● 生まれたのは別の階層へのDホールが開き易い世界。 ――だから、一部の住人がそう言う生き方を選んだのは、ある種の必然。 『グヘヘ、中々豊かで良い世界みたいじゃねえか』 『そうだな兄者、珍しい物も多そうだ。奪い甲斐がある』 その生き方は、一言で言うなら略奪者。――あるいは、狩猟者(ハンター)。 『ヒヒッ、俺ぁそんな事より沢山殺してえぜ。この世界の生き物はどんな悲鳴を上げるかねえ』 穴を越えた先の、異世界の生命を傷つけ価値ある物を奪う。 『おいおい、殺すだけじゃ意味がねえぞ? 味も見なきゃなあ』 『クク、違いない。力を奪わなくては、わざわざ穴を通った意味が無いと言うものだ』 あまつさえ生命を喰らい、その性質と能力をもすら奪う。 招かれざる客。邪悪なる異邦人。 額に備えた角に準え、名乗るあだ名は、《黒い三連鬼》。 『ヒヒヒヒ、楽しみだなあ』 分厚い毛皮に覆われた背筋をグッと伸ばし、二本角の次男が笑う。 『ああ、全くだ。ククククククク』 四肢に備える鋭い爪をジャキリと露出させ、一本角の長男も哂う。 『グヘヘヘヘヘ、原住民共を恐怖のどん底に落とすぜぇ』 両端をニヤリと上げた口から鋭い牙を覗かせ、三本角の三男も嗤う。 人里を見下ろした彼らはこれから始まる殺戮と簒奪に思いを馳せ、丘の上に下衆い笑い声を響かせた。 ● 「――見ての通り、彼らは非常に有害なアザーバイド。早急に倒さなくてはいけない」 瞳に真剣な光を宿した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は、少女のそれとは思えないほど重く、自体の切迫を十二分に示していた。 「……いや、でもなあ……」 しかしどうした事か、リベリスタ達の反応は鈍いもの。 「今でこそ彼らはD・ホールの開いた丘の上に待機している。 彼らは用心深いから、このボトムチャンネルの環境を把握し、情報を収集しようとしているの。 このまま放って置けば遠からず町に下りて大惨事を引き起こす。今なら止めれる。分かって」 僅かに眉根を寄せて言い募る少女。その姿に意気を感じないリベリスタなどいない。 「それは分かる。分かるし、退治しなきゃいけないとも思うんだが……その……」 ――ああ、それなのに、リベリスタ達の返答はあくまでも歯切れが悪かった。 「どうして?」 だん。とささやかな音が響く。小さなその身を乗り出し、イヴがブリーフィングルームの机を叩いたのだ。 その姿に、耐え切れなくなった様にリベリスタ達は叫んだ。 「だって、こいつらどう見てもにーにー鳴いてるふわもこの黒猫じゃん!」 リベリスタ達の指差した先、モニターに映っているのは確かにふわっふわでもっこもこの毛皮を備えた黒猫である。しかもさっきからこれでもかと言うくらい愛らしい鳴き声をニャーニャーゴロゴロと響かせている。丘の上で、どことなくドヤ顔で。 「ちがう。黒猫の額に角は生えてないし、彼らのサイズは人間並み」 「そう言う問題じゃなくてさあ!?」 イヴの反論は正しい。正しいが納得できねえ。 あれを退治しろと言うのか。あの、人間並みの大きさの黒猫を!? 「つらいのは分かる。けど騙されちゃだめ。映像につけた字幕(※『』の中の台詞)を見て。 どんなに愛らしい声でも、言っている内容はあの通り。彼らはまさに邪悪そのもの」 イヴはあくまで冷静。流石は齢15にして数多の悲劇・悪夢の未来を見続ける天才的フォーチュナ。黒猫の愛らしさに惑わされる事無く、必要な事を必要なだけこなそうとする。 これがウサギだったらこうは行かなかったとか、そもそも自分が退治する訳じゃないから我慢できてるとか、そんな瑣末な部分は気にしてはいけない。些事、そう、些事である。 「そ、そうだな。そうだよな。分かる。分かるんだが……」 何にせよ、リベリスタ達の懊悩はもうちょっとだけ続きそうだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月09日(月)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ゴロゴロ……ニャーン!(対訳:ヒヒヒ、先ずは弱っちそうな奴からだ!)」 聞こえる声はひたすらほんわか可愛い。しかしその高速の一撃の容赦のなさは、正にハンターの名に恥じぬ物。