● 「君と生きて、君と死ぬよ」 嘘よそんなの。ありえないわ。 「ずっと傍にいるよ、君を一人になんかしない」 貴方もそうやって私を騙すのね。 「嘘だと思うならば殺してくれ、君より先には死なないから」 出来る訳ないじゃない。私が、貴方を殺すなんて。 「君が俺を見なくとも、俺は君を見ているよ」 私も見ているわ。もしかしたら、貴方なら……、ううん。そんな事ありえない。 「恋しいも愛しいも死ぬまで唱えてまだ足りない」 もう……、そうね。良いわ、貴方になら騙されたって。 ……でもね? ほらね? ……やっぱり私は、騙された。 女は、変わり果てた姿で諦めた様に笑う。 人であった頃の姿は既に無く、裸身の半分を取り込まれた樹木から晒し、女は笑う。 「ああ、桃花。君はとっても素敵だよ。愛してる」 ……もう、本当に、嘘ばっかり。 ● 「皆さんこんにちは、桜も散り始めてきてしまいましたね」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は、ブリーフィングルームの机に、桜の花が咲き誇る枝を小さな壷に入れて飾っていた。 そんな桜の季節だというのに、今回の案件は―― 「宝仙桃の苗と言うアーティファクトがあるのです。 人を苗床に樹木となり、宝仙桃と言う名の実をつける、アーティファクトなのです」 宝仙桃は革醒者が口にすれば体力が回復する不思議な果実。 だが一般人が口にすれば強烈な麻薬となり、摂取し続ければやがてノーフェイスと化す。 宝仙桃の実が成るには、苗床の生命力と強い感情が必要。 三尋木に属する男は其の感情を呼び起こす為に愛を囁き続け、出来た桃を精製して麻薬として流通させている。 樹木となった苗床も動いて戦闘が可能。三尋木のフィクサードと敵対すれば、彼を守るために立ちふさがり、或いは宝仙桃で男を癒す。 「不運にも、女性が苗床となってアーティファクトと一体化しています。これを元に戻す術は……」 そこまで言って、杏里は首を横に振った。 「依頼はアーティファクトの破壊と敵フィクサードの撃破です。 三尋木フィクサード『松』と苗床である『桃花』。 これ以上、一般人を巻き込まないためにも、幻の愛を打ち砕いてください」 杏里は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月28日(土)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●恋して、愛して 流れる菜の花が彩る、金色染みた庭園。 その中に伸びる宝仙桃の樹から枝のように伸びる桃花の上半身が彼――松へと手を伸ばす。 例え騙されていたとしても。 例えこの繋がりが利用と依存であったとしても。 例え全てが偽りであったとしても。 貴方の横にいられるだけで、必要とされるだけで、それだけでいいの。 儚い存在意義は、強固たる精神と執着によって護られいて。 伸ばされた手に己の手を重ね、好きだよと口を動かすその姿は人形の様でもあって。 でも。 「ハロー」 軽く利き手をあげながら『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)の言葉が二人の空間を裂いた。 ――ロミオと都合の良いジュリエット悲喜交々。如何お過ごしでしょうか? おっと、いけない。これは悲劇でもなんでもない。 こんなB級にも劣る芝居を見せられて、名作と重ねるのさえ失礼だ。 「貴方達、誰よ!」 松の頬に重ねた両手は離さずとも、桃花は火車を睨んだ。 そんな睨まれる瞳、怖くもなんとも無い。火車は動じずに、その後ろからぞくぞくとリベリスタが姿を見せていく。 「あれが、宝仙桃ですか」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が桃花を見ると、そう呟いた。 似たようなアーティファクト絡みの話を知っていた。きっとそれがモデルなのだろう。どうであれ、作った本人は趣味が悪い。 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)がサングラスの奥から桃花と松の感情を見極める。 どうやら桃花のその気持ちに嘘、偽りは無いことはよくわかった。 しかし、本当にそれでいいのかと星龍の胸に突き刺さる。 「愛は与え、与えられるものですが、今の貴女の愛はどうなのでしょう?」 