬ要害だ。 思考の先は次の戦いへ向け、歩みが目指すは因縁浅からぬ四天王『禍鬼』、鬼の王『温羅』。歩みを止めぬ為にこの櫓を是が非でも落とす必要がある。 「凄腕の射手、か。こんな戦場じゃなければ、腕を競い合いたいくらいなんだけれどね」 『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)のつぶやきに『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)も首肯する。 二人の狙撃手に取っては黒眼の弓の腕は興味を持つも道理。 公平な場を用意されるわけではないのが戦場の常。 鬼の狙撃手は櫓の上より二人へ矢雨を降り注がせる場に立っている。 「良い目を持った射手か。一度はお目通りしてドンパチしたいところだぜ」 相見えたの条理の通じぬ戦の場、不利を悟れど、勝敗がそれで決するものではない。 答えは鏃と銃弾が教えてくれる。 「ヤダ、黒眼ちゃんと目があっちゃった! ときめいちゃう」 お道化たような頓狂な声が上がる。 声の主は千里を見渡す瞳の持ち主である『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が櫓の様子を報告する。 姿が露見しているのは想定通り。 櫓に篭る弓手の姿、護るように配置に着いている大鬼の姿。 敵の布陣にイレギュラーはどこにもない。 いきなり黒眼と視線が合うのは想定外であったのだが……。 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の十字の加護と『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)の浄化の鎧の光が降り注ぐ。 「温羅を倒す為に、皆の無事のために、全力でこの櫓を落としましょう」 真琴の言葉にリベリスタ達も強く頷く。 ● 準備は万全だ。 鬼達も弓を引き絞り待ち受けている。 雄叫びを上げ、リベリスタ達は突撃する。 引き絞られた弓から矢が放たれた。これより先は鬼と人との闘争だ。 迎え撃つは朱角率いる屈強なる大鬼の防衛部隊。 リベリスタと鬼。ぶつかり合わんとする両者。 その瞬間、リベリスタの気勢を削がんと鬼の射手達の弓が唸った。降り注ぐ矢雨。 ……行くぞ、鬼共。 矢雨を眼前に口の中で呟き『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は降り注ぐ矢を手にした曲刀により叩き落す。 新たなる矢が降り注ぎ、身体を捉える。それを振り折りながらも拓真は櫓を目指す。 「その矢で俺達を射殺す事が先か、それとも俺達の刃が貴様らを倒すが先か──この場で決着を着けよう」 その拓真の眼前に大鬼が迫る。 血濡れの如き赤き角、朱角。 「ゴオオオオッ!!」 爆雷の如き咆哮が轟く。空間へ響き、荒れ狂う音の塊が精神をも磨耗させる。 朱角の前に立ちふさがったのは、快だ。 叩きつけられる衝撃を物ともせず、朱角の行く手を阻む。 深々と刺し貫く斬光は、法理の剣。砂蛇の愛用した凶刃にて理の刃を振るい、快は朱角の前に立つ。 真琴が、葬識が、エルフリーデが、木蓮が、浅倉 貴志(BNE002656)が、鬼達の前に立ち塞がる。 本来矢面に立つべきでない者達も立ち塞がり鬼の妨害をする。 後衛も含めた人員で大鬼の防衛隊を食い止める。従来の作戦では侵すべきではない過分なリスク。 覚悟せねば築くことは出来ない勝利への道をリベリスタは往く。 身を持って盾となり矢と鬼の猛攻を止める防壁として、反撃の矢にて将を討つ布石とする。 戦士たちが身を持って築きあげた、現在の楯築の陣。 放たれた三本の矢が櫓上を目掛け駆ける。 「此処が始まりだ、退けさせてもらう」 コートを翻し弓櫓へ取り付いたのは『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939) 走りゆくそのままの姿勢でトンッと壁を蹴り、壁を垂直に、最短を避けるように大きく弧を描き登る。 