●母 のんびりと。ゆったりと。目覚める。眠ったのはいつだったろう。ここはどこだったろう。記憶は定かではない。私たちが何であるか。自分たちがどうしたのだったか。記憶は確かだった。憎らしい程に。悪夢のようによみがえる。気味が悪い程、鮮明。 「母上、お目覚めでしょうか」 寝転ぶ私に誰かが囁く。懐かしい声だと、快い声だと、思った。目を拭いながら、傍らのそれを見る。かつて自分と共に封印された、愛しき我が子。その姿が映る。 「おはよう、坊や。今目覚めたのかい?」 「いえ。随分と前に」 「そうかい。私を縛る封印は、相当に重かったようだねぇ……」 「えぇ、兄弟が頑張ってくれたようです」 「いい子を持ったようだ……ね……?」 私は子の姿を身、周囲を見回し、気付く。 「お前、他の子供たちはどうした?」 気まずそうに、申し訳なさそうに、俯く。言葉がなくとも、その表情だけで、ほとんどを察する事ができる。 「……死んだのかい?」 「封印が解けた直後、食事に行って五人が返り討ちに。母上の封印を解くために四人が戦死。残ったのは、我ら二人……」 傍らの我が子を見つめる。悲しみに暮れるその表情すら、とても愛おしい。守らなければ。必ず。残ったこの子だけは。 「もういいよ。お前たちが残っているだけで十分だ。して、私がこうしてまたここにいるってことは、何かあるんだろう? 話しな」 ●守るための礎 人とは傲慢なものだと常々思っていた。それは鬼とて同じである。 人とは相容れぬと予てより思っていた。それも鬼とて同じである。 同じ種族とてわかり合うには苦労が要る。違う種族、しかも遠い昔に遺恨を残していたとするならば、なおさらわかり合う事ができぬだろう。 人は鬼より全てを奪った。ならば私らがそれを奪い返したとて文句は言わせぬ。めちゃくちゃに、ぐしゃぐしゃに、奴らを壊し尽くしたとて、それは弱肉強食が生んだ一つの運命に過ぎぬのだから。 私らの勝利のために、今は牙を研ぐ。鬼が進撃し、人間に仇をなすこと。それこそが、我らの未来に繋がるのだから。 王のために。我が子らのために。 ●未来を繋ぐ 鬼の王、『温羅』への対抗手段。『逆刺の矢』。五本あるこの切り札を、アークは二本手に入れた。鬼は強く、完全な勝利とはほど遠いが、一定の作戦成果は上がったと言える。 状況は決して良い訳ではない。彼らとて自らの身を滅ぼしかねない切り札を、一先ずは確保に成功している。壊せないとしても、手中に収めておけば、それが自が身を滅ぼす事は、ない。 「鬼による進撃が、始まろうとしている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情は固い。それがいくら薄くとも、状況の深刻さがはっきりと見て取れる。 「未来がそう言っている。止めなきゃ、私たちに未来は無い。私たちは、アークは、鬼との決戦に踏み切る」 鬼の本拠地『鬼ノ城』、鬼の王『温羅』。これを制圧し、撃破すること。防御は堅く、力は強大だ。打ち破るのは並大抵の事ではないだろう。 だが勝機が無い訳ではない。的確に敵を叩き、鬼ノ城を制圧し、優勢に持っていければ。鬼を倒す事は、不可能ではないのだ。 「みんなに攻めてもらうのはここ、『城門』」 地図の一点を、イヴは指差した。四天王の一角『風鳴童子』と、それの指揮する部隊が守る、鬼ノ城の門。 「より容易く鬼ノ城内部へ侵攻できるように、ここを打ち破ってもらう。 風鳴童子の率いている鬼の中に『塵輪鬼』っていう鬼が率いる部隊がある。皆にはそれを叩いて欲しい」 今までに二度、リベリスタの前に現れた『牛鬼』という鬼。それらは塵輪鬼を『母』と呼んでいる。だが、彼らを同種のものと捉えるには、あまりに姿が違いすぎている。片や怪物の身なりをした鬼、片や人型に近い鬼。奇妙な事だが、打ち破るには全く関係のない事だ。 「塵輪鬼は昔折れた自分の角を武器にしている。それ自身の能力で大分変質させているみたいで、攻撃力はかなり高い。