●グロースドイッチュラント師団の再起と進行 初期型パンツァーファウストを担ぐ少女を、時代遅れと蔑むことは簡単である。 しかしこの少女が、ビルを二分で瓦礫の山に変えられる力を持っている以上……そして、この兵器がアーティファクトである以上、時代遅れと呼ぶことはできない。 恐るべき兵器の所持者であり、恐るべき破壊力の権化である。 少女、ハンナ・マントイフェルは今、破壊の権化と化していた。 「やべえ、やべえ……クッソ、やべえ……」 親指の爪を噛んで歩く少女ハンナ。 見た目は小学生程度で、パンクファッションに身を包んでいる。 背中で交差するように担いだパンツァーファウストが異色を放っていたが彼女の目に宿る破壊衝動は、どこか兵器にマッチしていた。 ハンナは呟く。 「アークに目を付けられてる。だから絶対に次の作戦もバレてる。クッソ、なんでアタシばっかりこんな目に合うんだよ、クッソォ!」 道端に停車しされた軽自動車を蹴飛ばす。車体が大きくへこみ、エアバックの膨らむ音と警報音がまじりあった。 そんな少女の後ろには、顔を布で覆い隠した軍服姿の男達が、軍靴の音だけを鳴らしながら付き従っていた。 彼等の手には突撃銃。背中には擲弾兵器。真新しいパンツァーファウスト3。ハンナとは違い、彼らは見るからに破壊と殺戮のための身体をしていた。彼等の身体の所々から覗くメタルボディが、メタルフレームであることを主張している。 軍服の一人が低い声で言う。 「ハンナ師団長。あなたの復帰、我等一同心より待っておりました」 「うるせえ。この爆撃作戦を片付けなかったら裏野部に消される。アタシ一人でやってたらアークに消される。名前だけ残して時代に置いて行かれたお前らだって、弾除けくらいにはなる。それだけのことなんだよ」 「それでもです」 軍服の男が胸の内を吐露するかのようにため息を漏らした、その時。 「おいおい、私のかわいいかわいい世界ちゃんをどうするってえ?」 鳴り響く警報音。 ごみの吹き溜まりのようなシャッター街の真ん中に、一人の少女が立っていた。 「サリー……」 大切断鎖。フィクサードである。 ハンナは背中のパンツァーファウストを構えると、吐き捨てるように言った。 「アタシらを裏切ったあんたが今更何の用だ。アタシは今からビルを二つ三つぶっ壊しに行くんだよ。邪魔するんなら……」 「ああ? 邪魔するんなら何だよ。こうしてみりゃあ、デートの一つや二つできそうな気がするんでね、理由も聞かずにテメェを……」 鎖は背中に担いだ巨大なチェーンソーを構えた。 ハンナと鎖は、同時に叫んだ。 「「ぶっ殺す!!」」 ●いざ行かん、瓦礫の花園へ 「……以上が、取得できた情報の全てです」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は淡々と説明を続けていた。 アークのブリーフィングルーム。 一同に会したリベリスタ達は、難しい顔で資料を眺めている。 かつて『ちびっこヘビーアームズ団』と言うフィクサード組織と戦闘を行い、互角の所まで追い詰めることに成功した。惜しくも完全勝利とはならなかったが、組織は解散。メンバーは散り散りになったと言う。 今回はその一人、ハンナ・マントイフェルが活動を起こしたらしい。 元々請け負うはずだった『邪魔者掃除』の仕事を引き継ぎ、かつて率いていた小規模フィクサードチーム、グロースドイッチュラント師団を吸収。圧倒的破壊力をもってビルの爆撃作戦に打って出たのだった。 「彼女は前回の戦闘で皆さんの手から逃れましたが、必ず追手がかかると考えてかなり焦っているようです。穏便さとはかけ離れた強硬手段を次々と使っていて……どの道、この先は長くないのでしょう」 尻に火がついた状態、というわけだ。 其れゆえの、グロースドイッチュラント師団。師団と言っても12人前後のフィクサードで構成されたチームである。しかし少人数だと侮るなかれ、一般人の兵隊など相手にもならない。なにせフィクサードだ、神秘の力で破壊を行う連中だ。当然である。 「現在グロースドイッチュラント師団はシャッター街化した商店街を移動中、何者かと交戦しています。調べによると、以前アークのリベリスタが『戦うことなく』解放したフィクサードで、名前は……大切断・鎖。巨大なチェーンソーを武器とする少女だそうです。外見年齢は二十歳前後ですが、詳細は分かりません。交戦している理由も、いまいち……」 困り顔を見せる和泉。 