(※なお、対訳はアーク研究部の提供で報告書に追記された物である) 「ぐあっ!?」 足音を一切立てないその動き、そして実態すら得るほどの残像を為す超高速機動の幻惑。 成す術も無く次男の鋭い爪の直撃を受け『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は大きく仰け反った。 彼が着ているのは棘飾りの付いた鎧。この世界から見れば色々とひゃっはーな感じのそれも、ボトムチャンネルと異なる認識を彼らからすれば一番軟弱に見える姿なのだ。 「なー……なぁーぉー!(対訳:グヘヘヘ、トドメだぜぇ!)」 自称那由他な『残念な』山田・珍粘(BNE002078)の二本のブロードソードによる澱みなき高速連続攻撃を受けながら、しかし三本角の黒猫はそれを無視する形で駆け抜けてバランスを崩した京一に迫る。3匹での狩猟になれているが故の連携。 「……!!」 全身の闘気を爆発させた渾身の突撃。 先の2本角の一撃に隙を作られていた京一の腹部を、三本の角が深く刺し貫いた。言葉も無く崩れ落ちた支援役に、リベリスタ達の表情が引き締まる。 見た目も声も愛玩動物だが、彼らは強力にして凶悪な簒奪者。油断は出来ない。 「……うん、あれは凶悪アザーバイド、でも……きょうあく……やるしかないのね……受けてみなさい!」 苦悩を振り切り覚悟を決める『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)が術を展開する。 「ウナァァァァ!?(対訳:うぎゃああああ!?)」 「ニャーゴォー!(対訳:畜生やりやがったな!)」 少女の鮮血が呪い黒鎖の濁流となり、京介を仕留めた直後の2匹を纏めて呑み込む。 高速詠唱により準備を短縮化された強力な魔術はアザーバイド達にダメージと多くの後遺症を与え、ついでに自分の術で悶え苦しみ鳴くにゃんこをばっちり見たイーゼリットの心にもダメージを与えた。 「はっ、かわいい声でにーにー鳴いてんじゃねーぜ! フルモッコにしてやる」 更に二本角の猫に、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の挑発と十字の閃光が浴びせかけられる。 「ニャッ!(対訳:ちっ)」 素早い動きを強みとする次男は身を捻り閃光は掠めるだけに留まる。その言葉による挑発に全く反応を示さない様子を見て、アウラールは眉をしかめた。 彼が言葉による挑発を試したのは二度目。遭遇時には、狩猟者たる彼らは獲物を前にして即座に襲い掛かってきた為に言葉自体が半端に終わり判断がつかなかったのだが――これではっきりした。やはり、彼らにこの世界の言葉は通じない。四足獣と人間、ましてや戦闘の只中では身振り手振りによる疎通もほぼ不可能な様だ。 「にゃおーん♪ 可愛らしい姿で凶悪なのですね。でもその目が狩猟者だと言っています」 『駆け出し射手』聖鳳院・稲作(BNE003485)の言葉に思わずそちらを見た3匹が、びくりとする。三男等は足を縺れさせた。――稲作が何か特別な事をした訳ではない。単に愛らしい見目に巫女服のその姿が、彼らには迫力のある凶暴な姿に感じられたのだ。 「今日のお天気は強雨の矢で、ところにより蜂の巣になるでしょう!」 この感覚のズレ、つまり彼らは自分の姿が強暴な姿だと認識しているのが逆に可愛らしいですねと、稲作は思う。と言って見た目に騙される気も無い。四方竹弓を構え、放つは無数の蜂の乱舞の如し連続射撃。 「「「ミーーー!?」」」 悲鳴を上げる三匹。 「……黒猫さん可愛いですね!」 その姿に思わず初志貫徹を放棄してほわーんとなる稲作。 だが、彼らも戦い慣れた狩猟者。矢の群から逃げ惑うだけではなく、しなやかな動きで位置を変えた。 「ぐっ!?」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の苦痛の声。一本角の仕業である。 矢から逃げるついでとばかり戦場を跳び駆け抜けた長男は後衛に立つ彼の元まで一直線に突撃し、一点の曇りもなく鮮烈な輝きを纏うその爪を振るったのだ。 「猫さん、相手は私だよ!」 仲間の苦境に慌てて『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)が気糸を紡ぐ。 