● 真っ白で清潔なシーツが敷かれたベットの上に横たわる少女の胸部からコードが機械へ伸びる。 ピッ、ピッ、ピッ 彼女が刻む命の拍動を読みとった機械が黒い画面に緑色の稜線を刻む。 周りを囲んでいる少女の学友達は彼女の手を取ったり、代わる代わる励ましてみたり、その場にいる全ての人が彼女の回復を願っている。 夜になって、今だ安定した脈を刻み続ける少女の顔を覗く人影があった。面会時間等とうに過ぎているがそれを咎める者はいない。 「あぁ、キミは助かるんだね」 少しやつれてはいるが、年頃の少女らしい微かな紅が差した頬が、彼女の運命の糸が先へ続いていることを教える。 「いいなぁ、羨ましいな、お昼だってあんなにお友達に囲まれて」 灯りが落ちた、暗い病室の中に声が寒々と満ちる。 「でもね、それも今日でおしまいだよ。貴女も私と同じ思いをするの」 人影の手がゆっくりと少女の心臓に伸びる、少女の体が一度微かにはねて、止まる。 「うふふ、こっち側へいらっしゃい」 彼女の命を表していた緑色の線が二度と拍動の動きを刻むことはなかった。 ● 「病院にフェーズ2のE・フォースが出現したわ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がブリーフィングルームにリベリスタ達を集める。 彼女がリベリスタ達に配布した資料には16歳くらいのまだあどけなさが残る少女のパーソナルデータが記載されていた。名前は、『芹田・カスミ』。 「闘病生活の末になくなってしまった少女の無念……言ってみれば残留思念の様な物が革醒してしまったの、生前の彼女の容姿で活動しているわ 彼女は自分と同じように病院に入院している少女の元に降り立っては少女達が必死に手繰り寄せている運命の糸を断ち切っているの」 友達もいた、家族もいた、なのに夢に満ちた世界を病魔によって潰されてしまった少女。 カスミの無念が如何ばかりであっただろうか、そう考えてしまうとその場にいたリベリスタ達の顔がわずかに曇る。 「確かにかわいそうだけど、それでも多くの人を道連れにしてしまうわけにはいかない」 彼女がパネルを操作するとモニターに地図が表示される。 「次に彼女が出現するのはこの病院よ 深夜だから、人は少ないけれど居ないわけではないわ」 病院内で激しく戦闘を行えば当然人が集まってくるだろう、それについては彼女をおびき出すか工夫をせねばならない。 「カスミは、回復を効きにくくするのと、配下にフェーズ1のE・アンデットを2体程呼び出す能力を備えている 回復を効きにくくする効果はBS回復スキルでは解除されないから、気をつけて」 病院内部の見取り図や周りの地図を渡しながらイヴがリベリスタ達を見上げる 「カスミはとても優しい少女だったそうよ、今は一寸我を忘れているだけなの、お願い。彼女を止めてあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月09日(月)00:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 病院と言う場所は現代において最も生と死が近くにある場所であることに違いない。なら死に近づいた生者が生きるために病院を訪れるように、生に近づきたい死者も此処に来るのはある種当たり前のことなのかもしれない。 そんな取りとめもないことを考えつつ、『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は不運にもカスミの標的となってしまった少女の病室を透視で透かし見る。少女の病室の隣はリネン室であり、この時間になってしまえば訪れる者はない。4人のリベリスタと1人の少女が隠れていようと咎める者はいなかった。 「どうですか?」 「まだみたい、だね」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)の問いかけにキリエは首を振って答える。キリエの目にはいまだガランとして仄暗く染まった病室が映っている。 「カスミがこの子を殺しに来るのは間違いないんでしょう? ならきっともう少ししたら来ますよ」 おそらく彼女の執念はどこまでも暗く、そして強いのだから。