彼の率いている鬼たちの力も決して侮れるものじゃない。気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月09日(月)01:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)は先の戦いで、牛鬼に言われた言葉を反芻している。傲慢。常々いわれ続けている。敵に情けを説くのならば自分たちはどうなのか。敵を殺すというのに、敵もこちらを殺すというのに、殺されてくださいなどとは甘えに近しい。だからこそ気持ちを引き締める。敵対している運命は未だに変わらない。今は、戦わなければいけない。 さあさ、何度目かの鬼退治を始めましょう。『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)は身体能力の向上を図りつつ、敵を伺う。今まで何度かアークに倒されたという敵。牛鬼。ポルカは因縁など知った事ではなかった。けれども、これ以上の好き勝手は困るし、迷惑だ。 「ぼくも、ぼくたちも。繋げるために、負けられないのよ」 「そうかい、私と一緒だねぇ」 塵輪鬼はポルカの呟きに反応した。右手に握る短剣がキラリと光る。ヌッと前進しようとした所を、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)が素早く相対し、動きを妨げる。 「これ以上の暴虐など許さない」 必ず温羅を、滅ぼさなきゃいけない。朱子の決意は固い。 「だから邪魔だ……そこをどけ!」 「それで退くんだったら、最初っから立ちはだかりゃしないよ!」 塵輪鬼は威圧するように言う。一歩毎に放たれる凄まじい気が、周囲にいる数人を圧倒する。しかし朱子は、平然とそこに立っている。 「私がいる限り、小細工など意味を成さない」 「効かない、ねぇ……いつまでもつか見物だね。ほらお前ら、行きな」 塵輪鬼の合図と共に、鬼兵士が一斉に前線へと出て行った。牛鬼は塵輪鬼から付かず離れずの距離を置いて、毒を吐きつつ様子をうかがっている。 「光狐参ル……イクゼ?」 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は牛鬼と対峙する。恐るべき高速に牛鬼は少し怯んだが、視線が揺らぐ事は無い。 「狐狩りもまた一興」 「狩ラセネーヨ?」 リュミエールは素早く剣戟を振るう。 京子も異常な集中から業火を帯びた矢を一斉に発射した。 塵輪鬼をブロックする朱子の後ろに『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は陣取った。 「奴が五香宮の封印から目覚めちまったのは俺達の責か。なら確実に、迅速に、無明の闇へと送り還す……!!」 強烈な銃撃が周囲を余すところなく埋め尽くす。銃弾の嵐の中を、それでも鬼兵士たちは進んでいった。 「がんばるのですよ~」 来栖 奏音(BNE002598)のゆるい声と共に、鋭い聖なる光が飛ぶ。 後衛位置からは回復と攻撃が交互にとんだ。身に降り掛かった傷や異常を癒すと共に、攻撃を発射していかなければ、堅牢な城門を突破する事は叶わないだろう。 小鳥遊・茉莉(BNE002647)も活性化した魔力をフルに扱った。奏でるは葬送曲・黒。自らの血液を代価に、生み出した濁流は敵に様々な異常を与え、彼らを飲み込んでいった。 多くの荒波に揉まれながらも、鬼兵士は依然突撃を止めない。止める事は、自分が確実な死に一歩近付く事だと、彼ら自身が理解している。突っ込み、雪崩れ込む。命を賭した特攻は、リベリスタを確実に傷つけていく。 「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁぁ!!」 不穏な叫びを発しながら『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が響かせるのは清らかな福音。