●霧姫 壁という概念は二重の意味で敵を塞ぐ。 一つは壁そのものの強度。すなわち物理的にどれだけ堅いかということ。 もう一つは視覚を塞ぐことによる情報的な防壁。壁の向こうの敵の様子がわからず、攻めあぐねる状態を生む。 しかし視覚を遮られるのはお互い様であり、後者は構造によっては短所になりかねない。 「つまり、適度に視覚を塞いでこちらが攻勢にでるときに解除すればよいのじゃろう?」 鬼の姫は微笑む。濃霧がリベリスタの視界を塞ぐ。 鬼の姫が扇を払う。霧が晴れ、絶好の位置に移動していた鬼がリベリスタに襲い掛かる。 霧を操り、一群を率いる鬼。霧姫。彼女はまさに歩く防壁。気がつけば霧で脚を止められ、連絡する間もなく倒される。何が起きたか理解できずに倒されたものも少なくない。 ここは壁のない城の庭。しかし霧という壁がリベリスタの進行を阻んでいた。 「所詮、人の子。鬼の力にかなうはずもない。 ここで戦って死ぬか、逃げてあとで死ぬか。それぐらいは選ばせてやろう」 ●アーク 「おまえ達、仕事だ。それも決戦的な」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタたちに向かって言う。 「鬼の戦いはまだ記憶に新しいだろうから説明を省くぜ。要するに鬼の苦手なアイテムを取りに行ったのだが、奮戦空しく手に入れられたのは2つだけだった。ここまではアンダスタン? 何れにせよアークは温羅に対する切り札を一先ず二本は確保し、一定の作戦成果を上げる事は出来た……といいたいが、そうも行かなくなった」 肩をすくめる伸暁。ここからが本題だぞ、と暗に伝えながら言葉を続ける。 「『万華鏡』が力を蓄えた鬼道が暴れ出し、人間社会を滅茶苦茶にする『未来』を観測した。俺たちにこれを見過ごす理由はない。そうだろブラザー。 そんなわけで準備は完全と言えないが、アーク総出で鬼の城を攻めることになった」 おお、と唸るリベリスタたち。モニターに映し出される『鬼ノ城』の堅牢さ、そしてそこに住む『温羅』の恐ろしさ。 「作戦の最終目標は鬼道の本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破だ。鬼ノ城自然公園に出現した巨城は恐ろしく攻めづらい。城そのものの堅さもあるが、鬼の四天王とその配下が城内を防衛しているからだ。 何よりも四天王の『風鳴童子』、『鬼角』、『禍鬼』はそれぞれあの『逆棘の矢』を所有している。だが逆に言えば彼等の撃破に成功すればこの矢を奪い取る事が出来るかも知れない。ピンチはチャンスだぜ、おまえ達」 暗い情報が続いた為か、明るく締めようとするフォーチュナ。 次にモニターに映し出されるのは『鬼ノ城』内の一部。霧が発生している庭の中。そこに立つ女性型の鬼が写しだされる。巫女服を着て扇を持ち、その体からうっすらと霧を発生させている。 「城門を越えた庭で突如霧が発生して、鬼たちに不意打ちを受ける。そんな未来だ。庭を守る遊撃部隊で、霧を発生させて襲い掛かってくる。ビーストハーフでなければ完全に不意打ちだ。 だが、そんな部隊があるとわかっているのならこちらも手が討てるというものだ。いつの時代も情報は武器。やられる前にやれ、ってやつさ」 笑みを浮かべる黒猫。 「おまえ達は城の中に入ると同時にこの拠点に移動してくれ。この姫様が俺たちに不意打ちを仕掛けようと待機している場所があるのだが、そこをこちらが襲撃する。 霧の発生と部下の不意打ちは別方面から行なうらしく、この場所にはこの鬼と護衛が数名いるだけだ。時間をかければ鬼の部隊が戻ってくるだろうが、その前にこの姫様を倒せばいい」 写しだされる鬼姫と護衛の戦闘データ。それとてけして楽なものではない。不意を討つときにどう攻めるか。それがカギになりそうだ。 「この作戦は不意打ちが肝だ。姫様に逃げられるか、あるいは援軍が来たら即座に撤退してくれ。戦力を整えられれば勝ち目は薄い。 任せたぞ、おまえ達。クールな戦いを期待してるぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月11日(水)00:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 霧姫の部隊は遊撃部隊として、かなりの戦果を挙げるだろう。