万が一の時に標的の少女を逃がす役目を担う『残念な』山田・珍粘(BNE002078)こと那由他・エカテリーナが使われていないベッドに寝かせた少女の寝顔を覗きこみながら言う。 「カスミさんの境遇はとても痛ましいですがね……」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は首をゆっくりと振る。かわいい盛りの子供がいる彼はカスミに対する感情も複雑なものがあるのかもしれない。 そのままたまに会話が交わされ、ピリピリとした空気が続いたまま時計の短針が幾度か周り、丑三つ時に差し掛かった時にカスミは現れた。 「来たよっ」 キリエの声に反応してうさぎと京一がアクセスファンタズムを介して下に待機しているメンバーに連絡を取る。そうしているうちにクレセント錠がかかった窓をすり抜けて、白い入院着を着た少女が舞い降りのがキリエには見えた。 そのまま滑るように床の上を歩いて、ベットの枕元から透けるようにか細い腕をそっと伸ばす。 「今だ、うさぎ。頼むよ」 「任されました」 うさぎが窓の外に横切る影を作る。カスミが敏感にそれを察して振りかえり、窓の外、中庭を見ればそこには入院着を着た『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)の姿があった。カスミはそれを認めると再び窓をすり抜けて夜空を駆ける。今の彼女の眼にはおそらくかるたしか映っていないのだろう。 「では、私達も行きましょうか。」 リネン室の窓からカスミを確認した京一が全員に翼の加護を施して自らも飛ぶ。 「えぇ、彼女を止めましょう」 うさぎとキリエが窓から先程のカスミのように中庭に向かって飛び出す 「それじゃあ少し待っててね」 最後に那由他が少女の頬を軽く撫でて窓から飛び出した。 ● 「カスミさんが来たみたいだよ、作戦が成功すればすぐにこっちに来るはず!」 手首の動きでアクセスファンタズムを折り畳みながら『ブレイブハート』高町 翔子(BNE003629)が声をかける。 「分かった、準備しておく」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が小気味いいリズムで連続した打鍵音を響かせる。彼女がエンターキーを最後に軽く叩くと綺沙羅の周りに剣で描かれた陣が展開される。 「此処できっちり決めてしまいたいわね」 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)が体内のギアを入れる。 物影に隠れていた3人が準備を整えた時、かるたはカスミと対峙していた。カスミは怒気をたぎらせながらカルタを睨む。 「あの病室にいた女の子、何処へやったの」 「此処にはいませんよ、彼女は私達が逃がしました」 標的が逃げたことで今夜の襲撃の失敗が悟ったことを知ったカスミは拳を強く握る。 「余計な事をしてくれたわね……! 貴女はまだ死ぬ程でもないようだし此処に用はないわ」 そう言って立ち去ろうとするカスミをかるたはアクセスファンタズムを操作しながら呼びとめる。 「他へ行く必要はありませんよ」 「……? どういう」 ことよ、と言葉を続けようとしながら振り返ったカスミが見たのは、入院着から一瞬で戦闘準備を整えたかるたの姿。その様子は正に、かるたという女性の根源にある『病気を克服した』と言うことを表しているようだ。 カスミはその様子を見て苛立ったように告げる。 「なにそれ、私の邪魔をするつもり?」 「そうなりますね」 「だったら容赦はしないわよ」 瞬間、カスミの周りに嫌な気配が漂い始める、陰気さを孕むそれを纏ったカスミはまるで幽鬼の様にゆらりと顔を上げる。 「私の、私の邪魔をする奴は殺す!」 カスミが両手を振り上げると地面が捲れ上がるようにして、2体の死体が召還される。しかし、その様子を黙って見ている程リベリスタ達も甘くはない。うさぎ達もすぐにこの場に来るだろうが、今はこのメンバーで何とかするしかなかった。 「そんなつまんない思いは此処で消し去ってあげるわ」 闇紅が走る、予備動作なくトップスピードに入った彼女は男アンデットに速度が乗った剣を思い切り叩きつける。死体になって崩れた腐肉がはじけて飛ぶ。 他の者が狙った通りに敵を撃破できるようにかるたがカスミの前に立ちはだかる。 「なによ、貴女さっきからイラツクのよ!」 かるたが手甲を地面に叩きつける、生まれた衝撃波がカスミに向かって走る。