「ですが、今はグロースドイッチュラント師団を叩くチャンスです。皆さん、沢山の人達の命が失われる前に、彼女達を止めて下さい!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月07日(土)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Reach Out To The Destruction グロースドイッチュラント師団。その名前を真偽はさておき自ら名乗っている以上、相応の強さが彼等に備わっていることは窺い知れようものである。 ……などと。 『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)はそこで思考を停止する。 ゴーストタウン化した商店街の二階住居スペースで息をひそめていた。気配は消している。斬りかかる瞬間はどうしても察知されてしまうだろうが、それより早く斬りつける自信が彼女にはあった。 窓の外を歩くハンナの姿を見て、目を細める。 「お久しぶりです。会いたかったですよ。前の師団は解散してしまったんですか、残念です憧れていたのですが。貴女の目的は知りませんし感心も有りません、私はリベリスタで貴女はフィクサード。それで充分ですよ――ね」 リンシードは窓ガラスを割って飛び出した。 上空から一団に向けて多重残幻剣を発動。緊急防御行動に出る兵士達の中で唯一、ハンナが唇を噛みしめた。 「クッソ、あいつだ……あいつがまた来やがったぁ!」 大切断・鎖に向けていたパンツァーファウストの先端を強引に振り上げ、リンシードへと照準。狙いも適当にぶっ放す。 リンシードは空中で身を捻ってロケット弾を回避。ハンナの眼前に、元々そう言う動きをする絡繰り人形であるかのように着地した。 「今回はにがしません。覚悟して下さい」 「チィ――ヘルベルト、リカバリーだ。一秒で!」 呼びかけられた兵士が無言でブレイクフィアーを展開。その様子にリンシードは目を細める。 「アークが一人だけで動く筈が無いんだ、絶対どこかから……いや、前後から挟まれてるぞ。全員警戒しろ!」 「ほう、読みは良いようだな」 角より『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が飛び出し、剣を重々しく構えた。 兵士の一人がロケット弾を射出するが、それを上段からの縦切りで切断。爆風を背にして走り出す。 「初目にかかる我が敵よ、世に害為すならば立ち塞がろう」 リンシードとアイコンタクト。グロースドイッチュラント師団が破壊に特化した組織であるなら、回復担当の数はいても一人。破壊以外を担当する雑用に近いメンバーが居る筈だ。なら先刻ブレイクフィアーを使ったヤツに間違いない。 「クリスティーナ殿」 「ちゃんと狙えてるわ。当たるかどうかは保証しないけど」 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)が兵士ヘルベルトにジャスティスキャノンを連射した。 そこへ飛び込んで行く『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)。 「最低限のお役目はさせてもらうぜ、ソニックキィィィィック!!」 郷の蹴りを突撃銃で防御するヘルベルト。しかし同時に撃ち込まれたジャスティスキャノンを顔面にくらい、跳ねるようにひっくり返った。 開始から常にイニシアチブを取り続けている。非情に良いペースだった。 それを見て首をかしげるのは大切断・鎖である。 自分を差し置いて勃発してしまった戦いを、半歩引いた姿勢で眺める。 「あの突っ込んで行ったの、どっかで見たな……誰だ。ティッシュ配りの兄ちゃんかな」 などと、本人が聞いたら膝から崩れ落ちそうなことを呟いていた。 1m程距離を置いて隣に立つ『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)。 「大切断鎖さんですね。敵は同じです、共闘しま――」 「ヤダ」 「……しょ、う」 たんたんと足踏みをして、いつも通り加速をつけようとしていた紗理はギシリと硬直した。 「なんでリベリスタとフィクサードで協力すんの。アタシまんまアホじゃん」 「ええと」 あまり説得の文句を考えていなかった。二つ返事でOKして貰えると思っていた、とは言わないが。 