ただの糸ではなく、怒りを喚起させる力を持った糸。囮役を買って出るつもりの彼女の、その狙い通りに糸に貫かれた一本角の巨猫がグルリと振り返り彼女を睨む。――迫力より愛らしさが先に出るモコモコの顔ではあるが、その眼光は確かに鋭い。 「やっぱり悪い子なんだね……見た目に騙されないでちゃんと戦わないとね……!」 その眼光を正面から受け止め、アーリィはヘビーボウガンを構えなおした。 「ゴロゴロ……ググググ……(対訳:くそっ、なんて恐ろしい目をしてやがる。しかもあの瘴気……間違いなく万は殺しているツラだぜ……)」 対する長男は何気に悲壮なまでの覚悟で怯えを押さえ込んでいたりする。 彼女の名誉のために補足して置く。観点が逆に行っている彼らがこう反応するのはつまりアーリィが愛らしいと言う事だし、瘴気と言うのは彼女が常時振りまいているマイナスイオンの事である。念のため。 「前衛の人はいいわね、私ももふもふしたいわ」 ぷるぷると震えるその毛皮を横目に思わず愚痴る『人妻スナイパー』安西 篠(BNE002807)。 「大きい猫ちゃんうふふふふ……はっ、いけないいけない……アレは倒すべき、敵」 ちょっとトリップしかけたものの、ちゃんと正気に返って不可視の殺意で三本角の生えた頭部を狙撃する。 「ニャン! ニャオーン!(対訳:兄者! バカ! 何でそんな拳一つで3人纏めて捻り潰しそうな女に向かってるんだ!? こっちのファンシーな鎧の奴が先だろ!)」 アーリィ(彼女の名誉のために補以下略)と睨み合う長男を気遣うような鳴き声を上げながら、二本角が跳びかかったのは、己が脳の集中力を高めている七海――ちなみに彼はヘビーガード着用である。 「……くっ、もこもこ……いや、あれは黒猫じゃない、黒猫じゃない……そう黒豹! 黒豹だ!」 迫るふかふかの毛皮(と中身)に対し、自己暗示で覇気を保つ七海である。 「黒豹……クロヒョー……ひょー……」 だが、やる気は保てど光の飛沫が散る様な瀟洒で高速の華麗なる連撃に翻弄され、その余りの美しさ(とふわもこ)に魅了されてしまう。 「あははー、斬殺しますよー?」 前後不覚になった仲間の姿に焦りから気合が入りなおしたか、あるいは素か。珍ね……那由他が笑いながら再び2本の剣を振るい、三本角の毛皮を切り裂く。 が、そこでそれでも倒すまでは行かない。ぐらりとよろけつつも堪えた三男は一際大きく跳ね、先の次男の一撃で前後不覚の七海に跳びかかり、破滅的な一撃を叩き込む。 「ぐ……う……が、頑張らないと」 衝撃に膝から倒れかけた七海だが、捧げた運命と引き換えに黒白の剛弓を杖にし辛うじて堪えた。 「……力を奪う……ね。どんな力を奪ってきたの? かわいさ? あなた達にとっては凶悪に見えるんだっけ。だけどそれもここでおしまい。 さよなら、大きな猫さん」 クスクスという笑い声、そして再び黒鎖が次男と三男を襲う。 敵の動きにより前線位置が大きく変わったため、後退しながら術を完成させたイーゼリットの一撃だ。 「ニャー……ゴ(対訳:ぐ、不気味な耳をつけやがって)」 苦しみながらも三本角が憎々しげに(可愛らしく)鳴く。睨んでいるのはイーゼリットがつけているうさみみである。怖いだろうとドヤ顔で着けて来た代物だが、こうかは ばつぐんだ! そしてアウラールが再び放った十字の閃光が二本角を焼く。回避し切れず毛皮を焦がされた大猫はニャミャーと愛らしい悲鳴を上げた。 「しかし、おかしいですね。いかつい私は標的になりそうだと思ったのに……」 どうも自分が襲われない事が疑問らしい稲作が、可愛く小首を傾げつつも癒しの福音を響かせる。 続いて一本角の爪の一撃を喰らったアーリィもまた、己と仲間の傷を癒すべく同じく福音を召喚し、2人分の癒しが七海の傷を少し緩和させた。 「ナナァ、ゴロゴロ……(対訳:そんな、俺の流し斬りが完璧に入ったってのに倒れねえ。あまつさえあんな恐ろしく不気味な音色を響かせ、しかもそれで傷が癒えるだと……こいつ、バケモノか……)」 アザーバイドがまた何かとんちんかんな感想を抱いたりしているが、生憎とリベリスタたちには彼らの言葉が分からない。精々分かるのは大体の感情程度。 「……ちょっとやりすぎだったかな……? でも、悪いことしたらダメだしね……手加減せずに続行だね!」 