自在に霧を発生させて不意をつけるのだ。これ以上の部隊はないと霧姫自身も思っていた。 しかし彼女は知らない。神の目を誇る『万華鏡』の予知能力を。 ゆえに、 「……何っ!?」 霧姫は不意打ちを食らう。 ここが『万華鏡』が予測した未来の分岐点。運命の分水嶺で鬼と人の戦いが今、始まる。 ● 「これ以上鬼達の勝手を許す訳にはいかないんだよ!」 一番槍を掲げたのは『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)だ。彼女は翼を生やして地をけり、手のひらに魔力を集める。複雑な呪文を独特の技法で並列に行い、不要な部分を短縮する。放たれた黒の魔力は霧姫に向かう途中で幾重にも分かれ、護衛の鬼たちも巻き込んだ。 「お久しぶりです霧姫さん」 和式手甲に巫女服。既に構えによる気合を入れた『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666)が再会の言葉を告げる。同時に霧姫の懐に入り、服のすそを掴んだ。体幹と呼ばれるバランスの中心を触って見切り、それを崩すようにして投げ飛ばした。 「もう一度貴女に挑戦して勝ったらお友達になって貰います」 先の戦いでは破れ、約束を果たせなかった。今回こそ勝って、そして約束を果たしてもらおう。しかし鬼の姫はそれを一笑に付した。 「戯言じゃな。わらわに勝てるというのも、鬼と人が手を取り合えるのも」 頭を振りながら霧姫が答える。如何なる手段を用いたかはわからないが、不意を討たれたことだけは理解できた。もちろん、これで終わりでないことも。 「友達云々はともかく、勝ちは拾わせてもらいます。霧を操る鬼……彼女にはここで、確実に脱落していただきましょう」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)がヘビースピアを構えて突撃する。スピアの先端が白く輝き破邪の力を宿す。ただ真っ直ぐに突き出された一撃が、護衛の鬼を穿った。 「わらわのことを知っている……そこの娘に聞いたか? いや、だとしてもこの場所を何故知れる!?」 「教える義務はありません。が、これでお互いの奇策は出しました」 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)は一礼して、手のひらのに負のオーラを集めて霧状にする。霧はウェスティアが取りこぼした鬼に纏わり突くように迫り、鬼にあらゆる苦しみを与える。 「後は地力の勝負と行きましょう」 「はっ! 地力の勝負と来たか。所詮人の子風情が地力で鬼にかなうと思うたか?」 「へへ、嬉しいぜ。あの鬼のお姫サンよ。『所詮、人の子』て言ってくれたか?」 2メートルを越す『黒鋼』 石黒 鋼児(BNE002630)は機械の腕を振り回しながら護衛の鬼を押さえ込む。革醒して冷たく凶悪な腕を持つようになり、鋼児自身が人であることに不安を覚えていたのだ。自分はまだ人であるというのなら、 「俺は人としてあんたらを潰させてもらうぜ」 「ほざけ。その鼻すぐに折ってくれるわ」 鋼児が放つ風の刃を受け止めながら、霧姫は怒る。人を見下した態度。だがそれを行なえるだけの実力は、あった。 「よう、また会ったな霧姫」 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)がバスタードソードを構えて霧姫に迫る。彼もまた、先の戦いでは霧姫に土をつけられた。だから今度は負けない。全身の筋肉を振り絞り、最高の一撃を叩き付ける。 「また会ったな、人間。忘れたかえ? 我が霧の恐ろしさを」 「忘れちゃいねーよ。今度は前みたいに行くと思うなよ?」 宗一の応えに牙を向く鬼の姫。そこに『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の魔力の矢が飛んできた。わずかにカーブを描いて霧姫の背中を打つ。 「おいたはここまでよ。霧姫、逃さないわ」 「逃げる? なるほど、おぬしらの奇策は一度きりのようじゃな。 おそらく先見の力でこの場所を察したようじゃな。