「奴等の暴挙を防ぎましょう」 「その後アタシの暴挙を防ぐためにデストロるって?」 「いえ」 「ならよし」 長い錆色髪を好き放題に垂らした二十歳前後の女である。 しかし女が……否、人間が持つにはあまりに巨大過ぎるチェーンソーを振り上げ、レバーを操作してエンジンをかける。スーパーカーが走り出すような轟音と共に、鎖はギザギザに笑った。 「デートしようぜ、リベリスタぁ」 「はい、参りましょう」 高速で飛び出す紗理。 二人は回復担当と思しきヘルベルトにカトラスとチェンソーを叩き込み、無理矢理黙らせた。 「師団長、申し訳――」 「クソがァ、誰が死んでいいっつった! クソ、クソッ、思った通りに邪魔しやがって、アークどもがあああ!」 歯をむき出しにして激昂するハンナ。 そこへ、壁と電柱と足場にして『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が飛び込んで行った。 「ユーティライネンだ、ドイツ軍人」 「ああ、ああ、フィンランド空軍か? 調子乗ってんじゃねえぞクソ豚ビッチが!」 リュミエールのソニックエッジが走る。ハンナは上半身を捻って回避したが、頬に深いナイフ傷が入った。 頬に手を当て、声にならない声をあげる。 「クソか、クソクソクソクソ! もういい、こいつから先にハチの巣にしろ。指一本残さず粉々にしろ!」 「しかし……」 「口答えするんじゃねえよ、木偶ども!」 その作戦は不利になると述べようとした兵士がいたが、その尻を蹴っ飛ばしてハンナは喚き散らした。 しかしそこはプロの集団である。その時動ける全員がリュミエールに照準。パンツァーファウスト3を一斉発射した。 「……ヤベ」 飛び退こうとするも一足遅い。リュミエールは大きな爆発に吹き飛ばされた。家屋の壁を破壊して転がる。 このまま撃たれ続けたら危ないと言う所で、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が庇いに入った。 「大丈夫かリュミエール」 「手ぇ抜き過ぎダ。ヤバイ。フェイトも用意してネーシ」 「マジか!? しょうがない、出来るだけ持ち応えてろよ!」 剣を握って兵士へ斬り込む風斗。 回復担当(らしき人物)が落ちたことで、後は誰を狙ってもほぼ一緒になった。恐らく全員がハニーコムガトリングを使える筈で、そうやって一斉爆撃をされればこちらとて危うかった筈なのだが、どうやら相手の指揮担当が混乱しているらしい。畳み掛けるなら今をおいて他にないだろう。 「悪事に行き詰ったなら足を洗えばいいものを、自業自得だな」 「五月蠅え上から目線で威張ってんじゃねえよ!」 「ともあれ、ここをお前らの終着点にしてやる。討ち漏らしはしない」 風斗の剣が兵士の肩に食い込み、激しい血しぶきを噴き上げる。 ハンナがパンツァーファウストの先端を風斗の頭にくっつけた。唾を吐き捨てるハンナ。 「まずは頭失くしてみっか?」 ハンナがトリガーに指をかけようとした、その時。 周囲に激しい神気閃光が走った。 思わず目を覆う者。手元を狂わせてヨタつく者。味方同士で衝突する者。半数程度ではあったが、兵士達は大幅に手元を狂わせた。そこには、ハンナも含まれている。 「ぐぁ……!」 片目を瞑ってトリガーを引く。風斗の頭から数十センチずれて発射されたロケット弾が家屋の壁に当たって爆発した。 壁が崩れ落ち、埃が舞い上がる。 その中から、ひとつの人影が現れた。 「以前仰りましたね。窮鼠になってからと」 革靴の音を響かせて、ゆっくりと歩み来る者。 「貴女は、歪夜の使徒と事を構える組織が、窮鼠ではないとでも?」 「……ああ?」 顔をしかめるハンナ。彼女の表情は次第に歪み、怒り憎しみ焦りといった様々な表情が浮かんでは消えた。 「己より上の存在に挑まぬ者。貴女は『肥えた猫』です」 分厚い本を片手で広げ、白い手袋を顔の前に翳す。 彼の名を、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)。 「故にそこに、神秘の奥義は宿らない」 「あの……時の……!」 ハンナは空になったパンツァーファウストを地面に叩きつけた。 ●ハンナ・マントイフェルと言う死骸について 師団長であるハンナはこの時、集団妨害スキルを豊富に持っているであろうイスカリオテを優先的に潰し、次に回復手段のあるメンバーを潰し、一気呵成に三人程戦闘不能にした段階で即時撤退……という、かつて『ちびっこヘビーアームズ団』のリーダーと同じ作戦をとるべきだった。 