心地よい響きは結果的に汚さを払っていった。癒すと同時に前線を鼓舞するため、彼女は叫ぶ。 「全次元英雄(予定)さおりんの超精鋭・アーク引っ越しセンターが鬼どもを元いた世界に送り返してくれようぞ!」 ● 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は鬼に渦巻いているだろう感情に心を痛めながら、それでも倒そうと決意する。彼女にできる事は回復だ。隙あらば、攻撃する事もいとわないが、きっとまだそれは焦燥というものだろうと彼女は考えた。 戦況はリベリスタ側の優位である事に違いは無いだろう。なにより数の上で優勢で、また癒し手が鬼にはおらず、リベリスタには複数人いた。しかし鬼にはそれを補って余りある強大な力があった。一手のミスが、戦況を傾ける要因にもなり得た。 朱子と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は塵輪鬼の前線への進出を防ぐべく、壁となるよう位置をとる。塵輪鬼は素早い動きで敵を血に染めるべく連撃を繰り出し、つけた傷は決して浅くなかったのだが、塵輪鬼の表情は暗い。 「邪魔だねぇ、お前。私は想い通りにいかないのは嫌いだよ」 「弱肉強食などという、古い考えのお前に私は倒されない」 「古い。ねぇ……」 ピクリと眉を動かす。ある範囲に向けて刻み込んだ呪いの印は、朱子やエルヴィンを縛り付ける事は、無い。 「人が生きるこの世界は、弱者が虐げられず強者が驕らず、悪が食われるべきだ! 許しはしない、裁きもしない、償いもさせない……私達の世界の平和のために…滅べ!」 「それは『人』が中心の世界の話かい?」 塵輪鬼は一旦距離を置く。周囲の仲間の異常を朱子は解き、塵輪鬼は話した距離を一気に詰め、朱子を血に染めるべく連撃を放つ。 「お前と同じ事を言うよ。悪は食われるべきだ。私らにとってその『悪』はお前ら『人』なんだよ」 故に弱肉強食。互いを悪だと認識している両者の戦争。勝った方が、日ノ本の覇権を握る事になる。 「戦争に正義なんて無いよ。どっちも悪さ。驕ってるのはどっちだろうねぇ」 「知った事か!」 浴びせた叫びは、塵輪鬼の心に響かない、代わりとばかり、塵輪鬼は笑んだ。 「あぁ鬱陶しい。お前ら、こいつを吹っ飛ばしな!」 塵輪鬼は近くにいた自分の子に呼びかける。牛鬼はそれに応じ、のっそりとした動きで、角を突き出して朱子に突進した。彼女はその一つを何とか避けたが、もう一方を避けきれず、後方へ吹き飛ばされる。 「通してやるかよ!」 朱子が飛ばされてやや乱れた陣形を、エルヴィンはカバーする。 塵輪鬼はニヤリと怪しく笑んだ。 「生憎、こっちのセリフなんだよ。そいつは」 ● 京子は多くの鬼兵士が自分の放った矢により苦しんでるのを見、攻撃方法を変更する。構えた得物が鬼兵士たちに強烈な連続射撃を加えた。 「一心不乱の攻撃で、唯一絶対の勝利をもぎ取る! そいつが俺の理だ!」 影継の得物も火を噴いた。撃った幾つもの弾丸は、鬼兵士の一人に、永遠の眠りを与えた。 「やっちまえポルカ!」 ポルカの今いる位置は、牛鬼の射程圏内に無い。積極的に前に出る様子も無いから、抑える必要も無いだろうと、彼女は鬼兵士に攻撃を仕掛ける。幻影が束になって彼らを襲い、幾らか幻惑されて混乱する。しかしデタラメの攻撃の一つがポルカをかすり、彼女は不満そうに言う。 「ぼくがお相手して欲しいのは、ね。きみたちではないの」 ポルカは味方の位置を確認しつつ、牛鬼の接近に備える。飛ばされて目論みが崩れてはいけない。 「攻撃あるのみなのですよ♪」 聖なる光が暗夜を飛ぶ。それを覆うように、紫の色をしたもやが、周囲にはびこった。何だろうか、とリベリスタは自然とそちらに目を向ける。それは塵輪鬼の短刀から放たれているものだった。壁となる二人に、共に攻撃を加える為だろうか。ともかく、何らかの衝撃がリベリスタを襲う。 それは神秘的な力ではなかった。