精度は高いがそれゆえに二度目はない、といったところか。確かにここでわらわを逃がすわけにはいかぬよのぅ」 霧姫はリベリスタの策を看破する。最も看破したところで状況が変わるわけではない。 「異変を察して他の鬼たちが来るじゃろう。そうなればおぬしたちの負けじゃ」 「そうなる前に、たおせばいいもん!」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)が鬼の額に矢を放ち、挑発する。怒りに我を忘れた鬼が、アーリィに向かって走った。体力的には後衛職のアーリィだが、護衛の鬼が一人減ることで霧姫が狙いやすくなるなら安いものだ。 「倒す? この七瀬白蘭が第三の娘、霧姫を倒すと言ったか、人の子よ。 良かろう。我が霧術、とくと味わうがいい!」 霧が辺りに広がる。心惑わす鬼の霧術。それが広がっていく。 ● 霧姫の一点集中。リベリスタの戦い方を一言で説明すればそれである。 鋼児、アーリィ、ユーディス、ユーキが護衛の鬼を抑え、慧架と宗一が護衛に邪魔されないうちに直接霧姫を攻める。後方からあひるとウェスティアが遠距離攻撃と回復を努める形だ。 対して鬼の方は、 「各々耐えてみよ! 鬼の矜持を見せるときぞ!」 初手でリベリスタに動きを封殺されたこともあり、陣形を整えることができないでいた。庇える位置にいれば庇ってもらうのだが、と霧姫は唇をかむ。 「私は他の鬼に連敗を喫しちゃってるけど……」 ウェスティアは複数の魔方陣を展開しながら、鬼たちとの戦いを思い出していた。アーク全体としては勝ち数も多いが、敗北したグループもいる。彼女は負け数が多いが、それでもまだ生きている。そして生きているということは、逆転のチャンスがあるということだ。 「最後に勝って帳尻を合わせる為にもここは絶対に負けられない!」 「そうです! 負けるわけには行きません!」 慧架は霧姫に迫り、その懐に入る。鬼の伸ばす手を和式手甲で受け流し、相手の動きを予測しながら一定の距離を保つようすり足で動く。相手の腕を掴み軽く引っ張る。反射的に逃げようとする動きを利用して押し込み、投げ飛ばした。 「今度こそ貴女の言う戯言を本当にしてみせます」 「懲りぬな。人と鬼は怨敵同士。今こうして戦争をしていることが相容れぬ証拠」 「相容れる余地がないなら余地を作ってみせます!」 「それが甘いというのだ。わらわの霧に心惑うがいい」 「っ! 気をつけろ、鬼霧だ!」 一度食らった経験のある宗一は、霧姫の技を見て動かないように耐えてみる。しかし、 (俺は混乱しているのか? していないのか……?) 混乱して自分の状態がわからなくなるということは、混乱状態が続いているかどうかわからなくなることである。もしかしたら混乱は解けていて無意味に動かないでいるのでなかろうか。それこそ負けに繋がるのでは? その焦燥感が宗一の剣を動かす。 「……っあ!」 振るわれた剣に肩を斬られ、慧架が悲鳴を上げる。 「そぉら。前のときの二の舞じゃ」 「問題ありません。今霧を払います」 ユーディスが霧姫と護衛の鬼たちの間に立つように移動して、柔らかい光を放つ。視界がはれ、霧姫の姿を映し出す。 「あなたの相手は私よ!」 アーリィが距離を離しながら糸を放ち、鬼の腕を拘束する。ポテンシャル的に人より勝る鬼の一体を相手しているのだ。体力的なものもあるが、その心労もまた大きい。糸が千切られれば真っ先に殴られるのは自分だ。そうなれば体力的に劣る自分ではそう長く耐えられない。 「正直に言えば、霧姫の策は上策です」 ユーキは体内のオーラを刃に変える。負のオーラが肉体を蝕み傷つけていく。だがその痛み以上の切れ味を持った刃がユーキの破界器に宿る。それを動きが封じられた鬼に向かって振り下ろした。 「個人的な怨みがあるわけではないのですが、敵として有能なので排除せざるを得ない。因果なものです」 オーラで形成された刃は、その身を苛む要因が多ければ多いほど傷を増す。鬼はその痛みのあまり咆哮し、怒りの視線をユーキに向けた。 「霧姫のところにいきたけりゃ、俺を倒していきな」 鋼児が鬼の一体を封鎖しながら、機械の腕で自分の胸を叩いた。 「人間風情が。その減らず口、この金棒で黙らせてくれるわ!」 「クソ悪そうなツラに金棒か。