しかし複雑な感情がないまぜになった彼女にとって、もはや効率など視野に無く、兵士達に下していた命令を変える余裕すら無かった。 兵士達は継続してリュミエールへ爆撃。必死に壁や電線を走ってかわすリュミエールだったが、執拗な攻撃にあえなくダウン。フェイトも使わなかったため復活も無かった。 だがここで漸く、ハンナは攻撃対象を変更する必要に迫られる。 「次はサリーだ。あいつをぶっ殺せ。早くしろ、早く!」 乱暴に急き立てるハンナに無言で従う兵士達。 複数のロケット弾が酔っぱらったウナギのような軌道を描いて鎖へと飛ぶ。 舌打ちしてガード態勢をとるが、爆破にたいする防御力など持ち合わせてはいない。すぐに吹き飛ばされて終わりになるだろうと、ハンナは乾いた笑を浮かべた。 しかし。 「この程度、大したダメージにはならんな」 バックラーと剣を交差させたアラストールが、全てのロケット弾を自身で受けていた。 「アンタ……」 「なに、勝手に守らせてもらうだけですよ」 身体についた灰を適当に払い落とすアラストール。 兵士達の火力が彼女の防御力を下回っているというわけではない。しかし、残存戦力の全てを費やしても彼女を落とすには骨だろう、と兵士達は一瞬で見抜いた。 ハンナに視線を送る。しかしハンナは親指の爪を強く噛むばかりで攻撃対象変更の指示は出さなかった。 対して、鎖はと言うと。 「固いなあアンタ、何食って生きてんの」 アラストールの身体をぺたぺたと触っていた。 庇う体勢にあるのをいいことに、背中や腰を好き放題に触る。 「今は戦闘中なんだが」 「あ、そっか」 両手を挙げてバンザイをする鎖。 そこへ、郷が凄まじいスピードで駆け込んできた。スライディングでアスファルトがえぐれる程度の勢いである。 「よう鎖ちゃん、また会ったな! 困るんだよねー、俺に会いたいからってこんなトコに現れちゃ、いや嬉しいんだけ」 「誰だっけオマエ」 「ゴファ!」 郷が血を吐いた。 とりあえず聞かなかったことにしてみる。 「ま、今はあの幼女の企みを阻止するのが先だからな。世界を愛する者同士仲良くしようぜ」 「お前が愛してるのは女の子だろ?」 「ゴファラヴァ!」 郷は血を吐いた。 だが遠まわしに自分の事を思い出してくれたのだとポジティブに考えて気を取り直す。 「愛されてるなら愛し返す、当然ジャン? それが人間でも世界でも変わらねえ……ってことで、鎖ちゃんも俺を愛しちゃっていいんだぜ?」 「やかましいわ」 「ゴファラヴァラ!?」 鎖のチェンソーが繰り出された。郷は血を吐いた。ついでに噴き上げた。 が、今度は死ななかった。 彼は以前と比べ格段に強くなったのである。 「ま、続きは後だ。いくぜ幼女のお姉さんコラァ!」 ソニックキィィックと言いながらハンナへととびかかって行く郷。 そこで漸く、鎖はフードパーカーの腰ポケットに入っていた紙切れを取り出した。 血だか何だかでぐちゃぐちゃに汚れた紙切れである。 「なんだこりゃあ、ゴミか?」 そう言いつつポケットに戻す鎖。 アラストールと共に敵兵団へと斬りかかって行った。 命令上鎖を狙わざるをえない兵士達。 それを徹底的にガードし続けるアラストール。 この構図によって、グロースドイッチュラント師団は全滅の危機に直面していた。 ロケット弾を切らし、突撃中を連射する兵士を横から殴りつける風斗。 風斗の剣は、切ると言うより殴るに近い。斧や鉈で叩き斬るのがメインだが、鎧や骨を纏っている人間に対しては『とても大きな金属塊を叩きつける』と言う戦法になりがちである。特に今がそうだった。 剣で兵士の腕と足をへし折り、頭を叩き割る。 そのまま大回転して背後の兵士の側頭部を陥没させ、押し倒した所で心臓を突き潰した。 そんな彼に対して紗理は突きに特化している。叩くや潰すといった力技が使えないわけではないが、彼女の武器はいつも速力なのだ。兵士の心臓を高速で突き貫き、引き抜く動きを抜刀に見立てて背後の兵士に向き直る。その頃には喉から胸にかけてをばっさりと切り開いており、上がる血しぶきを器用に避けて別の兵士へ斬りかかる。 そんな二人が暴れているとなれば、兵士も気が気ではない。 肝心のハンナは、リンシードと奇妙な追いかけっこをしているのだ。 「どこまでついてきやがる、クソ!」 高速で迫るリンシード。