それを念動力の様な物で逸らしてダメージを軽減するカスミ。 「貴女の悲しみは、私が受け止めるからです」 素早く構えなおしながら宣言するかるた。 「やれるもんなら、やってもらおうじゃない!」 カスミの纏うオーラが鎖状に変質する。それを両手の動きで鞭のように操るカスミ。振るわれた鎖をかるたは手甲で受け止めようとするが彼女の念動力で自在に操られた鎖は的確にかるたの手甲の間をすり抜け彼女を縛る。 「私はね、この力でこれからも殺し続けるの!」 自らの力が一時とはいえ相手を圧倒したことに気を良くするカスミ。そんな彼女に対して 「今のあんたの顔、相当酷いよ」 言葉と共に綺沙羅から手鏡がほおり投げられる、舞いながら落ちる鏡が映したカスミの顔は歪んだ笑みを張りつけている。 「あんたは道連れを増やすだけで幸せになれるの? おめでたいね」 まぁ分からないでもないけどね。と続けながら鏡が割れる音が響く中綺沙羅が放った鴉の式神が男アンデットに刺さり、嘴から毒が注入される。 「あんたは精一杯生きたんじゃないの?」 髪を払いながら彼女は凛と言い切る。 「そうだよ、これからも未来がある女の子をカスミさん、貴女が殺してしまうのは同じ目に合わせたいっていうだけ。 それは違うよ!」 翔子も同じようにカスミに声をかける。しかしその声に反発するようにカスミは2体のアンデットを動かす。 「今さらそう言われても、もう遅いのよ!」 綺沙羅が鏡を投げた時の表情のままカスミが止まることはない。 女アンデットはかるたの動きをさらに固め、男アンデットが闇紅にお返しとばかりに殴りつける。闇紅は殴られた衝撃に吹き飛ばされそうになるが両足を突っ張って止める。 「流石に4人じゃ、厳しいわね」 荒く息を吐く闇紅。確かにカスミ達の一撃は威力こそそこまで高くないものの長期戦ともなれば非常に厄介である。 「すいません、遅れました!」 うさぎ達が羽を広げて制動をかけつつ戦闘の中に飛び込む。 「増援? 良いわよ、貴方達も纏めて殺してやるから」 カスミから広がる闇のオーラが後から来たうさぎ達も覆う。彼女の恨みが込められたコレは回復を著しく阻害した。 ● 闇紅が再び動く、先程より深く男アンデットの体を穿つが彼はまだ倒れない。 「貴女のしていることは見苦しいとしか言いようがないですが、でもそれはそれでとても人間らしい魅力に溢れた姿だと思いますよ?」 那由他が軽く微笑みながらカスミの前に立つ、かるたはカスミにかけられた呪縛のせいで動くことができないが、那由他がしっかりとカスミを抑える。 「大丈夫、落ち着いて。私たちは君をこの怖い夢から、覚ますために来たんだ」 キリエがカスミ落ちつけようと投げたセリフはしかして、彼女の逆鱗に触れる。 「悪い夢ですって……? 違うわよ、私がこうしているのはさっきからそこの女達が言っているように純粋な怒りよ、嫉妬よ! 私はね、ただ憎いのよ!」 慰め等いらない、綺沙羅や那由他達の言う通り私はそうしたいからしているだけなのだ。と彼女は言う。 「死んでもいない癖にね、私の立場に立ったつもりにならないで! 私を止めたかったら私を殺すしかないのよ!」 鎖の太さが先程までの倍のようになり、キリエを打ちすえる、同時に彼女の黒いオーラが傷を焼く。キリエの顔が苦悶に染まる。 女アンデットはうさぎに移動を制限されているが後衛を巻き込むように攻撃を放つ、カスミはキリエに狙いを定めたようだ。 「貴女はただ悲しいだけ、腹が立って暴れているだけでしょう? お相手しますよ」 目の前に立つ女アンデットにうさぎが死の紋章を刻む。彼女の怒りを遠慮なく、全て受け止めると彼は宣言する。 「上等よ……死んでも文句言わないでよね!」 カスミの言葉の通りに苛烈な攻撃が行われる。男アンデットは自らに近づく前衛を力の限りブン殴り、女アンデットはバッドステータスをリベリスタ達に付与、カスミの黒のオーラが付与されたバッドステータスの数に比例して攻撃を受けた者達の体を蝕む。激しい攻防の中、闇紅の一撃が男の仮初の命を貫き、二度目の死を与えた。 しかし、男アンデットが倒されてもカスミと女アンデットの連撃は一回ごとに着実にダメージを与えて行く。そのため京一と綺沙羅は常時回復を撃つことを強いられるが、それすらもカスミのオーラが邪魔をするせいでうまくいかない。