親近感湧くぜクソッタレ」 鋼児の言葉に怪訝な顔をする鬼。2メートルを越し、怖面の鋼児だがその心は14歳の少年。純粋なものである。それゆえ人外の姿となった自分の腕とそのパワーにコンプレックスを感じていた。身を固める構えをしながら、霧姫の方に風の刃を放った。 「霧姫様!」 「騒ぐな。口を動かす間があるなら身体を動かせ。敵をつぶせ! わらわの最大の防具はおぬしたちじゃ。疾く倒し戻ってくるがいい」 霧姫の言葉にいきり立つ鬼たち。叱咤の中にある信頼を感じ取り、拳を振り上げる。 霧はまだ、晴れない。 ● 「皆、持ちこたえてね……すぐに痛いの、飛んでくから……っ」 あひるが意識を集中し、上位存在の意識に触れる。流れ込む圧倒的な情報の中、味方を癒す手段を見出してそれを口にする。体力と異常状態の回復。その二つを同時に行なう神秘がリベリスタたちに降り注ぐ。 「わ、わ……手が……足りないっ」 あひるは全力で回復に努めていた。護衛の鬼の打撃が強く、また鬼姫の放つ霧も無視できないほど肉体を蝕む。何より霧により心を乱されることによる同士討ちがダメージとして大きかった。 全力で回復に回ってまだ足りない。それは回復手があひる一人であるということが大きな要因だ。 「あぅ……!」 鬼の怒りを受けてひきつけていたアーリィが吹き飛ばされて、背中に土をつける。運命を燃やして立ち上がるが、棍棒の打撃力を警戒してか防御に徹する。 「……クソッタレが……!」 鋼児も度重なる鬼の猛攻に運命を燃やす。鬼たちを放置はできない。日本には家族がいるのだ。この鋼の腕は何のためにある? 運命に愛されたのは何のためだ? 「思い出せよ、石黒鋼児。ここでくたばってる場合じゃなえぇだろうが!」 叫び、拳を握る。血を流しながら、視線は霧姫のほうに向く。 「ええい、人間風情が!」 度重なる集中攻撃に霧姫は確実に疲弊していた。しかしその動きが止まることはない。名のある鬼の中では体力がないほうだが、彼女もまた鬼。やわではない。心を乱す霧を放ち、周りにいる者の心を乱す。だが、 「させません。霧を操る鬼よ、貴方はここで脱落してもらいます」 その霧をユーディスが払う。彼女の両親は誰かを『護る』為に戦い、その結果命を失った。その最後は運命を全て使い切り、ノーフェイスになったところを仲間であったリベリスタに討たれたと言う悲しい結果ではあったが。 (それでも、その生き様だけは誇れるものと信じている) 受け継いだものは、誇り。それを抱いてユーディスは戦場に立つ。鬼を倒し、日本を護る為に。 「やああああああ!」 ウェスティアが放つ黒の魔力が霧姫を含めた鬼たちを襲う。赤、青、緑、紫。四色の魔力が凝縮し、黒色の矢となる。口で律を唱え、手で因を結ぶ。二重の魔術式が高速の呪文展開を可能とする。 (回復はあひるさんとアーリィさんに任せて、私は全力で撃ち続ける!) ウェスティアは全力で黒の魔力矢を撃ち続けている。霧姫が尽き果てるのが先か、ウェスティアの魔力が尽きるのが先か。焦りが心を支配する。だけど、やれると信じて今は全力で駆け抜ける。 「お覚悟。これで御終いです」 黒のポニーテールを揺らし、ユーキのバスタードソードが振り下ろされる。漆黒のオーラが乗った刃が護衛の鬼の命脈を断った。オーラの反動でユーキ自身の肉体もボロボロだが、どうにか押し切った形だ。ロングコートを翻し、霧姫のほうに足を向ける。 「そこで寝ておれ、人間!」 そのユーキの目に映るのは、霧姫と相対していた慧架と宗一が地面に伏す姿だった。霧姫は度重なる攻撃に額から血を流し、肩で息をしている状態だ。 「今回は同じ轍は踏まねぇ」 剣を杖にして宗一が起き上がる。運命を失いながら、目の前の鬼を睨む。 「同じ徹は踏まぬと言うたな? この期に及んでまだ策があるというのか?」 「いや、そんなものはない。小細工は苦手でね」 「はっ! ただの強がりか。無策に剣を振るうか、人間」 鼻で笑う霧姫に向けて、バスタードソードの切っ先を向ける宗一。 「ああ。否定はしない。 だけど足掻いてやる。この剣が折れるまで、無策に全力で足掻いてやる!」 「そうです。負けませんよ、霧姫さん」 慧架も自らの運命を削って立ち上がる。ここで倒れるわけには行かない。霧姫の部隊は多くのリベリスタの足を止め、侵攻の妨げになるだろう。