愛らしい小動物(※人間サイズ)の怯えた仕草を見て悩むが、すぐに折り合いをつけたアーリィであった。 「ケホケホッ」 その様子に、アザーバイド達に可愛いアピールをする事が有効だと考えた篠などは咳き込んでみたり、無駄にふらふらよろめいてみたりして病弱アピールをしながらの狙撃を敢行する。また、傷を押して剛弓を構えた七海の操る呪いの弾丸も、三本角の猫の傷をいよいよ深くし、加えて呪いにて苛む。 危ういながらもリベリスタ達が押している。 ――そう言う流れだった。それまでは。 ● 「シャーーーー!」 姿が愛らしかろうが怯えていようが彼らは狩猟者、狙うべき敵の優先順位を見誤ったりしない。 付与された怒りを振り払った長男は、愛する弟達に号令をかけたのだ。 「ニャッ!」 長男が弟達の動きをフォローし。 「ニャニャッ!」 三男が長兄のフォローを信じて大きく踏み込み角を突き込み。 「ニャニャッガニャン!」 そして次男がそんな二人を踏み台にして爪を嵐の如く振り回す。 掛け声こそ愛らしいが、その連携は正に苛烈。そして余りに速い。 二本角と三本角に狙われていた七海と、三本角を狙っていた前衛の那由他、そして前線から5メートル位の位置をキープして戦っていた篠。その三名が、激風の如き攻めの標的となった。 「……くそっ……」 七海が崩れ落ちる。既に多くの傷を受けていた彼に耐え切れる物でなく、二人の傷も決して浅くない。 「連携するために揃った時は、まとめて攻撃するチャンスでもあるんですよね」 だが、傷の痛みが寧ろ気合を入れたのか、那由他の動きが神速を成し、次々と展開された幻影が3匹を斬り裂き、次々と連続で傷を刻んだ。 特に三本角の傷は深く、そこにダメ押しとばかりにイーゼリットの放った鎖が幾重にも絡んだ。 「フニャァン……」 末弟は恐ろしい悲鳴(猫視点)を上げ、倒れ伏した。 「ンナァーオ!(対訳:よくも弟を!)」 「ニャオーン!(対訳:ブッ殺してやる!)」 一体が倒された事で激しく(でも可愛く)憤る残り二匹との戦いは、決して楽な物ではなかった。 「うふふ、柔らかい所を突きますよ?」 しなやかすぎる身のこなしを相手に、それでも後衛(主にイーゼリット)を守ろうと双剣を振るう那由他が幻惑の武技で二本角の弱点を切り裂けば、イーゼリットの黒鎖が追い討ちをかける。 「可愛い格好でって思ってね。そこでうさみみ! どうっ!?(どやっ)」 那由他の心配とは裏腹に組みし易いと思われぬ格好を心がけてきたイーゼリットを猫達は狙おうとせず、この二人の連携は安定している。だが、イーゼリットの気力は着実に限界に近付いてきている。 「おっと、そう上手く行くと思うなよ。お前らの使う技は全てお見通しだ」 光の粒が見えるほどに鋭く美しい一撃での魅了。弟のお返しとばかりに幻影を展開した神速の爪から来る混乱。二本角の操る、リベリスタ達に不調を与える技はアウラールが神々しい光で治療する。しかしフォロー役が彼一人となり、挑発も通じず、彼自身の当初の狙いである長男の引き付けはできそうにない。 稲作とアーリィの治療は仲間を広く癒すが、卑怯な狩猟者たる猫達は一人を集中して狙い続ける。多くを薄く癒す歌の福音は、1人の深手を癒すには効率が良いとは言えず、しかし治療しない訳にも行かない。 何せ次に敵の狙いに選ばれたのはパンク風味のアレンジを施された仮想衣装を纏っている男――アウラール。彼は既に一度運命を削ってその身の限界を超えていた。 ――そして、一本角の輝ける一撃は時に連続攻撃となる。 「……ぐ……」 次々と突き込まれる角の連撃にアウラールの身体が限界を迎えたのは、必然。 彼が倒れた事で、リベリスタ達の戦いは更に泥沼となった。 「きゃあああ、怖い!」 次の獲物を選ぼうとする猫達の前で、強襲型戦闘服を纏い、犀の角を持つ篠が先ほどからの病弱演技に加え、よろけて倒れてお姉さん座りまで披露して悲鳴を上げて見せた。 わざと隙を作ったことで誘発した攻撃は完全な直撃を食い大ダメージを受けた上、羞恥で顔を真っ赤に赤面する羽目になったものの、御蔭で猫たちにとって篠はアーリィの次に恐ろしい敵と認識されたらしい。 イーゼリット(うさみみ)も先の通り、狙いは後に回されている。 稲作も(本人は釈然としないようだが)後回し。 もちろんアーリィは論外。猫達からは魔王とか破壊神位の存在とか思われている勢いである。 