星龍が目線を松へと移しながらそう言った。 言葉にカッとなった桃花は怒り、声をあらげて叫んだ。 「……いきなり何よ!! 私達に、何か問題があるっていうの?!」 「そ、そういうことではなく、貴女はそれでいいのでしょうか……? という事を……その」 七布施・三千(BNE000346)はそこで言葉に詰まってしまっていた。確かに、両方がそれで良いならそれも愛なのかもしれない。 「違う! そんなの駄目!!」 三千の手前から『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が力強く叫ぶ。 紫に輝く目は闇とも光とも取れない色に輝く。救えないなら、せめて、早く幕を下ろしたい。 すぐにでも飛び出せる。武器はもう、戦闘の準備さえ整っている。 「ホント……不条理な世の中万歳ね」 光を通さない『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)の瞳は泳ぐ。 闇に紛れて生きる闇紅にとっては、眩しく輝く菜の花達は目に毒だ。でも、それ以上に白く桜色に淡く彩られた宝仙桃が邪魔だ。 「うるさいうるさいうるさいわ!!」 闇紅の耳には桃花の声が酷く五月蝿く響いた。 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)もその隣で眉間にシワを寄せる。 (桃……) 気になる彼女にあげたプレゼントも桃の花。それが心に突っ掛かって。 どうにかしてやりたい、でも、でもきっと――。 ●愛を捧げ、捧げてもらって。それで、幸せ。 闇紅が最速で動き出す。 何も迷いなんて無いほどに、一直線の線上を綺麗に辿ってはその身体は加速していく。 松の下へ辿りつくが、その目の前に。 ――嗚呼、救えないなんていつもの事。 桃花の身体が立ちふさがった。 光を通さない瞳は半目となり、桃花の般若へと歪む顔を見つめる。 邪魔だとは思わない。ただ、憐れで哀れで。だが。 「邪魔なのよ!!」 ブロックされた闇紅はそれ以上進めなくなってしまう。 だが狙いはお前じゃない。でも、邪魔なら切り刻んでやる。 ギリッと噛んだ奥歯に遺憾を込めながら、闇紅はその小太刀を振るった。 「もう終わりだよ。愛も恋も甘い囁きも寂しいのもね!」 桃花の身体を凪沙の掌が触れていた。その瞬間に弾ける宝仙桃の木の肌が弾ける。 絶叫に狂う目の前の女を目にして、凪沙は冷静だった。憐れだとか、可哀想だとか思う訳でも無く、ただただ機械人形の様に攻撃を続けていく。 関係無いのだ。 例え、与える攻撃の痛さに涙を流されても、殺すと狂気の目線を向けたれたとしても。 そうなってしまったのなら、仕方ない。 その心構えが凪沙は終わっていた。だからこそ、容赦の無い一撃は桃花の防御を貫いていく。 「アア、桃花。今すぐに助けてあげるから」 桃花へと小太刀を振るう闇紅の手前で松が漆黒の瘴気を放つ。 それに巻き込まれていくリベリスタ達を視界に入れずに、桃花の頬は染まった。 愛を感じた。守ってくれるだなんて、嬉しい。 ええ、ええ。 守って、沢山守って。そして、もっと愛を囁いて!! 「優男、良いことでもあったか?」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がその身体で、赤く染まった凶器を受け止める。 良いこと? あるはずが無い。 この男――松にとっては仕事妨害もいいところだ。すぐに終わらせて栽培させて頂きたい。 「恋仲を引き裂くとは、なんて酷い人達だ。いや? 人か?」 松がウラジミールに止められた武器を、ぎちぎちと押し込んでいく。 ウラジミールの目には凪沙の攻撃を受けている桃花が映る。 「……これ以上、犠牲者を増やさせる訳にはいかない」 彼女も犠牲者の一人か。それから生まれる新たな犠牲は、此処で止めるが任務。 三千の放った十字がウラジミールを守った。それに加えたウラジミールの本来の耐久力は、その攻撃を最小限の体力で受け止めた。 「宝仙桃。どれほど依存できるか興味があります」 ――けど、リベリスタにはそれを確かめる術は無いのですね。 一般人と革醒者で効力が違うとは、これはなかなか面倒なものだ。宝仙桃といえども、神秘的物質。これによって不運にも革醒した一般人も少なくは無いだろう。 けれど、それも今日まで。 魔力を込めた弾丸が放たれる。