そのもやに包まれた時、リベリスタは確かに、刺された、と感じた。実際に、そう感じた場所に傷がついている。同時に感じる、蝕まれている感覚と、紛れも無い脱力感。かろうじて、回復を主とする後衛陣には及ばなかったものの、前線で戦う者への影響は、大きい。 「ヒャッハー! 倒れるなよ、癒してやるからな!」 神々しい光を、メアリとニニギアは放つ。それは味方の身の異常を、完全にではないが癒した。だが、体力にもそれほどの余裕がある訳でもない。 茉莉は再び黒鎖を実体化させ、鬼兵士を飲み込む。毒を与え、血を流させ、呪い、縛る。その効果もあって、着実に鬼兵士の数は減っていく。 だが、鬼とて易々と死を受け入れる訳ではない。この戦場で死に行く事を自覚したとしても、無為に命を散らす訳にはいかなかった。 その矛先は、回復役へと向く。前線を抜け、一気にメアリとニニギアのもとへ辿り着く。幾つもの攻撃が、彼女らを襲う。メアリは意識が飛びかけるが、その意識を何とかつなぎ止めた。 「回復戦士が先に倒れて、どうするというのじゃ……!」 ● 前線の鬼兵士の数は減り続けている。塵輪鬼はそれを決してよしとは思わないが、一方で現状が劣勢だとは考えていなかった。目の前の『壁』に、塵輪鬼は目をやる。 「そろそろ退く気にはならんか?」 朱子は今にも倒れそうになりながらも、ブロックだけは外さない。 「退くんだったら、立ちはだかる訳が無いだろう」 「だろうねぇ、じゃあ破っていくしか無い」 塵輪鬼は素早い動きで朱子に連撃を加える。かろうじて運命でつなぎ止められた意識は、なおも光を失っていない。 「しぶとい子は、好きだよ」 幾らか散らした運命。それを代償に、鬼兵士の殲滅は成し遂げられた。しかし牛鬼は、塵輪鬼は彼らの前に立ちはだかっている。 「さて。ぼくのお相手お願いできるかしら?」 ポルカの繰り出した淀みなき連続攻撃が牛鬼を襲う。先ほどまで鬼兵士を主に相手していた事もあってか、牛鬼にそれほど大きな傷は見られない。 「できれば、退いてもらいたいものだが」 「ごめんなさいね。できるだけ退屈はさせないように、するつもり」 伸びた足がポルカを斬りつける。リュミエールはそれを受けながら、牛鬼の動きを抑えた。 「高速の境地を、ミセテヤル」 連撃が牛鬼を襲う。当たりどころがよくなく、痺れを与えるには至らないが、相応のダメージは加えられたようだった。 「毒が来る、気をつけろ!」 影継は警告するが、すぐに牛鬼により毒が吐散らされる。何人かのリベリスタがそれに蝕まれ、顔をしかめる。 毒を受け、更に消耗したポルカが牛鬼に素早く近寄って、噛み付く。しかめ面で離れていきながら、彼女は呟いた。 「ああ、ほんとうに美味しくない、わ」 その時後方から放たれるは黒々とした雰囲気を纏うレクイエム。縛り付けられれば誰とてなす術が無い。総攻撃が、動きを失くした牛鬼を襲う。 血が滴った。人とは異なる、地獄を思わせる赤黒い血液。その牛鬼の命が燃え尽きた訳ではなかったが、果てるのも間もないと思われた。それの呪縛は未だ継続している。 「……私も覚悟が足りないのかねぇ」 塵輪鬼が呟いた。その声色に寂しさが満ちている。 「子供たちを守りきるには、やっぱり『同じ』じゃないといけないね」 塵輪鬼の体が、変質する。 ● それは牛鬼と『同じ』だった。外見的な違いは、ほとんどないように思われた。 油断に乗じて塵輪鬼は呪縛のかかっていない牛鬼と混じり、姿を紛れさせる。 朱子は一瞬怯んだ後、三体の牛鬼を観察する。一体はまだ呪縛が効いていた。残りの二体は、どうか。どちらかの角が折れているようには見えない。見えぬものまで見通す事は、可能だろうか。 鬼兵士との戦闘で、余力はそれほど無い。 猪のごとき突進が茉莉を襲う。吹っ飛ばされると共に、その衝撃は先ほどまでの鬼よりも幾分強いように思われた。成程、攻撃も強力になっているようだ、と朱子は理解する。 幾許かの時間をかけて、朱子は塵輪鬼と思われたそれをブロックする。