結果として、次に狙われたのは強襲型戦闘服を纏う那由他だ。 「折角のイーゼリットさんと御一緒出来る楽しい時間を、これ以上邪魔はさせませんよ……」 だが、那由他は猫達の猛攻を運命を昇華する事で耐え切ってみせた。 ……余談ながら、イーゼリットしか眼中に無い彼女は、最初から猫達の可愛さも相手にしていなかったりする。逃げろおねえやん、薄い本の題材になる前に。 閑話休題。 惑わす幻影を生み出す那由他の武技は狩猟者達の毛皮を着実に切り裂いたが、それも何時までももつものではない。程無く膝を付き、ゆっくりと地に伏した彼女を前に、二匹の猫がニャアと上機嫌に鳴いた。 ――前衛の壊滅。その順調な狩り様に、リベリスタ達の背筋を冷や汗が伝う。 「おっきい猫さんは近くで見るとおっかないですね!」 相変わらずなかなか襲われない事が不思議だった稲作は、内心こそ標的にされた事でようやく私の放つオーラに感づきましたかとか若干暢気な事を思っていたりするものの――彼女を強敵と見た猫たちの攻撃は、今までの『狩り』よりも真剣な襲撃となった。 遠方からの撹乱を狙った、高速で跳躍しての多角的な強襲と黒き閃光の十字。その直撃で彼女に植えつけられた怒りと混乱を癒す力を持つ仲間は居ない。 「……あ、みかんの皮、使って見ようと思ってましたが……」 耐え切れず運命を削り、立ち上がりながら、ふとそんなことを思い出す。 試すだけの余裕と時間を、この猫たちは与えてくれそうにない。 ● 「まだだよ……まだ負けてないもん!」 アーリィが己と仲間を鼓舞する声を上げる。 そう、未だ負けてはいない。 戦線は総崩れではあるが、敵もまた、満身創痍。すでに根競べ状態である。 「やはり、中々当てさせて貰えないわね……でも、これで!」 集中を重ねた篠の不可視の殺意がついに二本角の頭部を真芯に捕らえ、根元で砕けた角がクルクルと宙を舞って地に突き刺さった。 「ニャ……ァ……ン……(対訳:ちくしょう……もっと、殺したかったぜ……)」 「……フニャー!?(対訳:弟ーーー!!)」 倒れ、動かなくなった次男の姿に長男が慟哭を上げる。 「……弟達を連れて帰れ」 動けずとも何とか意識を繋いでいたアウラールが、声を搾り出す。 手加減なしの攻撃を受け倒れた三男と次男だが、治療を急げば助かる可能性は0ではあるまい。 「にゃんきーごーほーむ!」 イーゼリットもまた穴を指差して言う。 もしも可能なら、あるべき世界に帰れと。 仕草とニュアンスでその意図が伝わったのだろう、一本角の猫は少し俯いて考える仕草を見せる。 単純な数だけで見ても、猫一匹対、篠と稲作とイーゼリット、そしてアーリィ。 増して猫達にはこの三人は全て恐ろしい姿に見えているのだ。特にアーリィ。 ――だが。 「フニャニャ! ニャン! ニャウーーー!(対訳:舐めるな! 泣く子も黙る『黒き三連鬼』が、成果も無しに帰れるものか!!)」 彼らの世界で簒奪者としての生き方を選んだ同業者達への、プライド、世間体。 武威を持って弱者を踏み躙る存在であるがゆえに、彼らは面子を何よりも重視した。 消える直前の最後の炎、一本角の猛攻は正に激しく通常の三倍の速度を見せ、見る間にイーゼリットを切り裂きうさみみの一本を契り宙を舞わせた。だが。 「……クッ、でも……倒れれるわけないでしょう! 猫に負けていられる!?」 だって、大きな猫じゃない! 冗談じゃない。 イーゼリットは至極もっともな主張を叫んで運命を捧げ耐え切った。 「フ……ウ、フニャーグルグルゴロロ!!(対訳:く……くそ、クソッタレがああああ!!)」 やがて愛らしくのどを鳴らすような断末魔が響き渡った。 ● そうして、ボトムチャンネルの荒涼と荒れ果てた緑の若草生い茂る丘の上で。 かくも恐ろしく残虐な《黒い三連鬼》の簒奪の歴史が幕を下ろしたのである。 だがしかし、これが最期の簒奪者とは思えない。 いつの日か第二、第三の三連鬼たちが―― 「ていっ」 (←イーゼリットがブレイクゲートなう) 「それではネコさん、さよならです」 (←稲作もブレイクゲートなう) ああっ! <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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