そうしているうちにキリエが女アンデットの攻撃に倒れてしまう。 「それでも……私は貴女を助けたいんだ」 フェイトを消費して立つキリエだが、しかしカスミはそれすらも嘲笑う。 「分からない人ね」 カスミが掌を下に向け、振り下ろす。キリエや綺沙羅、翔子達にプレス機で押し込まれるような圧力がかかり、刃が迫る。3つのバッドステータスを同時に与えるそれは黒いオーラの力を存分に生かす。 「う……」 カスミの一撃はフェイトを消費して立ったキリエをもう一度切り裂いた、ズタズタになった体で膝をつくキリエ。 「ままなりませんね」 京一は倒れて意識を失ったキリエを後ろになんとか運び、未だ戦う仲間達に癒しの光を向ける。彼自身も何度も攻撃を受けているが此処で倒れるわけにはいかない、やすやすと倒れてしまうことは自分が許さない。 「貴方も、倒れろ!」 カスミの鎖が京一をからめ取る。体をただ打つだけではない、骨ごと砕く勢いで叩く。内臓が締めあげられて口から血が溢れる。溢れる赤い血をフェイトの力で止める。 「私は、貴女の行いが許せない。無辜の少女がなくなることは見過ごせない」 彼は力の続く限り癒しをもたらし続ける、彼の矜持がある限り彼が折れることはない。 「さぁ、そろそろ大暴れも終わりの時間が近付いてきたようですよ」 うさぎの言葉の通り男アンデットが倒れ、カスミに一斉に火力が集中する。 「まだよ、まだ終わらない」 カスミは我武者羅に鎖を振りまわす。それはもはや追い詰められての悪足掻きにしか見えない。 「あんたはそうやって足掻いたんでしょ? 病気で死ぬまで。なら、それを誇りなさい」 「そんなの死んでしまうなら意味なんて無かったわ」 綺沙羅の言葉に切り返すカスミ。女アンデットを動かして後衛を攻撃させる。その攻撃は翔子の体力を削りきり、確実に倒す能力を秘めていたが、翔子はそれを振り払う。 「貴女は退院した時に何かしようとか、そんなことを考えたことはなかった? 貴女が殺そうとした女の子は、貴女の代わりに貴女がしたかったことを、叶えてくれるのよ」 だからもう、休んでいいと翔子は言う。 「カスミさん、貴女の気持ちはよくわかります。私も昔はそうでしたから」 戒めを砕いたかるたがカスミの前にもう一度立つ、一瞬だけ彼女の脳裏に病気だったあの頃がよぎる。 「貴女と同じ悲しみを作り続けたい、植えつけたいと思う気持ちはわからないでもありません。だけど私はそれを止めます。私のエゴですが、それが貴女の為になると私は信じます」 かるたの拳が深くカスミに刺さる。くの字に体が折れてそのまま地面に叩きつけられる。 「だから、もう終わりにします」 かるたは、静かにカスミを見下ろしてそう言った。 ● カスミまで倒れてしまえば、女アンデットは脆かった。決定的な力を持たない彼女は回復能力を十全に取り戻したリベリスタ達の前に為す術もなく叩き伏せられる。 「コレで終わりね」 那由他が最後まで笑みを崩すことなく女アンデットにトドメを差した。 先程まで戦闘音が響いていた中庭に静寂が戻る。 「後処理はアークに丸投げしていいのかしら?」 綺沙羅がその場に横たわっている3つの死体を見つつ呟く。 「キリエさんも怪我をしていますからね、そうしてもらいましょうか」 うさぎがアクセスファンタズムを操作する。空が白んできたが、明けてしまう前に何事もなかったかのように事態は闇から闇へ葬られるだろう。 「なら、私は先に帰るわね」 闇紅が残るメンバーに手を振る。確かに目撃されるかもしれないリスクを考えれば彼女の様にすぐさま立ち去るのがいいのかもしれない。 「どうか、安らかに」 京一が用意していた花を彼女に捧げる。彼の様に何か思うところがある者もメンバーの中には多かった。 うさぎもカスミの傍らに立ち、彼女の瞼をゆっくりと降ろす。 「満足してくれましたか? 最後がどうあれ貴女は貴方でしたよ」 「一人は寂しいですからね、せめて最後の時位は私達が見守ってあげましょう」 「そうですね、私もそうしたいです」 「私もカスミさんと一緒に居たいんだ」 那由他とかるた、翔子はそうしてアークの処理部隊が来るまでカスミに寄り添っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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