他のものは牛鬼へと攻撃を仕掛ける。 負けじと牛鬼も、迎撃する。ポルカはたまらず体勢を崩すが、まだ倒れる意志はない。 「ああもう。ぼろぼろのぐずぐず。…やんなっちゃう」 でも、そうね。もう少しお相手願うわ。まだまだ、倒れてなんて、あげない。ポルカの足は再び踏み出される。 斬りつけた足は届いたが、同時にその命も事切れた。 「生き残るのは、俺達だ」 影継の言葉は、塵輪鬼にだけ届いた。 塵輪鬼は牛鬼のそれから、元の姿に戻る。朱子は力尽き、地に伏していた。同じように庇っていたエルヴィンにも、ほとんど余裕が無い。 「……無様だねぇ、私は」 失意が、空気に融解する。 「私は、私たちは、あなたの子供と戦い、そして殺した。恨むなら恨めばいい、肉親の死ぬ苦しみは私は知ってる」 京子は同情にも似た言葉をかける。彼女には全力で塵輪鬼を受け入れる気持ちがあった。苦しむだろうという想いがあった。だけど自分は恨むことなく復讐も望むことなく、乗り越えられた。苦しくても、悲しくても、最後まで私は復讐する相手と戦う事は無かった。 「だからここで負ける事は今までの私の生き方、おねぇの生き方を否定することだ。絶対にそれはイヤ」 「復讐……それが有意義だったらいいのにねぇ」 言葉に乗っているのは、明らかな殺意。 「私はここで絶対に負けたく無い!」 「私だって絶対に負けないよ。それが誓いだ」 打ち出した精密射撃は塵輪鬼の武器を持つ手を撃つが、固く握られたそれが手を離れる事は無い。 刻まれた呪印が、リベリスタを冷酷に縛り付ける。 奏音が戦う力を失くした。彼女が願った運命は、しかし気紛れで、味方をしてくれなかった。 「アンタの短刀想いが篭ってるのが良くわかる……勝ったらその短剣と想い私が貰い受ける……人間の行く末をミテモラウタメニナ」 「勝ったときの事は、勝った後に考えるもんだよ!」 リュミエールは一気に距離を詰め、突撃を敢行する。攻撃はかするだけだった。塵輪鬼の放った剣戟が、彼女の生命力を削りとる。 「母が子を想う気持ちは人間も鬼も変わらないのかも知れないな。だが……。それでも、俺達はお互いに相容れない。こいつは生存を掛けた戦争だ!!」 闘気を武器に込め、影継はそれを振るう。描いた軌跡が爆発し、塵輪鬼を傷つける。 「勝てば官軍さ。私は必ず勝つよ」 京子は、運命の歪曲を願った。 だからここで負ける事は今までの私の生き方、おねぇの生き方を否定することだ。 固い意志で、強い心で、それを願ったけれども。 運命というものは、時として残酷で。 リベリスタの消耗は激しい。少なからぬ仲間が倒れ、立っている者もまた満身創痍に近い。塵輪鬼は紫染から、紫色のもやを放つ。不穏に辺りを包むもやが、やがてリベリスタに加えた衝撃は、多くの者の力を奪っていった。 ● 残る敵は塵輪鬼のみであったが、それはリベリスタに比べそれほど消耗しておらず、また立っている四人のリベリスタのダメージは大きかった。このまま戦いを続ければ、命を落とす事も十分あるだろう。それは避けねばなるまい。 「……退こう」 誰からとも無く言い出した。負傷した仲間を抱えて逃げるリベリスタを、塵輪鬼は追撃する事もなく見送った。ここは城門、今ここを守るのは人をはねのける為であった。無理に追って、良い事など何も無い。 「ふん、何が守るだよ」 誰に言うでも無く、塵輪鬼は呟いた。 風は嘆くように音を立てる。 夜は泣いているように湿っている。 「本当に守りたいものは、何一つ守れて無いじゃないか」 長い戦いの夜は続いていく。宴のように、祭りのように、盛り上がっていくのだろう。 一つの戦いが終わる。城門の前の一つの攻防。 そこに最後に立っていた鬼の目には、雫が光っていたという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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