それが桃花の身体を射抜いて、いくつかの実も一緒に吹き飛ばしていく。 今助けるから、頑張ってくれ 松が紡ぐ、痛みなんて消え去る魔法の言葉。その言葉につられて、実は彼を癒す魔法となる。 それから熟れていない実が切り離されてリベリスタを襲う。 「危ない! できるだけ、離れて位置をとって!!」 即効で敵の攻撃を理解した京一が仲間へと叫ぶ。フルで動く頭脳が次の一手を導いて、仲間を助けるのだ。 それは火車にとっては、不愉快極まり無い言葉の羅列であって。燃え上がる腕を振上げ、桃花へと、宝仙桃へと振り落とす。 「木なら、燃え上がればいいんじゃねぇかぁ!!?」 業炎撃とは、三高平の狂拳のためのスキル。 火に触れて、炎に触れて、燃え上がる宝仙桃の果実達。辺りには甘い臭いと焦げ臭さが充満していく。 「あぁあぁあああ!! やめてええ!!! それはぁ! それは彼のぉおお!!!」 彼の。 そこまで言って桃花はハッと止まった。 彼の大事なものってなんだ。私か。いや、違う、この――実!? 「ほぉら教えてくれよ? テメーはどーしてぇんだぁ?」 「い、嫌ぁぁあああ!! 違う!! ちがあああああうう!!!」 認めたくない、そんなこと、断じて認めてはいけない。 樹からはみ出す上半身が頭を抱えて叫びあげる。彼のために人で無くなった彼女は、現実(しんじつ)を認める訳にはいかなかった。 その姿を見て火車は大きくため息を吐く。 来てみろ、最高の救出劇。やってみろ、恋人()を救う一手。 お話には悲劇が必要だ。悲劇があってこそ、そこから光へ向かう展開が輝いていく。 愛を囁いて、囁かれて。 偽りの幸せだけを続けるつまらないお話に、敵という不安と別れというフラグを置いてみたものの。 「こりゃぁ、どうもだめだな」 その時。 「揺らぎましたか」 星龍が研ぎ澄ました感性で感情探査を行う。さっきとは違う、感情の変化をいち早く察知した。 「貴女はそれで満足なのですか?」 問う、星龍の言葉。 今はどんな松の言葉よりも、星龍の言葉が突き刺さる。 傍に居てくれるだけで良かった。一緒に愛を確かめ合うだけで良かった。 いつでも私だけを見て、私を必要として――それがどんな形でも。 「もし違うなら、抗うことも必要です」 更に胸に刺さる言葉の数々。 「やめて、やめて」 桃花が頭を押さえて、呻きだす。 「くっそ……貴様ら!!」 変化に気づく、松が慌てながら武器を振るう。 宝仙桃の栽培には――強靭な精神が必要。 彼女が松に依存してこそ、その樹は樹として成り立っているのだ。 敏感な樹は、一部の葉が枯れるように緑色を無くしていくのが目に見えてわかる。 「自分で断ち切れないなら、俺が壊してやる」 続く松の、紅く染まる武器をその身で受け止めながら、ジースがお返しと言わんばかりに武器を振り上げる。 「気持ちで負けてはならぬぞ」 ジースが受けた攻撃が、支援のトリガー。 あらゆる呪いを打ち払う光が放たれる。低い声の響く、ウラジミールの静かな一喝が響くと、その呪いは綺麗に消えていく。更に。 「僕の、僕の役目は、皆さんを守ることですから!」 三千が叫び、上位の存在に呼びかける。響く息吹、その暖かな光が仲間達を包んでいく。 三千の強力な回復の支援が後ろにある限り、彼等は倒れることは無いのだろう。 役目を果たすために使う力は、その意思に応えて仲間の傷を埋めていく。 赤 眼 が覗く、三 尋 木 の男。 それだけでなんて不愉快か。今でも、脳内で笑う紅がジースの頭を侵蝕していく。 目の前の男はアイツじゃない。でも、でも。 「くそ……笑うんじゃ、ねえ!!」 燃えるGazaniaが松の身体へと吸い込まれるようにして入っていく。 「三尋木の連中は女の子を玩具の様に弄ぶ……お前もアイツもこの手で――倒す!!!」 物語の主人公はリベリスタ達だ。 ● 「ううう、うああ、うあああああ松、松うう、松うううう」 どうか、私に囁いて。 お願い、愛してるって、好きだって。 たちまちに枯れ果てていく宝仙桃。 果実は腐り、腐臭と共に地面へと落下していく。葉は緑を無くし、樹は細々としていく。 「まつうううまつ、まつううううううう」 早く、愛と言う名の栄養を……。 ――ああ、もうだめだ。これはもう、使えない その言葉が庭園に響いた。 松が吐き捨てるように、めんどくさそうに、そう言ったその一言。 それはどんな武器や、スキルよりもトドメを刺す一言になる。 