「……忍法、不思議張り付きの術!!」 摩訶不思議なる神秘の歩法。壁面を駆け、走り抜ける三人の戦士。 拓真と行方。残り二人の戦士が壁面を駆け死線を繋げる。 「アハハハハ!」 笑う都市伝説。 少女らしい声色ながらもけたたましく耳障りに行方は哂う。 「さあさあ鬼達そこでじっとして震えているがいいデスヨ! 今から都市伝説が古い伝承を駆逐に行くデスカラ!」 登り切った拓真と行方へ向け、放たれる弓鬼の一斉照射。 「アハハ、大歓迎デス」 矢傷を受け、身体を紅く染めながら行方は哂う。 首の座らない童女のような挙動をしつつ、櫓の鬼を確認する。 どれもこれもバラし甲斐がありそうじゃないデスカ。 行方を庇うような位置に立ち、矢を身体に受けながらも拓真は剣を構える。 右には愛用のブロードソード、左には手入れの行き届いた曲刀。息を整え、振りかぶる。 「リベリスタ、新城拓真。……行くぞ、鬼よ」 振るわれた腕より宙に放たれたのは左の曲刀。祖父の持っていた遺品の一つ。 風絶と銘打たれた秘された名刀は、名前の通り空を滑るように走り、次々と鬼を斬り伏せていく。 「今のうちに!」 「ハイハイ」 後ろ手に庇われながら、半ば忘れかけていたロープとワイヤーを括りつける作業に入る行方。 二本を熟すには手が足りない。行方が四苦八苦していると、隣にカギ爪付きロープが括りつけられる。 巧妙に壁面に潜む喜平が行方にロープを任せろとハンドサインを送る。 「ナイスアシストデスよ。喜平さん」 ロープとワイヤーは落とされた。 その二つが、リベリスタ達への蜘蛛の糸。 開かれた道は細く心許ないが、道は築かれた。 ● 降り注ぐ矢の数が減り、リベリスタ達が掴んだ蜘蛛の糸。 起死回生の機会を求め、鬼と覚醒者達の攻守は入れ替わる。 常に揺れ動く戦場のバランス。櫓への道行を求める地上戦はそのような様相であった。 真琴の肩が大きく揺れる、息が荒い、身体を覆う純白の鎧もすっかり己と鬼の血に染められてしまっている。 「ハァッ」 裂帛の気合を持って振るわれる双盾が大鬼の鳩尾を捉える。 降り注がれてきていた剣林弾雨に鉄槌と呼ぶに足る一撃が加わり、大鬼の巨体が崩れ落ちる。 怪力を誇る大鬼の猛攻もリベリスタ達を仕留めるには至らず。手傷は相当負ってはいるが、誰一人膝を折り倒れ伏せてはいない。 「ここは任せろ。守護神の名に賭けて守り抜く」 「皆さん、先に行ってください。死守します」 快と真琴。二人の守護者が盾を手に前に出る。 一握りのワイヤーとロープだが、確保された櫓上部への橋頭堡を利用しない訳にはいかない。 「先に行かせてもらうわ」 ワイヤーを手にエルフリーデが壁面に取り付く。 壁面を駆ける者ほどではないが、超人的身体能力を得た覚醒者ならば苦も無い技だ。勿論それには平時ではがつく事であるが。 ここは戦場。気付いた者はそれを妨害しようとするも道理。 「それが狙いか! 覚醒者!」 激昂。朱角が吼え、黒金棒が振り下ろされる。凄絶なる体躯より繰り出される渾身の一撃。 甲高い音を立て盾に阻まれる。 「守り抜く、と言ったはずだ!」 貫く衝撃が身体の至る所を傷つけ、骨が砕ける音が響き、踏み締めた大地を更に穿つ事となろうとも……示される、護る者への強い意志。 櫓を登る者達を阻まんとする大鬼達の猛追を、快が、真琴がその身を盾に守り抜く。 「倒すことじゃない。倒れないことこそが、俺の戦いだ!」 「必ず、護り抜きます!」 守護者達の凄絶な戦いが始まる。 思わぬ横槍に怯む鬼を溢れる暗黒の瘴気が包みこむ。 葬識を象っている殺意と言う澱が、ヒトという器より溢れでた博愛という毒が、博愛という言葉に変えられた生命への悪意が、人間の絶望と悲鳴を糧にする鬼達をも蝕み喰らう。 「順番に登ったら、殿は俺様ちゃんだよ~。急ぎすぎないように気をつけて行ってねぇ~」 己の身を削る瘴気を涼しい顔で放ち、葬識は鬼相手に立ち回る。 