彼女の剣がハンナの首へかかる寸前、近くにいた兵士をひっつかんで庇わせる。兵士の首がバネ仕掛けの玩具が如く飛び上がり、ハンナは悪態をついて飛び退く。そこへ距離1mを保つようにしてリンシードが追随する。そんなことの繰り返しだった。 「邪魔ですか? しつこいですか? すみません、性分なので」 元々そう言う風に動く絡繰り人形かのように、にひゃりと笑うリンシード。 ハンナは君の悪い生き物を見る目をして、別の兵士を盾にした。 首と腕が跳ね飛ぶ。 だがそんな追いかけっこも、じきに終わりが来るものだ。 激しい雷と熱砂が一帯を覆い、兵士達が悉く倒れていく。 チェインライトニングと灼熱の砂漠である。イスカリオテとクリスティーナ。二人の攻撃を立て続けに受けて、まともに立っていられる者は少ない。ただでさえ神秘攻撃に脆弱な兵士達なのだ。 最終的には、フェイトを削ってハンナ一人が生き残ると言う結果になった。 「万象一切灰燼と化す。殲滅砲台からは逃げられない……」 指を一本立てて、クリスティーナは言う。 うつ伏せに転がったハンナを見下ろす形で立つと、腰も屈めずに問いかけた。 「貴女は武器を抱いて死ぬ? それとも託して死ぬ?」 「……クタバレ豚が」 「それでこそ兵器よね」 アームキャノンの先端をハンナの後頭部に押し当てる。 それを、イスカリオテが片手で止めた。 「前回相対した癒し手の少女、名を教えて頂けませんか」 「聞いてどうするんだよ、インテリ屁理屈野郎」 「あれは私の獲物だ」 目を細めるイスカリオテ。 どんな理屈を捏ねるのかと思ったハンナは、無人のサーカステントに入った子供のような、どうにも煮え切らない顔をした。 「『ナコト』だ。本名じゃねえ。元々あいつは浮いてたんだ、詳しくなんて知りたくもねえな」 「……そうですか」 クリスティーナの前から手をどける。 そして、重い銃声が鳴った。 ●大切断・鎖 『不老になれる肉』を中途半端に食らったために、十二歳前後の少女になってしまった集団がいる。 そこは元々戦争に捨てられた人間たちの吐きだまりであり、どうせもう長くもない余生を自堕落に過ごすことを目的とした、世にも破滅的な集団であったと言う。 「ハンナとは仲が良かった。よくポーカーをしたんだ。アイツは賭けに勝つと、決まって街に繰り出しては腐れた変態共と壊滅的な遊びをしていた。グダグダになって死ぬのがいいんだと言っていた。だとしたら、あの死に様は本望じゃなかったんだろうよ」 唸りを止めたチェンソーを棺桶のようなケースに放り込み、大切断鎖は頬杖をついていた。ケースは今や椅子代わりである。 風斗が救急箱を突き出す。 「とりあえずこれを使っておけ」 「ああ、サンキュ」 箱を受けとり、ふたを開けてひっくり返す。落ちた中から痛み止め錠薬を摘み上げ、マーブルチョコレートのようにばらばらと頬張った。噛み砕いて飲込む。 それを見ながら、風斗は強い口調で言う。 「お前の意図はともかく、行動に助けられた部分はある。その礼だ。だが覚えておけ、現状の世界に仇為す行為に及んだならお前は」 「昨日さ」 遮るように呟く鎖。 「煙草ポイ捨てして地球環境汚したんだけど……どうする、殺す?」 「……その程度」 「闇金で女の身体をフランスに売払おうとした一般人を二十人強殺したんだけど?」 「……」 「子供泣かせた四十代のサラリーマンを駅の時計台に吊るしたんだけど?」 「……それは」 「あんさ、正義の味方っぽいこと言ってるけど、そりゃブレ過ぎだって。ワガママで暴力振るえないヤツはいつでも『他人の所為』にするんだぜ。世界の為とか正義の為とか、そんなんじゃん?」 「……」 「ま、いいけどさ」 棺桶ケースから立ち上がり、立ち去ろうとする鎖。 それを郷が呼び止めた。 「この間のケー番メモ」 「あ、このゴミな?」 「ゴミ!?」 郷は膝から崩れ落ち……かけた。 「いや、電話くれれば何処にだって行くぜ? ほら、俺は愛の宅急便だから」 「ほう、愛の?」 「告白じゃないぜ、ただの営業だ。お荷物募集中のな!」 「……じゃあ、いいわ」 まるめたメモを郷に投げ渡し、鎖は踵を返した。 お手玉する郷。 鎖は背中を向けて手を振った。 「またな」 去っていく背中を見て、郷は今度こそ膝から崩れ落ちたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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