「そう……そう」 ぼろぼろと溢れていく悲しみの涙。 桃花の下半身を食んでいた樹がついに崩れ落ちて、腐り落ちる。 弱い力で、振るえる手足で、伸ばした桃花の腕は、今でも松へと向く。 それでも、愛してるんだから。 「桃花さんに戦う力はありません! あとは、彼だけです!」 京一がAFを介して仲間に呼びかける。力を無くしていくアーティファクトは、なんと無様か。だからこそ、残りの敵に集中するのだ。 荒い息で、地面に倒れる桃花を背に、火車が松へと対峙する。 「安心しろよ! 本懐は遂げさせてやっからよぉ!」 ダークナイトだけが放つ、あらゆる呪いを与える攻撃を受けてさえ、火車は立ち上がる。京一の支援が仲間を包んでいた。 京一を中心に、リベリスタは立ち上がる。 視線だけは、桃花へ向ける京一は、彼女を気遣うように背を向けた。 できることなら、彼女の命は助けたい。でも弱っていく彼女を見ているには、耐えられない。 いつかそうなるって、知ってたはずだろう。 再び燃え出す腕を携え、火車はその拳を振上げる。 迎え撃つ様にして、松は傷ついた分のお見舞いとして武器を振上げるが―― 「遅いっ!」 すぐ背後から闇紅が現れ、止まることの無い速さで小太刀を振り落とす。 「さっさと、潰れてしまいなさいよ!!」 「な、うがああ!?」 その直後、松の身体に痺れが走り、動くことが叶わない。 貴方のせいで、また一人の女性が命を落とすよ。 貴方のせいで、誰かが宝仙桃の犠牲になるよ。 それが、許せると思ってる? 「あんたがもぎ取った実はいくつだよ? あたしがその倍くらい殴ってやるから!」 燃える腕を持った凪沙が咆哮しつつ、その拳を振り落とす。 「絶対に、許さない!! 人の命、なんだと思ってんの!!」 凪沙の拳は松に直撃していく。振り落とす拳は一回では終わらない――二撃の炎の拳が直撃する。 八人に追い詰められる松の思考が次の一手を探して動き出す。 逃げ出す、逃げ出せ。 けれど、けれど――その選択肢は既に遅すぎて、無理不可能有り得なくて。 そうだ、宝仙桃の実だ。これさえあれば、回復し――ッ!!? 「貴様の逝く場所は地獄しかないのだよ」 ウラジミールに身体を掴まれた松が、その腕の中でもがく。 犠牲者の事を思えば、これから増えるかもしれない犠牲者のためを思えば。 この程度の抵抗で敗れるわけにはいかない。 松がもがけばもがくほど、ウラジミールの腕に力が入っていく。 「はな、せ、はなせええ!!」 噛み付かれようが、ウラジミールを動かすことは叶わなくて。 「最後の最期で、桃花さんが作った実に頼るなんて、どうかしてますっ!!」 ウラジミールと一緒に三千が松の足にしがみ付いた。 どんな回復より、どんな付与魔術より、今は敵の行動を封じて、逃がさんとすることが大切で。 松に蹴られようが、踏まれようが、足から振り放そうとされたとしても。 「絶対、逃がしませんから!!」 今です、と三千が叫ぶ。 それは好機であって、でも、足元では桃花が泣いていて。 「これで、終わりだぁああ!!!」 それでも容赦できないジースが松へと飛び込んでいく。 「ご、めんなさ……」 最期まで、私は役立たずなのね。 ● 火車が、松の足を持って、身体を引きずりながら運ぶ。 最後には手荒に投げるようにして桃花の隣にそれを置いた。 「それでも、貴女の心は彼の下なのですね」 感情探査を効かせる星龍が武器を仕舞いながらそう言った。その言葉に桃花は一回だけ頷く。 ボロボロになった松は、その虚ろな目を彼女へと向けるが、声なんてかける事はできない。 桃花は、枯れた樹から上半身だけを精一杯動かして、片手を彼の頬へと置いた。 「何で、あんなヤツの為に! 自分だって気づいてたんだろうが、騙されてるって!」 「……分かってた。でもそんな嘘が好きだった」 ジースが桃花に言った。それに桃花はそれだけを言い残し、そっと目を閉じた。 落ちた一粒の涙は、烈火によってすぐに蒸発して昇って行く。 「良かったなぁ? 二人の願いは滞り無く、実に美しく叶ったぜ?」 重なった手。 片方の綺麗な手は、二度と彼を離す事は無いだろう。 「桃源郷は無いんだよ、桃花……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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