博愛精神に溢れるこの殺人鬼は、自分の命に対しても博く愛しく軽視している事もまた道理。 残り振りまいた瘴気耐え切れず二匹の鬼が倒れ伏す。 瘴気に蝕まれた体を苦にもせず葬識は櫓を登る。 激戦は、黒眼の射手との攻防により決される。 ● 一合斬りつける合間に矢傷は倍に増えていく。 味方を櫓上へ送り出すも死闘ならば、櫓上にて味方を待つも死闘。 「アハハハ!」 身に纏ったゴシックドレスに夥しいほどの矢を受け、鮮血に濡れた行方が鬼に飛び掛る。 「さあ行くデスヨ、バラしバラされ遊ぶデス。アハハハハ!」 回避を放棄したような無造作な挙動、細腕のより繰り出される二本の大包丁の一撃は鬼を弾き飛ばすほどの威力を持つ。 弾き飛ばされた鬼は梁に激突すると、櫓を揺るがし床を転げる。元より鬼が詰めるような大掛かりな櫓。そう簡単に転落するようでは戦の用には成されぬ物。 ならば、剣を持って沈黙を図るしか方策は無い。 早々に叩き落としを諦めた拓真は再び風絶を空に舞わせた。 櫓内を飛び交い蹂躙する刃。元より回避は不得手な後衛の鬼達は瞬く間に血煙に濡れる。 「……やってくれる」 黒き瞳を見開き、黒眼が唸る。 その瞳は、リベリスタの全ての挙動が映っている。 「面白い。この程度で鬼を滅せると思い上がったか!」 衝撃音。乾いた音が響き、怒りを露わにする黒眼を掠め、弓鬼が衝撃で揺らぐ。 櫓の側面に立つ長駆の男。 「思い上がったかとは、こちらの台詞だね。鬼風情が。御前の眼、先へ行く仲間の為に……此処で砕く」 弾速を上昇させた喜平の愛銃の一撃は傷ついた弓鬼を的確に捉えていた。揺らぎ倒れる一匹の弓鬼。 天秤は傾いだ。だがリベリスタも押し切れる程状況は盤石ではない。天秤は瞬く間に勝利のバランスを覆し得る。 「舐めるな!」 吼える黒眼。鬼の背丈を遥かに超える剛弓が引かれ、放たれる。 鏃より飛び散る飛沫は大気の内よりい出たものか? 血の飛沫を弾いたものか? 飛び交う三本の矢は瞬く間に三者に刺さり、衝撃が炸裂した。 「うおっ!?」 声だけ残し、喜平の姿が掻き消える。 「あ? アレ?」 胸に刺さる矢を信じられない物を見るように見やり、行方がゆっくりと倒れ伏す。 櫓の縁に寄りかかるように立ち、拓真が肩口を捉えた矢を抑える。抑えた掌よりじわりと血液が滲む。削り落ちる運命を代償に意識を保つ。 エルフリーデが櫓を登り切ったのはこの様な危機的な状況の最中であった。 ● 一人が倒れ、一人は弓櫓より転落し、一人が深手を負っている。 突如放り込まれた死線を前にエルフリーデの行動は迅速であった。 上がった勢いそのままに前転し、そして射撃。 ライフリングを経てより吐き出された銃弾は星光を纏い弓鬼達を穿っていく。 その間にも櫓には、残りの仲間がが登り来る。 集結するリベリスタ。反撃が始まる。 リサリサが拓真の傷を癒し、木蓮の銃弾と貴志の蹴撃が弓鬼を打ち倒す。 天秤が揺らぐ、再びリベリスタへと向く戦場の流れに、黒眼が目を剥く。 「アハ、アハハハハ! ほらほら王を護るのデショウ? 眼前の相手も排除せずに王を護る? アハハハハ!」 ゆらり、幽鬼のように行方が立ち上がる。運命を代償に、勝利と娯楽を逃さぬために少女は再び鬼の前に立ち塞がる。 「遊びの時間の再開デス! 素敵にバラし合うデスヨ!」 行方の戦線復帰を皮切りに再び櫓上はぶつかり合う。 乱戦が始まった。 エルフリーデと木蓮の銃声が重なる。吼え猛る二発の銃弾は踊るように弓鬼を次々と屠っていき、リサリサを庇うように立つ貴志の蹴りに弓鬼は耐え切れず崩れ落ちる。 精鋭といえども弓鬼に白兵戦は不得手。 蓄積されていた傷に加えリベリスタの猛攻の前に数を減じていき、行方の一撃により櫓上を落とされた弓鬼を最後にその場に生存する鬼は黒眼のみとなる。 「退け! 鬼よ!」 壁面を駆け抜け喜平が背後より黒眼に肉薄する。 限界まで高めた速力を銃弾に込め、突き出した銃口より弾き出た弾丸は散烈すること無く一点に集中される。 