そういった大義の意味もある。だが、 「夢物語じゃな。人が鬼に勝つことも。人と鬼が手を取り合えるのも」 「夢物語だからこそ、叶えるんです。叶ったら素敵じゃないですか」 真っ直ぐに。本当に真っ直ぐに慧架は霧姫に言葉を返す。そこには種族としての差も、敵味方の差も、何もかもを貫く心の強さがあった。 「夢と現は表裏一体にして異なるもの。現にて願いを叶えるのは力。力なくば夢に落ちよ!」 「はい! 今度こそ、あなたに勝ってみせます!」 霧はまだ―― ● 「あぅ……!」 アーリィが度重なる打撃の末に力尽きる。本来後衛で味方の援護に回っている彼女が、麻痺等を駆使して鬼の一体をここまで足止めしたのだ。賞賛に値するだろう。 「霧姫の元には行かせませんよ」 アーリィを倒した鬼を、ユーディスがブロックする。振るわれる鬼棍棒を、彼女はヘビースピアで受け止めた。互いが互いの実力を把握し、そのまま睨みあう。 「絶対に負けられない。これ以上めちゃくちゃなこと、させないもん……!」 「これが最後の……!」 あひるとウェスティアが最後の魔力を振り絞って、回復と黒の魔力を放つ。アーリィに余裕があれば多少の回復もできたのだが、鬼に狙われていた為にその余裕はなかった。 「ブッ潰す! くたばれ鬼の姫サン!」 鋼児は目の前の鬼の棍棒を鋼の腕で受け止めて、霧姫に風の刃を飛ばす。この冷たい黒鋼の腕が人の役に立つとは。その事実が、単純に嬉しい。 「その動き、封じさせてもらいます」 ユーキが自らのオーラで作った霧で霧姫を覆い、その動きを拘束する。あらゆる苦痛を内包するオーラが霧の姫を苛む。動きが封じられたところに、 「心、流水の如く。激流、大雪崩の如く。霧姫さん、お覚悟!」 慧架の大雪崩落が入る。懐に入り込み、慧架の身体を軸にして霧姫の体が回転して地面に叩き付けられる。 「借りは熨斗つけて三倍で返してやるぜ!」 倒れたところに剣を振り上げる宗一。加減している余裕はない。ここで決めなければ後がないのだ。全身の力を振り絞り、生と死を乗せて振り下ろした。デッドオアアライブ? その答えは―― 「か……はぁ!」 霧姫の胸部を貫く剣。それは鬼の心臓を貫いていた。 周囲を覆っていた霧が、晴れる―― 護衛の鬼は霧姫の負けを悟ると、戦意を喪失して逃げに走った。それを追う余裕はリベリスタにはない。皆疲弊し、追撃を行なう体力は残ってなかった。 鋼児は黒鋼と化した腕についた傷を見る。今回の戦いで増えた傷だ。いつかこの腕と傷が誇りに思える日が来るのだろうか? 人とかけ離れたこの腕が人を護ったと誇れる日が。 「負け……か……このわらわが人間如きに」 心臓を貫かれ、霧姫は生きていた。だがそれは消える前の蝋燭の輝き。会話ができる事自体が奇跡。そんな状態だ。 「初めましての挨拶もできないまま、さようならをするのは、少し寂しく感じるわ」 あひるは倒れているアーリィの傷を癒しながら霧姫に言う。また来世であいましょう、と心の中で別れを告げる。 「私の勝ち、ですよね。約束どおりお友達になってください」 霧姫の手をとり、慧架が口を開く。互いに生死をかけた戦いだ。こうなることも当然予想していた。だけど消え行く霧姫を前に涙が溢れ出す。 「戯言じゃな。もはや死に行くわらわと結ぶ友愛にどれほどの意味が――」 「意味は私が作ります。私が覚えている限り、私と貴女は友達です」 例え死が分かつとも、友情はあると告げる。 「叶わぬ夢じゃな」 霧姫の憎まれ口は変わらない。 「じゃが、そんな夢も悪くない……」 死の間際、慧架の握る手を強く結んだ。それが死に行く前の硬直なのか、あるいは彼女の意志なのか。それはわからない。ただ握った手を拒絶することだけはしなかった。 遠くから鬼の声が聞こえる。霧姫の援軍だろう。鬼たちに見つかる前に、リベリスタは撤退の準備を始める。霧姫は討った。もはやここには用はない。 リベリスタは回復部隊による回復を終えて、御庭を進む。霧の防壁は既になく、御庭の視界を遮る物はない。 侵攻開始の鐘が鳴る―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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