銃砲により繰り出された技は粗にして華美。だが、その在り方は正しく神秘であった。鮮烈なる一撃により放たれた閃条は二閃。 思わぬ痛撃に黒眼がたたらを踏む。 追撃に拓真が懐に潜り込み、剣を頭上に掲げる。 「一撃で、斬り捨てる……!」 裂帛の気合。櫓を揺るがす踏み込み。二本の剣が黒眼を袈裟懸けに切り裂いていく。 突き刺さる魔力。 巨大な鋏を深々と突き刺し、飄々たる葬識が操り出す魔剣が黒眼を蝕み喰らう。 「ごめんねぇ~。下で頑張ってる新田ちゃんと村上ちゃんの為にもさっさと終わらせないとねぇ~」 嗚呼、生命惨禍。 弓を握り潰し、満身創痍の黒眼は声無き咆哮を上げる。 見開いた眼でリベリスタを刻み付けるように睨みつける。 「リベリスターッ!!」 魂の慟哭。漆黒の瞳より血色の涙が流れ出る。 黒眼開放。漆黒の瞳より放たれた波動は、櫓を揺るがし、衝撃が走り、屋根が壁が崩れ落ちる。 崩れ落ちる破片が地上に降り落ちる。 真琴も快も既に満身創痍。持ち前のタフネスと防御力により耐えてはいるが、いつ倒れ伏すしかねない応酬が続く。 「黒眼が眼を開放したか。儂もそろそろ決めねばならぬな」 朱角と共に立ち回る大鬼の数も最早一人。リベリスタが剛の者と朱角は今となっては認めている。 なおも黒眼の勝利を確信しているかのような朱角の口ぶりに真琴も快も口元を笑みを浮かべる。 彼らもまた、仲間の勝利を確信する者。 「切り札を切ったという事は、追い詰めたという事だ」 「この程度の苦難で、私の仲間が倒れるはずがありません」 仲間の信頼を口にする。二人のリベリスタに朱角は笑みを浮かべる。 「為らば、一撃を持って、儂らの闘争も終結としよう」 己が武へ絶対の自信を持つ朱角の最強の一撃。その前にして、快と真琴がそれぞれの武具を手に迎え撃つ。 「戦士達よ、儂の渾身受けて立て!」 巨躯が突進する。 朱き角。幾つもの血を吸いし一角の巨鬼の穿突が猛烈と襲い掛かる。 ● 見通しが良くなった櫓の上に幾人もの戦士が倒れ伏す。 立っているのは黒眼ただ一人。 いや、運命を糧に命を繋いだ。咄嗟に庇われ命を拾った。覚醒者達が、満身創痍で立ち上がる。 葬識に庇われたエルフリーデが銃口を向ける。 木蓮が、葬識が、喜平が、貴志が、運命を削り立ち上がる。 完全を上回る完璧なる一撃。凌がれた黒眼に映るのは、エルフリーデと木蓮の二つの銃口。 「俺様は草臥木蓮、お前の眼ごと撃たせてもらうぜ!」 「エルフリーデ・ヴォルフ、貴方の命、潰えさせて貰うわ」 銃口が吼える。二つの弾丸は黒色の眼球を違わず撃ち抜いた。 崩れ落ちる黒眼。すまないと声なき声で呟き、黒眼は果てる。 約束は果たされず。 朱角は止まらぬ。止まることは出来ない。 地上を守る二人の守護者に切迫する恐るべき一撃。 響く衝撃音。渦巻く血風が快と真琴を穿ち打つ。 盾を抉られ弾き飛ばされた真琴。薄れる意識に運命をもって活を入れ、身体を起こす。 目に飛び込んだのは、朱角の角に脇腹を抉られつつも立つ快の姿。 櫓上より喝采が湧き上がる。 リベリスタの歓声だ。それは鬼の敗北を意味する。 運命を燃やし意識を繋ぐ。残った力で握られたナイフを握り直し振り下ろす。込められた力は邪を滅す法理の刃。 「俺達の、勝ちだ!」 刃は澄んだ音を立て、鬼の角を砕く。 朱角の名は朱き角。ならば、角無き朱角は何と呼ぶ? 呆然とよろめく足取りで朱角は櫓を離れる。壊走する鬼を追撃する余力をリベリスタは持っていない。 弓櫓の一つは、リベリスタの手に落ちた。 満身創痍ながら、この度得た勝利は進軍の上で大きな勝利。 これより先に更なる激戦が控えている。 だが、いまこの一度は勝利の余韻に酔っても良いだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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